マルコフモデルを用いた高校バレーボールのチーム力の分析
11D8103001F 及川 雄樹
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室 2015年3月
要約:本研究の目的は,バレーボール試合のデータ からマルコフモデルを作成し,シミュレーションを 行い,そして,シミュレーションの結果からチーム の特徴や試合を分析し,チームがより強くなるため に改善すべき点を示すことである.
キーワード:バレーボール,マルコフモデル 1.はじめに
近年,データバレーの普及により,体格差を情報 で覆してしまう試合が多くみられる.
そこで,本研究ではバレーボールの試合のモデル を作成し,試合の分析を行う.
2.使用データ 2.1 VISデータ
VISデータは,各国代表チームの間で行われる公 式試合において記録されるデータである.現在のデ ータは,集計結果のみであるが,本研究では,以前 使用されていたプレーごとに記録されている形式を 用いる.
2.2 VISデータの高校バレーボールへの適用 本研究で使用するデータは,第67回全日本バレ ーボール高等学校選手権岩手県予選会で行われた中 の,4試合9セットである.本研究で使用するプレ ーの分類を表1で示す.
表1 本研究で使用するプレーの分類
3.マルコフモデルを用いたチーム力の分析 3.1.1 マルコフモデルと推移確率行列
マルコフ連鎖は,マルコフ性をもった状態空間が 離散的な確率過程である.マルコフ連鎖は,状態𝑖か ら状態𝑗へ推移する確率𝑝𝑖𝑗を行列の形に並べた推移 確率行列𝑃によって推移の構造を表現することがで きる.
3.1.2 高次の推移確率と時点𝒏における状態確率 時点𝑛(𝑛 = 0,1,2,・・・)で状態𝑖にいたとき,𝑚ステッ プ(𝑚 = 1,2,・・・)の推移の後,時点𝑛 + 𝑚で状態𝑗にい る確率𝑝𝑖𝑗(𝑚)は,
𝑝𝑖𝑗(𝑚)= ∑ 𝑝𝑖𝑘(𝑚−1)𝑝𝑘𝑗(𝑁は状態数)
𝑁
𝑘=1
(1) で与えられる.図(1)を推移行列で表すと
𝑃(𝑚)= 𝑃(𝑚−1)𝑃 = ⋯ = 𝑃𝑚 (2) となる.
時点𝑛で状態𝑖にいる確率を𝑞𝑖(𝑛) = 𝑃{𝑋𝑛= 𝑖}とし,
𝑞𝑖(𝑛)を行ベクトルの形に並べた
𝜋(𝑛) = (𝑞1(𝑛), 𝑞2(𝑛),・・・, 𝑞𝑁(𝑛) (3) を時点𝑛における(状態確率)分布という.特に,𝑛=0 のときの分布𝜋(0)を初期分布という.
3.1.3 吸収的マルコフ連鎖
吸収的マルコフ連鎖は,一度その状態に推移した らいつまでもその状態に留まる吸収状態と,それ以 外の一時的状態の2種類の状態をもつマルコフ連鎖 のことである.
吸収確率:状態𝑖から出発したマルコフ連鎖がいつか は状態𝑗に推移する(すなわち吸収される)確率. 3.2 バレーボールマルコフモデル
3.2.1 状態空間の定義
ラリーにおけるプレーをサーブ,サーブレシーブ,
トス,アタック,チャンスボールの処理,スパイク レシーブ(つなぎのプレー),ブロックと分割し,各 プレー間の行き来する回数を数える.また,各チー ムのプレーから得点,失点に至る回数も数える(以後,
ボールデッドという).以上に基づいて状態数が18 個の状態空間を定義する.
3.2.2 推移確率行列の決定
3.2.1項に基づいてデータの集計を行う.集計結果
から推移確率行列𝑃を求める.本項で得た集計結果 を行列𝐷,要素を𝑑𝑖𝑗とし,𝑖行の行和𝑠𝑢𝑚𝑖を求める.
以上より, 𝑃の各要素𝑝𝑖𝑗は
𝑝𝑖𝑗 = {
𝑑𝑖𝑗
𝑠𝑢𝑚𝑖(0 ≤ 𝑖 ≤ 13,0 ≤ 𝑗 ≤ 17) 1 (14 ≤ 𝑖 ≤ 17,0 ≤ 𝑗 ≤ 17, 𝑖 = 𝑗) 0(14 ≤ 𝑖 ≤ 17,0 ≤ 𝑗 ≤ 17, 𝑖 ≠ 𝑗)
(4)
と表される.
3.3 試合のシミュレーション 3.3.1 シミュレーションの設定
試合のシミュレーションは以下のルールに従って 実行する.
1セットで25点先取したチームがその試合の 勝者となる(デュースを含む).
1試合3セットマッチで2セット先取したチー ムがその試合の勝者となる.
タッチネットなどの反則は考えない.
次に,シミュレーションでは,状態空間の推移は 乱数を用いて決定する.吸収状態からモデルを再開 するときの初期状態は直前の吸収状態によって定め る.シミュレーションの流れを図1に示す.
図1 シミュレーションの流れ 3.4 シミュレーション結果の分析
3.4.1 実際の試合結果との比較
表2はIt高校,I高校のシミュレーション200セ ットの結果である.実際の試合結果に近いため,モ デルの整合性が高いことを示している.
表2 It高校とのシミュレーション結果
表3 I高校とのシミュレーション結果
3.4.2 試合の分析および改善点の分析
今大会S高校が行った4試合の得失点への吸収確 率をもとに試合の分析を行う.表3は今大会唯一敗 北したI高校との試合における吸収確率である.
4試合を通じて,S高校は,ブロックとスパイク レシーブからA{LOST},すなわち失点に吸収される 確率が高かった.そのため,ブロックやスパイクレ シーブの技術を向上させ,失点を減らし,次のプレ ーや得点へつなげる必要がある.また,準々決勝,
準決勝では,相手チームよりアタックを決めきる力 (A{GET}へ吸収される確率)が劣っていたことがわ かった.このことから,コースを狙う攻撃やフェイ ントを交えた攻撃だけでなく,コンビプレーや速攻 を取り入れることでアタックを決めきる力を強化す る必要がある.
表4 I高校との試合における吸収確率
3.5 推移確率を変化させた場合のシミュレーショ ン
3.4.2 項より S 高校が改善するべき点が判明した
ため,以下の設定でS高校がI高校に勝利できるか シミュレーションを行う.
設定1 S高校のスパイクレシーブから失点へ推移 する確率を減少させ,トスへ推移する確率を上昇さ せる.
設定2 ブロックから失点へ推移する確率を減少さ
せ,得点へ推移する確率を上昇させる.
設定3 スパイクから失点へ推移する確率を減少さ
せ,得点へ推移する確率を上昇させる.
表4はS高校のセット取得数を表している.行は スパイクからの失点へ推移する確率,列はスパイク レシーブ,ブロックから失点へ推移する確率を表し ている.セット取得数5割を超すパターンは3つ作 ることができた.
ブロック,スパイクレシーブ,アタックはラリー 中に起こるプレーのため,練習にラリー形式を取り 入れる.I 高校との試合では相手のアタックから失 点してしまうことが多かったため,強敵を想定し,
相手の攻撃からスタートする.このようなラリー形 式を取り入れ,ブロック,スパイクレシーブ,スパ イクをより実戦に近い形で強化するという練習方法 が効果的であると考える.
表5 複合シミュレーションセット取得数
4.おわりに
マルコフモデルを用いることでバレーボールの試 合を再現することができた.また,吸収確率を用い て,チームの特徴を分析し,S高校がI高校に勝利 するための要因を考察した.
参考文献
[1] 小池光太郎,田口東,マルコフモデルを用い たフットサルの試合分析,オペレーションズ リサーチ,vol.51,no.6,pp.334-339,2006.
[2] 長野光,高校バレーボールにおける選手の評 価とチーム力の分析,中央大学理工学部情報 工学科卒業研究論文,2007.