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地方都市の民営斎場における空間と建築イメージの変遷 −福岡県福岡市の事例を通して− [ PDF

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1 松川 真友子 1. はじめに 1.1 研究の背景と目的  葬送儀礼 ( 以下、葬儀 ) は、故人と遺族の別れの儀 式として、人類が古代から営んできた通過儀礼※1 ひとつである。葬儀は、地域や民族、宗教、時代ごと に多様なあり方を示すが、近年日本では、人生最期の 式典の場として、斎場※2や火葬場などの葬祭施設が 急速に発展し変容を遂げてきた。本研究では、福岡県 福岡市に存在する斎場を対象に空間や意匠、平面計画、 利用の変遷を明らかにすることを目的とする。その結 果から、社会学や民俗学での死生観、宗教観、家族観 についての諸議論と、建築の現状との関係を考察する。 1.2 研究の方法  本研究の対象は、福岡市内に 2014 年 8 月現在確認 された 33 社※388 件の民営斎場とした。そのうち 46 件へは現地調査と運営葬儀社へのヒアリングを行い、 44 件については図面を入手し平面計画の分析を行っ た。その他に各斎場の開設年、所在地、施設概要を、 建築計画概要書、電話帳広告、ホームページから収集 し、80 件分の基礎的データを得た。葬儀業界や斎場 に関する歴史・社会的背景は、文献資料や行政の統計 資料に、ヒアリング内容を加えてまとめた。 1.3 既往研究  日本での死にまつわる様々な儀礼の研究は、1930 年代にその基礎ができた※4。以来、日本の葬制研究 を牽引してきたのは民俗学者であったが、社会の近代 化に伴い、社会学や家族社会学の見地からも注目され るようになった。建築学の分野では、八木澤壮一らの 葬祭施設研究があるが、その対象は火葬場と葬祭場が 大きく割合を占め、斎場を扱う論考は少ない。またあ る特定の地域における時系列的な研究も十分でない。 2. 葬儀と斎場に関する歴史的背景 2.1 日本の葬儀業と斎場の成立・発展  近代以前の村落社会では、地域関係が儀礼や祭祀を 含め生活の基盤となっており、葬儀や埋葬、料理の支 度は地域の葬式組※5 と親族によって行われていた。  明治時代は、葬列が長大になり、葬儀も派手になっ た。井上章一によれば、この当時の葬送は「世間に対 して見栄をはるための儀式」であり、「まさにスペク タクル=見世物というべき」※6だった。本来別業種 であった葬具貸物業と、葬具を運んだり葬列を手伝う 人足の派遣業を兼ね葬列全体を請け負う業者が現れ、 1886 年には、葬儀一切を引き受けるサービス業的な 存在としての葬儀社が成立した※7  大正時代以降は、自動車社会の到来などを理由に葬 列が衰退し、自宅告別式が一般化して葬儀が質素に なっていった。葬儀が村落社会から離脱し、家族単位 の独自性をもつようになったことで、自宅での式場設 営などに葬儀業者が広く利用されはじめた。  戦後まもなく、1948 年に冠婚葬祭互助会※8( 以下、 互助会 ) が成立し、一定の掛け金を積み立てて、葬儀 や結婚式の場でサービスを提供し始めた。また、都市 以外の地域でも葬儀社が増加した。  高度経済成長期、都市への人口流入と地縁の薄れ、 都市部での住宅事情により、自宅ではなく葬儀社が提 供する斎場で葬儀を行うようになる。社葬など、会葬 者の多い葬儀に対応する大会場の需要も高まってい た。バブル崩壊後、日本は高齢社会を迎え、経済的理 由や会葬者の減少により葬儀の縮小化が始まり、家族 葬が広まった。また、無宗教葬やお別れ会など従来の 形式にとらわれない葬儀が行われるようになった。 2.2 福岡市における葬儀業と斎場の発展 2.2.1 葬儀事業所数の推移  福岡県には斎場が 440 件あり、福岡市と北九州市 は全国的に見ても非常に集中度が高い※9。福岡県の 調査※10によれば、福岡市に おける葬儀業および互助会の 事業所数は、1974~1984 年 と 1994~2004 年 で 2 回 著 し く 増 加 し た ( 図 1)。 特 に 2000 年前後には倍増してお り、これは斎場が最も多く開 設された時期でもあった。 2.2.2 斎場の運営について  「福岡市葬祭場」は市営火葬場である。同施設には 葬儀を行うための式場がないので、福岡市民の大多数

地方都市の民営斎場における空間と建築イメージの変遷

福岡県福岡市の事例を通して

-64 29 21 9 1 3 19 50 80 5 4 10 0 20 30 40 50 60 70 80 1954 1964 1974 1984 1994 2004 2014 葬儀事業所数 [ 箇所 ] 冠婚葬祭互助会 葬儀業 斎場数 [ 件 ] 開設年不詳 8 件 図 1 葬儀事業所数と斎場数

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2 つ斎場は減少した。3 式場以上の斎場の割合が高かっ た年代は、最初の開設ラッシュ期であるⅢ期だった。 2014 年 8 月現在では、2 式場を有するものが全斎場 の 42%と最も多く、次いで 1 式場が 27%、3 式場が 14%となった ( 図 3)。平均は 2.08 式場であった。 3.2 収容人数別にみる葬儀式場規模の変遷  斎場の開設年および式場の収容人数が判明した 79 件について、収容人数別式場数の累計を示す ( 図 4)。 100 人以上収容する式場を大式場、60 人未満を小式 場、その間を中式場と呼ぶ葬儀社が多いことを参照し、 グラフの項目分けを行った。Ⅲ期までの斎場は、様々 な大きさの式場をもつ大型施設が主流であった。特に 大型の斎場では、小式場は遺族控室としても使用され ていた。Ⅲ期以降、300 人までの大式場が増加し、全 式場数の 45%にのぼった。次に小式場が多いが、特 にⅧ期には、30 人未満の非常に小さな式場が増えた。 3.3 小結  本章では、各斎場が有する式場の数が減少し、施設 規模が縮小する実態が明らかになった。しかし、それ ぞれの式場は 100 人以上収容できる広さのものが最 も多く、近年も同様に増加している。予期せぬ会葬者 に対応するための広さは現在も必要とされており、葬 儀自体の縮小化に関しては一元的に判断できない。し かし最近では、特に小さい式場の需要も高まっている ことを確認できた。 4. 斎場の平面計画に関する考察 4.1 斎場の室構成と利用  斎場は、祭壇を設置して葬儀式を行う式場の他に、 霊安室、湯灌室、遺族や親族が休憩・仮眠をとるため の遺族控室 ( 以下、控室 )、会食室、導師控室、法要室、 が民営斎場で葬儀を行っている。市内の斎場は、地元 の専門葬儀社が運営するものが 44 件、互助会が 41 件、 農協 (JA) が 2 件であった※11。互助会のうち、他県に も広く斎場を展開する大手互助会は 5 社、福岡都市 圏だけに拠点を置く地元の互助会は 2 社であった。 2.2.3 福岡市と全国の葬儀業界動向とその比較  全国の葬儀の変遷と葬儀業界の動向、および福岡市 の動向を並行して追い、表 1 を作成した。全国の動 向については、民俗学の文献と、補足的に葬儀社のホー ムページ等から、福岡市については、現地調査でのヒ アリングや各葬儀社の沿革、電話帳の葬儀業欄の調査 から、各年代の主要な出来事を抽出した。全国的な斎 場建設ラッシュが起きる 90 年代より 15 年ほど早く、 福岡市には大型斎場が地元葬儀社によって建てられて いた。事業所数が激増した 2000 年前後には、他県の 大手互助会による新規参入や、地元葬儀社の買収・グ ループ化が起こった。またこの頃全国では、自然葬や 家族葬といった新しい形式の葬儀が登場していた。 2.3 小結  福岡市における葬儀業と斎場の発展の背景について 以下のことが明らかになった。  福岡市では、1980 年前後と 2000 年前後に、葬儀 業および斎場建設の隆盛期を迎えていた。2000 年前 後の発展は、当時まだ地元色が強かった福岡市の葬儀 業界へ、全国から大手互助会の新規参入があったこと が契機となった。以降、新しい葬儀を謳った業者が首 都圏より伝わり、福岡市で葬儀業界が多様化した。 3. 福岡市における斎場規模の変遷 3.1 斎場あたりの葬儀式場数について  斎場の施設規模を知る指標として、一斎場あたりの 葬儀式場 ( 以下、式場 ) 数がある。各斎場は 1978 年 以前から 2013 年まで 5 年ごとの開設年代Ⅰ期〜Ⅷ 期に分類し、年代比較を行った ( 図 2)。近年特に増 加したのは 1 式場型の斎場で、逆に 3 式場以上をも 8 件 (9%) 3 件 (3%) 4 件 (5%) 3 式場 12 件 (14%) 1 式場 24 件 (27%) 2 式場 37 件 (42%) 1 式場 2 式場 3 式場 4 式場 5 式場以上 不明 計 88 件 図 2 一斎場あたりの式場数推移 図 3 式場数内訳 (2014 年 ) 19 70 80 90 100 [%] 60 50 40 30 20 10 0 Ⅰ期 (-1978)('79-'83)Ⅱ期('84-'88)Ⅲ期('89-'93)Ⅳ期('94-'98)Ⅴ期('99-'03)Ⅵ期('04-'08)Ⅶ期('09-'13)Ⅶ期 開設数 [ 件 ] 2 1 1 1 1 1 1 2 4 3 4 1 2 2 2 2 2 7 10 9 11 8 5 1 8 3 11 15 21 70 [ 室 ] 60 50 40 30 20 10 0 Ⅰ期 収容人数別 式場数 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期 Ⅶ期 Ⅶ期 03 221 03331 4 10 8 8 11 2 11 5 2 14 18 14 6 2 25 27 38 7 3 23 33 26 10 57 6 6 38 71 17 30 ( 2 斎場 ) ( 1 ) ( 8 ) ( 3 ) ( 11 ) ( 15 ) ( 19 ) ( 10 ) 300 人以上 100-299 人 大式場 中式場 小式場 60-99 人 30-59 人 30 人未満 図 4 福岡市内の斎場における収容人数別式場数 ( 累計 ) 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 福 岡 市 の 葬 儀 社 と 斎 場 の 動 向 全 国 の 葬 儀 と 葬 儀 業 者 の 動 向 明治以前:地域社会が基盤の葬儀 明治中期:葬儀社の登場 昭和初期:葬列の廃止・自宅告別式の普及 Ⅱ大戦後:地方葬儀社の増加 1930 50 年ごろ 福岡市に初期の葬儀社が創業 〈70 年代後半:葬儀事業所数の急増〉 〈90 年代:大型の斎場が相次いで建設される〉 ●1948:冠婚葬祭互助会の発足 ( 神奈川県 )  〈以降、全国に互助会が増加 ( 愛知 , 大阪など )〉 ●高度経済成長期:自宅葬→斎場葬の移行  〈都市への人口流入と地域社会の衰退〉 ●大規模葬儀の隆盛 ■1974:市内初の斎場が開館 ■1997:互助会 A、市内第一号斎場を開館 ■1997:互助会 B( 兵庫県 )、地元葬儀社を買収 ■2000:互助会 C( 長崎県 )、福岡市に参入 ■2003:自然葬専門を名乗る業者の増加 ■2005:各種広告に「家族葬」の宣伝が増加 ●2002:「葬送の自由をすすめる会」法人化 ●1991「葬送の自由をすすめる会」相模湾で  散骨を行い、 自然葬と名付ける ●2006:葬儀社検索ウェブサイト運営会社設立 〈各葬儀社のインターネットサイト設置の契機〉 〈小規模・低価格葬儀のブランディングが進行〉 ●全国各地で斎場建設ラッシュ ●1995 ごろ:密葬にかわる「家族葬」が登場 〈2000:家族葬専門葬儀社設立、全国へ展開〉 ●祭壇や葬儀演出の個性化・多様化  〈1967:吉田茂前首相国葬儀で生花祭壇を使用〉 表 1 全国と福岡市の葬儀業界動向年表

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3 式の際に受付を出すロビー、浴室・洗面所などが含ま れる。控室内で湯灌を行ったり、食事をとったり、会 食室で法要を行ったりするなど、いくつかの部屋は兼 用可能であり、家具の配置などにより部屋の用途を適 宜変えて利用する場合がある。 4.2 福岡市の斎場における式場ユニット  斎場計画の際は式場が基本単位となり、その他の室 が式場に付帯するように計画される。本節ではまず、 ある喪家が一回の葬儀で利用する式場と、その他の室 の組を式場ユニットと呼び、室同士の関係によって A と B の式場ユニット型に分類した ( 図 5)。分類型が 判明した 126 例中、A 型が約 9 割を占めた。B 型は 小規模葬用の式場で、特に B-2 型は一軒の斎場や1フ ロアを一家族の専用空間とし、その中に式場や会食室 などが組み込まれる型であり、独立性・完結性が高い。 4.3 遺族控室面積に対する式場面積の比較  平面図が入手できた 44 件について、各斎場の控室 面積 Sw[ ㎡ ] に対する式場面積 Sh[ ㎡ ] の比 x を算出 した ( 式 1)。同一斎場内に複数の式場と控室がある場 合は、各式場ユニットに対して x の値を求めた。た だしこの計算式は、式場と控室が明確に区別できる A 型式場ユニットにのみ適応できる。可動壁によって分 割可能な式場については、開放した時の全体を求積し た※12。式場の後方に広いロビーを設け、式場を拡張 できる例に対しては、本来式場として計画されている、 壁と建具で囲まれた室の面積のみを採用した。 4.4 結果  Sh、Sw、x 値の分布、および年代ごとの x の平均 値を図 6~8 に示す。x の最小値は 0.40、最大値は 8.00 で全体平均は 2.37 であった。Sh は 50-200 ㎡に分布 が集中したが、Sw はⅥ ~ Ⅷ期で右肩上がりの分布を 示した。よってⅦ期からⅧ期への、x 値平均の急激な 低下は、Sw が Sh に近づいてきたことに起因する。 4. 5 小結  本章では、各式場とそれに付帯する控室の面積と、 両者の比について年代比較を行った。近年親族構成員 や会葬者の減少、家族葬の流行などから葬儀の縮小化 が指摘されているが※13、式場面積 Sh に関しては顕 著な増減はなかった。しかし現地調査では、大空間を 可動壁で仕切り、葬儀の規模に柔軟に対応する式場が 多いことや、椅子の配置を変えて大式場を少人数で使 用する場合があることが確認された。用意された式場 の広さと葬儀規模は必ずしも一致せず、大規模葬儀に 合わせて空間を設定しながら、小規模葬儀へも対応で きるような設えが求められている。一方控室は、風呂・ トイレ・台所などの設備の充実化、共用部にあった各 設備が控室内に組み込まれ遺族の専有性が高まったこ と、和室だった控室へ洋室が付加されたことが要因と なり、近年拡大していることが明らかになった。 5 斎場の建築イメージに関する考察 5.1 建物外形の年代比較  83 件の斎場の外形を、立面構成と屋根形状によっ て 10 つの分類型とその他に分け ( 図 9)、年代ごとに 集計しグラフを作成した ( 図 10)。分析は主要アクセ スのある面に対して行った。Ⅳ ~ Ⅵ期には偏りなく 様々な外形の斎場が開設されたが、Ⅶ ~ Ⅷ期はハコや イエ型、またはその組み合わせで構成された斎場が大 式場面積 Sh [ ㎡ ] 遺族控室面積 Sw [ ㎡ ] x = ( 式 1) ひとつの式場を基本単位として 控室や会食室が付帯する 【葬儀の形式】一般葬、社葬、 家族葬などさまざま 【葬儀の形式】家族葬、直葬など、近親者で行う葬儀 多式場型斎場の小式場の ユニットなどが含まれる 一軒貸しの「邸宅型」斎 場など独立したものが含 まれる 式場と控室を兼用し、 食事も行う場合が多い 全体が控室で式場はその中の一室としてある B B-1(7 件 ) B-2(7 件 ) A 89%(112/126 例 ) 11%(14/126) 式場 控室 会食室 導師控室 受付・ロビー 洗面 ・浴室 給湯室など 祭壇 図 5 式場と各室の相関図と式場ユニットの分類 0 100 200 300 800 700 600 550 [ ㎡ ] 350 Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期 Ⅶ期 Ⅶ期 A 型式場ユニット B 型式場ユニット C 型式場ユニット 0 20 40 60 80 100 120 160 180 140 Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期Ⅶ期 Ⅷ期 [ ㎡ ] 図 6 式場面積の分布 図 7 控室面積の分布 1.62 0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 8.0 9.0 7.0 Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期 Ⅶ期 Ⅷ期 2.90 年代別平均値 2.27 2.89 4.48 2.27 2.62 図 8 x 値の分布と年代別平均値 図 9 外形の分類 15 20 [件] 10 5 0Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期 Ⅶ期 Ⅷ期 ハコ+ハコ (曲面)型   その他(ビル+丸 ハコ+イエ(曲面)など) 2 3 2 2 2 2 2 2 2 3 1 1 1 11 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 3 3 5 4 5 9 3 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 ≧4F ≦3F イエ型 ハコ型 ビル型 ハコ+ハコ型 ハコ+ハコ(曲面)型   その他(ビル+丸 ハコ+イエ(曲面)など) イエ+イエ型 ハコ+イエ型 ハコ+丸型 ハコ+ビル型ハコ+ハコ(多軸)型 図 10 開設年代による外形の推移

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4 多数になり、曲面のファサードや丸屋根は少数派とな る。Ⅷ期は特にハコ型が増え、またイエ+イエ型の中 に木造住宅のような外観の斎場が見られた。 5.2 ファサードの構成要素と装飾の年代比較  先の 83 件のファサード 構 成 要 素 と し て、a.~n. の 14 項目を得た ( 表 2)。A 群 の b. 庇 は 32 件 に 見 ら れ、 年代差も特にはなかった。 a. 階段は 1997 年まで見られ、この後消失した。これ は 1998 年度より施行された「福岡市福祉のまちづく り条例」※14の影響が考えられる。  B 群の c. と d. の装飾を「軽快でモダン」、e.~h. を「重 厚で象徴的」、i.~l. を「洋風でクラシック」と、それ ぞれの印象効果を定義し、各斎場の該当要素数による 分布を示した ( 図 11)。Ⅲ ~ Ⅵ期の斎場は装飾が多様で、 グラフ全体に分布した。「クラシック」に寄った斎場 は大手互助会の経営が多く、その洋風の意匠には同じ 冠婚葬祭施設の結婚式場との関連が伺えた。結婚式場 は斎場より 20 年程早く、70 年代に発展し※15、本研 究対象の大手互助会も、斎場より結婚式場の建設が早 い。斎場のデザインに結婚式場を参照した可能性が指 摘できる。Ⅶ期以降は中心から図右側にかけて分布が 集中し、ハコ型でモダンな外観の斎場が多かった。  C 群の m. は建物上部などに設置された看板で、直 接外壁面に設置された n. よりも大きく目立つ。Ⅵ期 ~ Ⅶ期に多いが、この 13 件中 8 件が大手互助会による、 大型商業施設などを用途変更した斎場であった。この 場合の m. は、用途変更前の名残と考えられる。 5.3 電話帳広告にみる斎場のイメージの変遷  電話帳の「葬儀業」欄には、斎場の写真やパースを 用いた広告が見られる。写真 9 は外観パースを用い て全体像を大きく、迫力をもって伝えている。写真 10 も外観写真による広告だが、後にこれは式場と控 室の内観写真へ変わった ( 写真 11)。同様に外観写真 の掲載をやめた葬儀社の広告は他にも確認された。 5.4 小結  2000 年代まで福岡市内の斎場の外観は多様であっ たが、近年は形態が単純化し、装飾も減少しているこ とが、本章で明らかになった。また、用途変更による ものが多いことや、結婚式場との関連から、大手互助 会の斎場の意匠的特徴を分析した。電話帳広告からは、 各葬儀社の斎場の取り挙げ方の違いなど、宣伝上重視 する点の時代変化を見ることができた。 6 まとめ  本研究では、福岡市内の斎場の 80 年代と 90~2000 年代の 2 度の急激な増加について、その事実と社会的・ 業界史的背景との関連を指摘し、近年は斎場規模が縮 小傾向にあることを明らかにした。しかし、斎場内の 各式場の広さは最近も大きく変わらず、福岡市におけ る葬儀の縮小化の傾向を、平面計画に見ることはでき なかった。むしろ本研究の重要な論点は控室面積の拡 大現象にあり、葬儀の間で重視される空間や時間など、 市民の葬儀式に関する価値観の変化が、斎場の計画に 影響している可能性を示した。外観の意匠については、 形態の単純化や外観装飾の減少傾向を指摘し、斎場の イメージの変化を捉えることができた。 【参考文献】 1) 新谷尚紀・編『民俗小事典 死と葬送』吉川弘文館 ,2005 2) 井上章一『増補新版 霊柩車の誕生』朝日新聞出版 ,2013  3) 山田慎也『現代日本の死と葬儀 - 葬祭業の展開と死生観の変容 -』東京大学出版会 ,2007 4)「エリアレポート第 197 回 [ 再訪 ] 福岡市 ( 後編 )」『月刊フューネラルビジネス』綜合ユニコム株式 会社 ,2014 年 6 月 211 号 5)A. ファン=ヘネップ著 , 綾部恒雄・綾部裕子訳『通過儀礼』岩波書店 ,1995 年 6) 綾部恒雄・桑山敬己編『よくわかる文化人類学第 2 版』ミネルヴァ出版会 ,2006 7) 五十嵐太郎『「結婚式教会」の誕生』春秋社 ,2007 8) 福田充・八木澤壮一『葬儀施行記録からみた施設利用の変化と葬儀規模の縮小について』2011 9) 渡邊千恵子『家族の私事化と葬儀の変化』尚絅学院大学紀要 , 尚絅学院大学 ,2006,p131-137 10) 福岡市『福岡市福祉のまちづくり条例 施設整備マニュアル改訂版 2008』2008 11) NTT タウンページ株式会社『タウンワーク福岡地区版』2001 年、2013 年 12) NTT タウンページ株式会社『職業別電話帳』昭和 59 年、昭和 63 年 13) 各葬儀社ホームページ(資料編にアドレスを記載) 【注釈】 ※1 ファン=ヘネップ (1873-1957, 文化人類学者・民俗学者 , フランス ) がこの言葉を学術的に用いた。 人間が成長していく過程で、「1つの状態から別の状態へ移行するときの儀礼」を言い、出産、成人、結婚、 弔いなどの習慣として、世界のさまざまな民族の間で見られる。 ※2 本研究では、葬儀が行われる葬儀場を斎場と呼び、火葬場や火葬場に付属する葬祭場とは区別する。 ※3 他社からの買収や他グループへの加入後も、旧屋号を保存している葬儀社については 1 社と数えた。 ※4 1930 年代、雑誌『旅と伝説』の中で、各地のさまざまな儀礼が収集され、関東には柳田国男の「生 と死と食物」が掲載され、葬送儀礼における儀礼要素の研究が示されたとされる。 ※5 葬儀における合力扶助のための組織。村組や近隣組が葬儀の際に葬式組として機能する場合が普通。 ※6 参考文献 2),pp108-109.  ※7 明治 19 年に「東京葬儀社」が創業を開始した。 ※8 「基本は、毎月1000円~5000円程度の掛金を60回~100回程度払い込むと「結婚式」「お 葬式」あるいは「七五三、成人式などの通過儀礼」に際し、極めて経済的に儀式が執り行える会員制の 会社」。「全国の冠婚葬祭互助会のうち、多くが業界唯一の全国的な統合団体である一般社団法人全日本 冠婚葬祭互助協会 (以下、全互協と言う)に加盟し」全国的な連携体制を構築している。 ※9 参考文献 4),p78. ※10 福岡県の事業所・企業-平成 16 年 - 第 9 表 市区町村別、産業小分類別、従業者規模別民営事 業所数及び従業者数 (2) 北九州市、福岡市 による。ここで「葬儀事業所」とは、産業分類に基づいて、 葬儀社、斎場、葬儀会館を含む「葬儀業」と、「冠婚葬祭互助会」の事業所数を意味することとした。 ※11 JA の冠婚葬祭事業は、本来組合員への葬具貸出等を業務としていたが、現在では斎場運営や葬儀 施行も行う。組合員は割引額が適用されるが、サービスは組合員以外も受けられる。JA バンクは冠婚 葬祭用の定期積金サービスを行っており、互助会に近い性質も持つことから、ここでは専門葬儀社、互 助会、JA と、冠婚葬祭業の業態を 3 つに区別した。 ※12 あらかじめ用意された面積全体が、斎場計画の際に必要とされた式場の大きさであったと考えた。 ※13 参考研究 8),9) ※14 斎場は集会所に扱われ、すべての規模に対してこの条例の適応対象となっており、出入り口の段 差層等に関する基準が定められている。参考文献 10) ※15 参考文献 7) pp204-205 【図版出典】 図 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11 表 1,2: 筆者作成 図 11 中写真 1,3: 筆者撮影 , 写真 2,4,5,6,7,8: 各葬儀社ホームページより引用 ( 資料編にアドレスを記載 ) 写真 9,10,11: 参考文献 11)12) より引用 a.大きな階段 b.大きな庇 c.ガラスウォールd.ルーバー e.誇張した柱梁 f.門型のフレーム g.タイルのパターン h.ペンデンティブ k.アーチや丸窓 i.列柱 j.塔 l.出窓 m.単独ヴォリュー ム看板の付加 n.広い壁面に施設 名称やロゴ A群:機能の表出 B群:装飾的要素 C群:宣伝ツール 表 2 ファサードの構成要素 ( 写真 9)1988 年掲載 ( 写真 10)1995 年掲載 ( 写真 11)2008 年掲載 クラシック 象徴的 象徴的 モダン クラシック モダン クラシック 象徴的 象徴的 モダン クラシック モダン 0 1 1 2 2 3 3 ⅱ) イエ、イエ+イエ、ハコ+イエ型 1 2 3 0 1 1 2 2 3 3 ⅰ) ハコ、ハコ+ハコ ( 曲面 )( 多軸 ) 型 1 2 3 Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期 Ⅶ期 Ⅷ期 0 1 1 2 2 3 3 ⅳ) その他の型 ( ハコ + 丸やね型など ) 1 2 3 0 1 1 2 2 3 3 ⅲ) ビル、ビル + ハコ型 1 2 3 凡例: 1 2 3 4 5 6 7 8 図 11 開設年代および外形別ファサード装飾の印象分布

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