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遊びにおける幼児の能力の見取りが教育実践の捉え方に与える影響

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『就実教育実践研究』第14巻 抜刷

就実教育実践研究センター 2021年 3 月31日 発行

遊びにおける幼児の能力の見取りが 教育実践の捉え方に与える影響

─ 幼稚園教師と小学校教師による 幼小接続期5歳児の見取りに着目して ─

The influence of Teacher's Interpretation of Infant's Ability in play on Their view of Educational practice.

─ Focusing on the interpretation of five-year-old children during the transition from kindergarten to elementary school

by kindergarten and elementary school teachers. ─

池 田 明 子 ・ 上 田 紋 佳 ・ 柏原真由美 ・ 中山芙充子

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就実教育実践研究 2021,第 14 巻

遊びにおける幼児の能力の見取りが 教育実践の捉え方に与える影響

― 幼稚園教師と小学校教師による 幼小接続期 5 歳児の見取りに着目して ―

池田明子(就実短期大学),上田紋佳(北里大学),柏原真由美(三原市立大和小学校),

中山芙充子(広島大学附属三原幼稚園)

The influence of Teacher's Interpretation of Infant's Ability in play on Their view of Educational practice.

― Focusing on the interpretation of five-year-old children during the transition from kindergarten to elementary school

by kindergarten and elementary school teachers. ―

Akiko IKEDA(Shujitsu Junior College),Ayaka UEDA(Kitasato University),

Mayumi KASHIWABARA( Daiwa Elementary School ),and Fumiko NAKAYAMA(Hiroshima University Kindergarten , Mihara)

抄録

幼児期からの能力の育成が求められているが,幼小接続期においては重視する能力や能 力の捉え方に相違があると考えられる。幼稚園教師と小学校教師の幼小接続期 5 歳児の能 力の捉え方の特徴と教育実践の捉え方について,能力の観点から見た遊びの見取りチャー トの活用とインタビュー調査を行った。その結果,遊びの中で重視される能力や,能力の 育成を主眼においた教育実践の捉え方等が明らかになった。

キーワード:幼児の能力,見取り,幼小接続

Ⅰ,研究の背景と目的

人生で成功するかどうかは,認知的スキルだけではなく,非認知的な要素,すなわち肉 体的・精神的健康や,根気強さ,注意深さ,意欲,自信といった社会的・情動的性質も欠 かせず,それは幼少期に発達するという経済学者による縦断研究(Heckman,2015)や,

幼児期の質の高い保育が,その後の子どもの人生や社会に貢献するという示唆(OECD,

2011)にあるように,幼児教育の重要性が世界的に注目されるようになってきて久しい。

世界的な幼児教育重要視の動向,また日本における様々な社会問題を背景として,2017年 に幼稚園教育要領,保育所保育指針,幼保連携型認定こども園教育・保育要領は同時に告 示され,どの施設においても質の高い幼児教育,つまり社会に対応する資質・能力を幼児

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教育から育成することが求められるようになってきている(無藤,2017)。この育成すべ き資質・能力とは,「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性等」

であり,これらは幼児教育から高等学校までを通じて系統的に育成することが求められ,

またそのために各校園種間の学びの連続性が確保できるよう,円滑な接続がより一層求め られるようになってきている(文部科学省,2015)。この円滑な接続を強化するために,

2017年度に告示された幼稚園教育要領等では,「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の 姿」が示された。同様に2017年に告示された小学校学習指導要領では,教育課程の編成に 当たって,幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を踏まえた指導を工夫することにより,

幼児期の教育を通して育まれた資質・能力を踏まえて教育活動を実施することが求められ ている。

このような中央教育審議会による論点整理や幼稚園教育要領・小学校学習指導要領改訂 に伴い,各自治体及び各校園ごとに幼小接続期カリキュラムが編成されている。例えば,

岡山県教育委員会(2016)の保幼小接続スタンダードでは,接続期に育てたい 3 つの力と して,生活する力(運動・生活習慣・安全・食育),人とかかわる力(自己発揮・共生・

規範),学ぶ力(思考・言葉・数・探究心)をあげている。広島県教育委員会(2017)の 幼保小接続カリキュラムでは,乳幼児期に育みたい 5 つの力として,感じる・気付く力,

うごく力,考える力,やりぬく力,人とかかわる力をあげている。横浜市(2018)の接続 期カリキュラムでは,スタートカリキュラムで育てたい子どもの姿として,安心して自己 発揮しやりたいことに向かってがんばる子ども,新しい学級や学校のルールを受け入れ,

学級の一員として協同的に活動できる子ども,幼児期の学びを生かして,自己肯定感を 高め,主体的に学習に取り組む子どもの 3 点をあげている。このように,幼小接続期を つなぐ柱となる子どもにつけたい力の捉え方は各自治体や各校園ごとに多様であること が分かる。

一方,幼小接続期における能力に関しては次のような先行研究が見られる。中澤・中道

(2010)は,幼稚園 5 歳児担任教師と小学校 1 年生学年主任等対象の質問紙調査を実施し,

保育者は子どもの主体性を,小学校教師は自己制御力を重視していることを明らかにし,

幼小接続期において保育者と小学校教師では求める能力が違うということを指摘してい る。山田・大伴(2010)は,保育者と小学校教師対象に「自立する姿」の捉えに関する質 問紙調査を実施した結果,保育者は接続期を意識して時間に見通しをもつことや自分で持 ち物を扱うこと,友達とのトラブルを自分たちで解決する事等,幼児が自らの力でより生 活全般に取り組む姿を自立の姿として捉えている。しかし,小学校教師は接続期への意識 よりも,新しい生活の基盤を身につける姿などを自立の姿として捉えていることを明らか にしている。また,小橋・佐藤・槇(2019)は,造形表現活動を通して育てたい力につい て保育園保育士と小学校教師を対象に質問紙調査を実施した結果,小学校教師は「はさみ やのりの使い方」等知識・技能を重視し,保育士は学びに向かう力や思考力・判断力・表 現力を重視していることを明らかにしている。また,知識・技能については,保育士は幼

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児の技術のみではなく表現する楽しさとの関連を含めて捉えているが,小学校教師は日常 生活や他の授業でも使う基本的な知識・技能を重視しており,同じ知識・技能の枠組でも 捉え方が異なることを指摘している。このように,幼小接続期において保育者と小学校教 師では求める能力に相違があったり,同様の能力を扱っているようでも,保育者と小学校 教師では能力の捉え方に相違があったりすることが分かる。更に,西坂・岩立・松井(2017)

は,これまで幼児教育で重視されてきた心情・意欲・態度が能力の育成に寄与していると いうことに保育者自身があまり意識していないことを指摘している。

つまり,幼児期からの能力の育成がより重要視されるようになってきている中で,保育 者自身がこれまでも幼児の能力を育成しているということをあまり意識していないこと に加えて,幼小接続期においては保育者と小学校教師で重視する能力や能力の捉え方に相 違があるということが問題点としてあげられる。したがって,保育者が幼児の能力を具体 的に見取る保育実践の方策を明らかにすることが必要である。また,特に幼小接続期にお いて保育者と小学校教師双方で重視する能力や能力の見取り方を明確にすることが必要 である。

以上のことから,本研究は保育者と小学校教師が幼小接続期 5 歳児の能力をどのように 見取るのかを検討し,その能力の見取り方が教育実践の捉え方に与える影響を明らかにす ることを目的とする。なお,これまでは保育実践者として保育者と記述してきたが,その 中の幼稚園教師を対象に研究を進めるので,今後は幼稚園教師として記述することとする。

具体的には,県からの派遣で 1 年間幼稚園 5 歳児で研修している小学校教師と,研修先の 幼稚園 5 歳児担任を対象にしたインタビュー調査により, 5 歳児の能力の捉え方の特徴を 明らかにするとともに,能力の見取りが教育実践の捉え方にどのような影響を及ぼすかと いうことについて検討する。

幼児期の能力の捉え方について,西坂等(2017)は,幼児の能力は,様々な能力が関連 し合って,幼児の生活全体の中で育成されていくので,幼児の能力をより全体的に捉える 視点が必要になるということを指摘している。このことをふまえ,池田(2018)は幼小接 続期に必要な能力として「自発性」「有能感・有用感」「道徳性」「メタ認知」「自己制御力」

「思考力」「感覚・知覚」「運動技能」「言語能力」「表現力」をあげている。本研究では,

池田(2020)が開発した能力の具体的な内容をふまえた遊びの見取りチャートを活用する こととする。

Ⅱ,方法

1 ,能力の観点から見た遊びの見取りチャート作成及びインタビュー調査対象者 幼稚園教師 5 歳児担任 1 名,県からの派遣でスタートカリキュラム作成を目的として 1 年間幼稚園 5 歳児クラスで研修している小学校教師 1 名である。

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2 ,能力の観点から見た遊びの見取りチャート 1 ),能力の観点から見た遊びの見取りチャートの概要

遊びの見取りチャートは,5 歳児を対象として「見取りの具体的な観点」「関係する能力」

「能力からみた支援の観点」を示したもので,その観点に基づきながら教師がある遊びに おける「予想される具体的な幼児の姿」や,「重視する具体的な支援」を書き込むことが できるようになっている。見取りチャートの一部を表 1 に示す。

表 1  能力の観点からみた遊びの見取りチャートの概要 見取りの具体的な観点 関係する能力 能力からみた支援の観点

・自分から取り組む

・達成感を味わう

自発性 自ら積極的にかかわれるよう,認めたり,見守ったりする。

有能感 有用感

粘り強く取り組み,達成感・満足感を味わえるようにし,

励ましたり,共感したりする。

・周囲の状況を感じとりな がら,自分なりの課題を 意識して行動する

自己制御力 メタ認知

周囲の状況を感じ自分なりの課題を意識して行動でき るよう,投げかけたり共に考える場を設けたりする。

・生活や遊びのルールを  理解する

・相手に共感する

道徳性 共感性

相手を思いやったり,生活のルールの大切さに気づい たりできるよう,相手に共感したり,問いかけたりする。

・身近な物や事象の特徴や 変化を様々な感覚を通し て感じる・気づく

感覚・知覚 身近な物や事象に様々な感覚を通して感じるような環境 を構成したり,寄り添って共にじっくりかかわったりする。

思考力 自分なりの課題に工夫して取り組めるような環境を構 成したり,気づきを認めたりする。

・相手に分かりやすく  伝える

・工夫してあらわす

言語能力 言葉で伝える喜びが味わえるよう,じっくりと聴いたり,

会話をつなげたりする。

表現力 工夫して表現できるよう,認めたり,他者の表現に ふれる場を設けたりする。

・身体を多様に調整しなが

ら動かす 運動能力 身体を多様に動かすことができるような環境を構成し たり,励ましたりする。

2 ),能力の観点から見た遊びの見取りチャート活用の手順

2020年 9 月10日に能力の観点からみた遊びの見取りチャートの記入例に基づきながら,

幼児の能力の具体的内容やチャートの書き方についての説明を行った。チャートを記入す るに当たっては次の 3 点の手順で進めていただくよう依頼した。①幼稚園教師・小学校教 師で能力の見取りをしたい遊びを選択し,各自で実際の遊びの前に予測する幼児の姿や支 援について黒字で記入する。②実際に遊びを見取った後に自分自身で気がついたことや幼 稚園教師・小学校教師との話し合いで分かったことなどを赤字で記入する。③実際の遊び を見取った後の幼稚園教師・小学校教師との話し合いの中で捉え方の違いを感じたことに ついては青字で記入する。なお,能力の見取りをしたい遊びとしては,幼小接続に関連の 深い小学校生活科で扱う自然とのかかわりに関する遊びに焦点をあてることとした。

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3 ,インタビュー調査の内容

2020年10月30日,11月24日,12月25日の 3 回にわたり,約90分間程度,インタビューガ イド(表 2 )に基づく半構造化面接を 2 名に対して実施した。データについては,対象者 の了承を得たうえで,ICレコーダーに録音し,逐語記録に起こした。

表 2  インタビューガイド

・「一つの遊びを能力ごとに見取り,支援を考えるチャートを作成されていかがでしたか?」

・「捉えやすかった能力・捉えにくかった能力がありましたか?あるとしたらどのような能力で したか?」

・「選んだ遊びの中で特に重視した能力は何でしたか?」

・「先生方それぞれでチャート記入後にお話をされて,能力の捉え方がよく似ていると思ったと ころ,違うなと思った所はありましたか?あるとしたらどのようなことですか?」

・「先生によって具体的な支援の部分が違うとして青字で書かれているところを具体的に教えて ください。」

・(小学校教師に対して)「小学校を担任していた時と子どもの能力について捉え方もしくは重 視している所が似ている所・違う所はありますか?あるとしたらどのようなことですか?」

・「先生方お二人で話されて,今後の実践において具体的な支援の仕方を工夫したらよいと思わ れることはありますか?」

( 2 回目に追加した項目)

・「先生方お二人で話されて,今後の実践において具体的な支援の仕方を工夫したらよいと思わ れることはありますか?」

・能力を意識して支援する工夫について

・幼稚園・小学校教師のそれぞれの話を聞いて,今後の実践に活かしたいと思ったこと

( 3 回目に追加した項目)

・「先生方お二人がお互いに影響し合ったことはどのようなことだと思いますか?」

・春から一緒にクラスに入っていることでの影響・相互作用

・これまでのインタビューでのやりとりによる影響・相互作用

Ⅲ,結果と考察

1 ,能力の観点から見た遊びの見取りチャートの活用について

インタビュー調査の際に話し合われた遊び,つまり幼稚園教師・小学校教師が実際に見 取りチャートを活用した遊びは表 3 のとおりである。

表 3  幼稚園教師・小学校教師が見取りチャートを活用した遊び インタビュー調査日 能力の見取りチャートを活用した遊び(記入日)

2020年

10月30日 ・どんぐりで遊ぶことに興味をもって始めたケーキ屋とネックレス屋( 9/28)

・粘土のケーキから発展したどんぐりのケーキ屋さんごっこ(10/14)

11月24日 ・できるようになりたいと何度も取り組んだこま回し(11/9 ) 12月25日 ・氷ができる感動体験から,自分でも始めた氷作り(12/20)

10月のどんぐりケーキ屋さんごっこは,幼児が園外保育で拾ってきたどんぐりをきっか けとして,様々な素材を利用してお店屋さんごっこに必要な売り物を作ったり,年下の子 どもたちがお客になってやりとりをしたりする遊びである。11月のコマ回しは毎年お正月

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遊びとして行っていた遊びであるが,粘り強く取り組むことを願って11月から取り入れた 遊びである。12月の氷遊びは急に寒くなった日の朝に,幼児が外の水道の水が出ないとい うことに気付き,そこから氷を作ろうということに発展していった遊びである。

2 ,インタビュー調査結果のカテゴリー化について

インタビュー調査の結果,インタビューガイドにある質問に対して,違う質問項目でも 内容が重複していることや,質問内容をきっかけに発展的な内容も含まれていることをふ まえ,新たに類似したものをまとめて見出しとした。そしてその見出しに該当する内容を 1 次カテゴリーとして列記し,更に類似したものを 2 次カテゴリーとして整理した。その 結果,幼稚園教師と小学校教師による 5 歳児の能力の捉え方について第 3 節に示し,能力 の見取りが教育実践の捉え方に与える影響について第 4 節に示す。

3 ,幼稚園教師と小学校教師による 5 歳児の能力の捉え方について

幼稚園教師と小学校教師とのインタビュー調査の結果のうち,幼稚園教師と小学校教師 による 5 歳児の能力の捉え方についてまとめたものを,表 4 ・表 5 に示す。

1 ),遊びの中で見られた幼児の姿や重視する能力

能力の観点から見た遊びの見取りチャートを活用した遊びに関して,実際に幼稚園教師 と小学校教師が捉えた幼児の姿や,その遊びの中で重視する能力についてまとめたものは 表 4 のとおりである。

表 4  遊びの中で捉えた幼児の姿や重視する能力

見出し 1 次カテゴリー 2 次カテゴリー

遊びの中で見ら れた幼児の姿や 重視する能力

・自発性・有能感・有用感 自発性・有能感・有用感

・感覚・知覚・思考力 ・柔軟に考える力

・自然物・自然事象への気付き

・試行錯誤等実体験を取り込みながらの気付き

感覚・知覚・思考力

・道徳性・共感性 ・友達との団結力・協同する力

・年下の幼児へのかかわり方の個人差 道徳性・共感性

・自己制御力・メタ認知 ・粘り強く取り組む力 自己制御力・メタ認知

・具体物をもって相手に伝える・聞く 言語能力・表現力

幼稚園教師と小学校教師による 5 歳児の能力の捉え方としては,遊びの特徴によって重 視する能力に相違は見られるが,自然とかかわる遊びにおいては,感動体験を伴う自発性・

有能感・有用感や感覚・知覚・思考力を土台としながら,粘り強く取り組む自己制御力・

メタ認知,多様な人間関係の中で育成される道徳性・共感性や相手に分かりやすく伝える 言語能力・表現力を重視しているということが分かった。また,能力を捉える際の留意点 として,次の 2 点のことがあげられる。 1 点目は遊びの特徴についてである。幼稚園教育 要領(文部科学省,2018)で示されているように,幼児期の遊びは保育の 5 領域のねらい が総合的に達成できるような指導を中心とするものであり,能力の育成においても総合的

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に育成されるものである。ただ,例えばお店屋さんごっこであれば,年下の子どもとのか かわりを通して自己制御力・メタ認知などが重視され,氷遊びでは感覚・知覚・思考力が 重視されるというように,遊びの特徴によって,重視される能力が違うということである。

2 点目は教師の意図によって能力の捉え方が変わる点である。11月のコマ回しでは,教師 としてはコマ回しを通して自発性・有能感・有用感,自己制御力・メタ認知を重視してい るが,遊びの見取りチャートを活用することによって,その他の能力についても着目する ことの必要性について捉えている。そのような意味では,教師は子どもの能力を捉える際 に,育成したい重視する能力があるのはもちろんだが,やはり教師の意図に偏らないとい う意味でも幼児に育まれようとする能力全体を見取る必要がある。

2 ),捉えやすい能力・捉えにくい能力

能力の観点から見た遊びの見取りチャートを活用する際に,幼稚園教師と小学校教師が 捉えやすいと感じた能力,捉えにくいと感じた能力についてまとめたものは表 5 のとおり である。

表 5  幼稚園教師・小学校教師による幼児の能力の捉え方

見出し 1 次カテゴリー 2 次カテゴリー

捉えやすい 能力

・感覚・知覚,思考力   ・運動能力

・道徳性・共感性     ・自己制御力・メタ認知 遊びによって捉えやすい能力

・自発性・有能感・有用感 ・言語能力 ・表現力 定義が分かりやすい能力 捉えにくい

能力

・感覚・知覚,思考力   ・運動能力 ・道徳性 遊びによって捉えにくい能力

・道徳性・共感性と自己制御力・メタ認知の区別

・メタ認知 定義が分かりにくい能力

幼稚園教師と小学校教師は,自発性・有能感・有用感や言語能力・表現力に関しては幼 児の姿から捉えやすいと感じ,感覚・知覚・思考力,運動能力,道徳性,自己制御力・メ タ認知は捉えやすさと捉えにくさの両面を感じていることが分かった。感覚・知覚・思考 力については,小学校教師が10月のどんぐりケーキ屋さんごっこでの幼児の能力を見取る 際に,「身近な物や事象の変化を様々な感覚を通して感じる・気付く」という姿がどのよ うな姿で表われているのかが捉えにくかったようである。見取りチャートの活用を継続す ることで,感覚・知覚・思考力に関する視点で子どもの様子を次第に捉えやすくなったと 述べている。運動能力については,どんぐりケーキ屋や氷作りのようにあまり身体を動か さない遊びについては捉えにくく,コマ回しのように身体を調整しながらの遊びの際には 捉えやすかったようである。道徳性・共感性と自己制御力・メタ認知は内容が類似してい るようでもあり,どのように区別したらよいのかが捉えにくかったようである。改めて チャートの内容を説明したことで,それ以降は捉えやすくなっている。

また,小学校教師はこれまで幼児に対して課題意識をもって行動しているということを あまり予測していなかったという語りの中で,メタ認知に関して次のように語っている。

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 インタビュー 1  (小学校教師:10月30日)

例えば最初に思ったのは、お店屋さんでどんぐりを使って遊ぶケーキやさん( 9 月)だったら、

周りの友達はケーキやさんをする。でもネックレス屋さんもするんだから私はネックレス屋さ んするという。お店やさんするんだから数はこれぐらいいる。だんだんできあがってきている けれど、数を見るともっと作らないとだめだなあという。だけどまあ幼T先生と話していくうち に友達のために穴開けも手伝ってあげたりとか、桃組さんが興味をもてきたので小さい組さん のために売りたいとか目的をもって自分達だけで楽しむんじゃなくて、来てもらう人に楽しん でもらうみたいな目的意識をもってやっているとか、遊びながらもっとこうしたいとか、友達 がやっているからこれもやってみたいとか。

太田(2017)も示しているように,小学校教師が最初に予測していた「周りの友達はケー キやさんをする。でもネックレス屋さんもするんだから私はネックレス屋さんするとい う。・・・」という内容はメタ認知の中でもモニタリングの内容を予測しており,実際の 幼児の姿や幼稚園教師との話し合いを通して,「友達のために穴開けも手伝ってあげたり とか,桃組さんが興味をもってきたので小さい組さんのために売りたいとか・・・」とい う内容はメタ認知の中でもコントロールの内容を捉えているということがうかがえる。こ のような意味では,同じ能力の中でも更に具体的な内容の相違があると捉えづらいと感じ ていることが分かる。以上のように,能力の捉え方は能力を見取ることの継続,遊びの要 素や能力の定義の理解の仕方や具体的内容によって影響されるということが分かった。

3 ),考察

幼稚園教師と小学校教師による 5 歳児の能力の捉え方について,次の 2 点が考察として まとめられる。 1 点目は遊びの中で重視される能力についてである。今回着目した自然に かかわる遊びでは,自発性・有能感・有用感や感覚・知覚・思考力を土台としながら,自 己制御力・メタ認知,道徳性・共感性,言語能力・表現力が主に重視されることが分かっ た。ただ重視される能力は遊びの特徴や教師の意図によって違ってくるので,幼児の能力 全体を意識した実践を構成することが必要である。 2 点目は遊びの中での能力の捉え方に ついてである。遊びの要素や能力の定義及び具体的な内容によって捉え方がかわることを 考えると,今回のように複数の教師で能力を見取り,協議することの継続が能力をより的 確に捉えるうえで効果的だと考えられる。

4 ,能力の見取りが教育実践の捉え方に与える影響 1 ),能力の見取りから捉えられる指導方法の概要

教師が子どもの能力を見取ることで,その後の教育実践の捉え方にどのように影響して いくのかということを明らかにするために,幼稚園教師・小学校教師対象のインタビュー 調査の際に話題にあがった指導方法の概要をまとめたものを,表 6 に示す。

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表 6  能力の見取りから捉えられる指導方法

見出し 1 次カテゴリー 2 次カテゴリー

幼稚園の指導 方法の特徴

・子ども一人一人の発想から展開する幼稚園の遊び

・子どもが粘り強く取り組む時間を十分保障する幼稚園

・幼児の興味関心や多様な気付きを促す環境構成

幼児の思い・気づきや表現 力を促す指導・環境構成

・教師の意図を込めた環境構成・時間的環境 環境を通して行う教育

・長期間・多様な場面での子ども一人一人の見取り 十分な時間・空間

幼児の姿から 想起する小学 校の指導方法 の特徴

・生活科の秋見つけ・冬みつけ 自然にかかわる活動

・教師が意識していない活動途中の児童の発言

・授業内では児童同士の関係をあまり意識していない  小学校

教師対児童や児童同士の 関係

・小学校での異学年交流活動・日常的に道徳性育成の実践

・道徳の時間・生活科で昔の伝統的な遊びで行うコマ遊び 授業時間内での能力の育成

・クラス全員に求める達成目標 クラス全体の達成目標

・朝顔の観察で気づきの視点を教師から与える小学校 気づきの視点の設定 小学校にも活

かしたい幼稚 園の指導方法

・自発性・感動体験を促す環境構成

・子ども一人一人が考える試行錯誤・気付きの時間の確保 自発性や思考力を育成する 指導方法

・子どもの思いや活動の過程を見る・聞く支援

・子ども同士の伝え合いを保障する場作りや振り返りの時間

・具体物を使っての振り返りや子どもの言語能力の支援

表現力・言語能力を育成す る指導方法

幼 小 接 続 期 の能力と指導 方法

・自発性・道徳性の類似 ・意欲面の重視 自発性・道徳性の類似

・感覚・知覚・思考力の類似

・身近な事象の特徴・変化の気付きの類似 感覚・知覚・思考力の類似

・粘り強さ・やり抜く力の類似 自己制御・メタ認知の類似

・人とかかわる力・相手にわかりやすく伝える力の類似 言語能力・表現力の類似

・感動体験の重視

・幼児の無自覚で言葉にならない気付きを,自分自身の 気付きや伝え合いを通して気付きの質を高める小学校

・次第に具体物がなくても相手にわかりやすく伝える小 学校

思考力や表現力の質の高ま りを求める小学校

・一人一人違った見方・考え方をする幼児期から,クラ ス全体で気付きを伝え合う小学校

・振り返りの時間に子ども同士で伝え合うことの重要性

個からクラス全体での気付 きを求める小学校 表 6 の内容をふまえて,能力の見取りを通して幼稚園教師・小学校教師が今後の教育実 践を考える契機になる内容や今後の教育実践に活かしたいと捉えている内容について,「子 ども一人一人の能力の見取り方」「自発性にかかわる教育実践の捉え方」「思考力・言語能 力・表現力にかかわる教育実践の捉え方」の 3 点に絞り,次節より具体的内容を整理し,

考察する。

2 ),子ども一人一人の能力の見取り方

10月のどんぐりケーキ屋さんごっこの遊びの場面で,幼稚園教師の一人一人の幼児の見 取り方について,小学校教師が語る場面である。

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 インタビュー 2 (小学校教師:10月30日)

本当に幼稚園の先生って個をしっかり見てるんだなあ。幼稚園の先生と話をしていても,「○○

くんがこうです」と絶対子どもの名前が出るんです。(中略)授業を進めなきゃあいけないから,

クラスの伸びというか,もちろん個の伸びというのも見てるんだけど,幼稚園の先生ほど,見 てなかったかなあ。最初に自分の中で疑問だったのが,今だったらその活動をやってない子も いるんですよね。じゃあその子は結局そこだけ切り取ったらその力はついてないじゃないです か。みんなでするわけではないので,だから,その遊びに参加した子は力が伸びているけど,じゃ あ参加してなかった子はどうなのか。みんながしなくていいの?と思ってたんですけれど,で も幼稚園の先生はここだけを切り取っているのではなくて,長いスパンで見られてる,個の伸 びを。他の子は違う場面で力をつける場があるだろうし,小学校って一斉にやるので,全員が 一斉に達成しないといけないというのがあるので・・・。

幼稚園教師との話し合いを通して,小学校教師は子どもの見取り方についてふれている。

長瀬・田中・峯(2015)が示しているように,従来教育のねらいについては,幼児期は方 向目標,児童期は到達目標であり,教育課程の特徴については,幼児期は一人一人の生活 や経験を重視した経験カリキュラム,児童期は教科カリキュラムが中心となっている。し たがって,小学校教師は子どもを見取る際に,小学校でのクラス全体のねらいや限定され た一斉の授業時間での見取りと幼稚園教師での子どもに応じた方向目標と生活全体を通し た見取りとの相違を感じている。具体的には,小学校教師は「その活動をやってない子も いるんですよね。じゃあその子は結局そこだけ切り取ったらその力はついてないじゃない ですか。(中略)参加してなかった子はどうなのか。みんながしなくていいの?と思って たんですけれど」というように,見取り方やいわゆる評価の在り方についてふれている。

しかし,「でも幼稚園の先生はここだけを切り取っているのではなくて,長いスパンで見 られてる,個の伸びを。他の子は違う場面で力をつける場があるだろうし」とも述べてい ることから,幼稚園教師が幼児一人一人を長期間にわたり,多様な場面で見取っている姿 にふれて理解していることがうかがえる。文部科学省(2019)は,「幼児の発達する姿は,

具体的な生活の中で興味や関心がどのように広がられたり深められたりしているかとい う,生活する姿の変化を丁寧にみていくことによって捉えることができる」と示している。

そのような意味でも,小学校教師は幼稚園教師による幼児のかかわり方にふれたり,小学 校教師自身が幼児の能力の視点から丁寧に見取ろうとしたりすることで,子ども一人一人 を長期間にわたり,多様な場面で見取ることの意義に気づいたと捉えられる。

3 ),自発性にかかわる教育実践の捉え方

11月のコマ回しの遊びについて,幼児がコマ回しができるようになるために,どこまで 見守り,どこで手伝うかという話題の場面である。

 インタビュー 3 (幼稚園教師<幼T>・小学校教師<小T>:11月24日)

小T:私自身もコマを回せなくて,何とか回せた!やった!という思いにさせてあげたいという思 いが先走っちゃったかなあと思いますね。(中略)この子にどんな能力をつけてほしいかを考えた

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時に,ひもをこっちが巻いてしまうのがいいのか, 1 から自分で頑張って巻けるようになるこ とを支援する方がいいのかということを考えた時に,子どもにどういった力をつけたいのか,

この子がどうしたいと思っているのかということを考えた時に,じゃあ,出過ぎるんではなく,

見守ってどういう支援がいいのかということを考えないといけないかなあと私は思いました。

幼T:小学校の先生の姿を見て,先生コマがそんなに最初からは得意ではなかったんだけれども,

何日かすると家でも練習されたのか,うまくなっていかれてるんですよ。それを見て私はもう 回せるからどちらかというと,見守る・待つ役ばかりしてたかなあと思っていて。

コマ回しの際に,幼児に自分で回せる喜びが味わえるようにしたいという意図は幼稚園 教師と小学校教師で共通しているが,実際の指導方法について相違が見られていた。その 中で,小学校教師が指導方法の在り方そのものではなく,「子どもにどういった力をつけ たいのか」「この子がどうしたいと思っているのか」というようにその子どもの思いに寄 り添ったり,その子どもに育成したい能力に着目したりすることの大切さを捉えている。

また,幼稚園教師は小学校教師が子どもと共にコマ回しに挑戦している姿から,コマが 回せる自分は見守る・待つ役ばかりしていたということに気付いている。つまり,幼稚園 教師・小学校教師とも“やってみたい!”という子ども自身の自発性を育成することは重視 しているが,実際にかかわる際には,子どもの側の能力の見取りだけではなく,教師のか かわりは教師自身の経験によっても影響されるということを日々の教育実践や話し合いを 通して捉えている。

4 ),思考力・言語能力・表現力にかかわる教育実践の捉え方

10月のどんぐりケーキ屋さんの遊びの中で,幼児自身が様々なことに気がついているこ とを見取った小学校教師が語る場面である。

 インタビュー 4 (小学校教師:10月30日)

振り返りとかワークシート書かせる最後,「はい書きましょう」とやっても何書いていいか分か らないですよね。アサガオの観察にしても視点は一応与えていたんですよね。花びらの数とか 色とか大きさとかというのを見て書こうねと。幼児さんがそれは自然にやっているんだけど,

小学生も自然に気付いているんだけれど,それをもっと書いたりとか考えたりすることで,もっ と自分のものになるというか,やっぱり教師は捉えさせようとしますかね。観察してどういう ことに気付いたかねという時に,こういう所,大きさとか数とか見てみようねと。でもそんな ことを言わなくても分かるのかもしれないですよね。積み上げていけば。

「幼児さんがそれは自然にやっているんだけど」というように,どんぐりケーキ屋さん での遊びの中で,様々なことに気付いている姿に小学校教師はふれている。小学校ではこ れまで児童が気付けるように教師の側から視点を示しているということと想起すると同時 に,様々なことに気付いている幼児の姿を見取ることで,子どもの側に時間をかければ気 付く力があるのであれば,教師が気付きの視点を示さなくてもよいのではないかというこ との両面を述べている。

一方,小学校教師は,幼児が遊んでいる過程で幼児の話をじっくり聴く幼稚園教師の姿 にもふれている。

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 インタビュー 5 (小学校教師:10月30日)

(子どもが遊んでいる際に「見て,見て」と教師に声をかける際に)そのときに先生方って「す ごいね」で終わるんじゃなくて,結構深く聴かれてたんで,そのときに子どもが説明・・(中略)

どういう思いをもってやったとか,すごい言ってました,子どもたちは。

幼稚園教師が幼児の活動途中で幼児の話をじっくりと聴き,対話することで,幼児は様々 な思いや気付きを話していることに小学校教師は気付いている。表 6 の「教師が意識して いない活動途中の児童の発言」にあるように,小学校でも例えば図工の時間で制作活動を 行う際に,活動途中に児童が「見て,見て」と教師に声をかけ,教師も応えていたはずだ が,そのことについてこれまであまり小学校教師は意識していなかったかもしれないとう ことを想起している。小学校教師は生活全体を重視する幼稚園生活にふれることで,小学 校の活動途中の個々の児童の発言の重要性を意識することができたと捉えられる。

そのような意味では,教師から気付きの視点を与えるのか,子どもの気付きが出てくる のを待つのかという二者択一の指導方法を明確にするというよりは,思考力を育成するに は,活動途中も含めた子どもとの応答関係が重要であるということが捉えられる。

次に,11月のコマ回し遊びの際の,遊びの後の振り返りに関する話題の場面である。

 インタビュー 6 (幼稚園教師<幼T>・小学校教師<小T>:11月24日)

小T:(小学校で重視する能力としては)相手に分かりやすく伝えるというところ。小学校であ ればコマ回しの活動の後,楽しかったね,終わりではなくて,振り返りの時間をとって,どうやっ たらこんなに長く回ったんかねえとか,一番回った子にコツ聴いてみようとか時間をとったり して,やっぱり・・・。

幼T:今私の中で, 5 歳の振り返りということがすごく悩んでいて, 3 歳担任にこれまでいたことも あって,私がしゃべりすぎる・・・子どもの言葉を奪っていることがあるかなということにようやく 気付き,(中略) 5 歳児では言語能力とか伝え合いはすごく大事だと思っています。

小T:毎回遊びの振り返りをされるんですけれど,(中略)子どもが「これを作りました」,先生が「ど ういう所を作ったの?」と聞かれて,それを自分なりに説明する,うまく説明できる子はそれでいい んですけれど,なかなかできない子は「ここがね」とか言っていることに対して,先生がこうなん だねと代弁じゃないけど,こういう風に伝えられるように言われたりとか,それが大事なのかなあ。

「振り返り」とは,遊びや活動の後にその日の遊びや課題についてクラス全体で思いや 考えを出し合う場である。振り返りの場面を通して,相手に分かりやすく伝える言語能力 の育成を幼稚園教師も小学校教師も重視していることが分かる。小学校教師は伝え合いの 意義として,「年長の時は回せてうれしかったけど,今はすごく長く回せるようになった よとか,友達と競争して勝てるようになったよとか,もしかしたら気付かなかったことが 気付けるようになる子は増えるかもしれない」とも述べている。つまり,子ども同士で伝 え合う振り返りの場面を通してという言語能力だけでなく,子ども同士で思考を深めてい くことも求めていることが分かる。幼稚園教師も「どういう所を作ったの?」ということ を幼児に尋ねているという意味では思考力の育成も求めていることは分かるが,個人差も あり子どもによって伝え方を支援しているということが分かる。

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更に,12月の氷遊びに関するインタビューでの場面である。

 インタビュー 7 (小学校教師:12月25日)

幼稚園でも多分対象に対して気付きはもっているんだけど,それがあんまり無自覚っていうか,

言葉にならなかったりとか,なんとなく思っていたのを,小学校では自分が持っていたのを友 達と比べてこうなってたとか,氷だけの気付きだけでなく,自分自身の気付きに発展したりと か小学校で伝え合ったり振り返ったりする・・・(中略),自分から取り組んだり,自発性とか 道徳性は似ていると思うんだけど,感覚・知覚・思考力のところ,身近なものや事象の特徴に 気付くというところは,もう一歩・・・

このインタビューの前のやりとりの中で,小学校教師は「児童期では,知識が定着し,言 語の発達によりわかりやすい言葉で伝えることができるようになり,自覚的な学びになるのだ と思います。しかし,学び方に違いはなく,対象への出会い方や,繰り返しかかわることは,

児童期でも大切にしなければいけないことだと感じています。」と述べている。小学校教師は 自発性や道徳性等に関しては,幼稚園・小学校でも類似しているが,感覚・知覚・思考力に ついては幼稚園・小学校で相違があると捉えている。また思考力に関しては, 学び方は幼小接 続期で類似していても,気付きの内容の高まりを丁寧に見取ることが必要であると捉えている。

5 ),考察

能力の見取りが教育実践の捉え方に与える影響として,次の 3 点の捉え方が考察として まとめられる。

1 点目は,子ども一人一人の能力の見取りを活かす教育実践についてである。幼稚園教 師・小学校教師は一人ひとりの能力を長期的に多様な場面で見取ることが大切であると捉 えている。子どもを見取ることは評価することにもつながるが,幼稚園教育要領解説(文 部科学省,2017)に「指導の過程を振り返りながら幼児の理解を進め,幼児一人一人のよ さや可能性などを把握し,指導の改善に活かすようにすること」とあると同様に,小学校 学習指導要領(文部科学省,2017b)」にも,「児童のよい点や進歩の状況などを積極的に 評価し,学習したことを意義や価値を実感できるようにすること」と明記されている。そ のような意味でも,子どものよさや進歩の状況を理解し,評価するために,長期的で多様 な場面で子ども一人一人の能力を見取る教育実践が必要だと捉えていることが分かった。

2 点目は,自発性にかかわる教育実践の捉え方についてである。幼稚園教師・小学校教師と も,子ども自身がやってみたい!と心動かされることが学びの原点であり,そこが原動力になる ことで自分の課題に対して粘り強く取り組む自己制御力やメタ認知等の諸能力も育成されると 捉えている。カリキュラムに相違のある幼稚園・小学校だが,実際に保育・授業を展開する際 には,子どもの自発性が発揮できるような場を設定していくことが必要である。また,自発性を 育成する支援を考える際も,クラス全体でのねらいとともに,子どもに応じた支援の在り方を捉 えるということ,教師自身の経験でも支援の在り方が左右されるということを自覚することにつ いて幼稚園教師・小学校教師が捉えていることが分かった。もちろん従来の教育実践において も子どもの自発性は重視されているが,今回子どもの能力の見取りに着目することで,自分が

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やりたいと思っていることを実際にやるという行動面だけではなく,“子どもがどうしたいと思っ ているのか”という心の内面を読み取ることに着目できたと捉えられる。また,遊びの見取り チャートの活用を通して,自己制御力やメタ認知等は自発性が原動力になることで育成される と捉えている。小学校教師はインタビューの別の場面で「小学校に上がる際に,『きちんと椅子 に座れるように』ではなく,ワクワクする感動体験や,気付きを生み出すようなかかわりが必要 だということが分かりました」と発言しているが,子ども自身の能力を見取ることで,子どもの 自発性を原動力としながら諸能力を育成する教育実践が必要だと捉えていることが分かった。

3 点目は,思考力・言語能力・表現力にかかわる教育実践の捉え方についてである。 5 歳 児・ 1 年生とも相手に分かりやすく伝える言語能力・表現力や,相手に分かりやすく伝え合 うことを通して高まり合う思考力を育成するためには,教師と子どもとの応答関係や,子ど も同士で伝え合う場の設定が必要であると捉えている。そのためには,遊びや活動後の振り 返りのひとときはもちろんのこと,遊びや活動のプロセスにおいて子ども同士が伝え合って いる姿を意識して丁寧に見取ったり,伝え合いの場を柔軟に設定したりすることが必要であ ると捉えている。このことは「相手に分かりやすく伝える」という 5 歳児の言語能力・表現 力の見取りの視点を意識することが,遊びや活動後の「振り返り」の意義や柔軟な場の設定 の検討につながったと考えられる。また,例えば秋みつけや冬みつけなど自然物や季節の変 化にかかわる遊びや生活科での活動の仕方は幼稚園・小学校とも類似しているが,気付きの 内容については相違があり,そのことを丁寧に見取る必要があるとも捉えている。例えば「氷 作り」の遊びや活動そのものは幼稚園にも小学校にもあり,幼稚園領域「環境」(文部科学 省,2018)の内容の中には,「自然などの身近な事象に関心をもち,取り入れて遊ぶ」という項 目があり,小学校生活科の内容(文部科学省,2017a)の中にも,「身近な自然を利用したり, 身近にある物を使ったりするなどして遊ぶ活動を行う」という項目がある。氷作りという活 動の内容は類似しているが,例えば幼稚園であれば園庭の中での氷作りを,小学校では氷作 りをするスペースを更に広げながら,気付きの内容が広がったり深まったりしていることに 小学校教師はふれていた。以上のことから,思考力・言語能力・表現力の見取りを通して,

自然とかかわる活動は幼小接続期で類似している部分もあるが,気付きの内容については相 違があるので,そこを丁寧に見取ること,またこれらの能力は活動のプロセスや振り返りの時 間等で子ども同士で伝え合うことで育成することが必要だと捉えていることが分かった。

Ⅳ,総合考察

本研究の目的は幼稚園教師と小学校教師が 5 歳児の能力をどのように見取るのかを検討 し,その能力の見取り方が教育実践の捉え方に与える影響を明らかにすることであった。

幼稚園教師・小学校教師が捉える 5 歳児の能力は,自然にかかわる遊びでは,自発性・有能感・

有用感や感覚・知覚・思考力を土台としながら,自己制御力・メタ認知,道徳性・共感性,

言語能力・表現力を主に重視していることが分かった。また,能力の見取りによって,長 期的に多様な場面で子ども一人一人の能力を見取ること,子どもの自発性を原動力としな

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がら諸能力を育成すること,幼小接続期で気付きの内容にみられる相違を丁寧に見取るこ と,活動のプロセスや振り返りの時間等で子ども同士で伝え合うことで思考力・言語能力・

表現力を育成することが必要だと捉えるようになったということが分かった。

本研究の成果と課題は次の 3 点である。 1 点目は,能力の観点から見た遊びの見取り チャートの活用の効果についてである。インタビューの中で,例えば幼稚園教師は「いつ もだったら保育カンファレンスで終わった実践について話し合う。チャートはこれから行 うことについて予想していく。予想をたてながら援助していく,やりながら考え,またやっ た後に考えるというのはよかったなあと思いました」と述べている。小学校教師も「 4 月 から子どもを見ていますが,子どもの具体的な見取りの観点をもって見ているかと思えば,

楽しそうな遊びだなとか,子どもがよく考えているなという,結構ざっくりとして自分の 視点で勝手に見ていたので,なるほど能力の視点をもって子どもを見取ればいいんだなと いうことが分かりました」と述べている。このように幼児期に必要な能力全体を見取るこ とができる遊びの見取りチャートを活用し,幼児の姿や教師の支援の在り方を予想し,実 施し,振り返ることの継続が能力の見取りには有効であったと捉えられる。また,遊びの 見取りチャート作成後に幼稚園教師・小学校教師で能力の観点で見取る幼児の姿や教師の 支援について話し合うことで,例えば小学校教師は「具体的な支援にしても私も思いつか ないような環境構成や言葉がけなどをすごくされていたので,このチャートを手がかりと して子どもの姿がよく見えるようになりました」と述べている。このようにチャートを手 がかりにして二人で話し合うことで子どもの能力や支援について深く捉えることができる ようになったという実感を得ているという意味では,見取りチャートは複数の教師での話 し合うツールとして活用する点でも有効であったと捉えられる。

2 点目は,幼小接続期の教育実践の捉え方についてである。幼小接続期において必要な のは,教育内容や教育方法のみならず,子どもの内に育まれようとしている能力について,

多様な遊びや活動を通して,そして子ども一人一人にあるいはクラス全体で育成すること である。現在,小学校では幼児教育との円滑な接続としてのカリキュラムが作成され, 施され始めている。小学校学習指導要領(文部科学省,2017a)は,「小学校入学当初にお いては,幼児期において自発的な活動としての遊びを通して育まれてきたことが,各教科 等における学習に円滑に接続されるよう,生活科を中心に,合科的・関連的な指導や弾力 的な時間割の設定など,指導の工夫や指導計画の作成を行うこと」と示している。幼稚園 教育要領解説(文部科学省,2017)は,小学校教育が円滑に行われるよう,「幼児期の終 わりまでに育ってほしい姿」の共有の必要性について示している。このように幼小接続期 の教育の在り方はより具体的に示されるようになってきているが,教育内容や実際の指導 方法のみならず,そこに存在する一人一人あるいはクラス全体の子どもたちの内に育まれ ようとする能力を見取り,教師間で具体的に語り合うことの継続こそが,本来の意味での 子どもたちの未来社会を切り拓くための能力の育成につながると考える。

3 点目は小学校での能力の見取りを活かした教育実践の工夫である。今回は幼小接続期

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の 5 歳児に焦点を当てたが, 5 歳児で育成されている能力が,小学校 1 年生でどのように 育成されていくのか,またその能力の育成を支える教育実践とはどのような内容なのかと いうことについて検討することが今後の課題である。

<引用文献>

文部科学省(2015)中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会教育課程企画特別部 会 論点整理

広島県教育委員会(2017)幼保小接続カリキュラム実践事例集 

池田明子(2020)能力ベースの幼児の見取りに関する基礎的研究−幼小接続期の 5 歳児に 着目して−学位論文

池田明子(2018)幼小接続期に必要な能力と保育者のかかわりに基づいた保育実践の効果 広島大学大学院教育学研究科紀要第一部(学習開発関連領域)第67号 pp.19-27

James.J.Heckman 大竹文雄(解説)古草秀子(訳)幼児教育の経済学 東洋経済新報社 p.29 小橋暁子・佐藤真帆・槇英子(2019)幼小をつなぐ造形教育カリキュラムの研究Ⅱ−実態 調査の結果と保小の比較― 千葉大学教育学部研究紀要第67巻 pp.395-400

無藤隆(2017)平成29年告示幼稚園教育要領 保育所保育指針 幼保連携型認定こども園 教育・保育要領  3 法令改訂(定)の要点とこれからの保育 チャイルド本社 p.60 文部科学省(2018)幼稚園教育要領解説 フレーベル館

文部科学省(2017a)小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 生活編 東洋館出版社 文部科学省(2017b)小学校学習指導要領(平成29年告示)総則編 東洋館出版社 文部科学省(2019)幼児理解に基づいた評価 チャイルド本社 pp.21-23

中澤潤・中道圭人(2010)幼稚園教師・小学校教師・幼稚園児の保護者の「幼児期に重要な体験」

に関する認識とその時代的変化 乳幼児教育学研究第19号 日本乳幼児教育学会 pp.11-24 西坂小百合・岩立京子・松井智子(2017)幼児の非認知能力と認知能力,家庭でのかかわ りの関係 共立女子大学家政学部紀要第63号 pp.135-142

長瀬美子・田中伸・峯恭子編著(2015)幼小連携カリキュラムのデザインと評価 風間書房 pp.106-107

OECD編 星三和子・首藤美香子・大和洋子・一見真理子(監訳)(2011) OECD保育白書:

人生の始まりこそ力強く:乳幼児期の教育とケア(ECEC)の交際比較 明石書店 太田友子(2018)幼児期における「振り返り」活動−幼小接続期におけるメタ認知に関す る一考察 大阪総合保育大学紀要第12号 pp.179-196

岡山県教育委員会(2016)岡山県保幼小接続スタンダード

山田有希子・大伴潔(2010)保幼・小接続期における実態と支援のあり方に関する検討−

保幼 5 歳児担任・小 1 年生担任・保護者の意識からとらえる−東京学芸大学紀要 総合教 育科学系Ⅱ第61巻 pp97-108

横浜市(2018)横浜版接続期カリキュラム平成29年度版

表 6  能力の見取りから捉えられる指導方法 見出し 1 次カテゴリー 2 次カテゴリー 幼稚園の指導 方法の特徴 ・子ども一人一人の発想から展開する幼稚園の遊び ・子どもが粘り強く取り組む時間を十分保障する幼稚園・幼児の興味関心や多様な気付きを促す環境構成 幼児の思い・気づきや表現力を促す指導・環境構成 ・教師の意図を込めた環境構成・時間的環境 環境を通して行う教育 ・長期間・多様な場面での子ども一人一人の見取り 十分な時間・空間 幼児の姿から 想起する小学 校の指導方法 の特徴 ・生活科の秋見つけ・冬み

参照

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