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駐車場の立地が観光振興に与える影響に関する考察

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Academic year: 2021

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駐車場の立地が観光振興に与える影響に関する考察

~神社仏閣を有する地域を事例として~

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU13606 甲賀 晶子

1 はじめに1

歴史的・文化的に貴重な神社仏閣(以下、「社 寺」という。)は、そのものが貴重な資源である とともに、安定した集客効果を持つ観光資源であ り、多くの自治体では観光振興として参道の活性 化に取り組んでいる。一方、モータリゼーション の発達に伴い、社寺は参拝者用に大規模な駐車場 を整備してきたが、その立地が参道店舗に経済的 な影響を与えている可能性がある。本稿では、駐 車場の立地が与える経済的な影響について実証 分析を行い、明らかにした結果、駐車場の立地を 考慮した政策を提言した。

2 参道の活性化に関する自治体の取組み 2.1 「参道」の定義

参道の狭義には、鳥居や山門などの結界内の通 路のみを示すが、広義には街道筋など人通りの多 いところから社寺に至る参詣道路の全てを示す。

本稿においては、参詣道路の内、鳥居や山門など の手前の街側を指し、昔から参拝者が多く集まり 商業が最も発達していたところとする。

2.2 参道の活性化に関する自治体の取組み 近年、中心市街地の空洞化が加速し、全国各地 で商店街の衰退が深刻化している。中心市街地は 城下町、門前町、宿場、港町として発展してきた 地区を起源とするところが多い。ゆえに、参道を 有する門前町においても、同様の傾向がみられる。

これに対し、参道の活性化に取り組む自治体は多

1 本稿は論文の要約であるため、参考文献等は論文を参照されたい

く、街並み整備や広報による集客促進などが進め られている。

環境改善の便益は地価に帰着するという、キャ ピタリゼーション仮説(資本化仮説)を前提とす ると、観光振興の目的は、自治体における政策の 効率性向上であると考えることができる。地域の 魅力増加の効用は、基本的にその受益が及ぶ範囲 の土地に、受益の程度に応じて帰着する。これは 地価に反映されるため、地価に連動する土地の固 定資産税による税収は、地域の魅力増加に伴い増 大する。よって、固定資産税の高さは自治体の政 策の優劣に直接反映される。固定資産税の増加を 図ることは地域の魅力をあげ、自治体の政策の効 率性をあげることとなる。

3 駐車場の立地に関する概要

参拝者を対象とした駐車場の立地は参拝者の 利便性に配慮し、また新たな土地確保の難しさ等 から、社寺の領地やその近隣に整備されることが 多い。本稿において、この駐車場の立地を「社寺 隣接型」と定義し、また、参拝者が参道を経由し 社寺に参拝する駐車場の立地を「参道誘導型」と する。

駐車場の設置は参拝者の利便性を向上させた が、社寺隣接型の設置により参道の通行者が減少 したと言われる。このことから、駐車場の立地が 参拝者の通行の流れに影響し、参道店舗の売上高 にも影響を与えているのではないかと考えるこ とができる。この場合には最適な経済活動がなさ れておらず、社会的な損失が発生している。

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4 当事者同士の交渉に関する理論分析

参道が社寺の領地である場合や社寺と参道店 舗が協調している場合は、参道の賑わいは社寺に とって重要であり、駐車場の立地に考慮するとい うインセンティブが社寺に働き、参道誘導型駐車 場が設置される。逆に、上記以外の場合は、社寺 のインセンティブは低くなると考えられる。よっ て、社寺と参道店舗で交渉が行われなければ、参 道誘導型駐車場は設置されないということにな る。なお、多くの駐車場が社寺隣接型という現状 から、社寺と参道店舗との間での交渉が行われて いない、もしくは行われていても成立していない ということが分かる。

駐車場の立地が与える経済的な影響が明らか になれば、参道店舗がまとまって社寺に金銭交渉 するという価値が生まれる。しかし、その交渉に 際して、取引費用を要するのであれば、交渉は成 立しない。

取引費用に関する重要な原理に「コースの定理」

がある。コースの定理とは、権利が明確で、その 権利に関する取引費用がゼロであるならば、誰に どういう権利を与えても、社会的には最適な状態 になるというものである。もっとも、取引費用が ゼロという仮定は実際には成り立ちにくく、コー スの定理が原型のまま働くということは想定し にくい。しかし、コースの定理の含意から取引費 用を極小化することにより、市場の失敗を防ぐこ とができる可能性が高まると考えられる。

5 実証分析の方針

駐車場の立地が与える経済的な影響を実証分 析するにあたって、資本化仮説を前提とする。

まず第1の実証分析として、駐車場の立地と地 価の関係を分析する。本稿における問題意識及び 本稿の主眼はここにある。

さらに、第1の実証分析により駐車場の立地が 地価に影響を与えるということが明らかになっ た場合、第2の実証分析として、駐車場の立地変

更に加え、参道の活性化を図った事例を取り上げ、

その効果を検証する。駐車場の立地変更に関する 政策の検討に活かすことが分析の着想である。

実証分析を実施するにあたっては、DID 推定量 を基本とし、固定効果モデルを採用する。

6 駐車場の立地が与える経済的な影響に関する 実証分析

6.1 駐車場の立地が参道地価に与える影響 6.1.1 分析対象と方法

分析対象は、参道誘導型の事例として金刀比羅 宮(香川県仲多度郡琴平町)、社寺隣接型の事例 として善通寺(香川県善通寺市)とする。

両社寺の駐車場の整備時期が異なることから、

自動車交通が大幅に増加した瀬戸大橋開通を利 用する。

分析期間は 1986~1995 年であるが、この間に バブル景気の資産上昇を含む。そのため、分析方 法は、各地域における参道と参道以外の地価の差 分を比較する、DDD 推定量とする。トリートメン トグループは最寄駅から各社寺まで参拝者が通 るメイン道路及び琴平町、コントロールグループ は参拝者が通らない道路及び善通寺市とする。

6.1.2 推計モデル

推計モデルは次式を用いる。

lnP

rt

=β

0

+β

1

AD

rt

+β

2

AD

rt

*TGD

monzen_rt

+β

3

AD

rt

*TGD

kotohira_rt

+ β

4

AD

rt

* TGD

monzen_rt

* TGD

kotohira_rt

+δ

rt

+ε

rt

lnP

rt:路線価対数値,

AD

rt:瀬戸大橋開通ダミー,

TGD

monzen_rt:メイン道路ダミー,

TGD

kotohira_rt:琴平町ダミー,

δrt:固定効果,εrt:誤差項,

r:路線価区間,t:年

(3)

3

被説明変数  In(相続税路線価)

係数 標準誤差

整備ダミ- -0.4743 *** 0.0912

0.7305 *** 0.1398 0.5222 *** 0.1297

建物景観整備数 0.0044 ** 0.0020

4.8144 *** 0.0495

観測数 224

決定係数 0.2281

※ ***,**,*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。

定数項

説明変数

整備ダミー*

内宮参道2(おかげ横丁~参道誘導型駐車場)ダミー 整備ダミー*

内宮参道1(社寺隣接型駐車場~おかげ横丁)ダミー

6.1.3 推計結果及び考察 推計した結果を表 1 に示す。

表 1 推計結果

自動車交通が増加した瀬戸大橋開通によりメ イン道路に与えた効果を琴平町と善通寺市とで 比較した結果、参道誘導型駐車場を有する琴平町 の方が約 12%、地価が高く、統計的に有意な数値 になった。したがって、駐車場の立地が異なるこ とにより参道の地価に影響が生じ、参道誘導型の 駐車場を設置した場合の方が地価は上昇すると 示された。よって、参道店舗は、参道誘導型の駐 車場をつくるよう社寺と交渉する価値があると いえ、交渉に際し取引費用がゼロであるならば、

コースの定理が成り立つ。

6.2 駐車場の立地変更と参道の活性化策の組合 せ効果

6.2.1 分析対象と方法

駐車場の立地変更に加え、参道の活性化を図っ た事例として伊勢神宮内宮を取り上げ、その効果 を検証する。なお本分析は、組合せ効果の検証で あり、それぞれの効果を数値として導くことを目 的としない。分析方法は DID 推定量とし、社寺隣 接型及び参道誘導型の駐車場がある伊勢神宮内 宮の参道をトリートメントグループ、社寺隣接型 の駐車場のみがある外宮の参道をコントロール グループとする。分析期間は、おかげ横丁及び参 道誘導型駐車場が開業した年を含み、1992~2005 年とし、参拝客数増加の影響を極力減らすため、

内宮参拝客数の変動が少ない期間を採用した。

6.2.2 推計モデル

推計モデルは次式を用いる。

lnP

rt

=β

0

+β

1

AD

rt

+β

2

AD

rt

*TGD

sando1_rt

+β

3

AD

rt

*TGD

sando2_rt

+β

4

X

keikan_rt

+δ

rt

+ε

rt

lnP

rt:路線価対数値,

AD

rt:おかげ横丁及び参道 誘導型駐車場整備ダミー,

TGD

sando1_rt:内宮参道 1(社寺隣接型駐車場~おかげ横丁)ダミー,

TGD

sando2_rt:内宮参道 2(おかげ横丁~参道誘導型駐

車場)ダミー,

X

keikan_rt:建物景観整備数,

δrt:固定効果,εrt:誤差項,r:路線価区間,t:年

6.2.3 推計結果及び考察 推計した結果を表2に示す。

表2 推計結果

外宮参道に比べ、社寺隣接駐車場~おかげ横丁 で約 73%、おかげ横丁~参道誘導型駐車場で約 52%、地価が高く、統計的に有意な数値となった。

内宮参拝客数の変動は少ないことから、仮に、参 道誘導型駐車場が整備されず、おかげ横丁のみが 整備された場合は、おかげ横丁~参道誘導型駐車 場の地価の上昇はなかったと考えることができ る。逆に、おかげ横丁が整備されず、参道誘導型 駐車場のみが整備された場合は、参拝者の参道誘 導型駐車場を利用するというインセンティブは 低く、社寺隣接型駐車場~道誘導型駐車場の地価 の上昇は少なかったと考えることができる。よっ て、観光振興策として、駐車場の立地変更と参道 の活性化策を組合せることで、より効果があがる といえる。

被説明変数  In(相続税路線価)

係数 標準誤差

瀬戸大橋開通ダミ- 0.4223 *** 0.0165

瀬戸大橋開通ダミー*門前ダミー -0.1815 *** 0.0257 瀬戸大橋開通ダミー*琴平町ダミー -0.1876 *** 0.0226 0.1188 *** 0.0406 4.2415 *** 0.0077

観測数 1328

決定係数 0.4748

※ ***,**,*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。

定数項

説明変数

瀬戸大橋開通ダミー*門前ダミー*琴平町ダミー

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7 政策提言

著名な社寺を有する地域における観光振興は、

社寺によって生み出される外部性をその地域や 自治体において内部化することである。本稿から、

社寺を有する地域において観光振興を進めるの であれば、従来の街並み整備などの政策だけでは なく、駐車場の立地を考慮した政策立案を行うべ きだと言える。また、駐車場の立地の考慮により、

人の流れをコントロールし、地域の収益性をあげ るということは、その他の観光地にも応用が効く。

しかし、社寺を有する地域においては、既に社 寺隣接型の駐車場がある場合が多く、立地変更を 行うにあたっては土地利用の変更を伴う。そのた め、社寺と参道店舗、また地域間において様々な 調整が必要となり、相当程度の取引費用が発生す ると考えられる。

政策としては、当事者の交渉による外部性の内 部化が望ましい。市場の失敗対策として自治体が 介入する際に、私人間での交換の利益が可能な限 り大きくなるよう促進することは、政府の失敗を 招く事態を避けることに寄与することができる。

よって、自治体の責務は、コースの定理を機能さ せるべく、社寺と参道店舗の交渉を促し、交渉に かかる取引費用を極小化することである。そのた め、まず、当事者に駐車場の立地が与える影響に ついて情報提供し、交渉する価値の理解を得るこ とが必要である。情報としては、参道誘導型駐車 場の設置により参道店舗が受けるプラスの経済 的影響や、参道が活性化することにより参拝者が 増えるという社寺側のメリットなどが考えられ る。また、具体的に協議を進める場としてのプラ ットフォームの設置や、実際にどれほど資産価値 が上昇するのかという効果予測も必要である。

しかし、このような取組みを進めてもコースの 定理が機能しがたい場合、つまり関係者が多く交 渉が成立しない場合は、自治体が直接、外部性の 内部化に関して役割を果たす余地もある。その場 合は、数値設定が困難であり柔軟な対応が難しい

直接的規制や公共整備より、税制優遇や補助金な どによる経済的インセンティブが優れている。

現実的には社寺隣接型駐車場をすべて無くし、

参道誘導型駐車場のみにすることは難しい。よっ て、方法としては、新たに参道誘導型駐車場を設 置し、あわせて参道の魅力向上や駐車場料金の誘 導等により参拝者のインセンティブに働きかけ ることが有効であると考える。

8 おわりに

地域や自治体によっては、駐車場の立地による 問題を意識しているところはあるものの、実際に 政策として実施しているところはまだ少ない。既 に実施しているところも公共駐車場の整備など 自治体主導のものに留まっている。一般的に、自 治体職員にとって、私人間の取引を促進する政策 は、整備や規制などの直接的な政策より要する労 力が不確実で敬遠されがちである。しかし、私人 間の交渉を促進し、住民が主体のまちづくりを進 めることによって、住民の利益を公平にかつ最大 化できると考える。

今後の課題として以下を挙げる。本稿は、駐車 場の立地が参道の地価に与える影響を明らかに したものであり、立地変更による便益を推定する といった、普遍的な指針として用いることは考え ていない。また、参道誘導型駐車場と社寺との距 離の関係について言及していない。さらに駐車場 の立地変更が与える影響として、新たな渋滞や歩 行の安全性上昇といった外部性も考えられ、駐車 場の立地変更は様々な影響をもたらす。今後、更 に綿密な分析を行い、駐車場の立地変更が与える 影響の予測モデルを構築することで本稿以上に 踏み込んだ政策提言も成し得ると考える。

【主な参考文献】

福井秀夫(2007)『ケースからはじめよう 法と経済学』

日本評論社

中川雅之(2008)『公共経済学と都市政策』日本評論社 金本良嗣(1997)『都市経済学』東洋経済新報社

参照

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