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(1)

量子物理学

B(

量子力学から現代物理学へ

)

2008.9.24,東京女子大学文理学部数理科学科 坂井典佑 目標・概要: 量子物理学の発展から現代物理学がどのように形成されたかを学ぶ.1 次元箱型ポテンシャ ルと調和振動子の束縛状態から始めて,角運動量,統計性,水素型原子,それに基づく元素周期律の理解を 試みる.これらはさらに,素粒子物理学・宇宙科学・物質科学へとつながる.できるだけビデオなどの視聴 覚教材を用いて,内容をわかりやすくしたい. 参考書:

「MIT 物理 量子力学入門 I,II」A.P. フレンチ,E.F. テイラー著,平松淳監訳, 培風館, 1993 「量子力学 I」, 坂井典佑著, 培風館, 1999 「目で楽しむ量子力学の本」トニー・ヘイ,パトリック・ウォーターズ著,大場一郎訳,丸善, 2007 「量子力学 I,II」朝永振一郎著,みすず書房, 1952 評価 平常点 (出席状況,授業への参加状況) とレポートにより総合的に評価する.

目 次

1 量子物理学 A のまとめ (量子物理学 A の復習) 2 1.1 粒子性と波動性,シュレーディンガー方程式 . . . . 2 1.2 量子力学の原理 (量子物理学 A のまとめ) . . . . 3 1.3 完全剛体の壁 (量子物理学 A の復習) . . . . 4 1.4 空間反転とパリティ . . . . 5 2 1次元ポテンシャルでの束縛状態 6 2.1 1 次元箱型ポテンシャルでの束縛状態 . . . . 6 2.1.1 境界条件 . . . . 6 2.1.2 接続条件 . . . . 7 2.1.3 エネルギー固有値と固有関数 . . . . 8 3 調和振動子 10 3.1 エネルギー固有値問題と生成消滅演算子 . . . . 10 3.2 エネルギー固有関数とエルミート多項式 . . . . 12 4 角運動量の量子化 13 4.1 角運動量演算子の交換関係 . . . . 13 4.2 角運動量の固有値と固有関数 . . . . 13 4.3 角運動量の合成則 . . . . 16 5 粒子のスピン (固有角運動量) と統計性 17 5.1 量子力学での同種粒子と対称化仮設 . . . . 17 5.2 同種粒子の波動関数 . . . . 18 5.3 ボース分布とフェルミ分布 . . . . 19 6 中心力 20 6.1 球面座標での変数分離 . . . . 20 6.2 微分演算子としての軌道角運動量と球関数 . . . . 23 6.3 動径方向の波動関数 . . . . 27

(2)

7 水素型原子 (クーロン力での束縛状態) 29 7.1 クーロン場での束縛状態 . . . . 29 7.2 水素型原子の波動関数と電子配位 . . . . 31 7.3 電子の統計性と周期律 . . . . 32

1

量子物理学

A

のまとめ

(

量子物理学

A

の復習

)

1.1

粒子性と波動性,シュレーディンガー方程式

光はマックスウェルによって,電気と磁気の波,すなわち,電磁波の 1 種であることが示された.光電効 果などの現象では,波の性質を持つ典型的な存在である光が粒子の性質も示す.その結果,角振動数 ω(振 動数 ν = ω/(2π)) の波は E = ¯hω (1.1) で与えられるエネルギー E のつぶつぶとしてふるまうことがわかった.ここで定数 ¯hはプランク定数と 呼ぶ. 電子が粒子であることは昔から良く知られていた.電子などの粒子が回折・干渉の現象を示すことから, 波としての性質を示す.その結果,運動量 p の粒子は p = ¯hk (1.2) で与えられる波数 k の波としてふるまうことがわかった. 角振動数 ω で波数 k を持ち,x 方向の前方に進行する波動は,複素数を用いて e−iωt+ikx (1.3) と表される. これらの実験事実を用いて,シュレーディンガーは次の方程式を考えた.系の状態を表す波動関数 ψ(x, t) という複素数の量があるとする.これは一般にエネルギー En運動量 pnを持ったいろいろな状態 n の重ね 合わせだが,状態 n の重みが anだとすると, ψ(x, t) =n e−iωnt+iknxa n (1.4) ここで波動関数は複素数なので,重みを表す係数 anも複素数である.もしも,この波動関数で表される状 態のエネルギーを測ろうとすると,(1.1) 式から,時間微分を行って,定数 ¯hと純虚数 i を掛ければよい i¯h∂ ∂tψ(x, t) =n ¯ hωne−iωnt+iknxan = ∑ n Ene−iωnt+iknxan (1.5) 一方,この粒子は質量 m で運動量 p を持ち,ポテンシャル V (x) のもとで運動するとしよう.古典力学で は,粒子の力学的エネルギー E は粒子の運動エネルギー mv2/2 = p2/(2m)とポテンシャル (位置) エネル ギー V (x) の和で与えられる. E = p 2 2m+ V (x) (1.6) この関係式は量子力学でも何らかの意味で成り立つべきだから,各状態のエネルギーについて成り立つと する. En = p2 n 2m+ V (x) (1.7)

(3)

この結果,(1.5) 式は i¯h∂ ∂tψ(x, t) = ∑ n ( p2 n 2m+ V (x) ) e−iωnt+iknxa n= ∑ n ( (¯hkn)2 2m + V (x) ) e−iωnt+iknxa n = ∑ n ( 1 2m ( ¯ h i ∂x )2 + V (x) ) e−iωnt+iknxa n = ( 1 2m ( ¯ h i ∂x )2 + V (x) ) ∑ n e−iωnt+iknxa n = ( 1 2m ( ¯ h i ∂x )2 + V (x) ) ψ(x, t) (1.8) ここに得られた方程式がシュレーディンガー方程式で,波動関数の時間変化を記述する量子力学の基本方程 式となる. 実際の空間には x, y, z の 3 方向あるので,それを考慮するとシュレーディンガー方程式は i¯h∂ ∂tψ(x, t) = [ 1 2m (( ¯ h i ∂x )2 + ( ¯ h i ∂y )2 + ( ¯ h i ∂z )2) + V (x) ] ψ(x, t) (1.9)

1.2

量子力学の原理 (量子物理学 A のまとめ)

量子力学の原理 (五つの仮定)。 1. 粒子に付随して波動関数 ψ(x, t) が存在し,粒子の状態を表している。波動関数は複素数係数で足し あわせることができる (線形ベクトル空間)。 2. 力学変数はすべて,波動関数に作用する演算子で表される。力学変数の例としてはエネルギー・運動 量・座標等がある。 3. 個々の測定で得られる測定値はその測定している力学変数を表す演算子 Ω の固有値 ωn のみである。 Ωun= ωnun (1.10) 4. 系の状態を完全に指定するのに必要かつ十分な力学変数の組 (同時観測可能量の完全な組) があって, それらの固有値を指定すれば状態は完全に決まる。1 次元で運動する粒子では,エネルギー E とか, 運動量 p とか,座標 x 等のうち一つをとれば十分である。同時観測可能量の完全な組の固有関数は 完全系をなす。 ψ(x) =n anun(x) (1.11) ここで,展開係数 an は波動関数 ψ が固有関数 un をどれだけ含むかを表す。 5. 同時観測可能量の完全な組の固有関数系を正規直交系にとっておくと便利である。 (un, um) = δn,m (1.12) ここで右辺の δn,mは n = m の場合にのみ 1,それ以外は 0 という値をとることを表す記号でクロネッ カーのデルタ記号と呼ぶ.また,左辺の (ψ, φ) は波動関数 ψ, φ の内積と呼ばれるものの記号で,定 義は (ψ, φ) =d3x(ψ(x))φ(x) (1.13) で与えられる.

(4)

このとき観測可能量 Ω の測定でその固有値 ωn が得られる確率は,展開係数の 2 乗|an|2 で与えら れるというのが第五の仮定である。実際,波動関数 ψ の自分自身との内積が 1 に規格化してあり,か つ固有関数系が正規直交系になっていれば, ∑ n |an|2= 1 (1.14) となり,全確率が 1 になることが保証される。したがって,観測可能量 Ω の測定を多数回行った場 合に得られる測定値の平均値は,波動関数 ψ(x) についてのその演算子の期待値 〈Ω〉 で与えられる。 〈Ω〉 =n |an|2ωn = ∫ dxψ∗(x)Ωψ(x) (1.15)

1.3

完全剛体の壁 (量子物理学 A の復習)

1次元のポテンシャルでの束縛状態を考える。まず,もっとも簡単なポテンシャル問題として,無限に高 いポテンシャルの中に閉じ込められた場合を考える。 ポテンシャルが時間に依存しない場合に,時間に依存しないシュレーディンガー方程式が得られた。粒子 が 1 次元運動する場合には Hu(x) = Eu(x) H =−¯h 2 2m ( d dx )2 + V (x), (1.16) となる。1 次元箱型ポテンシャルでの粒子の定常状態を考えよう。最も簡単な問題として,まず,無限に高 い壁 (完全剛体の壁) からなる箱型ポテンシャルの場合を考えよう。 V (x) = {∞, |x| > a, 0, |x| < a (1.17) この場合,シュレーディンガー方程式 (1.16) は自由粒子と同じ方程式である。 ¯h 2 2m d2u(x) dx2 = Eu(x) (1.18) エネルギー E を用いて次のように波数 k を定義すると, k = 2mE ¯ h (1.19)

この方程式は d2u(x)/dx2=−k2u(x)となって,波数 k の単振動を表す微分方程式なので,正弦関数 sin kx

と余弦関数 cos kx が二つの独立な解である。一般に 2 階の微分方程式には,独立な解が二つあり,一般解 は,この二つの独立な解の重ねあわせとして与えられる。したがって,自由粒子のシュレーディンガー方程 式の一般解は,二つの未定係数 A と B を用いて次のように与えられる。

u(x) = A cos kx + B sin kx, −a < x < a (1.20) この波数 k またはエネルギー E は,粒子の運動できる領域の境界で波動関数がどのようにふるまうかを 与えれば決まる。境界での波動関数に対する条件を境界条件と呼ぶ。無限に高い壁の外側では粒子は存在 できない。したがって,無限に高い壁の位置で波動関数の値は零にならねばならない。

u(x =−a) = 0, u(x = a) = 0 (1.21) この境界条件を課すると,次の二つの条件が得られ,解の未定係数が決まる。

(5)

すなわち,次の二つの条件が成り立たなければならない。 A cos ka = 0, B sin ka = 0 (1.23) これらの条件の解として,未定係数 A, B が零である場合は常に許される。しかし,これは波動関数が恒 等的に零になる場合で,物理的に意味のない解である。このような解を自明な解という。これ以外の物理的 に意味のある解としては, B = 0, cos ka = 0, (1.24) が成り立つか,または, A = 0, sin ka = 0 (1.25) が成り立たねばならない。これら二つの場合をまとめると,k は整数 n≥ 0 を用いて k =(n + 1)π 2a (1.26) で与えられ,得られた解は u(x) = A cos(n + 1)πx 2a , n = 0, 2, 4,· · · , (1.27) u(x) = B sin(n + 1)πx 2a , n = 1, 3, 5,· · · , (1.28) となる。したがって,エネルギー固有値は En= π2¯h2(n + 1)2 8ma2 , n = 0, 1, 2, 3,· · · , (1.29) で与えられる。残っている未定係数 A または B は波動関数を規格化することによって定められる。すな わち,全空間での確率密度の積分が 1 になるように要求する。 この例ではポテンシャルの壁が無限に高いために,エネルギー固有値は離散的なスペクトルだけとなる。 また,各エネルギー固有値に対して,対応する独立な固有関数はただ一つしかない。このように,各固有値 を与える独立な固有関数がただ一つであることを縮退がないという。逆に同一の固有値を与える独立な固 有関数が複数ある時,縮退しているという。また,波動関数の零点 (節) の数が増えると共にエネルギー固 有値の値が増えて行く。n 番目のエネルギー固有値に対応する固有関数は (境界以外に) n 個の零点 (節) を 持っている。「エネルギー固有関数に縮退がない」ことと,「固有関数の零点が増えると,エネルギー固有値 が高くなる。」という二つの性質は,1 次元ポテンシャル問題の場合,一般的になりたつ性質である。 最もエネルギー固有値の低い状態のことを基底状態と呼ぶ。この問題の基底状態では,エネルギー固有 値は E0= πh2 8ma2 (1.30) である。最小のエネルギーの大きさがこの程度であることは,不確定性原理によって次のように理解するこ とができる。不確定性原理によれば,位置の不確定性 ∆x が a の程度の時に最小限生じる運動量の不確定 性は ∆p = ¯h/aの程度となる。その結果必然的に生じる運動エネルギーは最低 ¯h2/(ma2)のオーダーとな る。この評価は正しい値 (1.30) 式のよい近似になっている。

1.4

空間反転とパリティ

ここで取り上げた左右対称な無限に高いポテンシャルの場合,時間に依存しないシュレーディンガー方程 式の解は二つのクラスに分かれていた。第 1 のクラスは (1.27) 式で与えられるように,偶関数の波動関数 である。すなわち,空間反転 x→ −x を行ってみると,波動関数がもとの波動関数と一致する。第 2 のク ラスは (1.28) 式で与えられるように,奇関数である。すなわち,空間反転すると,波動関数がもとの波動

(6)

関数の逆符号と一致する。このように,空間反転のもとで偶になっている関数のことをパリティが正,奇に なっている関数のことをパリティが負であるという。 エネルギー固有関数が偶関数と奇関数とに分かれる理由は,対称性に基づいて,次のように理解できる。 そもそも,このポテンシャルには空間反転のもとでの対称性がある。 V (−x) = V (x), H(−x) = H(x) (1.31) このようにハミルトニアンそのものに対称性があるときにはその固有関数もまた対称性を持つことを,次 のようにして示すことができる。まず,もしもある波動関数 u(x) がこのハミルトニアンの固有関数であっ たとすると,その波動関数を空間反転した波動関数もまたその同じ固有値に対する固有関数となる。

H(x)u(x) = Eu(x),→ H(x)u(−x) = H(−x)u(−x) = Eu(−x) (1.32) もしも,エネルギー固有値 E に対応する独立な固有関数がただ一つである (縮退がない) とすると,この二 つの固有関数は高々定数倍異なるだけである。 u(−x) = cu(x) (1.33) この式で x を−x に変えれば, u(x) = cu(−x) (1.34) したがって, c2= 1,→ c = ±1 (1.35) すなわち,固有関数は偶関数 (c = 1) かまたは奇関数 (c =−1) でなければならない。1 次元ポテンシャル 問題では,エネルギー固有値に縮退が起こらない。したがって,エネルギー固有関数は,必ず偶関数か奇関 数になってしまう。一般に高次元の場合には,エネルギー固有値 E に対応する独立な固有関数が二つまた はそれ以上ある (縮退がある) 場合が有り得る。そのような場合にも,固有関数 u(x) の対称部分と反対称部 分とはそれぞれこのハミルトニアンの同じ固有値に対する固有関数になる。したがって,常に偶関数または 奇関数でエネルギーの固有状態を作ることができる。一方,波動関数の節が増えるとエネルギー固有値が 高くなる。これら二つの性質を合わせると,結局,(1.29) 式のようにエネルギー固有値のラベル n が偶数 の場合,固有関数は偶関数であり,奇数の場合は奇関数ということになる。

2

1

次元ポテンシャルでの束縛状態

2.1

1

次元箱型ポテンシャルでの束縛状態

2.1.1 境界条件 次に有限のポテンシャルの場合を考えよう。この場合も,対称的なポテンシャルを考える。 V (x) = {V 0, |x| > a, 0, |x| < a (2.1) 前節で見たように,対称なポテンシャルの場合は,エネルギー固有関数は偶関数か,奇関数で与えられる。 このことを用いて,初めから偶関数の場合と奇関数の場合とに分け,半分の空間でシュレーディンガー方程 式を解く方が容易である。原点 x = 0 での境界条件としては,偶関数の場合 du dx(x = 0) = 0 (2.2) となるので,弦の振動でいえば開放端の条件に相当する。奇関数の場合は u(x = 0) = 0 (2.3)

(7)

となるので,弦の振動でいえば固定端に相当する。したがって,奇関数の場合は原点に完全剛体の壁がある のとまったく同じになる。 本節では,外側の領域でのポテンシャルの山の高さ V0 よりも粒子のエネルギーが低い場合を考えよう。 V0よりもエネルギーが高い場合は散乱問題となる. まず,外側での一般解を求めよう。ポテンシャルを右辺に移すと, ( d dx )2 u(x) = κ2u(x), (2.4) κ =2m(V0− E) ¯ h (2.5) となる。この方程式の一般解は二つの独立な解に対応する二つの未定係数 C と D を用いて u(x) = Ce−κx+ Deκx, x > a (2.6) で与えられる。これが右の外側での一般解である。 無限遠を含む区間での二つの独立な解のうち,D に比例する解は無限遠に行くにしたがっていくらでも 振幅が大きくなる。すなわち,無限遠へ行けば行くほどいくらでも存在確率が大きくなる。このような波動 関数は,全確率が有限にはなりえず,物理的に許されないはずである。一方,散乱問題などを考えるときに は,進行波のように,空間全体に広がった波を考えた方が便利なこともある。その場合でも,空間のどこへ 行っても,その付近での確率は有限なはずで,波動関数の振幅が際限もなく大きくなることは決してない。 結局すべての場合に適用できる一般的な条件として,「波動関数は有界でなければならない」という境界条 件が成り立つ。 |ψ(x, t)| < ∞ (2.7) 箱型ポテンシャルの問題で,無限遠点で波動関数が有界であるという境界条件を課すと D = 0, u(x) = Ce−κx, x > a (2.8) でなければならない。 ポテンシャルの谷の間 (|x| < a) ではポテンシャルがないので,自由粒子と同じ方程式だから,一般解は 前節と同じ (1.20) 式で与えられる。 ポテンシャルの高さが 0 のところでの波数 k は k = 2mE ¯ h (2.9) 最初に偶関数の場合を考えよう。原点での境界条件 (2.2) を適用すると,独立な解は一つになる。 u(x) = A cos kx (2.10) 同様にして,奇関数の場合は,原点での境界条件 (2.3) を適用すると,独立な解は一つになって u(x) = B sin kx, (2.11) となる。 2.1.2 接続条件 こうしてすべての区間で一般解を求め,無限遠での境界条件を課した後,次にこれらの区間の境界で解 を接続することが必要になる。時間に依存しないシュレーディンガー方程式 (1.16) 式は空間座標について 2階の微分方程式である。したがって,波動関数の値と 1 階微分とが空間のどこかの 1 点で与えられれば, その点から積分して行くことによって,全空間で解は一意的に決まる。この事実から,波動関数の接続条件

(8)

が得られる:波動関数の値とその 1 階微分は連続である。箱型ポテンシャルだけでなく,一般に空間のど こかで,ポテンシャルに有限の跳びがあって不連続になっていることもある。この場合を少し詳しく見るた めに,跳びの起こる点を x = a としよう。波動関数 u(x) の絶対値が確率密度という意味を持つためには, 波動関数自身はどの点でも有界でなければならない。したがって,シュレーディンガー方程式を x = a の 前後の微小区間 a− ϵ から a + ϵ の間で積分すると, du dx(x = a + ϵ)− du dx(x = a− ϵ) =a+ϵ a−ϵ dxd 2u(x) dx2 = ¯ h2 2ma+ϵ a−ϵ dx (V (x)− E) u(x) (2.12) となり,右辺は跳びがあっても,たかだか有限な量を ϵ のオーダーの微小区間積分するだけだから,ϵ→ 0 の極限で零になる。したがって,波動関数の 1 階微分は連続である。これをもう 1 度積分すれば波動関数 自身も連続となる。したがって,ポテンシャルに有限の跳びがある場合でも,波動関数とその微分が連続と いうのが接続条件である。 波動関数とその 1 回微分が x = a で連続になる条件は A cos ka = Ce−κa (2.13) −kA sin ka = −κCe−κa (2.14)

したがって,エネルギー固有値を決定する式は二つの式の比で得られ, k tan ka = κ (2.15) 波動関数の未定係数 A と C の間の関係は (2.13) 式で与えられる。 同様にして,奇関数の場合に,波動関数とその 1 回微分が x = a で内部解 (2.11) と外部解と連続になる という接続条件を適用すると B sin ka = Ce−κa (2.16) kB cos ka =−κCe−κa (2.17) したがって,エネルギー固有値を決定する式は二つの式の比で得られ, −k cot ka = κ (2.18) 波動関数の未定係数 B と C の間の関係は (2.16) 式で与えられる。 2.1.3 エネルギー固有値と固有関数 エネルギー固有値を決める式 (2.15), (2.18) を解析的に解くことはできないが,図を描いて求めること ができる。そのために, ξ = ka, η = κa (2.19) と定義すると,k と κ の定義から ξ2+ η2= 2mV0a 2 ¯ h2 (2.20) がなりたつ。一方,エネルギー固有値を与える条件は偶関数の場合が η = ξ tan ξ, (2.21) 奇関数の場合が η =−ξ cot ξ (2.22) となる。エネルギー・スペクトルはこの二つの曲線の,第 1 象限での交点として求まる。幾つのエネルギー 準位があるかは V0a2 の値によって決まる。 0 < V0a2 π2¯h2 8m (2.23)

(9)

の領域では,ただ 1 個のエネルギー固有値がある。これは基底状態で,波動関数に零点 (節) がない。一般に n2π2¯h2 8m < V0a 2(n + 1)2πh 2 8m (2.24) では,n + 1 個のエネルギー固有値がある。この不等式の等号が成り立つところでは,ちょうど束縛状態が 新しく生じる所になっている。束縛状態のエネルギーは,無限遠でのポテンシャルの値よりも低くなければ ならない。どれだけ低くなっているかを表す量 V0− E を束縛エネルギーと呼ぶ。不等式 (2.24) で,等号が 上端についているのは,束縛エネルギー V0− E が零になると,以下に示すように,波動関数が規格化可能 でなくなるので,束縛状態とならないからである。基底状態のエネルギーを E0とし,一般にエネルギーの 低い方から順にラベルをつける。エネルギー固有値が En の状態の波動関数は,全空間−∞ < x < ∞ で 数えて n 個の零点 (節) があり,波数がnπ 2a < k≤ (n+1)π 2a の間にある。 結局,偶関数の場合の波動関数は u(x) = {A cos kx, |x| < a,

A cos kae−κ(|x|−a), |x| > a (2.25) エネルギー固有値を決める接続条件 (2.15) を用いると,規格化定数は |A| = ( a + 1 κ )1 2 (2.26) 奇関数の場合の波動関数は u(x) = { B sin kx, |x| < a, x

|x|B sin kae−κ(|x|−a), |x| > a

(2.27) エネルギー固有値を決める接続条件 (2.18) を用いると,規格化定数は |B| = ( a +1 κ )1 2 (2.28) ここで,もしも束縛エネルギー V0− E が零になる極限 E → V0 を考えてみると,(2.5) 式の κ→ 0 なの で,規格化定数 A,B 共に零となる。このように,束縛エネルギーが零になると,波動関数が無限に広がっ てしまうので規格化できない。したがって,箱型ポテンシャルの束縛状態の場合のエネルギー固有関数は, 束縛エネルギーが零になると束縛状態でなくなる。これが (2.23),(2.24) 式で等号が上端についている理由 である。 1 次元ポテンシャル問題の場合には,波動関数の節 (零点) が増える毎に,エネルギー固有値が高くなる。 したがって,この場合も基底状態が偶関数で,第 1 励起状態が奇関数,以後,偶関数と奇関数が交互にエ ネルギー固有関数となる。 ここで束縛状態のエネルギー固有値が離散的なスペクトルになることを定性的に理解しておこう。一般 に束縛状態とは,ポテンシャルのどちらの無限遠での値 V (±∞) よりも粒子のエネルギーの方が小さい場 合である。この場合,無限遠付近でのシュレーディンガー方程式の一般解は,(2.6) 式のように,指数関数 的に増大する解と減少する解の重ねあわせである。無限遠での境界条件として「波動関数が有界であるべ し」と要請すると,指数関数的に増大する解は許されなくなる。その結果, 1 次元問題では波動関数は全 体の大きさしか未定定数はなくなってしまう。波動関数の 1 次の項ばかりからできているシュレーディン ガー方程式のような方程式では,もともと全体の大きさは決まらない。こうして構成された解をもう一方 の無限遠点を含む領域まで接続してくると,そこでの解は全体の大きさ以外には未定の係数はない。その 領域での解は,一般には増大する解と減少する解を含んでいる。この領域でも無限に増大する解を含まな いようにしたければ,エネルギーを調節して特別の値にしなければならない。これがエネルギー固有値が 離散的になる理由である。

(10)

3

調和振動子

ミクロの世界でも,原子・分子や原子核の微小振動があり,それらは良い近似で調和振動子となってい る。こうした系は量子力学を用いて正しく記述できる。本章では, 1 次元ポテンシャル問題の中でも応用 範囲の広い調和振動子の問題を扱う。交換関係を用いた代数的方法によって,エネルギースペクトルと波動 関数を求める。したがって,特殊関数の知識は不要である。

3.1

エネルギー固有値問題と生成消滅演算子

1 次元調和振動子のポテンシャルは (古典的) 角振動数 ωc というパラメターを用いて V (x) = 2 c 2 x 2 (3.1) と表される。調和振動子の定常状態に対するエネルギー固有値問題の方程式は Hu(x) = Eu(x), (3.2) H = p 2 2m+ 2 c 2 x 2=¯h 2 2m ( d dx )2 + 2 c 2 x 2 (3.3) この問題を解く上で,まず次のように変数を無次元量に再定義して扱いやすくする。 Q =mωc ¯ h x, (3.4) P = 1 m¯hωc p = 1 m¯hωc ¯ h i d dx = 1 i d dQ (3.5) この変数によってハミルトニアンは H = ¯hωc 2 (P 2+ Q2) (3.6) となり,交換関係は [Q, P ] = i (3.7) となる。 調和振動子の固有値問題を解くには次のような演算子を使うと便利である。 a = 1 2(Q + iP ), a =1 2(Q− iP ) (3.8) 第??節での定義にしたがい,Q, P はエルミート演算子である。これに対して,a, aは互いに他のエルミー ト共役になっているので,† という記法を用いている。これらの演算子の交換関係は,(3.7),(3.8) 式から [a, a†] = 1 (3.9) ハミルトニアンは H = ¯hωc 1 2(a a + aa) = ¯ c(N + 1 2), N = a a (3.10) ここで定義した演算子 N と演算子 a , a† との交換関係は [N, a] =−a, [N, a†] = a† (3.11) N の固有値を ν,その固有値に対する固有関数を uν とする。 N uν = νuν (3.12)

(11)

演算子 a を作用させると,交換関係 (3.9) 式を用いて (auν, auν) = (uν, a†auν) = (uν, N uν) = ν(uν, uν), (3.13) (a†uν, a†uν) = (uν, aa†uν) = (uν, (N + 1)uν) = (ν + 1)(uν, uν) (3.14) (3.13)式の右辺を見ると,恒等的に零であるような関数以外は,自分自身との内積は常に正でなければなら ないから, ν ≥ 0 (3.15) さらに,交換関係 (3.11) 式から

N auν = a(N− 1)uν= (ν− 1)auν, (3.16)

N a†uν= a†(N + 1)uν= (ν + 1)a†uν (3.17) したがって,波動関数 auν は ν > 0 ならば N の固有値 ν− 1 の固有関数になっており,自分自身との内 積は ν(uν, uν)である。同様に,,波動関数 a†uν は ν >−1 ならば N の固有値 ν + 1 の固有関数になって おり,自分自身との内積は (ν + 1)(uν, uν)である。 もしも正または零の整数でない固有値 ν があったとしよう。そのとき,十分多数回 a を作用させると, かならず自分自身との内積が負になる波動関数が現れる。これは矛盾なので,これを避けるためには,N の固有値 ν は正または零の整数でなければならない。ν が正の整数ならば,a を ν 回作用させることによっ て,必ず N の固有値が零になる固有関数 u0に到達できる。エルミートな演算子 N の異なる固有値に対す る固有関数は直交する。したがって,ν = 0, 1, 2,· · · , n, · · · の固有関数 uν は直交する。規格化して正規直 交系を作ると, u0, u1= a†u0, u2= 1 2(a )2u 0, · · · , un= 1 n!(a )nu 0, · · · (3.18) (3.10)式より,これらは同時にエネルギーの固有状態となり,エネルギー固有値は E0 = 1 2¯hωc, E1= ( 1 +1 2 ) ¯ hωc, E2= ( 2 + 1 2 ) ¯ hωc, · · · , En = ( n +1 2 ) ¯ hωc, · · · (3.19) となる。 基底状態 u0 に a を作用させると (3.13) 式から (au0, au0) = 0となる。したがって,基底状態 u0は au0= 0 (3.20) となり,それ以下の粒子数状態がないということを示している。基底状態のエネルギー固有値 E0= 12¯hωc は零ではなく,これを零点エネルギーという。ポテンシャルによって粒子が原点の周りに閉じ込められる と,不確定性原理にしたがって,運動量もそれに応じて不確定となり,位置の不確定で生じるポテンシャル エネルギーと運動量の不確定によって生じる運動エネルギーがつりあい,基底状態でも最小限必要なエネ ルギーとして,この零点エネルギーが生じている。そういう意味で,不確定性原理が零点エネルギーの生じ る物理的原因であると言うことができる。エネルギースペクトルから分かるように,エネルギーは基底状 態から ¯hωc ずつ高くなって行く。これは ¯hωc の大きさのエネルギー量子というものがあって,一つエネル ギー量子が加わる毎に一つエネルギーレベルが高くなると考えればうまく解釈ができる。その意味で,N のことを粒子数演算子,a は N を一つ減らす演算子だから消滅演算子,a は N を増やす演算子だから生 成演算子と呼ぶ。ここで得られた波動関数は粒子数 N の固有関数になっている。

(12)

3.2

エネルギー固有関数とエルミート多項式

具体的にエネルギーの固有関数 un(x)を求めてみよう。まず,基底状態を定義する (3.20) 式は au0= 1 2(Q + iP )u0= 1 2 ( Q + d dQ ) u0= 0 (3.21) これを解くと,u0(x)∝ e− 1 2Q 2 となる。ガウス積分の公式を用いて自分自身との内積を 1 に規格化すると, 基底状態の波動関数は, u0(x) = (c π¯h )1 4 e12Q 2 = (c π¯h )1 4 e−mωch x 2 (3.22) 基底状態の波動関数に生成演算子を n 個続けて作用させると,n 番目の励起状態の波動関数が得られる。 un(x) = 1 n!(a )n u0= ( c π¯h )1 4 1 n!2n ( Q− d dQ )n e12Q 2 (3.23) 任意の波動関数 ψ(Q) に対して,次の関係式が成り立つ。 ( Q− d dQ ) ψ(Q) =−eQ22 ( d dQe −Q2 2 ) ψ(Q) (3.24) このように任意の波動関数に対して成り立つ関係式のことを,演算子について成り立つ恒等式として表示 する。 Q− d dQ =−e Q2 2 d dQe −Q2 2 (3.25) これを繰り返し用いると ( Q− d dQ )n = ( Q− d dQ )n−1( −eQ2 2 d dQe −Q2 2 ) = ( Q− d dQ )n−2( −eQ2 2 d dQe −Q2 2 ) ( −eQ2 2 d dQe −Q2 2 ) = ( Q− d dQ )n−2 eQ22 ( −1 d dQ )2 e−Q22 =· · · = eQ22 ( d dQ )n e−Q22 (3.26) したがって, un(x) = ( c π¯h )1 4 1 n!2ne 1 2Q 2( d dQ )n e−Q2 (mωc π¯h )1 4 1 n!2ne 1 2Q 2 Hn(Q) = ( c π¯h )1 4 1 n!2ne −mωch x 2 Hn (√ mωc ¯ h x ) (3.27) ここで記号 Hn(Q)で表されているのは,特殊関数のひとつでエルミート (Hermite) 多項式と呼ばれ,次 のように定義される。 Hn(Q) = (−1)neQ 2 dn dQne −Q2 , n = 0, 1, 2,· · · , ∞ (3.28) nの小さな値に対するエルミート多項式を具体的に求めると H0(Q) = 1, H1(Q) = 2Q, H2(Q) = 4Q2− 2, H3(Q) = 8Q3− 12Q, (3.29) 第 n 次のエルミート多項式 Hn(Q) は n 個の零点 (節) を持ち,(−1)n の偶奇性 (パリティ) を持っている。 Hn(−Q) = (−1)nHn(Q) (3.30)

(13)

4

角運動量の量子化

4.1

角運動量演算子の交換関係

古典力学では,中心力のポテンシャルの中では球対称性のおかげで,角運動量が保存する。したがって, 量子力学でも,角運動量の演算子を考えることが大切になる。このように,角運動量が回転角で表示される 場合は,空間的な運動を表す場合だから,軌道角運動量と呼ぶ。 古典的には軌道角運動量は座標と運動量のベクトル積で与えられる。 L = x× p (4.1) ここで運動量を微分演算子に置きかえれば,軌道角運動量演算子が得られる。 L = ¯h ix× ∇ (4.2) 軌道角運動量の演算子 Lx, Ly, Lzは具体的には次のような微分演算子なので Lx= ¯ h i(y ∂z− z ∂y), Ly= ¯ h i(z ∂x− x ∂z), Lz= ¯ h i(x ∂y− y ∂x) (4.3) それらの間には次のような交換関係がなりたつ。

[Lx, Ly] = i¯hLz, [Ly, Lz] = i¯hLx, [Lz, Lx] = i¯hLy (4.4)

[Li, Lj] = i¯h 3 ∑ k=1 εijkLk (4.5) ここで 1, 2, 3 は x, y, z に対応しているとする。

4.2

角運動量の固有値と固有関数

本節では,波動関数の自分自身との内積が負になってはならないという事実と,角運動量演算子の交換関 係とだけを用いて,角運動量の固有値の取り得る値を代数的に求める。 今まで軌道角運動量演算子の記号として L を用いてきた。以下では,角運動量演算子の交換関係だけに 着目して,そこからの結果を導く。そのために,軌道角運動量演算子と同じ交換関係を満たす演算子を抽象 化して考える.このように交換関係だけを仮定した抽象的な演算子を一般に角運動量演算子と呼び,軌道 角運動量 L と区別するために J で表す。したがって,J は

[Jx, Jy] = i¯hJz, [Jy, Jz] = i¯hJx, [Jz, Jx] = i¯hJy (4.6)

という交換関係だけで定義され,必ずしも,軌道角運動量 L の場合のように微分演算子 (4.3) で表せると は限らない。 この交換関係からわかるように,角運動量演算子の三つの成分は互いに交換しないので,同時固有関数系 を作ることができない。角運動量の 2 乗 J2 という演算子を定義してみると, J2= Jx2+ Jy2+ Jz2, (4.7) この演算子は角運動量のどの成分の演算子とも交換する。 [J2, Jx] = [J2, Jy] = [J2, Jz] = 0 (4.8) したがって,角運動量の 2 乗 J2と Jx,Jy,Jzのどれか一つの成分との同時固有関数を考えることができ る。通常は便宜のために,たとえば z 成分 Jz との同時固有関数を採用することが多い。角運動量の 2 乗 J2 と z 成分 J z との同時固有状態の波動関数を ujmとする。 J2ujm= j(j + 1)¯h2ujm, Jzujm= m¯hujm (4.9)

(14)

ここでは後で便利なように j というパラメターで J2 の固有値を j(j + 1)¯h2 と表した。演算子 J はエル ミート (J= J) だから,これらの固有値 j(j + 1),m が実数でしかも j(j + 1)≥ 0 (4.10) でなければならないことがわかる。 Jx と Jy から,次のような演算子を定義しよう。 J+= Jx+ iJy, J− = Jx− iJy (4.11) これらは上昇演算子 J+,下降演算子 J と呼ばれ,あわせて昇降演算子と呼ばれる。昇降演算子を含む交 換関係は [Jz, J±] =±¯hJ±, [J+, J−] = 2¯hJz (4.12) さらに,Jx, Jy の代わりに J± を使うと,角運動量の 2 乗 J2は次のように表せる。 J2= 1 2(J+J−+ J−J+) + J 2 z, (4.13) 角運動量の 2 乗演算子は角運動量のどの成分とも交換するから [J2, Jz] = 0, [J2, J±] = 0 (4.14) また,次の恒等式によって,昇降演算子の積は角運動量の z 成分 Jz と角運動量の 2 乗 J2 で書き直せる。 JJ+= J2− Jz(Jz+ ¯h), J+J−= J2− Jz(Jz− ¯h) (4.15) したがって波動関数 ujm にこれらの演算子を作用させると ujm 自身の定数倍になる。 JJ+ujm= (j− m)(j + m + 1)¯h2ujm, (4.16) J+J−ujm= (j + m)(j− m + 1)¯h2ujm (4.17) 演算子 J+と J−は互いに他のエルミート共役の関係にある。 J± = J (4.18) そのため |J+ujm|2= (J+ujm, J+ujm) = (ujm, J−J+ujm) = (j− m)(j + m + 1)¯h2|ujm|2, (4.19) |J−ujm|2= (Jujm, Jujm) = (ujm, J+Jujm) = (j + m)(j− m + 1)¯h2|ujm|2 (4.20) 波動関数の 2 乗が負にならないためには,固有値のパラメター j そのものが実数でなければならず,さらに −j ≤ m ≤ j (4.21) でなければならない。一方 J2J±ujm= j(j + 1)¯h2J±ujm, (4.22) JzJ±ujm= (m± 1)¯hJ±ujm (4.23) だから,上昇演算子を掛けた波動関数 J+ujm は角運動量の大きさが同じで,角運動量の z 成分が +1¯hけ増えた波動関数になっている。このように,上昇演算子を掛け続けて行くと角運動量の大きさ j¯hが変ら ないのに,z 成分 m¯hが幾らでも大きな波動関数ができることになる。この手続きがどこかで止まらないと, (4.19)式に現れる係数 (j− m)(j + m + 1) が負になってしまう。これは自分自身との内積が負になる波動 関数が生じることを意味し,矛盾である。もしもたまたま Jz の固有値が j になっていれば,その波動関数

(15)

に J+ を作用させると (4.19) 式にしたがって波動関数が零になり,新たな波動関数は生じない。この場合 以外は,必ず自分自身との内積が負になる波動関数が生じてしまう。したがって,上昇演算子を掛けていく 操作が止まるためには,こうして作った列の上端の Jz の固有値が j¯hでなければならない。同じようにし て,下降演算子を掛けていく操作が止まらねばならず,そのためには J を次々と掛けて得られる列の下端 の Jz の固有値が−j¯h でなければならない。したがって自分自身との内積が負にならないためには,j の 取り得る値は整数または半奇整数でなければならない。まとめると 1. 演算子 J2 の固有値は j(j + 1)¯h2 という形で,j の取り得る値は負でない整数または半奇整数である。 この j のことを角運動量の大きさと呼ぶ。 j = 0, 1 2, 1, 3 2, 2, · · · (4.24) 2. 演算子 Jz の固有値 m¯hで,m の取り得る値は整数または半奇整数である。もしも z 軸方向に磁場 をかけると磁場は角運動量のその方向の成分に比例するエネルギーを与えるので,この m のことを 磁気量子数と呼んでいる。 3. 演算子 J2 と J z との同時固有状態は (jm) というラベルで状態を指定することができ, m =−j, −j + 1, · · · , j (4.25) という 2j + 1 個の状態がひとまとまりになっている。このひとまとまりのことを 2j + 1 多重項と呼 ぶ。角運動量演算子 Jx, Jy, Jzを作用させた結果はこれらの 2j + 1 個の線形結合となり,決して j の 値が異なる状態にはならない。 このように角運動量は量子化される。 角運動量の固有関数 ujm に下降演算子 J− を作用させると,(4.22), (4.23) 式によれば,角運動量の大 きさ J2 が変わらず,角運動量の z 成分が 1¯hだけ減少した波動関数になる。上に導いた通り,角運動量の 大きさ j を決めると,z 成分の値が ¯hを単位として m = j, j− 1, · · · , −j となる状態が一つずつあるはず である。したがって,この jz が 1¯hだけ減少した波動関数は,ujm−1 に比例しなければならない。比例定 数を cjm として Jujm= cjmujm−1 (4.26) と表せる。 波動関数を規格化してあるとして,自分自身との内積の計算結果 (4.20) を用いると,比例係数 cjm の絶 対値が決まる。 |cjm|2= [j(j + 1)− m(m − 1)]¯h2, (4.27) これだけの議論ではこの定数 cjmの位相は決まらないが,cjmが正の実数になるようにしておくと便利で ある。結局, Jujm= √ (j + m)(j + 1− m)¯hujm−1 (4.28) という関係式が得られる。演算子 J+を波動関数 ujmに掛けた場合も同様にして波動関数 ujm+1に比例す ることがわかる。この比例定数の位相も交換関係だけでは決まらない。しかし,演算子 J+と J−とは互い に他のエルミート共役の関係にある。したがって J−ujmの比例係数 cjmの位相を決めると J+ujmの比例 係数の位相も自動的に決ってしまう。 J+ujm= √ (j− m)(j + 1 + m)¯hujm+1 (4.29) 特に簡単になるのは,Jz の値が最大値 m¯h = j¯hの波動関数に J+ が作用した場合である。それ以上の Jz の値はないはずだから, J+ujj = 0 (4.30)

(16)

同様に,最小値 m¯h =−j¯h に J が作用する場合, Juj−j = 0 (4.31) となる。 角運動量 j の 2j + 1 個のひとまとまりの状態を求めるにはたとえば ujj という状態から出発して,下降 演算子 Jを次々と作用させていけばよい。 ujm= √ (j + m)! (2j)!(j− m)! ( J ¯ h )j−m ujj (4.32) 同様に uj−jという状態から出発し,上昇演算子 J+を次々と作用させてもよい。 ujm= √ (j− m)! (2j)!(j + m)! ( J+ ¯ h )j+m uj−j (4.33)

4.3

角運動量の合成則

角運動量 j1と角運動量 j2という状態 u (1) j1m1, u (2) j2m2 があったとして,それらの合成系を全角運動量の固有 状態 ujm に組み直す操作が角運動量の合成則である。角運動量の合成則も昇降演算子の方法を用いると容 易に得られる。 Jk= J (1) k + J (2) k , k = x, y, z (4.34) そのためにはまず簡単にわかる状態から始める。たとえば全角運動量の z 成分が最大の状態は u(1)j1j1u(2)j2j2 (4.35) であることは明らかであり, Jzu (1) j1j1u (2) j2j2 = (j1+ j2)¯hu (1) j1j1u (2) j2j2 (4.36) である。一方この状態は,合成系の全角運動量の z 成分の可能な最大の状態であるはずであるから,合成 系の全角運動量の大きさの可能な最大の値は j1+ j2でなければならない。 J2u(1)j1j1u(2)j2j2 = (j1+ j2)(j1+ j2+ 1)¯h2u (1) j1j1u (2) j2j2 (4.37) したがって合成系の全角運動量の固有状態のうちで,角運動量の大きさも z 成分ももっとも大きな固有状 態が求まって uj1+j2j1+j2= u (1) j1j1u (2) j2j2 (4.38) この状態から出発して何度も全角運動量の下降演算子 J= J(1)+ J(2) を作用させて行けば,全角運動量 の大きさが j1+ j2で z 成分の異なる全ての状態が得られる。たとえば J−を一度作用させた状態は全角運 動量の z 成分 Jzの固有値が (j1+ j2− 1)¯h の固有状態である。2(j1+ j2)¯huj1+j2,j1+j2−1= J−uj1+j2,j1+j2= J−u (1) j1j1u (2) j2j2 = ( J(1)u(1)j 1j1 ) u(2)j 2j2+ u (1) j1j1 ( J(2)u(2)j 2j2 ) = √2jhu (1) j1j1−1u (2) j2j2+ √ 2jhu (1) j1j1u (2) j2j2−1 (4.39) 部分系の角運動量の z 成分の演算子 Jz(1) と Jz(2) の固有状態で考えると,全角運動量の z 成分 Jz の値 が (j1+ j2− 1)¯h の固有状態は二つあった。 u(1)j 1,j1−1u (2) j2,j2, u (1) j1,j1u (2) j2,j2−1 (4.40)

(17)

この二つの状態があるということは全角運動量の大きさ J2の固有状態が二つあることを示している。一 つは既に求めた全角運動量の大きさ j1+ j2 の固有状態である。もう一つの状態は全角運動量の大きさが j1+ j2− 1 かまたはそれ以上の値を持たねばならない。しかし全角運動量の z 成分の固有値が (j1+ j2)¯h である状態は一つしかなかったのだから,もう一つの状態の全角運動量の大きさは j1+ j2− 1 でなければ ならない。したがって既に求めた全角運動量の大きさ j1+ j2の固有状態と直交する状態を上の二つの波動 関数の線形結合から作れば,それが全角運動量の大きさ j1+ j2− 1 の状態に他ならない。 uj1+j2−1,j1+j2−1= 1 √ 2(j1+ j2) ( 2j2u (1) j1j1−1u (2) j2j2+ √ 2j1u (1) j1j1u (2) j2j2−1 ) (4.41) この操作を続けていくと,全角運動量の大きさ J2と全角運動量の z 成分との同時固有状態の波動関数をす べて求めることができる。 その結果をまとめると角運動量の合成則は 1. 角運動量 j1 と角運動量 j2という状態があったとして,それらの合成系を全角運動量の固有状態に組 み直すと,全角運動量の大きさの可能な値は j =|j1− j2|, |j1− j2| + 1, · · · , j1+ j2 (4.42) である。 2. 全角運動量の大きさ j の各値に対して 2j + 1 個の状態からなる 2j + 1 多重項が一つずつある。

5

粒子のスピン

(

固有角運動量

)

と統計性

5.1

量子力学での同種粒子と対称化仮設

粒子 1 と粒子 2 とが同種粒子であるとする。そのときにはハミルトニアンは 2 粒子の入れ替えに対して 対称的であるはずで H(x(1), p(1); x(2), p(2)) = H(x(2), p(2); x(1), p(1)) (5.1) たとえば粒子が相互作用していなければ,粒子 1 が α という状態にあり,粒子 2 が β という状態にある 場合の波動関数は uα,β(x(1); x(2)) = uα(x(1))uβ(x(2)), (5.2) uβ,α(x(1); x(2)) = uβ(x(1))uα(x(2)) (5.3) 観測したときにはこれら 2 つの状態は全く区別ができない。このように古典的に 2 つの状態があることに 対応して,量子力学的に 2 つの状態があって区別できない。この現象を交換縮退という。 量子力学的な系を指定するには「同時観測可能量の完全な組」の固有値を与えれば良いはずである。し たがって,この「同時観測可能量の完全な組」がすべて 2 つの粒子の入れ替えについて対称であるときに, 同種粒子であるという。これが同種粒子の定義である。 ハミルトニアンが 2 粒子の入れ替えに対して対称的であるから,波動関数についても対称な波動関数 u(S) と反対称な波動関数 u(A) とを定義しておくと便利である。 u(S)= 1 2(uα,β+ uβ,α), u (A) =1 2(uα,β− uβ,α) (5.4) 一般に量子力学では,確率振幅そのものは観測できず,その絶対値の 2 乗である確率密度だけが観測でき る。そのため,ある初期時刻でこれら 2 つの状態の線形結合であるという事だけが分かり,確率振幅の中 でのそれらの割合 c(S) と c(A) そのものは観測できなかった場合を考えよう。

(18)

ここで,c(S)と c(A) とは時間によらない定数であるが,確率密度だけしか観測しないような観測では決定 できないものである。この波動関数がシュレーディンガー方程式にしたがって時間発展したときに以後の時 刻で波動関数がどうなるかを調べ,確率密度への予言がどうなるかを見てみよう。 上に考えた波動関数 u を初期条件としてシュレーディンガー 方程式にしたがって時間発展した後の時刻 t での波動関数を ψ と書くことにする。ハミルトニアンが対称的だから,波動関数の初期値が (反) 対称的で あれば,波動関数の微分係数が (反) 対称的である。そのため,後の時刻でも波動関数が (反) 対称的になる。 i¯h∂ ∂tψ(x, t) = Hψ(x, t) (5.6) したがって,波動関数の対称部分と反対称部分の割合は (位相まで含めて) 不変である。 ψ(x(1); x(2); t) = c(S)ψ(S)(x(1); x(2); t) + c(A)ψ(A)(x(1); x(2); t) (5.7) 時刻 t で 2 粒子を x(1), x(2)に観測する確率は P (x(1); x(2); t) =|ψ(x(1); x(2); t)|2+|ψ(x(2); x(1); t)|2 (5.8) したがって P (x(1); x(2); t) = 2 [ |c(S)|2¯¯¯ψ(S)(x(1); x(2); t)¯¯¯2+|c(A)|2¯¯¯ψ(A)(x(1); x(2); t)¯¯¯2 ] (5.9) これがシュレーディンガー方程式の予言するところである。この予言は初期時刻で測定できなかった定数 |c(S)|, |c(A)| を含んでいる。その結果,シュレーディンガー方程式を用いても後の時刻での観測結果が,初 期時刻で観測できなかった量に依存してしまい,一意的に予言できないということになる。実際,対称的な 波動関数と反対称的な波動関数の空間的依存性はたいへん異なり,また確率密度も一般にたいへん異なる。 たとえば,波束の衝突を考えると,十分はなれている場合には波動関数は単に独立な 1 粒子状態の積でよ いから,対称部分をとっても反対称部分をとっても,その絶対値の 2 乗はほとんど同じとなる。したがっ て確率密度は対称部分でも反対称部分でも,実際上同じである。一方波束が重なり合うところでは,相互作 用を無視した近似では対称部分は同一点で大きな値があるが,反対称部分は零である。したがって,初めた いへん離れていた波束が時間が経って,重なり合うようになると,対称部分をとるか反対称部分をとるかに よって,確率密度の予言は大きく異なってくる。 そこでシュレーディンガー方程式の予言が初期時刻で測定できなかった定数 c(S), c(A)によらないために は,次の仮設を設けるとよい。「 2 つの同種粒子はすべて対称かまたは反対称な波動関数の状態にある。」 これを対称化仮設という。この波動関数の対称性はそれぞれの粒子の統計力学での性質に対応しているの で,粒子の統計性といわれる。対称な波動関数を持つ粒子のことをボース (Bose)・アインシュタイン統計 に従う粒子といい,ボソンまたはボース粒子という。反対称な波動関数を持つ粒子のことをフェルミ・ディ ラック統計に従う粒子といい,フェルミオンまたはフェルミ粒子ともいう。自然界ではボース粒子は整数ス ピンを持ち,フェルミ粒子はすべて半奇整数のスピンを持つことが知られている。これをスピンと統計性の 関係という。 この関係は量子力学の範囲内では他の原理から導かれるものではなくて, 1 つの独立した仮定である。 量子力学にさらに相対性理論を要請した場合は,相対論的量子力学となる。しかし,実は,完全に一貫した 論理で相対性理論と量子力学の両者を成り立たせるためには場の量子論を用いなければならない。場の量 子論では,いくつかの原理から,このスピンと統計性の関係を説明することができる。

5.2

同種粒子の波動関数

「 2 つの同種粒子はすべて対称かまたは反対称な波動関数の状態にある。」という対称化仮設を採用す る。2 粒子状態について対称な波動関数を作ってみよう。まず必ずしも対称でも反対称でもない一般の 2 粒

(19)

子状態 ψ(x1, x2)から出発する。この状態はたとえば 1 粒子状態の波動関数の積で与えられている場合が実 用上しばしば現れる。 ψ(x1, x2) = φα(x1)φβ(x2) (5.10) この波動関数に入れ替え演算子 P12を作用させてみる。 P12ψ(x1, x2) = ψ(x2, x1) (5.11) 対称な波動関数を作るにはこうしてできた波動関数と元の波動関数との和を作ればよい。 ψ(S)(x1, x2) = ψ(x1, x2) + ψ(x2, x1) = (1 + P12)ψ(x1, x2) (5.12) 同様に反対称な波動関数は 2 つの波動関数の差を作ればよい。 ψ(A)(x1, x2) = ψ(x1, x2)− ψ(x2, x1) = (1− P12)ψ(x1, x2) (5.13) いずれの場合も確率を求めると |ψ(x1, x2)± ψ(x2, x1)| 2 =|ψ(x1, x2)| 2 +|ψ(x2, x1)| 2± 2Re [ψ(x 1, x2)ψ∗(x2, x1)] (5.14) となって 2 つの波動関数の干渉項が効いてくる。また反対称な波動関数については, ψ(A)(x, x) =−ψ(A)(x, x) = 0, (5.15) だから, 2 粒子が同一時空点を占めることはできない。同一座標点の場合に限らず,フェルミ統計にした がう粒子は一般に 2 粒子が同一の量子力学的状態を占めることができない。この法則をフェルミ粒子に対 するパウリの排他律と呼ぶ。

5.3

ボース分布とフェルミ分布

多数の粒子が集まっている系を統計的に扱うのが,熱力学であり,それを精密に基礎付けるのが,統計力 学である.量子力学で,粒子にはボース粒子とフェルミ粒子の 2 種類があることがわかった.この事実は 統計力学で,重要な役割を果たすことを見よう. たとえば,温度が高いということは,高いエネルギー状態の粒子が多いことを示している.これを正確に 表現すると,次のようになる.温度 T の熱的平衡状態では,エネルギー Enの状態 n の存在確率 PnPn= e−En/kBT Z (5.16) ここで,kBはボルツマン定数と呼ばれ,Z は全確率が 1 になるようにするための因子で,分配関数と呼ば れる. Z =n=0,1,··· e−nϵτ/kBT (5.17) ボース統計にしたがう自由粒子からなる理想気体 (相互作用しない粒子の集まり) を考える.1 粒子の状 態 τ のエネルギーを ϵτとする.n 個の粒子がある場合のエネルギーは nϵτとなる.n 粒子状態が存在する 確率は,(5.16) 式にしたがって, Pn = e−nϵτ/kBT Z (5.18) となる.ボース統計では何個の粒子でも同じ状態 ϵ に存在できるので,この状態の粒子数 n のとりえる値は n = 0, 1, 2,· · · (5.19) となる.ボース統計の場合,分配関数 Z は Z = 1 + e−ϵ/kBT + e−2ϵ/kBT +· · · = 1 1− e−ϵ/kBT (5.20)

(20)

したがって,エネルギー ϵτの 1 粒子状態のボース粒子の分布確率は, e−ϵ/kBT 1− e−ϵ/kBT = 1 eϵ/kBT− 1 (5.21) フェルミ粒子の場合には,同一の 1 粒子エネルギー状態 ϵτを占めることが可能な粒子の数は n = 0, 1 (5.22) だけである.フェルミ統計の場合,分配関数 Z は Z = 1 + e−ϵ/kBT (5.23) したがって,エネルギー ϵτの 1 粒子状態のフェルミ粒子の分布確率は, e−ϵ/kBT 1 + e−ϵ/kBT = 1 eϵ/kBT+ 1 (5.24) ここでの分布確率を応用すると,溶鉱炉のような高温の炉の中の温度をそこから発する光の色で推定す ることができるようになる.これが量子力学の出発点になった問題の解決を与えている.すなわち,ボース 粒子であっても,フェルミ粒子であっても,十分高温では,エネルギー ϵ≫ kBTの 1 粒子状態の存在確率 は指数関数的に小さい.また,温度 T での光の平均振動数 ν = ω/(2π) は hν = ¯hω = kBT (5.25) で与えられる.ここで ¯h = h/(2π)はプランク定数である.

6

中心力

6.1

球面座標での変数分離

外力のポテンシャル V (x, t) が時間によらない場合には,時間について変数分離して,時間によらない 方程式,すなわち,エネルギーの固有値方程式に書きなおすことができた.その場合でも, 3 次元空間で, 外力のポテンシャル V (x) のもとで運動している粒子の方程式は偏微分方程式となり,一般に解析的に解く ことは困難である。しかし,変数分離ができるような場合には,偏微分方程式はいくつかの常微分方程式に 帰着できる。このような場合には解析的に解けることが多い。ここではその例として,中心力のポテンシャ ルをとりあげる。これはまた,最も応用の広い問題でもある。時間によらない中心力のポテンシャルは V (x, t) = V (r) (6.1) 中心力のポテンシャルの場合には,球対称性を利用するために,球面座標 r, θ, φ を選ぶのが便利である。 x = r sin θ cos φ, y = r sin θ sin φ, z = r cos θ (6.2) 直線直交座標 x, y, z から,この球面座標 r, θ, φ に変数変換すると,定常状態に対するシュレーディンガー 方程式,すなわちエネルギー固有値問題は次の形になる。 ¯h 2 2m [ 1 r2 ∂r ( r2 ∂r ) + 1 r2sin θ ∂θ ( sin θ ∂θ ) + 1 r2sin2 θ 2 ∂φ2 ] u + V (r)u = Eu (6.3) (深く知りたい人向け 2) 球面座標での微分演算子の求め方

(21)

微分演算子を球面座標で表すために,球面座標 r, θ, φ を微小に増やす方向に沿った三つの独立な単位の 長さのベクトルを定義しよう。

er = (sin θ cos φ, sin θ sin φ, cos θ),

eθ = (cos θ cos φ, cos θ sin φ,− sin θ),

eφ = (− sin φ, cos φ, 0) (6.4) これらは曲線直交座標系になっている。 ei· ej = δij, ei× ej = ∑ k εijkek, i, j, k = r, θ, φ (6.5) ここで εijk は 3 階反対称テンソルで ε123= +1である。ここで 1, 2, 3 は r, θ, φ に対応しているとしよう。 座標ベクトル x は x = rer (6.6) しかし,座標 (r, θ, φ) を微小変化させると,これらの基底となっている単位ベクトルそのものが回転する ので,微分は次のようになる。 ∂er ∂θ = eθ, ∂er ∂φ = sin θeφ, ∂eθ ∂θ = −er, ∂eθ ∂φ = cos θeφ, ∂eφ ∂θ = 0, ∂eφ

∂φ =− sin θer− cos θeθ (6.7)

(6.6)式と (6.7) 式の第 1 行を用いると,微小変位 dx はこれらの単位ベクトルで表せる。

dx = drer+ rdθeθ+ r sin θdφeφ (6.8)

任意の関数 f (r, θ, φ) の微小変化は df = dr∂f ∂r + dθ ∂f ∂θ + dφ ∂f ∂φ, = (drer+ rdθeθ+ r sin θdφeφ)

( er ∂f ∂r + eθ 1 r ∂f ∂θ + eφ 1 r sin θ ∂f ∂φ ) , = dx· ∇f (6.9) したがって,微分演算子ベクトル∇ は ∇ = er ∂r + eθ 1 r ∂θ+ eφ 1 r sin θ ∂φ (6.10) 微分演算子の 2 乗を作るときにも,微分が単位ベクトル er, eθ, eφに作用することを考慮に入れて 2 = ( er ∂r + eθ 1 r ∂θ+ eφ 1 r sin θ ∂φ ) ( er ∂r + eθ 1 r ∂θ+ eφ 1 r sin θ ∂φ ) , = er· er ( ∂r )2 + eθ 1 r ( eθ 1 r 2 2θ+ eθ ∂r ) + eφ 1 r sin θ ( eφ 1 r sin θ 2 ∂φ2+ sin θeφ ∂r + cos θeφ 1 r ∂θ ) , = ( ∂r )2 +2 r ∂r + 1 r2 [( ∂θ )2 + cot θ ∂θ + 1 sin2θ ( ∂φ )2] (6.11) これを用いると,ハミルトニアンの球面座標での表示 (6.3) が得られる.

参照

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