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(1)

班 長 松 h 益 Y 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学 班 員 相 澤 義 房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器分野

麻野井 英 次 射水市民病院 和 泉   徹 北里大学内科学

今 泉   勉 久留米大学内科学第三講座 奥 村   謙 弘前大学第二内科

許   俊 鋭 埼玉医科大学外科学第一講座 齋 藤 能 彦 奈良県立医科大学第一内科 佐 野 俊 二 岡山大学大学院医歯学総合研究科心臓血管外科 島 本 和 明 札幌医科大学内科学第二講座

班 員 蔦 本 尚 慶 滋賀医科大学第一内科

筒 井 裕 之 北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学 中 澤   誠 東京女子医科大学循環器小児科 中 谷 武 嗣 国立循環器病センター臓器移植部 堀   正 二 大阪大学大学院医学研究科循環器内科 松 森   昭 京都大学大学院医学研究科循環器内科 百 村 伸 一 自治医科大学附属大宮医療センター循環器科 協力員 大 草 知 子 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学

矢 野 雅 文 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本心臓病学会,日本心不全学会,日本胸部外科学会,日本小児循環器学会,

日本心電学会,日本高血圧学会

ガイドライン改訂版の作成にあたって 

Ⅰ 慢性心不全の病態と診断

1 総 論 

1-1 慢性心不全の定義 2 心機能不全診断の実際 

2-1 病態評価にあたり 2-2 自覚症状,身体・検査所見 2-3 心機能評価

1)収縮機能不全の診断

①心エコ−・ドプラ法

②CT,MRI

③核医学

④心臓カテ−テル法 2)拡張機能不全の診断

①心エコ−・ドプラ法

②核医学

③心臓カテ−テル法 3)総合的心機能不全の診断 3 神経体液因子

3-1 慢性心不全と神経体液因子 1)交感神経系

2)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 3)ナトリウム利尿ペプチド

4)エンドセリン 5)アドレノメデュリン 6)その他の循環ペプチド 7)サイトカイン,酸化ストレス

Ⅱ 慢性心不全の治療

1 一般管理

1-1 カウンセリング

【ダイジェスト版】

慢性心不全治療ガイドライン (2005年改訂版)

Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005)

外部評価委員

加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所 北 畠   顕 カレス・サッポロ

北 村 惣一郎 国立循環器病センター 篠 山 重 威 浜松労災病院

(2)

1-2 社会的活動性と仕事 1-3 食 事

1-4 旅 行 1-5 ワクチン接種 1-6 喫 煙 1-7 アルコ−ル 1-8 安静と運動 1-9 入 浴 1-10 避 妊 1-11 性生活 1-12 精神症状 1-13 薬物療法

2 薬物療法

2-1 収縮機能障害に対する治療 1)ジギタリス

2)利尿薬

3)アンジオテンシン変換酵素阻害薬 4)アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬 5)β遮断薬

6)抗アルドステロン薬 7)アミオダロン 8)末梢血管拡張薬 9)経口強心薬

2-2 拡張機能障害に対する治療 1)拡張不全治療指針案 2-3 不整脈の治療

1)頻脈性不整脈

¡)心房細動

™)心房粗動

£)発作性上室頻拍

¢)心室性不整脈・心室頻拍・心室細動 2)徐 脈

3)非薬物療法

¡)ペ−スメ−カ−による治療

™)埋込型除細動器の適応

£)カテ−テル・アブレ−ション治療 2-4 合併症を有する患者での心不全治療

1)高血圧合併例の治療 2)狭心症合併例の治療 3)腎不全合併例の治療 4)糖尿病合併例の治療 2-5 その他の治療

1)抗凝固療法 2)抗血小板療法 3 高齢者の慢性心不全治療

3-1 薬物療法 3-2 非薬物療法

4 胎児,乳幼児,小児の慢性心不全の治療 4-1 治療へ向けての原則

4-2 まとめRapid Access Guide(表)

5 非薬物療法 5-1 酸素療法 5-2 補助循環装置

1)EECP(Enhanced External Counterpulsation)

2)IABP(Intra-aortic Balloon Pumping)

3)ECUM(Extracorporeal Ultrafiltration Method)

4)PCPS(Percutaneous Cardiopulmonary Support)

5)対外設置型補助人工心臓 6)体内設置型補助人工心臓 7)全置換型人工心臓 5-3 手術療法

1)冠血行再建術

¡)冠動脈バイパス術

™)心筋内レ−ザ−血行再建術 2)左室容積縮小術

¡)Dor 手術

™)左室部分切除術

£)僧帽弁形成術

¢)新しい左室形成術 3)心臓移植

(無断転載を禁ずる)

2000年の秋,日本循環器学会学術委員会の指定研究 班 慢性心不全治療ガイドライン作成研究班 (松h益 Y班長)から本邦では初めての「慢性心不全治療ガイド ライン」が出版されて早くも5年が経過した.初版の作 成にあたっては,日本循環器学会,日本心臓病学会,日 本心不全学会,日本胸部外科学会,日本小児循環器学会,

日本心電学会,日本高血圧学会から推薦された班員によ り研究班は組織され,1998年4月からその準備に着手 した.当時,その目的を達すべく,各班員は可能な限り 新しいデータを収集しガイドライン作成に務めたが,そ の過程においていくつかの重要な問題点が浮かび上がっ てきた.その1つは,ガイドライン作成の基盤となる日

本人を対象とした慢性心不全患者の治療に関する信頼で きる EBM が皆無に近いことであった.また,過去20 年間,欧米から溢れる程に報告された EBM の中で ClassⅠ(usually indicated, always acceptable)ないし ClassⅡ(acceptable, but of uncertain efficacy and may be controversial)とされている薬物でもそのほとんどが本 邦では心不全治療薬として保険適用されていなかった り,使用禁忌剤に指定されていたことであった.

5年間が経過した現在でもその傾向はあまり変化して いないが,大きな違いはβ遮断薬とアンジオテンシンⅡ 受容体拮抗薬の一部が心不全治療薬として承認され,慢 性心不全患者の重要な治療薬の1つとして広く用いられ ていることである.5年間で日本人の慢性心不全患者を 対象とした3つの薬物を用いた多施設臨床試験の結果が 報告され,それらの有効性が示され,その結果は前述の

ガイドライン改訂版の作成にあたって

(3)

2薬剤の承認へ大きく貢献した.アンジオテンシンⅡ受 容体拮抗薬(カンデサルタン)を用いたARCH-J 試験,

β受容体遮断薬(カルベジロール)を用いたMUCHA 試験,そして経口強心薬(ピモベンダン)を用いた EPOCH 試験である.詳細は後述するが,いずれも欧米 で用いられている投与量よりも低用量で,報告されてい る結果と同様かさらに優れた結果が得られた.

初版を出版して5年が経過した今回,班員の一部を刷 新し,その改訂版を出版することとした.本来,治療ガ イドラインの作成は,治療対象となる患者群が得られた エビデンスを基に作成されるのが通常であるが,前述し た本邦での臨床研究はあるものの,その数は極く少なく,

初版と同様に今回も欧米から報告されているエビデンス を基本としてまとめざるを得なかった.その中でも可能 な限り本邦で得られたデータを用い,また日本人を対象 としたエビデンスは無くとも日常診療で多くの医師の了 解の下で用いられている治療法,治療薬,また投与量を まとめ,現在,本邦ではまだ慢性心不全治療としては承 認されていない薬物でも明確なエビデンスが報告されて いるものについては,未承認であることを示し記載した.

本ガイドラインでは前述した既存のガイドラインに並 って,病態の評価法,診断検査法,および治療法,治療 薬の適応基準のクラス分けを行った.

すなわち,

このガイドラインでは,一般成人に対する治療ガイド ラインとは別に,高齢者と幼児・小児の慢性心不全に対 する治療ガイドラインとを分けて記述した.内容的には 臨床の場での実践的な面を重視し,一般臨床医師だけで なく循環器専門医にも役立つ内容とした.記載した治療 法や治療薬の中には,まだ本邦では保険適応となってい ないものが含まれているが,日常の臨床現場で診療に従 事する医師への最近の医療情報の提供,学習教材として の利用も本ガイドライン作成の趣旨として,世界的にコ ンセンサスの得られている治療法,治療薬については保 険適応外であっても記述した.また,治療法の項では,

非薬物療法として心臓外科領域の専門家にも補助循環,

人工心臓,左室容積減少術および心臓移植についてその 適応ガイドラインを示してもらった.

今回作成したガイドライン(ダイジェスト版)は 2006年1月の出版した改訂版をコンパクトにまとめた ものであり,その詳細は実物を参照にしていただきたい.

また,ガイドラインとはそれが作成された時点での EBM に基づき書かれたものであり,当然将来は改変さ れる部分もある事を念頭におき日常診療の場で参考にし ていただければ幸甚である.

慢性心不全とは狭義の意味からは, 慢性の心筋障害 により心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素 需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍 出できない状態であり,肺または体静脈系にうっ血をき たし生活機能に障害を生じた病態 と言える.労作時呼 吸困難,息切れ,尿量減少,四肢の浮腫,肝腫大などの 症状の出現により生活の質的低下(QOL 低下)が生じ,

日常生活が極しく障害される.また致死的不整脈の出現 も高頻度にみられ,突然死の頻度も高い.すべての心疾 患の終末的な病態でその生命予後は極めて悪い.従来は 急性心不全と同様に血行動態的諸指標や肺体うっ血の有 無より診断,評価されていた.しかし,近年の病態解析 の進歩により,慢性心不全では交感神経系やレニン・ア ンジオテンシン・アルドステロン系に代表される神経内 分泌系因子が著しく亢進し,その病態を悪化させている ことが判明した.また心内圧の上昇はナトリウム利尿ホ ルモンやアドレノメデュリンなどの血管拡張因子の分泌 を促進させ,慢性心不全は種々の神経内分泌因子が複雑 に関連し合った一つの症候群と考えられるようになっ た.1980年代中頃より報告されているアンジオテンシ ン変換酵素阻害薬による慢性心不全患者の生命予後の改 善効果や,従来は絶対禁忌と思われていたβ遮断薬の長 期投与効果は, 神経内分泌疾患 としての慢性心不全 を裏づけるものであろう.

また,最近,心筋収縮性は比較的保たれているにもか かわらず,心筋拡張性の低下により心不全症状が出現す る,いわゆる diastolic heart failure の概念が生まれて きた.慢性圧負荷や前述した神経体液因子の亢進により Class Ⅰ:通常適応され,常に容認される

Class Ⅱ:容認されるが有用性はまだ不確実で異論 もありえる

Class Ⅲ:一般に適応とならない,あるいは禁忌で ある

慢性心不全の病態と診断

1 総 論

1

慢性心不全の定義

1 - 1

(4)

生じる心室リモデリング(心肥大,心拡大),心筋線維 化,心内膜下虚血などが拡張障害の大きな要因であると 言われているが,まだその病態の詳細は不明な点が多い.

以上のごとく,慢性心不全の概念は医学の進歩とともに 変遷してきており,今後21世紀にも概念がどのように 変化していくのか見守る必要があろう.

従来,心疾患患者の心機能評価を行う際には,左室収 縮機能評価に重点が置かれていた.実際,慢性心不全の 大規模臨床試験であるV-HeFT I 試験においても,左室

駆出率が28% より低い症例はそれ以上の症例に比較し

て予後は悪い1).しかし,1980 年代半ばから,心不全 症例の30〜40% では左室駆出率で評価する左室収縮機 能は保持されていることが報告され(表1)2−9),このよ うな症例では左室流入動態異常が認められることから,

心不全症状の出現に左室収縮機能障害とならび,左室拡 張機能障害が大きく寄与していることが明らかとなった.

心機能不全の診断は次のプロセスを経て行われる.

(図1)

①心疾患に基づく症状・所見の存在を診断,原因疾患の

検索

②心機能評価(収縮機能,拡張機能)

心機能不全の主病態は,左房圧上昇・低心拍出量に基 づく左心不全症状と,右心負荷による浮腫,肝腫大など の右心不全症状であり,それに伴う症状・所見を診断す る必要がある.

左房圧上昇の自覚症状としては,肺うっ血を原因とし た呼吸困難感が主体となる.初期は安静時には無症状,

労作時に軽度の息切れを自覚するのみであることも多 い.従って,その症状が心原性のものであることを確か めるために,詳細な問診をとるとともに,肺機能検査に て呼吸器疾患を否定する必要がある.また,呼気ガス分 析を用いた運動負荷試験は,左房圧上昇に基づく運動耐 容能低下の客観的指標として有用である.病態の進行に つれて夜間の発作性呼吸困難,起坐呼吸が出現する.身 体所見として,Ⅲ音,Ⅳ音,肺野湿性ラ音,胸部 X 線 検査にて肺うっ血・肺水腫所見を確認する.心不全時に みられる胸水貯留は右心不全(右房圧,右室拡張期圧の 上昇)により生じることが多い.

低心拍出量の自覚症状は,全身倦怠感,頭痛などの神 経症状,食思不振など,非特異的なものも多く見逃さな いように注意が必要である.身体所見としては,四肢冷

心機能不全診断の実際

2 2

表1 収縮機能正常の患者が心不全にしめる割合

(文献2,3,9)

FHS:Framingham Heart Study の心不全基準(文献8),UCG:心エコー検査,

RNV:RI 心プールシンチグラム検査

FHS:Framingham Heart Study の心不全基準 大基準

夜間発作性呼吸困難,頸静脈怒張,ラ音,心拡大,急性肺水腫,Ⅲ音奔馬調律,

静脈圧増大(>16 cm H2O),循環時間延長(≧25 sec),肝・頸静脈逆流 小基準

足首の浮腫,夜間咳嗽,労作性呼吸困難,胸水,肺活量の低下(最大の1/3 以下),

頻脈(≧120 bpm)

大または小基準

治療に反応して,5 日間で4.5 kg 以上の体重減少

(文献4)

心不全診断基準 正常収縮機能(診断手法) 心不全患者にしめる割合

Ghali FHS FS>24 %(UCG) 28 %

Taffet FHS EF>45 %(RNV) 43 %

Takarada(日本) FHS FS>30 %(UCG) 24 %

Vasan FHS EF>50 %(UCG) 51 %

Tsutsui(日本) FHS EF>50 %(UCG) 35 %

病態評価にあたり 2 - 1

自覚症状,身体・検査所見

2 - 2

(5)

感,夜間尿,乏尿を認める.脈圧の低下も参考になる.

心臓性浮腫は呼吸困難などの左心不全症状を伴うこと が多い.浮腫に伴う体重増加は通常2〜3kg に達する.

心不全により惹起される浮腫は,肝性浮腫,貧血,腎性 浮腫などと鑑別する必要がある.

1 )収縮機能不全の診断

心収縮能を比較的客観的かつ簡単に評価しうるものは 経胸壁心エコー・ドプラ法であり,収縮能のみならず,

拡張能,心室径,左室重量あるいは局所壁運動などの評 価が可能で,心不全の原因疾患の診断にも有用である.

また,心機能の経時的観察にも適している.これに比し て経食道心エコー・ドプラ法はルーチン検査としては患 者負担がやや大きい.コンピューター断層像(CT),磁 気共鳴イメージング(MRI)は非侵襲的に形態診断や心 室機能や心室重量の評価が可能で,核医学的検査も心室

機能評価や形態診断,心筋viability の診断に有用である が心エコー法などに比し簡便さやコスト効果比の問題が ある.心臓カテーテル検査は大変に有用な検査で,虚血 性心疾患の治療も可能であるが侵襲的検査であり,慢性 心不全患者の検査としてはその適応は,症例ごとに考慮 すべきである.

①心エコー・ドプラ法10)

Mモード法あるいは断層法による左室容積計測から1 回拍出量(SV),心拍出量(CO),左室駆出率(LVEF)

を算出するか,パルスドプラ法からSV を算出する.僧 帽弁逆流が存在する場合にはLVEF を過大評価する可能 性があり注意が必要である.その場合,連続波ドプラ波 形から左室peak positive dP/dt を推定することができる.

その他,心収縮時間,左室内径短縮率(% FS),平均左 室円周方向心筋線維短縮速度(meanVcf),収縮期壁厚 増加率(% WT)などが収縮能の評価に用いられるが,

局所壁運動異常が存在する虚血性心疾患などにおいては

呼吸困難感を主体とした自覚症状1) 

収縮能は保たれているか? →左室駆出率の測定4) 

心エコー法 

RI 心プールシンチグラム法,心電図同期 SPECT 法  心臓カテーテル法(左室造影法) 

症状は心不全に起因しているか? 

左房圧上昇を示唆する所見 

詳細な問診,身体的検査,胸部 X 線検査,血漿 BNP2) 

他の疾患を除外3) 

正常または軽度低下  低  下 

拡張不全 ←拡張能評価を加える  心エコー法:E/A 比,DT,IRTRI   RI 心プールシンチグラム法:PFR,TPFR  心臓カテーテル法:peak negative dP/dt, 

         Tau,stiffness(constant) 

収縮不全 

1 左心不全の診断

1)自覚症状は,呼吸困難感の他に,低心拍出量を反映した倦怠感,食思不振,

四肢冷感なども考えられる.

2)運動耐容能低下の診断に,呼気ガス分析を用いた運動負荷試験が有用.

3)心疾患以外に呼吸困難感をきたす疾患

呼吸器疾患,貧血,甲状腺機能亢進症,過換気症候群,神経筋疾患

4)収縮不全と拡張不全の鑑別に左室駆出率は40〜50% が基準値として用い

られることが多い.

心機能評価

(図1)

2 - 3

(6)

これらの指標の適用に限界がある.

②CT,MRI

形態診断に有用であると同時に心拍出量,左室駆出率,

局所壁運動評価も可能である.

③核医学

本法の特徴として心筋虚血の検出(SPECT)や心筋 代謝の評価,心筋viability の評価(PET),心筋交感神 経障害の評価が可能である.

④心臓カテーテル法

心内圧,心拍出量,心室容積,駆出率などの測定によ

り心機能を評価できる.心エコー・ドプラ法やその他の 非侵襲的検査によって得られる指標の基準となる測定値 が得られる.肺動脈楔入圧と心係数からForrester subset を判定したり,肺血管抵抗,末梢血管抵抗を算出するこ とにより治療方針の決定に役立つ.

2)拡張機能不全の診断

現在,拡張機能を簡便にしかも低侵襲で明確に評価す る方法は確立されていない.従って,実際の臨床では,

①臨床症状が心不全によるものか,②収縮機能が正常か,

を確実に診断し,③拡張機能障害の存在を,現在使用で きる方法を用いて補助的に診断することになる.これら は,収縮機能評価にも用いられる方法であり,収縮機能

図2 心エコー,ドプラ法による左室拡張機能評価 (A)

左室流入波形における計測

拡張早期ピーク血流速(E),心房収縮期ピーク血流速(A),それらの比(E/A),拡張早期波の deceleration time(DT)のほかに心音図波形との関係で等容性弛緩時間(IRT)が計測可能である.

ECG:心電図,PCG:心音図

(B)

拡張不全の進行に伴う左室流入波形の変化のシェーマ図

正常波形nomal pattern より拡張障害の進行に伴い,左室弛緩障害波形relaxation abnomal pattern,偽正 常化波形 pseudonormalized pattern,拘束型波形restrictive pattern と変化していくと考えられている.

血行動態の変化や治療によりこれらの波形はいずれの方向にも変化し得ることを両方向の矢印により 示している.

AC:大動脈弁閉鎖,MO:僧房弁解放

(7)

を観察する際に同時に評価することが可能である.

①心エコー・ドプラ法

心エコー・ドプラ法を用いた左室流入血流速波形によ る左室流入障害の診断は,その低侵襲性・簡便性より広 く用いられている.拡張早期波形のピーク血流速(E)

と心房収縮期波形のピーク血流速(A)の比(E/A)と,

そのパターン変化より拡張不全の進行過程を観察するこ とができる(図2).また,Ⅱ音開始から拡張早期波形 開始までの時間(isovolumetric relaxation time:IRT)は,

能動的弛緩能を表し,拡張早期波形のピークから血流速 がゼロになるまでの時間(deceleration time:DT)は,

左室スティフネスと相関するとされている.

②核医学

RI 心プールシンチグラム法により,弛緩能の指標で ある左室急速流入期の最大流入速度を示す最大充満速度

(peak filling rate:PFR),弛緩持続時間を表す最大充満 速度到達時間(time to peak filling rate:TPFR)を求める ことができる.

③心臓カテーテル法

心臓カテーテル法は,侵襲的な指標であるが,より詳 細に拡張機能障害を診断しうる.定性的に拡張機能障害 の 有 無 を 判 断 す る 場 合 は , 左 室 拡 張 末 期 圧 (l e f t venticular end-diastolic pressure:LVEDP),あるいは肺動 脈楔入圧(左房圧の代用として)をみる.拡張機能障害 が起こると心拍出量を維持するために,二次的に左室充 満圧が上昇することから,左室拡張末期圧や肺動脈楔入 圧の上昇は,間接的に拡張機能障害の存在を示す.弛緩 能の指標として,左室圧下降脚の一次微分の最大値

(peak negative dP/dt),左室圧の下降脚の時定数(time constant:Tau, t)が用いられる.

3)総合的心機能不全の診断

収縮能,拡張能ともに心機能低下例の臨床像にかかわ っているため,総合的にかつ簡便に心機能評価する方法 として,心エコー・ドプラ法から得られるTei-index が 用いられる.左室Tei-index は正常値0.39±0.05であり,

予後評価,治療効果の判定11)に有用である.また,Tei- index は右心系の総合的心機能評価にも有用である12. ただし,Tei-index 値の持つ意義は,疾患にて異なるこ と,大動脈弁狭窄症では過小評価されることに注意が必 要である.

(経過観察目的の検査はこの分類と区別するべきである)

ClassⅠ

¡経胸壁心エコー・ドプラ法:広く応用される

¡ドブタミン負荷心エコー法:心筋のviability 評価が必要 な患者,冠動脈疾患を疑うが運動負荷のできない患者

¡経食道心エコー法:心房細動を伴い左房内血栓評価が 必要な患者

¡心臓核医学検査

心プールシンチグラム

負荷心筋シンチグラム:心筋のviability 評価が必要 な患者,冠動脈疾患の診断

¡心臓カテーテル検査(左室造影検査を含む)

冠動脈造影検査:虚血性疾患の診断ならびに治療の 目的として

ClassⅡ

¡経食道心エコー法:慢性心不全患者全体にルーチン検 査として用いる場合

¡ドブタミン負荷心エコー法:慢性心不全患者全体にル ーチン検査として用いる場合

¡負荷心筋シンチグラム:慢性心不全患者全体にルーチ ン検査として用いる場合

¡超高速コンピューター断層法(超高速CT 法)

¡核磁気共鳴イメージング(MRI)

¡心内膜心筋生検:心筋炎,心臓障害性薬剤による化学 療法を受けている患者,全身性疾患による心臓障害の 可能性のある患者

ClassⅢ

¡心臓カテーテル検査(左室造影検査を含む):血行再 建術,弁置換術,心移植の対象にならない患者

¡冠動脈造影検査:血行再建術,弁置換術,心移植の対 象にならない患者

¡心内膜心筋生検:慢性心不全患者全体に対して

心筋は虚血,高血圧,炎症などの種々の負荷がかかる と,心機能を保持するために種々の代償機序が働く.こ の代償機序には神経体液因子の亢進と心肥大がある.神 経体液因子は心筋のみならず全身の血管,臓器に作用し て,運動耐容能低下,不整脈,突然死等のいわゆる心不

心疾患診断のための検査

神経体液因子

3 3

(8)

全が原因となる症候群の形成に関与する.表 2 には,

代表的な神経体液因子とその正常値を示しているが,そ の中で心臓刺激因子は,ノルエピネフリン,レニン・ア ンジオテンシン・アルドステロン,バソプレシン,エン ドセリン,種々のサイトカインであり,心保護因子の代 表は心房性(A 型)ナトリウム利尿ペプチド(ANP),

脳性(B 型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)がある.

1 )交感神経系

慢性心不全患者では心不全の重症度に比例して血漿ノ ルエピネフリン濃度が増加する.血漿ノルエピネフリン 濃度は生命予後の指標になること13),さらにノルエピネ フリンを阻害すると長期予後が改善する可能性が報告さ れている14.その後,実際にβ遮断薬が心不全患者の予 後を改善することを実証した大規模臨床試験が数多く報 告されるようになった.

大規模臨床試験の結果,β遮断薬はその選択性,非選 択性,虚血性,非虚血性心不全症例にかかわらず有効で あることから,β遮断薬のクラス効果と考えられる.

2 )レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系

心不全ではレニン・アンジオテンシン・アルドステロ ン系(RAAS)が賦活され,アンジオテンシンⅡが過剰 に産生される.軽度の心機能障害でも血漿レニン活性値 が上昇している例があり,また重症心不全症例のすべて に血漿レニン活性値が上昇しているとは限らない.アン ジオテンシン変換酵素阻害薬投与にも関らず,投与初期 には低下していたアルドステロンの血中濃度が再び増加 してくるエスケープ現象が指摘されている15)

アルドステロン自体も腎臓でのナトリウム貯留,マグ

ネシウムやカリウム喪失を惹起する古典的な作用の他,

交感神経亢進,副交感神経抑制,圧受容器の機能異常な どを引き起こすことが指摘されるとともに,心臓や血管 に働いて,心筋の線維化,血管障害に直接関与している.

3)ナトリウム利尿ペプチド

ナトリウム利尿ペプチドには ANP,BNP,CNP(C 型ナトリウム利尿ペプチド)がある.ANP は主として 心房で,BNP は主として心室で合成され,心臓から全 身へ分泌される心臓ホルモンである.ANP は心房の伸 展刺激により,BNP は主として心室の負荷により分泌 が亢進し,血中濃度が上昇する.CNP は神経ペプチド として中枢神経系にも存在するほか,血管内皮細胞や単 球・マクロファージでもその発現が確認され,血管壁ナ トリウム利尿ペプチド系の主たるリガンドである.

血中ANP 濃度やBNP 濃度は血行動態とよく相関する

が,BNP は左室拡張末期圧をよく反映する.BNP が心 不全の補助診断法として特に優れているのは,①心不全 の存在診断,②心不全の重症度診断,③心不全の予後診 断である.

血中BNP 濃度はNYHA の身体機能分類に平行して上

昇し,BNP 値が高いほど心不全が存在し,重症である.

また,BNP 濃度と生命予後の関係については,重症心 不全患者を対象とした研究で報告され16),海外の大規模 臨床試験のサブ解析においても確認された1718

4)エンドセリン

心不全の重症度が増すにつれて血漿ET-1濃度は高値 を示すが,特に身体機能分類(NYHA)Ⅳ度で上昇する.

血漿 ET-1濃度は左室駆出率とは逆相関して,予後の規 定因子の1つである19)

5 )アドレノメデュリン

アドレノメデュリン(AM)は,心不全の重症度が増 すにつれて血中濃度は増加を示すが,ANP,BNP に比 較して心不全重症度間の重なりがあり20),心不全の重症 度評価,治療効果判定の指標にはなりにくい.

6)その他の循環ペプチド

内因性オピオイドであるβエンドルフィン,メト・エ ンケファリン,ジノルフィンも心不全で増加している.

7)サイトカイン,酸化ストレス

心不全患者においてtumor necrosis factor-α(TNF-α), Interleukin-6(IL-6)が血中に増加し,予後とも関係す 2 心不全と関係する神経体液因子(基準値)

ノルエピネフリン(100-400 pg/ml)

レニン活性値(0.5-3.0 ng/ml/hr)

アンジオテンシンⅡ(10 pg/ml 以下)

アルドステロン(30-200 pg/ml)

バソプレシン(0.5-2.0 pg/ml)

心房性(A 型)ナトリウム利尿ペプチド(ANP:43 pg/ml 以下)

脳性(B 型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP:18.4 pg/ml 以下)

エンドセリンー1(2.3 pg/ml 以下)

アドレノメデュリン(10 fmol/ml 以下)

TNF-α(3.0 pg/ml 以下)

IL-6(2.0 pg/ml 以下)

慢性心不全と神経体液因子

3 - 1

(9)

2122.これらのサイトカインは直接的な陰性変力作用,

β受容体に対する反応抑制,一酸化窒素の産生を介する 心筋細胞障害によって心機能を抑制する.これらのサイ トカインを抑制することは心機能の改善,悪液質の改善,

運動耐容能の改善,予後の改善につながる可能性がある.

ClassⅠ

¡心不全の診断,重症度,予後評価に血漿BNP 測定

ClassⅡ

¡心不全の治療効果判定にBNP,N 端-ProBNP 測定

¡予後評価にN 末端-proBNP 測定

¡心不全の重症度,予後評価に血漿エンドセリン濃度測定

¡心不全の重症度,予後評価に血漿ノルエピネフリン濃 度測定

¡左房負荷もしくは体液量の評価に血漿心房性(A 型)

ナトリウム利尿ペプチド濃度の測定

¡循環レニン・アンジオテンシン系の賦活の評価に血漿 レニン活性値もしくは濃度測定

¡循環アルドステロン系の賦活の評価に血漿アルドステ ロン濃度測定

ClassⅢ

¡なし

患者,家族およびその他の介護者に慢性心不全の特徴,

心不全増悪時の症候とその対処方法,薬物治療に関して の充分な説明を行うとともに食塩・水分制限,活動制限 や禁煙の指導を行う.毎日の体重測定,規則的な服薬な ど自己管理の重要性と責任を明確にすることは重要であ る23)

息切れやむくみなど心不全の主要症候,特に急性増悪 時の症状とその対処方法については充分な説明が必要で ある.労作時息切れおよび易疲労感の増強や安静時呼吸

困難,下腿浮腫の出現のみならず食思不振や悪心,腹部 膨満感,体重増加などが心不全増悪の症候であり得るこ とについて患者の充分な理解が必要である.すべての慢 性心不全患者は毎日の体重測定(毎朝,排尿後)による 自己モニタリングが必要であり,短期間での体重増加は 体液貯留の指標として重要である.日の単位で体重が2 kg 以上増加するような場合は慢性心不全急性増悪を強 く示唆する.これらの症候により慢性心不全の増悪が疑 われた場合には自ら活動制限,食塩制限を厳しくすると ともに速やかに受診すべきであることを指導する.

活動能力に応じた社会的活動は勧めるべきであり,可 能であれば運動能力に応じた仕事を続けるべきである.

重症心不全では一日の食塩量3g 以下の厳格な塩分制 限が必要である.軽症心不全では厳格な塩分制限は不要 であり一日およそ7g 以下程度の減塩食とする.

飛行機旅行,高地あるいは高温多湿な地域への旅行で は注意が必要である.

すべての心不全患者,特に重症患者では,病因によら ずインフルエンザに対するワクチンを受けることが望ま しい.

喫煙はすべての患者で禁止すべきである.

慢性心不全患者においても原則として飲酒は禁止すべ きである.

浮腫を有する非代償性心不全,慢性心不全急性増悪時 には運動は禁忌であり活動制限と安静が必要である.し かし薬物治療あるいは外科的治療がなされて状態の安定 した慢性心不全においては安静によるデコンディショニ ングは運動耐容能の低下を助長し,労作時の症状を悪化 させる要因となる.逆に適度な運動あるいは運動トレー ニングは運動耐容能を増して日常生活中の症状を改善し 生活の質を高めることが明らかとなっている2426

慢性心不全患者での神経体液因子の評価

慢性心不全の治療

1 一般管理

1

カウンセリング:一般的知識と症状のモニタリング 1 - 1

社会的活動性と仕事 1 - 2

1 - 3 食 事

1 - 4 旅 行

ワクチン接種 1 - 5

1 - 6 喫 煙

アルコール 1 - 7

安静と運動

1 - 8

(10)

¡β遮断薬開始時

ClassⅡ

¡軽度〜中等度の臨床症状を有する慢性心不全

¡初めて軽度心不全が発生した患者

¡一人暮らしなど安全な外来管理が不可能と考えられる 社会的要因がある場合

心不全の大半は左室収縮機能不全に基づく心不全であ る.とくにその原因としては非虚血性の拡張型心筋症と,

いわゆる虚血性心筋症に大別できる.これらの疾患にお いては交感神経系,レニン・アンジオテンシン系が賦活 され左室の進行性の拡大と収縮の低下すなわちリモデリ ングが生じ,死亡,心不全の悪化などのイベントにつな がると考えられている.従ってこのような神経内分泌系 を阻害することにより左室リモデリングを抑制し心不全 の予後を改善することが最近の慢性心不全治療の中心と なっている.

1 )ジギタリス

1995年にDIG の結果が発表され,ジゴキシンが調律 の心不全患者の心不全入院を減らすことが明らかとなっ たが心不全患者の予後は改善し得なかった29).DIG にお けるジゴキシン血中濃度は約0.8ng/ml と比較的低濃度 であったが,最近のDIG のサブスタディーではジゴキ シン血中濃度に比例して死亡率が増加することが明らか にされており,左室駆出率 45% 以下の洞調率の心不全 患者の至適血中濃度として0.5〜0.8ng/ml が提案されて いる30

一方,心房細動を伴う心不全患者においては心室レー トをコントロールし十分な左室充満時間を得るためにジ ギタリスが用いられる.

2)利尿薬

心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難,浮腫な どの症状を軽減するために最も有効な薬剤である.ルー プ利尿薬を基本に,わが国ではフロセミド,トラセミド,

エタクリン酸,ブメタニド,ピレタニド,アゾセミドが用 いられる.ただしこれらの利尿薬は低カリウム血症,低 マグネシウム血症をきたしやすく,ジギタリス中毒を誘 発しやすいばかりでなく,重症心室性不整脈を誘発する 入浴は慢性心不全患者において禁忌ではなく,適切な

入浴法を用いればむしろ負荷軽減効果により臨床症状の 改善をもたらすことが示されている27.また,低温サウ ナも重症慢性心不全患者の治療に有効であるとする報 告27)がある.

NYHAⅡ度からⅣ度の慢性心不全を有する妊婦では死 亡率,罹病率が高く,正常の妊娠,分娩は困難である.

従ってこれらの患者では妊娠を避けるべきである.

運動強度でいうとsingle Master が不整脈の誘発,負荷 後の過度の息切れ,疲労感なしに行い得れば性交渉は可 能と考えられる.しかし心拍数,血圧の反応は年齢や重 症度よりもむしろ個体差や性行為時の状況によるところ が大きいとされ,特に婚外交渉では過大な反応をきたし 得ることに注意が必要である.

心不全患者に対する支援には精神的支援も含む必要が ある.症状によっては,心療内科医による診断・治療や 臨床心理士によるカウンセリングも考慮すべきである.

薬剤名,投与量,投与回数,副作用についての知識を 指導するとともに,薬剤師と連携し投薬量のチェック,

コンプライアンスのチェック,副作用のモニタリングな どを行うことが必要である.

[(28)より改変]

慢性心不全患者で以下の所見のいずれかが認められる 場合には入院の適応がある.

ClassⅠ

¡外来治療に抵抗性の慢性心不全増悪(NYHA Ⅲ,Ⅳ度)

¡最近発症した心筋虚血あるいは梗塞,急性肺水腫ある いは高度の呼吸困難,症候性低血圧あるいは失神,肺 塞栓症,末梢塞栓症,症候性不整脈(高度の徐脈およ び頻脈性不整脈),その他肺炎や腎不全の合併など,

生命に危険の迫った状態や基礎疾患を合併する場合

1 - 10 避 妊 1 - 9 入 浴

1 - 11 性生活

慢性心不全患者における入院の基準 1 - 12 精神症状

1 - 13 薬物療法

2 薬物療法

2

収縮機能障害に対する治療

2 - 1

(11)

療薬がすでに投与されている慢性心不全患者へのアンジ オテンシンⅡ受容体拮抗薬バルサルタンの追加投与は総 死亡率は改善しなかったが心不全の悪化による入院を減 少させ,症状を軽減し QOL も改善した39).さらに最近 おこなわれた CHARM Added 試験でも既にアンジオテ ンシン変換酵素阻害薬の投与されている患者においてカ ンデサルタンは心血管死亡または心不全入院を減少し心 不全入院の回数も減少した40)

以上よりアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は左室収縮 機能低下に基づく慢性心不全患者においてアンジオテン シン変換酵素阻害薬と同等の心血管イベント抑制効果を 有し,さらにアンジオテンシン変換酵素阻害薬に追加す ることによっても更なるイベント抑制効果が得られる.

したがってアンジオテンシン変換酵素阻害薬が忍容性な どの点で投与できない場合にはアンジオテンシンⅡ受容 体拮抗薬を用いるべきである.またアンジオテンシン変 換酵素阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,β遮 断薬の三者併用についてはVal-HeFT ではnegative な結 果であったが,その後のCHARM では肯定的な結果と なり,いまだ一定の見解が得られていない.

5)β遮断薬

ここ数年の間にβ遮断薬の心不全予後改善効果を指示 す る 大 規 模 試 験 の 結 果 が 相 次 い で 発 表 さ れ た .U S Carvedilol study41においてはカルベジロール,CIBISⅡ42 においてはビソプロロール,MERIT-HF43)ではメトプロ ロールの有意な生命予後および心不全悪化防止効果が明 らかにされた.わが国においては低用量(1日5mg お

よび20mg)とプラセボの比較試験,MUCHA において

は一年弱という比較的短期間の観察であはあるが両投与 量ともにプラセボと比較し用量依存性に心血管および心 不全入院,あるいは死亡または心血管入院を著明に減少 した44

以上の臨床試験の対象の殆どはNYHA 機能分類Ⅱ度 およびⅢ度の患者であり,最も重症のⅣ度患者は少数で あった.

一方心不全症状のない 左室機能不全患者に対するβ 遮断薬のエビデンスも得られている.CAPRICORN では 左室駆出率の低下した心筋梗塞患者にカルベジロールを 投与することにより死亡率が低下した45).したがって有症 状の心不全患者のみならず無症状の左室収縮機能低下患 者についてもβ遮断薬導入を試みることが勧められる.

β遮断薬の投与の実際については NYHAⅢ度以上の 心不全患者については原則として入院とし,体液貯留の 兆候がなく患者の状態が安定していることを確認したう こともある.従ってこれらの利尿薬の使用時には血清カ

リウムおよびマグネシウムの保持を心がける必要がある.

3 )アンジオテンシン変換酵素阻害薬

このクラスの薬剤の左心機能不全に基づく心不全患 者,あるいは心筋梗塞後の患者の生命予後および種々の 臨床事故に対する効果はCONSENSUS31),SOLVD32,33)

などの大規模臨床試験により確立されている.無症候の 左室収縮機能不全についても総死亡は減少しないもの の , 心 不 全 の 入 院 を 抑 制 で き る こ と が SOLVD prevention 試験で明らかになっているのですべての左室 収縮機能低下患者に用いられるべきである.また高用量 と低用量を比較した場合,死亡率には差がないものの死 亡または入院についてみると高用量でより効果がえられ

るとのATLAS34)の結果もあるので,薬剤の認容性があ

る限り(咳嗽の有無,血圧,血清クレアチニン値,血清 カリウム値のチェック),欧米の大規模臨床試験で用い られた用量に近づけることを心がけるべきである.

4 )アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

アンジオテンシンⅡの作用をより確実にブロックする 薬剤としてアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬が心不全治 療に試みられるようになった.まずアンジオテンシン変 換酵素阻害薬の投与されていない心不全患者に対する効 果においてはわが国の臨床試験ARCH-J においてカンデ サルタンがプラセボと比較して心不全の進行および心血 管イベントを抑制することが報告された35).アンジオテ ンシン変換酵素阻害薬に忍容性のない患者を対象とした CHARM alternative 試験においてもカンデサルタンは 心血管死亡または心不全悪化による入院を有意に減少 した36).アンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテ ンシンⅡ受容体拮抗薬との比較では,高齢者の心不全患 者を対象に,ロサルタンの死亡率に対する有効性をカプ トプリルと比較した臨床試験ELITEⅡ37)の結果,認容 性においてアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬はアンジオ テンシン変換酵素阻害薬より優れていたものの,死亡率 改善効果には有意差は得られなかった.心不全および左 室収縮機能不全を伴う急性心筋梗塞患者を対象とした大

規模試験VALIANT においても,アンジオテンシンⅡ受

容体拮抗薬のアンジオテンシン変換酵素阻害薬対する心 血管イベント抑制効果の非劣性が確認されている38.一 方,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬とアンジオテンシ ン変換酵素阻害薬との併用の効果を検証する大規模臨床 試験が行われた.Val-HeFT においては利尿薬,ジギタ リス,アンジオテンシン変換酵素阻害薬などの標準的治

(12)

えでごく少量より時間をかけて数日〜2週間ごとに段階 的に増量して行くことが望ましい.増量に際しては自覚 症状,脈拍,血圧,心胸比,および心エコー図による心 内腔の大きさ等を参考にし,心不全の増悪,過度の低血 圧や徐脈の出現に注意する.

β遮断薬の効果を予測する指標として,血漿BNP が 有用である.

現在さらにわが国ではβ遮断薬の臨床試験J-CHF が 進行中である.

6)抗アルドステロン薬

NYHAⅢ度以上の左室収縮機能不全に基づく重症心不 全患者を対象とした大規模試験(RALES)ではスピロ ノラクトンの併用が全死亡率,心不全死亡率,突然死の いずれをも減少させることが明らかとなっている46).ま た,最近,EPHESUS 試験においても,急性心筋梗塞後 に左心機能不全および心不全を合併した患者では,エプ レレノンを併用すると,死亡および心血管イベントの発 生リスクが抑制されることが報告された47)

7 )アミオダロン

アミオダロンは重症心室性不整脈を抑え心不全患者に おける突然死を予防することが期待される.いくつかの 臨床試験では48,49)は必ずしも一貫した結果がえられては いないが,過去の臨床試験のメタアナリシス50では全死 亡率および不整脈死を減少させることが報告されてい る.使用に際しては特異的な副作用の早期検出のため定 期的な甲状腺機能,肺機能,胸部X 線撮影,血中KL-6 測定,眼科受診などが必要である.

8)末梢血管拡張薬

欧米のガイドラインでは種々の原因によりアンジオテ ンシン変換酵素阻害薬を用いることのできない患者にお いて生命予後の改善を目的として硝酸イソソルビドとヒ ドララジンの併用51)が推奨されているが,わが国では積 極的には使用されていない.

現在のところ心不全の予後を悪化させないことが大規 模試験によって支持されているカルシウム拮抗薬として はアムロジピンおよびフェロジピンがある52)

9 )経口強心薬

米国では経口強心薬について否定的な見方が成されて いる.しかしながら生命予後の改善効果のみが慢性心不 全治療の最終目的ではないとの見解にたてば,経口強心 薬の臨床的有用性についても再考慮すべきであろう.と くに生活の質の改善5354,非経口強心薬からの離脱,β 遮断薬導入などについては強心薬の有用性がさらに検討 される必要がある.経口強心薬として現在わが国ではピ モベンダン,デノパミン,ドカルパミン,ベスナリノン が認可されている.

NYHAⅠ度(無症状の左室収縮機能不全):まずアンジ オテンシン変換酵素阻害薬が適応となる.アンジオテン シン変換酵素阻害薬の投与が副作用等で不可能な症例で は,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を投与する.心筋 梗塞後の左室収縮機能不全であればβ遮断薬の導入も考

重症度からみた薬物治療

(図3)

I 無症候性 

II 軽  症 

III 中等症〜重症 

IV 難 治 性  NYHA クラス 

アンジオテンシン変換酵素阻害薬 

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬  β遮断薬 

抗アルドステロン薬  利尿薬 

ジギタリス 

経口強心薬 

静注強心薬,h-ANP 3 心不全の重症度からみた薬物治療指針

(13)

ClassⅠ

¡禁忌を除きすべての患者に対するアンジオテンシン変 換酵素阻害薬(無症状の患者も含む).

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬に認容性のない患者 に対するアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の投与.

¡頻脈性心房細動を有する患者にレートコントロールを 目的としたジゴキシン投与.

¡有症状の患者に対し予後の改善を目的としたβ遮断薬 の導入.

¡うっ血に基づく症状を有する患者に対するループ利尿 薬,サイアザイド系利尿薬.

¡ループ利尿薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬が既 に投与されているNYHAⅢ度以上の重症患者に対す る抗アルドステロン薬.

ClassⅡ

¡洞調律の患者に対するジギタリス投与(血中濃度0.8 ng/l 以下で維持).

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬:アンジオテンシン 変換酵素阻害薬との併用投与.

¡生活の質の改善,経静脈的強心薬からの離脱を目的と した経口強心薬短期投与.

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬,あるいはアンジオ テンシンⅡ受容体拮抗薬の代用としての硝酸イソソル ビドとヒドララジンの両者の投与.

¡無症状の左室収縮機能不全患者におけるβ遮断薬の導 入.

¡重症心室性不整脈とそれに基づく心停止の既往のある 患者におけるアミオダロン投与.

慮する.心房細動による頻脈を伴う症例ではジギタリス を用いる.

NYHAⅡ度:アンジオテンシン変換酵素阻害薬に加えて β遮断薬導入を行う.肺うっ血所見や全身浮腫など体液 貯留による症状が明らかである場合にはループ利尿薬,

サイアザイド系利尿薬を用いる.洞調律で重症心室性不 整脈を伴わない非虚血性心筋症には低用量ジゴキシンを 追加する.Ⅱm 以上の心不全については他の薬剤で症 状の改善が得られない場合,ピモベンダンを追加しても よい.

NYHAⅢ度:NYHAⅡ度と同様,アンジオテンシン変換 酵素阻害薬,β遮断薬,ループ利尿薬,サイアザイド系 利尿薬,ジゴキシンを用いる.スピロノラクトンを併用 する.QOL 改善,さらなる心血管イベントを目的とし たピモベンダンの追加を行ってもよい.

NYHAⅣ度:入院とする.カテコラミン,フォスフォジ エステラーゼ阻害薬,利尿薬,カルペリチドなどの非経 口投与を行い状態の安定化を図る.状態の安定化が得ら れたならアンジオテンシン変換酵素阻害薬,スピロノラ クトンを含む利尿薬,ジギタリスなどの経口心不全治療 薬への切り替えを行い,さらにβ遮断薬導入を試みる.

(表3に主な心不全治療薬の用量を示す)

経口心不全治療薬の選択

3 主な経口心不全治療薬の用量

大規模試験における用量 国内で承認された適応症・用量 アンジオテンシン変換酵素阻害薬

エナラプリル SOLVD

初期量:5mg/day,目標:20mg/day 実際使用量:

Prevention trial 16.7mg/day Treatment trial 16.6mg/day CONSENSUS

初期量:10mg/day

目 標:20mg/day,最大40mg/day 実際使用量:18.4mg/day

5〜10mg/day 2.5mg/day より開始

リシノプリル ATLAS

初期量:2.5-5mg/day 目 標:低用量:2.5-5mg/day

高用量:32.5-35mg/day

5〜10mg/day,

腎障害・高齢者では2.5mg/day より

カプトプリル ELITE II

目 標:150mg/day

高血圧症:37.5〜75mg/day(最大150mg/day)

(14)

メトプロロール MERIT-HF

初期量:12.5or 25mg/day 目 標:200mg/day 実際使用量:159mg/day

高血圧:60〜120mg/day、最大240mg/day 狭心症,頻脈性不整脈:60〜120mg/day アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

β遮断薬

カルベジロール US Carvedilol

初期量:12.5mg/day 目 標:100mg/day 実際使用量:45±27mg/day MUCHA

実際使用量:5or 20mg/day

1回1.25mg,1日2回食後経口投与から開始,

維持量:1回2.5〜10mg を1日2回食後経口投与.

ビソプロロール CIBIS II

初期量:1.25mg/day,目標:10mg/day 実際使用量:――

本態性高血圧(軽症〜中等症),狭心症,心室性 期外収縮:5mg/day

抗不整脈薬

アミオダロン GESICA

初期量:600mg/day×14days 維持量:300mg/day CHF-STAT

初期量:800mg/day×14days 維持量:400mg/day

導入期 400mg/day 維持期 200mg/day 抗不整脈薬

ロサルタン* ELITE II

初期量:12.5mg/day 目 標:50mg/day 実際使用量:42.6mg/day

高血圧症:25〜100mg/day

バルサルタン* Val-HeFT

目 標:320mg/day 実際使用量:254mg/day

高血圧症:40〜80mg/day(最大160mg/day)

カンデサルタン CHARM

初期量:4or 8mg/day 目 標:32mg/day 実際使用量:24mg/day ARCH-J

初期量:4mg/day 目 標:8mg/day 実際使用量:8mg/day

4mg/day(重症例では2mg/day)より開始

維持量:8mg/day

高血圧症:4〜8mg/day(最大12mg/day)

腎障害では2mg/day より開始

アムロジピン PRAISE

初期量:5mg/day 目 標:10mg/day

実際使用量:8.8±0.6mg/day

高血圧:2.5〜5mg/day 狭心症:5mg/day 血管拡張薬

硝酸イソソルビド V-HeFT

初期量:80mg/day 目 標:160mg/day 実際使用量:136mg/day

狭心症:40mg/day

ヒドララジン* V-HeFT

初期量:150mg/day 目 標:300mg/day 実際使用量:270mg/day

初期量 30〜40mg/day 維持量 30〜200mg/day

利尿薬

スピロノラクトン RALES

初期量:25mg/day 目 標:50mg/day 実際使用量:26mg/day 50-100mg/day†

50〜100mg/day

フロセミド 40〜80mg/day

エプレレノン* EPHESUS

初期量:25mg/day 目 標:50mg/day 実際使用量:43mg/day

(15)

¡β遮断薬導入の際の経口強心薬併用.

¡ループ利尿薬,サイアザイド系利尿薬,抗アルドステ ロン薬以外の利尿薬.

ClassⅢ

¡無症状の患者に対する経口強心薬の長期投与.

¡狭心症,高血圧を合併していない患者に対するカルシ ウム拮抗薬

¡ClassⅠ抗不整脈薬長期経口投与.

1 )拡張不全治療指針案

心不全治療に関する大規模臨床試験はすべて収縮不全 症例を対象にしており,拡張不全の治療に対する評価が 欧米においてもなされていない.従って現段階において は適応をクラス分けすることは極めて困難であるが,一 般的に考えられている治療方針をもとに構成した.また,

治療薬は臨床症状により大きく異なるため,NYHA 別 に分けて記載した.

〈NYHAⅠ−Ⅱ度〉

ClassⅠ

¡なし

ClassⅡ

¡利尿薬

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

¡カルシウム拮抗薬

¡β遮断薬

¡硝酸薬

ClassⅢ

¡陽性変力作用を持つ薬剤

〈NYHAⅢ−Ⅳ度〉

ClassⅠ

¡利尿薬

¡硝酸薬

ClassⅡ

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

¡カルシウム拮抗薬

¡陽性変力作用をもつ薬剤

¡β遮断薬

ClassⅢ

¡なし

頻発する心室性期外収縮や非持続性心室頻拍は心臓突 然死の危険因子になるが55),抗不整脈薬でこれらの不整 脈を抑制しても予後はむしろ悪化することが知られてい る56).大規模臨床試験によりこの様な非致死的な不整脈 の治療で抗不整脈薬が予後を改善することが証明されて いるのはβ遮断薬42,43,57)とアミオダロン48,50,58)である.

1)頻脈性不整脈

不整脈の治療では,不整脈の有無だけでなく,不整脈 の種類と症状との関係が重要である.診断には,ホルタ ー心電図以外に電気生理学的検査も有用である59.治療 の根拠として特に心不全例では,(1)症状を伴う,(2)

心不全を悪化させる,(3)致死的である,(4)より重篤 な不整脈を誘発する,などが挙げられる.

*  わが国で慢性心不全に対する保険適応が認められていないもの.

** Jelliffe RW, Brooker GA. A nomogram for digoxin therapy. Am J Med 1974; 57: 63-68

† 心不全におけるスピロノラクトンの投与量は25〜50mg/day が妥当である.

‡ 心不全におけるジゴキシンの投与量は0.125〜0.25mg/day が実際的である.

国内で承認された適応症・用量は心不全の保険適応が認められている薬剤ではその投与量を,認められていない薬剤では承認されて いる他の疾患に対する投与量を記載した.

ジギタリス製剤

ジゴキシン 年齢,性別,体重,腎機能を考慮したアルゴリ ズム**を用い初期量を決定

維持量 0.25〜0.50mg/day‡

経口強心薬

ピモベンダン EPOCH

実際使用量:2.5or 5.0mg/day

2.5〜5.0mg/day,1日2回に分け投与.

拡張機能障害に対する治療 2 - 2

不整脈の治療

2 - 3

(16)

)心房細動

血行動態が悪化したり(血圧が80 mmHg 以下),肺 うっ血をきたした心房細動では,直流通電により洞調律 化を図る.レートが早い場合はジギタリスが第一選択に なる60.しかしジギタリスによる洞調律化は期待できな い.WPW 症候群を合併した心房細動では,ジギタリス は禁忌である.β遮断薬では心室レートのコントロール は期待できるが,心不全例の心房細動での第一選択薬に はならない.カルシウム拮抗薬(ジルチアゼム,ベラパ ミル)も避ける60)

心房細動の停止にはナトリウムチャネル遮断薬が有効 であるが,心不全では解離速度の中等,ないしやや遅い ものを用い,ナトリウムチャネルとの解離が遅いため心 不全を悪化させる可能性の高いIc 群抗不整脈は避ける61)

再発予防に関して,キニジンの洞調律維持率はコント ロールに比べ有意に高いが,死亡率を高め予後を悪化さ せる62.アミオダロンが最も洞調律維持に優れているが,

本邦では肥大型心筋症に合併した心房細動でない限り保 険適応とならない.心房細動の予防法(根治術)として カテーテル・アブレーションによる左房と肺静脈の電気 的隔離法もあるが,主として器質的心疾患のない発作性 心房細動が対象となり,心不全例での試みはない.

¤)心房粗動

治療は心房細動に準じる.心機能低下例ではジゴキシ ンを用いる.カテーテル・アブレーションによる根治を 考慮する.

)発作性上室頻拍

停止はジゴキシン,ベラパミル,ジルチアゼムまたは ATP 剤で房室伝導を抑制することで可能であるが,血 行動態の増悪に注意する.副伝導路が関与する房室回帰 頻拍では,Ic 群以外のI 群抗不整脈薬を用いる.WPW 症候群で心房細動・粗動合併例においては,ジギタリス,

ベラパミル,ジルチアゼムは禁忌である.頻拍の再発予 防にはカテーテル・アブレーションが有効で,心不全を きたす例では積極的に考慮する.

)心室性不整脈・心室頻拍・心室細動

無症候性の期外収縮や非持続性心室頻拍は積極的には 治療しない61

症候性の非持続性心室頻拍で,数拍の洞調律を挟んで 頻発し(インセサント型),心不全を悪化させる例では 治療を要する63).心機能の悪化をきたしにくいIb 薬(メ キシレチン)やアミオダロン(本邦では保険適応外)が

適応になる.しかしこれらの抗不整脈薬治療の予後改善 効果はまだ確定されていない.症例によってはカテーテ ル・アブレーションにより治療することが望ましい64). 持続性心室頻拍は専門医による有効な治療法の検討が 必要である65.心室性期外収縮が頻発(> 480個/48時 間)している例ではホルター心電図でその抑制(75 % 以上)をみる.ホルター心電図での評価は電気生理学的 検査の誘発阻止効果をみた場合と同等に抗不整脈薬の有 効性を知るのに有用である.dl−ソタロールはⅠ群薬に 比べて有効率は高いが非薬物療法も考慮する66).カテー テル・アブレーションで根治できる症例もあるが,基礎 疾患のある患者で生じる心室頻拍での有効性は乏しい59). 心室細動からの蘇生例や持続性心室頻拍例の再発予防に は,埋込型除細動器の長期成績が最も良い67,68).心不全 例でこれが困難な場合,アミオダロンの適応とする50). 心不全例におけるβ遮断薬(プロプラノロール,メト プロロール,ビソプロロール)は突然死を減少させ

42,43,57).アミオダロンは不整脈死や心臓死を減少させ

る可能性がある42,50)

2 )徐 脈

一過性の脳虚血症状や著しい徐脈(40/分以下)のため に心不全の悪化を伴う洞不全症候群や房室ブロックでは ペースメーカー治療が適応となる69).心不全例では心房 細動がない限り心房心室の同期ペーシング(DDD ペー シング)を行う.

心不全ではしばしば心室内伝導障害を合併し,左室は 非同期性収縮をきたす.この様な例では,収縮の遅延し た部位(左脚ブロック波形では左室後側壁など)からの ペーシングを右室ペーシングに加えて行う両室ペーシン グが左室収縮の再同期化に有効である(両室ペーシング または心臓再同期療法).

ClassⅠ

¡レートが早く血圧低下または肺うっ血を伴う心房細 動・粗動

¡発作性上室頻拍・WPW 症候群

¡頻発し心不全を増悪する非持続性心室頻拍

¡持続性心室頻拍

¡心室細動

¡高度(<40/分以下)の徐脈または心停止でペーシン グ実施前

(洞停止,洞徐脈または房室ブロック)

不整脈の薬物治療の適応

参照

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