北海道の雪氷 No.35（2016）
Copyright © 2016 公益社団法人日本雪氷学会北海道支部
- 39 -
近 年 実 施 し た 広 域 積 雪 調 査 に 基 づ く 道 央 ・ 道 東 地 域 の 積 雪 水 量 分 布 の 特 徴
Characteristics of spatial distribution of snow water equivalent based on the recent snow surveys, central and eastern Hokkaido
白 川 龍 生 （ 北 見 工 業 大 学 ） Tatsuo Shirakawa
１ ． は じ め に
本 研 究 は ， 北 海 道 の 道 央 ・ 道 東 地 域 に お け る 計 32 点 で 実 施 し た 2013/2014 以 降 の 3シ ー ズ ン の 広 域 積 雪 調 査 と ， 同 地 域 で 実 施 さ れ た 先 行 研 究 1),2)と の 比 較 を 通 じ ， 近 年 の 積 雪 水 量 分 布 の 特 徴 を 考 察 し た も の で あ る ．
北 海 道 の 平 地 に お け る 2 月 下 旬 か ら 3 月 上 旬 の 時 期 は ， 融 雪 流 出 直 前 期 に あ た り ， 積 雪 水 量 が 最 大 に 近 い こ と か ら ， 冬 季 の 積 雪 の 特 徴 を 広 域 で 把 握 す る の に 適 し た 時 期 と さ れ て い る ． 降 水 量 や 積 雪 深 は 気 象 官 署 や ア メ ダ ス に よ っ て 連 続 的 な デ ー タ が 収 集 さ れ て い る が ， 積 雪 は 堆 積 直 後 か ら 圧 密 沈 下 や 変 態 に 伴 っ て 密 度 が 変 化 す る た め ， 積 雪 を 量 的 に 把 握 す る た め に は 積 雪 水 量 の 分 布 を 把 握 す る 必 要 が あ る ．
近 年 ， 発 達 し た 低 気 圧 の 接 近 や 通 過 に 伴 い ， 北 海 道 東 部 地 域 で は 暴 風 雪 ・ 大 雪 に よ る 災 害 の 発 生 頻 度 が 増 加 す る な ど ， 雪 氷 環 境 に 変 化 が み ら れ る ． 筆 者 は ，2012年 2 月 か ら 3月 に か け て 日 本 雪 氷 学 会 北 海 道 支 部 の 雪 氷 災 害 調 査 チ ー ム に よ る「2011-2012年 冬 期 に 北 海 道 岩 見 沢 市 を 中 心 と し て 発 生 し た 大 雪 」 の 調 査 に 参 加 し ， 空 知 地 方 か ら 道 東 地 域 に か け て の 広 域 積 雪 調 査 を 分 担 し た 3)．こ の 調 査 を 契 機 に ，石 狩 山 地・夕 張 山 地 を 境 と す る 道 央・道 東 地 域 計 32地 点 で の 広 域 積 雪 調 査 を 開 始 し た（2013年 の 試 行 を 経 て ，2014年 よ り 開 始 ）．こ れ ま で に ，同 時 期 に 同 地 点 で 実 施 し た3冬 期 分 の 調 査 結 果 が 得 ら れ た こ と か ら ， 本 研 究 で は こ の 調 査 結 果 を 踏 ま え て 同 地 域 に お け る 積 雪 水 量 分 布 の 特 徴 に つ い て 考 察 し た ．
２ ． 調 査 内 容
今 回 の 広 域 積 雪 調 査 は ，道 央・道 東 地 域 の 計 32地 点 で 実 施 し た（ 図1）．調 査 項 目 は ， 積 雪 深 ， 簡 易 層 構 造 お よ び 積 雪 水 量 の3 項 目 で あ る ．
各 年 の 調 査 実 施 日 は 以 下 の 通 り で あ る （ 地 点 別 の 詳 細 に つ い て は 表1に 記 し た ）．
（1）2014年 ：2/23, 2/26, 3/1, 3/2, 3/3, 3/4, 3/5, 3/9
（2）2015年 ：2/18, 2/19, 2/21, 2/22, 2/26, 2/27, 3/1, 3/2, 3/3, 3/4, 3/5
（3）2016年 ：2/19, 2/20, 2/21, 2/23, 2/24, 2/26, 2/28, 2/29
３ ． 調 査 結 果 お よ び 考 察
表 1 は ， 各 地 点 の 積 雪 深 お よ び 積 雪 水 量 の 測 定 値 を 整 理 し た も の で あ る ． こ の う ち 積 雪 水 量 に つ い て ，3冬 期 の 値 を 比 較 し た も の を 図2に 示 す ．ま た ，各 年 に お け る 積 雪 水 量 の 分 布 状 況 を 図 3に 示 す ．積 雪 水 量 の 特 徴 と し て ，2014年 は 空 知 管 内 の 値 が 高 く ， 道 東 各 地 の 値 が 低 か っ た ． こ れ は 北 海 道 に お け る 典 型 的 な パ タ ー ン と 考 え ら れ る ． 一 方 ，2015年 は 道 東 ， 特 に 中 標 津 ・ 中 茶 安 別 な ど 根 室 管 内 ， 置 戸 ・ 北 見 な ど オ ホ ー ツ ク
北海道の雪氷 No.35（2016）
Copyright © 2016 公益社団法人日本雪氷学会北海道支部
- 40 -
図 1
広 域 積 雪 調 査 の 調 査 地 点 （ 道 央 ・ 道 東 地 域 の 計 3 2地 点 ）表 1
広 域 積 雪 調 査 結 果 （ 積 雪 深 ・ 積 雪 水 量 , 2 0 1 4 － 2 0 1 6 ）積雪深 (cm)
積雪水量 (mm)
調査日 積雪深
(cm)
積雪水量 (mm)
調査日 積雪深
(cm)
積雪水量 (mm)
調査日
1 留萌 48 142 3/4 89 330 2/21 24 91 2/20
2 秩父別 151 519 3/4 83 252 2/21 96 317 2/20
3 滝川 111 366 3/1 82 281 2/21 101.5 345 2/20
4 奈井江 93 311 3/1 68 249 3/1 110 467 2/20
5 岩見沢 119 426 3/2 61 259 3/1 90 349 2/19
6 野幌 91.5 327 3/2 60 256 3/1 44.5 159 2/19
7 千歳 56 152 3/3 28 119 3/2 28.5 155 2/19
8 夕張 61 177 3/3 59 219 3/2 32 80 2/19
9 占冠 83 230 3/3 114 307 3/3 68.5 211 2/28
10 富良野 52 152 3/3 38.5 107 2/21 65.5 194 2/29
11 旭川 94 305 3/1 48.5 159 2/22 87 303 2/20
12 上川 78 199 3/4 63 191 2/22 85 279 2/20
13 白滝 63 145 2/23 68 162 2/22 86 193 2/21
14 遠軽 80 152 2/23 87 210 2/22 92.5 246 2/21
15 湧別 56.5 111 2/23 45.5 136 2/18 70 162 2/21
16 常呂 37 91 2/26 51 175 2/18 53 137 2/23
17 置戸 60.5 146 3/5 132 273 3/4 89 230 2/26
18 北見 60 141 2/26 128 249 3/4 82.5 237 2/28
19 津別 69.5 162 3/9 95.5 197 2/26 96 266 2/23
20 東藻琴 67 157 2/26 86 173 2/19 81 246 2/23
21 斜里 73 193 2/26 61 191 2/19 61.5 162 2/23
22 陸別 55.5 112 3/5 115 218 3/4 73 196 2/26
23 足寄 10 61 3/5 58 127 3/4 19 93 2/26
24 上士幌 25 54 3/5 78 127 3/4 19 73 2/28
25 池田 15.5 46 3/5 64 165 3/3 32.5 120 2/26
26 帯広 12 93 3/5 57 113 3/3 62.5 155 2/26
27 中札内 52 111 3/5 111 233 3/3 64 160 2/26
28 阿寒 19 50 3/9 46 122 2/26 39 100 2/24
29 釧路 21.5 60 3/9 10 38 2/27 25.5 65 2/24
30 虹別 13.5 32 3/9 106 297 3/5 58.5 189 2/24
31 中茶安別 25 50 3/9 122 351 3/5 42.5 121 2/24
32 中標津 43 120 3/9 172 457 3/5 70 173 2/24
No. 観測点
2014年 2015年 2016年
北海道の雪氷 No.35（2016）
Copyright © 2016 公益社団法人日本雪氷学会北海道支部
- 41 -
図 2
各 年 に お け る 積 雪 水 量 の 比 較 （ 2 0 1 4 － 2 0 1 6 ）( a )
2014年（ b ）
2015年( c )
2016年図 3
各 年 に お け る 積 雪 水 量 の 分 布 状 況 （ 2 0 1 4 － 2 0 1 6 ）凡 例
道 東 道 央
北海道の雪氷 No.35（2016）
Copyright © 2016 公益社団法人日本雪氷学会北海道支部
- 42 -
管 内 の 値 が 高 く ， 道 央 で は 多 く の 地 点 で 前 年 の 値 を 下 回 っ た ．2014/2015 シ ー ズ ン は ， 急 速 に 発 達 し た 低 気 圧 が 道 東 地 域 を 計13回 に わ た り 通 過 ま た は 接 近 し て お り ，そ れ に 伴 う 暴 風 雪 の 影 響 と 考 え ら れ る ．2016 年 は 2014 年 と 類 似 し て い る が ， 道 東 地 域 で は 斜 里 を 除 き 2014年 に 比 べ 高 い 値 を 示 し た ．
各 観 測 点 に お け る 積 雪 深 と 積 雪 水 量 の 関 係 を 図 4 に 示 す ． 積 雪 深 と 積 雪 水 量 の 関 係 は ，道 央・道 東 い ず れ も 先 行 研 究1),2)と 同 様 の 傾 向 を 示 し た が ，道 東 地 域 の 観 測 点 で は ， こ れ ま で の 事 例 に 比 べ 積 雪 深 ・ 積 雪 水 量 の 値 が 高 い 場 合 が 見 ら れ た ．
図 4
各 観 測 点 に お け る 積 雪 深 と 積 雪 水 量 の 関 係 （ 2 0 1 4 － 2 0 1 6 ）４ ． ま と め
2014年 ～2016年 の 広 域 積 雪 調 査 デ ー タ か ら ， 積 雪 水 量 分 布 に 見 ら れ る 特 徴 に つ い て 考 察 し た ． 道 東 地 域 で は 急 速 に 発 達 し た 低 気 圧 と そ れ に 伴 う 暴 風 雪 の 影 響 に よ り ， 積 雪 深 ・ 積 雪 水 量 と も に 年 次 変 動 の 大 き い 場 合 が 見 ら れ た ． こ れ は ， 近 年 の 温 暖 化 に 伴 う 雪 氷 環 境 の 変 化 が 表 れ て い る 可 能 性 も あ り ， 今 後 の 分 析 を 要 す る ．
謝 辞
3冬 季 の 広 域 積 雪 調 査 を 実 施 す る に あ た り ， 敷 地 内 で の 調 査 を 許 可 し て 下 さ っ た 各 地 の 皆 様 に お 礼 申 し 上 げ ま す ．2014年 お よ び2015年 の 調 査 に つ い て は ，小 倉 美 紀 氏（ 株 式 会 社 ネ ク ス コ ・ エ ン ジ ニ ア リ ン グ 北 海 道 ， 当 時 ： 北 見 工 業 大 学 大 学 院 生 ） の 協 力 を 得 ま し た ．こ こ に 記 し ，謝 意 を 表 し ま す ．ま た ，本 研 究 の 一 部 は ，科 学 研 究 費（ 基 盤 研 究(C), 課 題 番 号 ：15K06679） の 助 成 を 受 け 実 施 し た も の で す ．
【 参 考 ・ 引 用 文 献 】
1） 例 え ば ，石 井 吉 之 ，秋 田 谷 英 次 ，1991: 北 海 道 内 の 広 域 積 雪 調 査－1991年 2 月 － ， 低 温 科 学 物 理 編 資 料 集 ，50，9-24．
2） 八 久 保 晶 弘 ，尾 関 俊 浩 ，山 田 高 嗣 ，山 田 知 充 ，2002：北 海 道 東 部 の 積 雪 堆 積 環 境, 北 海 道 大 学 地 球 物 理 学 研 究 報 告, 65, 79-92.
3） 白 川 龍 生 ， ヌ ア ス ム グ リ ア リ マ ス ， 八 久 保 晶 弘 ， 荒 川 逸 人 ， 野 口 泉 ， 尾 関 俊 浩 ， 中 村 一 樹 ，2012：2011-2012 年 冬 期 に 北 海 道 岩 見 沢 市 を 中 心 と し て 発 生 し た 大 雪 に つ い て （ そ の4）―広 域 積 雪 調 査―， 北 海 道 の 雪 氷 ，31，127-130.
