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ま え が き
本書は大学や高専の理工系学部等の,主に化学系の学科・専門課程で学ぶ 学生のための,有機工業化学の教科書・参考書として書かれたものである.
企業の技術者のための参考書と しても役立つものと思う.
有機工業化学は工業的に生産される有機物質の化学である.そこでは生産 の過程に沿って,資源→中間原料→目的物質の流れの中でそれぞれにおいて 使われる有機化学反応が位置づけられる.したがって有機工業化学の教科書 では, ① 有機資源, ② 資源から中間原料へ, ③ 中間原料から目的物質へ,
の過程を主題とし,ほぼこの順に扱われる.本書もそのような構成になって いる.
この中で,石炭,石油のような天然の資源は,複雑な構造であったり多種 類の物質の混合物であったりして,基礎的な有機化学の主な対象である単一 の物質とは趣を異にする.そのような複雑な組成・構造の資源を単純な構造 の中間原料へと変換する過程に一つの重点が置かれるのが,有機工業化学の 特徴である.
一方,生産される目的物質は必要とされる性質によって分ける.有機工業 化学の対象となる主なものには,色を利用する物質 (染料), 界面活性を利 用する物質(界面活性剤).香りを利用する物質(香料).薬理活性を利用す る物質 (医薬 ・農薬).そして力学的性質を利用する物質(高分子材料)があ る.これらの物質の合成においては精密な有機化学の知識が駆使されること も多い.
既刊の有機工業化学の教科書では,これらの多岐にわたる内容をそれぞれ の専門家が分担執筆したものが多いが,本書では全体の流れを重視し,また 各事項の相互の関係をなるべくわかりやすくするために,あえて一人の著者
『化学の指針シリーズ有機工業化学~ (井 上 祥 平 著/裳撃房)
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が執筆することとした.
本書では上記の目的物質の大部分を扱っているが 高分子材料についての 独立の章は,本書がシリーズの一冊として紙数が限られていることもあり,
設けていない.有機工業化学製品のうちで高分子材料は生産量が格段に大き し 高 分 子化学は基礎,応用の両面で独自性の高い分野となっており,教科 書がいくつも出版されている.
医薬 ・農薬には多様な合成物質があるが,それぞれの合成ルー トを書いて も, 一部の群を除いては,統一的な見方は提供できない.そこで既刊の有機 工業化学の本の多くでは,多種類の医薬・農薬を効能別に分類し,それらの 構造式を枚挙するにとどめている.本書ではそうではなく,構造と活性の相 関,作用機構,合成法などが知られた例をいくつか挙げて解説した.医薬 ・ 農薬には個性的なものが多く,その発見の歴史などにも触れた.
本書のもう一つの特徴は,最後に有機工業化学製品の製造プロセスおよび 製品自体と環境との関係を考える章を設けたことである.目的物質の製造プ ロセスには必ず排出物が伴い,製品は使用後いつかはごみとして捨てられる.
これらについて考えることも,化学者, 化学技術者の責務である.
本書の執筆に当たっては多くの著書,文献を参考にさせていただいた.い くつかの図表は巻末の「図表出典Jに記した文献から,許可を得て転載した.
また出版にあたり(株)裳華房の小島敏照氏や編集部の方々には多大のご尽 力をいただいた.あわせて心から御礼を申し上げる.
2008年9月
井 上 祥 平