母親の幼児に対する「言葉かけ」が幼児の共感性に 及ぼす影響 : ポジティブ感情の共感に注目して
著者 田中 あかり, 岩立 京子
雑誌名 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系
巻 57
ページ 63‑70
発行年 2006‑02
その他の言語のタイ トル
Influences of Mother's Speech Related Emotion on Empathy in Preschool Children : Empathy with Positive Emotions.
URL http://hdl.handle.net/2309/1418
* 東京学芸大学(184-8501 小金井市貫井北町4−1−1)
1.問題と目的
共感性は個人間の情動的なつながりの中心であり,
特に社会的能力に寄与するものとしてこれまで多くの 研究が行われてきた。しかし共感性についての定義や 測定方法は必ずしも一貫していない(森下,1990;浅 川・松岡,1987)。最近の研究においては共感性は認知 面,情動面のどちらも含めて定義されることが一般的 で,例えば森下(1990)は「状況や他者の気持ちを理 解したうえで,他者と同じような情動的反応を経験す ること」と定義している。
感情には様々な種類があるが,感情の種類によって 生じる共感性の強さに差はあるのだろうか。例えば,
「悲しみ」と「喜び」ではどちらの方が人はより強く共 感する傾向があるのだろうか。幼児の共感性について はFeshbach(1968)のAST(Affective Situation Test)を 用いた研究によって,「喜び」の感情に対する共感性が 他感情に比べて高いことが導き出されている(今井・
桶本,1973;渡辺・瀧口,1986;杉山・中里・矢澤,
1990;杉山・中里・矢澤・安藤・羽場,1991,1993;
Feshbach,1968;Borke,1973)。中でも杉山・中里・
矢澤・安藤・羽場(1991,1993)は,幼稚園児を対象 に縦断研究を行い,年少児のときと同じ幼児が年長児 になったときの共感性を比較した。その結果,3歳児 は喜びの感情に対する共感性が他感情に対する共感性 より非常に高く,4歳児になると,他感情に対する共 感性が高まるためにその差は縮まることを明らかにし た。さらに杉山ら(1990)の児童を対象に行った実験 結果からは,児童期になるとその順序は逆転し,むし ろ喜びの感情に対する共感性は,他感情よりも低くな
ることが明らかにされている。これらの結果から,喜 びの感情に対する共感性が高いことは幼児期の1つの 特徴と言える。
幼児の共感性に影響を与えるものの1つには「養育 者による言葉かけ」が挙げられる(例えば澤田,1992)。 Hoffman(2000)は共感性を含む,道徳的認知や感情,
動機づけの内在化の中心的な先行経験は社会化,その 中でも特に 大人の介入という形式での社会化 であ る と し た 。 つ ま り そ れ は 「 し つ け 」 を 意 味 す る 。
Hoffmanはしつけの種類として①力中心②愛情の除去
③誘導の3つを挙げ,中でも③誘導的方法は一番効果 的な方法であるとしている。この方法は相手(犠牲者 など)の視点に立って,例えば子どものした行為の物 理的な結果について指摘し,相手の感情について述べ る方法である。すなわち,大人が相手の感情について 述べるほど,それは誘導的な方法として,幼児の共感 性を高めると考えられる。
一方,幼児の共感性の高さは実際の行動としてどの ように現れてくるのだろうか。これまでの先行研究に よって,共感性は困窮場面にいる他者への援助行動な どの向社会的行動を動機づけることが確かめられてき た(森下,1990;Eisenberg& Lennon,1980)。他者へ の援助行動などは一般的に「思いやり行動」とも言わ れ,Eisenberg& Mussen(1991)や菊池(1998)は共感 を思いやり行動の先行条件の一つとしている。
そこで,前述の共感性の要因(養育者の言葉かけ)
及び結果(思いやり行動)について,幼児の共感性が 感情の種類によって異なることを考えると,感情の種 類によってこれらの関係にも異なる特徴が見られるの ではないだろうか。
母親の幼児に対する「言葉かけ」が幼児の共感性に及ぼす影響
── ポジティブ感情の共感に注目して ──
田 中 あかり・岩 立 京 子 幼児教育学
*(2005年9月
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日受理)感情の種類には大きく分けて「悲しみ」「恐れ」など に代表されるネガティブ感情と「喜び」に代表される ポジティブ感情がある。これまでの共感研究では主に ネ ガ テ ィ ブ 感 情 に 焦 点 が 当 て ら れ て き た ( 菊 池 , 1998;Davis,1994)。それは愛他性や援助行動などの 向社会的行動にネガティブ感情の共感性が関わってい ることが示されてきたからである(Davis,1994)。一 方で,ポジティブ感情については,それを引き起こし たポジティブな結果,例えば成功などに対して妬みな どのネガティブな感情や自己中心的な感情が生じるた めに援助行動を引き起こさないと考えられ,共感研究 ではほとんど注目されてこなかった(Davis,1994)。
又,その背景には心理学全体におけるポジティブ感情 の軽視もある。近年ポジティブ感情の役割に注目して
いるFredrickson(1998)はポジティブ感情が取り上げ
られてこなかった理由として,①ポジティブ感情はネ ガティブ感情に比べて感情の種類が分けにくい,②心 理学自体が問題やそれらを解決することに引きつけら れる性質がある,③ネガティブ感情は具体的な行動と の関連がより見られやすい,ことを挙げている。しか しネガティブ感情の共感性と同様にポジティブ感情の 共感性もまた我々が生きていく上で欠かすことのでき ないものである。ポジティブ感情の共感性に関する文 献は非常に限られているため,ポジティブ感情の共感 性の意義について根拠を提示しながら十分に述べるこ とは難しい。しかし例えば菊池(1998)は共感研究者 がポジティブ感情に目を向けていないことを指摘し,
相手の喜びや達成感に共感することについて知られて いることは少ないと述べていることから,今後,両者 の違いを検討していくことが重要であると言える。
本研究では以上述べてきた共感性の要因(養育者の 言葉かけ)及び結果(思いやり行動)について,ポジ ティブ感情とネガティブ感情の共感性の相違を明らか にすることを通して,幼児期の共感性について再び考 することを目的とする。また,養育者の言葉かけにつ いては本研究では対象者の全員が母親であることから,
以下「母親の言葉かけ」と記述することとする。
2.方 法
2.1 AST 対象者
東京都内のK幼稚園年少児28名(男児14名,女児 14名,3歳8ヶ月〜4歳7ヶ月),年中児24名(男児 11名,女児13名,4歳8ヶ月〜5歳7ヶ月) の計52 名であった。
材料(本論文末に資料として一部提示)
感情の種類は,例えば杉山ら(1990)は「喜び」「悲 しみ」「怒り」を,浅川・松岡(1987)や石川・内山
(2001)は「喜び」「悲しみ」「恐れ」「怒り」を採用し ている。しかしこのようなネガティブ感情とポジティ ブ感情の数の違いは,ポジティブ感情である「喜び」
を選択しやすくしている可能性が考えられた。そこで 本研究では渡辺・瀧口(1986)を参考に,比較的ポジ ティブ感情に近い「驚き」を取り入れ,「喜び」「驚き」
「悲しみ」「恐れ」の4つについて,紙芝居と表情図を 作成した。表情図は4つの感情についてそれぞれ「と ても喜んでいる顔」「喜んでいる顔」「少し喜んでいる 顔」といったように3段階の表情図を用意した(よっ て表情図は計12枚)。これらは紙芝居の結末部の主人 公の顔部分に当てはめられるように作成した。また表 情図が表す感情の種類及びその強さの妥当性について
は12名の年中児を対象に予備実験を行い確認した。さ
らに本実験では提示する際に「嬉しいお顔かな」とい うように,表情図が表す感情の種類を言葉で示しなが ら提示するようにした。紙芝居のストーリーは各感情 につき2ストーリーずつ,計8ストーリーを作成した。
また,各ストーリーは「開始」「展開」「結末」の3場 面から構成されていた。主人公の顔の様子から気持ち を理解するのを防ぐために「結末」部は主人公をはじ めとする登場人物の表情は描かずに輪郭のみとした。
紙芝居のストーリーは有馬(1993)を元に,渡辺・瀧 口(1986)を一部採用し,新たに作成した。各ストー リーのテーマは〈喜び〉「プレゼントをもらう」「なわ とびが跳べるようになる」〈驚き〉「バッタが突然跳ぶ」
「かくれんぼをしていて突然友だちが出てくる」〈悲し み〉「かわいがっていた犬が死んでしまう」「仲間はず れにされる」〈恐れ〉「犬に追いかけられる」「1人で留 守番している時に雷が鳴る」であった。各ストーリー の妥当性については,表情図同様,12名の年中児を対 象に予備実験を行い,7割以上の正答率であったため に妥当であると判断した。しかし中でも正答率の低か った「恐れ」の2ストーリーについては,ストーリー の内容に「驚き」の要素が含まれていたことから「驚 き」を選択した幼児が多かった。そこで,「驚き」の要 素が含まれないストーリーに改善し,本実験に臨んだ。
手続き
対象児を幼稚園内の一室に呼び出し,実験者と1対 1で向かい合うように座ってもらった。実験者は始め に簡単な説明をした後,紙芝居の読み聞かせを行った
(8ストーリー全てをランダムに提示した)。一話読み 終える度に以下の3つの質問を行い,当てはまる表情 東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第57集(2006)
図を選択してもらった。Q1「この時,ヨシコちゃん
(主人公の名前)1)はどういうお顔をするかな?」(表 情図「中」の中から1つを選択。)Q2「じゃあ,ちょ っと嬉しいお顔かな?とっても嬉しいお顔かな?」(表 情図「強」「弱」の2つの表情から1つを選択。)
得点化
実験者が想定した例話の主人公の感情の種類と幼児 が選択した表情図(感情の種類)が一致し,且つ幼児 の選択した表情図が「強」だったときに2点,「弱」だ ったときに1点とした。又実験者が想定した主人公の 感情の種類と幼児が選択した表情図(感情の種類)が 一致しなかったときは0点とした。
2.2 母親に対する質問紙調査 対象者
実験を行なった東京都内のK幼稚園の年少児2クラス 29名,年中児1クラス26名の計55名の母親であった。
調査方法
質問用紙は封筒に入れ,各クラスの担任の先生から 子どもを介して母親に渡された。回収率は年少児83%
(24部)年中児85%(22部)であった。
調査材料
内容①母親の言葉かけについて
質問形式は,杉山ら(1993)を参考に作成した。ネ ガティブな場面での感情により多く言及した母親の言 葉かけが,幼児のネガティブな感情への共感性に影響 を与えるのではないか(ポジティブについても同様),
また行為の主体が自分の子どもである時の方が他者で あるときよりも対象の感情について言及するのではな いか,行為の対象が特定の他者であるとき,また母親 自身の時の方が,特定の他者でない場合よりも母親は 感情について言及するのではないかと考え,次のよう な場面を母親と幼児が出会う場面として設定し質問紙 を作成した。ネガティブ場面とポジティブ場面(2)×
自分の子どもがその行為の主体となっている時と他者 が主体である時(2)×行為の対象が目の前にいる特定 の他者である場合,特定の他者ではない場合,母親自 身である場合(3),計12場面(e.x〈ネガティブ場面・
自分の子どもが行為の主体・行為の対象が特定の他者〉
降園時にお子様が2,3人の友だちと遊ぶ約束をして いました。そこにもう1人の友だちが来て「入れて」
と言いましたが,お子様はその子にだけ「入れてあげ
ない」と言いました。このような時お母様はお子様に どうおっしゃいますか?)。選択肢は,浅川・松岡
(1987)の共感反応の3段階を参考に作成した。具体的 には①感情及び感情に関連した情報についてはまった く言及しない(e.x.何でそんなこと言うの?),②感 情に関連した情報については言及する(e.x.お友だちを 見てごらんなさい。しょんぼりしてるわよ。),③対象 の感情について言及する(e.x.お友だち,きっと悲しい わよ。),④対象の感情について述べた上で自己の体験 に置き換えさせるように言及する(e.x.〜ちゃん(お 子様の名前)がそんなこと言われたらどう?悲しいで しょ。),のように感情について全く言及しないから言 及した上で他者の立場になるように促す,まで各質問 につき4段階設定した。
内容②幼児の思いやり行動について
長山・千羽・平井(1991)の幼稚園での思いやり行動 項目を母親への質問にふさわしいように「他児」という 言葉を「人」に変える等内容の一部を変更,除外して作 成した。母親は普段の子どもの様子を思い浮かべ,それ ぞれの行為が見られるかどうか,「よく見られる」「時々 見られる」「あまり見られない」「全く見られない」「何 とも言えない」の5選択肢から選択し回答した。
3.結果と考察
3.1 幼児の共感性
先行研究と同様「喜び」の共感得点は他感情と比較 して最も高かった(図1)。しかし「悲しみ」得点もま た高く,「喜び」と「他感情」のような2分された関係 ではなく,「喜び・悲しみ」の得点は高く,「驚き・恐 れ」の得点は低いという結果が示された。「喜び」が一 番共感しやすいということはいずれの先行研究でも共 通している結果であるが,「悲しみ」についてはその順 位は様々であり,むしろ不快な場面は状況により複雑 であることから共感することが難しいとされることも 多い(杉山ら,1990)。本研究によって共感性はネガテ ィブ感情であるか,ポジティブ感情であるかどうかで はなく,個々の感情の種類によって異なることが示さ れた。また3歳児は「喜び」と他感情の共感得点の差 が大きく,4歳児は他感情の共感性が高まることでそ の差が小さくなることは本研究でも先行研究同様示さ れた(図2,3)。
1)実験材料は女の子用と男の子用を用意し,対象児の性と例話の中の子どもの性が一致するようにした。名前は対象児の園にいな い子の名前を選び,女の子用の主人公の名前はヨシコちゃん,男の子用はジロウくんとした。
3.2 母親の言葉かけと共感性
母親の言葉かけの4選択肢を感情について述べるほ ど得点を高くし,母親の感情得点として出した。場面 別に母親の感情得点の差を見たところ,母親は行為の 主体が子どものときの方が他者のときよりも感情につ いて言及していた(両側検定:t (39) =5.101,p<.01)。ま た,対象が母親自身のときの方が不特定の他者のとき よりも感情について言及し(両側検定:t (39) =-6.660, p<.01),対象が特定の他者であるときの方が母親自身 のときよりもさらに多く感情について言及していた
(両側検定:t(39) =2.728, p<.01)。よって,場面による 母親の感情得点の差については,予測通りの結果とな った。
母親の言葉かけと幼児の共感性については,母親の感 情得点の合計点の高群と低群で幼児の共感得点の合計に は有意な差は認められなかった(表1:両側検定:t(34)
=−1.236, p>.10.n.s.)。しかし,幼児の共感性について ネガティブ感情の共感とポジティブ感情の共感に分けた とき,ポジティブ感情の共感得点については有意な差は 認 め ら れ な か っ た が ( 両 側 検 定 :t (35) =.074, p>.10.n.s.),ネガティブ感情の共感得点については有意 な傾向が認められた(両側検定:t(34) =−1.970, .05< p<.10)。よって,母親が対象の感情について述べるこ とは幼児のネガティブ感情の共感性を高める要因にはな るが,ポジティブ感情の共感性を高める要因にはならな いことが示された。
東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第57集(2006)
図1 感情の種類別共感得点の平均値(全体)
図2 感情の種類別共感得点の平均値(3歳) 図3 感情の種類別共感得点の平均値(4歳)
表1 母親の感情得点高群・低群と幼児の共感得点の平均値と SD
3.3 共感性と思いやり行動
幼児の共感得点の高群と低群で幼児の思いやり行動 の合計点の平均値に有意な差は認められなかった(両 側検定:t (36)=−.247, p>.10.n.s.)。しかし,全体で は両条件間の思いやり行動得点の合計の平均値の差は 1.67点だったが,ネガティブ感情とポジティブ感情に 分けて分析した結果では,ネガティブ感情の共感につ いてはその差が10.23点にまで広がったのに対して,ポ ジティブ感情の共感についてはその差は広がるどころ か逆転し,低群の方が思いやり行動得点が8.57点高い という結果になった(表2)。また,思いやり項目別に 見たときも,ネガティブ感情のみでは10項目中9項目 で共感得点高群の方が得点が高かったが,ポジティブ 感情については共感得点高群が低群よりも高かったの
は10項目中3項目だけだった。よって,ネガティブ感
情の共感性の高さと思いやり行動には関連があると言 えるが,ポジティブ感情の共感性の高さと思いやり行 動には関連があるとは言えなかった。
4.全体考察
本研究は幼児の共感性に影響を与える要因(母親の 言葉かけ)及び結果(思いやり行動)について,ポジ ティブ感情の視点からもう一度検討し,ネガティブ感 情の共感性との相違を明らかにすることを目的とした。
その結果,母親の言葉かけの内容が幼児の共感性に与 える影響についても,また共感性と思いやり行動との 関係についても,ネガティブ感情とポジティブ感情間 には明らかな相違が見られた。
母親の言葉かけが幼児の共感性に与える影響につい ては,母親による対象の感情についての言及が,幼児 のネガティブ感情の共感性を高める一方で,ポジティ ブ感情の共感性は高めないことが示唆された。なぜ感 情についての母親の言及は幼児のポジティブ感情の共 感性には影響を与えないのだろうか。その理由の1つ として幼児の喜びの共感得点が高いことが挙げられる
かもしれない。つまり,幼児は他感情よりもポジティ ブ感情には強く共感するので,母親の言葉かけという 援助の影響を受けにくいと考えるのである。しかし,
本研究の結果では,図1で示したように,「喜び」に続 き「悲しみ」に対する共感得点も高かった。よって,
共感得点の高さは理由としては考えにくい。さらにネ ガティブ感情の共感得点の方がポジティブ感情の共感 得点よりも個人差が大きかったことから有意な差が見 られた可能性もあるが,これについても「喜び」とほ ぼ同様の分布を示した「悲しみ」の方が個人差の大き い分布を示した「恐れ」よりも,母親の感情得点の高 群と低群間で共感得点の平均点に大きな差が出ている ことから理由としては考えられない。よって,母親の 言葉かけが幼児の共感性に影響を及ぼすということは,
共感性が強いか,強くないか,もしくは個人差が大き いかということではなく,ポジティブ感情とネガティ ブ感情,もしくは個々の感情の種類を区別する他の要 因に起因していることが示されたと言える。Hoffman をはじめとする研究者は,本研究で用いた対象の人物 の感情について述べるというような,いわゆる「誘導 的方法」が子どもの道徳的内在化を促すと主張してき たが,本研究の結果からはそのようなことが幼児のネ ガティブ感情の共感性については言えるが,ポジティ ブ感情の共感性については言えないことが示された。
ポジティブ感情の共感性を高める要因について今後検 討し,研究を積み重ねていく必要があるだろう。
また幼児の共感性と思いやり行動については,ポジ ティブ感情の共感性が幼児の思いやり行動に必ずしも つながらない可能性が示された。しかし,この結果に ついては本研究で用いた「思いやり行動」項目がネガ ティブ感情に対する思いやりに偏っていたことから,
ネガティブ感情についてより関係が見られた可能性が ある。我々は一般に「思いやり」というとネガティブ 感情に対する思いやりを思い浮かべることから,長山 ら(1991)の項目もそのような傾向があったことが否 めないからである。よって今後はさらにポジティブ感 情についての項目を追加し,再検討する必要がある。
本研究において,ネガティブ感情とポジティブ感情 について,母親の言葉かけや思いやり行動との関係で,
両者に異なった結果が出たことはポジティブ感情の共 感性に注目し,ネガティブ感情との相違を明らかにす る意義があることを示すものであった。今後もこのよ うな視点から共感性について考察を加えていく必要が あるだろう。
表2 共感得点低群・高群別 思いやり得点の平均値
東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第57集(2006)
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*
Tokyo Gakugei University ( 4-1-1Nukui-kita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184-8501, Japan) Bulletin of Tokyo Gakugei University, Educational Sciences, Vol. 57 (2006)The past researchers of empathy have not focused on empathy with positive emotions but negative emotions. The purpose of this study was to examine the differences between empathy with positive emotions and empathy with negative emotions. We investigated the relationships between mother’s speech related emotion and children’s empathy, and between children’s empathy and children’s prosocial behavior. In experiment, 4-year olds (N=28)and 5-year olds (N=24)were asked to respond to Affective Situation Test (AST) that was changed from Feshbach & Roe (1968)’s. Their mothers answered the questionnaires including measures about mother’s speech to children and their children’s prosocial behavior. As a result, we found the differences of those relationships between empathy with positive emotions and negative emotions. The results showed that mothers who referred emotions of themselves or others more tended to have children who were higher level of empathy with negative emotions. But there are no relationships between mother’s speeches related emotion and children’s level of empathy with positive emotions.
Then, children who were higher level of empathy with negative emotions behaved prosocially more than lower level of one. But we did not find that children who were higher level of empathy with positive emotions behaved prosocially more than lower level of one.