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人工知能学会研究会資料 SIG-FPAI-B Predicting stock returns based on the time lag in information diffusion through supply chain networks 1 1 Yukinobu HA

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Academic year: 2021

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(1)

情報伝播速度の相違が生み出す投資機会

-

サプライチェーンネットワークを利用した個別銘柄投資

-Predicting stock returns based on the time lag in information

diffusion through supply chain networks

羽室行信

1

岡田克彦

1

Yukinobu HAMURO

1

Katsuhiko OKADA

1

1

関西学院大学

1

Kwansei Gakuin University

Abstract: As Cohen and Frazzini demonstrates, stock prices do not promptly incorporate news

about economically related firms, generating return predictability across assets. This paper demon-strates a unique methodology to exploit such phenomenon for alpha generation. Using a Fact Set Revere data, we construct a portfolio of stocks that has economic links with a suddenly rising firm, that is presumed to have met with good fundamental news. Calendar-time value-weighted portfolio generates large abnormal return after controlling for size and book-to-market ratio. We also found that the performance further improves when we create edge-betweenness weighted portfolio.

1

はじめに

企業は独立に存在するのではなく、各企業は単純な 業種分類では到底グループ分けできない複雑かつダイ ナミックに変化する関係性の中に存在している。Cohen and Frazzini は、明白に供給企業 (supplier)-顧客企業 (customer) の取引契約が存在する企業間の関係性に着 眼し、顧客企業に起こった変化が、時間差をもって取 引関係にある供給企業に影響することを示した [1]。市 場が効率的であれば、全ての情報は瞬時に株価に反映 されるが、投資家の不注意 (investor inattention) があ るため、顧客企業に発露したファンダメンタル情報で 供給企業を取引することで超過収益を獲得することが できるという。本稿では、基本的なアイデアは Cohen and Frazzini に依拠するが、彼らが検証していない以 下の二点を明らかにする。まず、株価反応を測定する 期間である。多くの証券アナリストが情報速度を競っ ている現状においては、彼らの月次リターンの検証で は捉えられない現象が多く起こっている可能性がある。 そこで、日次リターンの変化に着眼し、ファンダメン タルズの変化を認知する粒度を下げた。もう一点は、 顧客企業→ 供給企業のルートだけではなく、供給企業 → 顧客企業の関係性にも着眼したことである。現実に は企業間ネットワークの中の多様な関係性の中で情報 が伝播するため、供給企業→ 顧客企業に限定すること 連絡先:関西学院大学経営戦略研究科       〒 662-8501 兵庫県西宮市上ケ原一番町 1-155        E-mail: hamuro@kwansei.ac.jp で情報は失われてしまう。そこで、取引関係の方向性 にはこだわらず、なんらかのビジネス関係があればそ こには情報伝播する回路があると判断して解析をおこ なった。

2

提案手法

2.1

取引関係グラフによる銘柄推薦

日 t の銘柄集合 Ntについて、取引関係のある銘柄間 にエッジを張った有向グラフ Gt= (Nt, Et) を考える。 エッジ集合 Etは、取引関係の向きによって 2 通りの定 義を考え、供給企業 (supplier) から顧客企業 (customer) への向きで構成される有向グラフを GSC t = (Nt, EtSC) で表し (以下「SC グラフ」とも呼称する)、逆に顧客企 業から供給企業への向きであるグラフを GCS t で表す (以下「CS グラフ」とも呼称する)。 銘柄推薦の方法は、SC グラフで考えると、このグラ フ上の 2 つの銘柄 a, b が供給企業, 顧客企業の関係に あった場合に (すなわち (a, b)∈ ESC t )、銘柄 a の株価 が突然上昇すれば、銘柄 b の購入を推薦するというも のである。一方で、逆に銘柄 b の株価が突然上昇した としても、エッジの向きが逆であるため銘柄 a は購入 しない。 人工知能学会研究会資料 SIG-FPAI-B508-08

(2)

2.2

突然の上昇銘柄の算出

次に株価が突然上昇した銘柄リストの獲得方法につ いて述べる。株価の突然上昇は、時系列の変動傾向と 上昇幅の絶対値によって定義する。 ある銘柄 a の日 t より d 日前までの超過収益率の 変動ベクトルを ra t,d = (r a t−d+1, r a t−d+2, . . . , r a t) で表 す。ra t は銘柄 a の日 t における超過収益率で、rta = ca t/cat−1− nt/nt−1で定義される。catは日 t における銘 柄 a の終値で、ntは日 t におけるベンチマークの終値 である。ベンチマークとしては、本稿では US 市場を 対象としているため S&P500 インデックスを利用した。 超過収益率を見ることで、市場全体の変動に左右され ない個別銘柄固有の変動を評価できるようになる。そ して、第 d 成分のみ 1 で他の成分が 0 であるような d 次元ベクトルを u = (0, 0, . . . , 1) と表すと、2 つのベク トル ca t,dと u の相関係数 sim(·, ·) が、閾値 ρ より大き ければ、銘柄 a は日 t に突然上昇したと定義する。 相関係数による定義によって、時系列の変動傾向に おいて直近の日が相対的に上昇したことを捉えること はできるが、絶対値としての上昇幅を規定することは できない。そこで、日 t の超過収益率と日 t− d + 1 か ら t− 1 までの平均超過収益率の差によって突然の上昇 を定義する。 以上、株価の変動傾向と上昇幅による定義から、日 t に株価が突然上昇した銘柄集合 Utを式 (1) に示され る条件で選択する。 Ut = {a|sim(rat,d, u)≥ ρ , δL≤ rat 1 d− 1 d−1i=1 rta−i≤ δU}a∈Nt (1) 以下の実験では d = 9, ρ = 0.8, δL= 0.05, δU = 0.1 と している。なお、d = 9 であっても、超過収益率の定義 から、過去 10 日分 (営業日換算で 2 週間) の終値情報 を使っていることになる。また、上昇幅に上限 δUを設 けているのは、あまりに大きな急変動を加えてしまう と、倒産寸前の投機的な変動のような異常な現象を捉 えてしまうからである。

2.3

ネットワーク中心性による重み付き推薦

日 t に突然株価が上昇した銘柄群 Utと、その日の取 引関係グラフ Gt= (Nt, Et) が与えられた時、日 t に購 入を推薦する銘柄集合 Qtは式 (2) の通り選択される。 Qt={b|(a, b) ∈ Et, b̸∈ Ut}a∈Ut (2) これは、突然株価が上昇した銘柄 a と取引関係にあ る銘柄 b の買いを推奨するというものである。なお、式 の定義より、Qtには同一銘柄が複数含まれることもあ り得る。 次に、取引ネットワークにおける対象銘柄の影響力 の強さによって、推薦銘柄の購入重みを調整すること を考える。影響力の強い銘柄の株価が突然上昇すれば、 その銘柄と取引関係にある銘柄も強く影響を受けるで あろうとの仮説からである。本稿では、銘柄の影響力 の強さをネットワーク中心性によって評価することに した。 ネットワーク中心性は、グラフ理論において、ノー ドの重要性を評価するための指標であり、ソーシャル・ ネットワーク (SNS) におけるインフルエンサーの同定 や道路ネットワーク上の避難経路の密集地点の評価など に用いられてきた。これまでに様々な種類のネットワー ク中心性が提案されてきたが、本稿では、ノード媒介 中心性 (Node-Betweenness Centrality) および、エッジ 媒介中心性 (Edge-Betweenness Centrality) を用いる。 あるノード a のノード媒介中心性 CNB(a) は、式 (3) で定義さる。ここで、gijは、ノード i からノード j へ の最短路の数で、gij(a) は、ノード i からノード j への 最短路のうち、ノード a を経由する最短路の数である。 CNB(a) =i∈Vj∈V ;j̸=i gij(a) gij (3) これは、ネットワーク上の全ノードペアの最短経路 において、対象とするノード a をどの程度経由するか を示したものである。取引関係ネットワークにおける 材の流通が最短路で行われることを想定すると、材が 対象企業を経由すればするほど媒介中心性は高くなり、 多くの企業が、その企業に依存しているという意味で 影響力の強さを計測できていると言えよう。 さらに、この考え方をエッジの中心性に拡張したの がエッジ媒介中心性であり、エッジ (a, b) のエッジ媒 介中心性 CEB(a, b) は、式 (4) で定義される。ここで、 gij(a, b) は、ノード i からノード j への最短路のうち、 エッジ (a, b) を経由する最短路の数である。 CEB(a, b) =i∈Vj∈V ;j̸=i gij(a, b) gij (4) ノード媒介中心性はノード単体の影響力を示すため、 Apple や Toyota といった大企業の影響力が大きくなる 傾向がある一方で、エッジ媒介中心性は、エッジの影 響力であるため、大企業と接続されているからといっ て必ずしも大きくなるとは限らず、本稿で扱う取引関 係ネットワークにおいては、影響力の強さをより妥当 に評価できると期待できる。

(3)

本稿で提案する手法において中心性がどの程度効果 あるかを評価するために、購入する個別銘柄を中心性 で重み付けする。日 t における SC グラフ (もしくは CS グラフ) 上での推薦銘柄 a∈ Qtに対する推薦元銘柄を s(a)∈ Utで表すと、銘柄 a のノード中心性重みを用い た購入重み wNB t (a) を式 (5) で定義する。 この式の意味するところは、購入推薦のあった銘柄 の購入量は、その推薦元銘柄 (すなわち突然株価が上昇 した銘柄) のネットワークにおける影響力の強さによっ て調整されるということである。同様にエッジ媒介中 心性における重み wEB t (a) の計算は式 (6) に示される 通り定義される。 wtNB(a) = C NB(s(a))i∈QtC NB(s(i)) (5) wEBt (a) = C EB(s(a), a)i∈QtC EB(s(i), i) (6)

3

データ

実験では、FactSet Research Systems 社より取得し た米国の株価データおよび取引関係データ (Revere デー タセット) を用いる。対象期間は 2003 年 4 月 3 日∼2017 年 5 月 31 日の 3565 営業日 (約 15 年間) のデータであ る。また全上場銘柄の時価総額上位 20%を対象にして おり、銘柄数は期首で 3073、期末で 4127 となる。これ らの銘柄の日々の平均収益率を累積したチャートが図 1 に示されている (濃い実線)。比較のために S&P500 の累積収益率を淡い実線で示している。この図から、 時価総額上位 20%の銘柄を全て同金額購入し翌日に全 て売却する、といった取引を毎日 15 年間続けると、約 170%(年率約 10%) の収益が得られることがわかる。同 様のことを S&P500 インデックスで行うと 120%(年率 約 7.5%) の収益率ということになる。本稿で提案する 銘柄選択の手法が、これらの収益率を有意に上回れば、 取引関係ネットワークに基づいた株価変動の伝播が認 められると解釈できよう。 取引関係データは、Revere 社によって構築されてき たデータベースで、近年、Factset 社により買収され、取 引関係の企業コードと銘柄コードが統合された。取引関 係データは、年次報告書 (Form 10-K annual fillingsa)、 投資家向け情報 (investor presentations)、プレスリリー スといったデータソースから Revere 社独自の方法で構 築されたデータベースである。取引関係データは、上 述の時価総額上位だけでなく、登録されている全ての 企業データを利用した。取引関係の全体的な構造は毎 日大きく変動するような性質のものではないが、新た なデータによる更新の度に少しずつ変化する。図 2 に 取引関係グラフを構成するノード数とエッジ数、そし てグラフ密度の推移を示している。2012 年頃までは、 5000 前後の企業が登録されており、それ以降に徐々に 増えて 1 万前後にまで増えている。 !"#$%% &'()*+,%-./ 01%- 0,$-図 1: 時価総額上位 20%の銘柄の平均収益率の累積と S&P500 の収益率の累積 図 2: 取引関係ネットワークのノード数 (上)、エッジ数 (中)、グラフ密度 (下) の推移

4

実験

提案手法の有効性を評価するために、FactSet データ セットと Revere データセットを用い、トレーディング シミュレーションを実施した。日 t に推薦された銘柄 a ∈ Qtを日 t の終値で購入し、h 日間保有した後 (日 t + h) に売却し、日々の収益率を累積していく。以下 の実験では h = 1 とした。なお、収益率は銘柄の時価 総額で重み付けして算出している。 取引関係グラフとしては GSC t と GSCt の 2 種類につ いて、そして日々購入する銘柄の重みは、1) 均等重み、 2) ノード媒介中心性による重み wN B t 、そして 3) エッ ジ媒介中心性による重み wEB t の 3 通りについて計算 し、計 6 通りのシミュレーション実験を行った。 図 3 に、収益率の累積チャートを示しており、表 3 にそれらの評価統計を示している。 シミュレーションの評価には Lyon らの推奨する Fama-French Three Factor Model[2] を用いる。Three Factor Model では、以下の推定式が用いられる。

(4)

!"#$%%&'()$*+ !,-&./&'01%*+ !,-&2/&'3%(*+ !,-&456&'307*+ ,!-&456&'3%8*+ ,!-&2/&')%$*+ ,!-&./&')7$*+ 9:;<= 図 3: 突然上昇銘柄による推薦銘柄の購入シミュレー ションの結果。全てに共通して落ち込む時期は 2008 年 のリーマンショックの時期である。各折れ線の横の記 号は次の通り。SC:供給企業→ 顧客企業の有向グラフ、 CS:顧客企業→ 供給企業の有向グラフ、org:購入重みな し、NB:ノード中心性による購入重み、EB:エッジ中心 性による購入重み、カッコ内の数字:最終の累積収益率。、 Rtp− Rft = α + β(Rmt − Rft) + s(St) + h(Ht) + ϵt (7) ここで Rp tは日 t のカレンダータイム・ポートフォリ オの単純平均収益率、Rf t は 10 年新発国債の利回り、 Rm t は代表的株価指数 S&P500 のリターン、Stは小型 株と大型株の時価総額加重平均収益率の差、Htはバ リュー株と成長株の時価総額加重平均リターンの差で ある。これらの重回帰結果として得られる α の P 値を 評価値として用いる。この P 値が低いということは、 提案手法で構成したポートフォリオが、小型株、割安 株への偏りをコントロールした後でも超過リターンが あることを意味する。

Three Factor Model 以外にも、平均収益率やその標 準偏差、Sharpe 比、max drawdown についても示す。 Sharpe 比は、年あたりの収益率平均を収益率標準偏差 で除した値として定義され、リスクで基準化した平均 的な業績を評価できる。また max drawdown とは累積 収益率の最も大きい落ち幅のことで、実際の投資にお けるリスクを評価する指標として用いられる。 表 3 の結果より、取引関係ネットワークの向きに関 わらず (CS グラフ、SC グラフのいずれで構成しても)、 購入重みなしの場合には有意な α を得ており (α の P 値がそれぞれ SC:1.75%,CS:0.29%)、取引関係に基づい た突然の値上がりが有意に伝播することが示された。 中心性については、CS グラフでは NB, EB 共に有意 な α は得られず、効果は認められなかった。一方で SC グラフにおいては、NB, EB 共に有意であったが、NB では重みなしの結果を上回ることができなかった。そ のような中で、SC グラフにおける EB では、重みなし の結果に比べ、α の有意確率も遥かに小さく (0.03%)、 年率も重みなしの 22.6%に対して 31.4%を達成してい る。これは、図 3 を見ても明らかなように、2008 年の リーマンショックでさほど大負けせず、その後の伸びも 他の結果に比べて大きいことが要因である。また、表 3 の max drawdown の下げ率を見ても、SC グラフで の EB の下げ幅は小さいことがわかる。

5

パラメータ感度

次に、本実験では、様々なパラメータを固定して実 験を行ったが、それらのパラメータの変化が結果にど のように影響を与えるかを検証してみた。

5.1

保有日数

本実験では、銘柄の保有日数 h = 1 に固定したが、 より長く保有した場合、その結果はどのように変化す るであろうか?過去 10 日間における突然上昇の影響を 見ているので、あまりに長期間の結果を検証すること その他の要因が関係してくるため、ここでは 2∼5 日に ついて検証した。その結果を表 1 に示す。 表 1: 株式保有日数を 1 日∼5 に変化させたときの α の P 値 (%)。太字は P 値 <5%を表す。 エッジ 中心性 株式保有日数 の向き の重み 1 2 3 4 5 EB 12.4 26.7 45.1 84.0 99.5 CS NB 26.7 87.4 79.3 83.3 76.9 org 1.75 29.0 29.8 78.7 62.5 EB 0.03 0.11 0.14 1.19 0.93 SC NB 1.35 4.54 2.14 7.56 15.1 org 0.29 0.65 0.64 2.62 2.44 この結果より、CS グラフに比べ SC グラフに基づい た推薦の方が、影響する持続期間は長くなっている。こ の理由として推察されるのは、顧客企業のファンダメ ンタルズが向上する場合(とりわけ BtoC 企業のような 場合)、供給企業に好影響を与えると考えるのは容易で ある。iPhone の売れ行き動向によって、部品メーカー の株価が敏感に反応するのもこのためだ。しかし、供 給企業が良くなる場合、どの顧客企業に直接波及する かは直感的ではない。鉄鋼需要が旺盛でも、それは自 動車なのか建設なのかはより詳細な調査を経ないと明 らかにならない。こうした理由から、株価に織り込ま れるまでの期間が長くなるのではないかと推察される。

(5)

5.2

突然上昇の定義

次に、対象銘柄の定義で用いる相関係数下限値 ρ、お よび超過収益率上げ幅の範囲 (下限値 δL、上限値 δU) に ついて検証を進める。上記の実験においては ρ = 0.8、 δL= 0.05、δU = 1.0 としたが、これらの値を変化させ たときの結果を表 4 に示す。 ρ = 0.7 においては、ほとんど有意な結果が見られず、 変動の形状が突然上昇の形状ベクトル u から乖離して くると効果は小さいことが分かる。また ρ = 0.8, 0.9 に おいても、超過収益率の上げ幅が 0.5 を下回ると効果 が小さくなることが分かる。提案手法は、突然上昇の 定義に敏感であり、それはトレーダが「突然上昇」とい う現象を捉える基準と連動しているものと推察される。

5.3

突然下落

最後に、突然上昇で効果があるのであれば、突然下落 においても逆推薦 (売り推奨) すれば効果があるのでは ないかと考えるのは自然であろう。そこで、対象銘柄の 定義を全てひっくり返し、突然上昇ベクトル u と負の 相関が高く (-0.8 以下)、下げ幅が範囲 δL=−0.1, δU = −0.05 の条件を満たす銘柄を突然下落銘柄として同様 の手法を適用する実験を行った。その結果を表 2 に示 す。突然上昇とは対象的に、有意な結果は全く得られ なかった。また、上記に検討したようなパラメータを 変更しても有意な結果は得られない。 こうした結果となるには、いくつかの可能性が考え られる。そもそも突然上昇銘柄と取引関係を持つ銘柄 群が時間をおいて上昇する背景には、その業界に入っ た新しいファンダメンタルズ情報をマーケットが十分 に評価できていないためである。一方、突然下落銘柄 については、その業界に入った悪い情報だけではなく、 当該銘柄の idiosyncratic なものだという可能性がある。 例えば、何らかの工場火災によってある株式が売られ たとしても、それは業界全体には影響を与えないもの であり、突然下落銘柄の取引企業を空売りしても超過 リターンは得られないだろう。もう一つは、損失回避 傾向を持つ投資家が形成するマーケットでは悪い情報 は瞬時に織り込まれ、良い情報は時間をかけて評価さ れる傾向があることである。上昇相場がゆっくり形成 され期間が長いのに対して、下落相場が短期間に大幅 に下落して収束するのもそのためである。このように、 投資家は上昇と下落に対して非対称な反応を示すため、 突然下落銘柄を教師としてポートフォリオ構築する戦 略が機能しないのかもしれない。ただ、詳細なダイナ ミクスについては、対象銘柄 (Ut) と推薦構築銘柄 (Qt) の比較を突然上昇と下落で確認しながら明らかにして いく必要があり、今後の研究課題としたい。 表 2: 突然下落銘柄による逆推薦の結果。突然下落銘 柄と取引のある銘柄を空売りし、翌日に買い戻すとい うシミュレーションの結果を Frama-French の Three Factor モデルで評価した。 エッジ 中心性 α P値 延べ の向き の重み (bp) (%) 銘柄数 EB 3.56 13.9 CS NB 1.48 49.9 19085 org 3.52 9.64 EB 1.42 49.8 SC NB -0.65 74.0 15686 org -1.43 43.8

6

むすび

本稿では、米国におけるサプライチェーンネットワー クのデータを用い、個別銘柄の突然の株価上昇が取引 関係銘柄に有意に影響/伝播することを実証した。取引 関係グラフを、供給企業→ 顧客企業、および顧客企業 → 供給企業の 2 種類の有向グラフで考え、いずれの有 向グラフにおいても、個別銘柄の株価の上昇が取引関 係銘柄に有意に伝播することを示した。またネットワー クの中心性によって購入重みを考慮した場合、供給企 業→ 顧客企業の有向グラフにおいてエッジ媒介中心性 によって購入数量を重み付けすると、約 1.4 倍の年収 益率を達成できることがわかった。

謝辞

本研究は、JST CREST、科研費基盤研究 (B) 25285127、 及び、統計数理研究所平成 27 年度公募型共同研究「重 点研究 28-共研-4101」の研究助成を受けている。

参考文献

[1] Cohen, L and Frazzini, A, “Economic Links and predictable returns”,Journal of Finance, 63, 4, pp. 1977–2011 (2008)

[2] Lyon, J., D., Brad M. Barber, Chih-Ling Tsai, “Improved Methods for Tests of Long-Run Ab-normal Stock Returns”, The Journal of Finance, 54, 1, pp. 165–201 (1999)

(6)

表 3: 突然上昇銘柄による 6 種類の推薦銘柄の購入シミュレーションの Frama-French の Three Factor モデルによ る評価。太字は 5%有意を示す。α の単位 bp はベーシス・ポイントで、1/10000。

エッジ 中心性 α P値 延べ 収益率 収益率SD Sharpe max draw-down

の向き の重み (bp) (%) 銘柄数 (年率%) (年率%) 比 収益率 期間 org 5.01 1.75 21.2 25.3 0.837 -0.567 2007/04/24-2008/11/20 CS NB 2.68 26.79 85099 14.1 26.4 0.532 -0.615 2007/04/25-2008/11/20 EB 3.87 12.49 18.1 28.3 0.642 -0.967 2007/06/04-2008/11/20 org 6.32 0.29 22.6 23.8 0.952 -0.505 2007/04/16-2008/03/17 SC NB 5.37 1.35 64819 19.8 23.7 0.837 -0.473 2007/03/21-2009/03/17 EB 9.85 0.03 31.4 28.9 1.086 -0.360 2007/04/24-2008/03/19 表 4: 突然上昇の定義における相関係数 ρ と上げ幅上限, 下限値 (δL, δU) を変化させたときの α の P 値 (%)。列タ イトル2段目が上げ幅の上限, 下限値。 太字は P 値 <5%を表す。 エッジ 中心性 ρ = 0.7 ρ = 0.8 ρ = 0.9 の向き の重み 0-2.5% 2.5-5% 5-10% 0-2.5% 2.5-5% 5-10% 0-2.5% 2.5-5% 5-10% org 17.2 32.7 92.4 36.2 28.6 1.75 8.25 67.24 45.7 CS NB 28.4 52.8 73.7 47.8 20.3 26.7 8.63 55.33 58.3 EB 85.8 97.0 61.9 88.6 36.0 12.4 94.3 51.73 41.4 org 4.26 39.2 89.4 35.1 20.0 0.29 35.0 18.95 0.37 SC NB 42.8 10.1 95.6 49.6 14.9 1.35 20.5 17.24 0.99 EB 13.5 9.86 5.29 5.40 4.79 0.03 44.0 15.70 0.11

表 3: 突然上昇銘柄による 6 種類の推薦銘柄の購入シミュレーションの Frama-French の Three Factor モデルによ る評価。太字は 5%有意を示す。α の単位 bp はベーシス・ポイントで、1/10000。

参照

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