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複雑系経営の基本構想--創発効果と収穫逓増の戦略潮流---香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第 72 巻第 3 号 1999 年 12 月 137~207

複雑系経営の基本構想

一創発効果と収穫逓増の戦略潮流一

原 田

1

.

は じ め に 今,我々はまさにいささかの混乱と不安の時に遭遇して,企業も個人もそし て行政もかなり深刻な不安な気分におそわれているようである。このような時 代において,企業経営の宿命として,まさに企業を存続させ,発展させること を余儀なくされている。そのため,多様な領域から新たな概念がアナロジーと して適用されてきたのだが,昨今では最も注目されているものとして複雑系を あげることができる。 さて,この複雑系が企業経営に注目される理由は,複雑系のもつ主要な特徴 である創発効果と収穫逓増というものに多くの先進的な経営者が感覚的に魅了 されていることにあると考えられる。 企業にとっては収穫逓増とは魅力的なキーワードであり,まさに彼岸に位置 するようなきわめてありがたいものである。そのため,収穫逓増が一体どのよ うな方法で実現できるかではなく,実際には単なる願望的な目標としていわば お題目的に語られることも多いようである。しかし,このことは,複雑系とい うものが企業を実際に責任ある立場で経営している人々にとってまさに依拠す るに値する効果的な概念であることをも示している。 また,企業経営において昨今のように価値創造が標梼されるようになると, それがもっ相互のフィードパックが価値を増幅していくという創発効果の概念 もきわめて魅力的にうつってくる。実際,なんとなく何かを行うとブラックボッ クスの中である種の増幅されたアウトプットが産出されることはきわめて嬉し

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138- 香川大学経済論叢 952 いものである。そのため,この創発経営という概念は,戦略策定部門のスタッ プにおいてもぜひとも飛びつきたくなるものである。 しかし,複雑を具体的に実際の企業経営に対してどのように適用しうるかに ついては,未だ十分に議論されてはいない。しかし,この複雑系にはまさに正 面から理論的に突き詰めていくよりも,むしろ個別企業が従来の経営戦略を転 換する際に発想の転換を誘発させるパラダイムスイッチャーとして捉えること が現実的である。その意味では,例えば我が社において複雑系の経営を展開す るにはどうしたらよいのかというような大上段に振りかぶった議論は不必要で あると思われる。言い換えれば,この複雑系についてはもっと荘洋としたもの として捉えることで現時点においては十分であると考えてよい。 しかし,このように考えながらも,ここでは複雑系を新しいタイプの経営モ デルとして捉えることについて何らかのヒントを提示しえないかと思いながら 自説を提示することにした。したがって,ここにおいては複雑系を取り巻く多 くの見解をいわばある種のエッセイのように散りばめながら,その中からそれ なりのドグマが抽出できればと考えたしだいである。その意味においては,こ の論考については著者が実際に複雑系の経営を実践するとなれば一体どんなも のを参考にしながら組み立てるかという,まさに企業革新を実現するためのい くつかの断片として捉えて頂ければ幸いである。もちろん,複雑経営の本質は 一体何なのか,複雑系の経営モデルは一体どうなのかということにまで深く立 ちいたっていないこともあり,実際に企業経営に適用するにあたり,どれほど の効果があるかどうかについてはこころもとないばかりである。 このような問題意識に立脚して,本稿においては複雑系経営の基本構想とし て以下のような構成で取りまとめを行うことにした。まず,第

2

節の複雑系に ついての基本認識と第

3

節の複雑系における実践的思考方法において,複雑系 に対する基本認識を深めることを心がけた。そして,第 4節の収穫逓増に基づ く生産性概念と第

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節の創発型システム構築への挑戦において,複雑系の経営 における典型的な内容についての理解を深めることにした。続いて,第6節の 複雑系のマネジメントモデルと第7節の複雑系経営における戦略事例におい

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-139-ー 複雑系経営の基本構想、 953 て,複雑系の経営についての理論と実際についての理解を深めることにした。 さらに,第 8節の企業戦略のニューパラダイムと第 9の複雑な時代における経 営戦略においてきたるべき新世紀における企業経営の方向性を探ることを試み これらの論考を踏まえながら最後に結語として複雑系による日本 そして, た。 (図表1)。 型経営システム革新への期待と展望についても若干の考察を行った 複雑系経営の基本構想 図表1 収穫逓増の法則 複雑系の特徴

¥ の識 王 、 。 J 可ア︼一回 雑 本 複 基

2

.

複雑系についての基本認識 さて,昨今すでに複雑系の経営戦略への戦略的な活用は実際に多くの著名な 企業で実践されている。そこで,ここにおいては複雑系の経営戦略の理論的パツ クボーンになっている複雑系の理論そのものについて若干の考察を加えること この複雑系で検討されるべき領域については,例えば線形と非線形, にする。 カオスなどがその代 ゆらぎ,収穫逓減と収穫逓増, フラクタy,レ 表的なものである。 自己組織化, そこで,経営戦略への適用という観点から,特に複雑系の基本認識として以 下の

3

点についての検討を行うことにする。それらは具体的には,第

l

はカオ ス理論の基本認識,第2はフラクタル理論の基本認識,第 3はオートポイエー

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-140-- 香川大学経済論叢 954 シスの基本認識の3点についてである。もちろん実際には,これらの概念は必 ずしもそれぞれ個別に適用されるのではなしむしろ多重的に複合的に適用さ れることが多いことはいうまでもない。 (1 ) カオス理論の基本認識 昨今では,たしかに経営戦略や組織戦略において複雑系がおおいに注目され るようになった。そしてこのような潮流の契機としては,特にカオスやフラク グルという概念の急速的なディフュージョンを想起することが、できる。すなわ ち,このような潮流は,たとえどんな組織においても新しい構造が生まれる場 合には,ゆらぎという概念の考慮が重要であるという認識が高まったことを意 味している。このゆらぎとは,例えばH20(水)が温度により個体や液体や気 体に変化することをあらわしている概念である。また,それはある時点におい ては個体と液体が共存するような状態があることを意味している。 そこで,以下においてゆらぎについてまずイリア・プリジゴンとイサベル・ スタンジュールのカオス理論について若干の考察を加えてみる。なぜなら,ま さに複雑系経営への接近はカオス理論の活用を前提としているからである。具 体的には,第1はゆらぎの増幅,第2は構造安定性,第3はロジスティック進 化,第

4

は進化的フィードパック,第

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は複雑系のモデノレ化についてである。 1)ゆらぎの増幅 ゆらぎはある分岐点に近づくと異常に大きくなってしまい,そこでは確率論 の基本定理の

1

つである大数の法則が成立しなくなる。非線形化学反応の場合 には長距離相闘があらわれるが,そのためマクロ的な距離を隔ている粒子が相 互に結びつき,結果的に局所的事象が系全体に反響している。じつは,このよ うな長距離相関がちょうど平衡から非平衡への転移点において生じている。 この長距離相関の振幅は,最初は小さく平衡から離れるにしたがって増大し, そして分岐点では無限大になっている。平衡状態においては,分子は本質的に (1) 大数の法則:ある確容の事象を何回も観測するとき,観測回数に対するその事象の実 現回数の割合は観測回数を多くすると本来の確率に近づくことを証明した法則である。

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955 複雑系経営の基本構想 141-独立体として振る舞い,したがって相互に他の存在をまったく無視している。 しかしながら,一旦非平衡状態になると,分子聞に平衡状態ではめったに生じ ないいわばコヒーレンスを生みだすことになる。したがって,物質の活性はそ れ自身が生みだす非平衡条件に強く関係していることが理解できる。 例えば,新しい構造が有限の摂動から出現する時には 1つの領域から他の 領域へと導くゆらぎが初期状態を一気に押しゃることは不可能である。すなわ ち,それはまず局所で確立した上で,次第に全空間を侵していくプロセスをた どることになる。そして,最初のゆらぎの大きさがある臨界値の下にあるのか, または上にあるのかにより,そこでのゆらぎは減退していくのか,それとも系 全体が広がっていくのかが決定される。 この核形成現象とは,じつは相転移の古典理論では馴染みの深いものと考え られている。例えば,気体においては凝縮液滴が絶え間なく形成されては蒸発 していく。そして,液相が安定である条件に温度と圧力が到達することは液滴 の臨界の大きさが定義できることを意味している。すなわち,低温であればあ るほど高圧であればあるほど,この臨界点の大きさは小さくなる。もしも,液 滴の大きさが核形成の関値を超すならば,気体はすぐにも液体に転移してしま う(図表2。) さて,系は複雑になればなるほどその安定性が脅かされていくため,永久的 な混沌を回避するための対応が行われる。例えば,コミュニケーションや拡散 過程の安定化効果は,その部分的な回答である。複雑系では,種や個体が多様 (2 ) コヒーレンス:Coherence。干渉性。干渉しうる性質のこと。電子工学の世界では,光 のコヒ!ーレントな性質を利用したコヒーレント光を実用化することに成功した。それが レーザーである。光は電波に比べて波長が長く,その利点から多くの情報をのせて送るこ とができる。半導体レーザーの進歩と光ファイバーの特性改善により,コヒーレント光通 信が将来に情報網の中心になると思われる。 (3 ) 相転移:Phase transition。温度や圧力などのパラメータを変えるとき,ある時点で物 質の状態が不連続に変化することである。水はl気圧の下では摂氏 O度で個体の氷から 融解して液体の水に,さらに摂氏100度で沸騰して気体の水蒸気になる。この融解と沸騰 が相転移であり,各状態を周相,液相,気相のように相とよぶ。鉄などの強磁性体がある 温度以上で磁気を失う,多くの元素がある温度以下で超電導状態になる,液晶で棒状分子 の並び方が変わるなども相転移である。

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142- 香川大学経済論叢 956 図表2 過飽和蒸気中での液滴核の形成

¥

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ど / ¥ヰ

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p〆 / 〆 〆 / 求 、 ¥ ¥ ¥ ¥ ¥ (a) 臨界の大きさよりも小さな液滴 (b) 臨界の大きさよりも大きな液滴 プリゴジン,スタンジエール『混沌からの秩序』より な方法で相互作用しているため,系における多様聞のコミュニケーションによ る安定化とゆらぎによる不安定化とがまさに競合を行っている。そして,この 双方による競合の結果こそがじつは系における安定性の閥値の決定を行ってい る。 2 )構造安定性 それでは,引き続き系における構造安定性について考察を加えてみる。例え ば,生物進化や生態系の進化については構造安定性の概念と深い関係がみいだ せる。すなわち,これらは新参の構成単位の導入にどう反応するかということ に関係しているのである。なお,このような変化に対する,系の安定性の問題 については以下のように定式化できるそうである。 ある系に対して少量に導入された新しい成分のために,系の成分間にも新し い一連の反応が生じてくる。そして,新しい一連の反応については以前からの 系の機能との聞で競合をはじめることになる。もしも,系がこの侵入に関して 構造安定ならば新機能は地につかず改革者は生き延びることはできない。しか し,もしも改革者の増殖速度が十分速い場合には,改革者は鎮圧される代わり に系に侵入し構造のゆらぎが増大する。その場合には,系全体がこの新機能を 採用することになり,結果的に系の活動は新しい文法に支配されることになる。

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957 複雑系経営の基本構想 -143-さて,進化理論の最重要課題の

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つに巨視的構造と微視的事象との聞におき るべきフィードパックの問題がある。そこで,実際の社会においては特にこの ような観点、から構造安定性を捉えることが重要になる。すなわち,それは,道 路や橋を建設する際にその地域の人々の行動にどう影響するか,そしてさらに はそれがその地域のコミュニケーションの形態にどういう修正をもたらすかな どを予測することである。実際に,このような相互依存した過程においてはき わめて複雑な・状況が現出していることは周知の事実である。 3 )ロジスチック進化 前述したように,構造安定性の問題については社会的事例への応、用をきわめ て多くみいだすことができる。このような場合には概ね単純化された状況が設 定されるのだが,この際には普通ロジスチック方程式という古典的な方程式が 図表3 ロジスチック方程式 N

K-

一 一

個体数Nのロジスチック曲線に従う時開発展。 Nのゆら ぎに対して,定常状態

N=O

は不安定であるが,定常状態N

=K-m/

ァは安定である。 出所:プリゴジン,スタンジュール『混沌からの秩序』より (4 ) ロジスチック方程式:ロパート・デパネイが提示した方程式である。これは Xn+1 = AXn (1-Xn)のように書き表される。定数Aが O<A孟4の場合,この方程式は, 0か らlまでの区別をそれ自体のなかへ移す非可逆な写像の族を定義している。

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144 香川大学経済論叢 958 利用されている。このロジスチック方程式は,特にダーウィンの最適者の生存 という考え方を定量的に定式化できる事例を効果的にあらわすことができるも のである。なお,このロジスチック方程式で描かれている曲線は成長と最大化 の遷移を示していると考えてよい。また,この曲線はじつはある種の技術的操 作や製品の増大を記述する際にもおおいに利用されている(図表 3)。 さて,新技術や新製品の発見や導入はある種の社会的,技術的,経済的な平 衡を覆してしまう。そして,その後の平衡点は技術や製品の成長曲線が行き着 く最大値に対応している。 例えば,蒸気船の普及については,帆船を消滅させ,輸送費を逓減させ,輸 送速度を上昇させることによって,海上輸送の需要を増大させ,その結果さら に船の数を増大させたのである。この変化については,技術革新について異な る方法を用いたとはいえ,単に以前から存在していた同じニーズを満足させた に過ぎないようにもみえる。また,人聞社会のような生態系では,このような 以前から存在していたニッチェなしに成功を収められる技術革新が実際には数 多く存在している。そして,そのような技術革新は,それが出現した環境を変 化させ,それが普及するに連れ自己の増殖にとって必要な諸条件,つまりその ニツチェを創りだしていく。特に,社会的事例では需要の創出については,こ の需要が満たすべきニーズの創出さえも需要を賄うような商品や技術の生産と 相互に連関していることが多いようである。

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)進化的フィードパック ロジスチック進化レベノレを説明するには,系の環境包容力を与えられたもの として扱わず,系の利用方法の関数にすれば良い。すなわち,経済活動の増殖 効果については系の自己加速性と多様なレベルの経済活動が空間的に分化して いく様子を記述できる。そして,このプロセスに関するモデルとしてはクラス ターモデルという地理学のモデルがあり,これが経済活動の中心地の最適な空 間分布を決定している。 ( 5 ) ニッチェ:生態学的地位(ecologicalniche)である。ある生物種が生物群集のなかで占 める食物連鎖上の地位と生活空間の場所的地位のことである。

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959 複雑系経営の基本構想 -145 これから,例えば成長と崩壊,併合と支配,別の発展の機会を探る時期に続 いて,既存の支配的な構造が固定化することなどとみ通すことができる。この クラスターの法則は,法則と一連の起業活動や意志を支配している偶然の聞の 相互作用として歴史を取り込んでいると考えられる。 5 )複雑性のモデル化 以上のようなことから,複雑な系の進化を示す多重的な相互作用を行う要素 が生みだす発展過程の統治はかなり困難であることについて理解できる。その ため,これらの疑問に答えるべく,以下のような複雑系のモデルが提示された わけである。 個体聞の相互作用はある種の集団的行動を生みだすが,これらの相互作用は 局所的なものである。したがって,例えばどの事象が減衰しどの事象が全系に 影響を与えるか,選択肢の状況は一体どうで安定領域はどこかなのか,純粋に 定量的成長がどのようにして選択という定性的に新しいことを行うことになる のか,などという疑問が生じてくる。 そこで,ゆらぎを通しての秩序という概念から生まれるモデルが,これらの 疑問に答える有効な手助けになる。それは,ある状況の下において,行動の個 人的側面と集団的側面の複雑な相互作用のより正確な定式化を与えてくれる。 物理学の観点から捉えると,このモデルは個人的イニシアティブはすべて無意 味とされるような系の状態と,個人や観念や新しい行動が大域的状態を展開さ せうる分岐点を,明確に区別するのに役立つ概念ということである。 しかし,この分岐点の近傍ですら,じつはその個人や観念や行動そのものだ けに増幅がおこっているのではない。実際には,危険分子すなわち既存体制の 安定性を保証している非線形関係を逆手にとって自己に有利に利用できるもの のみが増幅していく。ゆえに,非線形はその過程の混沌から秩序を生みだすこ とができるが,その一方で異なる条件下において同じ非線形制がその同じ秩序 を破壊する担い手にもなっている。その結果,もう 1つの分岐点を超えたとこ ろにある新しいコヒーレンスを生み出すことになる。このように,ゆらぎを通 しての秩序モデルは小さな原因が大きな効果を生みだす不安定な世界を紹介し

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-146ー 香川大学経済論叢 960 てくれている。

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)

フラクタル理論の基本認識 フラクタル理論は, 1975年にベノア・ B・マンテツレプロによって提唱された ものだが,このフラクタルという言葉は小さな部品もしくは断片という意味で あり,ラテン語の

f

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a

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s

がその語源である。元来,フラクタル理論はコン ビュータグラフィックス技術の

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つであり,従来では科学の対象とは成り得な いとされた混沌としていて捉えどころがない自然界の多くの現象,複雑な構造, 形態をより巧みに説明できる概念である。 そこで,以下において三井秀樹に依拠してフラクタノレ概念について考察を試 みる。確かに,ユークリッド幾何学に現れる整然とした直線と曲線だけでは, 身のまわりにある多様な形を表現するためには十分でおはない。マンデルプロは コツホ曲議)のような一見奇怪にみえる曲線群を動員して,これまで不規則とか 複雑,またはカオスとしかいい表せなかった形に挑戦することで新しい幾何学 を築こうとした。 このフラクタルの対象になるのは,基本的には自己相似性という部分と全体 の関わりで捉えられる形態や構造や現象である。そこでは全体の姿がそれを構 成する部分の姿と形状の近似した入れ子状の構造がみい出される。 フラクタルの理論化とはじつは複雑系の世界について実相を理論化し明確に するものである。このフラクタノレ図形とは特徴的な長さをもっておらず,また 接線や接平面などについても定義されていない。これは,ニュートン力学以来 数理的な科学の中心であった微分を否定した見方でもある。ゆえに,このフラ クタルは図形や形態だけを問題にする幾何学というよりは,むしろもっと広い 自然観あるいは世界観であると考えることができる。 現在では,フラクタlレの概念は自然科学の領域のみではなく,社会科学など (6 ) コツホ曲線:スエーデンの数学者コツホ(He!gevon Koch)が1900年代初頭に考え出 した無限の長さをもっフラクタル図形の1つである。コッホ曲線は,全体と部分が厳密に 相似な図形である。これを自己相似図形といい,自己相似図形はフラクタル図形ともいえ る。

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961 複雑系経営の基本構想 147 周辺科学および芸術の分野へと大きく広がり,遂にはビジネスの世界まで波及 効果をもたらしている。例えば,すでに野中郁次郎はゆらぎの理論のなかでフ ラクタノレ概念と類似する入れ子状の組織について言及している。この理論の眼 目は部分は部分であると同時に全体の機能をもっている入れ子状の組織の有効 性についてであり,まさにこれはフラクタルと類似した概念ということができ る。 (3) オートポイエーシス理論の基本認識 さて,ここではカオスやフラクタクノレの理論とともに,今後の組織論のアナ ロジーとして期待されるオートポイエーシスの基本的な概念について,マトゥ ラーナとヴァレラの言説に立脚しながら考察をする。それは,これによって今 後の企業経営における新基軸を創造することを志向できると考えられるからで ある。具体的には,第1はオートポイエーシスの意義,第2はオートポイエー シスの単位体,第3は個体発生における弾力性という 3点についての言及であ る。

1

)オートポイエーシスの意義 マトゥラーナはヴアレラとともに生命システムを観察や記述の対象ではな しまたは相互作用するシステムでもなく,むしろ自己自身とだけ関係する自 己包摂的な単位体として規定しようと試みたわけである。彼らのいわば単位体 を外から記述するという視点は,すでにシステムそのものを特徴づける根本的 な条件を破壊していると考えることができる。なお,このマトゥラーナとヴア レラによって指摘されたシステムの特質とは,じつは自律的で自己言及的で自 己構成的な閉鎖系であり,これはすなわちオートポイエーシスシステムに他な らないわけである。 マトゥラーナはこうした概念的方法と生命システムの理論に基づいて,認知 を生物学的現象,すなわち生命システムの本性そのものとして規定し,さらに システム聞の相互作用領域である言語や記述や思考の領域を産出させている。 したがって,ここにおいては観点を根本的に転換するために,機能もしくは目

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i

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j

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148 香川大学経済論叢 962 的,有機体と環境との連関,外界との因果的相互関係,そしてコード化,伝達 という生命システムの標準的な特性を放棄することが必要になる。 マトゥラーナとヴァレラはともにトポロジカルな理論生i物学を提起

L

てお り,そこでは要素とそれらの諸関係が閉鎖システムを構成するところのトポロ ジーについて以下のような言及を行っている。すなわち,彼らは生命システム が生命の有機構成を具現しており,これは物理的領域におけるオートポイエー シスシステムであることの主張を行っている。これは,生命システムの多様性 は再生産と進化に依存しているが,しかし再生産や進化は生命の有機構成を特 徴づけるものではないことを表している。そこで,彼らが主張することはむし ろ生命システムが単位体として規定されるのはシステムのオートポイエーシス によるということである。ゆえに,彼らは生命システムを捉えるためには,生命 システムがオートポイエーシスの単位体であることを前提にするようになる。 事実,再生産は再生産されるべき単位体の存在を必要としており,そのため に単位体そのものの成立は二次的なものになる。すなわち,それは進化におい ては再生産と再生産過程での変化の可能性を必要条件とするし,そこでの再生 産の成立自体は必然的に二次的なものになっている。ゆえに,再生産や進化を 含めた生命システムの現象学を適切に評価するためには生命システムをオート ポイエーシス単位体として評価しておくことが必要になる。

2

)オートポイエーシス単位体 さて,この単位体とはあらゆる領域で存在の唯一の必要条件であると考えら れている。この単位体の本性とそれが現存する領域については,じつは単位体 の区別と規定のプロセスによって特定されている。そして,この単位体を特定 する諸条件が実は単位体の現象学の規定を行っている。生命システムにおいて はこれらの諸条件は有機構成のオートポイエーシスによって規定されるため, オートポイエーシスの概念はシステムのあらゆる変化が有機構成の維持に従属 することが含まれる。 有機構成はオートポイエティックなシステムを単位体として規定しており, そのためにシステムの現象学は単位体の維持に全面的にしたがうことになる。

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963 複雑系経営の基本構想 -149 この従属関係からは,第

1

に単位体の成立はその現象学の領域を規定する,第 2にすべての生物学的現象学は物理的空間内の個々のオートポイエーシス単位 体によって必然的に規定され実現される,第3にオ}トポイエティックな単位 体の同一性はそれがオートポイエーシスでありつづける限り維持されるという こと,第4に単位体がオートポイエーシス単位体(個体)として構成された後 にはじめて再生産が生物学的現象として生起しうるという

4

点がその帰結とし て生じてくる。 3 )個体発生における弾力性 オートポイエーシス理論によって組織を捉える場合の最も重要な特徴は,前 述の単位体の条件にすべてのものが従属するという部分である。すなわち,個 体発生の弾力性を軸にしてオートポイエーシス理論の組織論に対する展開が可 能になる。個体発生はじつは単位体の構造的変換の歴史であり,ゆえに生命シ ステムの個体発生は物理的空間内での連続的なオートポイエーシスを通じて生 命システムの同一性が維持されるプロセスであるといえる。 また,個体発生の概念については以下のような考え方をとることが可能であ る。 第lに,オートポイエーシスシステムが同一性を維持する仕方はオートポイ エーシスの個々の様式,すなわちシステムの個々の構造に依存しているから, オートポイエーシスシステムのクラスが異なれば,当然ながら個体発生のクラ スも異なってくる。 第

2

に,オートポイエーシスシステムは入力も出力も持っていないため,シ ステムが同一性を保ちつつ,そして一定の関係を維持したまま経過するあらゆ る変化は,必然的にシステムの定常的な有機構成によって規定されてくる。 第3に,オートポイエティックな有機構成が定常的な性質をもっという結果 から,任意の単位体でオートポイエーシスが実現される方法は個体発生を通じ て変化する。 第 4に,オートポイエーシスシステムが相互作用や変形と均衡しながら同一 性を失うことなく経過していく変化はすべて,それ自体としてはシステムの有

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150- 香川大学経済論叢 964 機構成によって規定されているが,こうした変化の系列は変形の系列によって 規定されている。なお,そこでのオートポイエーシスシステムの変形について は,以下のような

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つの起源を想定することができる。ひとつは,独立したで きごとの起源としての外的環境によって構成されるものである。この独立した できごとは,システムの有機構成によって規定されていないという意味で外的 環境は起源になっている。そうひとつは,変形に均衡することから生じる状態 が起源となるものであり,それはシステムそのものから構成されている。 第

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に,オートポイエーシスシステムを単位体としてみる観察者は観察して いるコンテクストをシステムの環境として記述を行っている。そこにおいては, 観察者システムのうちに内的に生じたものと外的に生み出された撹乱とを区別 する。しかし,これらは本来オートポイエティックなシステムそのものにとっ ては区別しえないものである。また,個体発生を通じて現れる行為と環境との 聞の連続的な対応は,まさにオートポイエティックな有機構成の定常性の結果 であり,環境が有機構成内に再現されていることの結果ではない。 第6に,オートポイエーシスが同一性を維持したまま補正する変化について は,システムの構造が撹乱によってどのように影響を受けるかに比例して構成 要素聞の関係のみが変化する保守的変化と,構成要素そのものが変化するよう な革新的変化の2種類を想定することができる。前者の場合は,変化を引きお こす内的もしくは外的な相互作用はオートポイヱーシスが実現される過程に変 化をもたらすものではなく,保守的な個体発生を意味している。後者の場合は, 相互作用はオートポイエーシスが実現されるプロセスに変化をもたらしてお り,オートポイエーシス空間内においてシステムを転移させるものであること を意味している。 この場合に意味される個体発生とは,じつは個々のオートボイエーシスが特 定されていくプロセスのことである。すなわち,この特定のプロセスを規定す るならば,必然的にシステムの構成要素の可塑性と構成要素の相互作用の歴史 との関数になる。 さて,対象をいわば生き物として捉えるという有機構成の理論を組織論に対

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965 複雑系経営の基本構想 -151ー して適用するには,このオートポイエーシスについての基礎的な理解が不可欠 になる。それは,任意の単位体,たとえば組織や企業のなかにおけるオートポ イエーシスの実現は,個体発生を通じて変化していくことになるからである。 こうして,有機構成や有機構成の結果生まれるオートポイエーシスは,その個 別企業もしくは組織の変遷を通じて変化していくという考え方に到達できる。 3.複雑系における実践的思考法 複雑系を企業における経営戦略に適用するには,最初に複雑系の理論的な概 要について論じてきたが,続いて複雑系の実践的思考法についての考察を行う ことにする。これによって,はじめて創発効果や収穫逓増への本格的取組みと に向けたビジネスモデルの構築が可能になる。このような問題意識に立脚して, 特に以下においては,第lはムーブメントとしての複雑性,第2は複雑性に依 拠した世界観という

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点についての考察を試みている。 (1 ) ムーブメントとしての複雑性 複雑系とはある

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つの理論を指すのではなく,現実にある複雑なものを説明 する理論の総体であり,それは,分類や分析による従来の科学的思考では解明 できなかった構造を要素の相互作用に還元し,一個の運動体として理解しよう とする知の革命であると捉えることである。これは,井上宏生によれば,いわ ゆる従来の科学が現実に存在する複雑さを捨象化して成立していたのに対し, 複雑系の概念は現実性をリアリティあるものとして捉えるために複雑さそのも ののなかにある種の解や方向性をみいだそうとするムーブメントである。なお, 複雑系以前の代表的な考え方としては,例えば完全合理性と要素還元主義とい う概念がその代表的なものである。 (7) 有機構成:オートポイエーシスにおいては,以下のような観点から有機構成が述べら れている。マトゥラーナは生命システムは機械であると明言し,生命システムを定義する 有機構成とはなにかを問うている。そして,オートポイエティックな機械こそ生命システ ムであると主張する。オートポイエティックマシンとは,構成索は構成素を産出する産出 過程のネットワークとして有機的に構成された機械である。

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-152- 香川大学経済論議 966 前者の完全合理性においては,人聞は自分のおかれた状況や利害を理解して おり,複数の選択肢に直面した場合には必ず最適な選択を行うという考え方が 貫かれている。そのため,この完全合理性にしたがうマーケティング活動とは前 提を絞り込むことにより未来を予測する作業であると規定することができる。 また,完全合理的な考え方に立脚したものとしてはゲーム理論が取りあげら れる。このゲーム理論の場合も,経済活動や政治活動などおよそ対立関係が生 じる状況で,人や組織が決められた前提条件にしたがい,自分が最も利益的で あるためにはいかに行動すればよいかを考えるものであると規定できる。ここ では,人は一切自分にマイナスとなるような行動は行わず,人は合理的に状況 を判断し,その状況から最も自分が有利になる行動を合理的に行うものと考え られている。しかし,実際には人聞が合理的かつ計算可能で論理的な装置であ ると信じることは結構難しいことである。それは,人聞はいつも論理的に行動 しているとは限らないし,また時には非合理な考えに走りもするからである。 現実には完全合理性が人間の本性であるとはいいがたいのが事実なのである。 ブライアン・アーサーは完全合理性の誤りについて以下のような説明を行っ た。人聞が合理的に考えても,そこには必ず限界が生じてくる。だからこそ, チェスというゲームが成立する。そして,完全合理性に対する疑問が生まれた 時に,それに対する限定合理性の概念も生まれたのである。この限定合理性の 概念によるならば,人聞は利害や状況をいつも不完全にしか把握できず,最適 な選択や行動を計算する能力をもつことはできない。そのために,結局人聞は 部分的,あるいは限定的な合理性しか求められないのである。さらに,合理性 は限定的であるがゆえにその範囲を超えたところでは予測が不可能ということ になる。 後者の要素還元主義は,対象の実像を知るためにはその対象を多くの要素に 徹底的に分解しようとする考え方である。しかし,要素に還元された部分の総 和は全体とはかけ離れたものとなり,対象を正しく映しだしているとはいいが たい。 例えば,要素還元主義とは目の前にある水をいわば水とは捉えずに,酸素と

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967 複雑系経営の基本構想、 153 水素から成る液状の物質と考える思考様式である。したがって,対象を追求す るためにはこのように精密に分解していくと,時として本来解明したかった全 体像を描きだすのがきわめて困難になる場合が生じる。特に,企業経営の場合 には,組織のありかたや収益などはすべて相互に関連しているため,単に部分 ごとに観察しても何も見えてこないのである。 さて,こうした完全合理性と要素還元主義が複雑系以前の社会においては, 科学的な思考方法の基盤になっていた。しかし,複雑な対象をそうした思考方 法によってみることの限界は前述のとおりであり,そのためにこそ複雑系の思 考方法が必要になってくる。この対象の複雑性とは,例えば物事を構成する要 素が不規則に並んでいたり分かちがたかったれまた要素の動きが予測困難で あることを意味している。 ブライアン・アーサーは複雑系の概念について,多くの要素がありその要素 が互いに干渉し何らかのパターンを形成したり予想外の性質を示すことがある が,そのパターンは必ず各要素そのものにフィードパックしていると論述して いる。ここで注目すべきことは,経済にも多くの要素がありその要素が多義に 干渉し合い,何らかのパターンを形成したり,予想外の性質を示すという点で ある。ブライアン・アーサーは,要素そのものが大きな意味を持っており,そ れらの要素が相互に干渉しあい,その結果あるパターンが生まれたり予想もし ない性質がみられるようになると考えていた。すなわち,その複雑さをありの ままに受け止めて,そこから経済の実体ゃありょうを探っていこうとするのが, 彼の経済における複雑系の概念と考えることができる。 さて,線型思考が世界を原因と結果や動機と行為が直線的に結びついた予測 可能な存在と捉えるのに対して,複雑系の思考方法においては,無数の原因や 動機が相互に同調し作用し合い,一切の予測を受け付けない意外性に満ちた世 界を作り上げる非線形領域を対象にしている。また,複雑系の思考方法に自己 組織化という領域があり,この自己組織化は,それぞれが閉鎖的な空間として ではなく,外部に対して自在に聞かれた空間として自ら組織化を行っていくと いう組織観に立脚している。

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154- 香川大学経済論叢 968

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複雑系に;依拠した世界観 ハインツ・パージェルは,科学が未だ開発していない領域は複雑系であれ この複雑系の科学を入手した国家や民族は次世紀の経済と文化と政治のスー パーパワーをもつに違いないと述べている。 ここでの複雑系の科学とは, いわ ゆる複雑性が出現するシステムについての科学のことを意味している。そこで, このような観点に立脚して, 以下においては松岡正剛のいう,複雑系に依拠し た世界観について若干の考察を加えてみる。松岡正剛は複雑性の起源を考える ことから出発している。 第1の起源は宇宙の進行の仕方にある。我々がおかれている宇宙や地球がマ クロ的にもっている複雑性の意志そのものがじつは複雑性の淵源の第一候補で ある。かつての結合平衡の状態にあった宇宙は電子と陽子からできたプラズマ が低温状態にある初期スロープであった。 このころは組織化についてはすべて の収支がゼロであり, そのためげっして何事もおこりはしなかった。やがて, ゆっくりと宇宙冷却がはじまると宇宙は多様性と複雑性をつくるために熱的非 平衡と結合非平衡の状況を作りだし, ついで膨張がはじまって冷却時間が次第 ここでおこったのは,最初の平衡期が冷却時間よりも短 に長くなっていった。 かったのが状況が逆転し非平衡となり, そこには複雑性の端緒が芽生えること になった。 第 2の起源は我々の体や脳には生物が抱え持ってきた複雑性が介入している という点である。生物の複雑性は生命の誕生からはじまっており, それは現情 報の種が付着して生物が実現したことを意味している。そして,最終的にはメ タ情報を生命体として維持すべく進化をとげたのである。 第3の起源は我々が普段使用している言語や論理のシステムである。我々が 入手した記号や言語によって認識したり表現できたりする世界像と,本来の脳 が認識したり表現している世界像との聞にはズレが生じている。 このずれが文 化的複雑系というものである。 そして, これがまた第lの宇宙的起源や第2の (8 ) メタ情報:メタは超越の意味である。したがって,メタ情報はより強制度の強い上位の 情報を意味する。

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969 複雑系経営の基本構想 155ー 生物的な起源との聞で振れをおこしている。 これら3つの複雑性に共通しているのは, それらの複雑性がいずれも時間経 過とともに創発的に断続的にあらわれる発現特性であるかのようにみえる点, それらの複雑性はほとんど非線型でしか記述できないという点, そこには フィードパック効果があるという点があげられる。 さて,創発性とは, じつはシステムが成長したり進行したり迂回している時 に臨界点を超えると突然にあらわれてくるものである。 また, この事態が臨界 値を超えて新たな様相を呈することは前述したように相転移ともいわれてい る。創発性のことを問歌性といい換えるならば,生命現象はいわば複雑性の本 また,宇宙全体をカ 体がときおり見せる間歌的な余剰ともいえることになる。 オス的なストレンジアトラクターであるとみなした場合には,地球系はわずか に取り残された間歌的な秩序構造ということにもなる。なお, こうした見方に ついても複雑性を現実的に語るための第一歩であると考えることができる。

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収穫逓増に基づく生産性概念 さて,複雑系の思考方法が有効であることが理解できたならば, よ企業経営への活用に向けた本格的な議論に移っていく。この複雑系のもつ最 大の特徴として,現在まさに話題騒然たる収穫逓増の法則をあげることができ 次にいよい る。 この収穫逓増の法則は実際に従来のビジネスモデノレを根本から崩すほどの インパクトをもっ法則であれ多くの企業が経営活動の実践の場において経営 モデJレとして確立させようと努力を行っている。そこで, このような状況を踏 まえながら,以下において収穫逓増による企業経営に関わる生産性概念の革新 について考察を試みる。なお,具体的には主にブライアン・アーサーの言説に 依拠しながら,第1は収穫逓増の経済法則,第2は収穫逓増のビジネスシステ ムの

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点について考察を行っている。 ) 1 ( 収穫逓増の経済法則 大量生産経済の時代から,次第に技術の設計および、利用へ,資源の加工から

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156- 香川大学経済論叢 970 情報の加工へ,自然エネノレギーの応用からアイデアの応用へというパラダイム シフトに伴い,経済行動を決定する従来のメカニズムは逓滅的なものから逓増 的なものへとシフトしている。なお,ここでいう収穫逓増とは成功しているも のは一層成功し,優位性を失ったものはますます優位性を損なう傾向のことを 意味している。すなわち,収穫逓増とは市場,ビジネス,産業において成功を 勝ち取ったものをさらに強化し,ダメージを受けたものをさらに弱めるという, いわばポジティブフィードパックのメカニズムである。さて,この収穫逓増と は,アルブレッド・マーシャルが収種逓減とともに提言した概念であった。し かし,当時は産業が天然資源に依存し知識や情報やノウハウを重要視しない大 量生産時代の世界であったため,一方の収穫逓減だけが一人歩きしてしまった のである。 複雑系が注目されているのは,複雑系の概念を導入すると収穫逓増の法則が 働く経営戦略なり,経済法則というものを構築することができ,それにふさわ しい動きをしているビジネスなり,企業への転換が可能だからである。収穫逓 増が法則として機能しているビジネスには,例えばパソコンの世界でいえば ウインテル連合をあげることができる。このウインドウズとインテノレの組織化 によるウインテJレは,収穫逓増の法則が働いている典型的なビジネスシステム である。彼らのビジネスは一種のプラットフォームビジネスであるが,マイク ロソフトとインテノレが手を組むことによって,すべてのビジネスがそのプラッ トフォームを活用しなければビジネスは展開できなくなっている。ゆえに,ウイ ンテルが収穫逓増の法則をこのビジネスにおいて獲得しているのである。 もちろん,支配的なシステムが最高のものとは限らないが,ひとたび市場に ロックインされてしまうと提供者はその開発コストを外部経済化させることが でき,そのため巨額の利益を得ることが可能となる。 (9 ) 外部経済化:マーシャルは産業全体の産出誌が拡大することによって各個別企業の費 用が低下することを外部経済とよび,一方個別企業が拡大することによる効果を内部経 済とした。ある消費者や生産者の経済活動が商品の市場での単独効用以外の影響を与え ることを外部経済があるといい,不利な影響を与えることを外部不経済があるという。外 部制といういい方は単純な市場モデルで扱えない部分を表現している。

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971 複雑系経営の基本構想 -157-市場が成功した製品を好むようになるという不安定性や,予測不可能性,あ る市場でロックインする能力,劣った製品が支配する可能性,および勝者に対 する厚い利得といったものはすべて収穫逓増の法則を証明している。収穫逓増 は例外的なものではなく,今日の経済の主要な分野であるハイテク技術の分野 は収穫逓増のメカニズムがもっとも働く領域である。 収穫逓増の法則を説く第

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の軸は製品を創出するコストである。例えば,航 空機やミサイルのようなハイテク製品では高度な設計技術を要し,単位あたり の商品開発費のコストがきわめて高いものである。それらはいわばノウハウに 依存しており物質的な・資源はあまり関係がないようである。マイクロソフトの ウインドウズの場合には,最初のディスクを開発するのに約

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万ドルの費用 がかかったが,その後のディスクの費用については3ドルだったそうである。 したがって,当然単位コストは売り上げの増加とともに減少していったわけで ある。 収穫逓増の法則を説くための第2の軸はネットワークの持つ特殊な効果であ る。これも情報通信関係のハイテク製品に顕著なことであり,特にハイテク商 品がユーザーのネットワークと結びついていることが前提である。すなわち, ネットワークで連結されることによって,この収穫逓増の法則が有効に機能す ることである。その収穫逓増の働いているネットワークと繋がっている事例と しては,サン・マイクロシステムズのJAVA言語があげられる。そしてこれが インタ}ネット上でダウンロードできるということになると確かに初期にはコ ストが必要になるのだが,たとえユーザーが増加しでも,その割合でコストは 増加してはいかないため収穫逓増の法則が機能している。 収穫逓増の法則を説くための第

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の軸は顧客にとっての適合性である。実際, ハイテク商品は未だ操作性の低いものが多いことから,顧客にとっても多大な トレーニングが必要になる。このように膨大なコストをかけてそのノウハウや 方法論を身につけたとなると,結果的に容易に他のものに変えがたくなる。ゆ えに,ノウハウの習得や教育が必要な製品や身につけるのにコストのかかる製 品を提供してしまえば,そこでも容易に収穫逓増の法則は働くことになる。

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-1知 一 香川大学経済論叢 972 収穫逓増の法則から促えると,大量の財を生産する世界と知識を製品に埋め 込む世界では根底にある経済原理が異なっており,両者においてはその競争の

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生質のみならずマネジメントの文化についてもおおいに異なっていることがよ く理解できる。 知識主導型の企業がいわゆる勝者のみが支配を許される市場において競争し ているとすると,そこでのマネジメントの狙いは次なる技術の勝者になること である。そのためには,以下のようなゲームの姿を識別できる先見性を備えて いなければならない。こうした時代にふさわしいマネジメントはけっして生産 志向などではなしむしろミッション志向となっている。 まず収穫逓増の世界においては常に探求の対象が変化するまで,それに応じ て基準が変わらなければならない。すなわち,その目的ゴールおよび方法論を 再創造しながら適応し,そして優位性を築くために企業を適切にポジショニン グしていくことが求められる。しかし,そこにおいては標準化されるべき最適 化の方法はまったく存在していないわけである。 収穫逓増が現出する市場に参入するには,一体何に投資するのか,その投資 を市場支配のために使うことができるかなどが,そのポイントになっている。 大量生産の時代ではコア・コンビタンスに投資すること,競争優位な価格つけ をすること,コストを削減すること,品質を向上させることなどにより企業の 戦略は決定されていった。これらのものは,知識主導型の世界においてももち ろん重要であるが,同時にポジティブフィードパックに基づく経済原理を利用 した戦略についてもまた重要である。市場を掘むこと,ずば抜けた技術を手中 に入れるという原則は確かだが,しかしそれだけでは必ずしも成功は約束され てはいないのである。まずもって収穫逓増を能動的に働かせうるマネジメント を実践することこそが必要である。

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収穫逓増のビジネスシステム 以上のように,いわゆる収穫逓増の法則が有効に機能するビジネス領域とい うものが誕生してきている。しかし前述したように,これは従来では我々があ

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973 複雑系経営の基本構想 -159-たりまえのように捉えていたアルフレッド・マーシヤノレにより著名になった収 穫逓減の法則とはまったく異なる経済法則が働くビジネスである。ゆえに,今 後の事業戦略においては収穫逓減の法則を捉えたマネジメントを模索する必要 が現実の問題として生じている。 例えば,明らかにマイクロソフトにおいては自らのビジネスシステムを従来 の収穫逓減の法則を軸にしたビジネスシステムからだけではなく,同時に収穫 逓増の法則が有効に機能するビジネスシステムとして捉えている。このマイク ロソフトに代表される収穫逓増の法則を追及していく具体的な方法は,概ね以 下のように4点に要約できる。すなわちそれらは第 lが利便性,第 2が公正さ, 第3が技術開発,第4が価格つけという 4点である。 第lの利便性とは,市場の優位性を獲得する製品がさらなる優位性を獲得し 続け市場を不安定にし,さらに市場をロックインの下におくということである。 このようにロックインされた製品は単一のデファクトスタンダードとして利便 性を提供する。 第 2に公正さとは,例えばある製品がそれ自体が優秀で、あるいうことでロッ クインされれば,これこそが公正なのである。 第

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の技術開発とは,ロックインされた製品はそれによって技術的進歩を間 害してしまうことから,逆にロックインされた状態が続けばコストをかけず、に 大きな利益を手にすることが可能となる。 第

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の価格つけとは,ハイテク産業は商品売買で成立している産業ではない ことを意味している。したがって,この場合の市場支配というのはある単一製 品によってなされるのではなく,新しい市場を開拓することから他のプレイ ヤーを退け,技術のウェブを拡大させることによって形成される。 こうした方法で,マイクロソフトは収穫逓増の法則を軸にビジネスを拡大し てきた。しかし,ある市場における極端な一人勝ち状態は反トラスト法違反の 問題を引きおこす。一人のプレイヤーに市場のコントロ}ルを完全に許すこと は,当然すぐに政府の規制の対象になる。周知のように,かつてマイクロソフ トの見解とアメリカ司法省の見解は分かれていた。マイクロソフトにおいては,

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160.ー 香川大学経済論叢 974 司法省の見解に対する防衛の意味から

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年にアップルをつぶ、さないために アップルに資本参加したのは明白であった。マイクロソフトは,アップルをつ ぶ、さなければカウンターパワーが存在することになり,ロックインしていると はみなされないことになると考えていた。 しかし他方では,収穫逓増が働く市場を短期的に独占することをイノベー ションやリスク負担に応えた報酬,もしくは賞金として理解することが必ずし も非難に値しないという見解も依然として根強いものがある。いずれにしても, ハイテク領域においては一人勝ちを目指すことが当然な時代が到来しており, たとえ規制があったとしても徹底的に一人勝ちによる収穫逓増を追求すること 自体はビジネス戦略としては不可欠な対応策である。

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創発型システム構築への挑戦 複雑系の経営への適用において,収穫逓増の法則と並ぶものとして創発型シ ステムをあげることができる。これによっていわば経営においてパラダイム創 造が行えるわけで,その意味では経営革新を実現するためにおおいに期待され る概念である。そこで具体的には,第1は創発型経営へのアプローチ,第2は エージェントの戦略的適用という

2

点について言及を試みる。 (1) 創発型経営へのアプローチ さて,田坂広志によれば複雑系という概念を個別の企業の中にビルトインす る場合,一体どのような経営戦略が描けるのであろうか。複雑系には多様な特 徴があるが,経営戦略的に注目すべきはその創発性である。そこで,企業経営 においてはインタラクティブに影響し合いながら価値創造を行ういわば創発型 のシステム経営を目指さすことが必要になる。 複雑系としての社会や市場や企業は,今やまさに創発性あるいは自己組織性 を強めており,大きな進化をとげようとしている。それは,ある意味では情報 革命ともいえる経済社会の転換期を意味しており,この革命によって社会や市 場や企業における情報の共有が進展し,そのため人間の聞における情報の共鳴

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975 複雑系経営の基本構想、 161-が生じたからである。例えば,自己組織化の研究において著名な・イリヤ・プリ ゴジンは,第1に開放系,第2に非平衡系,第3に自己加速系という 3つの条 件が満たされたシステムにおいて自己組織化が生じると述べているが,じつは その自己組織化において重要な役割を果たすのが情報共有と情報共鳴である。 なお,それはインターネットによってますます加速されつつある。 複雑系としての性質を強めていく企業において,今後のマネジャーに求めら れる要素は企業という生きたシステムがもっている創発性や自己組織化を活か した新しいマネジメントの実践である。それは,すなわちメンバーの一人ひと りが自由に自発的に活動していくことで,自律的に組織としての調和が生まれ てくる高度なマネジメントを意味する。そこで,企業経営において新しい創発 型のシステム経営を実践する場合には,従来の我々が考えていた戦略的な発想 を転換する必要性が生じてくる。そこで,創発型の経営を行うためには,概ね 以下の様な8つの新しいアプローチを参考にすることが有益である。 それらは,第1に組織創造の発想転換,第2に情報革命の発想転換,第3に 情報共有の発想、転換,第4に協働促進の発想転換,第5に組織運営の発想転換, 第6に意志決定の発想、転換,第7に人材育成の発想、転換,第8に文化創造の発 想転換という 8点である。したがって,創発型のマネジメントを行うためには, 自社がこのいずれのアプローチで取り組むべきかを見極めることが大切であ る。それでは,以下においてこれらのアプローチについての要約的な説明を行っ ておく。 1)組織創造の発想転換 昨今,企業における情報革命が進展するなかで特にフラットな組織という考 え方が注目されているが,そうした水平的組織が必ずしも究極の組織形態であ るというわけではない。肥大化した階層組織は確かにフラット化の流れにある のだが,その本質はマネジャーにおける自由競争市場の現出であると理解すべ きである。この自由競争市場に新たに導入されるプロデ、ューサー制やコーディ ネーター制などに支えられ,力量のあるマネジャーは魅力的なビジョンを掲げ, 説得力あるプロジェクトを企画し,組織の壁を越えてスタッフを集めることが

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162ー 香川大学経済論賞受 976 できる。他方,能力のないマネジャーは自己のマネジメントカを商品として販 売することができず,次第に淘汰されていく。こうしたプロセスを通じて,そ れぞれ企業にとって必要なマネジャーがプロデューサーやコーディネーターと いう呼称のもとに生き残り,彼らを中心にした階層構造と権限体系が生まれて くる。そして,このような組織こそがいわゆる創発型の組織であると考えるこ とができる。 2 )情報革命の発想転換 しかし,創発魁組織を生みだすためには,マネジャーは企業の情報革命を徹 底的に推進しなければならない。ところで,情報革命の発想転換においては, 情報システムの導入は一体何のために行うのか。それは,情報システムの導入 そのものを自己目的化するのではなく,業務プロセスの革新

(BPR:

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を行われなければならない。当然,この

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を伴わ ない情報システムの導入はまったく無意味なものである。すなわち,新しい技 術を導入する際には,必ず、や同時に仕事の仕組みも再編成することが必要であ る。そして,それが企業文化の変革とマネジメントの進化をもたらすように導 いていくことが重要である。

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)情報共有の発想転換 創発型経営においては,情報共有がデータレベノレではなく知識レベルで行わ れ活用されねばならない。そこで,マネジャーにとっては単にデータの共有で はなしまさにナレツジの共有にこそが取り組まなければならない課題になる。 そういう意味では,マネジャーの努めとは,企業における組織のなかに豊かな ナレッジが醸成される仕組みを構築することである。 4 )協働促進の発想転換 組織におけるマネジャーは,企業におけるノウハウの共有を推進していくこ とが大切である。しかし,そのようなノウハウを言語化することはきわめて困 難なことである。なぜ、なら,ノウハウの共有とはコラボレーションを通じて行 われていくからである。そこで,まずコラボレーションの場を作ることにより ノウハウを広く共有できる状況を設定することが不可欠になる。また,ノウハ

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977 複雑系経営の基本構想 -163 ウを他人に享受するには良好な人間関係が必要になる,しかし,組織横断型プ ロジェクトや短期集中型プロジェクトが増えるといつも同じメンバーで仕事を 行えなくなるため,このような人間関係の構築が次第に困難になる。 そうなると,企業のなかにおける特定の少数メンバーの間で人間関係を構築 するのではなく,不特定多数のメンバーのなかに広く豊かな人間関係を育むこ とが重要になる。それは,あたかも知恵、を貸して欲しいと誰かが呼びかけた時 に,メンバーのなかの知恵所有者が自発的に知恵を提供できる共感の場を構築 することである。ところで,そのような共感の場をいかにしたら構築できるだ ろうか。それは,社内に共通の関心で結ぼれたコミュニティや自由な自己表現 ができるコミュニティを積極的に育てることである。それによって,社内にお いてもいわゆる共感の場が次第に広がっていく。こうした共感コミュニティの 創造こそが,これからの企業における協働作業を促進し,ノウハウを共有して いく最も有効な方法になる。そこで,複雑系の企業においては,マネジャーは 人脈作りの力だけではなく,同時にコミュニティづくりの力も身につけること が不可欠になる。

5

)組織運営の発想転換 さて,プロジェクト毎に頻繁にメンバーが入れかわるような状況のなかで, マネジャーにとっては共同作業のスタイルだけではなく,同時に組織運営のた めの方法の転換が要請されてくる。すなわち,リーダーシップだけでなくプロ デ、ューサーシップのスタイノレを身につける必要が生じている。このプロデュー サーシップとは,例えばメンバーの自発性と組織の創発性を高める組織運営の スタイノレである。そのために,これまでのリーグーシップのスタイルを以下の

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つの観点から成熟させることが求められている。 第

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は将来設計から将来構想への成熟である。これはメンバーを統率や管理 するスタイルではなくメンバーの参加のもとに将来構想を共同で描き,そして メンバーが自発的に行動を選択して行くように導くことである。 第2に問題解決から障害除去へ向けた成熟である。これは問題解決よりも障 害を未然に除去することで,問題を萌芽的な段階で摘み取ることである。

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-164ー 香川大学経済論叢 978 第3に人身掌握から人間理解へという成熟である。このことはメンバーを説 得しメンパーの心を掌握するよりも,メンバーの声を聞き届けてその人間の心 を深く理解することである。 6 )意思決定の発想転換 これからのマネジャーにとっては特に調整力と決断力が求められている。意 思決定に対する発想転換についてはコンセンサスに拘るのではなしむしろデ シジョンを行うことが重要になる。特に,業務提携や事業戦略などのリスクが あり,高度な判断能力が求められる企業的決断については, トップが自らデシ ジョンするということがきわめて重要な意味を持つことになる。すなわち,コ ンセンサスに拘るのではなしむしろメンバーの意見を自由かつ徹底的に意思 決定者に伝え,そこからの意見を深く国酌した上で最終的には単独での意思決 定を行うという新しいデシジョンスタイノレを身につけていかなければならな い。さて,意思決定の迅速化のためにもっとも有効な方法は,衆知を集め一人 で決断するというスタイルへの転換であり,これは意思決定における組織的プ ロセスと心理的プロセスを迅速化することに他ならない。したがって,マネ ジャーがまず理解しておくべきことは決断力の本質であり,それは正しい選択 を行う直感能力,リスクをとれる責任能力,組織を説得できる説得能力などを 総合したものと考えられる。 7)人材育成の発想転換 今,企業はまさに自社の1社では新しい製品を開発しそして市場を制するこ とができないような時代を迎えつつある。なぜならば,それは顧客のニーズに 促してパッケージ化された商品やトータル化されたサービスを提供することが 求められるからである。 その背景には,異なった商品が顧客のニーズを中心に商品生態系を形成する 複雑系の市場の出現があると考えられる。この市場においては,商品生態系全 体としてデファクトスタンダードの地位を獲得することが死命を決する戦略と なり,また勝者となった商品生態系が圧倒的な優位に立つことができる。すな わち,ここにはいわゆる勝者がすべてを獲得するというJレール,すなわちウィ

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979 複雑系経営の基本構想 -165 ナーズ・テイク・オール(winnertakes all)が支配しているわけである。こう した市場においては,異業種間で戦略的提携を組むことこそがじつは重要な商 品開発戦略や市場開発戦略になっている。そして,ペスト・オブ・エブリシン グやドリームチームを標梼する仮想企業体を追求する戦略が注目される理由な ども,まさにここにある。 こうした状況のなかでは,企業に求められるのはコアコンビタンスと戦略的 提携力である。言い換えれば,自社の強みを磨き続けられる能力と自社にない 強みをもっ他者とを結ぶ能力の

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つが,複雑系の市場において企業に求められ る最も重要な能力になってくる。同様の能力は人材に対しても求められており, 終身雇用制の崩壊と成果主義による年俸制の導入は社員に対して一人企業の意 識を強めさせている。そして,この雇用環境は社員に対してプロフエツショナ ルな専門能力を磨くことを求めるとともに,組織横断的なプロジェクトを通じ て社員同士のコラボレーションを行う能力を要請することにもなる。これらの 能力は,いわば個人企業にとってのコアコンピタンスと戦略的提携能力に他な らない。 したがって,これからのマネジャーに求められるのは,人を育てるというよ りも,むしろ人が自ら育つような環境を構築することである。そして,これか らの複雑系企業においては,マネジャーはこれまでのエデュケーションという スタイルをいわばインキュベーションというスタイルへと転換させることが期 待される。すなわちマネジャーは,例えばイントラネットなどが生みだ、す、エレ クトロニックコマースにおいて,まさに一人企業の活動を支援するような社内 インキュベータtーの役割を果たしていくことが期待される。 8 )文化創造の発想転換 そして,マネジャーがインキュベーションを進めていくためには,その時代 にふさわしい企業文化を創造していくことが不可欠になる。そして,今後の時 代に求められることは,特に自発的に目標や計画を設定し自律的に行動するボ ランティア文化の習得である。これこそが,じつは前述してきたような新しい マネジメントスタイルの土壌となるべき文化である。すなわち,これまでの文

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