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御剣は暁を裂く~沖ノ島の鬼神~ ID:21313

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Academic year: 2021

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(1)

御剣は暁を裂く∼沖ノ

島の鬼神∼

(2)

注意事項

    この PDFファイル は ﹁ハーメルン﹂ で 掲載 中の作 品を自動的 に PDF化 した も ので す 。  小説 の作 者、 ﹁ハーメルン﹂ の 運営者 に無 断 で PDFファイル及 び作 品を引 用の 範囲を 超 え る 形で 転載・ 改 変・再配布・販売 す る こと を禁 じます 。    

すじ

  平 和 な海に 突如 として 現れ、 その圧 倒的 な 力 と物 量 で地 球上 の海の八割 を 奪い 取 って いった 、 海の 底 へと 沈ん だ 艦船 の怨 念 か ら生 じた 荒御魂││﹃深 海 棲艦﹄ 。  人類 はそ れ に 対抗 すべく 、 彼女 達 の 対 極の存在として 和御霊 た る ﹃艦娘﹄ を生み出 し た 。   そして 、 そ ん な彼女 達を率 い 、 荒 ぶ る魂を 浄 化 し 、 神の 娘 た る艦娘達 と 心を通わ せ 、 力 を引 き 出 す 事 の 出 来 る者達││人 は彼 らを﹃提 督 ﹄ と呼 ん だ 。   こ れ はその ﹃提 督 ﹄ 達 の中で 、﹃沖ノ島 の 鬼 神 ﹄ と呼ば れ た男と 、 彼の周 囲 に 集 う 艦娘

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達 との 出会 いと別 れを描 いた物 語 であ る。

(4)

  目   

  

│ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 鬼 神の 原点  1 │ │ │ │ │ │ │ │ │ 鬼 神の 娘御達  44 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 喪 った 者達  62

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神の

原点

       ││ あ る日、 ﹃ソレら﹄ ⋮⋮あ る いは ﹃ 彼女 達﹄ は 突如 海の 底 か ら現れ た 。       ま る で 砕 け た 黒 鉄 の よ う な 装 甲 を 持 つ 彼 ら の 姿 形 を 一 言 で 言 い 表 す の な ら ば 、 ﹃ 異 形 ﹄ 。      ││ そこには 、 単眼の 如 き砲 を持 つ 顔 がいた 。      ││ 捻く れ た女性の手 足 と体 を生や した砲塔がいた 。   1 鬼神の原点

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   ││ガチリ、ガチリ と歯 を 打ち 鳴ら す 口 がいた 。      ││四肢 のあちこち を 失い 、残る 手 足を 異形の 化 け物へと 変 じさせた 少 女 達 がいた 。       そのど れも が 、誰も が 、 打ち 砕 け 、 捻く れ、傷 つき 、 歪だった 。       そ れ で も、 そ れを見 た 人々 は 誰も が 思 った ││美 しいと 。  誰も が彼女 達 に 目を 奪 われ、 誰も が 動 き を 止 め てしまう 程 に 、 彼女 達 の 姿 は 人 智では 計り知れ ない 誇り高 さと 、背徳的 な 美 しさ を持 っていた 。      ││ しかし 、 そ ん な 人々 の戸 惑 いと畏 怖 の 視線を 嘲 笑 うかの よ うに 、 一際 大きく 、 一 際禍々 しく 、 一際蠱惑的 な 姿 の ﹃ 彼女 ﹄ は 、 自ら の 躰 か ら生 えた 巨 大な異形の 化 物 を愛 2

(7)

おしそうに 撫 でなが ら、軋み きった 声 で告げ る。     ﹃ ⋮⋮ ミナソコニ ⋮⋮⋮⋮ シズミナサイ ⋮⋮ !!      生 きとし 生 け る者 全て を憎む かの よ うな呪 詛 と共に 、 ﹃ 彼女 達﹄ の 蹂躙 は 始 まった 。 艦艇 ネ  最新鋭 の 装備を持 った が 、 戦 闘 機が 、 戦 車 が 、 ま る で 紙 屑の よ うに彼女 達 の放つ 砲 撃 と 魚雷 に よ って打ち 砕 か れ ていく 。  有史以 来 、 決して協 力 し 合 う 事 の無かった 世 界中の 国々 は 、 この共 通 の敵に 総力を 結 集 して 立 ち 向 かったが 、 彼女 達 の 力 はそ ん な彼 らよりも遥 かに強大であった 。     特筆すべきは 、 その圧 倒的 な物 量。    ││ 打ち 砕 けど も 打ち 砕 けど も、 すぐに海の 底 か ら這 い 上 がって来 る 彼女 達 の 波状 攻 撃 に 、 人類 は 程 無くして 陸 地へと 押 し戻さ れ、 地 球上 の海の八割 近 い 領域を喪 失す る事 を 余 儀 なくさ れ た⋮⋮海は 、 かつての中 世 の 頃 の よ うな 、 人 智の 及 ばぬ 悪魔 たちが住 む 3 鬼神の原点

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魔 界へと 変貌 したのであ る。   あ り とあ らゆる 物 資や補 給 、 情 報 を寸断 さ れ た数 々 の 少国家 が 、 瞬 く 間 に干 上 が り、 姿 を消 していった 。      ││深 き海 底 に 棲み、 目を背 けたくな るよ うな む ごた ら しい 姿 で 、 目を覆 いたくな る よ うな 凄惨 な死と破 壊を まき散 ら す 、 水 底 の 鉄 塊か ら生み出 さ れ し 荒 ぶ る魂達。      人々 は彼女 達を、 ﹃深 海 凄艦﹄ と呼 ん だ 。      ││││││││││││││││││││││││││       南 西諸島 海 域 沖ノ島 Jポイント近 海   4

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﹃││ 敵戦 艦 発砲 !! 弾着まで 10秒 ⋮⋮ 3 !! 2 !! 1 !! 弾着 !! 今 !!﹄     南 西諸島 特 有 の強い 日射 しの 向 こうか ら飛 来した砲弾が 、 悲鳴 の よ うな唸 りを上 げな が ら 次 々 と 襲 いかか る。   そ れ はま る で スコール の よ うに 突 然に 、 途切れ なく海 面を叩 き 、 その 上 に浮かぶ 二隻 の 艦 に 向 かって 降り注 いだ 。      ││ いくつかは 艦を外れ、 巨 大な水 柱を上 げ る が 、 その 内 のいくつかは甲 板 に 、 艦 橋 に 突 き刺さ り、装 甲 を食 い破 り なが ら炸裂 した 。       その 凄 まじい 衝撃 は 、 艦 橋の 艦長 席に 座 って 指揮を していた 提 督 をも 吹き 飛 ばしそう な 程 に 揺ら す 。 ﹁ うっ⋮⋮ !?﹂ ﹃ ぐっ⋮⋮ああっ !? ﹃やめ てぇっ !! 5 鬼神の原点

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    そ れ と 同 時に 、二隻 の 艦││重巡洋艦﹃那 智 ﹄ と ﹃羽黒﹄ か ら悲鳴 が 上 が る。 ﹁那 智っ !! 羽黒 っ !!  大 丈 夫かっ !! ﹃ くっ⋮⋮ 済 ま ん ⋮⋮ 思 う よ うに 、動 け ん ⋮⋮っ !! ﹃ はぁっ⋮⋮はぁっ⋮⋮ 痛 い⋮⋮ 痛 い 、 です⋮⋮ ﹄   彼が乗 り込ん でい る那 智と 、 無 線 の 向 こうか ら聞 こえ る羽黒 の 声 は 、 どち らも苦痛 に 歪 み、痛々 しい 吐 息 を漏ら すばか り だ 。  提 督の 頭 に流 れ込ん でく る痛み、 恐 怖、 苦 し み ⋮⋮ 気 弱な性 質を持 つ 羽黒 はと も かく 、 常に 沈 着 冷静 であ る 筈の 那 智がこの よ うな 状況 に 陥 ってい る の を感 じ 、 提 督の 脳裏 に 最 悪 の 想像 が 過 ぎ る。 ﹁ くっ⋮⋮ 損害状況知ら せ !! ﹃那 智 サマ に 羽黒サマ、 共に 艦 体 各 所に 直撃 弾にて大破 !! 主砲 、 魚雷、 共に 使 用 不能デ ス !! ﹃損傷 に より艦 体が 傾斜 中 !! ダメコン 急ぎ マス !!   焦 る提 督の 声 に 従 って 現れ たのは 、 セーラー服 に 身を包ん だ 膝下程 の大きさの 少 女 達 ││﹃艦妖精﹄ 。   彼女 達 の 言葉 に 、提 督は 顔を青 ざ め させ る。 6

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      ﹃ 大破 ﹄ ││ そ れ は 、 この 艦隊 におけ る 主 力 であ る二人 が 、 ほぼ戦 闘不能 になった 事を 示していた 。   ﹃││ 敵 艦更 に 接近 中 !! 戦 艦ル級2 !!  共に elite級デス !!﹄  更 に 最悪 な報告が 艦妖精 か ら伝 え られる。   弱 り 切 っ た 彼 女 達 目 掛 け て 、 敵 の 主 力 の 一 部 が こ ち ら に 目 掛 け て 接 近 し て 来 て い る ⋮⋮止 めを 刺すつ もり なのだ 。 ﹁ くっ⋮⋮神 通 !! 多 摩 !! 那 智と 羽黒 の 援護 に 回れる か !?   急いで 目 の前の 鏡 の よ うな形 状を した モニターを操 作し 、 敵 を迎撃 してい る友軍 の 軽 巡洋艦﹃ 神 通﹄ と ﹃多 摩 ﹄ へと 通信を 繋ぐ 。  目 の前に ノイズ だ ら けの映 像 が 表 示さ れ、 そこには 気 の弱そうな 巻 き 毛 の 黒髪を持 つ 女性と 、ショートカット の猫 目 の 少 女が映し 出 さ れ た 。 ﹃ ご 、 ご めん なさい⋮⋮っ !! こち らもル級を抑 え る のに 、 手 一 杯⋮⋮でっ !! ﹃今反転 した ら、 こっちが やられ ち ゃ うに ゃ ⋮⋮ !!   彼女 達 の 顔 は 一様 に 、 艦 体の ダメージ の フィードバック に よ って 苦痛 に歪 み、 彼女 達 7 鬼神の原点

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の 、 そして敵の砲弾に よる衝撃 と 爆音 が絶え 間 なく無 線 の 向 こうか らノイズ と共に 響 き 渡ってい る。   ひと 目見 ただけで 、 音を聞 いただけで 苦 戦と 分 か る││艦隊 の 脇を固める べき彼女 達 が 、 たった 一隻 の 艦 に 足 止 め さ れ てしまってい る のだ 。     無 理も 無い⋮⋮彼女 達 の前に 立 ち塞がってい る のは 、 戦 艦ル級││人類 の天敵た る深 殺 戮 者 ス ロ ー タ ー 海 棲艦 中で も、最 大 級 の戦 闘 形態と火 力、装 甲 を持 つ 。   しか も その 姿 は 、 ヒト の カタチ に 近 け れ ば 近 いほど強 力 にな る と 言われる 彼女 達 の中 人 間 ヒューマノイド で も、最も人間 に 近 い 姿を取る 型。   そ れ が 三隻││ しか も その全てが 通 常とは 違 い 、 艦 体の周 囲 に 赤 い オーラ の よ うな も の を漂わ せてい る。   幾 多も の 艦艇を沈め、 力を蓄 えて 更 な る禍々 しい 変貌を遂 げた 深 海 棲艦││elit e級 と呼ば れる個 体だ 。 ﹃ このぉ ー っ !! こっち 向 け ー っ !!﹄ ﹃ 全く⋮⋮お硬い女性はっ⋮⋮ 嫌われるわよ っ !!﹄   特にその 装 甲は 通 常の 個 体 よりも更 に 堅 く 、 神 通 と 多 摩の 負担を減ら すべく 撹 乱す る よ うな 軌道を取り なが ら 牽制す る駆逐艦 ﹃ 睦 月﹄ と ﹃如月﹄ の 二人を 全く 意 に 介 してい 8

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ない 。  懸 命 に 放 た れ る 駆 逐 艦 の 主 砲 で あ る 1 2.7 c m 連 装 砲 も、隙 を 見 て 放 た れ る 魚 雷 も、 その全てが 装 甲 板 に 虚 しく煤と 凹みを 作 る の み だ 。  代わり に 、 彼女 達 に 対 してこ れ といった攻 撃も しない ││駆逐艦 など 、 いつで も葬れ る という 自信 の 現れ だ ろ うか ?   そう 錯覚 しそうにな る ほど 、 彼 我 の戦 力 は圧 倒的 だった 。     とは 言 って も、 この 若 い 提 督と彼が 率 い る この 艦隊 は 、 幾 度もル級 とは 対峙 してお り、 時には elite級 です ら撃沈、も しくは 撤退 させた 事も あった 。     ⋮⋮しかし 、 そ れ はあくまで も 彼女 達 が敵 艦隊 において 旗艦││ つま り 単 騎 であった り、 こち ら が彼女 達 の砲 撃を躱 し 切り、 重巡や軽巡、 駆逐艦 が 最も力を 発 揮 す る ﹃夜 戦 ﹄ に 持 ち 込む事 が 出 来た場 合 だ 。   昼 間 か ら、 こ れ ほどの数と 質 の戦 艦クラス の敵と 殴り合 った経 験 など無い 。   そ れ 故に 動揺 していた彼は 、 この時 目 の前に 迫る 敵の みを見 ていた ││ だか ら、 完 全 に 直後 に 成 さ れ た報告への 対応 が 完 全に 遅れ てしまった 。 ﹃│ │ 神 通 サ マ、多 摩 サ マ の 左 舷 2 k m 付 近 ヨ リ 敵 艦 反 応 !! 駆 逐 艦 ニ 級 e l i t e 2 9 鬼神の原点

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!! ﹃雷跡接近 !!  着弾まで 10 !! 目標、 神 通サマデス !! ﹁ なっ⋮⋮あっ⋮⋮ !? よ、避 け ろ 神 通 !! ﹃ えっ⋮⋮ ?﹄   神 通 が 提 督の 声 に 気 づき 、 注意を向 けた時には 、 海中に潜 ん でいた 駆逐艦ニ級 が海 原 を 割って 姿を現 したかと 思 うと 、 海 蛇 の 如 く畝 り なが ら 放た れ た 魚雷 が 、 彼女の 左舷 に 突 き刺さっていた 。 ﹃ ああっ !?  爆炎 と共に神 通 の 叫 び 声 が 上 が る││見れ ば 、 着弾した場所か ら は 黒 煙が 上 がってお り、 どう 考 えて も直撃 だ 。   そ れを見 た 駆逐艦ニ級達 は 、 喜色 か 、 闘争 の 雄叫 びか 、 ガチガチ と歯 を 打ち 鳴ら した 。 ﹃ 神 通 お 姉 ち ゃん !? こ ん のぉっ !!﹄   そ れ に 対 し て 睦 月 が 怒 り の 声 を 上 げ な が ら、 お 返 し と ば か り に 四 連 装 魚 雷 を 叩 き 込 む。   海 面を切り裂 いた 魚雷 は 、 二級 のどてっ 腹 に命中し 、 辺り に 黒 い 装 甲と 血 か オイル か も定 かでは無い 気色 の 悪 い 液 体が 垂れ 流さ れる。   しかし 、 止 めを 刺すには 至ら ない ││ニ級 は 苦鳴 の よ うな呻き を上 げなが ら、 口 の中 10

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か ら 伸ばした主砲 を 放つ 。  ││ 中破してい る以上、 その 威力 は 通 常 より は半 減 してい るも のの 、 その 狙 いは 同 じ く 駆逐艦 であ る 睦 月 と 如月 ⋮⋮そ れらを 無 視出 来 る ほどの 装 甲は 持 ち 合わ せていない 。 ﹃ん っ⋮⋮ も うっ !! しつこい奴 ら だことっ !!   結 果、如月も 睦 月 は 二級 の 対応 に 掛り切り にな ら ざ るを得 ない 。   いく らelite級 の戦 艦 といえど も、 駆逐艦 の 魚雷 に よる至近 弾 を喰ら えばひとた ま りも 無いが 、 そ れ が 使 えないのでは無いのと 同 じ 事 だ 。     ここに 至り、提 督はつい十数 分 前の 自ら の判 断を心 の 底 か ら 呪い 、後悔 していた 。     ⋮⋮ 最初 は 、 あくまで も沖ノ島 周 辺 の 航路 の 確保 と 、 敵 情 の偵 察 に留 める予定 だった 。   しかし 、 進撃 は 予想以上 に スムーズ に 進み、 最 奥 部付近 に到 達 す る まで 、 重巡や軽巡 達 はお ろ か 、 駆逐艦達 す らも殆 ど 損傷 が無い 、 という絶好の コンディション││ そこで 、 愚 かに も 彼は 進撃 の命 令を艦隊 に 下 してしまったのだ 。     結 果 はこ れ だ⋮⋮ 飛 び 出 して来たのは 、 今 まで 見 たことが無い よ うな強 力 な 深 海 棲艦 の 艦隊 と 、猛烈 な砲 撃 の 雨 だった 。 11 鬼神の原点

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  普 段 か ら、 先 達 か ら耳 に タコ が 出 来 る程 に 聞 かさ れ ててばか り いたでは無いか ││今 日 まで 最も艦娘達を、提 督 達を沈め てきたのは 、 戦 艦 で も 空 母 で も 潜水 艦 で も 無い 。    ││ ただ 、提 督 自身 の 油断 と慢 心 に 他 な ら ない 、 と 。     普 段 か ら気を付 けていた筈だった 。 だか ら こそ 、 あくまで 目的を航路 の 確保 に留 め て いたのだ 。   そ れ で も、 彼はその未 熟 さ故に 、 知ら ず 知ら ずの 内 に嵌 り込ん でいたのだ⋮⋮ 油断 と 慢 心 が 生み出 す戦場の死神が住まう渦潮の中へと 。     彼の全 身を 絶 望 が支 配 しそうにな る が 、 しかし 諦める訳 には 行 かない 。  提 督は ﹃ 全 身 全 霊を込め て祈 りを 捧げなが ら﹄ 、艦娘達 に 向 かって 叫ん だ 。 ﹁那 智 、羽黒 は 艦 体の 維持 と ダメコン に 集 中 !! 敵の攻 撃を避 け る事 だけ を考 え ろ !!  多 摩 は 神 通 の 破 損 箇 所 を カ バ ー し つ つ 砲 撃 を 継 続 !! 神 通 は 生 き 残 っ た 砲 と 魚 雷 で 多 摩と 同 じ 艦を狙 い 続 け ろ !! ﹃ ⋮⋮ 承知 っ !! ﹃わ、わ か り、 ました⋮⋮っ !!﹄ 12

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﹃わ かったに ゃ !!﹄ ﹃ は 、 はいっ !!  今 までの 動揺 が 嘘 の よ うな 矢継 ぎ 早 な 、 そ れ でいて 的確 な 指 示 ││ その 一声 で 、 バラ バラ にな り かけていた 艦娘達 の 動 きが 、再 び ﹃艦隊﹄ としての 動 きに 変わ った 。  目 の前に 迫 っていた ル級達 の砲弾の 間を 縫う よ うに 、 ボロボロ になった 那 智と 羽黒 が 回避行動を取る。 ﹃ どうした ││私 はここだぞっ⋮⋮ !! ﹃ 当た り ま⋮⋮せ ん っ !!   吹き 上 が る 水 柱 と 、 衝撃 に呻き 声を上 げなが らも、 熟練 の 重巡 であ る二人 は 、 懸 命に 、 直撃コース の砲 撃を予 測し 、避 けていく 。  満身 創 痍 の敵 を仕 留 め切れ ない 事 にとうとう焦 れ たのか 、 彼女 達を追 いかけ よ うと ル 級 の 内 の 一 体が 明ら かに 突出 し 始め た 。 ﹃今 に ゃ っ !!﹄ ﹃バカ に⋮⋮しないで 下 さいっ !!   その横 腹 に 目掛 けて 、 多 摩があ り たっけの砲弾と 魚雷を叩 き 込み、 神 通も残 った砲で 援護 す る。   次 々 と打ち 込 ま れる 砲弾の嵐に 、 堅 牢な ル級 の 装 甲に も 次第に無数の 罅 が入 り、 パラ 13 鬼神の原点

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パラ と 黒 い 装 甲の破片が 落 ち 始め た 。    今 までの 苦 戦が 嘘 の よ うに 、 逆 に敵 を押 し 返 す ││ そ れ はま る で 、 提 督 自身 の ﹃思 い ﹄ が彼女 達 に 力を与 えてい る かの よ うだ 。     い や ⋮⋮ 事実、 彼の ﹃ 祈 り﹄ の 一念 は 、 彼女 達 に 力を分 け 与 え る。    ││艦娘 とは 、 かつて数 多 の 人々 の命 、 思 い 、 感情を 乗せて海 原を往 き 、 勇猛果 敢に 戦い 、 そして散っていった ﹃御霊﹄ の具 現。   凪 なぎ 和  ││母 な る の海で 荒 ぶ りを鎮め た 、 ぎな る魂    ││御国 の 為 に命 を 捧げた男 達を、 時には恋 人 の よ うに 、 母 の よ うに 、 家族 の よ うに 包み込ん でいた 、 女性の 姿を した 付喪 神 。     神 娘 かんむ す  ││ 即ち 、 ﹃ ﹄ 。 14

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      そ ん な彼女 達 と 語ら い 、 触れ合 い 、 思 い を重 ね 、 そ れら の 力を引 き 出 す 、 神と ヒト と 巫 か ん なぎ を 結ぶ 達を総称 して 、 ﹃提 督 ﹄ と呼ぶ 。    珠 の汗 を 浮かべなが ら 彼が紡いだ 思 いは 叫 びに乗 り、 渾 身 の 力を 彼女 達 へと 注 ぎこ ん でいく 。   ﹁ 未 だ 睦 月 !! 如 月 !! 雷 撃 戦 用 意 っ !! あ の 弱 っ た 土 手 っ 腹 に 魚 雷 を あ り っ た け 叩 き こ め っ !! ﹃ おっけ ー !! 任 せてくださいですっ !!﹄ ﹃りょ うか ∼ い♪  後 でご 褒美、期待 して るわよ て ・ い ・ と ・ く♪ ﹂ ・  や っ と の 思 い で 開 け た 蟻 の 一 穴 │ │ よ う や く 二 級 達 に 止 め を 指 し た 駆 逐 艦 の 2 人 へ と 、 即 座 に 指 示 を飛 ばす 。  再 び 四連装酸 素 魚雷 が放た れ、 その全てが 一気 に ル級 の 損傷箇 所へと 殺 到し⋮⋮ 爆 散 させた 。  一度船底 に大穴 を開 けてしまえば 、 図 体の大きな 艦 ほど 復 帰が 難 しい ││ル級 は 断 末 15 鬼神の原点

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魔 の よ うな呻き 声を上 げなが ら、見る見る うちに海の 底 へと 沈ん でいく 。  轟沈││ ここまで やれ ば 、 恐 ら くは 二度 と浮かび 上 がってく る事 はあ る まい 。  残る2隻も近付 いてきてはい る が 、船足 はこち ら の 方 が圧 倒的 に 上 だ 。  軽量級を 中 心 に 編成 した 艦隊 の 長 所がここに来て 生 き る││後 は 、 直撃 弾 を警戒 しな が ら今 まで 辿 って来た 安 全な 航路沿 いに 撤退 す る だけだ 。 ﹁良 し !! 良 く や った !! このまま 反転 して 撤 た ││﹂     しかし 、 そこまで 言 いかけてか ら、再 び 警 報が 鳴り響 く 。   そ れ は 、見 えかけた 希望を 打ち 砕 く 、悪 夢の 始 ま りを 告げ る合図 だった 。   ﹃││警 告 !! 警 告 ー っ !!﹄ ﹃ こち ら の 射程圏外 か ら の砲 撃 来 マス !!  弾着まで 3,2,1 ⋮⋮ 今 っ !!  艦妖精達 の 叫 びとほぼ 同 時に 飛 来した砲弾は 、 睦 月 と 如月 の 艦 橋 近 く を掠め、 猛烈 な 水 柱を上 げ る。 ﹃ あ 、 ぐぅっ⋮⋮ !! ﹃ か⋮⋮はっ⋮⋮ !?  直撃 では無い ││ しかし 、 そ れ が も た ら した結 果 は 甚 大な も のだった 。 16

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 猛烈 な エネルギー の 込められ た砲弾の 一撃 は 、 その 衝撃波 と着弾時の 衝撃 の み で 、 殿 を務めよ うと 動 いていた睦 月 と 如月 の 装 甲ごと 船 体の 一部を抉り取り、 砲塔 を 吹き 飛 ば していた 。   報告 を受 け る まで も 無い ││ 大破⋮⋮そ れも、殆 ど 虫 の息という レベル の 損傷 だ 。  駆逐艦 は スピード と 小回り の 良 さ 、 強 力 な 雷装を持 つ も のの 、 その 耐 久 力 は 非 常に 脆 い ││ しかし 、 そ れを加 味して も この 威力 は異常だった 。 ﹁ 睦 月 !! 如月 ぃっ !!  何だ !? ル級 の砲 撃 か !?﹂ ﹃ ち 、違 い マス !!  そ れ とはまた別の ││﹄ ﹃新 たな敵影 確認 !! 映 像、出マス !!  混 乱と恐 怖 の余 り悲鳴 に 近 い 叫 び 声を上 げ る提 督の前に 、 モニター か ら の映 像 が映し 出 さ れる。   そこには 、 戦 艦級ら しき 艦 影が 見 え る││ しかし 、 その 艦 体が 纏 う オーラ の 色 に 、 提 督は息 を飲ん だ 。     ﹁金 ⋮⋮ 色 ⋮⋮ ?  ふ⋮⋮ フラグ ⋮⋮ シッ ⋮⋮ プ ⋮⋮ ?﹂   17 鬼神の原点

(22)

   ││ 神祇 省 時 代 の神祇 官達や、軍 学校時 代 に教 官 か ら聞 いた 事 があ る。  深 海 棲艦 の中には 、elite級をも遥 かに 超 え る力を蓄 えた 個 体が存在す る と 。   そ れ が flagship級 ⋮⋮ 金色 の オーラを纏 い 、 幾 多 の 艦娘 とそ れ に乗 り込ん だ 荒御魂 あ ら み た ま 提 督 をも、 水 底 へと 沈め た 、禍々 しく も美 しい 。     ⋮⋮ ガチ、ガチ、ガチ。    堅 い モノ が打ち 合わ さ れる音 が 、艦長室 に 響 く 。 そ れ に 、随分 と 頭 に 響 く 音 だ 。   そ れ が無 意識 に 自ら が打ち 合わ せ る 歯の 音 とは 、 提 督は 気付 かない⋮⋮い や、 気付 け ない 程 に 、 彼は 完 全に放 心状 態に 陥 っていた 。  モ ニ タ ー に は こ ち ら へ と 波 間 を 割 っ て 近 づ い て く る f l a g s h i p 級 │ │ そ の 姿 は 、 金色 の オーラも相 まってあま り に 禍々 しい⋮⋮が 、 そ れ とは 裏腹 に 、 目を離 せない 程 に 美 しかった 。    ││ そして彼女は 、   18

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﹁ あ 、 あ⋮⋮ ﹂    ││モニター越 しの筈なのに 、   ﹁ あ 、 あああ⋮⋮ ﹂        ││ 彼に 向 かって 、美 しい 唇を蠱惑的 に 吊り上 げて 、嗤 った 。       ﹁ う 、 う わ あああああああああああああああっ !!﹂     そ れを見 た 瞬間、提 督は絶 叫 していた 。   彼女の何 処 まで も美 しく 、 何 処 まで も 無機 質 で 、 何 処 まで も 恐 ろ しい 笑みを見 た 瞬間、 彼の 勇気も、 意 地 も、 尊厳も、 信念も ⋮⋮彼 を構成 していた全てが 、 音を立 てて崩 れ落 19 鬼神の原点

(24)

ちた 。 巫 か ん なぎ  最早、 そこには 艦娘達を率 い る新進気鋭 の ﹃提 督 ﹄も、 敬 虔 な ﹃ ﹄も最早 いない 。     ただそこには 、 年 齢相応 の 、頬 の 青 白い 青 年がい る だけだった 。   ﹁ あああああああああっ !!  ひ⋮⋮あああああああああああああっ !!   そして 、 理 性という 盾を 無くした未 熟 な 精 神は 、 目 の前に 迫る猛烈 な ﹃ 死 ﹄ の 気配 に 耐 え 切れ ず 、 崩 壊寸 前に 陥 っていた 。 ﹃ ⋮⋮ 司令官 !! 健次 郎 !! 落 ち着 ││ っ !?﹄  那 智はどうにかそ ん な彼 を宥めよ うとす る が 、 そのた め に 一瞬、 敵か ら注意を背 けて しまい 、船足 が 遅 くな る。   そこへ 、運悪 く 至近 弾が着弾し 、那 智の 艦 体が 凄 まじい 衝撃 が 襲 った 。 ﹃ うっ⋮⋮ !?﹄ ﹁ がっ ││ !?﹂   恐慌 状 態に 陥 っていた 提 督は 、 突如起 こった 揺れ に 耐 え られ ず 、 猛烈 な 勢 いで 壁 へと 叩 き 付 け られる。   そこへ 、衝撃 で 壊れ た天 井 の 構造 物が振 り かかった 。 20

(25)

 提 督は 頭を 打ち 付 けて朦朧としてい る のか 、避 け る事も出 来ない 。    ││ しかし 、 そ れ が彼の体 を傷 つけ る事 は無かった 。     何故な ら その前に 、 彼へと 覆 いかぶさ り、降り注 ぐ破片か ら守る 影が 出現 したか ら。 ﹁││ 全く⋮⋮ 最後 の 最後 まで 、世話 の焼かせ る ⋮⋮ 司令官 だな 、貴様 は⋮⋮ ﹂   そ れ は 、 紫 を基調 にした 上 着と 、 タイト な スカートを身 につけ 、 黒髪をサイドポニー に 纏め た 凛々 しく 、 美 しい女性 ││ この 艦を 制 御 す る人間 体であ り、 艦 その も ので も あ る﹃那 智 ﹄ であった 。   しかし 、 今 のその 姿 は 、 艦 の ダメージ か ら の フィードバックを受 けて 、 ま る で 人間 体 自身 が戦火に 巻 き 込 ま れ た よ うに全 身 は ボロボロ にな り、 身 につけた 艤装 は 外観 に 合わ せ る かの よ うに 砕 け 、 ひし ゃ げてい る。      ││ しかし 、 その 身 に 纏わ せた 誇り高 き武 人 然とした佇まいは 損 な われ ていない 。     21 鬼神の原点

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 那 智は常 人 な ら ば潰さ れ て も おかしくはない 程 に 巨 大な破片 を 片手で振 り 払うと 、 足 元に 倒れ た 提 督 を抱 き 起 こす 。  頭 か ら出血 してい る が 、 幸い命に別 状 は無い よ うだ ││ ほっ 、 と息 を吐 きなが ら、 那 智は手 を掲 げ る。   そこか ら 弱 々 しい 、 しかし 暖 かな光が 漏れ、 傷口 に 零れ落 ち る と 、 溢れ だしていた 血 が止ま る。 ﹁ ⋮⋮⋮⋮ 貴様 は 、生 き ろ。貴様を、待 ってい る者達 が 沢 山い るん だ 。 ﹃再 び ﹄沈む のは 、 この武 骨 な 艦娘一人 で十 分 だ ﹂   そして 、 彼の 頬を愛 おしげに 撫 で る と 、 その 唇 と 自身 の 唇を触れ合わ せ る。   そ れ はほ ん の 一瞬 ⋮⋮け れ ど 、 そ れ が永 遠 であ る かの よ うに 熱 く 、情熱的 に 。     ﹁││ あ り がとう 司令官 ⋮⋮い や、 健次 郎 ⋮⋮ 。   こ ん な 私を、 兵器に 過 ぎ ん私を、 今 まで 人間 の よ うに扱ってく れ て⋮⋮ 感謝 して も、 し 切れん﹂     22

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  そう 言 って 微笑む と 、自分 に 付 き 従 う 艦娘達 へと 通信を 繋げ る。 ﹃ 睦 月 !! 如 月 !! 動 け る か !? 動 け る な ら ば ス モ ー ク 散 布 !! 全 弾 あ り っ た け 使 え !! ﹃り、了解 ⋮⋮です⋮⋮ ﹄ ﹃ ひ 、人使 いが⋮⋮ 荒 い ん だか ら ⋮⋮ぁ⋮⋮ ﹄   その 言葉 に 、 よ う や く朦朧 状 態か ら目覚め たのか 、 息絶え絶えにな り なが らも、 煙幕 弾 を 打ち 上 げ る。   乳白 色 の 濃密 な白い 闇 が 辺りを包み、 その場にいた 艦娘達をル級達 か ら隠 す 。   あ く ま で 気 休 め 程 度 で は あ る が 、 敵 の 電 探 の 索 敵 を 狂 わ す チ ャ フ も 混 ざ っ て い る た め、少 しの時 間 稼ぎにはな る。   その 間 こち ら 側 も あち ら の索敵が 行 えず 、 攻 撃 が 出 来ないという欠 点 はあ る が 、 そ も そ も 現 時 点 で ま と も に 砲 雷 撃 戦 を 行 え る の は 多 摩 し か い な い た め、 こ の 際 は 無 視 出 来 る。   その 僅 かな猶 予を使 って 、那 智は全 員 に 自ら の命 令を伝 えた 。 ﹃貴様ら││ 戦 闘 形態 を解 き 、提 督 を連れ てこの海 域を離脱 し ろ﹄ ﹃ に ゃ っ !?  多 摩が 驚愕 と共に 悲鳴 の よ うな 声を上 げ る。 23 鬼神の原点

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  敵 艦 と 相 ま み えてい る状 態で 、 戦 闘 形態 を解 く⋮⋮そ れ は 謂わ ば敵前 逃亡 であ り、 艦 娘達 にとって敵に白 旗を上 げ る に等しい 、 屈 辱的 な 行為 であった 。 ﹃ そ 、 そ ん な⋮⋮っ⋮⋮ま 、 まだまだ⋮⋮睦 月達 は⋮⋮ やれ ます よ っ⋮⋮ ﹄ ﹃ そ 、 そう よ っ⋮⋮この 、程度 で 甘 く 見 て もら った ら││﹄ ﹃ 却 下 す る││貴様らも私も、 このままでは帰 る事 す ら出 来ずに 轟沈 す る のが オチ だ 。  艦隊を率 い る旗艦 として 、容認 す る事 など 出 来 ん﹄ ﹃ う⋮⋮ ﹄   睦 月 と 如月 が 抗議 の 声を挙 げ る が 、那 智はすぐさま否 定 す る。  事実、 睦 月 と 如月 の 損傷 は 激 しく 、 戦 闘 形態 を維持 す る のが や っとの 状 態な 上 に 、 艦 の 駆動系も軒 並 み 異常 を 来してい る││ このまま戦 闘 機 動を続 けては 、 敵に 沈められる 前に 自沈 す る のが 関 の山だ 。   そ れを一 番 分 かってい る のは 、 彼女 達自身 ⋮⋮ 2人 は 二 の 句も 告げず 、 黙り こ む事 し か 出 来なかった 。 ﹃人 間 体 な ら ば 、如 何 に ル 級 の 電 探 と 云 え ど も 感 知 は 出 来 ま い 。被 弾 す る 確 立 は 格 段 に 減る 筈だ ﹄ ﹃ で 、 で も那 智さ ん っ⋮⋮戦 闘 形態 を解除 してい る間 に 、 煙幕が晴 れ てしまいますっ !!﹄  今度 は神 通 が異 議を 唱え る。 24

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 確 かに彼女の 言 う 通り、 艦娘 の 艤装 の戦 闘 形態 を 戻すには 、 そ れ相応 の時 間 がかか る。  通 常 航行 時な ら ば大した手 間 では無い も のの 、 戦 闘 中は別だ ││も し 仮 に戦 闘 形態が 解 か れ てい る間 に砲 撃を受 け よ う も のな ら、一撃 で 轟沈 す る だ ろ う 。   ﹃安心 し ろ 神 通││ 手は 、既 に 考 えてあ る さ ﹄     そう 言 って 柔ら かに 微笑む那 智の 顔を見 た 瞬間、 彼女の 姉妹艦 であ る羽黒 は 、 彼女の 考 え を瞬 時に 悟 ったのか 、顔を真 っ 青 にして 叫ん だ 。 ﹃ だ 、駄目 ⋮⋮ 那 智 姉 さ ん っ⋮⋮ !!  そ れ だけは 駄目 っ !!﹄   しかし 、那 智は 妹 の 叫 び を頭を 振って 黙殺 す る と 、皆 に 向 かって簡潔に 伝 え る。     ﹃││私 が 囮 にな る﹄ ﹃││││ !?﹄     あま り に単 純 で 、 あま り に 重 い 一言 に 、 全 員 が絶 句 した 。   彼女は 言 ってい る のだ ││自分を犠 牲にして 、生 き 残れ と 。 25 鬼神の原点

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﹃駄目 ⋮⋮っ⋮⋮ 駄目駄目駄目 に ゃ っ !!  そ ん なの 駄目 に ゃ っ !!   そ ん な 那 智の 言葉 に 、多 摩が 瞳 か らボロボロ と 涙を零 しなが ら 絶 叫 した 。 ﹃ 第 一、 那 智は 旗艦 に ゃ っ !! 旗艦 が 沈ん じ ゃ った ら、 艦隊 とは 、 言 えないに ゃ ⋮⋮ !!﹄  顔をグシャグシャ にしなが ら、多 摩は 叫 ぶ 。  │ │ 那 智 を 引 き 留 め よ う と 必 死 に ⋮⋮ け れ ど 、 何 処 か で き っ と 無 理 だ と 確 信 し て し まってい る││ そ ん な 表情を 浮かべなが ら。 ﹃ そうだな⋮⋮ 済 まないと 思 ってい る ⋮⋮ ﹄ ﹃ だった ら││ !!﹄   しかし 、 その 言葉 に も那 智は 首を 振った ││ 全て 悟り きった 笑顔 で 。     ﹃ しかし⋮⋮ も う 私 には時 間 が無い ん だ⋮⋮ ﹄     ﹃那 智 姉 さ ん ⋮⋮ま 、 まさか⋮⋮ !?﹄ ﹃ 先 程 の flagship級 の砲 撃 で 、 な⋮⋮ ダメコン が 、間 に 合わん﹄  羽黒 の 叫 びに 、那 智は 自 嘲 め いた 笑みを 浮かべた 。 26

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 見れ ば 、那 智の 船 体の半ばほど ││ 海 面 す れ す れ の 部分 に 、巨 大な穴が空いていた 。   そして 、 その穴の 開 いてい る方向 に 、 那 智の 船 体が 少 しずつ 、 しかし 確実 に 傾斜 して い る のが 分 か る。      ││艦娘達 は 、 そ れ こそが 致 命 的 な 予 兆であ る事を、 ﹃身を以 て ﹄知 っていた 。      羽黒も、 神 通も、 多 摩 も、 睦 月や如月も、 そして 那 智 も ⋮⋮この場にい る誰も が 、 か つて 意思を持 つ前の戦場で 、 そうして海 底 に 沈ん だのだか ら。       ⋮⋮だか ら そ れ以上、 誰も声を掛 け られ ない 。誰も、 那 智の 覚悟を 止 める事 は 出 来な かった 。     そして何 より、 状況 がそ れを許 さなかった ││ 煙幕が晴 れ始め、 再 び ル級達 に よる 砲 撃 が 始 まったのだ 。 27 鬼神の原点

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 再 び 轟音 と水 柱 と共に 、 海 面 が大きく 揺れる。   そ れを確認 す る と 、 那 智は 船 体か ら、 艦妖精 が張 る 結界にに 守られ た 気 絶したままの 提 督が浮かび 上 が り羽黒 の 船 体へと吸い 込 ま れ ていく 。    同 時に 、那 智は 反転 し 、迫り 来 る 敵戦 艦群 の 只 中へと吶 喊を開始 した 。     砲弾が 、 機 銃 が 、 次 々 と彼女の体 を蹂躙 していくが 、 その 足 は決して止ま ら ない 。  諸 共 に 沈 め と ば か り に 、生 き 残 っ た 機 銃 を 打 ち 尽 く さ ん ば か り に 撒 き 散 ら し な が ら、 那 智は 逝 く 。     そ れを見 届け る と 、 残る艦娘達 は戦 闘 形態 を解除 す る││巨 大な 船 体が 解 け るよ うに 光に 溶 けて 行 き 、残る のは海 上を滑るよ うに 行 く 、艤装を纏 った 少 女たちだけ 。     彼女 達も また 、 決して振 り返り はしなかった 。     何故な ら、 その 瞬間、 彼女と共に 行 こうとしてしまうだ ろ うか ら。   28

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  彼女 を 止 めよ うとしてしまうだ ろ うか ら。     ⋮⋮そ れ こそが 、 彼女に 対 す る最 大の 侮辱 であ る と 知 っていたか ら。    聞 こえ る のは 、爆音 と 、軋む船 体の 音 と 、那 智の 声 だけだ 。 ﹃羽黒││司令官を ⋮⋮健次 郎を頼む ぞ ﹄ ﹁ はい⋮⋮はい⋮⋮っ⋮⋮ !!  羽黒 は 提 督 を││受 け 取 った彼女の 想 い 人 であ る 彼 を 強く 、 強く 抱 きし め なが ら嗚咽 を漏ら す 。 ﹃ 神 通││ 爾 後 の 指揮 はお前が 執れ ⋮⋮どうか 皆を、 無 事 に 送り 届けて欲しい ﹄ ﹁了解 しました⋮⋮どうか 、 ご武 運を﹂   神 通 は 泣 き 崩 れ そ う に な る 己 を ど う に か 支 え な が ら 敬 礼 し た │ │ か つ て の 自 分 の よ うに 、身を 呈して 仲間達を助 け 、 散 ろ うとす る友を見送る た め に 。 ﹃多 摩 ││ お前とは も う 少 しだけ 、鎮守府 の屋根の 上 で 日向 ぼっこ を したかった よ﹄ ﹁那 智は 馬鹿 に ゃ ⋮⋮大 馬鹿 に ゃ っ⋮⋮ !! ﹃ 睦 月 に 如月よ ⋮⋮お前 達 は 、提 督 を 元 気 づけて や ってく れ。   ⋮⋮きっと 、 物 凄 く 、寂 しが る だ ろ うか ら な ﹄ 29 鬼神の原点

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﹁ う ん ⋮⋮ 分 かった⋮⋮ 約 束す る ⋮⋮ ﹂ ﹃││ ただし 、 あま り はし ゃ ぎ 過 ぎた り しない よ うにな 。 きっとあいつは 、 途方 に 暮れ て しまうだ ろ うか ら な ﹄ ﹁││ うふふ 、 で も、 きっと ベタベタ し 過 ぎてしまう わ ⋮⋮だって⋮⋮ 私達 だって⋮⋮ 寂 しい も の⋮⋮ ﹂ ﹃ ⋮⋮ 済 ま ん な ﹄     次第に 、 通信 機 越 しの 音 は ノイズ が 酷 くな り、 殆 どが支 離滅裂 な 雑音 に 変わ っていく 。     ﹃││ さ⋮⋮ 後 に 、司れ ⋮⋮け⋮⋮ jろ ⋮⋮ ﹄           ﹃││││﹄ 30

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          そして 最後 に紡が れ た 声 は 、 艦娘達 には 聞 き 分 け られ ない 程 の 激 しい ノイズ の中に 消 え 、           横 須賀鎮守府 所属 、 御 剣   健次 郎少 佐 麾下 の第 二艦隊 ﹁那 智戦 隊﹂ 旗艦、 重巡洋艦 ﹃那 智 ﹄ は 、再 び海の 底 へと帰っていった 。          ││││││││││││││││││││││││││ 31 鬼神の原点

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    ﹁││││ く⋮⋮ ﹂     ﹁││ て ││ く ││﹂       ま る で テレビ の 砂 嵐の よ うな朦朧とした 思考 の 向 こうで 、誰 かが呼 ん でい る。     ﹁││ いと ││ !!﹂     ﹁││提 督っ !!     32

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﹁ う⋮⋮あ⋮⋮ ﹂      必 死さが 伝わ ってく る 呼びかけに 、 石 の よ うに 重 たい 瞼を どうにか 開 け る と 、 ぼ や け た 視線 の 向 こうに 、質 素な着物 を纏 い 、梓弓を 携えた 妙齢 の女性がいた 。 ﹁ ほう⋮⋮し ょ う⋮⋮さ ん ⋮⋮ ?﹂ ﹁提 督⋮⋮ !!  ああ 、良 かった⋮⋮ !!  自分 が呼びかけに 応 えた 事 に 安心 したのだ ろ う 、 その女性 ││軽 空 母 ﹃鳳翔﹄ が 、 目 尻に 溜め た 涙を零 しなが ら、 優しく 抱 きし め てく れ た 。    ││ 温かい 。     彼女の 人柄を現 すかの よ うな温 もり が 、 ま る で氷の よ うに 冷 えきった体に 染み 渡って いく 。   そこで よ う や く 、パズル の ピース の よ うに バラバラ だった 思考 が 纏 ま り始め た 。 ﹁ ここ⋮⋮は⋮⋮ ?  ぼく⋮⋮は⋮⋮ ﹂ ﹁│ │ 鎮 守 府 近 海 で す 。提 督 は 、 数 日 前 に 救 難 信 号 を 捉 え た 鎮 守 府 の 救 助 隊 に 助 け ら れ 33 鬼神の原点

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た ん です 。  食料や 水 も 無しに 漂 流していたせいで体 力 の 消耗 が 激 しいですが 、 すぐに 良 くな り ま す よ﹂  思考 と 同 じく 重 たくなってしまった 舌 は 、 か細い 途切れ途切れ の 声 しか 出 してく れ な かったが 、 鳳翔 はそ れ だけでこち ら の 意図を察 し 、 ゆ っく り と 分 か り易 く 説明 してく れ た 。 ﹁ そうだ⋮⋮ みん、 な⋮⋮は⋮⋮ ?﹂ ﹁││││ はい 、 無 事 です よ﹂   ち らり、 と 鳳翔 が 目を遣 った 方を見れ ば 、 そこには ブランケットを被 せ られ、 救 助隊 の 人間や 整 備員 に 付 き 添われるよ うに救 助艇 に乗 り込み、 あ る いは 担架 で 運 ば れ ていく 艦娘達 がい る。   そ れを見 てほっと息 を吐 こうとした時⋮⋮彼は 気付 いてしまった 。      自分 が 今回率 いた 艦隊を構成 していたのは六 人││一人、足り ない 。     34

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  あの 、厳 しくて 、 無 愛想 で 、 け れ どとて も 優しい彼女が⋮⋮何 処 に も、 いない 。     ﹁││ ほうし ょ うさ ん ⋮⋮な 、 ちは⋮⋮ ?﹂ ﹁ ⋮⋮⋮⋮ ﹂ ﹁ こたえてください⋮⋮なちは⋮⋮なちは⋮⋮何 処 に⋮⋮ ?﹂ ﹁ そ れ、 は⋮⋮⋮⋮ ﹂      悲痛 な 表情 で 目を背 け る鳳翔 の 姿 に全て を悟る け れ ど も、 彼は 那 智 を 呼び 続 け る。     ﹁ なち⋮⋮ 那、 ち⋮⋮ 那 ⋮⋮智⋮⋮ 那 智⋮⋮ 那 智⋮⋮ !!     ま る で 迷 子になった幼子の よ うに 、 母 に 縋り つくかの よ うに 、 何 度も、 何 度も、 何 度 も。   35 鬼神の原点

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   ││貴様 が 司令官 か 。私 は 那 智 。よろ しくお 願 いす る。      ││貴様 !! そ れ で も司令官 かこの 軟 弱 者 !!      ││勝 利に 喜ん でばか りも い られ ないな 。勝 って兜のな ん と やら、 だ 。   ただ 、今夜 ばか り は 飲 ませて もら おう !     こ ん な時に 限 って 、思 い 出 すのは彼女の 顔。  溢れ だして 、 溢れ だして止ま ら ない ││ その 行為を してしまえば 、 残酷 な 現実認め て しまうか ら嫌 なのに 、 そ れ で も 止ま ら ない 。       だか ら こそ 認め ざ るを得 なかった⋮⋮ 自分 にとっての 重巡洋艦 ﹃那 智 ﹄ は 、 も ういな いのだと 。 36

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    ﹁ あ 、 あぁ⋮⋮ああああああ⋮⋮ ﹂ ﹁提 督 ⋮⋮ 泣 い て 下 さ い ⋮⋮ 少 し で も 多 く 、長 く ⋮⋮ そ れ で 、少 し で も 楽 に な る な ら ⋮⋮ ﹂   か細い呻きは 嗚咽 にな り、嗚咽 が慟 哭 に 変わ っていく 。   鳳翔 が 、 強く 、 強く 抱 きし め てく れる││も う 我 慢など 出 来なかった 。     ﹁ う わ あああああああああああっ !!  うああああああああああああっ !!﹂       ま る で堤 防 が決 壊 しかたの よ うに 涙 が 溢れ て止ま ら ず 、嗚咽 は や がて 叫 びに 変わる。  鼻 水が 詰 ま り、 咳 き 込ん で も、 絶 叫 す る あま り喉 が 裂 け 、 血を吐 いて も、 そ れ で も 彼 は 泣 き 続 けた 。     37 鬼神の原点

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 ││││││││││││││││││││││││││     ﹁││││ く 。提 督⋮⋮ ﹂     ﹁ん ⋮⋮ ﹂      聞 き 慣 れ た 声 に 目 を 開 け る と 、 そ こ は 質 素 な 飾 り つ け が さ れ た 鎮 守 府 の 執 務 室 だ っ た 。   どう やら、椅 子に 座 って 休憩 してい る内 に 、 居眠 りを してしまった ら しい 。  傍ら に 目を遣る と 、 そこにはすっか り と 見 慣 れ た 、 相も変わら ず 美 しく 、 たお や かな 妙齢 の女性⋮⋮ 鳳翔 がい る。 ﹁ そ ろ そ ろ、定例会議 のお時 間 です ││ 用 意を さ れ ないと 、遅 刻してしまいます よ ?﹂ ﹁││ ああ 、 そうだったな⋮⋮ 済 まないな ﹃鳳翔﹄ ﹂ ﹁ いえ 、秘書艦 の 勤め ですか ら﹂ 38

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  いつしか硬さが 取れ、 敬 称を付 けなくなった彼女の 名 前 を 呼 ん でか ら立 ち 上 が り、 部 屋の 端 に 設 け られ た 姿見を使 って 、 乱 れ た 服装を直 す 。    ││ そこには 、 日 に焼けて浅 黒 くなった 肌 と 、 白い物が 混 じ り始め た 丁寧 に 切り そ ろ え られ、オールバック に 纏められ た 髪を持 つ 、精悍 な男の 姿 があった 。  額 に 残 っ た 醜 い 傷 跡 が 、 彼 の 雰 囲 気 を 更 に 鋭 く し て い る ⋮⋮ き っ と 子 供 が 見 た な ら、 泣 き 出 しそうな 程 だ 。  純 白の 軍服 の 肩 には ﹃少将﹄ を 示す 階級章、 胸 には 一 等神祇 官を 示す 玉 串 を意 匠 化 し た 徽章。       こ れ が 、今 の 御 剣   健次 郎 の 姿。       十年前の ﹃ あの 頃﹄ の よ うな 、頬 の 青 白いままの 青 年の 面 影は 、も う無い 。     39 鬼神の原点

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 傷跡を隠 す よ うに制帽 を被る と 、 鳳翔 がそっと 差 し 出 した アタッシュケースを 手に 取 り、部 屋 を出る。 ﹁ ⋮⋮そう 言 えば 、 夢 を見 た よ﹂ ﹁ え⋮⋮ ?﹂  暫 し 黙 ったまま 鳳翔を連れ て歩いていた彼だったが 、不意 に 口を開 いた 。 ﹁││ 十年前のあの時の 、 夢だ ﹂ ﹁ そうですか⋮⋮⋮⋮ 思 い 、出 せましたか ?﹂ ﹁ い や、相変わら ずだ 。   かつての 私 の未 熟 さと慢 心 ぶ りを まざまざと 見 せつけ られる だけだった よ﹂ ﹁ ⋮⋮そうですか ﹂   そう 言 ったき り、 健次 郎 は 押 し 黙り、 鳳翔も またそ れ以上踏み込 まずにただ 黙 してそ の 後を付 いていく 。      ││ 十年前の 悲 し み と屈 辱 の 記憶。 そ れ は幾 度も、 幾 度も 夢 枕 に 現れ た 。 諳 そ ら  も う 、 その場にあった物 、起 こった 事を ん じ られる程 に 、 何 度も。   40

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    しかし 、一 つだけ⋮⋮どうして も思 い 出 せない も のがあ る。     ﹁那 智⋮⋮ 君 は 、最後 に 私 に何と 言 った ん だ ?﹂     ﹃││││﹄       朦朧の 狭間 で 聞 こえた 、 ノイズ混 じ り の 囁 く よ うに紡が れ た彼女の 声 が 、 どうして も 思 い 出 せない 。   そ れを思 いだすまで 、 きっと 自分 は夢 を見続 け る だ ろ う 。     ﹁ どうして も思 い 出 せない⋮⋮そ れ で も、 こ れ だけははっき り してい る﹂   41 鬼神の原点

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   思 い を馳 せ る のは 、 数 多 の 新人提 督 や艦娘達 が眠 る あの 島 ⋮⋮ 沖ノ島。     ﹁││沖ノ島 にい る君 の 仇 共 を、一 匹た り と も残 さず 討 ち 滅 ぼす 。   ⋮⋮そ れ が 、私 に 出 来 る 唯 一 の 君 への 弔 いだ ﹂       その 言 の 葉 は 、憎 し み に 醜 く歪 ん でいた 。    ││一瞬 だけ 、思 い 出 の中の 那 智が 悲 しそうな 表情を 浮かべた 気 がした 。    間違 ってい る のは 分 かってい る ⋮⋮ 意 味のない 行為 だと 頭 では 理解 してい る。   そ れ で も 彼は止ま る事も、 退 く 事も出 来ず 、 この 10 年 間 女 々 しく も あの海 域 に 固執 し 続 けてきた 。  沖ノ島を 常に 巡回 し 続 け 、 深 海 棲艦 がい れ ば 見 敵 必殺 し 、 沈み そうな 友軍 の 艦娘達を 見 つけ れ ば 、 こ れを助 けなが ら 敵 を撃滅 す る。 42

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  その 様 は 、 あの 魔 の海 域 に 挑 ま ん とす る新人提 督 や、 経 験 の浅い 艦娘達 か ら見れ ば 、 時 に救 世 主の よ うに 、 時に 容赦 なく敵 を滅 ぼす 修羅 に も見 えた 。     そして 、 彼はいつしか数 多 の 提 督 達 か ら こう呼ば れるよ うになった 。    ││沖ノ島 の 鬼 神 、 と 。     こ れ は 過去 に 囚われ た 一人 の 提 督と 、 そ ん な彼 ら の周 り に 集 った 艦娘達 の 、 戦いと 交 流 、出会 いと別 れを描 いた物 語 であ る。 43 鬼神の原点

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神の

娘御達

     沖ノ島 に 程近 い 、 東南 アジア近辺 か ら輸送 さ れ た 資 材 を皇国 本 国 へと 送る た め の 輸送 用 航路。  20 年前に 深 海 棲艦 が 現れ て 以 来 、 皇国 が 血を吐 く 思 いで 安 全 を確保 し 、 開拓 した も のであ る。  国 内 に 主 要 な 資 源 を 持 た な か っ た 皇 国 が 今 ま で 生 き 残 っ て 来 れ た の は 、 こ の 航 路 が あったか ら に 他 な ら ない 。     ⋮⋮しかし 、 安 全が 確保 さ れ てい る、 と 言 えば 聞 こえはいいが 、 そこには ﹃ あ る程度﹄ という 言葉を付 け る のが正しい 。    深 海 棲艦 は 基 本 的 には神 出鬼没││一説 に 寄れ ば 、 艦船 が 沈没 した 事 のあ る 場所な ら ば何 処 にで も現れる と 言 う 。   そのた め、 未だに 艦娘達 に よる護衛 は 必須 であ り、 航路上 に 再 び 深 海 棲艦 の 巣 が発 生 44

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して 変更を 余 儀 なくさ れる事も多 い 。      ││ しかし 、 皇国 海 軍 の中で 艦娘を有 す る艦隊 の数は決して 多 くは無く 、 彼 ら輸送艦 隊 全て を網羅 す る事 は 出 来ない 。     そのた め、 突如 として 現れる 奴 ら に 襲撃を受 け 、 大 量 の 資 材 を抱 えたまま 沈ん でしま う 艦船も多 く存在してい る。       ⋮⋮そして 今日 この 日、 不運 に も そういった 事 態に 直面 してしまい 、 絶体絶命の危機 に 立 たさ れ てい る艦隊 があった 。      ││ 南 西諸島 海 域 輸送 用 航路上     45 鬼神の娘御達

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 皇国 海 軍 所属の 護送船団を 伴った タンカー船団 が 、 激 しく ジグザグ の 航跡を描 きなが ら、 機 関部も 焼 付 けとばか り に全 力 で 逃走 していた 。 ﹁ 機 関最 大 船速 !!  絶 対 に 行 き 足を 止 める なっ !!﹂   この 船団を率 い るタンカー の 船長 が 、操舵室 の全 員 に 向 かって 必 死に 号令を下 す 。   その 間 に 、 レーダー と 、 映しださ れるモニター で 後方を確認││ そこには 、 最早 海の 支 配者 となった異形の 群れ がいた 。     その 後方 か ら迫る のは 、 砲塔 を生や した 巨 大な 口 か ら、 前 腕 が異 様 に発 達 した女性の 上 半 身 を 生 や し た 深 海 棲 艦 │ │ 軽 巡 ホ 級 と 呼 ば れ る、駆 逐 艦 に 次 い で 軽 量 級 の 個 体 と 、 複 数の 駆逐艦 か ら成る 水 雷 戦 隊 だ 。    軽巡ホ級 の 巨 大な両 腕 が 、 海 面を掴む かの よ うに 叩 き 付 け られる││ 砲 撃 の体 勢 だ 。   そ れ に併せて 、 周 囲 の 駆逐艦達も 砲 口を一斉 にこち ら へ 向 け る。 ﹁ 敵 艦 砲 撃 砲 撃 体 勢 !! 予 測発 射 時 間 はあと 約30秒 !! ﹁面舵一 杯 !! 少 しで も 照 準 か ら逃れろ !!   そ う は 言 っ て も、 所 詮 は タ ン カ ー ⋮⋮ 素 早 い 奴 ら の 砲 撃 か ら 逃 れ る 事 は 殆 ど 不 可 能 だ 。 46

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  だか ら こそ 、 少 しで も多 くの 悪 あがき を しなけ れ ば 、 待 ってい る のは ﹃沈没﹄ という 残酷 な 現実 だけであ る。 ﹁護送船団、 砲 撃を開始 しました !!﹂  船員 か ら の報告に併せて 、至近 の 護衛船団 が 一斉 に 深 海 棲艦目掛 けて攻 撃を かけ る。   無数の砲弾と 、ミサイル 発 射管 が唸 りを上 げ 、猛烈 な 勢 いで敵 目掛 けて 殺 到す る。    ││ しかしそ れら は全て 、 敵の機 銃 と 装 甲に よ って 阻 ま れ、 一 つとして彼 らを傷 つけ る には 至ら なかった 。     決して 護送船団 の武 装 が 劣 ってい る訳 では無い ││ しかし 、 その武 装 は ﹃人類 の作っ た ﹄ モノ に 対 しての も のであ り、 奴 ら の 持 つ 装 甲と 、 迎撃能力を 乗 り越 え る には 至ら な い 。  深 海 棲 艦 が た っ た 数 年 で 人 類 の 海 上 保 有 戦 力 の 殆 ど を 壊 滅 さ せ た 理 由 が こ こ に あ る ││ 奴 ら の中で 最も軽量 とさ れる駆逐艦 で も、 人類 側の戦 力 と 比 べ れ ば 、 その キルレシ オ は絶 望的 な数値 を叩 き 出 すのだ 。     47 鬼神の娘御達

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  だか ら、護送船団 が 狙 ってい る のは奴 ら の 撃退や撃沈、迎撃 などでは無い 。   ただ 、 その照 準を少 しで も狂わ せ る た め の 目 眩ましなのだ 。 ﹁││ 敵砲 撃、 来ます !!   報告と共に 、 風切り音を立 てて砲弾が次 々 と 飛 来す る││必 死に 護送船団 が 迎撃 のた め に機 銃や迎撃ミサイルを 発 射 す る が 、 全て を撃 ち 落 とす 事 など到 底出 来はしない 。     その 間 に 船長達 に 出 来 る事 は⋮⋮ただ 、 祈 る だけ 。    ││ そして 、轟音 と共に敵の第 一射 が着弾す る。  凄 まじい水 飛沫 が次 々 と 上 が り、 巻 き 起 こった 衝撃 が 激 しく タンカー の 船 体と 、 操舵 室 の空 気をビリビリ と 叩 いた 。 ﹁ ぐぅ⋮⋮ 損害 報告っ !! ﹁ 当 艦 に 被 弾無し !! 一部 積 み荷 が崩 落 しましたが 、航行 には問 題 あ り ませ ん っ !!   その報告に 胸を撫 で 下ろ す 暇も 無く 、 再 び砲弾が 飛 来す る││ そして 、 そ れ は 至近 で 迎撃 していた 護送船団 のうちの 1隻 に 直撃 した 。    ││猛烈 な 勢 いの 爆炎 が 上 が り、 船 体 を真 っ 二 つに 砕 か れ た 護衛艦 が 、 ま る で吸い 込 48

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ま れる かの よ うに海 底 へと 没 していく⋮⋮ 轟沈 であ る。    見れ ば 、護送船団 の半数が 撃沈、も しくは大破し 、残る艦艇も殆 どが 損傷 してい る。   そして大破し 、 行 き 足 の止まった 者達 は 、 すぐさま 落 とさ れ、 群 がった 駆逐艦達 の 顎 に よ って噛 み砕 か れ、飲み込 ま れ ていく 。     ⋮⋮このままでは 、 数 マイル と 進 まずに 護送船団 は全て 撃沈 さ れ、 この タンカーも後 を追 う 事 にな る のは 明ら かだった 。     その 上、船員 か ら再 び絶 望的 な報告が 飛ん だ 。 ﹁ 敵 艦隊、魚雷を 発 射 !! 数 20 !!﹂ ﹁ 何っ !?﹂  魚 雷 は 駆 逐 艦 や 軽 巡 と い っ た 軽 量 級 の 艦 艇 に と っ て は 必 殺 の 武 装 │ │ 恐 ら く 半 数 以 上 の ﹃邪魔者﹄を排除 した 事 で 、 止 めを 刺そうという 思考 に 至 ったのだ ろ う 。   しか も、 砲 撃 と 比 べて 魚雷 の命中 率 は 高 く 、迎撃も難 しい 。 ﹁ 弾着まで 10 ⋮⋮っ !!  最早 こ れ までか⋮⋮ 悟 ったかの よ うに 目を閉 じ 、 衝撃 と 最後 の時 を待 つ 船員達││ し 49 鬼神の娘御達

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かし 、 その 衝撃 はいつまで経って も訪れ なかった 。     ﹁ 敵 魚雷群消滅││ 海 域上 空に 友軍 の 識 別 反応 !!⋮⋮ 内1 機 、 当 船 に 近 づきます !!      ││代わり に 聞 こえてきたのは 、 魚雷 が 迫 っていた砲 口 か ら 吹き 上 が る 水 柱 と⋮⋮ 船 上を掠めるよ うに 飛ん で 行 く 、レシプロ式 の 飛行 機 。     しかし 、 凄 まじく 疾 い ││ その 速 さは 音速を遥 かに 超 え 、 描 く 軌道 は正に 飛燕 の 如 し 。  陽 光に煌 め く 様 は 、高 空に浮かぶ 五色 の 雲 ⋮⋮その 名 は 。 ﹁ あ れ は⋮⋮彩 雲 !!   そ れ は 、旧 軍 に お い て 活 躍 し た 海 軍 最 速 を 誇 っ た 艦 上 偵 察 機 │ │ こ の 時 代 に お い て 博物 館 アンティーク 級 の 代 物になった機体で 、 そ ん な 芸 当 をや ってのけ る者達 はこの 世 で 一 つしか無 い 。     50

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﹁││皇国 海 軍 の 識 別 信号を確認 !! 艦娘 です !! 艦娘 に よる艦隊 です !!       その 瞬間、 全ての 船員 が 、 将 兵が 、 歓 喜 の 声を上 げ る││ 彼 ら に 落 ちかけていた絶 望 の帳 を 打ち払う 、最 強の 援軍 の到着であった 。   そしてその 声 は 、続 けて 成 さ れ た報告に よ って 最高 潮に 達 す る。 ﹁識 別は⋮⋮ 御 剣第 2 機 動艦隊 !! ﹁││ 来てく れ たか⋮⋮ 沖ノ島 の 鬼 神 !!﹂   そ れ は 、 この周 辺 海 域 において 名を轟 かせ る御 剣   健次 郎少将率 い る艦隊 であった 。    ││││││││││││││││││││││││││    タンカー船団 か ら、 数 キロ離れ た海 域 で 、 2隻 の 軽 空 母 と 重雷装巡洋艦2隻、 そして 軽巡洋艦2隻 か ら成る艦隊 の 姿 があった 。   その中央に位 置 す る軽 空 母 の 飛行 甲 板上 では 、 巫 女 服を身 に 纏 った女性が 、 独自 の 認 識 に よ って彼 ら の 様 子 を 捉えていた 。 ﹁やーれ、やれ ⋮⋮ 出撃 帰 り に 、 まさか 襲撃 さ れ て る友軍 に 出 く わ すな ん てねぇ 。 51 鬼神の娘御達

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  ⋮⋮ よ う や く 、 帰って 提 督と 一 杯 やれる と 思 ったのにさ ー﹂   紫がかった癖 毛 の 長髪をバリバリ とかきなが ら、 憂鬱 そうに呟くのは 、 軽 空 母 ﹃隼鷹﹄ 。   その 言葉を窘めるよ うに 、 無 線 が繋が る││ 映 像 には 、 傍ら に 飛行 機の形 を した カラ クリを 入 れ た 巨 大な 箱を 携えた 、 額 に 鉢金を巻 き 、 長髪を後ろ で無 造 作に 纏め た 少 女の 姿 が映しださ れ た 。 ﹃ ち ょ っと 、 隼鷹││不謹 慎 よ ? 私達 がいなかった ら、 あの 人達 は救えなかった ん だか ら文句言わ ないの ﹄ ﹁わー って る って ﹃ 千 代 田 ﹄ ⋮⋮大体 、 アンタ だって 愛 しのお 姉 に 一 刻 も早 く 会 いたかっ てたじ ゃ ないのさ ﹂  隼鷹 のか ら かいの 言葉 に 、傍ら に浮かぶ 軽 空 母﹃ 千 代 田 ﹄ は 顔を赤 くす る。 ﹃ う⋮⋮そ れ は 、 そうだけど⋮⋮と 、 と も かくそ れ とこ れ とは別っ !! すぐに第 二 次攻 撃 隊、 発 艦行 く よ っ !! ﹁ へ ー いへい 、了解 っ⋮⋮と ﹂  ヒ ラ ヒ ラ と 手 を 振 っ て 千 代 田 の 言 葉 を 受 け 流 す と 、隼 鷹 は 手 に し た 巻 物 に 手 を か ざ す 。   す る とそこか ら ﹃勅令﹄ という 文 字が光 り と共に浮かび 上 が り、 巻 物へと吸い 込 ま れ ていき⋮⋮ 同 時に 、 そこに 貼り付 け られ ていた 飛行 機の形 を した 紙型 がひ らり、 と浮か 52

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び 上 が る。   そしてそ れら は吹き 荒 ぶ潮 風を 無 視 して 飛行 甲 板上 に張 り付 き ││ 次の 瞬間、 光の 粒 子が 集 まったかと 思 うと 、 型紙 の数と 同 じ レシプロ式 の攻 撃 機と 爆撃 機⋮⋮ ﹃ 流 星 ・ 改 ﹄ と ﹃ 彗 星・12型 甲 ﹄ が 顕現 した 。    ││ その コクピット上 には 、 霊力を込められ て 人 と 同 じ 姿 になった 艦妖精達 が乗って い る。     そ れを確認 す る と 、 隼鷹 はそ れ までの ガサツ な態 度を一変 させ 、 雄々 しく彼 ら に 向 け て 号令を 発した 。     ﹁││ 第 二 次攻 撃隊、 全機発 艦 !! こ れ は 勅令 であ る !! 目標 前 方 敵水 雷 戦 隊 !!  一 機 残ら ず 撃滅 せ よ !! ﹃││了解 !!﹄     53 鬼神の娘御達

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  次 々 と発 艦 していく攻 撃 機と 爆撃 機 達││ そ れ に併せて 、 傍ら の千 代 田か らも 無数の 艦載 機が 飛 び 立 っていく 。 ﹃ さあ 艦爆隊、艦 攻 隊、出 番 よ !!   千 代 田はそ れら に繋がった 霊力 の 糸を、 ま る で 操り人 形の よ うに 操 作しなが ら、 彼 ら に 指 示 を与 えていた 。      │ │ そ し て 全 て の 艦 載 機 が 発 艦 し た の を 確 認 す る と 、二 人 は 一 斉 に 艦 載 機 達 を タ ン カー船団を襲 う 深 海 棲艦達目掛 けて攻 撃を開始 した 。      艦娘達 が搭 載 す る艦載 機は 、 人類 が 有 す る如 何な る航 空戦 力も及 び も付 かぬ 程 の性 能 を 発 揮 す る││音速 で空 を駆 け 、 機 銃 の 一撃 で 通 常の 艦船を 打ち 砕 き 、 爆撃 は全て を 焼 きつくす 。   その中で も、 トップクラス の性 能を誇る 彗 星 ・ 12型 甲と 、 流 星 ・ 改に よる 攻 撃 は 、 例 え 深 海 棲艦 であ ろ うと も、軽巡、駆逐艦クラス な ら ば 容易 に 撃滅 す る事 が 可能 だ 。   54

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  攻 撃 機に よる雷撃 と 、 爆撃 機に よる爆撃││雷爆同 時攻 撃 が 、 眼前の 駆逐艦、 そして 軽巡 に 向 かって放た れる。  爆撃を避 けて も その先には 魚雷 の 航跡 が伸び 、 逆 に 魚雷を避 けたとして も、 その先に は 爆撃 の 一撃 が 迫 ってい る という 、回避不可能 の攻 撃 だ 。      ││俗 に死神の 笛 と 称 さ れる独 特の 風切り音を響 かせなが ら、 爆撃 が 駆逐艦を、 雷撃 が 軽巡を そ れ ぞ れ 打ち 砕 く 。    一度 の攻 撃 で 、 一気 に敵 艦隊 の 3分 の 1を轟沈 させ る 大戦 果 であ る が 、 当の 隼鷹 は 不 満 げに 舌 打ちした 。 霊力 だ んや く ﹁ ちぇっ⋮⋮ や っぱ り出撃 帰 り じ ゃ、 が 足ん ないか ー﹂ ﹃仕方 無い よ、今回 は結 構 奥まった海 域 まで 出撃 した 後 だったし ﹄   慰 める 千 代 田の 言葉通り、 既 に 出撃 し 、 沖ノ島 周 辺 の 深 海 棲艦達 と戦った 後 の彼女 達 は 消耗 し 、 本来の 力を 十全に扱えていないのが 現状 だった 。 ﹁ ま 、 そ れ で も 余 裕 だけどね ー ⋮⋮ 後 は 頼むよ、 神 通﹂ ﹃ はい ││後 は 、任 せて 下 さい ﹄ 55 鬼神の娘御達

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 隼 鷹 の 言 葉 に 答 え た の は 神 通 │ │ 今 や 健 次 郎 の 第 二 艦 隊 旗 艦 と な っ た 彼 女 の 指 揮 の 元 、隼鷹 と千 代 田の攻 撃 に よ って 混 乱す る 敵水 雷 戦 隊 に 向 けて 、 攻 撃を開始 した 。    ││││││││││││││││││││││││││   ﹁││ 砲 雷撃 戦⋮⋮ 開始 します !! では 、 お 願 いします 、 大 井 さ ん、北上 さ ん﹂ ﹃了解 !!  海の 藻 屑とな り なさいな !! ﹃ はいは ∼ い 、 そ れ じ ゃ あ甲 標的 さ ん達、 お 願 いね ∼﹄   神 通 の 号令 に答えたのは 、 ま る で 針鼠 の 如 き無数の 魚雷を装備 した 、 現 存の 艦娘 の中 では 最 強の 雷撃能力を持 つ 2人 の 重雷装巡洋艦﹃ 大 井﹄ と ﹃北上﹄ だ 。    │ │ 無 数 の 魚 雷 に 混 じ っ て 彼 女 達 に 取 り 付 け ら れ て い た も の が 、 海 中 へ と 投 入 さ れ る。     そ れ は 、 魚雷を 搭 載 した 小型 の潜水 艇││ 甲 標的 と呼ば れる、 敵へと 肉薄 し 、 雷撃 に よる 先制攻 撃を行 う兵器だ 。  重雷装巡洋艦を始め とした 一部 の 艦艇 にしか搭 載出 来ない強 力 な兵器だが 、 その 構造 56

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は 非 常に 脆 弱であ り、 攻 撃を受 け れ ば 易々 と 撃 破さ れ てしまうという弱 点も 存在す る。 ﹁ 甲 標的 の 肉薄を援護 します !!││多 摩さ ん、 砲 撃開始 !!﹂ ﹃了解 に ゃ っ !!   そ の 弱 点 を 補 う べ く 、 神 通 の 声 に 答 え た の は 多 摩 │ │ 十 年 前 に は 未 熟 だ っ た 彼 女 も、 今や この第 二艦隊 の主 力 の 一人 だ 。   甲 標的達 の存在 を気取られ ぬ よ う 、 絶え 間 なく 20.3cm連装 砲が火 を 吹き 、 敵の 注意を引 きつけ る。  混 乱か ら立 ち 直 った敵の 駆逐艦達も こち ら に砲 撃を加 え る が 、 軽巡洋艦 であ る 神 通達 の 方 が 射程 が 長 く 、 奴 ら の攻 撃 は届く 事 は無く 、逆 に彼 ら の 船 体 を 削 り取 っていく 。 ﹃ 甲 標的、目標 海 域 に到 達 !! いつで も行 けます !!   そして ││ 無 事 全ての甲 標的 が敵 を射程距離 へと捉えた 。 ﹁││油断 しましたね⋮⋮発 射 して 下 さい !!﹂  口 の 端を僅 かに 吊り上 げなが ら、 神 通 は 号令を下 す ││同 時に 、 甲 標的 か ら 発 射 さ れ た 魚雷 が 、傷付 いた 2隻 の 駆逐艦 の 船底を貫 いた 。   う め き 声を上 げなが ら 海中へと 没 していく 駆逐艦││予想外 の 方向 か ら の攻 撃 に 、 一 瞬 敵の 動 きが止まった 。   57 鬼神の娘御達

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  ﹁ ⋮⋮ 魚雷も装 填 済み です ││撃 てっ !!﹂      行 き 足 の止まった敵 目掛 けて 、 神 通 は 一切 の 容赦 無く 魚雷 発 射を 命じ る。       ⋮⋮敵水 雷 戦 隊 が全て海中に 没 したのは 、 その 僅 か 10分後 の 事 であった 。      ││││││││││││││││││││││││││     戦 闘を 終え 、 タンカー船団を安 全な 鎮守府近 海まで 護衛 す る と 、 神 通達 は彼 ら か ら い くつかの 資 材 を 報 酬 として 分 け 与 え られ、 帰 還 の 途 に着いていた 。 ﹃ ふぅ ー、思わ ぬ 臨 時 収 入 も あったし 、提 督 も こ れ で 喜ん でく れる かね ー ?﹄   帰った 後 の振 る舞 い 酒 が 上 等な も のにな る の を期待 してい る のか 、 隼鷹 は ニヒヒ、 と 上 機 嫌 な 笑 い 声を上 げた 。 58

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﹃ きっと 褒め てく れるわよ││ そ れ に千歳お 姉も ⋮⋮ ﹄ ﹃ はいはい 、アンタ が 期待 して る のはどうせそ れ だ ろ うね ﹄ ﹃││ 千 代 田さ ん と千歳さ ん、 仲 が 良 い も のね⋮⋮ 私 は 、 北上 さ ん がい れ ばそ れ でいいの だけ れ ど ﹄ ﹃ ち ょ っとち ょ っと大 井 っち ∼、 じ ゃれる のは帰ってか ら だ よ∼ ?  衝突 した ら どうす ん のさ ∼﹄  隼鷹 の 言葉を皮切り に 、 ワイワイ と 会話を交わ す彼女 達 の 様 子 を見 届けなが ら、 多 摩 は ボソリ、 と神 通 だけに 聞 こえ るよ うに呟く 。 ﹁││ あそこへの 出撃、 いつまで 続 くのかに ゃ ⋮⋮ ﹂   その 表情 は 、辛 そうに歪 められ てい る。   彼女 達2人 はあの 日以 来 、 数えき れ ない 程 に 、 あの 沖ノ島 海 域 へと 出撃を 繰 り返 して いた 。   ま る で 、 あの 日沈ん だ 那 智の 仇を取る かの よ うに 。       ⋮⋮しかし 、 いく ら 奴 らを沈め たとて 、 決して彼女が帰って来 る事 は無いのだ 。   59 鬼神の娘御達

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  ﹁ そ れ は 、提 督が十年前の 過去を断 ち 切れる まで よ、多 摩さ ん ⋮⋮ ﹂ ﹁ そ れ は 、 何時にな る に ゃ ⋮⋮ ﹂ ﹁ いつか⋮⋮きっと 、 いつか よ ⋮⋮ ﹂     その問に答え る 神 通 の 言葉 は 、 虚 しさと 矛盾 に 満 ちてい る││ そ れ に 気付 いてい る の か 、 彼女の 表情も また 、多 摩と 同 じ よ うに 沈ん でいた 。   健次 郎 の 心 は 、 未だに 縛られ てい る ⋮⋮十年前のあの 日 か ら、 止まってしまったかの よ うに 。     ︵││ そ れ で も ⋮⋮ ︶       神 通 は 、 祈 ら ずにはい られ ない 。   あの 心 優しい彼が 、 あの十年前の 悪 夢 を 乗 り越 え る事を。   60

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  ︵信 じています よ ⋮⋮ 提 督⋮⋮ ︶       幾百 、 幾千 回、 その祈 り は空へと 消 えていったか 分 か ら ない⋮⋮そ れ で も、 神 通 は祈 る事を 止 め なかった 。       ⋮⋮しかし 、 その 10 年 間 の祈 り は 予想外 の形で 叶 え られる事 にな る。       健次 郎 の横 須賀鎮守府 か らトラック泊 地への 転 属命 令 という形で 。 61 鬼神の娘御達

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った

者達

   ││会議室 へと 向 かう 廊下 の 途上、不意 に 鳳翔 が 立 ち止まった 。 ﹁││ はい 、 こち ら鳳翔 です⋮⋮はい 、 はい⋮⋮ 分 か り ました 。  皆 さ ん、 ご 苦労様││ゆ っく り休ん で 下 さいね ﹂   恐 ら くは 通信 が入ったのだ ろ う 、 念 じ るよ うにこ め か み に手 を 当てなが ら、 誰 かと 会 話を してい る。   そして 、 そ れ が終 わる とにっこ り と 微笑み なが ら 健次 郎 へと 向 き 直 った 。 ﹁ ⋮⋮ 提 督 、 第 二艦隊 が帰って来た よ うです よ﹂ ﹁ そうか ││ 帰った ら、間宮 の 甘 味で も出 して や ってく れ。  隼鷹 には 、秘蔵 の を一 本 開 け る、 と 伝 えておけばいい ﹂ ﹁ はい ﹂   その 表情を見れ ば 、 彼女 達 の 様 子は 聞 くまで も 無い 。   だか ら 健次 郎 は帰って来た 者達 への報 酬 の 内容を ただ 一言伝 え る と 、 そのまま歩き 続 け る。   そ ん な 不 器用な優しさに 、鳳翔 は 益々笑みを深 くしてその 後 に 続 いた 。 62

参照

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