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ジョイント・ベンチャーの持続的な成功要件に関する研究

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Academic year: 2022

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〈専門職学位論文〉                     2018 年 3 月修了(予定) 

 

ジョイント・ベンチャーの持続的な成功要件に関する研究  

~素材業界の事例からの考察~ 

 

学籍番号:57164038 氏名:藤本 賢一  ゼミ名称:事業創造とアントレプレナー 長谷川ゼミ 

主査:長谷川 博和教授  

副査:杉浦 正和教授 副査:岩田 松雄教授   

概 要 

現在、企業を取り巻く環境は過去に例を見ない急激なスピードで変化しており、自社の競争優位性があっと いう間に通用しなくなることが現実に多く起こっている。これは世界経済の急速なグローバル化と IT 技術の普 及、それに伴うイノベーションにより企業を取り巻く環境が予測困難になっているためであり、「VUCA」という 言葉でも表現されている。日々進化する技術革新により既存の競争優位性は簡単に無効化され、企業の規模に 関係なく従来は単独で行っていた環境適応が難しくなってきている。本研究では、自社の限られた経営資源の 有効活用と自社が保有していない経営資源の獲得の手段として、他企業と資本・技術を提携するジョイント・

ベンチャーにフォーカスし、持続的に成功していくために要件について考察を行った。

まず先行研究で、複数異なる文化が混在する組織のマネジメントに関する先行研究について取り上げ、確認 した。そこから明らかになった「理念の共有」「両パートナーの経営戦略との整合性」「パートナー企業の理 解」という要件を基に初期仮説を構築し、戦後より活発にジョイント・ベンチャーを活用しているゴム業界を 事例研究することで仮説の検証を行った。その結果、ジョイント・ベンチャーを持続的に成功させるには初期 仮説で示した 3 要件が必要であることを確認し、さらに 3 要件が同列で存在するのではなく重要度があること がわかった。

経営戦略は通常 3 年から 5 年ごとに更新されるが、新しい戦略と整合性を失うことでジョイント・ベンチャ ーが機能しなくなることがあるため、親会社は設立したタイミングだけでなく設立後も定期的に(少なくとも年 に 1 回は)ジョイント・ベンチャーと経営戦略との関係についての整合性が取れているか確認することが必要で ある。さらにジョイント・ベンチャーを通じて相手パートナーの考えを親会社が取り込むことで、さらなるシ ナジーの可能性を検討することができることがわかった。設立後も、これらの活動を行うことで、期待してい

(2)

るシナジーを持続的に獲得できることを明らかにした。

ますます環境変化のスピードが早くなるグローバル社会において、ジョイント・ベンチャーが主要な選択肢 として活用につながれば幸いである。

(3)

<目次>

第1章 はじめに ... 5

第一節 問題意識と研究目的 ... 5

第2章 ジョイント・ベンチャーの現状と課題 ... 6

第一節 ジョイント・ベンチャーについて ... 6

第一項 ジョイント・ベンチャーの定義 ... 6

第二項 ジョイント・ベンチャーの特長 ... 6

第三項 シナジーの類型 ... 8

第二節 ジョイント・ベンチャーの現状 ... 11

第一項 業種別ジョイント・ベンチャー件数の推移 ... 11

第二項 地域別ジョイント・ベンチャー件数推移 ... 12

第三項 ジョイント・ベンチャーへの興味 ... 13

第三節 ジョイント・ベンチャーの課題 ... 14

第一項 ジョイント・ベンチャーの存続期間 ... 14

第二項 ジョイント・ベンチャーの終了原因 ... 14

第 3 章 先行研究 ... 18

第一節 異なる経営モデルを融合し、新しい経営モデルを創造に関する研究 ... 18

第一項 異なる経営モデルの融合の背景 ... 18

第二項 経営モデル融合の要件 ... 19

第二節 ジョイント・ベンチャーを成功に導く留意点に関する研究 ... 20

第一項 ジョイント・ベンチャーの設立時の留意点 ... 20

第二項 ジョイント・ベンチャー契約時での留意点 ... 22

第三節 ジョイント・ベンチャーの失敗要因に関する研究 ... 23

第一項 設立時点で失敗する要因 ... 23

第二項 環境変化への対応に失敗する要因 ... 24

第四節 戦略提携と組織間連携のマネジメントに関する研究 ... 25

第一項 戦略提携の前提条件 ... 25

第二項 戦略提携の成功要因・失敗要因 ... 25

(4)

第六節 先行研究まとめ ... 26

第 4 章 検討内容と検討方法 ... 29

第一節 本研究における検討課題と初期仮説 ... 29

第二節 事例研究における対象企業の選定・検証方法。 ... 30

第 5 章 事例研究 ... 31

第一節 株式会社ブリヂストン ... 31

第一項 米グッドイヤー社との提携 ... 33

第二項 米ファイヤストン社の買収 ... 34

第二節 住友ゴム工業株式会社 ... 37

第一項 英ダンロップ社から独立 ... 39

第二項 米グッドイヤー社との提携 ... 40

第三節 事例研究まとめ ... 44

第 6 章 仮説の考察 ... 48

第一節 初期仮説の修正 ... 48

第二節 他業界への応用 ... 51

第 7 章 結論... 56

第一節 結論 ... 56

第二節 本研究における限界と今後の課題 ... 56

謝辞 ... 58

参考文献 ... 59

(5)

第1章 はじめに

第一節 問題意識と研究目的

現在、企業を取り巻く環境は過去に例を見ない急激なスピードで変化しており、自社の 競争優位性が瞬く間に通用しなくなることが現実に多く起こっている。これは世界経済の 急速なグローバル化とIT技術の普及、それに伴うイノベーションにより企業を取り巻く環 境が予測困難になっているためであり、Volatility(変動性)Uncertainty(不確実性)

Complexity(複雑性)Ambiguity(曖昧性)の頭文字から作られる「VUCA」という言葉 でも表現されている。日々進化する技術革新により既存の競争優位性は簡単に無効化され、

企業の規模に関係なく従来は単独で行っていた環境適応が難しくなってきている。 

こうした状況下では、限られた経営資源を有効活用することが求めれるが、これは自社 のやるとことやらないことを明確にし、自社で保有していないノウハウは外部から獲得す ることで、環境変化のスピードに対応することである。企業が取りえる選択肢として、

M&A やジョイント・ベンチャー、戦略的提携などの様々な方法があるが、その中で筆者

自身がジョイント・ベンチャーに所属していることもあり、ジョイント・ベンチャーとい う形態にフォーカスをあて、1+1=3 になるシナジーを持続的に獲得するための要件を明ら かにしたいと考えた。 

 

第二節 本論文の構成研究の目的と意義

本論文は全7章にて構成されている。第1章では本研究を行うことに至った背景と目的 について述べる。第2 章ではジョイント・ベンチャーを定義し、M&Aや戦略的提携など 他の選択肢の中での位置づけや特長、期待されるシナジーの類型、件数の推移や存続期間 などを通して現状と課題について述べる。第3章では複数異なる文化が混在する組織のマ ネジメントに関する先行研究について取り上げ、検証を行うする。第4章では、第3章で 示した先行研究より抽出した、ジョイント・ベンチャーの持続的な成功に重要だと考えら える要件を初期仮説として示す。また、ジョイント・ベンチャーとして10年以上持続して いる親企業の中から研究の対象企業を選定し、検討方法について述べる。第5章では、事 例研究について詳細を示す。第6章では、初期仮説の考察を行う。事例研究やインタビュ ーから明らかとなったジョイント・ベンチャーの持続的な成功要件について考察し、修正 仮説を示す。そして修正仮説を違う業界へ応用可能かの検証を行う。最後に第7章で本論 文の結論について述べる。 

(6)

第2章 ジョイント・ベンチャーの現状と課題 第一節 ジョイント・ベンチャーについて

企業が限られた経営資源を有効的に活用していく上で、自社で保有しない資源をどのよ うに獲得するかは経営戦略上の重要な意思決定であり、外部のパートナー企業と組み事業 を展開するジョイント・ベンチャーは有効的な選択肢の一つであると考えられる。 

 

第一項 ジョイント・ベンチャーの定義

ジョイント・ベンチャーとは複数の企業が共同で事業を行うために出資し設立される合 弁企業のことであるが、ジョイント・ベンチャーも合弁会社も会社法上の単語ではないた め、まずはジョイント・ベンチャーについて定義する。 

宍戸らによるとジョイント・ベンチャーとは「二者以上の相互に独立した法人企業体(親 会社またはパートナーという)が、共同してある一定の事業を営むために、共同で物的資本 および人的資本を実質的に拠出し、パートナーから独立した法人格を有する事業組織とし て設立した会社(合弁会社)であり、パートナーが単なる金銭的出資者にとどまらず、自ら 合弁事業の経営に関与する企業間提携形態(合弁事業)である。1」と定義されている。つま りジョイント・ベンチャーという講義の概念には、法人としての合弁会社と共同で事業を 行う合弁事業という狭義の概念が含まれることになるが、本論は複数のパートナーから独 立した企業としての合弁企業を研究の対象とする。 

第二項 ジョイント・ベンチャーの特長

企業が新たな経営資源の獲得や開発、新規事業を検討する際には複数の選択肢が存在す る。従来の日本企業では自社で開発することが中心であったが、環境変化が激しく将来を 予測しにくい事業においては、投資コストやリスクをパートナーとシェアすることのでき るジョイント・ベンチャーが適していると考えられる。また自社のビジネスから遠い新規 分野に対応する場合や海外で現地のネットワークを活用する場合、国家の外資規制による 参入障壁や単独では負担できない大きなリスクのプロジェクトなどの際に効果的であると 考えらる。 

      

1 宍戸善一、福田宗孝、梅谷真人. (2013). 『ジョイント・ベンチャー戦略大全』東洋経済新社.P3 

 

(7)

ただし、投資コストとリスクをシェアしている分、意思決定についてもシェアすること になるので、企業単独で行う場合よりもガバナンスは取りにくくなることで意思決定が遅 くなるなど違ったリスクが存在する。またパートナーによっては社会的評価が下がったり、

技術やノウハウといった知的財産を失ったりというリスクも存在する。 

●ジョイント・ベンチャーのメリット 

・単独事業を上回利益(シナジー)が期待できる 

・投資コストとリスクを分散できる 

・不足している経営資源(事業ノウハウ、知的財産、許認可、施設、販売網、信用、人材、

ブランド、人脈など)獲得を時間的に短縮できる 

・制約条件がある課題に対応できる(国家の外資規制、政府出資など) 

・新規分野にも対応できる 

・出資を伴うため、業務提携と比べ提携解消しにくい 

●ジョイント・ベンチャーのデメリット 

・(パートナーによっては)社会的評価が下がるリスク 

・知的財産を失うリスク 

・パートナーに依存するリスク 

・戦略的情報の漏洩のリスク 

・企業文化の違いによる運営困難のリスク 

・パートナーが独り立ちするリスク 

・ジョイント・ベンチャーの経営者の裁量権を管理しにくいリスク 

・意思決定が遅くなるリスク 

・同床異夢のリスク 

・紛争リスク 

・デッド・ロックの可能性 

(8)

図表 1 企業の経営資源獲得の戦略オプション

⾃社のみで進出

(⾃前主義) 業務提携

ジョイント・

ベンチャー

M&A (マイノリティ出資)

M&A (マジョリティ出資)

市場参⼊スピード 遅い

⽐較的速い (パートナー次第)

⽐較的速い (パートナー次第)

速い (ただし、許認可が

必要な場合も)

速い (ただし、許認可が

必要な場合も)

投資額 ⼩-中 ⼩-中

リスク ⼩-中 ⼩-中

ガバナンス ⾃社ルール

パートナーへ 関与は薄い

パートナーと 協調・調整

パートナーと

協調・調整 ⾃社ルール

利益 独占 限定的 持分範囲内 持分範囲内 持分範囲内

技術 ⾃社のみ 共同利⽤(開⽰なし) 共同利⽤(部分開⽰) ケースバイケース 全て吸収 運営期間 基本的に無制限 無制限/有期限 無制限/有期限 基本的に無制限 基本的に無制限

(出所)舟橋宏和. (2015). ジョイント・ベンチャー(JV)を成功に導く留意点. KPMG FAS Newsletter‐特別編集号‐,  14‐19.より筆者作成 

第三項 シナジーの類型

宍戸らによると、ジョイント・ベンチャーのシナジーは各パートナー企業の目的意識か ら11類型に分類することができる。大きくな目的の違いで「効率追求型」と「新規参入」

に分けることができるが、これがジョイント・ベンチャーに求める期待とも捉えられる。 

各パートナーが同じ種類のシナジーを得る必要はなく、各パートナーの戦略目的や事業 遂行能力が同質でも異質でも良い。また複数のシナジー類型が当てはまることもある。 

 

図表 2 ジョイント・ベンチャーのシナジーの類型

(出所)宍戸善一、福田宗孝、梅谷真人. (2013). 『ジョイント・ベンチャー戦略大全』東洋経済新社.より筆者作  

(9)

①不戦条約型 

ある市場において強力な1位企業がいる場合、同一業界に属する2位以下の企業が組む ことによって市場占有率を拡大し、1位企業に対抗するために用いられる方法。1位企業と の間で競争が促進されないとカルテルに似た暗黙談合の効果を持つ。スマートフォン向け 有機EL パネルに関して、東芝、日立製作所、ソニーおよび官民ファンドが結集した事例 などがある。合従連衡型と呼ぶこともできる。2 

②施設共用型 

稼働率が低い工場などを共用することで無駄を省くことを目的としたものである。コス ト削減型とも呼ぶことができる。衰退産業のリストラ対策として用いられる場合もあるが、

規模の経済を追求する場合や市場参入に際して、地元のパートナーの工場を利用するとい う形で用いられる場合もある。このタイプは比較的存続期間が短く、合弁を解消していず れかのパートナーの子会社になることが多い。その理由は、パートナー企業が一社では収 益性が低い生産設備等を共用して規模の経済と合理化を図りつつ、段階的に撤退する手段 である場合が多い。液晶パネルの共同生産に関するソニーとサムソンの合弁会社「S―L CD」(2004年に設立、2012年1月に解消3)のケースなどはこれにあたる。コスト削減型と 呼ぶこともできる。 

③資源確保型 

海外における天然資源の採掘事業の場合、現地の資本の参加が参入条件となって、ジョ イント・ベンチャーであることが必要条件になる場合がある。その場合、鉱山の採掘権や 生産技術の特許を持っているパートナー企業とジョイント・ベンチャーを行う。バイオエ タノール生産事業に使用するサトウキビ畑を確保するために、伊藤忠商事がブラジルのバ イオエタノール社と合弁した事例などがある。継続取引確保型と呼ぶこともできる。 

④販路等利用型 

企業が新しい地域的市場へ参入しようとする場合、独自に販売網を構築するよりもその       

2 宍戸善一、福田宗孝、梅谷真人. (2013). 『ジョイント・ベンチャー戦略大全』東洋経済新社.P58. 

3 ソニーHP https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201112/11‐155/index.html 

(10)

地域ですでに販売網と市場経験を有している企業と組む方が、時間およびコストの節約に なる場合に行われる。事例として、韓国へ旅行進出を図るJTBと韓国ロッテ子会社のロッ テ・ドット・コム社の合弁などがある。 

⑤信用補完型 

新しい市場における知名度や信用力がない企業が、既存企業の信用を利用したい場合に 行われる。このパターンは少なく、ゲノムに関する技術を持つが日本で有名でない豪州プ ロテオーム・システムズ社に伊藤忠商事が信用を当たることを目的とした合弁事例がある。 

⑥コンサルタント型 

企業が新しい地域的市場へ参入しようとする場合、消費者の思考や店舗の立地条件等に 精通した地元企業とジョイント・ベンチャーを組むことがある。このパターンは近年減少 しているが、スターバックスが日本進出にあたりサザビーのコンサルテーションを必要と した事例などがある。 

 

⑦摩擦緩和型 

新しい地域的市場へ参入に際して生じる様々な摩擦を緩和するために地元企業と組むパ ターンで、法的なものと事実上のものがある。法的なものとしては、外資規制をしている 国への参入はジョイント・ベンチャーしかなく、事実上のものとしては、(経済摩擦の緩和 緩和のため)外国企業のアイデンティティーを弱める目的でのジョイント・ベンチャーがあ る。1984 年にトヨタと GM のジョイント・ベンチャーNUMMI(New United Motor 

Manufacturing,Inc.)は日米貿易摩擦問題の緩和に対応するため設立された製造会社である。

トヨタはGMの販売のノウハウ(北米市場の獲得)を、GMはトヨタのる生産方式である「か んばん方式」や小型車生産ノウハウをそれぞれ学ぶ目的があったと考えらえる4。 

 

⑧ブランド導入型 

パートナー企業が有するブランドないしブランドイメージを利用するために行われるも のである。海外企業のブランド商品を導入するために用いられるのが典型的な例である。

      

4 西川潤. (2014). 新・世界経済入門. 岩波新書.P81 

(11)

こちらがブランド導入型と考えているが、相手からすると販路等利用型である場合が多い。

つまり、一方のパートナーにとっての地域市場の拡大と他方のパートナーにとっての製品 市場の拡大がワンセットになって、お互いの長所と短所を組み合わせた形になっている。

レディ・ボーデン・ブランドを日本に導入した明治ボーデンの事例などがある。 

⑨技術導入型 

一方のパートナー企業が持つ特許発明や技術ノウハウをジョイント・ベンチャーに移転 するものである。ライセンサー側からすると市場導入型になっている場合が多い。技術移 転にはライセンサーが保有する技術や知的財産を相手方パートナーに移転するパターンと、

ジョイント・ベンチャーにとどまり相手側には移転しないパターンがある(相手側からは間 接的導入になる)。ノウハウが暗黙的・複雑・模倣困難であって、単なるライセンス契約で は学習できない場合、ジョイント・ベンチャーは有利な選択肢となる。 

⑩共同開発型 

双方向でノウハウの交換が行われるものであり、製造を伴わない研究開発ジョイント・

ベンチャーと、製造を伴うものがある。一般的に、リスク軽減、コスト軽減、期間短縮、

技術の相互補完等により研究開発活動が効果的・効率的に行われて技術革新を促進する経 済効果がある。富士電機HDの測定制御技術と日本ガイシの下水汚泥焼却施設・機械設備 を相互補完するジョイント・ベンチャーなどがある。 

⑪費用分担型 

事業失敗による損失リスクが大きく、不確実性が比較的高い新規事業や必要投資額の大 きな事業を行う場合に、リスク管理とコスト分担を目的として行われる。航空機の共同開 発や油田開発などが典型例である。 

第二節 ジョイント・ベンチャーの現状

第一項 業種別ジョイント・ベンチャー件数の推移

KPMG が書籍のデータと新聞報道をベースに 2009 年から2013 年の間におるジョイン ト・ベンチャーの組成記事をカウントした調査(図表3)によると、業種別では「各種機械・

電機」と「素材・エネルギー」が全体的に多く、内訳では「機械・電気製品」と「輸送機

(12)

器」が4年でそれぞれ100件以上となっており、海外市場での販売を目的にしたジョイン ト・ベンチャーが設立されたと考えられる。また「食品・医療」も増加傾向にあり、医療 は販路の拡大だけでなく新薬の研究・開発コスト負担を押さえるという目的も考えられる。 

図表 3 業種別JV件数の推移 

(出所)舟橋宏和. (2015). ジョイント・ベンチャー(JV)を成功に導く留意点. KPMG FAS Newsletter‐特別編集号‐,  14‐19. 

第二項 地域別ジョイント・ベンチャー件数推移

地域別では、アジア案件が多くなっており、国別ではインドネシア、中国、インド、ベ トナム、タイ、マレーシアとなっている。新興国では自国の産業保護のために外資規制に

よりM&Aが認められないため、ジョイント・ベンチャーを選択せざる得ない場合も含ま

れていると思われます。 

(13)

図表 4 地域別JV件数の推移 

(出所)舟橋宏和. (2015). ジョイント・ベンチャー(JV)を成功に導く留意点. KPMG FAS Newsletter‐特別編集号‐,  14‐19. 

第三項 ジョイント・ベンチャーへの興味

PwC Japanグループが2016年に行った「第20回世界CEO意識調査」によると、CEO が自社の成長や収益向上を促すにあたり短期的(12 ヶ月以内)に重視する施策として、世 界・日本のCEP共に「本業の成長」「コスト削減」に次いで「戦略的な提携やジョイント・

ベンチャー」と回答。オーガニックな成長が理想的であるが、自社にない経営資源をスピ ーディーに調達するという意味で、M&A と比較してもジョイント・ベンチャーは有利で あると考えられている。 

(14)

図表 5 世界のCEOが短期的に重視する施策について 

(出所) PwC. (2017). 「第20回世界CEO意識調査 日本分析版」. PwC.P8 

第三節 ジョイント・ベンチャーの課題

第一項 ジョイント・ベンチャーの存続期間

Ian Hewittによると、ジョイント・ベンチャーの平均存続期間は約7年間で、10年以上

存続するものは14%とされている。また舟橋も、多くのジョイント・ベンチャーの寿命は 3年から7年で、10年以上存続する事業は1/3だという。建設業などで当初よりジョイン ト期間が決まっている場合除いては、基本的には有限で設立されているにも関わらず、現 実には短命で終わることがほとんどであることがわかる。終了する原因については次項で 確認する。 

第二項 ジョイント・ベンチャーの終了原因

宍戸らによると、ジョイント・ベンチャーの終了は、ジョイント・ベンチャー自身に起

(15)

因する原因とパートナーに起因する原因の大きく2つに分類される。 

ジョイント・ベンチャーに起因する原因には、「予定された終了」、「破産・事業計画達成 不能」、「運営不能・デッドロック」があり、パートナーに起因する原因には、パートナー の「倒産・経営破綻」、「契約の債務不履行」、「経営戦略の変更・投資の限界」、「支配関係 の変更」、「交渉合意による終了・総会決議」がある。 

 

●ジョイント・ベンチャーに起因する原因 

①予定された終了 

予定された終了は、成功・失敗という点で4つに分けられる。 

 

・「成功による終了」:目的到達による円満解消   

建設業など、1 社では請け負えない大規模のプロジェクトをジョイント・ベンチャーと して受注した場合、建設完工により目的は達成されるため終了する。 

 

・「成功・失敗と関係ない終了」:存続期間満了による終了   

契約や法制度による時間的制限(LLCやSPCの存在期間の到来、外国政府の規制、独占 禁止法に基づく期間制限など)がある場合や事業の性質上、有効期間が存在する場合は終了 する。 

 

・「失敗による終了」:設立時点において織り込み済みのリスク(解散原因)の発生

予測されるリスク契約時に終了原因と記載しておくことで、リスクが顕在化した際にジ ョイント・ベンチャーを終了することができる。政情不安な途上国での資源採掘プロジェ クトの場合、クーデターで政府が資源を国有化した場合を終了原因と記載するなどである。

また事業が一定期間以内に黒字展開しない場合解散できることを条件に入れておくことで、

該当する期間の成績により終了できる。どちらの場合も、リスクヘッジ的な意味合いが強 く、設立する段階でパートナー合意の上で契約内容に入れている必要がある。

・「パートナーの合意に基づく終了」 

一方パートナーによる単独事業への移行や、共同出資者の交代、当事者を交代した単独 事業への移行、合弁会社の独り立ちなど、当初の合意に基づいて終了する場合がある。 

(16)

 

②ジョイント・ベンチャーの破産・事業計画達成不能 

ジョイント・ベンチャーが不振に陥って、設立時に合意した目標が達成できない場合や 債務超過、支払い不能で破綻してしまう場合、終了する。 

 

③ジョイント・ベンチャー経営のデッドロック 

ジョイント・ベンチャーの取締役会やパートナー間で合意できず、重要な経営事項を決 定できない場合、終了に向かう。 

 

●パートナーに起因する原因 

①パートナーの倒産・経営破綻 

パートナーが経営破綻した場合、合弁契約解除の理由として定められている。 

 

②パートナーの合弁事業契約の債務不履行 

重大な契約違反が発生した場合、パートナーに対して契約解除権を行使することができ、

終了に向かう。信頼関係を破壊するリスクが相対的に高い契約違反としては議決権拘束契 約に反する取締役会決議、守秘義務違反、競業避止義務違反などがある。 

 

③経営戦略の変更・投資の限界

パートナーの経営戦略の変更に伴い、ジョイント・ベンチャーから単独事業へ移行する 場合や、パートナーが継続的に必須の経営資源を拠出すること不可能になった場合、終了 に向かう。

④支配関係の変更 

パートナーの支配関係の変更により、ジョイント・ベンチャーに対する経営戦略も変更 されることがある。支配関係の変更は、「パートナーが吸収合併される」、「パートナーが買 収され支配株主が変わって経営者も交替する」、「パートナーがジョイント・ベンチャーへ 拠出している資源に関わる事業を第三者に譲渡する」、「会社更生手続きで登場したスポン サーが支配株主となって経営方針が変更される」、「パートナーがジョイント・ベンチャー に拠出している事業用資産の全部または重要な部分を第三者に譲渡する」などの場合が考

(17)

えられる。ジョイント・ベンチャーはパートナー間の信頼関係の上でコミュニケーション が行われるため、これらパートナーの支配関係の変更は終了原因となり得る。 

 

⑤交渉合意による終了・総会決議 

パートナー間で合意することによって終了する。 

 

(18)

3

章 先行研究

本章では複数異なる文化が混在する組織のマネジメントに関する先行研究について取り 上げる。第一節では異なる経営モデルを融合して新しい経営モデルの創造について、第二 節では、ジョイント・ベンチャーを成功に導く留意点について、第三節ではジョイント・

ベンチャーの失敗要因、第四節では戦略提携と組織間連携のマネジメントについての先行 研究を取り上げる。 

 

図表 6 先行研究の位置づけ 

 

(出所)筆者作成 

 

第一節 異なる経営モデルを融合し、新しい経営モデルを創造に関する研究

まず初めに、異なる経営モデルの統合について研究した谷口真美、延岡健太郎.(2003).

「経営モデルの融合プロセス:フォード資本提携強化後のマツダの経営革新」を先行研究と して取り上げ、異なる経営モデルを融合して新しい経営モデルを創造する要件について考 えていきたい。 

 

第一項 異なる経営モデルの融合の背景

本研究では、従来の組織変革についての議論がインクリメンタルかラディカルかの両極 端な立場が多い中、既存の経営モデルに全く異なった他社の経営モデルを効果的に融合す

(19)

ることで破壊することなくラディカルに組織変革が可能になるという視点に立ち、融合に よる新しい経営モデルを創造する手法について議論されている。 

事例として挙げられているのは、1990年代中盤に大株主である米フォード社からトップマ ネジメントが派遣されたマツダ株式会社である。マツダとフォードは1969年から提携関係 にあり1979 年にマツダはフォードから 25%資本出資を受けたが当時は経営権を持たない アドバイザー的な関係だった。しかしマツダの経営が傾き出した1993年に戦略的協力関係 の構築に合意、1996年にはフォードの25%から33.4%に引き上げられたことでフォードが 実質的経営権を掌握し大変革が進められた。 

第二項 経営モデル融合の要件

フォードから派遣された役員が変革の主導権を握っていたといっても、実際に実践して いくのは量的にも多数を占めるマツダのマネージャーであり、フォードの経営モデルを機 械的にはめ込むことは不可能である。マツダの経営モデルの中に、いかにフォードの経営 モデルが融合していくか。通常外部から派遣されたリーダーが変革を進めようとすると既 存社員の抵抗に合うが、フォードからの派遣役員は意外なほどスムーズに変革を実現した。 

彼らは親会社(フォード本社)を強く意識せずにマツダを優れた一企業とすることを主目標 にすることで、「短期的な利益ではなくフォード社の長期戦略の中でマツダの企業価値を高 めよう」と考えた。そのためにAt Mazda People Come Firstという「明確な基本方針」を 持ち役員・従業員に共有、ユーザーだけでなくマツダの従業員やサプライヤー、地元住民 を含めたコミュニティの人々の気持ちを優先的に考えた。マツダの人々から信頼を得るた めに「すべての従業員と個別に会い」信頼関係を構築、また異なる経営スタイルを理解し 融合させるためには十分な議論が必要であるが「公平でオープンな態度」で接して、マツ ダの置かれた環境や優れた面を理解し、場合によっては無理にフォードのやり方を押し付 けなかった。 

フォード派遣役員がうまくマネジメントしていたことに加えて、異なる経営モデルが融 合において重要だと述べられてるのが、「お互いの経営モデルについて精通していること」、

「長年相互理解、相互学習を続けてきた歴史を持つこと」、「マツダが危機的状況であった ため学習意欲が高かったこと」という。これらの三つの要件によって日本的経営なマツダ はアメリカ的経営であるフォードの優れた部分を融合させることができた。 

(20)

図表 7 異なる経営モデルの融合のための要件

(出所)筆者作成 

第二節 ジョイント・ベンチャーを成功に導く留意点に関する研究

次に、ジョイント・ベンチャーの成功確率を高めるための留意点について取り上げる。

本節で取り上げる先行研究はKPMG FAS.(2015).KPMG FAS Newsletter‐特別編集号に記載 されている舟橋宏和(2015)「ジョイント・ベンチャー(JV)を成功に導く留意点」である。舟 橋はジョイント・ベンチャーを 100%成功させることは非常に難しいという前提の上に立 ち、逆に失敗確立を低くするという意味で「設立時」と「契約時」の留意点について述べ ている。 

 

第一項 ジョイント・ベンチャーの設立時の留意点

設立時点では「戦略」、「パートナー」、「モニタリング」の3点が重要であるとしており、

それぞれについて確認する。 

 

①戦略 

ジョイント・ベンチャー設立において、各パートナーがお互いの経営戦略に基づいてジ ョイント・ベンチャー戦略を推し進めることが重要であり、さらにそれらを踏まえたジョ イント・ベンチャー設立目的、ジョイント・ベンチャー自身の経営戦略をパートナー間で しっかりと共有しておく必要がある。 

 

(21)

②パートナー 

ジョイント・ベンチャーに必要な物的資源と人的資源を有し、相性がマッチして信頼関 係を構築できるパートナーを見極める。当たり前ではあるが、そもそもパートナーが当該 事業を行う相手として最適であるか、事業の目的・ビジョン・方向性については十分議論 し共有できているか、自社の企業風土との違いは十分理解しているかなどを確認しておく 必要がある。 

 

③モニタリング 

ジョイント・ベンチャー設立後には、ジョイント・ベンチャー設立目的に適ったKPIを 設定し、定期的にモニタリングを行う。時には第三者による調査・監査を経て、適切な経 営判断を下しすぐに対応できるようにしておかなければならない。例えば、ジョイント・

ベンチャー経営者の意思決定できる範囲は適切かどうか(親会社の影響が強すぎてタイム リーな意思決定ができない前提となっていないか)や、逆にジョイント・ベンチャーに権限 が委譲され親会社の眼の届かない(経営指標が親会社へタイムリーに報告されない)体制と なっていない、そもそも適切なKPIを設定できているかなどに注意が必要である。 

 

図表 8 ジョイント・ベンチャー設立時の留意点

項⽬ 内容

進出領域は⾃社の経営戦略と合致しているか 当該領域の市場価値や潜在性

当該事業を⾏う上で最適なパートナーか(他社との⽐較は⼗分⾏ったか) 事業の⽬的・ビジョン・⽅向性は⼗分認識・共有できているか

JV経営者の意思決定できる範囲は適切か

(親会社の影響が強すぎてタイムリーな意思決定ができない前提となっていないか) 逆に、JVに権限が委譲され、親会社の眼の届かない体制となっていないか (経営指標が親会社へタイムリーに報告される体制になっているか) 適切なKPIを設定できているか

役割分担 パートナー企業に依存し過ぎた体制となってないか

(特に経理情報はタイムリーに⾃社に⼊る体制となっているか) リスク管理 適切なガバナンス・コンプライアンス体制を構築できているか 出稿者 出稿者の役割やスキルセットは適切か

ビジネス領域

パートナー

意思決・モニタリング

(出所)舟橋宏和. (2015). ジョイント・ベンチャー(JV)を成功に導く留意点. KPMG FAS Newsletter‐特別編集号‐,  14‐19.より筆者作成 

(22)

第二項 ジョイント・ベンチャー契約時での留意点

ジョイント・ベンチャーの契約において検討すべき事項には、事業体の選択、新規設立・

既存会社、出資比率・議決権比率、機関設計、役員の選解任権、従業員・給与負担、拒否 権、追加資金負担とその際の出資比率、(第三者による)監査権、配当、知的財産権の処理、

競業避止義務、デッドロック時の処理、株式譲渡の方法、合弁契約解約時の処理、紛争処 理などが挙げられている。 

これらの事項は全て重要であるが、特に監査権が重視されていないケースが多い。マイ ノリティ出資の場合などではジョイント・ベンチャーの運営を相手パートナーに任せてい るため、実際にどのように運営されているかをチェックできる権利として監査権を持つこ とが一定の牽制機能としても働くため、ここでは重要としている。また監査権の行使につ いては、予め第三者の関与を規定しておくことでジョイント・ベンチャーの抱える問題を 客観的に明らかにできるので、お互いに望ましい結果につながるとしている。毎年1回は 客観的な分析・調査に基づいてパートナー同士が議論することで、マイノリティ出資の場 合もジョイント・ベンチャーの実態を把握でき、対応することが可能になる。 

また、パートナー間で合意できない状況(デッドロック)を避けるために留意すべき事項 を以下の図表9に上げている。これらの事項を予め決めておくことで牽制機能が期待でき、

また実際にパートナー間で合意できない場合でも比較的スムーズに離婚することにつなが る。

(23)

図表 9 デッドロックに関する留意点

項⽬ 内容 補⾜

社⻑の決定権を拡⼤させる

各事項に関する担当取締役に決定を委ねる

エスカレーションプロセス パートナー代表同⼠の話し合いの機会を設ける 独⽴した取締役の選任 客観的な判断ができる取締役に決定を仰ぐ 調停・仲裁 第三者を介在させて調停や仲裁する 合弁会社の解散権

パートナーの⼀存でジョイント・ベンチャーの 解散を決定できる権利

買取強制条項

パートナーが保有している持分を買い取ること ができる権利

売渡禁⽌条項

⾃社の保有する持分をパートナーに売却できる 権利

売却参加権

パートナーが持分を第三者に売却する際に、⾃

社保有持分も当該第三者に対して売却すること ができる権利

売却強制権

⾃社が第三者に持分を売却する際に、パート ナー分もまとめて売却することができる権利

⼀⽅のパートナーで決定できる メカニズムとする 存続を前提とした

予防

ジョイント・ベン チャー解消

(出所舟橋宏和. (2015). ジョイント・ベンチャー(JV)を成功に導く留意点. KPMG FAS Newsletter‐特別編集号

‐, 14‐19.より筆者作成 

第三節 ジョイント・ベンチャーの失敗要因に関する研究

次に、逆の視点からジョイント・ベンチャーの失敗の要因について、宍戸ら.(2013).『ジ ョイント・ベンチャー戦略大全』を先行研究として取り上げる。宍戸らによれば、ジョイ ント・ベンチャーは、設立時点から失敗の確率が高まる要因を内包している場合と、環境 変化への対応に失敗する場合があると述べている。 

 

第一項 設立時点で失敗する要因

設立時から失敗の確率が高まる主要要因としては、「パートナー選びの間違い」、「事業環 境やカントリーリスクの調整不足」、「ビジネスモデル(事業マネジメント)の失敗」、「運営 の仕組み(組織マネジメント)の失敗」に分類される。 

(24)

①パートナー選びの間違い 

パートナーが取引先(顧客)の場合、顧客のバーゲニング・パワーによってジョイント・

ベンチャーとパートナー(顧客)との取引条件が決定されてしまうことがあり、出資比率に 基づいた利益が得られない可能性がある。契約に拒否権をつけたとしても事実上は無力化 される。 

 

②事業環境やカントリーリスクの調整不足 

事業環境やカントリーリスクが調整しきれていない場合は、期待した成果を得られない ため、目標を達成できず失敗する可能性が高まる。 

③ビジネスモデル(事業マネジメント)の失敗 

両パートナーのどちらかが期待していた成果を得られないと評価した場合、ジョイン ト・ベンチャーの失敗可能性が高くなる。これは、契約で合意した利益の分配であったと しても、である。パートナーが自身の取り分について不満を抱くことで必要な資源の出し 惜しみにつながれば事業は上手く回らな。ジョイント・ベンチャーは一回きりの関係では なく継続を前提としているため、パートナーが果実の分配について不満がある場合は、再 交渉により不満を解消する必要がある。 

 

④運営の仕組み(組織マネジメント)の失敗 

両パートナーが合意した支配配分ではなく、事実上の交渉力によって決定権を持つ場合 は観察不能になり失敗の可能性が高まる。例えば、シナジーを得ることも目的にパートナ ーの事業所内の生産機能に依存した場合、パートナーは自身の管理下に対して強い発言権 を持つため実際の出資比率とは別の事実上の決定権を持つことがある。また観察できない 状況はパートナーの機会主義的行動を抑制できなくなるため、失敗の確率が高くなる。 

 

第二項 環境変化への対応に失敗する要因

環境変化への対応に、外部環境の変化(マーケットの変化による競争激化で収益悪化や事 業構造の変更、カントリーリスクの顕在化による事業続行困難や許可などの取り消し、パ ートナーの経営状況の変化による倒産やパートナーが敵対的買収されるなど)と、内部環境 の変化(パートナーとの再交渉の失敗)がある。 

(25)

第四節 戦略提携と組織間連携のマネジメントに関する研究

次に両パートナーの独自性を残しながらお互いが保有する経営資源を相互補完させシナ ジーを引き出すための組織的条件について、今口忠正.他.(2011).戦略提携と組織間連携のマ ネジメントを取り上げ述べていく。 

第一項 戦略提携の前提条件

今口らによれば、パートナー企業がお互いの独立性を維持しながら経営資源を融合させ るために重要なのは「両企業間の信頼性」、「メンバー同士の信頼性」だとしている。それ は、戦略的提携が M&A などと違い経営権を獲得する訳ではないため相互調整が難しく、

信頼関係はという土台をしっかり築かなければパートナー企業の経営資源にアクセスでき ないためである。 

第二項 戦略提携の成功要因・失敗要因

戦略提携によるシナジー獲得のための成功要因として「目標の明確さ」、「目標の共有」、

「戦略目標との適合性」、「相互信頼」の四つが特に重要だとしている。これは戦略提携が 両パートナーの「特定の目標」の達成のためのものであるという性格上、提携することの 明確な目標の設定と共有がなければ、お互いに相手求めていることが理解できず貢献し合 うことができない。また親会社の戦略との整合性がなければ成り立たない。お互いの役割 分担と目標が明確になることによって、信頼醸成が生まれる。逆に、親会社の戦略が転換 されたり、パートナーより想定していた能力が得られなかったりした場合は、失敗につな がる。 

 

(26)

図表 10 戦略提携の成功要因頻度(N=78)

(出所)今口忠正三輪尚巨加藤実禄(2011). 戦略提携と組織間連携のマネジメント:ハイテク企業のアンケー ト調査・ケース研究を中心として三田商学研究,Vol54.No.2.P76 

第五節 先行研究まとめ

これまでに、異なる経営モデルを融合し新しい経営モデルを創造するプロセス、ジョイ ント・ベンチャーを成功に導く留意点、ジョイント・ベンチャーの失敗の要因、戦略提携 と組織間連携のマネジメントに関する先行研究を取り上げ、異なる資本の下で運営される 組織に焦点を当てて述べてきた。 

それぞれの先行研究から、ジョイント・ベンチャーの成功に欠かせない要件について、

以下の図表11の通り、いくつかの共通項目が抽出された。 

(27)

図表 11 異なる資本の下で運営される組織において重要な要件

[先⾏研究1]

異なる経営モデル を融合し、新しい 経営モデルを創造

するプロセス

[先⾏研究2]

ジョイント・ベン チャーを成功に導

く留意点

[先⾏研究3]

ジョイント・ベン チャーの失敗の要

[先⾏研究4]

戦略提携と組織間 連携のマネジメン

■ミッション

⽬標の明確さ

ミッション・ビジョン・⽅向性の共有

■戦略

⻑期戦略

経営戦略との整合性

事業領域の市場性

⾃社を急に押し付けない

出向者(役割・スキルセット)

ビジネスモデル(事業マネジメント)

■トップマネジメント

親会社の⾔いなりにならない

公平でオープンな態度

■⼈的要素

マネジメン-社員間の信頼関係

メンバー間の信頼関係

■パートナー企業

パートナー間の信頼関係

パートナー(の経営モデル)に対する理解 パートナーとの⻑年にわたる相互理解

パートナー選び

■ガバナンス

JVトップマネジメントがタイムリーに意思

決定できる(親会社の影響が強すぎない)

親会社へタイムリーに報告される体制

適切なKPIの設定

適切なガバナンス・コンプライアンス体制

運営の仕組み(組織マネジメント)

■環境側⾯・その他

危機的な状況

事業環境やカントリーリスクの調整

契約の再交渉

(出所)筆者作成 

これらの先行研究で共通して述べられてるのことは、「理念の共有」、「両パートナーの経 営戦略との整合性」、「パートナー企業の理解」である。ジョイント・ベンチャーは時に結 婚に例えられることがあるが、まさに企業同士の結婚である。一人ではできない成果を得

(28)

るために、パートナー同士がお互いの基本的な考え方を共有し、結婚が自身の人生戦略と ずれがないか確認し、またパートナーとして選んだ相手を事前にどれだけ理解しているか が、持続的な結婚生活につながる。これらの先行研究によって抽出された要件が、ジョイ ント・ベンチャーの持続的な成功に欠かせないものであるかを検証していきたい。 

(29)

4

章 検討内容と検討方法

第一節 本研究における検討課題と初期仮説

本研究では、戦略オプションの中で比較的経営資源を機動的に入手することができるジ ョイント・ベンチャーが平均7年で寿命を迎えていることという事実をきっかけに、異な る資本の影響を受けて運営されながら、継続してシナジーを発揮し続けるためには何が必 要なのかをリサーチクエスチョンとして、そのために欠かせない要件を明らかにしていく。 

前提として、ジョイント・ベンチャーの必要性について改めて述べておきたい。企業を取 り巻く環境は過去に例を見ない急激なスピードで変化しており、「VUCA」という言葉で も表現されるほどである。不確実性が高まる中、企業規模に関係なく従来は単独で行って いた環境適応だけでは難しくなってきており、限られた経営資源を有効活用する上でも、

自社のやるとことやらないことを明確にし、自社で保有していないノウハウは外部から獲 得することで、環境変化のスピードに対応することが必要になってきている。ジョイント・

ベンチャーは、投資コストとリスクを分散し自社に不足している経営資源を短時間で獲得 するという点で非常にメリットがあり、うまく活用することで企業の競争優位を保つこと ができる手法である。 

これまでの先行研究より抽出した要件は図表12の様に表すことができる。ジョイント・

ベンチャーという幸せな婚姻生活を持続的しシナジーを生み出すためには、この三つの要 件が同列で存在し、欠けることなく重なり合っている必要があり、どれか一つでも欠ける と機能しなくなるのではないかと考え、初期仮説とする。 

図表 12 ジョイント・ベンチャーの持続的な成功には欠かせない要件

(出所)筆者作成 

(30)

第二節 事例研究における対象企業の選定・検証方法。

ジョイント・ベンチャーの持続的な成功に不可欠な要件を検証するための事例研究とし て、戦後より外国企業と様々な形で協力関係を築いてきた国内ゴム会社から以下の二社を 抽出し、それぞれの取り組みを通じて検証する 

 

<対象企業> 

(1)株式会社ブリヂストン  (2)住友ゴム工業株式会社 

(31)

5

章 事例研究

本章では早期よりグローバルでの競争が激しく、業務提携やジョイント・ベンチャー、

M&A など様々な手法を活用し企業価値を向上させてきた国内ゴム会社の事例研究を行い、

第4章で示した初期仮説に沿って検証を行う。 

 

第一節 株式会社ブリヂストン

本節では、日本を代表するグローバル企業であり、戦後の早い段階から海外の競合企業 との提携や買収によって世界最大のゴムメーカーとなったブリヂストンを事例として取り 上げる。 

 

<会社概要> 

ブリヂストンの会社概要  正式社名 株式会社ブリヂストン

本社所在地 東京都中央区京橋三丁⽬1番1号 設⽴(⻄暦) 1931年

代表者 津⾕正明

事業内容

■タイヤ部⾨

乗⽤⾞⽤、トラック・バス⽤、建設・鉱⼭⾞両⽤、産業⾞両⽤、農業機械⽤、航空機⽤、

⼆輪⾃動⾞⽤のタイヤ・チューブ、タイヤ関連⽤品、リトレッド材料・関連技術、⾃動⾞

整備・補修、タイヤ原材料 ほか

■多⾓化部⾨

・化⼯品:⾃動⾞関連部品、ウレタンフォーム及びその関連⽤品、電⼦精密部品、⼯業資 材関連⽤品、建築資材関連⽤品 ほか

・BSAM多⾓化:BRIDGESTONE AMERICAS,INC.が統括する屋根材事業 ほか

・スポーツ⽤品:ゴルフボール、ゴルフクラブ、その他スポーツ関連⽤品 ほか

・⾃転⾞:⾃転⾞、⾃転⾞関連⽤品 ほか

・その他:ファイナンス ほか 資本⾦ 1,263億5,400万円

売上⾼ 3兆3,370億円 営業利益 4,495億円 社員数 143,616名

拠点 世界26カ国に180以上の⽣産・開発拠点を持ち、150を超える国々で事業を展開

(出所)ブリヂストンHPより筆者作成 

(32)

<事業の沿革>

ブリヂストンの沿革 

1930 年 前⾝である⽇本⾜袋タイヤ部により第1号タイヤが誕⽣(乗⽤⾞⽤/29×4.50 4P)

1931 年 福岡県久留⽶市に「ブリッヂストンタイヤ株式会社」を設⽴

1934 年 久留⽶⼯場(現久留⽶第1⼯場)が完成、本格⽣産を開始 1937 年

本社を福岡県久留⽶市から東京に移転

Vベルト・ゴムホースの製造と防振ゴムの試作を開始 1942 年 太平洋戦争にともない、社名を「⽇本タイヤ株式会社」に変更

1951 年

世界最⼤のタイヤメーカーである⽶国グッドイヤー社と技術提携 社名を「ブリヂストンタイヤ株式会社」に復旧

ブリヂストンビル(本社ビル)が竣⼯

1953 年 売上⾼が100億円を突破、業界⾸位に⽴つ

1956 年 創⽴25周年記念式典を久留⽶⼯場で挙⾏、記念事業の⼀環として⽯橋⽂化センターを建設、久留⽶市へ寄贈 1961 年 株式公開を実施(店頭 5⽉)、東京・⼤阪証券取引所に株式を上場(10⽉)

1962 年

我が国初のトラック・バス⽤スチールラジアルタイヤの開発に成功 東京⼯場敷地内に技術センターが竣⼯

1964 年 我が国初の乗⽤⾞⽤ラジアルタイヤを開発

1965 年 戦後初の海外⼯場「ブリヂストン・マレーシア」が操業を開始 1967 年

ブリヂストンタイヤショップ制度発⾜

⽶国ロサンゼルスに販売会社「ブリヂストン・アメリカ」を設⽴

1968 年

社是「最⾼の品質で社会に貢献」制定

卓越した品質管理を実施している企業に与えられる「デミング賞実施賞」を受賞

1970 年 第1回「ブリヂストンゴルフトーナメント」(現ブリヂストンオープンゴルフトーナメント)を開催 1979 年 ⽶国グッドイヤー社と技術提携解消

1982 年

コクピット1号店「コクピット厚⽊」がオープン 乗⽤⾞⽤スタッドレスタイヤを業界に先駆け発売

1983 ⽶国ファイアストン社のナッシュビル⼯場を正式に買収、北⽶に初の⽣産拠点を確保 1984 年

コーポレートアイデンティティーを導⼊

社名を「株式会社ブリヂストン」に変更するとともに新しいコーポレートシンボルを採⽤

1988 ⽶国第2位のタイヤメーカー「ファイアストン」社を26億ドルで買収、⼦会社化 1989 年 北⽶の⼦会社を再編、「ブリヂストン/ファイアストン・インク」(略称BFS)を設⽴

1990 年 欧州統括会社「ブリヂストン/ファイアストン・ヨーロッパ エス エー」(略称BFE)を設⽴

1994 年

ブリヂストン/ファイアストン・ヨーロッパ エス エーを欧州統括事業会社とし、

欧州における販売・物流機能を同社に統合(現 ブリヂストン ヨーロッパ エヌヴイ/エスエー)

1995 年 ファイアストン・タイヤがインディカー・レースに再参戦 1997年 F1(フォーミュラ ワン)に参戦

1998 年 F1参戦2年⽬でブリヂストンタイヤ装着チームとドライバーがワールドチャンピオンを獲得 2000 年

化⼯品技術センター(神奈川県横浜市)が竣⼯

新技術センター(東京都⼩平市)が竣⼯

2001 年

コーポレートミュージアム「ブリヂストンTODAY」を開設

「ブリヂストン信条」「経営姿勢」「私たちの約束」「⾏動指針」から構成される企業理念を制定

ブリヂストン/ファイアストン・インクが持株会社制を導⼊し、組織を再編(現 ブリヂストン アメリカス・インク)

2002 年

創業者⽯橋正⼆郎「⽇本⾃動⾞殿堂」⼊り 経営ビジョン・ブランドビジョン・環境理念を制定 2003 年 安全宣⾔の制定と防災体制の再構築

2004 年 中国にタイヤ事業を統括する普利司通(中国)投資有限公司を設⽴

2006 年

戦略的事業ユニット(SBU)、グローバル経営プラットフォーム(GMP)、グローバル本社(GHO)からなる組織改⾰

を実施

2007 年 リトレッド事業のリーディングカンパニー「バンダグ」社を買収、⼦会社化 2008 年 東洋ゴム⼯業(株)と、業務・資本提携に関する基本合意書を締結

(出所)ブリヂストンHP、その他資料より筆者作成 

(33)

戦前は地方の一足袋メーカーに過ぎなかったが、ゴム底布靴というイノベーションで国 内だけでなく世界市場を圧巻。ゴム工業として次の発展を考え新規参入したタイヤでは、

世界最大のゴム企業であった米グッドイヤー社との技術提携(後に資本提携)により世界 的技術の導入し、数年後には競合となるまでに成長。1980年代後半には当時世界2位だっ た米ファイヤストン社を買収した。2008年に世界シェアナンバーワンを獲得、現在も維持 し続けるブリヂストンは日本を代表するグローバル企業の一社である。 

 

第一項 米グッドイヤー社との提携

①経営戦略 

ブリヂストンは圧倒的な技術差を埋めるために、タイヤ技術の導入と生産提携が必要だ と考えており、提携することが自社での技術開発よりも圧倒的に早く技術水準を上げるチ ャンスであると考えていた。実際、グッドイヤー社の工場を視察した際にも、作業効率で 五分の一、技術では20年以上の差があると実感したと残されている。 

グッドイヤー社側は米州を中心に生産拠点を拡大しており、1930年代‐40年代半ばにか けては、北米、カナダ、アルゼンチン、インドネシア、ブラジル、スウェーデン、メキシ コ、ペルー、キューバ、コロンビア、ジャワ島で生産を開始していた。1950年以降は欧州・

中東・アフリカ・アジア・オセアニアへ拡大を計画しており、日本への進出向けて生産委 託できるパートナーとして、日本ダンロップかブリヂストンを候補に上げ検討していた。 

②理念の共有 

太平洋戦争時に日本軍が占拠したグッドイヤー社の所有するジャワ島工場を、委託管理 していたのがブリヂストンであった。通常は敗戦になれば、設備を破壊したり工場ごと焼 き払ったりするのが常套手段のところ、ブリヂストンは工場をぴかぴかに磨き上げ、機械 も何の支障もないようメンテナンスして返還したという。これは「戦争の結果に関係なく、

工場を完全な姿で相手に返したい」という石橋社長から指示であったのだが、この姿勢に グッドイヤーは感銘を受けた。 

また、占領国の大企業であるグッドイヤーのリッチフィールド会長が、日本を代表する タイヤメーカーのトップとして石橋社長に接し、ビジネスについて対等に話えたことで、

後年石橋社長は自伝の中で感銘を受けた四人の内の一人としてリッチフィールド会長を挙 げている。 

参照

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