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労働者派遣法における派遣解禁効果に関する実証分析

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Academic year: 2021

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- 1 -

賃金(円)

就業者数(人)

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0

取引費用を 差し引いた 労働需要 取引費用

の低減

名目上の賃金は 上昇するかどうか わからないが、

実質の賃金は 上昇する 派遣解禁

派遣解禁

労働者派遣法における派遣解禁効果に関する実証分析

-建設業務への適用が建設労働市場に与える影響について-

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU12624 湯川大介

1.はじめに1

我が国の建設産業は,近年の建設投資の急激かつ大幅な 減少により過剰供給構造となっている.また,競争の激化 や昨今の経済情勢等により,建設産業を取り巻く経営環境 は大変厳しい状況にある.特に地方部においては,地域社 会を支えてきた建設企業が疲弊し,これまで担ってきた災 害対応等の機能の維持が困難となり,災害対応空白地帯が 発生する等の問題が指摘されている.さらには,労働環境 の悪化等により,若年入職者の減少と高齢化が著しく進行 しており,重層下請構造における不透明な契約関係の問題 が指摘されている.

一方で,1985 年に制定された「労働者派遣事業の適正 な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関す る法律」(昭和60年法律第88号,以下「労働者派遣法」

という.)において,建設業務は適用除外業務とされてい るが,建設業務への派遣が解禁された場合の建設労働市場 は,取引費用の低減により就業者数が増加し,社会的余剰 も増大することが推測される.これらのことから,労働者 派遣法における建設業務の適用除外は,今後も維持すべき かどうか検討する必要がある.

本稿は,建設業と製造業を対象に,2004 年に製造業務 への派遣が解禁された製造業における派遣解禁効果の推 計を通じて,建設業務への派遣が解禁された場合の建設業 への効果を,DID分析 により明らかにすることを目的と する.

2004 年に派遣が解禁された製造業務に関する先行研究 は,藤井 (2004),出井 (2010),森岡 (2010),礒 (2011) な どが挙げられる.磯の研究は製造業務への派遣解禁が雇用 増に与えた影響について実証分析しているが,『事業所・

企業統計調査』の2001年と2006年のデータを用いたDID 分析であり,法改正の過渡期を越えた分析をしたものでは ない.本稿はより長期的なデータを用いて,就業者数,賃 金及び労働災害発生率に関する派遣解禁の効果を実証分 析により明らかにした.

分析の結果,派遣解禁により就業者数が増加し,賃金は 管理部門を担う高学歴の労働者の賃金が上昇するととも に,派遣労働者に代替されやすい低学歴の労働者の賃金が 低下したことなどが示された.さらに,労働災害発生率が 有意に上昇しないことなども示された.

1 本稿は論文の要約であるため,分析や参考文献等の詳細 については論文を参照されたい.

2.建設業務における派遣解禁効果の理論分析 2.1 建設労働市場に関する政府の介入

福井 (2007) によると,政府の法などによる市場介入が 正当化されるのは,いわゆる「市場の失敗」がある場合に 限られることから,建設業務を労働者派遣法の適用除外業 務としていることについて,「市場の失敗」の5つの観点 から整理すると,建設労働市場(サービス)には建設企業 と労働者の間に,情報の非対称性に対する資格制度(土木 施工管理技士、技術士等)など,政府が介入すべき問題は あるが,それを雇用形態に関する介入という形で対処する のは望ましくないと考えられる.

2.2 派遣が解禁された場合の建設労働市場

建設業務に派遣が解禁された場合の建設労働市場につ いて考えてみると,派遣解禁は,取引費用の低減により,

賃金が少し安くても働きたいという人が現れるという効 果と,取引費用の低減で賃金が少し高くても雇いたいとい う企業が現れるという効果がある.図1のように,供給曲 線と需要曲線が右にシフトすると考えられることから,就 業者数は増加すると考えられ,社会的余剰(網掛部)も増 大することが期待できる.

図1 派遣解禁のイメージ

3.建設業と製造業について

本稿は,建設業務における労働者派遣法適用が建設労働 市場に与える影響を分析するものであるが,建設業務への 派遣が解禁されたことがないことから,直接的に建設業務

(2)

- 2 - への派遣解禁の効果を分析することはできない.そこで,

派遣解禁の政策効果を分析するにあたって,建設業と製造 業が他産業と比較して類似していることから,2004 年に 製造業務への派遣が解禁された製造業における派遣解禁 の効果を通じて,建設業務への派遣が解禁された場合の効 果を推計することとした.

4.製造業務における派遣解禁効果の実証分析

本章では,2004 年に製造業務への派遣が解禁された製 造業における派遣解禁の効果を実証分析するにあたり,以 下のとおり仮説を3つ設定した.

仮説① 就業者数が増加したのではないか

仮説② 賃金(直接雇用)が上昇したのではないか 仮説③ 労働災害発生率が上昇したのか

4.1 派遣解禁と就業者数

2004 年に施行された製造業務への派遣解禁は,全国一 律に一斉に施行されていることから,直接的にその影響を 実証分析することはできない.したがって,実証分析にお ける推定モデルとして,トリートメントグループを製造業,

コントロールグループを建設業としたDID分析を行った.

推計式と推定結果を式1,表1に示す.

ln(Employee)ijt= α+β1(Manufacturing)i+β2(Year)t

+β3{(Manufacturing)i× (Policy)t}+β4(Prefecture)j +β5ln(Population)jt+β6(Economy)it

+β7{(Economy)it× (Manufacturing)i} + 𝜀ijt ・・・式1

Employee Manufacturing Year Policy

就業者数 製造業ダミー 年ダミー 政策導入ダミー

Prefecture Population Economy

都道府県ダミー 生産年齢人口 景況指数

表1 推定結果

ln(Employee)

OLS Coef. Std. Err.

Manufacturing 0.619 0.041 ***

Year_1995 -0.088 0.185

Year_2000 -0.179 0.204

Year_2010 -0.516 0.242 **

Manu×Policy 0.127 0.073 *

Prefecture (省略)

ln(Population) 0.347 0.421

Economy -0.003 0.002

Economy×

Manufacturing 0.002 0.001 *

_cons 5.819 5.762

Number of obs 376

Adj R-squared 0.930

注)***,**,*は,それぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に 有意であることを示す.(以下,省略)

分析の結果, DID estimatorである製造業ダミーと政策 導入ダミーの交差項は,有意にプラスの結果が得られた.

派遣解禁により製造業の就業者数が約 13%増加したこと を示しているが,実際には就業者数が減少していることか ら,派遣解禁により減少幅を抑えることができたと考える ことができる.

4.2 派遣解禁と賃金

就業者数と同様に,実証分析における推定モデルとして DID分析の手法を用いることとした.

但し,ここでは派遣解禁が賃金にどのような影響を与え たのかを分析するため,厚生労働省『賃金構造基本統計調 査』における一般労働者(製造業務への派遣労働者は含ま れていない)の賃金のデータで分析することとする.推計 式と推定結果を式2,表2に示す.

ln(Wage)ijt= α+β1(Manufacturing)i+β2(Year)t

+β3{(Manufacturing)i× (Policy)t}+β4(Corporate scale)j +β5(Sex)j+β6(Education)j+β7(Age)j+β8(Economy)it

+β9{(Economy)it× (Manufacturing)i} + 𝜀ijt ・・・式2

Wage Manufacturing Year Policy

賃金 製造業ダミー 年ダミー 政策導入ダミー

Corporate scale Sex Education Age Economy

企業規模ダミー 性別ダミー 学歴ダミー 年齢階級ダミー 景況指数

表2 推定結果

ln(Wage)

OLS Coef. Std. Err.

Manufacturing -0.073 0.008 ***

Manu×Policy -0.005 0.011

Year (省略)

Corporate scale (省略)

Sex (省略)

Education (省略)

Age (省略)

Economy 0.0007 0.0003 **

Economy×

Manufacturing -0.0005 0.0003 *

_cons 11.655 0.018 ***

Number of obs 8459

Adj R-squared 0.760

分析の結果,DID estimatorである製造業ダミーと政策導 入ダミーの交差項は,有意な結果が得られなかった.そこ で,派遣解禁の賃金への政策効果を詳細に分析するために,

年齢階級に着目して分析したが,ほとんどの年齢階級で,

DID estimator である製造業ダミーと政策導入ダミーと年

齢階級ダミーの交差項は,有意な結果が得られなかった.

(3)

- 3 - さらに,派遣解禁の賃金への政策効果を詳細に分析する ために,学歴に着目して分析した.推定結果を表3に示す.

表3 推定結果

ln(Wage)

OLS Coef. Std. Err.

Manufacturing -0.072 0.008 ***

Manu×Policy

×Education 1(中学) -0.056 0.015 ***

Manu×Policy

×Education 2(高校) -0.047 0.014 ***

Manu×Policy

×Education 3(短大) -0.017 0.015 Manu×Policy

×Education 4(大学) 0.104 0.015 ***

(省略) (省略)

Economy 0.0007 0.0003 **

Economy×

Manufacturing

-0.0005 0.0003 *

_cons 11.649 0.018 ***

Number of obs 8459

Adj R-squared 0.762

分析の結果,低学歴(中学卒・高校卒)で,DID estimator である製造業ダミーと政策導入ダミーと学歴ダミーの交 差項は,有意にマイナスの結果が得られ,高学歴(大学卒・

大学院卒)で有意にプラスの結果が得られた.派遣解禁に より,製造業の低学歴の賃金は約5%低下し,製造業の高 学歴の賃金が約10%上昇したことが明らかとなった.

4.3 派遣解禁と労働災害発生率

「製造業全就業者数に占める派遣・下請従業者数の割合」

に対して「製造業全就業者数に占める労働災害死傷者数の 割合」が有意な影響を受けているのかどうかについて分析 することとし,労働災害死傷者数の割合を被説明変数とし てOLSを用いた回帰分析を行った.推計式と推定結果を 式3,表4に示す.

(Casualties rate)jt

= α+β1(Dispatched and Subcontracted rate)jt

+β2{(Dispatched and Subcontracted rate)jt× (Policy)t} +β3(Year)t+β4(Manufacturing group)j

+β5(Office scale)j+ 𝜀jt ・・・ 式3

Casualties rate

Dispatched and Subcontracted rate Policy

Year

Manufacturing group Office scale

労働災害死傷者率 派遣・下請従業者率 政策導入ダミー 年ダミー

製造業中分類ダミー 事業場規模ダミー

表4 推定結果

Casualties rate

OLS Coef. Std. Err.

Dis and Sub rate 0.001 0.009

Dis and Sub rate ×Policy 0.009 0.007

Year (省略)

Manufacturing group (省略)

Office scale (省略)

_cons 1.065 0.073 ***

Number of obs 270

Adj R-squared 0.691

分析の結果,着目すべき変数である「製造業全就業者数 に占める派遣・下請従業者数の割合」と政策導入ダミーの 交差項は,有意な結果が得られなかった.

5.建設労働災害と雇用形態に関する実証分析

本章では参考までに,建設労働災害と雇用形態に関して 実証分析することとする.

建設業においては建設業務への派遣は解禁されていな いが,元請か下請か,常雇か日雇かなど多様な雇用形態が ある.そこで,建設労働災害の被災者の雇用形態が,被災 者の全治日数に有意に影響を与えているかどうかについ てOLSを用いた回帰分析を行った.推計式と推定結果を 式4,表5に示す.

ln(Cure days)i= α+β1(Sex)i+β2(Age)i

+β3(Experience year)i+β4(Entrance days)i

+β5(Employee Pattern1)i+β6(Employee Pattern2)i +β7(Salary)i+ 𝜀i ・・・ 式4

表5 推定結果

ln(Cure days)

OLS(死亡:10年)

Coef. Std. Err.

Sex 0.425 0.529

Age 0.010 0.005 *

Experience year -0.001 0.006

Entrance days -0.001 0.0006 **

Employee P-1(元請) 0.083 0.748

Employee P-1(下請) 0.093 0.742

Employee P-2(常雇) -0.430 0.293

Employee P-2(日雇) 0.177 0.357

Employee P-2(臨時) -0.132 0.373

Salary(月給) 0.224 0.416

Salary(日給・月給) 0.144 0.409

_cons 3.393 1.048 ***

Number of obs 763

Adj R-squared 0.013

(4)

- 4 - Cure days

Sex Age

Experience year Entrance days Employee Pattern1 Employee Pattern2 Salary

全治日数 性別ダミー 年齢 経験年数 現場入場日数

雇用形態ダミー(元請,下請など)

雇用形態ダミー(常雇,日雇など)

給与ダミー(月給,日給・月給)

OLS による分析は,被説明変数の死亡の全治日数を,

1年(365日),5年(1,825日),10年(3,650日)とする,

3パターンとした.

分析の結果,全てのパターンにおいて,着目すべき変数 である雇用形態に関する変数は,有意な結果が得られなか った.

6.まとめ

6.1 分析結果のまとめと考察

まず,就業者数については,派遣解禁によって,建設業 と比較したときに有意に増加したことが明らかとなった.

もし製造業務への派遣を解禁していなければ,製造業の就 業者数はより減少していたと考えられる.

次に賃金については,派遣解禁の効果を分析する上で派 遣労働者の賃金を直接分析することはできないことから,

直接雇用されている一般労働者の賃金について分析した.

分析の結果,派遣解禁により製造業の賃金(直接雇用の一 般労働者)が上昇したかどうかについては,有意な結果は 得られなかった.そこで,政策効果を年齢階級と学歴で詳 細に分析してみると,年齢階級に関してはほとんどの年齢 階級で有意な結果が得られなかったが,学歴に関しては高 学歴の賃金が有意に上昇し,低学歴の賃金が有意に低下し たことが明らかとなった.

次に,労働災害については,派遣解禁により製造業の労 働災害発生率が有意に上昇したとはいえないことが明ら かとなった.

また,参考までに,建設労働災害についても実証分析し てみると,建設労働災害と雇用形態に有意に影響があると はいえないことが明らかとなった.

6.2 政策提言

労働者派遣法において、建設業務は適用除外業務とされ ているが,建設労働市場には建設企業と労働者の間に,情 報の非対称性に対する資格制度(土木施工管理技士,技術 士等)など,政府が介入すべき問題はあるが,それを雇用 形態に関する介入という形で対処するのは望ましくない と考えられる.また,建設業務に派遣が解禁された場合の 建設労働市場は,取引費用の低減により就業者数が増加し,

社会的余剰も増大することが推測される.

実証分析の結果,派遣解禁により就業者数が増加し,賃 金は管理部門を担う高学歴の労働者の賃金が上昇すると ともに,派遣労働者に代替されやすい低学歴の労働者の賃 金が低下したことなどが示された.

これは,派遣解禁により市場の歪みが改善されたことを 意味していると考えられる.さらに,懸念される労働災害 発生率が有意に上昇しないことなども明らかにした.以上 により,労働者派遣法における建設業務の適用除外は,撤 廃すべきであると考える.

建設業務を労働者派遣法の適用除外としたことは,不良 不適格業者の排除や安全衛生上の悪影響を懸念したため と考えられるが,これらに対する規制は,建設業法におけ る建設業許可審査や,労働安全衛生法,入札契約適正化法 等により対処すべきと考えられる.

また,建設業務への派遣が解禁された場合の建設労働市 場について考察すると,製造業務における派遣解禁後と同 様に,派遣解禁後には多くの建設工事現場で派遣労働が活 用されると思われるが,請負労働が完全に派遣労働に置き 換わっていくということではなく,請負労働と派遣労働と が併用されると考えられる.

なお,2006 年に法改正された建設労働者雇用改善法に おいては,建設業務労働者就業機会確保事業が可能となっ ており,事業主が自己の雇用する常用労働者を他の事業主 に一時的に送り出すことで,一時的に余剰となる労働力の 需給調整が可能となり雇用の安定が図られるとされてい るが,厚生労働大臣の認定基準が非常に厳しく,全国的に 見てもあまり活用されていない状況である.しかしながら,

この法改正自体が,建設業務への新たな労働力需給調整シ ステム導入の必要性を示しているものと考えられる.

以上により,建設業務への派遣を解禁する際には,建設 労働者雇用改善法における建設業務労働者就業機会確保 事業の問題点を整理した上で,労働災害が発生した場合の 責任の所在や労災保険の適用などに関して,派遣労働者が 確実に保護されるよう検討すべきである.

6.3 分析の限界と今後の課題

まず,2004 年の法改正で派遣が解禁されたのは「製造 業務」であって,法改正以前から「製造業」に従事してい る労働者には,「製造業務」以外の派遣労働者が含まれて いる.また,実証分析にあたっては,データの制約から産 業ごとに分析することになり,製造業務そのものに従事す る労働者だけでなく,営業や事務職など他の職種の労働者 も混在している.このことは,「建設業務」と「建設業」

でも同様である.

次に,DID分析においては,派遣解禁以外の効果をコン トロールするため,完全失業率や海外現地法人数,海外生 産比率などを投入したが有意な結果は得られなかった.最 終的には生産年齢人口と景況指数を投入したが,より適切 な変数を検討する余地はあると考えられる.

最後に,本研究は建設業務への派遣解禁効果を分析する ことを目的としているため,実際に派遣が解禁されればよ り精度の高い分析が可能となると考えられる.

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