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知識ネットワークの発展と地方都市圏の国際化 : 鳥取都市圏を対象として

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(1)

知識 ネ ッ トワークの発展 と地方都市圏の国際化

―鳥 取都 市 圏 を対 象 として一

小林

潔 司 ・ 岡 田

憲 夫

社会開発 システムエ学科

(1988年9月 1日 受理)

Development of Knowledge Network and lnternationalization of Local City Areas

――

A Case Study in Tottori City Area―

by

Kiyoshi KoBAYASHI and Nori0 0KADA

Departlllent of Social Systems Engineering (Received September l,1988)

This paper discusses regional consequences of the giobalization of resource,

kno、viedge and human networks and regional policy for the internationali3ation of

local areas ヽヽre point Out that the ttinternationalization of local areas"is the process

in which iocal networks are interconnected都/ith overseas networks, sometirnes are

integrated as part of the globai network, and that this process gOes to seek the

net、vork(scale)ecOnOmy in getting kno覇/1edge and information in the giobal markets

The intercOnnection of different net都 /orks often brings about variOus kinds of

conflicts among net覇 ′orks Local areas should be equipped with the means not only to cataly2e the global extension of local netⅥ rorks but to resolve the conflicts ヽVe assess the potential ability of the global extension Of local activities in Tottori area and the regional policy for the internationahzation Of the area

(2)

1

は じめに 近年の情報化の進展 や産業界 における急速 な技術革新 に伴って、社会・ 経済活動が国際的な文脈 の中で展開 き れるようになってきた。技術革新 と企業活動の進展は密 接に関連 してお り1)、 これ らの動 きが地方都市田の産業・ 就業構造 の変動の原動力 となっている。また、技術革新 や企業活動の国際化は地方都市四の発達過程 においても 重要な役割を演 じるようになってきた。 この ような状況 を背景 として、地方行政担 当者や学術研究機関あるいは 地方経済界 穆中心 に、地 域の活性化 戦略の一つ として 「 地域の国際化」に大 きな期待 が寄せ られ るようになっ てきた。 地域の国際化は全目的 な規模 で進展 しつつ ある一つの 潮流である。 このような変化の傾向 は地方都市日にも多 様な影響 穆及ぼ しつつある。一般に、地方 の中小都市圏 の国際的なチ ャンネルの数や種類は非常に限 られている。 また、地域の国際化の重要性やそれがもた らすメリット が域内の人間に十分に理解 きれていない場合も少なくな い。この場合、地域の国際化を機軸 として地域振興や地 域の活性化を図ることは容易ではない。 本研究では、地域の国際化の問題 を「地域 の人間的な つなが りを海外のネッ トワーク とどのように結びつけて いけばいいか」 とぃ う問題 として解釈する。地方都市日 にわける人的なネ ッ トワークを国際化することの最大の メリットは、知識・ 情報・ 資源等を国際的な市場で一気 に獲得す る可能性 老得 ることにある と考える。反面、地 域にわける人間的なネ ッ トワークは地方都市四独 自の論 理のも とで個別に発展 したものである。地方都市のネ ッ トワークを国際的なネッ トワークに連結 しようと′すれば、 そこに技術的 。社会的 。文化的な摩擦が生 じる。 本研究では、鳥取都市田 とい う地方小都市田を とりあ げ、この地域 における地場企業活動 の国際化 の現状 とそ の発展過程にっいて分析 す る。 この研究成果を踏 まえ、 地方の中小都市目の国際化 がもた らすメリッ トやその進 展過程で生 じる問題点にっいて考察する。 きらに、国際 的なチ ャンネルに恵 まれない地方小都市目 の人的ネッ ト ワークの国際化の進展の方向性 と可能性について述べる とともに、人的ネ ットヮークの国際化のために必要な基 盤施設の整備方針に関 して考察 したいと考 える。

2

地域 の国際化の過程 2-′

1

地域 の国際化の定義 「地域 の国際化 」 とい う言葉が頻繁に用 い られている が、その意味 は必ず しも明確ではない。しか し、地域 の 国際化 とい う言葉 が使われ る背後には、地域で発達 して きた活動やネ ッ トワークが従来 の活動の範囲 を越 えて海 外の活動やネ ッ トワーク と結びつ く現象が存在 してい る と考えることがで きる。地域の国際化を「地域の活動や ネッ トワークが国際的に発展 していく動的過程」 と定義 した場合、そ こには互いに密接 に関連する二 つの発展過 程が存在する。一つは、 それ まで地域内部で活動 して き た人間、企業 、組織が国外 で活躍するようになる現象 で ある。本研究では、 このような過程を「出ていく国際化 」 と呼ぶ こ とにする。いま一 っは海外の人間や活動が地域 のネッ トワークを利用す るようになるプ ロセスで あ り、 「入 って くる国際化」と呼ぶ こととする。後者は 日常的 な生活体験 を通 じて身近に経験 できるため、「地域の国 際化」を後者 の意味で理解することが少な くない。 しか し、「 地域の国際化」を地方都市田の活性化戦略 として 活用 してい くためには、地域の国際化のプ ロセスが上述 の二つの動的過程 を伴 っていることに留意 しなければな らない。

2-2

「 出てい く国際化」の過程 地域 の企業や組織がその活動 の国際的展開 を図 るよ う になる理 由は、そ こに明確 な利益や メリッ トが見込め る か らである。企業・組織の活動を国際化することにより、 海外で開発 きれた知識・ 情報・ 資源を利用 した り、ある いは海外 におけるマーケ ッ トを国際市場で一気に獲得 す ることが可能 になる。 この ように「 出てい く国際化 」は 何 らかの動機 に基づいて進展す るものであるが、 この よ うな地域活動の国際化は 自然発生的に進展す るものでは ない。地域内の活動が海外 の活動 と結びつ くためには、 少な くとも双方の結びつ きを仲介する人間や組織 、ある いは「 きっかけ」が必要である。 大都市日 の ように多様 な国際化のチ ャンネンルが存在 する地域では、地域で活躍 している各種の活動主体が 自 ら必要 とする国際化のチ ャンネル老以内に見出す ことも 可能で ある。 またいくっかのチ ャンネルが 自然発生的に 結びついて新 しい国際化 のチ ャンネルが生 まれることも ある。 しか し、鳥取都市日 のよ うな地方の中小都市目 の

(3)

鳥 取 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第

19巻

場合 に は、国際 化 のチ ャンネル の数 や種類 が非常 に限定 きれて お り、地域 の人間 が必 要 とす る国際的 チ ヤンネ ル セ見 つ け るこ とは非常 に難 しい場合 が少 な くない。地 方 都市圏 で確保 で きる数 少 な い国際化 のチ ャンネルを いか に有効 に活用 す るかが重要 な課題 とな る。

2-3

「 入 って くる国際 化」 の過 程 「 出 てい く国際 化 」 と同時 に「 入 って くる国際 化 」も 進展す る。「 出てい く国際化 」を推進す る活動主体に とっ ては、 当然 の こ となが ら「 出て い く国際化 」に伴 って生 じる「 入 って くる国際化 」を引受 ける意思 を持 っている。 しか し、「 入 って くる国際 化 」 彦一 つの企業 や活 動が単 独で処理できるものではない。海外の人間 が各種 の公的・ 民的サ ー ビスを必 要 とした り、域 内 で発達 した各種 の活 動 や ネ ッ トワークを利用 した りす る ようにな る。 この よ うに「 入 って くる国際 化 」は単 に個 人や組 織 の国際化 で 対応 で きるで きるものではない。地域 の種 々の活動やネ ッ トワーク自体 の国際化が必 要 とな るわけで ある。 「 出て い く国際化Jを行 う人間や組織 は地域 の国際化 を推進 す る動機 を持 って い る。 しか し、

r入

って くる国 際化 」 だけに対応 す る人 間 に とって は、地 域 の国際化 が もた らす利益 が明 瞭で な く、国際 化 を推進 す る動機 づ け に乏 しい場合 が少 な くなLi。 また、地域 にわ け る活動 や ネ ッ トワークはその地域 に固有 の社 会的・ 文 化的・ 経 済 的 な条 件 の下 で発 達 したも ので あ る。「 入 って くる国際 化 」は必然的 に地 域 の人 的 ネ ッ トワークの社 会的・ 制 度 的 な変 革 を要求 す るため、地域 の国際化 に よる利益 や メ リッ トが ネ ッ トワークの構成 員 に十分 に理 解 きれ ない場 合 には 国際化 に対 す る抵 抗 も決 して少 な くな い。 この場 合、地域 の人 間や組織 が地域 の 国際化 がも た らす利益 を 理解 し、 自 ら国際化 に対応 しよ うとす る動機 を持 つ よ う にす る ことが重要 で ある。

3

鳥取地場企業 と国際化

3-1

地場企業の国際化の実態 地域 の国際化へ の流れは今後拡大 こそすれ縮小 する可 能性は極 めて少ない。海外 との関係 を深めそれを維持 し てい くことは、わが国の宿命でもあ りそれは同時に地方 都市日 の宿命でもある。 このような全国的な国際化の う ね りの中で、地方都市日 の産業 。経済界に とっても、地 域の国際化の主体 として担 うべ き役割 と責任は大 きい。 また、地域の国際化は民間の個別企業の経営努力 の積み 重ねにより推進 きれている部分も少な くない。以下では、 国際化時代を迎 えた鳥取県下の地場企業における国際化 への対応 と企業活動 の国際的な展開の実績に関す る調査 結果につ いて述べ る とともに、今後 の鳥取都市日 の国際 化にあたって地域がかか える各種 の問題点 と今後の課題 について考察することとする。 まず、表 …1は鳥取県下の業種別企業総数 と鳥取県貿 易振興会 に所属 している県下の地場企業を分野別に示 し たもので ある。この表 より鳥取県下 において企業活動の 国際化に積極的に取 り組 んでいる業種 としては、農水産 物、繊維製品、電気機機器具製品、紙・ パ ルプ製品、そ の他製品 の製造業があげ られ よう。中でも、電気機械器 具製造業 の分野においては、鳥取県貿易振興会に所属 し ている企業の数も多 く、鳥取地域の国際化 を担 う役割が 期待で きよう。そ こで、著者等は鳥取都市国 の国際化 の 実態を明 らかにすべ く昭和

63年

2月に鳥取県下の地場 企業を対象に海外取引 。交流の動向に関するアンケー ト 表

-1

鳥取県下 の地場企業 目

i

事業所数

貿易振興会 I 加盟企業数 農水建物

404 15

254 0

155 12

77 1

97 o

75 0

266 39

202 9

(昭和

62年

現在

) r単

位:社) 調査″実施 した。アンケー ト調査は県下の中堅・ 中小企 業の うち海外取引・ 交流 の実績 のある企業約

20社

を対 象に実施 し、 この うち

10社

か らアンケー トの回答を得 た。また、 これ と並行 して鳥取市内で近年海外 との交流 が活発化 している と考 え られる企業数社 を選 び、企業活 動の国際イとの過程 について ヒア リング調査 注行 った。県 下で海外取引や交流を実施 している企業の絶対数が少 な いため、 アンケー ト調査結果の集計分析 を行 うことはで きないが、これに より鳥取県下の個別企業 の国際化に対 する経営努力 の実態 を うかがい知 ることができる。本研 究では、地場企業の国際的な取引・交流の実態にっいて、 「 どの ようなきっかけで始 まり」、「 その過程の中で ど 繊推製品 木製品 紙 。印刷 窯業・ 土石 金属製品 一般機械 電気機械 その他

(4)

のような問題が生じているのか」という視点か ら分析 し、 鳥取地域 の国際イとの今後 の展望 とそのための課題 につい て考察することとする。

3-2

アンケー ト調査 の結果 アンケー ト調査においては、鳥取県下の地場企業にお ける海外取引・ 交流の形 態 として(1)海外へ の製 品の輸 出、(ii)海外 か らの輸入、(iii)海外生産、(iv)海外か ら の技術移転、(v)海外への技術移転、 ( )海外販売拠点 の設置 とい う六つのタイプ老想定 した。アンケー トの回 答を得 た

10社

とも海外へ製品 を輸出 してお り、鳥取地 域においては製品の輸出が海外取引・ 交流の主流 を占め ている と考 えることがで きる。 きらに、 これ らの企業 の 中には海外生産(1社)、 海外か らの技術移転(1社)、 海 外への技術移転(1社)、 販売拠点の設置(1社)を行 って いると回答 した企業もあ り、これ らの企業 では製品の輸 出に とどまらず積極的に企業活動の国際的 な展開″図 っ ていることが理解できる。 きて、 アンケー トを回収できた企業のほ とん どが、海 外 との取引をはじめた「 きっかけ」 として「 商社 の紹介 による」菱挙 げている。国際的 なチ ャンネルに決 して恵 まれていない鳥取地場企業に とって、商社 は企業活動 の 国際化に とって重要な窓 口になっているこ とが読み取れ る。また、海外 との取引で問題になることとして「為替 相場の変動」をあげている企業 は8社にのIぎり、海外取 引におけるリスクが企業活動の国際化に とって重要な間 題 として認識 きれていることが判る。また、海外 との取 引・ 交流において問題が起 こった場合の トラブルの解決 は、「 商社に一任 している」 と答 えている企業が大半で ある。資本力が必ずしも大 きくないない県下 の地場企業 が単独で海外取引を行な う場合 、そこに生 じるリスクを いかに吸収すればいいかが問題 になる。また、県下に海 外取引にっきものの トラブル老解決するための専門的な 業者が地域に存在 しないことや海外 の市場 に関す る的確 な情報収集を企業単独で行な うことが難 しいことが、海 外取引における商社への依存度 を高 める理 由にもなって いる。 一方、鳥取地場企業の中でもい くつかの企業は積極的 に企業活動の国際化老試みている。 これ らの企業が海外 との取 引を始 めた きっかけ として、「商社 の紹介 」、 「親企業・ 関連企業の紹介による」 と答 えて いるが、中 には「 国内の取引先か らの紹介による」、「海外取引先 か らの紹介に よる」、「 自社独 自の調査に よる」 と回答 している企業があ り若 目に値す る。 これ らの企業 の中に は海外 との取BI・ 交流上での トラブルを「 独 自に解決 し た」と答 えている企業が

3社

も あり、企業活動を独 自に 展開で きる能力 を持 っているこ とが理解で きる。 表…2はアンケー トの回答 老得た企業にわける

R&D

(研究開発 :Research and Developnent)活 動の水準を比 較 したもので ある。また、表

-3は

各企業 が最も重要 と 考える企業戦略を示 している。以上 の表 よ う独 自に企業 活動の国際化 を図 っている企業 と商社に依存 した国際化 を行なっている企業の間には極 めて明疎な差異が見出せ る。企業活動 の国際化に積極的 な企業では

R&D活

動が 活発に行 なわれてお り、企業活動において継続的 な新製 品の開発に重点を置いている。 この ような企業では製品 のライフサイクルも短か く、企業活動におけ る製 品

R&

Dの重要性を うかがえる。すなわち、製品 のライフサイ クルが短かい業界では継続的に新 しい製品 を開発 してい く必要があり、企業活動におぃて

R&D活

動 の占める役 割が大 きい。 この ような業種では、企業競争 に勝 ち抜 く ために、いち早 く新製品 穆市場に提供 しなければな らな い。より優れた製品であれば、 た とえ海外 の顧客 であっ てもその製品の良 きを理解す ることは容易 である。この 表 …

2

アンケー ト回答企業 の

R&D活

性度

i

国際化に積極的な企業 ::!::]:::::::::::1::│:;::::::::I:Z三 ) B社 C社 D社 │

43()

29①

126

50

16

25

::::::::::::::::::::::::::::!::iii:) :と

l f:告

Gtt i 73

H社

1 40

1社

1 36

」社

1 13

O

6

0

2 3 0 表

-3

重 要 と考 える企業 戦略 企業戦

lIS i

国際化に積極 商社 を通 じた取引 品質・ 仕様

的な企 業 を主体 とする企業 4 1 0 価格

2

0

0

広告 新製品の開発 0 3 流通チ ャシネル

i 0 0

, (い

位:社)

(5)

鳥 取 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第

19巻

ような企業では、新 しい知識や技術を素早 く収集 したり、 製品市場 を求めて企業活動 の国際化 を行な うことが必要 となる。すなわち、企業活動において新 しい知識や技術 の果たす役割 が大 きいほ ど、企業活動を国際的に展開す る必要性も大 きくなることが理解で きる。

4

知識ネッ トワークの発展 と地域の国際化

4-1

知識 ネッ トワークの発展

2.に

おいて地域の国際化を地域の人的 ネ ッ トワーク が海外 の人的 ネッ トワーク と結びつ く現象 と定義 した。 しかし、海外の人的ネッ トワークで用いられている言語、 習慣、制度、文化等はそれぞれの地域独 自の論理 のも と で発達 してきたものである。異質なネッ トワークが互 に 結びつ くためには、それぞれのネッ トワークが互 に結 び つきたい とい う動機 を持 たなければならない。また、地 域の人間 と海外の人間が互 いに共通に理解で き、共通 の 関心 を持つ ような「接合子 」が必要 である。本研究では このような「 接合子」 として知識や技術の果 たす役割 の 重要性 を指摘 したい。技術や知識はそれ穆理解で きる人 間の間でその内容 を容易 に伝達できるとい う利点 連有す る。この ような知識や技術 を仲介に して互 いに異 なる社 会や歴史 を背景 として発達 してきた人的なネ ットワーク が結びつ くことが可能になる。 地方都市田 の国際化において知識・ 技術の国際交流 が 重要で あるのは、知識・ 技術の国際交流を軸 として海外 の人的なネッ トワーク と結 びつ くことが容易である点 に ある。も ちろん、地域 の研究機関に よる国際学術・ 研究 交流に より地場企業が必要 な知識や技術を獲得で きれば 理想的である。そ うでな くても、地方の中小都市田にお いて研究機関が行 な う国際学術・ 研究交流 は地域におけ る数少ない国際的なチ ャンネルの一つである。国際的 な 学術・ 研究交流を通 じて地域の組織や企業が海外 の人的 ネッ トワークに紹介 きれれば、それが地域の地場企業 が 国際的 な活動 を展開 した り新 しい国際的なチ ャンネル泡 開 く「 きっかけ」にな りうる点に若 目したい。この意味 で、大学・ 各種の研究機関、地方 自治体は地域の国際化 の窓日 として果たす役割が極めて重要である。 学術・ 研究機関が地域 の国際化の拠点 としての役割 を 十分に発揮す るためには、地域の研究機関、 自治体、民 間の各種主体 の間に緊密 な人間のつなが りが形成 きれ る ことが重要で ある。 きらに、地域の人的ネ ッ トワークが 単 なる人 間 のつ なが りに終 わ らずに 、互 い に新 しい知 識 や技術 の重要 性 を認識 し、知識や情 報 を交 換 す る よ うな 「 知 識 ネ ッ トワー ク」2)と して機能 す る こ とが大前提 で ある。 国際学 術・ 研究 交流 を機 軸 とした知識 ネ ッ トワーク の 国際化 は地域 の国際化 に とって重要 な役割 を果 たす こ と が期待 で きる。 しか し、現 実 には地 域 の人 的 ネ ッ トワ ー クを知 識 ネ ッ トワ ークに脱 皮 きせ 、 その活 動 の国際化 を 図 るため に克 服 すべ き問題 は多 々あ る。 ま た 、学 術 。研 究交流 を 中心 として地域 の国際化 が進展 した先例 は我 国 では極 め て乏 しい 。そ こで 、以 下 で は鳥取 都 市日 の地 場 企業 を対 象 と して実施 した ヒア リング調査 の結 果 に基 づ いて、 この地 域 に おけ る企業活 動 の 国際化 の過程 と知 識 ネ ッ トワークの実態 につ いて考察す る とともに、知識 ネ ッ トワークを通 じた地域の国際化 の課題 につ いて考察す る。

4-2

地場 企業 活動 の国際化 の過程

3.に

おけ る分析 の結果 、鳥取 県下 の地 場 企業 の中 で も積極 的 に企 業活 動 の国際化 を推 進 して い る企業 が存 在 す るこ とが明 らかになった。企業活動 が国際化す るには、 それ に先 立 って人 的 ネ ッ トワークの国際化 の 過程 が存 在 す る。 そ こで 、以 下 では県下 の国際化 老積 極 的 に実施 し てい る二 つ の企業 を対象 とした ヒア リング調 査 の結 果 に 基づ いて 、企 業活 動 の国際化 の過程 の概 略 に つ いて説 明 す る。 A社は鳥取 市 に立地 す る中堅 企業 で ある 。

A社

の生 産 す る製 品 の約

4分

の1がアジ ア

NICsや

欧 米 中心 に輸 出 され て いる。 また、現在 アジ ア

NICsに

海外 生産 の 拠点 を設 け る と同 時 に、 これ らの国 々へ 積 極 的 に技術 移 転 を図 ってい る。 また、米 国 とアジ ア

NICsに

販売 擬 点 老置 き、多角的 に企業活 動 の国際化 を進 め て い る。 き て、

A社

の活 動 の 国際化 は、鳥 取都市日 で 企 業活 動 の 国 際化 を進 めて いる他企業 と同様 に親 会社 あ る いは商社 の 紹介 老 うけた ことが きっかけ となって進展 した。 きらに、 この よ うに開 かれ た国際的 なチ ャンネルを利 用 して 、海 外 の企業 と技 術提 携 を図 る と同 時 に海外 に生 産拠 点 の設 置 と駐 在 員 の派遣 杉進 めて い った。 き らに 、

A社

は米 国 の取引先 を通 じて ヨー ロ ッパの企業 を紹介 きれ 、 これ ら の企業 と技術 提携 を図 るな ど国際的 な知識 ネ ッ トワーク の拡大 を図 ってい る。一方 、アジ ア

NICsに

合 弁会 社 を設立 してい るが 、その相 手も や は り海外 の取 引先 壱通 して紹 介 され た こ とが きっかけ とな って い る 。図

-1は

(6)

A社の企業活動の国際化 の展開 を模式的に示 したもので あるが、 これ よりA社の企業活動の国際化は海外 との取 引先 との技術的なつなが りを求 めて知識ネ ッ トワークが 進化 していった結果であることが理解できる。企業活動 の国際化を図 ることの利点 は、A社の例でもわかるよう にすでに確立 している海外 のネ ットワークを利用できる ようになること、 きらにそのネ ットヮークを介 して別の ネットワーク とのつなが りが発達す る可能性がある点に ある。 一方、B社も現在積極的に企業活動の国際化を進めて いる鳥取市内の企業である。B社の製品の うち輸 出 きれ る製品の量は約

4分

の3に達 している。また、B社の海 外進出は国際的な業界紙 に よる広告・ 宣伝に よる問合せ が きっかけ となっている。B社にわける企業活動の国際 化の特徴 は、既存 の国際的チ ャンネルを通 じずに独 自に チャンネルを開拓 しているところにある。そのための裏 付けとなる技術を海外の企業 と技術的な提携 に頼 らず 自 前の技術力や知識の集積で開発 している点 にある。その ために多大の

R&D投

資 を実施 していることはい うまで もない。

A社

、B社における売上高 の推移や海外 との交 流の頻度等 をそれぞれ図

2,図

3に示 しているが、いず れの企業 においても海外 との交流の増加に伴 って企業 の 売上高も急増 していることがわかる。両者 ともに企業活 動の国際化を行っているものの、その戦略は非常に異なっ ている。 しか し、両者 とも企業 の国際化を自社の技術力 や知識水準を武器 に、技術的なつなが りを求 めて海外 の 企業やネ ッ トワーク と結 びついていったことが理解 きれ よう。その国際化のきっかけは

A社

の場合、親企業 ある いは商社 といった企業間におけ る人間的なつなが りであ り、B社の場合には専門的な国際業界紙 とい う違 いはあ る。しか し、いずれにせ よこれ らの企業の国際化 を進展 きせた原動力 は国際的な知識ネ ットワーク と結びついた り、独 自に知識 ネッ トワークを開発 していった経営者 の 企業家精神(entrepreneurship)。)である。以上では鳥取 市に立地 している企業2社に対する ヒアリング調査の結 果を述べ たにすぎないが、企業 の「 出てい く国際化」に とって知識ネ ットヮークの存在 とその発展 が重要である ことが理解で きよう。

4-3

国際 化に伴 う問題点 企業 活動 が 国際化 し海外 の ネ ッ トワーク との交流が進 展 すれば、「 入 って くる国際化 」も進展せ ぎるをえない。 図

-l A社

の国際化の過程 最近 `F度の水 準 を10鶴 として基 準化 して示 して い る。 図

-2 A社

の企業実績 産)最近年度の水準を100χとして基準化 して示 している。 図

-3 B社

の企業実績

]中曲

(7)

鳥 取 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第

19巻

鳥取都市日の場合、まだ二三の企業 が国際的な活動を開 始 した段階にすぎない。 したが って、現時点における当 該地域 の国際化の問題は、「 出てい く国際化 」に とって 障害 とな っている問題 をいかに解決 すべ きか とい う段階 にとどまってぃる。逆に言 えば、鳥取地域 の国際化が進 展 していないため、地元の活動の国際化が阻害 きれたり、 国際化を志向する企業や活動の立地が進展 していない と もいえる。しか し、地場企業の国際化が進展すれば、鳥 取都市四 の各種のネッ トワークを利用する外 国人の数も 増加 して くる。このような段階になれば、鳥取都市田の 人的ネ ッ トワークが抱 える各種 の問題点が頸在化 し、人 的ネッ トワーク自体が「入 って くる国際化 」に対応せ ぎ るをえな くなって くる。 現時点 の鳥取地域にお け る国際化 の問題 老「『 出てい く国際化』にとって障害 となって いる問題 をいかに解決 すべ きか とい う問題 」として とらえた場合、実際にそれ がどの ような形で現れているのか という点 に着 目して、 先述のアンケー ト調査に基づき分析 してみよう。アンケー ト調査 では鳥取の地場企業が海外 との取引・ 交流 を活発 かつスムーズに行 うために必要な方策老質問 しているが、 それに対する回答 として国際化を積極的に図 っている企 業では、「 イベ ン ト・ 見本市の開催 」、「4子政 に よる鳥 取県の海外

PR」

、「4子政に よる海外情報の提供」、「大 学研究機関 との交流の強化 」、「空港関連施設 の整備」 を掲げている。一方、国際化にそれほど積極的でない企 業では無 回答がも っとも多いが、その他「 空港関連施設 の整備」、「道路等関連施設の整備」、「国際港湾の整備」 等の物的施設の整備あるいは「行政 による海外受注の手 続 き等 の指導 」等 連要望 している企業もある。このほか 先述の ヒアリング調査か ら「 金融機関での外貨両替の手 続きの簡便化」、「海外か らの長期滞在者のための福祉・ 厚生施 設の整備 」、「 従業 員の語学研修 の機会 」等を課 題 として とらえていることも判 った。現在 、 ヒア リング 調査の対象 とした企業では、 これ らの問題 を自前の手段 で解決 しているが、鳥取地域で国際取引・ 交流を行 う企 業が増加すれば早晩鳥取地域にわける社会的な問題 とし て顕在化 して くる と考 え られる。 きて、 アンケー ト調査 の結果か ら鳥取県下の地場企業 が認識 している国際化の問題を知 ることがで きる。 しか し、ここで注意 すべ きこ とは、現に国際化を図 っている 企業 とそ うでない企業では国際化に対する問題の捉え方 やその認識の仕方がまった く異 なっている点である。 ま た、鳥取地域 での立地 を断念 した潜在的な立地企業が認 識 した問題点も このようなアンケー ト調査か ら分析する ことは難 しい。いいかえれば、鳥取地方における国際化 の問題は、それが地域の問題や あるいは自分 自身の問題 として地域の人間が明確 に意識 して いないことに起因す る場合も少な くない。地域 における有形・ 無形の制約が 地域の国際化 の進展 を阻害 し、それが地域の活性化 を阻 寄 している違因 ともなっている。このような水面下の間 題は「 出てい く国際化」を行 わ うとしている主体側には 問題 として とらえ られているが、そ うでない人間に とっ ては問題 として理解 きれていない点 に本質的な問題が あ る。 この ような視点で先述のアンケー ト調査 の結果を分 析 してみると、そこか ら以下の ような問題点が浮かび上 っ て くる。すなわち、鳥取企業の国際化が地域外の親企業 の紹介や個性的な経営者の企業家精神に基づいたもので あり、鳥取県下の人的ネ ッ トワークを利用 したものでは ない点に ある。換言すれば、鳥取都市日の国際化がかか えている問題 は地域内の人的ネ ッ トワークが知識ネッ ト ワーク として成熟 していない点 にあるといっても過言で はないで あろ う。地場企業が県下の国際化 のための課題 として掲 げている「 イベン ト・ 見本市の開催 」、「行政 による鳥取目 のPR」 「 行政 に よる海外情報の提供」、 「大学研究機関 との交流の強化 」 という課題 は単 に施設 や組織 を作れば事足 りるものではない。「 それを実行す る人間 」が地域に存在す ることと、地域社会が このよう な人間の行動 を強 く支援 する とい う姿勢がなければ容易 に実行できるものではないQ

4-4

鳥取都市田の国際化の課題 知識ネ ッ トワークの未成熟 きは現実に種 々の問題 とし て顕在化 している。例 えば、地域内における大学・ 自治 体・ 地場企業 との間で知識・ 技術 の交換が活発に行なわ れていないことも知識ネ ッ トワークの未熟 き連示す一面 である。しか し、このことは鳥取都市四の人的ネットワー クが未熱 であることを意味 していない。地方 の中小都市 田では人的ネ ッ トワークの種類 は多 くないものの、ネ ッ トワークの内部での情報伝達性 は極 めて高い場合が少 な くない。緊密 な人的ネッ トワークの存在は地方都市田 が 有する貴重な資源でもある。 しか し、地方の人的ネッ ト ワークは必ず しも新 しい知識や技術 を求めて発達 したも のではない。新 しい知識や技術 を修得することの重要性 穆地域 の人間が理解 しなければ、人的ネッ トワークは知

(8)

説ネッ トワークとしてなかなか脱皮 しえない。 知識ネッ トワークの発展 は鳥取都市日 の国際化 のため の必要条件である。しか し、それだけでは地域の国際化 は進展 しない。前述 した ように地方都市日 では、地域が 有する数少ない国際化のチ ャンネルをいかに利用 しそれ を発展 きせるかが重要 となる。地域 の国際化 において国 際的な学術・ 研究交流が重要な戦略 とな りうるのは、知 識や技術 を軸 として外国 と結びつ くため「 きっかけ」 と な りうるか らである。地方都市日の大学や各種の研究機 関は地域の国際化の窓口であ り、新 しい知識や技術 を地 域の知識ネッ トワークに浸透 きせ る拠点 としても重要で ある。 しかし一方で、国際学術・ 研究交流 を機軸 とする 地域の国際化には自ず と限界が ある。地方大学や地方 の 研究機関における国際的 な学術・ 研究交流 は必ず しも組 織的に広範囲 にわたって行 なわれてお らず、 むしろ研究 者個人や小 きな組織単位 を中心 として限定 きれた分野 の 交流が行なわれている場合が多 い。 この場合、国際交流 の目的 をある特定の分野に限定するなど焦点 を絞 った悩 性的な国際化戦略が必要 となろ う。 また、国際化 の過程 の中でそれに参加 しようとい う動機 を持つ地域の人間や 組織の数 を増 や してい くことが必要である。そのために は、知識ネッ トワークの国際化 がもた らす メ リッ トが地 域の人間にとって「 わか りやす い」ものであることが望 ましぃ。例えば、鳥取大学の砂丘研究利用施設が長年乾 燥地の緑化に関 して国際学術・ 研究交流を実施 している が、このような交流は地域 の人間に とっ′てわか りやすい 国際化の事例である。この ように地方都市日 において ま ず要請 きれるのは「 慣性的でわか りやすい」国際化の積 み上げである と考 える。

5

わわ り:こ 本研究では、鳥取都市田 のような地方の中小都市目 の 国際化 の課題 として地域の人的 ネッ トワークを知識ネ ッ トワークに脱皮 きせ ることが重要で あること老指摘 し、 その うえで国際学術・ 研究交流 を主軸 とした地域の国際 化の戦略について考察 した。 また、地域の国際化はそれを主導する地方 自治体、産 業界、研究機関の緊密な協力 と地域住民の理解があって はじめて可能 となる。そのためには、まず地域の人的ネッ トワークが知識や情報の重要性 を認識 し、知識や情報の 交換を行 なう知識ネッ トワーク として機能することが前 提 となる。このためには、知識 ネッ トワークにおいて例 えば産業界 と研究機関を結びつける「 インターフェイス」 とな りうる人間・ 組織が必要で ある。地方 自治体 は地域 の産業界 と研究機関の双方 に関する情報を持 ちえる立場 にある。 この意味 で、産業界 と研究機関 とを結 びつける インターフェィスの役割が地方 自治体に期待 きれる。た とえば、鳥取市に近年開設 きれた (財

)鳥

取工業技術振 興協会 の ように産業界 と研究機関を結びつけ る「 場づ く り」が重要である。また、地域 の人的ネッ トワークを知 識ネッ トワークに脱皮 きせ るためには、地域 の人的ネッ トワークの聞鎖性 を除去す るこ とが必要で ある。 このた めには官民を問わず新 しい知識や技術を利用 した り、あ るいは

R&D活

動に積極的 に取 り組んでい こうとする姿 勢がなければな らない。研究機関のサイ ドでも 自治体や 産業界 と交流できるような「場 づ くり」を積極的に推 し 進めていくことが重要で ある。 この意味 でも、例 えば現在鳥取大学工学部 とカナダ国 ウォータルー大学工学部 の間で進めつつ ある学術交流の 一環 として、 ウォータルー大学か らの留学生 に地場企業 での学外実習 を経験 きせ ようとする試みも、国際学術・ 研究交流 を通 じた国際化 のための「 場づ くり」として位 置づけ られる と考 える。鳥取都市国 のような中小都市圏 では地域 の国際化 の機会やチ ャンネルの数や種類 は極 め て少ない。限 られ た機会 を積極的に活用 して「 個性的で わか りやすい国際化 」をしたたかに進めてい くとともに、 産業界 と研究機関 とを結 びつ ける「場づ くり」を図って いくことが地方都市四の国際化 に要求 されている と考 え る。 参考文献

1)」

.Z.Mvatelah、 小林潔司、岡田憲夫:技術革新 の下 に わける地域の就業・ 産業構造の変動に関する考察 ― スウェーデ ン との国際比較 を通 して一土木計画学研 究・ 請演集、No,10,pp.387-344.

2)小

林潔司 :知 識生産 と企業 の立地均衡 に関す る理論 的研究、土本学会論文集、No,395,IV-9,1988, 3) 」。 Schuapeter:The Theory of Econonic Develop―

参照

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