様式8の1の1 別紙1
論文の内容の要旨
専攻名 システム創成工学専攻 氏 名 田中 誠一
近年,地上デジタル放送など放送インフラのデジタル化,映像表示装置の大画面化 や高解像度のディスプレイ開発などの技術発展,撮像装置の高画素化,データ圧縮技 術の向上によって,大画面高品質映像が急速に普及している.大画面高品質映像は,
視聴者に「あたかもその場所にいるような感じ」である臨場感や,「表示されている対 象物が実物と同じ感じ」である実物感を高める効果が期待され,これまでの映像では 得る事ができなかった感動や興奮が得られる次世代の大画面高品質映像ライフを楽し む時代が到来すると期待されている.しかし,視聴者が楽しめる大画面高品質映像と は何か,ふさわしいコンテンツとは何かなど,視聴者の観点からの評価方法が確立し ていない状況にある.今後さらに加速する映像技術で普及する大画面高品質映像を広 く社会に浸透させるためには,大画面高品質映像にふさわしい映像コンテンツの感性 評価手法を確立し,その手法に基づいた数多くの実験データを検証,分析することが 重要である.
本研究では,大画面高品質映像で視聴者が感じる印象につ いて,これを評価するた めの感性評価手法を提案し,この手法に基づいた感性評価実験にて大画面高品質映像 にふさわしい映像コンテンツの条件を検証する.
本論文は6章から構成されており,以下に各章の内容を述べる.
第1章では,本研究の背景である大画面高品質映像の進展と,その普及に必要な課 題について述べる.さらに,その課題を解決するためになされた本研究の目的につい て述べる.
第2章では,まず大画面高品質映像を定義し,これを広く社会に普及させる 映像表 示技術,映像撮影技術,映像符号化技術の進展と,その開発設計の指針となる人間の 視覚特性について述べる.さらに,ユーザに迫力や感動を与える次世代映像ライフを 実現させるために必要な,感性評価方法の現状とその展望について述べる.
第3章では,大画面高品質映像で視聴者が感じる印象を評価する感性評価手法を提 案する.4K解像度と2K解像度の映像で視聴者が感じる印象の違いについて,この 手法に基づく感性評価実験の結果から,提案した感性評価手法は大画面高品質映像か ら期待される映像の「品質感」等の印象を正確に評価できることを明らかにした.ま た,視聴者が近付いて見る程に被写体の質感印象が高まるといった,現実での知覚体 験に近い視聴が大画面高品質映像では可能であることが示唆された .その上で,提案手 法の有効性を考察するとともに,大画面高品質映像にふさわしい良質な映像コンテン
ツの条件やその映像視聴スタイルの方向性について考察した.
第4章では,大画面高品質映像の代表的映像コンテンツを4K解像度と2K解像度 で見た時の印象の違いについて感性評価実験で検討した.得られた評価結果から,大 画面高品質映像コンテンツには「空間を表現した映像」と「記憶印象を持たない被写 体」が適していることと,空間表現方法として画面全体に焦点を合わせた「重なり」や
「線遠近法」が効果的であることが示された.一方,映像をぼかす「大気遠近法」で 大画面高品質映像の質感印象を損なう可能性があることや,「線遠近法」による過度な 空間表現で視聴者に違和感を与える可能性があることが示唆された.
第5章では,前章で示されたぼかし表現による大画面高品質映像の質感印象の低下 と過度に強調された空間表現による違和感に着目し,これを詳細に検討する実験につ いて述べる.具体的には,4K解像度と2K解像度の映像に「ぼかし」を画像処理で 加え,その印象差を感性評価実験にて検討した.実験結果から,画面周辺部分のぼか し表現が「線遠近法」による過度な空間表現の違和感を軽減させ,画面全体の印象を 向上させることが明らかとなった.
第6章は結論であり,本研究で行った研究の概要と考察された知見についてまとめ,
研究全体の結論と今後の4K解像度や8K解像度の映像コンテンツの向かうべき方向 性を示し,映像産業の発展に寄与するための今後の課題を述べた.