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3 放電・プラズマ技術

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3 放電・プラズマ技術

3.1 放電・プラズマの工業的応用

表3-1に放電・プラズマの工業的応用例をまとめて示す。この中で薄膜作製とエッチ ング・灰化はデバイスプロセスの主要技術である。それらの中から具体的に 4 つの応 用例を取上げて簡単に放電・プラズマを利用する効果や意味を説明する。

3-1 放電・プラズマの工業的応用例

分類 応用例

薄膜作製 スパッタリング、イオンプレーテイング、プラズマCVD、プラズマ重合 エッチング・灰化 スパッタエッチング、リアクテイブイオンエッチング(RIE)、プラズマエッ

チング、フォトレジスト・ストリッパー 表面処理 プラズマクリーニング、プラズマ窒化

真空管 定電圧放電管、水銀整流管、プラズマデイスプレイ、ガスレーザ

その他 アーク溶解、アーク溶接、プラズマ溶射、プラズマ核融合、蛍光灯、ネオ ンサイン、高圧水銀アーク放電管

(1) プロセス応用例1:プラズマCVD

CVD(chemical vapor deposition)は原料気体を熱分解して固体にして薄膜を作製する技術

であり、反応を真空中あるいは大気圧力中で行なう熱CVDに対して特別プラズマ空間 中で行なう方式をPECVD(プラズマCVD、plasma-enhanced CVD)と呼ぶ。様々な種類の薄 膜を作製することができるが、ここではシランガス(SiH4)を用いて半導体シリコン(Si) 薄膜を作製する熱CVDとプラズマCVDを比較してみよう。熱CVDはシランガスの熱 分解を行い良質の特性の薄膜を得るために、基板温度を900 ~ 1000℃に設定しなけれ ばならない。従って基板は耐熱性の高い石英ガラスを使う必要がある。一方プラズマ CVDはプラズマ中におけるシランガス分解促進を利用して基板温度300 ~ 350℃で半導 体シリコン薄膜を作製することができる。従って耐熱性は低いが石英よりもずっと低 価格の白板ガラス基板を使用することができる。プラズマCVDによって得られる非晶 質シリコン薄膜を利用する薄膜トランジスタは、熱CVDによって得られる多結晶シリ コン薄膜を利用する薄膜トランジスタには応答速度の点では及ばない。しかし大面積 基板に低価格で作成するという面で圧倒的に優れており、今日広く使われるLCD用の 薄膜トランジスタは大部分がこの方式で製造されている。

(2) プロセス応用例2:リアクテイブイオンエッチング(RIE: reactive-ion-etching)

半導体 ICの製造プロセスではICパタン加工を行なうために、シリコンウェーハ上 にリソグラフィーによるフォトレジストマスク作製をした後にそれを薬品水溶液に 浸してマスクに覆われない部分を溶解するウェット・エッチング方式が採られていた。

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しかしウェット・エッチングでは溶解 化学反応は基板面に垂直方向のみなら ず水平方向にも進行し等方的なエッチ ングが生じる。歴史的には、パタン寸 法が比較的大きくエッチングすべき膜 の厚みがそれに比べて十分小さい初期 のICの加工ではこれは問題にならなか った。しかしパタン寸法が微細になり、

エッチングすべき薄膜の厚みに近づく に従ってウェット・エッチングで起こ るマスクの下部のエッチング(アンダ ーカット)が無視できなくなった。これ に対しプラズマ中のイオン衝撃をラジ カルと固体の化学反応の反応作用に利

用するリアクテイブイオンエッチング方式は、適切な条件を選定して基板に垂直な方 行だけをエッチングすることができる。現在のIC加工では典型的な薄膜の厚みは0.5 μm 程度であり、最小のパタン幅は 0.1μm よりも小さい。このような微細パタンの エッチング加工にはウェット・エッチングは適用できず、すべてRIEを用いる。図3-1 にSiO2層のウェット・エッチングとリアクテイブイオンエッチングを比較して示す。

(3) プロセス応用例3:プラズマCVDによるダイヤモンド合成 宝石のダイヤモンドは地球内

部の高温高圧条件下で炭素が結 晶化したものである。人工的に

50,000気圧、2000℃の条件を作れ

ば同様なダイヤモンドを合成す ることができる。しかしそれを 達成する装置は宝石のダイヤモ ンドよりもずっと高価だから実 用的ではない。一方メタン等の 炭化水素ガスを 10-3 気圧のプラ ズ マ に し て 基 板 温 度 を 700 ~ 900℃にすれば、直径1 ~ 2μm程 度のダイヤモンドの微結晶粒や ダイヤモンドの薄膜を形成する ことができる。図3-2はダイヤモ

ンド合成プラズマジェットを示す。ダイヤモンド薄膜は表面硬化被覆、潤滑等の用途 に使われる。

ウェットエッチング(HF水溶液) RIE (CF4+H2プラズマ) SiO2層上に形成されたフォトレジストマスクパタン

3-1 ウェット・エッチングとRIEの比較

ウェット・エッチグはレジストマスクの下部 がアンダーカットされるが、RIEは垂直方向の みエッチング可能である

3-2 ダイヤモンド合成プラズマジェット

左は右の一部拡大

(3)

(4) プロセス応用例4:スパッタリングによる薄膜作製 室温の気体分子の速度は300 ~ 500m/sec

程度であり、我々はいつでもそれらの衝 撃を受けているが痛くも痒くもない。し かし非常に高いエネルギーの原子、分子 等の粒子で固体を衝撃すると、粒子は固 体内部に侵入し固体を形成する原子が固 体外部に叩き出される。この現象をスパ ッタリングと呼び、固体から飛び出た原 子が離れた位置に置いた基板上に堆積す ると薄膜が形成される。スパッタリング 装置では、真空中で放電によりプラズマ を発生させ、プラズマ中から陽イオンを ターゲットに衝撃させることにより薄膜 作製を行なう。薄膜作製の速度は陽イオ

ンターゲット衝撃頻度に比例するので、スパッタリング装置は高密度プラズマを作る こと及びターゲット衝撃陽イオンのエネルギーを適切に設定する配慮がなされる。

図 3-3 はスパッタリング装置内部の放電・プラズマを真空外部の覗き窓から眺めた 写真である。低圧力で高密度プラズマを発生させるためにマグネトロン放電を使うが、

特殊な電界と磁界の組合せによりプラズマがドーナツ状に閉じ込められている。

3.2 自然と人工の放電・プラズマ現象 デバイスプロセスで利用する放電・プ ラズマの説明に入る前に自然と人工の放 電・プラズマ現象について簡単に触れて おく。

(1) 宇宙のプラズマ

我々は日常あまりプラズマを意識する ことはないが、宇宙の構成物質は大体プ ラズマ状態である。図 3-4 は天体観測望 遠鏡によって観測される銀河系宇宙の星 雲を分光分析によりカラー表示した写真 である。星雲からは水素原子の放射光が 出ており、それらが水素プラズマである ことがわかる。

太陽も大部分は水素で構成されているが、中央部は 1.4×107K で水素原子がヘリウ ム原子に変換する熱核融合反応が起こり、外周表面は約 5,800K の高温熱プラズマ状 態である。太陽系宇宙に中心の太陽からプラズマが噴出されて、地球もプラズマ空間

3-4 銀河系宇宙の星雲

3-3 マグネトロン放電による

銅ターゲットのスパッタリング

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内に存在する。しかし地球には磁場があるために、直接強力なプラズマの流れに晒 されない。但し磁力線が地表に垂直に入射する北極と南極には高エネルギーの荷電粒 子が侵入して大気と衝突してオーロラが発生する。またバン・アレン帯(Van Allen

radiation belt)には100 keV ~ 30 MeVの陽子(水素イオン)や電子が集まっている。バン・ア

レン内帯は高度約3,600km、外帯は高度約18,000kmで地球を取巻くドーナツ形状をし ている。更に地表から高度90 ~ 400kmの領域には電離層と呼ばれるプラズマ空間があ り電波を反射する。図3-5は地球付近のプラズマ現象を示す。

(2) ローソク、落雷、放電の作るプラズマ

プラズマは気体分子が電離して全体としては正負等量の中 性を保つ状態をいう。気体を電離してプラズマにする最も簡単 な方法は温度を上げることである。図3-6 に示すローソクの炎 の先端は数百度から1000℃に達し、燃焼熱エネルギーにより励 起された気体分子が密度の低いプラズマ状態になっている。

上昇気流によって雷雲が発達すると、上層部に正電荷が集ま り下層部に負電荷が集まる。下層部の負電荷は地面に正電荷を 引き寄せ、両者間の電圧が高くなると、雲からストリーマが発 生し大気中を進み一方地面から正電荷のストリーマが雲の方 に進む。これが落雷現象であり、荷電粒子と気体分子の衝突に

3-6 ローソクの炎

の作るプラズマ

3-5 地球の作る磁場と太陽風に送られるて来るプラズマ

3-5 地球の作る磁場と太陽風に送られるて来るプラズマ

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よりプラズマが発生しそれに伴い稲妻が観測される。

蛍光灯やネオンサインでは真空放電により発生するプラズマの放射光を利用する。

蛍光灯はプラズマから放射される紫外線が管壁内面に塗布した蛍光塗料を照射し発 光することを利用するが、しかネオンサインではプラズマから出る光を人間が直接見 る。様々な発光色を出すためにネオン管にはネオン以外にも各種の金属気体分子が添 加されている。

気体放電には大気圧で行なわれるアーク放電やコロナ放電、低真空で行なわれる正 常グロー放電があり、中真空で行なわれる異常グロー放電等がある。デバイスプロセ スでは、比較的高い密度のプラズマを得ることができ同時にプラズマ中の陽イオンエ ネルギーを制御するのに便利な異常グロー放電が広く使われる。異常グロー放電にお いてもプラズマの密度や空間分布は圧力の影響を受けて異なる様相を示す。図3-7は ガイスラー管の異常グロー放電に伴う発光の様子を示す。図の説明では圧力の単位に mmHgが使われている。

3-7 ガイスラー管の放電に伴うプラズマの発光

印加電圧数キロボルト。右が陽極、左が陰極。管内圧力①40mmHg, ②10mmHg, ③6mmHg, ④3mmHg,

⑤0.14mmHg, ⑥0.03mmHg、圧力が高くても低くてもこれ以外の領域では放電が困難

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3.3 放電・プラズマの基礎概念 (1) プラズマの定義と分類

プラズマは生物・医学分野における 半流動性の細胞質を呼ぶ名称であった が、20 世紀前半に放電気体を研究した ラングミュア( I. Langmuir )が正イオンと それと同数の電子と任意の数の中性分 子とから構成される粒子集団をプラズ マと命名した。今日ではプラズマとは 荷電粒子を含んだほぼ中性の粒子集団 を意味することが多い。そしてプラズ マは大体気体状態にある。

プラズマはその発生方法により熱プラズマと放電プラズマに分類することができ る。熱プラズマは熱平衡状態にある気体の温度を上げることにより得られる。10,000K 以上の高温気体はプラズマ状態であり、そのイオン、電子、中性気体分子の構成比率 は気体温度に依存する。図3-8に水素の温度と電離度の関係を示す。放電プラズマは 気体放電により得られる。電荷粒子構成比率は比較的小さく、弱電離プラズマと呼ば れる。中性気体分子の温度をTg, イオン温度をTi, 電子温度をTeとするとこの粒子集 団は 3 種類の粒子温度を持ち、Tg ≦ Ti ≪ Teである。表 3-2 に各種プラズマの温度 と密度の例をまとめて比較する。

3-2 各種プラズマの温度と密度

種類 気体密度 (m-3)

プラズマ密度 (m-3)

電子温度 (eV)

イオン温度 (eV)

ガス温度 (eV) 弱電離プラズマ 1020 ~ 1023 1014 ~ 1018 1 ~ 3 0.03 ~ 0.1 0.03 電離層(F2層) 1014 1012 0.1 0.1 0.1 大気圧アーク 1025 1020 0.5 0.5 0.5 核融合(目標値) - 1020 105 105 -

基底状態にある原子や分子と電離状態では後者の方がエネルギーが高い状態にあ る。両者のエネルギー差をイオン化ポテンシャルと呼ぶ。1価のイオンと基底状態の エネルギーの差は1価のイオン化ポテンシャルであり、2価イオンと1価イオンのエ ネルギーの差は2価イオンのイオン化ポテンシャルである。以下同様に多価イオンの イオン化ポテンシャルが定義される。多価のイオン化ポテンシャルは1価イオンに比 べて非常に大きい。デバイスプロセスで利用するプラズマ中は、1価イオンにくらべ て多価イオンは尐ない。表3-3に代表的原子のイオン化ポテンシャルを示す。また表 3-4にはガス分子の一価のイオン化ポテンシャルを示す。

3-8 水素熱プラズマの電離度αと温度

(7)

3-3 代表的原子のイオン化ポテンシャル(eV)

Z 元素 1 2 3 4 5 6 7 8

1 H 13.6

2 He 24.6 54.4

7 N 14.5 29.6 47.4 77.5 97.9 551.9 666.8

8 O 13.6 35.1 54.9 77.4 113.9 138.1 793.1 871.1

9 F 17.4 35.0 62.6 87.1 114.2 157.1 185.1 953.6

10 Ne 21.6 41.1 63.5 97.0 126.3 157.9

14 Al 6.0 18.8 28.4 112.0 153.8 190.4 241.4 284.5

18 Ar 15.8 27.6 40.9 59.8 75.0 91.3

29 Cu 7.7 20.3 36.8

36 Kr 14.0 24.6 36.9 70.5* 69.9* 132.5*

53 Xe 12.1 21.2 32.1 45.5 76 85* 135* 170

86 Rn 10.7

* Kr4+: 70.5±2.5, Kr5+: 69.9±12, Kr6+:132±20, Xe6+: 85±5, Xe7+: 135±20

3-4 気体分子とラジカルの第1イオン化ポテンシャル(eV)

無機ガス 有機ガス ラジカル

H2 15.4 HF 17.0 CH4 13.0 CH 11.1

O2 12.1 N2 15.6 C2H6 11.7 CH2 11.9

O3 12.8 NH3 10.1 C2H4 10.5 CH3 10.0

H2O 12.6 NO 9.3 C2H2 11.4 C2H5 8.7

CO 12.6 NO2 9.8 C6H6 9.2 C6H5 7.8

CO2 14.0 Cl2 11.32 CH3OH 10.9 OH 13.2

F2 16.5 HCl 12.9 C2H5OH 10.5 NH 13.1

(2) 電子と気体分子の衝突と電離 [放電中の衝突の種類]

放電中では電子と気体分子の衝突に より気体分子の電離が起こる。図 3-9 に放電・プラズマ中の重要な衝突を 4 種類に分類して示す。

弾性衝突では粒子の運動エネルギー の授受が起こるだけで粒子種の変化や 内部エネルギーの変化が起こらない。2 つの粒子の弾性衝突(elastic collision)では、

弾性衝突 非弾性衝突 Ⅰ 電子衝撃イオン化

非弾性衝突 Ⅱ

電子衝撃励起 d)弛緩衝突

3-9 放電・プラズマ中の電子と

気体分子の典型的衝突及び弛緩

(8)

粒子の質量が同じ場合にエネルギーの授受が多いが、電子と気体分子の衝突では質量 の相違が大きいために電子が一方的に散乱されるだけである。

衝突により粒子種が変化したり内部エネルギーが変化する場合を非弾性衝突

(inelastic collision)と呼ぶ。電子衝撃により気体分子がイオン化する衝突は、非弾性衝突

の中の前者のタイプである。この場合1個の気体分子は1個の陽イオンと1個の電子 に変化する。電子衝撃により基底状態の気体分子が励起状態になるのは励起衝突と呼 ばれ、非弾性衝突の中の後者のタイプである。一方励起状態の気体分子が光を放出し て基底状態になることを弛緩と呼ぶ。単体の励起分子が自然に弛緩する確率は非常に 小さく、一般には三対衝突により弛緩が起こる。三体衝突は励起分子が固体表面に入 射しそこで別の気体分子と衝突する過程で起こる。

3-5 放電・プラズマ中の重要な衝突

# 衝突の種類 反応例

1

電子衝撃による電離衝突 (σ~10-16cm2) e + Ar → 2e + Ar+ 2 乖離電離衝突 e + O2 → e + O + O 3 電子付着衝突 e + SF6 → SF5- + F 4 イオン衝撃による電離衝突 Ar+ + Ar → 2Ar+ + e 5 化学反応衝突:衝突乖離と電荷移行 A+ + BC → A + B+ + C

6 ぺニング電離衝突(励起粒子衝突による電離、σ~10-15cm2) He* + Ar → He + Ar+ + e + ΔE 7 準安定イオン電離衝突(励起粒子同士の電離衝突) Ar* + Ar* → Ar+ + Ar + e 8 準安定イオン電離衝突(電子衝撃による励起粒子の電離) e + Ar* → Ar+ + 2e

9

電荷交換衝突 (σ~10-14cm2) Ar++Ar → Ar + Ar+ 10 電子衝撃による励起衝突 e + Ar → e + Ar*

11

弛緩衝突 Ar* → Ar + hν 12 再結合衝突 e + Xe2+ → Xe + Xe 13 化学反応衝突:電離のない衝突化学反応 A + BC → AB + C

表3-5には13種類の粒子間衝突を分類して、反応例と共に示す。#1, #2, #3はそれぞ

れ図3-9(b)~(d)の衝突に対応する。また#1 ~ 8は電離衝突、#9, 10はプラズマの維持に

関わる衝突、#11, 12はプラズマの消滅に関わる衝突を示す。#5, #13はプラズマ中にお ける化学反応衝突であるが、#5 は電離を伴い、#13 は電離を伴わない反応例である。

なお反応例の中で示される原子や分子の肩付記号*はそれらの粒子が励起状態であ ることを意味する。またΔEは運動エネルギーの発生を、hνは光の放射を示す。

ここには8種類の電離衝突を示してあるが、放電によるプラズマ発生で最も主要な のは電子衝撃による電離衝突である。#1, #7, #10 にはその衝突断面積σの最大値を示 す。衝突断面積は衝突発生頻度を表す指標のひとつであり、直ぐ後で詳しく説明する。

(9)

[分子・原子・電子衝突の概念]

気体中の放電について考えるとき には、次の4項目が前提になる。

① 衝突に関わる粒子の種類:電子、

正・負のイオン、中性粒子としての 原子・分子・ラジカル

② 粒子の寸法:非常に小さいが有限 の大きさである。電子の直径≪原 子・分子・ラジカル・イオンの直径

③ 粒子数: 非常に多いが有限

④ 衝突頻度:統計確率の扱いをする

ライフル射撃競技で標的に向い銃 弾を発射することを想定しよう。図 3-10 に示すように標的の中に小さな 粒子が多数取り付けられていると考 える。銃弾は極めて小さく、粒子は銃 弾に比べれば大きいが標的に比べれ ば非常に小さいと仮定する。銃弾は標 的を必ず貫通するとして、粒子に衝突 する確率 P*を求めてみよう。粒子の 断面積をσ、粒子の2次元的面密度を

n*とすると、1個の銃弾が多数の粒子の中の1個に衝突する確率は標的全面積Aに対 する粒子断面積の総計Sであるから次式が得られる。

P* = S/A = (n*σA)/A = n*σ ・・・・・・ (3.1)

次にライフル銃ではなく標的を衝撃するのが多数の粒子の流れであると考える。入 射粒子束をjとするとターゲット面粒子の衝突発生頻度F*は次のように示される。

F* = jAP* = jn*σA ・・・・・・ (3.2)

次に図3-11に示す3次元標的で考えてみよう。標的の面積をA、標的の厚みをLと して標的内空間粒子密度をnとすると容積Vの立方体標的内で衝突が発生する確率P は次のように示される。

P = S/A = (nσV)/A = (nσAL)/A = nσL ・・・・・・(3.3)

入射粒子速度

標的面積

粒子断面積

3-10 2次元標的(ターゲット)

における衝突断面積

標的面積

入射粒子速度 標的厚み

3-11 3次元標的(ターゲット)

における衝突断面積

(10)

また粒子束jの入射頻度の粒子と標的空間内粒子の衝突が発生する頻度Fは次のよう になる。

F = jnσV ・・・・・・ (3.4)

以上の数式表示を導くために用いたσの概念が衝突断面積である。ここまで暗黙の 前提で衝突断面積は粒子に固有な一定の値であると考えてきた。しかし電子と気体分 子の電離衝突では電子の運動エネルギーにより電離確率が異なる。それは入射粒子の エネルギーのより衝突断面積が変化すると考える。図3-12に電子衝撃による各種気体 分子の電離衝突断面積の電子エネルギー依存性を示す。グラフは両対数目盛である。

多くのガスに対して電子エネルギー100 eV程度で最大値をとり、またその最大値は表 3-5に示した如く約10-16cm2であるのが特徴的である。また電子の運動エネルギーの減 尐に従い、表 3-4に示した第1 イオン化ポテンシャルに相当するエネルギーに近づく と電離確率が急激に小さくなるのがわかる。

3-12 電子衝撃による各種気体分子の電離衝突断面積の電子エネルギー依存性

縦軸の断面積はボーアの水素原子断面積Qi (=πa02 = 8.81×10-17cm2)により規格化されている。ここ a0 (= 0.529Å)はボーア半径である。

(11)

図 3-13 は電子衝撃による希ガスの電離衝撃断面積の電子エネルギー依存性を示す。

表3-3に示すようにHe, Ne, Ar, Kr, Xeの順序で原子番号が大きいほどイオン化ポテンシ ャルが小さく、また逆に電離衝突断面積は大きい。図3-14は非常に広いエネルギー範 囲における Ar の電離衝突断面積のエネルギー依存性を示す。グラフは異なる研究者 の6件の論文のデータをまとめたものであるが、研究者による相違が見られる。

3.4 DCグロー放電の特徴

(1) デバイ長

プラズマ中における荷電粒子に働く力について考えてみよう。最初に1個の点電荷 の作る電界を考える。電界E の中における荷電Q の粒子に働く力Fは次のように示 される。

F = Q E ・・・・・・ (3.5)

点電荷q rだけ離れた位置に作る電界Eは次のように示される。

E = q/(4πε0 r 2)・(r/r) ・・・・・・ (3.6)

但しε0は真空の誘電率であり、太い飾り文字はベクトル量を意味する。電荷 q の作

る電位V(r) は次のように示される。

E = -grad V(r), ・・・・・・ (3.7)

V(r) = q/(4πε0 r) ・・・・・・ (3.8)

3-13 電子衝撃による希ガスの電離衝突断面

積の電子エネルギー依存性

3-14 電子衝撃によるArの電離衝突

断面積の電子エネルギー依存性(測定者 による異なるデータが報告されている)

(12)

これに対して密度 n のプラズマの中で点電荷の作る電位分布は次のように与えら れる。

V (r ) = q exp[-r /λDe]/(4πε0r ), ・・・・・・ (3.9) λDe = (ε0kT /n q 2)1/2. ・・・・・・ (3.10)

多数の正負電荷が分布するプラズマ空間中で点電荷の作る電位分布(3.9)式は、1 個の 点電荷が作る電位分布(3.8)式に係数exp[-r /λDe]を乗じた形になっている。λDeはこの分 野の研究者の名前に因みデバイ長と呼ばれており、プラズマの性質を表す長さの単位 の量である。r →0のとき V (r )q/(4πε0r )となるから、荷電粒子に近い場所ではプ ラズマ中でも通常の空間における点電荷の作る電界と同じになる。しかし r≫λDe

ときにはV (r )≒0となり、プラズマ中の荷電粒子は遠方で電界を作らないことを意味

する。これはプラズマが互いの電荷を包囲して導電性の金属容器のような静電シール ドになっていると解釈できる。

デバイ長は(3.10)式に示されるように 温度Tとプラズマ密度nの関数である。

温度が高いほどデバイ長は大きく、ま た密度が大きいほどデバイ長は小さい。

表 3-6 に異なる温度と密度の組合せに 対する電子のデバイ長を計算して示す。

多くのデバイスプロセスで使われるプ ラズマのデバイ長は10 ~ 100μmである。

(2) プラズマに接する壁近傍空間の状況

プラズマ中では陽イオンと電子の空間密度が等しくデバイ長以上のスケールでみ るときは電界が0であり、電気的に中性を維持しようとする傾向が強い。デバイ長よ りも十大きな容器に閉じ込められたプラズマは気体の拡散と同じく空間のプラズマ 密度を均一化する方向に拡散するが、電子と陽イオンが互いに引き合いながら同じ速 度で拡散する。これを両極性拡散と呼ぶ。

しかしプラズマに接する真空容器壁面近傍空間では両極性拡散による中性化が充 たされない。それはプラズマ中の電子温度がイオン温度より非常に高く、それに加え 電子はイオンに比べて質量が小さいために、電子の速度が圧倒的に大きいからである。

壁面にはプラズマ中から電子が高速度で流入し、壁面近傍の狭い間隔の空間は電子密 度が尐なく陽イオン密度が多く、イオンシース(ion sheath)と呼ばれる。シースとは元 来刀や豆の鞘を意味する言葉であるが、プラズマとは異なり壁を覆う薄い空間という 意味で命名された。プラズマ空間中に浮遊電位の固体が設置されている場合にも固体 表面近傍の空間はシースとなる。図3-15にプラズマに接する壁面近傍の空間における 粒子密度と電位分布を示す。

3-6 電子のデバイ長λDeの例

λDe = (ε0kTe /n e 2)1/2 n

Te

1016(m-3) 典型的なプロセ

スプラズマ

1018(m-3) 高密度プラズマ 1(eV) 2.6×10-4 (m) 2.6×10-5(m) 10(eV) 8.3×10-4(m) 8.3×10-5(m)

(13)

電気的中性の保たれる無電界のプラズマ領域を特に区別してバルクプラズマと呼 ぶ。壁面近傍の狭い間隔の空間は電子が尐なく陽イオンが多い(イオン)シースである。

シースとバルクプラズマの間には荷電粒子は中性を保ちながら弱い電界のあるプリ シースが生じる。ne, ni, n0は空間における電子密度、イオン密度、中性気体分子密度を 示し、Vp, Vwはプラズマポテンシャル、ウォールポテンシャルを示す。シースの厚み dsはデバイ長の数倍、プリシースの厚みは電離衝突の平均自由行程程度である。

壁面が浮遊電位の場合には、壁面に電子が過剰に帯電しプラズマに対して負のバイ アス電圧が自然に誘起される。生じた負バイアスに加速されて陽イオンが壁面に入射 して、定常状態では壁面に入射する電子と陽イオンの量が等しくなり均衡が保たれる。

これを充たすための浮遊電位(ウォールポテンシャル)Vwは次式で与えられる。

Vw = -Te ln[M+/2πme] ・・・・・・ (3.11)

( バルク ) プラズマ プリシース シース

粒 子 密 度

電 位 分 布

無電界 弱電界 強

n

s

(=n

0

/e

1/2

)

n

0

λ i: 電離衝突平均自由行程

( シース )

~

V Vp

Vw Vp

n

ds

3-15 プラズマに接する壁面近傍空間のイオン・電子密度分布と電位分布

バルクプラズマ内は無電界、プリシース内は弱電界、シース内は強電界である(詳細は本文説明 を参照)。ne, ni, n0, nsは空間における電子密度、イオン密度、中性気体分子密度、及びシース端部 のプラズマ密度を示し、Vp, Vwはプラズマポテンシャル、ウォールポテンシャルを示す。シース の厚みdsはデバイ長の数倍、プリシースの厚みは電離衝突の平均自由行程程度である。

(14)

但しはTe電子温度、M+, meはそれぞれイオン質量、電子質量である。簡単な仮定をす れば、シース端部からの距離を xの位置のシース内の電位分布 V(x)とシースの厚みds

を計算して求めることができる。次にマトリックスシースとチャイルド・ラングミュ アシースの場合について示す。

[マトリックスシース]

図 3-15 の破線で示すようにシース内に均一密度 nsの陽イオンのみが存在すると仮 定すると、ポアソンの方程式d(ε0E)/dx = -d20V)/dx 2 = ensからと壁面の間の電位分布 はが計算できて次式で与えられる。

V(x) = -(ens0)(x2/2) ・・・・・・ (3.12)

シースの両端の電位差をV0とすると次式が得られる。

ds = [2ε0 V0/(ens)]1/2 = λDe(2 V0/Te)1/2・・・・・・ (3.13)

[チャイルド・ラングミュアシース]

シース内のイオンの速度をv(x)とすると、イオン電流密度J+ = en(x)v(x)は連続して一 定値であり、またイオン質量をM+とするとイオンに働く力はM+dv(x)/dt = -edV(x)/dxであ るから次のような電位分布とイオン電流密度の表示式が得られる。

-V(x)3/4 = (3/2)(J+0)1/2(2e/M+)-1/4x ・・・・・・ (3.14) J+ = (4ε0/9)(2e/M+)V03/2/ds2 ・・・・・・ (3.15)

(3.15)式は空間電荷制限領域におけるチャイルド・ラングミュアの関係式と呼ばれる。

(3.15)式からシースの厚みは次のように示される。

ds = (2/9)1/2λDe(2V0/Te)3/4・・・・・・ (3.16)

シースの厚みがデバイ長に比例するのは(3.13)式と同じである。チャイルド・ラングミ ュアシースは図3-15に近い粒子密度分布を与える。なおプリシースからシース端部に 飛込むイオンの熱運動平均速度v+とすると、電流密度は連続であるから、次のように 示すことができる。

J+ = ensv+ ・・・・・・ (3.17)

(15)

(3) DCグロー放電(dc glow discharge)

[グロー放電領域区分と電位分布、陽イオン電密度表示式]

デバイスプロセスで最もよく使われるプラズマ発生方法はグロー放電である。グロ ー放電は低真空から中真空の圧力範囲にかけて一対の電極の間に DC 電圧を印加して 発生することができる。このとき発生するプラズマは図 3-7 に示すように強い輝く発 光(グロー)を伴うためにグロー放電と呼ばれる。電極印加電圧はDCでも交流でもグロ ー放電は発生する。その内周波数の低い交流による放電は、正負の電極が時間的に交 互に反転するDC放電と同じと考えることができる。周波数の高いRF放電はそれとは 異なるので後に詳しく述べる。ここでは先ずDCグロー放電について説明する。

図3-16にDCグロー放電の発光領域を示す。図3-17にはこれと対応する空間電位分 布を示す。グローとその間の暗部の各領域には、19世紀に真空放電を観測した研究者 達の名前が付けられている。負グローから陽極までの間はプラズマ空間で殆ど電界が ない。負グローの境界から陰極まで間はシースであり、電極印加電圧の大部分はこの 間の空間で降下するので陰極降下と呼ばれる。陰極降下はグロー放電の維持に重要な 役割を果たしている。放電により陰極には陽イオン電流が流れ、一方陽極には電子電 流が流れる。陰極面における陽イオンの電流密度はチャイルド・ラングミュアの式

(3.15)によりシース電圧 V0とシース間隔 dsにより示すことができる。一方プリシース

からシース端部に飛込むイオンの熱運動平均速度 v+は、プラズマ中の電子温度を Te

とすると(kTe/M+)1/2であるから、イオン電流密度の式(3.17)は次式のようになる。

J+ = ens(kTe/M+)1/2 ・・・・・・ (3.18)

(3.18)式はボームの基準式と呼ばれる。(3.15), (3.18)の二つの表示式は導き方が異なるが、

いずれも同じ陰極流入陽イオン電流密度を表す。

3-16 DCグロー放電

交差線領域は強い発光(グロー)を示す

3-17 DCグロー放電の電極間電位分布

クルックス暗部領域が陰極降下に相当する

(16)

[グロー放電維持メカニズム]

図 3-18はグロー放電維持メカニズム を示す。主要電離は、陰極から放出さ れる電子が陰極降下空間で加速されて 負グロー領域で気体分子と衝突するこ とにより行なわれる。陰極から放出さ れる電子は、陰極降下空間で加速され た陽イオンが陰極を衝撃して発生する。

二次電子は空間で気体分子と衝突を繰 返して電子・イオン雪崩を起こす。こ のような定常状態に達する前段階には 宇宙線による電離が行なわれその電子 が種となり放電に発展すると考えられ る。

図 3-19は陽イオン衝撃による2次イ オン放出係数のエネルギー依存性の 1 例を示す。二次電子放出係数γは入射 イオン1個当り放出電子数の統計値で、

単位は[電子/イオン]である。図はAr+が Al ターゲットを衝撃する場合であり、

放出係数は結晶面により異なるがいず れもイオンの衝撃エネルギーの増加に 伴い増加する。

図 3-18 により放電維持条件を、二次電子放出係数γと空間における累積電離衝突 回数nにより表示してみよう。陰極に流れる電流ICは陽イオン電流I+、二次電子電流 ICeの合計であるから次のようになる。

IC = I+ + ICe = ( 1 +γ) I+ ・・・・・・ (3.19)

陽極に流れる電子電流 IAは二次電子が平均 n 回電離衝突して発生した電子雪崩であ るから次のように示すことができる。

IA = 2nICe = 2nγI+ ・・・・・・ (3.20)

放電維持条件はIC = IAであるから次式が得られる。

2n = 1 + 1/γ ・・・・・・ (3.21)

陽イオン衝撃・2次電子放出

3-18 グロー放電維持の陰極面における二次

電子放出と空間における電子・イオン雪崩

3-19 イオン衝撃2次電子放出係数

Ar+ → Al(111), (100), (110)

(17)

(3.21)式に図3-19から1keVのAr+衝撃に対する二次電子放出係数γ=0.1[電子/イオン]を

入れるとn = 3.5が得られる。これはグロー放電における大雑把な累積電離衝突回数

の目安となる。

[パッシェンの法則]

図 3-20に示すグロー放電の放電開始 電圧と気体の圧力、電極間隔の相関性 のデータはパッシェンの法則と呼ばれ る。横軸は放電圧力 p と電極間隔 d の 積である。

曲線はガスの種類により異なるが、

いずれも最小放電開始電圧を与える pd 積があり、pd 積がそのときの値よりも 小さいくなるに従い急激に放電開始電 圧が高くなる。またpd積が大きくなる に従い緩やかに放電開始電圧が上昇す る。前者の傾向は電子と気体分子の電 離衝突平均自由行程が電子の走行可能 距離である電極間隔に近づき、電離衝 突発生頻度が小さくなるからである。

一方後者の傾向はpd積が大きいほど電 子・気体分子の衝突の平均自由行程が 短くなり、1回の衝突と衝突の間に電子 が加速を受けて獲得するエネルギーが 小さくなるからである。ただこれらの 放電特性の定性的解釈はできるが、定 量的理論説明はできていない。しかし データは電極設計上有益である。特に 放電を避けるべき部分の電極面に対向

して静電シールドを設けるときに、その間隙設定は pd積を十分小さくしてこの空間 の放電開始電圧を電極印加電圧よりも十分高くするような配慮をする。

図3-21は1GHzのマイクロ波放電における放電開始電界と圧力の関係を示す。パッ シェンの法則とは異なり横軸は圧力、縦軸は電界強度で示される。周波数10kHzの高 周波からほぼ同様な傾向の放電特性があることが知られている。

3.5 容量結合型RF放電(capacitive-coupled rf discharge) (1) 容量結合型RF放電のメカニズム

DC グロー放電をするときには一対の電極は金属であることが暗黙の前提である。

3-20 各種気体に対する放電開始電圧と

pd積に関するパッシェンの法則

1GHz

3-21 各種気体に対する高周波放電の放電

開始電界(絶縁破壊電界)と圧力の関係

(18)

図 3-22に示すように、その系でもし一方の電極表面を絶縁物で被覆して電圧-Vs を印 加するとどうなるであろうか。それは図3-23に示すような等価電気回路において、ス

イッチを入れてから起こる過渡現象を 調べればいい。絶縁体表面の電位を V, その裏面の電位をVs’とすると、スイッ チを入れた瞬間はV = Vs’であり回路抵 抗Rで与えられる電流I = Vs/Rが流れ始 める。絶縁体の表裏面の間の静電容量 を C とすると、時間の経過と共に蓄積 電荷Q が蓄積し、電流i、電位V, Vs’の 間には∫idt = Q = C(V-Vs’)の関係が成り 立つ。十分長時間の後にはI = 0, Q = CVs,

Vs’ = Vsとなる。図3-24は以上の絶縁体

表面電位の時間的変化を示す。

ここまで説明したように絶縁体で覆 われた電極にDC電圧を印加しても絶

縁体表裏の間に電荷を充電する短時間は電流が流れるが、充電するに従い絶縁体表裏 面の間の電圧はDC電源出力電圧に近づき、絶縁体表面と対向電極の間の空間には殆 ど電圧を印加することができず放電が継続しない。電圧印加を停止すると蓄積された 電荷は次第に放電され、充電と逆の現象が起こりやがて電圧印加前の状態に戻る。充 放電の時定数τは静電容量Cと放電抵抗Rの積で、τ = RCと表示される。DC電源 の代りに周期τの交流電源を使用すれば、上述の充電放電が自動的に行なわれる。実 用的な装置で周期を計算すると相当周波数は100kHz ~ 100MHz程度となる。これはラ ジオの短波帯であるRF周波数であるから、RF電圧を印加して放電を起こす方式を容 量結合型RF放電と呼ぶ。

V

DC 電源-Vs

3-22 絶縁体で表面を被覆された電極に

DC電圧を印加するときの放電

DC 電源

Vs’

∫idt =Q=C(V-Vs’)

R

放電の等価電気回路

3-23 絶縁体で表面を被覆された電極極にDC

電圧を印加する場合の等価電気回路

t = 0, i = VS/R, Q = 0, VS= V

t =∞, i = 0, Q = CVS , VS=VS

3-24 電極表面電圧の時間的変化

(19)

しかし歴史的にはRF放電はこのように論理的考察から開始したのではなく、実際

は13.56MHzのRF工業用周波数の電圧を絶縁物の外部から印加すると放電が行なわれ

ることが確認されて始まったのである。技術の実用化は往々にして新事実の発見が先 行し、理論的解釈が続きそれにより改良され発展するが、RF放電もその一例である。

RF放電は絶縁物電極を介して放電が可能なために、放電・プラズマ技術を非常に広 い分野に応用する上で有益な技術である。例えば IC の微細加工のための RIE の加工 対象は金属よりも絶縁物に近いシリコンウェーハ基板であり、加工面は絶縁物材料に より覆われておりDC放電では安定な持続放電は不可能であろう。またプラズマCVD ではシリコンウェーハやガラス等の絶縁物基板上に絶縁体に近いシリコン薄膜や

SiO2, Si3N4等の絶縁物薄膜を堆積するから、DC 放電を利用することは考えられない。

しかもRF放電は絶縁体電極でなくても、金属電極でも同様に放電し、電極材料の絶 縁性・導電性の相違に関係せず利用される。

(2) RF放電プラズマの特徴

[DC, AC, RF有電極放電の比較]

DCグロー放電の電極構造でAC電圧を印加する場合には電極が半周期毎に反転する と考えればよく、両者の放電メカニズムに基本的な差異はない。これに対して容量結 合型 RF 放電で使用する周波数は通常の交流よりも周波数が非常に大きい。放電維持 は陰極降下と陽イオン衝撃による二次電子放出、及び空間における電子イオン雪崩で

あるのはDC, AC, RFの3つの放電の共通事項であり、同じグロー放電の範疇にある。

しかし RF 放電には通常の DC グロー放電とは異なる放電・プラズマ現象が起こる。3 種類の放電を簡単に比較すると次のようになる。

① DC放電:放電の特徴は陰極側の陰極降下にある。

② AC放電:周波数≦1kHz、陰極・陽極が交互に反転、電子・イオン双方の振幅は大き い。

③ RF 放電:周波数≦1GHz、1 対の電極は共に陰極となる、電子の振幅は大きいがイ オンの振幅は小さい。

[交番電界中の電子とイオンの振動]

電界Eの空間における電荷Qに働く力Fは次のように表示される。

F = Q E ・・・・・・ (3.5)

電界が角周波数ωの交番電界であるとすると、電荷e、質量mの電子及びイオンに対

して、(3.5)式から次の運動方程式とその解が得られる。

m d2x/dt2 = eE0cosωt, ・・・・・・ (3.22)

(20)

x = -A cosωt, ・・・・・・ (3.23)

A = eE0 / mω2 = eE0 / (4π2mf2) ・・・・・・ (3.24)

(3.23)式は振幅Aの単振動を示す。振幅は質量に反比例しまた周波数の2乗に反比例す

る。陰極前面のシースの厚みが約1cm、陰極降下が100 ~ 1000Vであると考えるとシー ス内の平均電界は100 ~ 1000V/cmとなる。この値をE0と考えるとf = 10MHzのとき、(3.24) 式から電子の振幅Aeとアルゴンイオンの振幅AArが計算できて、Ae = 0.4 ~ 4 m, AAr = 0.05

~ 0.5 mmとなる。従って電子の振幅はシースの厚みよりずっと大きく装置の寸法レベ

ルであり、RF 電界の振動に対応して大きな振幅で振動することがわかる。一方イオ ンの振幅はシースの厚みに比べて非常に小さく、RF 電界には応じた振動運動は殆ど しないと言える。RF 放電の電界中で電子は周波数に対応した振動運動をするのに対 して陽イオンは DC電界に対応した運動をするが、これは電子に比べてイオンの質量 が非常に大きいために起こる特徴的現象である。

以上の振幅の計算は典型的な RF 周波数に対して行われたものであるが、もっと広 範囲の周波数変化に対する振幅を調べてみよう。図3-25は(3.24)式に従い単振動電界中 における電子とイオンの振幅と周波数の関係を示す。図ではE0 = 103, 105 V/cmの2つの 電界に対して計算した結果を示す。周波数が大きい場合には電子も電界振動に対応す る大きな振幅の振動はしない。

電子

105V/cm 103V/cm

アルゴンイオン

105V/cm 103V/cm

3-25 単振動電界中の電子とアルゴンイオンの振幅と周波数の関係

(21)

[RF電極の自己バイアス電圧の発生] RF電極がプラズマに対して正 電位にあるときには電極に電子 が流入し、負電位にあるときに は陽イオンが流入する。しかし 前述のように電子は RF 電極の 電位変動に直ちに対応する電子 電流が電極に流入するが、イオ ンは質量が非常に大きいために RF電極の変動に対応してイオン 電流は殆ど流れない。従って電 極表面が絶縁物で被覆されて浮 遊電位にあれば、電極表面がプ ラズマに対して正電位にある半 サイクルに電子が流入し蓄積し ていく。しかし蓄積した電子の ために電極表面は負に帯電して

プラズマに対して負のバイアスが発生する。その結果生じた負バイアスにより陽イオ ンが電極表面に流入するようになる。最終的には負バイアスは電極ピーク電圧の約半 分の大きさにまで発達し、電極表面が1サイクル中の非常に短い時間だけプラズマに 対して正電位となる。そのときに流入するパルス的電子電流と負バイアスにより流入 するを定常的イオン電流が均衡して定常状態が達成される。図3-26はRF電極表面に 負電位が発生する様子を示す。

上述のようにプラズマに接する RF 電極には、プラズマに対して負のバイアス電圧 が自動的に発生する。陽イオンはこの負バイアス電位により RF 電極に向って加速さ れるので、RF電極は陽イオンに対して陰極として作用する。RF電極を衝撃する陽イ オンのエネルギーを求める理論計算と実験的測定によりそれが正しいことが確認さ れている。

[1対のRF電極の自己バイアス電圧]

幾何学的に完全に対称な1対のRF電極に電圧を印加して放電するとき、それぞれ の電極に発生する自己バイアス電位も対称だから 2 つの電極とプラズマの電位の関 係は図 3-27 に示すようになる。このような放電をするためには電極が対称であるこ とに加え、RF 電源の出力も対称出力端方式(プッシュプル型電源)とせねばならない。

しかし多くの装置では一方の電極はアース電位として、またRF電源もアース電位に 対して電圧を印加する方式である。この場合には金属製真空容器は常識的にアース電 位とするから真空容器壁面も電極となり、プラズマに接する表面積はアース電極側の 方が圧倒的に大きく、幾何学的に非対称な1対のRF電極となる。ここでは図3-28に

電極表 面電位

電極表面 への流入 電流

3-26 RF電極の自己バイアス電位の発生

図の上段は RF電源電圧、中段はRF 電極電位の時間的 変動、下段は電極に流入する電子電流とイオン電流。ま た各段左側は放電開始初期、右側は平衡状態を示す。

(22)

示すように異なる表面積 S1, S2の 2 つの 電極に発生する自己バイアス電圧 V1, V2

が一般的にどのように表示されるか考え てみよう。

プラズマに接する電極に入射するイオ ン電流密度はチャイルド・ラングミュア の式から次のように表示される。

J+ = (4ε0/9)(2e/M+)V03/2/ds2 ・・・・・・ (3.15)

但し V0はプラズマと電極間の電位差、ds

はプラズマと電極の間に発生するシース の厚みである。プラズマの密度が両電極 面近傍でも等しいと仮定すると、次式が 成り立つ。

V13/2 / d12 = V23/2 / d22 ・・・・・・ (3.25)

一方両電極間に印加されるRF電圧は2 つのシースの作る静電容量 C1, C2のイン ピーダンスにより分割されていると考え る。そして分割された RF電圧 VRF1, VRF2

は自己バイアス電圧 V1, V2とほぼ等しい ので次式が得られる。

VRF1/ VRF2 = V1/ V2 = C2/ C1 ・・・・・・ (3.26)

シースの作る静電容量は電極表面積に 比例しシースの厚みに反比例するから、

両電極表面積をS1, S2とすると次式が成り立つ。

C1/ C2 = S1d2 / S2d1 ・・・・・・ (3.27)

(3.25)~(3.27)式から次式が得られる。

V1/ V2 = (S2 / S1 )4 ・・・・・・ (3.28)

プラズマに接するアース電位の電極表面積S2は絶縁電位のRF電極面積S1よりも相

プ ラ ズ マ

ア ノ ー ド カ ソ ー ド

位 置 Vc

Vp 0

C A

V1

V2 V1 + V2= VRF

電極 1 電極 2

電 位

電極 1 電極 2

V

1

+ V

2

= V

RF

図3-27 対称電極の電位分布

3-27 対称RF電極の電位分布

プラズマ電位の下の線はアース電位を 示す

3-28 非対称RF電極の電位分布

電極 2 がアース電位である。V1 》V2 あるからV1を陰極、V2を陽極と呼ぶ。

(23)

当広いのでV1 》V2, V1≒VRFとなる。またこのため電極1は陰極、アース電位側の電 極 2 は陽極と呼ばれる。このようにアース電位と RF電極の間に電圧を印加する非対 称電極構造のRF放電の電位分布は、アース電位と陰極の間にDC電圧を印加する放電 とよく似ている。しかし厳密に言えばその場合でも RF 放電ではアース電極もプラズ マに対して負電位であり、弱いエネルギーではあるが陽イオンの衝撃を受け、この点 がDC放電とは異なる。

(3) RF放電負荷に対する整合 図3-29にRF放電負荷に対 する整合を説明するために RF2極スパッタ装置の構成を 示す。アース電位の金属製真 空 容 器(vacuum chamber)内 部 に 基 板 ホ ル ダ ー (substrate support)電 極 と タ ー ゲ ッ ト

(target)電極が設けられている。

RF 電極とアース電位の間に RF 電圧を印加すると放電が 起こり、2つの電極の間にプ

ラズマが発生する。RF電極の裏面側の放電を防止するために、裏面側にはRF電極と 狭い間隙を挟んでアースシールド(earth shield)を配置する。プラズマと電極の間の破線 はイオンシース(ion sheath)の境界を示す。RF電源(radio-frequecy generator)からターゲッ ト電極には絶縁コンデンサー(blocking capacitor)を介して RF電圧が印加される。RF 電 源との間には整合回路(matching network)が挿入される。またその前段には電力系が挿入 されて進行波(forward power)Pf と反射

波(reflected power)Pr を観測する。負荷 への正味の投入電力PnはPn = Pf - Prで 与えられ、整合がとれた状態ではPr =

0となる。

図3-30はRF放電の等価回路を示す。

2 つの電極とプラズマの間は電極側が 正電圧になれば電子電流が流れるがそ のときの抵抗値は 0 と考える。また電 極側が負電圧になればイオン電流が流 れるが、このときの自己バイアス電圧 とイオン電流から計算される抵抗値を 放電抵抗と考える。以上のDC負荷に加 えて、シースの面積と間隔で与えられ

Earth Shield

3-29 RF2極スパッタ装置の構成

RF電極

アース電極 プラズマ

1

2

V1

V2

C R

等価負荷

3-30 RF放電の等価回路(左)と整合回路の

計算をするための負荷:等価負荷の静電容量 Cにはシースのほかに静電シールドの不要容 量が加わる。

(24)

る静電容量が並列に接続されていると考える。図 3-29 に示すような実際の装置では アース電極の方がRF電極に比べてプラズマに接する表面積が大きいから、図3-30左 のシース2の電圧は無視してよい。整合回路を考える場合にはシース1の作る静電容 量に加えて、RF 電極とその裏面側に設けられたアースシールドとの間の浮遊静電容 量を考慮しなければならない。3.4(3)のパッシェンの法則で述べたように電極裏面の 放電を防止するためにアースシールドと RF電極の間隙は狭く3~5 mm程度とする。

一方イオンシースの厚みは約 1cm 程度であるから、浮遊静電容量の方が大きい。整 合回路について考える場合には図の左に示すように RF 放電装置の負荷は RF 電極側 の放電抵抗 R と静電容量 C(イオンシースの作る静電容量とアースシールドの浮遊静 電容量の和)が並列接続された等価負荷であると見做す。このときインピーダンス Z は角周波数をωとすると次のように複素数表示することができる。

1/Z = 1/R + jωC ・・・・・・ (3.29)

Z = R(1 – jωC) / [ 1 + (ωCR)2] = R’ + jX ・・・・・・ (3.30)

但しjは単位虚数を示す。R’, Xは並列接続負荷から変換された直列接続負荷表示の抵 抗分とリアクタンス分であり、次のように表示される。

R’ = R/ [ 1 + (ωCR)2], ・・・・・・ (3.31) X = -ωCR2/ [ 1 + (ωCR)2 ] ・・・・・・ (3.32)

一方放電負荷に流れる電流Iは次のようになる。

I = VRF/Z = IR + jIX = VRF/R + jVRFωC ・・・・・・ (3.33)

DCグロー放電の電圧電流特性から、単位面積あたりの放電コンダクタンスは1 ~ 2

μmoh/cm2である。また静電容量は0.2 ~ 0.4 pF/cm2となる。直径10 cm程度の電極に

13.56MHz の周波数の RF 電圧を印加する放電の場合について以上の計算を当てはめる

と、R = 1kΩ, 1/ωC = 100Ω, R’ = 10Ω, X = -100Ωjとなる。更にVRF = 1kVとすれば、IR = 1A,

IX = -10Ajとなる。これらはRF放電を利用する装置の典型的な値である。

最後に RF 放電負荷の整合回路について説明する。放電に使うための市販の RF 電 源の出力インピーダンスは 50Ωに調整されており、そのまま(3.30)で示されるような 複素インピーダンスの負荷に接続しても効率よくパワーを投入することができない。

負荷と電源の間に整合回路を挿入して、電源側から見た負荷が 50Ωになるように調 整せねばならない。整合回路の形は負荷の抵抗成分 R’が電源出力インピーダンスよ り大きいか小さいかにより異なる。典型的な放電装置では上述のようにR’ = 10Ωであ り、電源出力インピーダンスより小さい。このときの整合回路は図 3-31 に示すよう な形にする。このときRF電源の負荷インピーダンスZは次のように表示できる。

表 3-3  代表的原子のイオン化ポテンシャル(eV)  Z  元素  1 価  2 価  3 価  4 価  5 価  6 価  7 価  8 価  1  H  13.6  2  He  24.6  54.4  7  N  14.5  29.6  47.4  77.5  97.9  551.9  666.8  8  O  13.6  35.1  54.9  77.4  113.9  138.1  793.1  871.1  9  F  17.4  35.0  62.6  87.1  114.2  157.
表 3-3 に示すように He, Ne, Ar, Kr, Xe の順序で原子番号が大きいほどイオン化ポテンシ ャルが小さく、また逆に電離衝突断面積は大きい。図 3-14 は非常に広いエネルギー範 囲における Ar の電離衝突断面積のエネルギー依存性を示す。グラフは異なる研究者 の 6 件の論文のデータをまとめたものであるが、研究者による相違が見られる。 3.4 DC グロー放電の特徴 (1)   デバイ長 プラズマ中における荷電粒子に働く力について考えてみよう。最初に 1 個の点電荷 の作る電界を考える。電
図 3-22 に示すように、その系でもし一方の電極表面を絶縁物で被覆して電圧 -Vs を印 加するとどうなるであろうか。それは図 3-23 に示すような等価電気回路において、ス イッチを入れてから起こる過渡現象を 調べればいい。絶縁体表面の電位を V,  その裏面の電位を Vs’ とすると、スイッ チを入れた瞬間は V  =  Vs’ であり回路抵 抗 R で与えられる電流 I = Vs/R が流れ始 める。絶縁体の表裏面の間の静電容量 を C とすると、時間の経過と共に蓄積 電荷 Q が蓄積し、電流 i

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