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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 岸 田 太 郎

学 位 論 文 題 名

「発酵脱脂大豆および大豆イソフラボンの薬物代謝 およびエストロゲン代謝への影響」

学位論文内容の要旨

  アジ ア 諸 国で は 古 くか ら 大豆 が 食 品と し て利 用 さ れて き た。 疫 学 的調 査 に より 、乳 ガ ン をは じ め とす る いく っ か の疾 病 が 、ア ジ ア地 域 で 少な い こと と 大 豆摂 取 量の 多い こ と が関 係 し てい る と報 告 さ れて お り 、疾 病 予防 を も たら す 生理 活 性 成分 の ひと っと し て 大豆 イ ソ フラ ボ ンが 注 目 され て い る。 大 豆イ ソ フ ラボ ン は大 豆 中 では 配 糖体 とし て 存 在す る が 、発 酵 処理 するとロ .グルコ シダーゼ の作用に より糖が 切れたアグ リコン の 状 態と な る 。配 糖 体は 消 化 管上 部 で はほ と んど 吸 収 され ず 、消 化 管 下部 に おい て腸 内 細 菌の 作 用 によ ル アグ リ コ ンに な る 。ア グ リコ ン は 消化 管 上部 で は 速や か に吸 収さ れ る が、 消 化 管下 部 では 徐 々 に吸 収 さ れる 。 この こ と から 発 酵大 豆 食 品中 の イソ フラ ボ ン は 未 発 酵 の 大 豆 食 品 に 比 べ て 吸 収 さ れ や す い こ と が 予 想 さ れ た 。   薬物 代 謝 酵素 は 生 体で の 内囚 性 成 分の 代 謝や 生 体 外異 物 の代 謝 に おい て 重 要な 役割 を 果 たし て お り、 外 因性 発 ガ ン物 質 の 活性 化 や内 因 性 の発 ガ ン物 質 の 生成 に 関与 して い る こと も 示 唆さ れ てい る 。 特に 乳 ガ ンに お いて は 、 薬物 代 謝酵 素 で ある シ トク 口ム P‑450は 女 性 ホ ル モ ン エ ス ト ロ ゲ ンの 代 謝 経路 の 変動 を 介 して 乳 ガン の 発 症に 大 きく 関 与 して い る こと が 示唆 さ れ てい る 。 これ ま でに 、 他 のフ ラ ボノ イ ド が薬 物 代謝 酵素 の 活 性に 影 響 を与 え てい る と の報 告 が いく っ かな さ れ てい る が、 大 豆 イソ フ ラボ ンに つ い ては ほ と んど 知 見は な い 。そ こ で 、脱 脂 大豆 を 発 酵処 理 し、 ほ と んど の イソ フラ ボ ン の配 糖 体 をア グ リコ ン と した 発 酵 脱脂 大 豆、 発 酵 脱脂 大 豆よ ル ア ルコ ー ル抽 出し て 得 たア グ リ コン 高 含量 の 発 酵大 豆 抽 出物 お よび 合 成によ り得た高 純度(、99%t)の 大 豆 イソ フ ラ ボン で ある ダ イ ゼイ ン 及 びゲ ニ ステ イ ン につ い て、 薬 物 代謝 と それ に関 わ る生理作用 の検討を 研究の目 的とした 。

1. 発 酵 大 豆 粉 末 の 摂 取 に よ り 薬 物 代 謝 酵 素 が 誘 導 さ れ る か ど う か を 調 べ る こ と を     目 的 とし た 。 薬物 代 謝酵 素 の 誘導 に より 麻 酔 薬ペ ン ト バル ビ ター ル の 有効 時間 が     短 縮 する こ と が知 ら れて い る 。発 酵 脱脂 大 豆 粉末 ま た は未 発 酵脱 脂 大 豆粉 末を タ     ン パ ク質 源 と した 飼 料を 与 え て飼 育 した マ ウ スに 投 与 し、 睡 眠時 間 を カゼ イン を     タ ン パク 質 源 とし た 飼料 を 与 えた マ ウス と 比 較し た 。 ペン ト バル ビ タ ール によ る     l睡 眠時間は、 カゼイン 摂取の場 合より発 酵脱脂大 豆粉末の 摂取により 短くなった。

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    未発酵脱脂人頁摂取では影響は見られなかった。

2。アセトアルデヒドは急性毒性物質であり、薬物代謝酵素の誘導によルアセトアル     デヒドの代謝が速く進むと急性毒 凹:による死亡率は低下する事が知られている。

    1と同様の目的で、マウスにアセトアルデヒドを投与し、24時間後の生存率を、

    発酵 脱脂大豆粉 末または未 発酵脱脂大豆粉末をタンパク質源とした飼料を与え     たマ ウスとカゼ インをタン パク質源とした飼料を与えたマウスで比較した。24     時間 後の生存率 はカゼイン 摂取と比べ発酵脱脂大豆摂取により有意に上昇した     が、未発酵脱脂大豆粉末摂取では影響は見られなかった。

3.1お よ び2で 見 られ た 結果 と 薬物 代 謝酵 素 の誘 導 との関連を 検討するこ とを目     的と し、肝臓ミクロソームのシトク口ムP‑450含量を測定した。カゼイン飼料摂     取と 比ベ、未発酵脱脂大豆粉末の摂取ではシトク口ムP‑450含量の増加は見られ     なかったが、発酵脱脂大豆粉末の摂取では、肝臓シトク口ムP‑450量が増加した。

4,1、2お よび3の結果 から見られ るように、 発酵により 配糖体から 変換されて 生     じた アグリコンは、肝臓シトク口ムP‑450量を増加させ、これによルアセトアル     デヒド急性毒性による生存率を高め、ペントバルビタールによるスリーピングタ     イムを短縮したが、これらのことに発酵処理により生成されたアグリコンの関与     が考えられた。そこでアグリコン高含量の発酵大豆抽出物および合成した高純度     のイソフラボンであるダイゼインとゲニステインを用い、大豆イソフラボンがシ     トク 口ムP‑450量に与える影響をcldyマウスにおいて検討した。しかし、発酵大     豆抽出物、ゲニステインおよびダイゼインのいずれの摂取によっても、肝臓ミク     ロソ ームのシトク口ムP‑450量がカゼイン飼料摂取時より増加することはなかっ     た。 これらより、発酵脱脂大豆粉末摂取によってみられた肝臓シトク口ムP‑450     の誘導は、イソフラボンとは別の、発酵処理により生じる何らかの物質によりな     されていることが推測された。

5. 工ス ト ラジ オ ール の 代 謝はP‑450依 存 の2ま た は16ロ位の 水酸化とい う拮抗す     る2っの経路により始まる。カテコールエストロゲンである2・ヒドロキシエスト     ロン ( 2‑OHEI)は抗エス卜口ゲン性を有し、非発ガン性および非遺伝毒性的で     ある と報告され ている。一 方16a‐ヒ ドロキシエ スト口ン(16a‑OHE1)は発ガ     ン性 および遺伝子毒性を有すると報告されている。したがって、これら2つの経     路の 産物はそれぞれ発ガンに関して相反する性質をもつ。そこで、C3H ‑H eJマ     ウス に発酵大豆 抽出物、ダ イゼインお よびゲニス テインを与 え、尿中の16a.     OIIEl/2‑ OHE1比を調べた。発酵大豆抽出物、ゲニステインおよびダイゼインは     尿中16a‑ OHEl/2‑ OHE1比を低下 させた。こ れらから、 発酵脱脂大豆粉末中の     イ ソ フラ ボ ン・ ア グリ コ ンは エ スト ロ ゲン 代 謝をJ6a ‑ OHE1から2‐OHE1ヘ     シフトすることにより、乳ガン抑止効果をもたらしている可能性が示唆された。

    4にみられ るように、 イソフラボ ン・アグリコンはシトク口ムP‑450を誘導しな

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かったので、工ストロゲン代謝の変更はおそらく誘導されるP‑450の分子穏の変 化によりがもたらされたものと推測した。

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学位論文審査の要旨

主査   教授   葛西隆則 副査   教授   青山頼孝

副査   教授   海老原   清(愛媛大学)

副査   助教授    原   博

学 位 論 文 題 名

「発酵脱脂大豆および大豆イソフラボンの薬物代謝 およびエストロゲン代謝への影響」

  本 論 文 は3章 より構成 され、図3、表12、引用 文献86を含 む総頁数63の和文論 文であ る。他に参考論文3編が添えられている。

  疫学的調査により、乳ガンをはじめとするいくっかの疾病が、アジア地域で少ないこと と大豆摂取量の多いことが関係していると報告されており、疾病予防をもたらす生理活性 成分のひとっとして大豆イソフラボンが注目されている。大豆イソフラボンは大豆中では 配糖体として存在するが、発酵処理するとB‑グルコシダーゼの作用により糖が切れたアグ リコンの状態となる。配糖体は消化管上部ではほとんど吸収されず、消化管下部において 腸内細菌の作用によルアグリコンになる。アグリコンは消化管上部では速やかに吸収され るが、消化管下部では徐々に吸収される。このことから発酵大豆食品中のイソフラボンは 未発酵の大豆食品に比べて吸収されやすいことが予想された。

  薬物代謝酵素は生体での内因性成分の代謝や生体外異物の代謝において重要な役割を果 たしており、外因性発ガン物質の活性化や内因性の発ガン物質の生成に関与していること も示唆 されている。特に乳ガンにおいては、薬物代謝酵素であるシトクロムP‑450は女性 ホルモンエス卜ロゲンの代謝経路の変動を介して乳ガンの発症に大きく関与していること が示唆されている。そこで、脱脂大豆を発酵処理し、ほとんどのイソフラボンの配糖体を アグリコンとした発酵脱脂大豆、発酵脱脂大豆よルアルコール抽出して得たアグリコン高 含量の発酵大豆抽出物および合成により得た高純度(99%↑)の大豆イソフラボンである ダイゼイン及びゲニステインについて、薬物代謝とそれに関わる生理作用の検討を研究の 目的とした。

1.発酵 大豆粉末 の摂取に より薬物 代謝酵素 が誘導さ れるかどう かを調べることを目的     とした。薬物代謝酵素の誘導により麻酔薬ベントバルビタールの有効時間が短縮し、

    アセ卜アルデヒド急性毒性による生存率が上昇することが知られている。発酵脱脂大

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    豆 粉末また は未発酵脱 脂大豆粉 末をタン パク質源とした飼料を与えて飼育したマウ     ス にペント バルビター ルまたは アセ卜ア ルデヒドを投与し、睡眠時間または24時間     後の生存率をカゼインをタンパク質源とした飼料を与えたマウスと比較した。ペン卜     バルビタールによる睡眠時間は、カゼイン摂取の場合より発酵脱脂大豆粉末の摂取に     より短くなった。未発酵脱脂大豆摂取では影響は見られなかった。アセトアルデヒド     投 与24時間後 の生存率は カゼイン 摂取と比べ発酵脱脂大豆摂取により有意に上昇し     たが、未発酵脱脂大豆粉末摂取では影響は見られなかった。

2.1で 見られた 結果と薬物 代謝酵素 の誘導と の関連を 検討する ことを目 的とし、同様の     飼 育実験に おいて肝臓ミクロソームのシ卜クロムP‑450含量を測定した。カゼイン飼     料 摂取と比 べ、未発酵脱脂大豆粉末の摂取ではシトクロムP‑450含量の増加は見られ     な かったが 、発酵脱脂 大豆粉末 の摂取で は、肝臓 シトクロ ムP‑450量が増加した。

3.1お よび2の 結 果か ら、脱脂 大豆の発 酵処理によ り生成さ れたイソ フラボン ・アグリ     コ ンが肝臓 のシトクロムP‑450含量を増加させ、ネンブタールによる睡眠時間の短縮     お よびアセ トアルデヒ ド急性毒 性による 生存率の上昇を引き起こしていると推測さ     れた。そこでアグリゴン高含量の発酵大豆抽出物および合成した高純度のイソフラボ     ン であるダ イゼインとゲニステインを用い、大豆イソフラボンがシトクロムP‑450量     に 与える影 響をddyマウスにおいて検討した。しかし、発酵大豆抽出物、ゲニステイ     ン およびダ イゼインの いずれの 摂取によ っても、肝臓ミクロソームのシ卜クロムP‑

    450量 がカゼイ ン飼料摂取時より増加することはなかった。これらより、発酵脱脂大     豆粉末摂取によってみられた肝臓シトクロムP‑450の誘導は、イソフラボンとは別の、

    発 酵 処 理 に よ り 生 じ る 何 ら か の 物 質 に よ り な さ れ て い るこ と が推 測 さ れた 。 4.肝 臓でのエ ストロゲン の代謝は エストヲ ジオール よルエス 卜ロンを 経て、P‑450依存     の2ま た は16a位の水 酸化とい う拮抗す る2っの経路 に分岐す るが、2‐ ヒドロキ シ     エストロン(2‑OHE1)は抗エス卜ロゲン性を有し、非発ガン丶性および非遺伝毒性的     で あ ると 報 告さ れている 。一方16a‑ヒ ドロキシエ ス卜ロン (16a‑OHE1)は発 ガン     性 および遺 伝子毒性を 有すると 報告され ている。 そこで、C3H‑HeJマウスに発酵大     豆 抽 出物 、 ダイ ゼインお よびゲニ ステインを 与え、尿 中の16ば‑ OHEl/2‑ OHE1比     を 調べた。 発酵大豆抽 出物、ゲ ニステイ ンおよぴ ダイゼイ ンは尿中16ロ.OHElI2‑

    OHE1比 を低下さ せた。これ らから、 発酵脱脂大豆粉末中のイソフラポン・賈グリコ     ン は エス 卜 ロ ゲン 代 謝を16ば‐OHE1か ら2・OHE1ヘシフ トするこ とにより 、乳ガ     ン 抑止効果 をもたらしている可能性が示唆された。3にみられるように、イソフラボ     ン ・アグリ コンはシトクロムP‑450を誘導しなかったことから、エストロゲン代謝の     変 更はおそ らく誘導さ れるP‑450の分 子種の変 化により もたらさ れたものと推測し     た。

  以上のように、本研究は学術的に高い成果を上げたものであり、よって審査員一同は、

岸 田 太 郎 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

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参照

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