国際税務事例研究会
海外勤務者の税務
第 6 回 2017 年 5 月 12 日(金)
MJS 税経システム研究所 客員研究員
埼玉学園大学大学院教授、税理士
座長 望月 文夫
【目 次】 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1 居住者と非居住者との区分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2 恒久的施設(PE)の定義と理解の必要性・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 3 所得税法上の恒久的施設の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 4 所得税法上の「出国」とはどのような場合をいうのか・・・・・・・・・・・・・13 5 年の途中で出国・再入国をした場合の所得控除の取扱い・・・・・・・・・・・・17 6 国税庁質疑応答事例より・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
1 はじめに 当然のことかもしれませんが、「海外勤務者の税務」という場合には、その海外勤務者が 税法上の居住者なのか、それとも非居住者なのかによって課税上の取扱いが変わってきま す。そこで、まずは、居住形態の復習をさせていただきます。 1 居住者と非居住者との区分 (1)法令上の規定 居住者 所法2①三 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1 年以上居所 を有する個人 非永住者 所法2①四 居住者のうち、日本国籍を有しておらず、かつ、過去 10 年以内において国内に住所又は居所を有していた期間が5 年以下である個人 非居住者 所法2①五 居住者以外の個人 (2)住所とは 居住者と非居住者を区分する意義ですが、課税範囲が異なるからです。この点について、 所得税法7条1項は次の規定を置いています。 なお、非永住者に下線が引いてありますが、これは平成29 年度税制改正で変更されまし た。 居 住 区 分 課 税 範 囲 永住者又は 非永住者以外の 居住者(1 号) すべての所得 非永住者 (2 号) 法 95 条1項(外国税額控除)に規定する国外源泉所得(国外に ある有価証券の譲渡により生じる一定の所得(注)を含みます) 以外の所得及び国外源泉所得で国内において支払われ、又は国外 から送金されたもの 非居住者 (3 号) 164 条1項各号(非居住者に対する課税の方法)に掲げる非居住 者の区分に応じそれぞれ同項各号及び同条2項各号に定める国 住所=各人の生活の本拠をその者の住所とする(民法 22 条) 法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的 事実によって判定する(所基通2-1)
2 内源泉所得 (注)上でいう「一定の所得」とは次に掲げるものをいいます。 ① 外国金融商品取引所において譲渡されるもの ② 国外において金融商品取引業等を営む者への売委託により国外において譲渡されるも の ③ 国外において金融商品取引業等を営む者の国外事業所等に開設された有価証券の保管 等に係る口座に受け入れられているもの (注)上記の改正は、平成29 年4月1日以後に行う有価証券の譲渡について適用すること とされました。 *「住所」=生活の本拠、と言っても具体的な事例にどのように当てはめればいいのか、 よくわからないことになります。 そこで、次の政令(推定規定)を参照することになります。海外勤務者の場合、この推 定規定を利用することにより、実務上の取扱いをある程度容易に判断することができると 思います。 (3)推定規定 所得税法施行令には次のような推定規定があります。 なお、推定規定の実務上の取扱いのため、所得税基本通達3-3を利用するといいかも 国内に住所を有する者と推定する場合 (所得税法施行令 14 条) 国内に住所を有しない者と推定する場合 (所得税法施行令 15 条) ① その者が国内において、継続して一年以上居 住することを通常必要とする職業を有すること ② その者が外国の国籍を有し又は外国の法令 によりその外国に永住する許可を受けており、か つ、その者が国内において生計を一にする配偶者 その他の親族を有しないことその他国内におけ るその者の職業及び資産の有無等の状況に照ら し、その者が再び国内に帰り、主として国内に居 住するものと推測するに足りる事実がないこと ② その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が 国内において生計を一にする配偶者その他の親 族を有することその他国内におけるその者の職 業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国 内において継続して一年以上居住するものと推 測するに足りる事実があること (注)国内に住所を有する者と推定される個人と 生計を一にする配偶者その他その者の扶養する 親族が国内に居住する場合には、これらの者も国 内に住所を有する者と推定する (注)国内に住所を有しない者と推定される個人 と生計を一にする配偶者その他その者の扶養す る親族が国外に居住する場合には、これらの者も 国内に住所を有しない者と推定する ① その者が国外において、継続して一年以上居 住することを通常必要とする職業を有すること
3 しれません。 (国内に居住することとなった者等の住所の推定) 3-3 国内又は国外において事業を営み若しくは職業に従事するため国内又は国外 に居住することとなった者は、その地における在留期間が契約等によりあらかじめ1 年未満であることが明らかであると認められる場合を除き、それぞれ令第14 条第 1 項第1 号又は第 15 条第 1 項第 1 号の規定に該当するものとする。 (注)以前、この研究会において、「当初は3年間の予定で海外赴任したものの、途中で怪 我をしてしまって4か月で帰国した場合」及び「当初は半年間の予定だったものが、状況 の変化により1年を超えて海外勤務になった場合」を取り上げました。同じことを繰り返 すこともないと思うので、上に述べた推定規定と所基通3-3を踏まえて、実務上どのよ うに理解すべきかを考えてみましょう。 イ 会社が従業員を海外子会社等に赴任させる場合、普通は派遣期間を決めると思います。 ⇒ Aコース:「赴任期間」が初めから1年以上の場合であれば、その従業員は非居住者に なると考えていいでしょう。 ⇒ Bコース:「赴任期間」が初めから1年未満の場合であれば、その従業員は引き続き居 住者として取り扱うべきでしょう。 ロ 会社が従業員を海外子会社等に赴任させる場合、期限を決めていないときはどうする か。 ⇒ Aコース:あらかじめ1年未満であることが明らかでない場合であれば、非居住者と すべきでしょう。 ⇒ Bコース:過去の実績があれば、それを参考にすべきでしょう。つまり、過去の赴任 者が概ね3か月や半年ごとに帰国している場合は、新たに赴任する者についても同じよう に居住者にするという考え方です。 (4)居住者と非居住者の区分 居住者と非居住者の区分については、住居や職業だけで判断すると問題が生じる可能性 があります。これまで、多くの裁判例や裁決例がありますが、居住者と非居住者の区分に おいては、以下の4つの要素を総合的に勘案して判断することとされています。 ① 住居がどこに所在するか ② どこで職業に就いているか ③ 生計を一にする配偶者等の親族の居所がどこにあるか ④ 資産がどこに所在するか 上に掲げた 4 つの項目ですが、例えば、住居で言えば、資産家の場合には複数の国に住
4 居を有していることがあります。また、複数の国で職業に就いている(例えば、複数の国 に法人を所有しており、それぞれの会社で代表者となっている、など。)こともあります。 さらに、資産をいくつかの国に分散投資していることもよくあります。 この場合はいわゆる富裕層に適用されるものになります。一般のサラリーマンは複数の 住居や職業を有していないので、この取扱いは不向きの場合が多くなると思います。 ただし、世の中には色々な方がおられることから、この4つで住所の所在を決める必要 があることはご理解下さい。 このように、居住者と非居住者の区分は、現実に生じている事実関係をよく見てみると、 法令に記載しているような単純なものではなく、かなり複雑なものとなっているのです。 そこで、実際の事案を見ていく必要があるのです。 (問)当社の従業員A は、平成 29 年1月1日付で中国子会社の営業部長に発令しました が、実際に成田空港から現地に向かったのは2月1日でした。この場合、A はいつから 非居住者になるのでしょうか。 なお、A の営業部長としての任期はあらかじめ定めていません。 (答)A さんは、平成 29 年2月1日までは居住者、2月2日からは非居住者になります。 【解説】 ある会社の従業員A さんについては、上に書いたようにいわゆる富裕層ではないという 前提で、推定規定とそれを受けた所得税基本通達3-3を用いることで事案の処理を行う ことにします。 所得税法施行令に規定する推定規定によると、「1年」が基準になっていますが、A さん の任期は定まっていないとされていますので、直接的な回答を導き出すことはできません。 これに対して、所基通3-3では、「あらかじめ1年未満であることが明らかであると認め られる場合を除き」とあります。 そこで、原則として、2月2日以降は非居住者として取り扱うことでいいと思います。 ただし、前任者がいて、病気や事故などがないにも関わらず、半年で帰任したり、前々 任者も半年で帰任したりしているような場合は、「半年」という暗黙の了解がその会社には あるかもしれません。そのような場合には、必ずしも非居住者としなければならないとい うことではなく、実態をよく見る必要があると思います。 実務では法令や通達に書かれていないことがよくあります。そういった状況下において、 適切に実務を行うためには事実関係をよくよく確認すべきと思います。
5 2 恒久的施設(PE)の定義と理解の必要性 (1)国際税務の理解に欠かせないものに「恒久的施設(PE)」があります。実は、こ れまでの研修では、恒久的施設についてあまり詳細には説明してきませんでした。それは、 一般の税理士先生には恒久的施設という用語に馴染みがなく、受講者の先生方が寝てしま いそうだったからです。 しかし、ここは研究会という名称を付していますので、やや詳しくご説明することにし ます。 (2)はじめに、国際税務の理解のために恒久的施設が欠かせない理由を述べます。日本 の所得税法(法人税法)上、非居住者(外国法人)への課税方法について恒久的施設の有 無、所得が恒久的施設に帰属するか否か、によって変わってくるのです。 そのため、非居住者が日本国内に恒久的施設を有しているか否か、得られた所得がその 恒久的施設に帰属しているかどうか、といったことを確認しておく必要があります。 (3)国内源泉所得の課税区分 所得税基本通達164-1は、非居住者の課税について所得区分だけでなく、恒久的施設の 有無とその所得の恒久的施設の帰属の有無によって課税関係を分けています。 実は、所基通164-1は、所得税法 161 条(国内源泉所得)、164 条(非居住者に対する 課税の方法)、165 条(総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算)、169 条(分離課 税に係る所得税の課税標準)、170 条(分離課税に係る所得税の税率)、212 条(源泉徴収義 務)、213 条(徴収税額)といった規定をわかりやすく表にまとめているという意味があり ます。 納税者などの便宜のために、法令を簡略化して表で示している、ということです。逆に 言えば、次ページの表の背後には、詳細な税法上の定めがあります。 詳細な税法上の定めについては、以前、既にこの研究会で解説しているので、ここでは 省略させていただくこととして、この通達に基づいて説明をさせていただきます。 以下、所基通164-1を掲げます。 非居住者に対する課税関係の概要は、表5 のとおりである。なお、この表は、法に 規定する課税関係の概要であるから、租税条約にはこれと異なる定めのあるものがあ ることに留意する(平28 課 2-4、課法 11-8、課審 5-5 追加)。 *なお、本通達は平成28 年に改正になりましたので、ご注意ください。
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上の表にあるように、非居住者の場合は恒久的施設の有無、その所得の恒久的施設の帰 属の有無などによって取扱いが変わってきます。このような理由から、海外勤務者の税務 を考える上でも恒久的施設について、一通りの理解をすることが必要になります。
7 3 所得税法上の恒久的施設の定義 (1)所得税法上、恒久的施設とは、次に掲げるものをいいます(所法2条8号の4、所 令1条の2)。なお、法人税法においても同様の規定が整備されています。 ① 支店、工場その他事業を行う一定の場所 ② 非居住者又は外国法人の国内にある建設作業場 ③ 非居住者又は外国法人が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者 (2)一定の場所で恒久的施設に含まれるもの ① 支店、出張所その他の事業所若しくは事務所、工場又は倉庫(倉庫業者がその事業の 用に供するものに限ります) ② 鉱山、採石地その他の天然資源を採取する場所 ③ その他事業を行う一定の場所で①,②に掲げる場所に準ずるもの (支店、出張所等に準ずるもの) 161-1 令第 1 条の 2 第 1 項第 3 号((恒久的施設の範囲))に掲げる「前二号に掲げる場所 に準ずるもの」には、農園、養殖場、植林地、貸ビル等のほか、非居住者又は外国法人 が国内においてその事業活動の拠点としているホテルの一室、展示即売場その他これら に類する場所が含まれる(平28 課 2-4、課法 11-8、課審 5-5 追加)。 (3)一定の場所で恒久的施設に含まれないもの ① 外国法人がその資産を購入する業務のためにのみ使用する一定の場所 ② 外国法人がその資産を保管するためにのみ使用する一定の場所 ③ 広告、宣伝、情報の提供、市場調査、基礎的研究その他その事業の遂行にとって補助 的な機能を有する事業上の活動を行うためにのみ使用する一定の場所 (4)代理人で恒久的施設に含まれるもの ① その事業に関し契約を締結する権限を有し、かつ、これを継続的に又は反復的に行使 する者(常習代理人) ② 顧客の通常の要求に応じる程度の数量の資産を保有し、かつ、その資産を顧客の要求 に応じて引き渡す者(在庫保有代理人) ③ もっぱら主として一の外国法人のため、常習的にその事業に関し契約を締結するため の注文の取得、協議その他の行為のうちの重要な部分をする者(注文取得代理人) (常習代理人の範囲) 161-4 令第 1 条の 2 第 3 項第 1 号に掲げる「非居住者又は外国法人のために、その事 業に関し契約(……)を締結する権限を有し、かつ、これを継続的に又は反復して行使 通常の事業会社が保有する「倉庫」は、 恒久的施設には含まれない
8 する者」(以下161-6 までにおいて「常習代理人」という。)には、契約書に調印する権 限は与えられていないが、契約内容につき実質的に合意する権限を与えられている者が 含まれる(平28 課 2-4、課法 11-8、課審 5-5 追加)。 (注) 常習代理人は、特定の非居住者又は外国法人のためにのみ同号に規定する権限 を行使する者に限られないことに留意する。 (継続的に又は反復して行使することの意義) 161-5 令第 1 条の 2 第 3 項第 1 号に掲げる常習代理人には、長期の代理契約に基づい て非居住者又は外国法人のために同号に規定する権限を行使する者のほか、個々の代理 契約は短期的であるが、2 以上の代理契約に基づいて継続的に又は反復して一の非居住者 又は外国法人のために当該権限を行使する者が含まれる(平28 課 2-4、課法 11-8、課 審5-5 追加)。 (5)代理人で恒久的施設に含まれないもの *独立代理人(その者がその事業に係る業務を、外国法人に対し独立して行い、かつ、通 常の方法により行う者)を恒久的施設から除くとされます。 (独立代理人に該当する者) 161-3 令第 1 条の 2 第 3 項各号に掲げる者から除かれる「その者が、その事業に係る 業務を、当該各号に規定する非居住者又は外国法人に対し独立して行い、かつ、通常の 方法により行う場合における当該者」とは、次に掲げる要件のいずれも満たす者をいう ことに留意する(平28 課 2-4、課法 11-8、課審 5-5 追加)。 (1) 代理人として当該業務を行う上で、詳細な指示や包括的な支配を受けず、十分な 裁量権を有するなど本人である非居住者又は外国法人から法的に独立していること。 (2) 当該業務に係る技能と知識の利用を通じてリスクを負担し、報酬を受領するなど 本人である非居住者又は外国法人から経済的に独立していること。 (3) 代理人として当該業務を行う際に、代理人自らが通常行う業務の方法又は過程に おいて行うこと。 (6)国内法における通達の整備 平成26 年度税制改正において、恒久的施設の定義が現行のように整備されたことを受け て、平成28 年3月に所得税基本通達が整備されました。上に引用した通達すべてがこの時 期に新規に発遣されたものです。そこで、わかりにくいかもしれませんが、表題のみ太字 にしました。 以下に、この中から(5)で取り上げた所基通161-3について、国税庁が公表している 解説を引用します。 《説 明》 1 国内源泉所得を有する非居住者又は外国法人については、恒久的施設(PE)の有無等
9 に応じて所得税の課税範囲や課税方法が定められており、国内に自己のために契約を締 結する権限のある者等(以下「代理人等」という。)を置く非居住者又は外国法人は、我 が国に恒久的施設を有するものとされている(所法2①八の四ハ、所令1の2③) 。 その一方で、我が国の締結している租税条約及び OECD モデル租税条約においては、 上記のような権限を有する代理人であっても独立の地位を有する代理人(以下「独立代 理人」という。)は恒久的施設とされる代理人から除かれていることを踏まえ、国内法に おいても代理人等の範囲から独立代理人(その者が、その事業に係る業務を非居住者又 は外国法人に対し独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合における当該者)を 除外することとされている(所令1の2③柱書)。 2 本通達では、OECD モデル租税条約コメンタリーにおける独立代理人の判断基準を踏 まえ、上記の3つの要件をいずれも満たす者が恒久的施設とされる代理人から除外され る独立代理人に該当することを留意的に明らかにしている。 平成28 年3月に新たに作られた基本通達については、その一部についてのみ国税庁が解 説を公表していますが、ここでは一つだけ紹介しました。 さて、恒久的施設に該当するかどうかで課税関係が変わってきますので、以下で具体的 な事例をご紹介していきます。 (7)賃貸マンションは恒久的施設に該当するの? これまでいただいた質問の中に、次のようなものがあります。 (問)今度、中国に赴任する日本人従業員Aがいますが、Aは都内に賃貸マンションを 複数所有しており、不動産所得を有しています。中国に赴任した後にもそのマンション は貸し続けます。Aは非居住者になるのですが、所有しているマンションは恒久的施設 に該当するでしょうか? 内国法人 (借主) 非居住者 (A:貸主) 当 局 不動産賃貸 賃借料79,580 円 20,420 円 賃貸マンション (家賃 月10 万円) 20.42%の 源泉徴収義務 源泉所得税納税後、 確定申告義務有り 日 本 外 国 賃貸マンションはAの恒久的施設になるか
10 (答)賃貸マンションは、非居住者であるAの恒久的施設には該当しないと考えられま す。 (解説)上で説明したように、恒久的施設とは「事業を行う一定の場所」を指します。「マ ンションを賃貸しているので、マンションは事業拠点になるのではないか。」という主張を する方もいますが、その根拠は、「所基通161-1に貸ビルとあるから」、というものです。 しかし、不動産貸付について所得税法上事業になるためには、いわゆる「五棟十室基準」 があり、事業的規模である必要があります。そうでなければ事業所得にはなりません。五 棟十室基準に満たない場合には、不動産所得にするのが一般的な取扱いです。 そこで、所基通161-1で貸ビルとあるのは、貸ビルを管理するために自ら事務所を有し ているから、と解釈すべきでしょう。Aさんのようなサラリーマンの場合、国内に居住し ていた時でも自分では事務所を有することなく、不動産仲介業者Bに委任していたではな いか、と考えられます。 このように考えれば、賃貸マンションを有している場合には、国内に居住していた時の 状況を勘案することで、どのように取り扱えばいいかがわかると思います。Aさんの場合、 国内に居住していた場合に事務所を有していないなど通常の不動産所得としていたのであ れば、海外勤務者になったとしても、引き続き不動産所得のままでいいと考えられます。 これに対して、通達に貸ビルを有していればそれが直ちに恒久的施設に該当するとしてい るように見えますが、これはあくまでも事務所を有している場合であって物件そのものが 恒久的施設になるわけではありません。 さて、Aさんは不動産仲介業者Bに自分の有する賃貸マンションの管理を委託している ことから、BがAさんの恒久的施設である代理人に該当するのではないか、という疑問が 出てくるかもしれません。 不動産仲介 業者B 非居住者 (A:貸主) 不動産管理受託 不動産管理委託 賃貸マンション (家賃 月10 万円) 日 本 外 国 不動産管理業者BはAの恒久的施設になるか 借 主
11 これについては、次のように考えるとよいでしょう。 恒久的施設とは、そもそも非居住者又は外国法人が事業を行う一定の場所です。ところ が、支店や事業所のような物理的施設だけだと、非居住者又は外国法人のために働く人が いた場合には課税できないことになります。そこで、建設工事や代理人を含めました。 いずれにしても、国内勤務の際、不動産所得を申告していた従業員が非居住者となった 場合にその従業員が国内に所有する賃貸マンションは、恒久的施設に該当すると考えるこ とにはならないと考えられます。 *さて、次に事業税について検討してみましょう。 先ほどのAさんですが、事業税を納付する必要があるのでしょうか? 事業税に関する地方税法の規定は、同法72 条及び 72 条の2に規定があります。 地方税法72 条(事業税に関する用語の定義) 五 恒久的施設 次に掲げるものをいう。ただし、日本国が締結した租税に関する二重 課税防止のための条約において次に掲げるものと異なる定めがあるときは、当該条約の 適用を受けるこの法律の施行地に本店若しくは主たる事務所若しくは事業所を有しない 法人(以下この節において「外国法人」という。)又はこの法律の施行地に主たる事務所 若しくは事業所を有しない個人については、当該条約において恒久的施設と定められた ものとする。 イ 外国法人又はこの法律の施行地に主たる事務所若しくは事業所を有しない個人 の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所で政令で定めるもの ロ 外国法人又はこの法律の施行地に主たる事務所若しくは事業所を有しない個人 の国内にある建設作業場(外国法人又はこの法律の施行地に主たる事務所若しくは事業 所を有しない個人が国内において建設作業等(建設、据付け、組立てその他の作業又は その作業の指揮監督の役務の提供で一年を超えて行われるものをいう。)を行う場所をい い、当該外国法人又はこの法律の施行地に主たる事務所若しくは事業所を有しない個人 の国内における当該建設作業等を含む。) ハ 外国法人又はこの法律の施行地に主たる事務所若しくは事業所を有しない個人 が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で 定めるもの 地方税法72 条の2(事業税の納税義務者等) 3 個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第一種事業(筆者注:不動産貸付業 はこれに該当します)、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所 又は事業所所在の道府県において、その個人に課する。 6 外国法人又はこの法律の施行地に主たる事務所若しくは事業所を有しない個人の行 う事業に対するこの節の規定の適用については、恒久的施設をもつて、その事務所又は
12 事業所とする。 このうち、地方税法72 条の政令で定めるものについては、以下のような規定があります。 地方税法施行令 第10 条(恒久的施設の範囲) 法第72 条第5号イに規定する政令で定める場所は、次に掲げる場所とする。 一 支店、出張所その他の事業所若しくは事務所、工場又は倉庫(倉庫業者がその事業 の用に供するものに限る。) 二 鉱山、採石場その他の天然資源を採取する場所 三 その他事業を行う一定の場所で前二号に掲げる場所に準ずるもの 2 次に掲げる場所は、前項の場所に含まれないものとする。 一 外国法人等(外国法人(法第72 条第5号ただし書に規定する外国法人をいう。以下 この節において同じ。)又はこの法律の施行地に主たる事務所若しくは事業所を有しない 個人をいう。以下この条において同じ。)がその資産を購入する業務のためにのみ使用す る一定の場所 二 外国法人等がその資産を保管するためにのみ使用する一定の場所 三 外国法人等が広告、宣伝、情報の提供、市場調査、基礎的研究その他その事業の遂 行にとつて補助的な機能を有する事業上の活動を行うためにのみ使用する一定の場所 上の規定を見ておわかりのように、地方税法の規定も所得税法の規定と類似しています が、租税条約を優先すると明示しているところのみが異なっています。 したがって、国内法上は、所得税法上恒久的施設に該当する場合には、地方税法上も同 じく恒久的施設に該当することになり、事業税の納税義務者となることがわかります。 さて、本問においては、所得税法上恒久的施設に該当しないこととされました。そこで、 地方税法においても恒久的施設に該当しないことと考えられます。
13 4 所得税法上の「出国」とはどのような場合をいうのか 一般的に、羽田空港や成田空港から海外に向かう飛行機に搭乗する場合、「出国手続」を します。パスポートを係員に提示すると、「出国」というゴム印を押してくれます。 さて、所得税法にも出国という用語が使われているのをご存知でしょうか。 顧問先の従業員が外国子会社の幹部などで海外に向かう場合、所得税法上の出国に該当 するか否かについて、少しご説明させていただきます。 (1)国税通則法の規定 国税通則法 117 条(納税管理人) 個人である納税者がこの法律の施行地に住所及び居所(事務所及び事業所を除く。)を 有せず、若しくは有しないこととなる場合又はこの法律の施行地に本店若しくは主たる 事務所を有しない法人である納税者がこの法律の施行地にその事務所及び事業所を有せ ず、若しくは有しないこととなる場合において、納税申告書の提出その他国税に関する 事項を処理する必要があるときは、その者は、当該事項を処理させるため、この法律の 施行地に住所又は居所を有する者で当該事項の処理につき便宜を有するもののうちから 納税管理人を定めなければならない。 2 納税者は、前項の規定により納税管理人を定めたときは、当該納税管理人に係る国 税の納税地を所轄する税務署長(保税地域からの引取りに係る消費税等に関する事項の みを処理させるため、納税管理人を定めたときは、当該消費税等の納税地を所轄する税 関長)にその旨を届け出なければならない。その納税管理人を解任したときも、また同 様とする。 (2)所得税法の規定 2条(定義) 四十二 出国 居住者については、国税通則法第 117 条第2項(納税管理人)の規定に よる納税管理人の届出をしないで国内に住所及び居所を有しないこととなることをい い、非居住者については、同項の規定による納税管理人の届出をしないで国内に居所を 有しないこととなること(国内に居所を有しない非居住者で恒久的施設を有するものに ついては、恒久的施設を有しないこととなることとし、国内に居所を有しない非居住者 で恒久的施設を有しないものについては、国内において行う第 161 条第1項第6号(国 内源泉所得)に規定する事業を廃止することとする。)をいう。 126 条(確定申告書を提出すべき者等が出国をする場合の確定申告) 第120 条第1項(確定所得申告)の規定による申告書を提出すべき居住者は、その年 の翌年1月1日から当該申告書の提出期限までの間に出国をする場合には、第123 条第
14 1項(確定損失申告)の規定による申告書を提出する場合を除き、その出国の時までに、 税務署長に対し、当該申告書を提出しなければならない。 2 第 123 条第1項の規定による申告書を提出することができる居住者は、その年の翌 年1月1日から2月15 日までの間に出国をする場合には、当該期間内においても、税務 署長に対し、当該申告書を提出することができる。 127 条(年の中途で出国をする場合の確定申告) 居住者は、年の中途において出国をする場合において、その年1月1日からその出国 の時までの間における総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額について、第 120 条 第1項(確定所得申告)の規定による申告書を提出しなければならない場合に該当する ときは、第3項の規定による申告書を提出する場合を除き、その出国の時までに、税務 署長に対し、その時の現況により同条第1項各号に掲げる事項を記載した申告書を提出 しなければならない。 2 居住者は、年の中途において出国をする場合において、その年1月1日からその出 国の時までの間における総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額について、第 122 条第1項(還付を受けるための申告)の規定による申告書を提出することができる場合 に該当するときは、前項の規定による申告書を提出すべき場合及び次項の規定による申 告書を提出することができる場合を除き、税務署長に対し、その時の現況により第 120 条第1項各号に掲げる事項を記載した申告書を提出することができる。 3 居住者は、年の中途において出国をする場合において、その年1月1日からその出 国の時までの間における純損失の金額若しくは雑損失の金額又はその年の前年以前3年 内の各年において生じたこれらの金額について、第123 条第1項(確定損失申告)の規 定による申告書を提出することができる場合に該当するときは、その出国の時までに、 税務署長に対し、その時の現況により同条第2項各号に掲げる事項を記載した申告書を 提出することができる。 4 第 120 条第3項から第5項までの規定は、前3項の規定による申告書の提出につい て準用する。 国税通則法と所得税法のうち、出国に関係する規定を抜き出してみました。 (3)所得税法上の出国の意義 所得税法2条42 号の定義規定にあるように、 イ 居住者については、納税管理人を定めずに日本から外国に住所を移すことをいいます。 ロ 非居住者については、納税管理人の届出をしないで外国に居所を移すことをいいます。 また、国内に居所がない非居住者で恒久的施設を有していた場合は、その恒久的施設をな くすこと、などを規定しています。
15 ということで、所得税法上の出国と一般的に使用されている出国とは異なることをご理 解いただいた上で、所得税法126 条と 127 条を再確認していただきます。 (4)実務上の取扱い それでは、実務上はどのように取り扱えばいいのでしょうか。以下に、仮想の例を掲げ て検討します。 (問)当事務所の顧問先であるC 社の従業員 E さんは、給与所得のほかに不動産所得を 有しているために毎年確定申告書を提出している。平成29 年4月 25 日に、E さんは C 社のシンガポール子会社に向けて羽田空港から飛び立った。E さんの確定申告はどのよ うにすべきか。 (答)納税管理人を定める場合と、定めない場合とに分けます。 納税管理人を定める場合、E さんの平成 29 年分の確定申告書は平成 30 年2月 16 日か ら3月15 日までの間に提出することになります。 一方、納税管理人を定めない場合、4月25 日以前に、1月1日以降の所得に関する準 確定申告書を提出し、納税しなければなりません。そして、非居住者となった後の納税 義務を履行すべく、平成30 年3月 15 日までに不動産所得に関する確定申告書を提出し なければなりません。 【解説】 イ 所得税法 126 条1項を見ていただくとわかりますが、所得税法上の出国をする場合、 それ以前に確定申告書を提出し、納税しなければなりません。一方、納税管理人を定めた 上で届け出ている場合の納税者に対する規定は、126 条にも 127 条にも規定がありません。 それは、通常通りの確定申告義務があるだけ、だからです。 ロ 上に書いたように、いわゆる準確定申告書を提出した非居住者が不動産所得を有する 場合はどうなるでしょうか。6ページの表(所基通164-1)に戻って下さい。不動産の賃 借料を有する場合は、⑥に該当します。そして、前述したように、恒久的施設の有無、そ の所得が恒久的施設に帰属しているかどうかで表が分かれています。ただし、⑥の場合は、 「源泉徴収の上、総合課税」と書かれています。 ハ それでは、「源泉徴収の上、総合課税」とあるのはどういう意味でしょうか。まず、国 内源泉所得においては、源泉徴収の可能性が高い、ということは既にご案内の通りです。 次に、総合課税とありますが、非居住者や外国法人課税における総合課税の意義が、居 住者の総合課税・分離課税における総合課税とは異なるということです。具体的には、以 下の条文をご覧下さい。 所得税法 第165 条(総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算)
16 前条第1項各号に掲げる非居住者の当該各号に定める国内源泉所得について課する所 得税(以下この節(筆者注:非居住者に対する所得税の総合課税)において「総合課税 に係る所得税」という。)の課税標準及び所得税の額は、当該各号に定める国内源泉所得 について、別段の定めがあるものを除き、前編第1章から第4章まで(居住者に係る所 得税の課税標準、税額等の計算)(第 44 条の3(減額された外国所得税額の総収入金額 不算入等)、第46 条(所得税額から控除する外国税額の必要経費不算入)、第 60 条の4 (外国転出時課税の規定の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例)、第73 条から第 77 条 まで(医療費控除等)、第79 条(障害者控除)、第 81 条から第 85 条まで(寡婦(寡夫) 控除等)、第95 条(外国税額控除)及び第 95 条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等 の特例に係る外国税額控除の特例)を除く。)の規定に準じて計算した金額とする。 所得税法 165 条1項をご覧いただくとおわかりのように、非居住者は国内源泉所得があ る場合には、まずは源泉徴収された後、確定申告書を提出しなければならない場合がある、 ということです。具体的に、誰がどのような場合に確定申告書を提出しなければならない かは164 条1項に記載されていますが、6ページの表がありますのでこれでご判断下さい。 ニ いずれにしても、本問でいうE さんには確定申告義務がありますが、納税管理人を定 めた上で届け出た場合には一度で済むのに対して、納税管理人を定めない場合には二度手 間になります。 ホ 最後に、納税管理人については、定めただけでは不十分です。納税管理人を定めた上 で、所轄税務署長宛てその旨を届け出なければなりません。
17 5 年の途中で出国・再入国をした場合の所得控除の取扱い (1)所得税法の規定 まず、所得税法の規定を見ていきます。年の途中で非居住者が居住者になった場合の計 算については、次のように定められています。 所得税法 85 条(扶養親族等の判定の時期等) 第79 条第1項(障害者控除)、第 81 条(寡婦(寡夫)控除)又は第 82 条(勤労学生 控除)の場合において、居住者が特別障害者若しくはその他の障害者、寡婦、寡夫又は 勤労学生に該当するかどうかの判定は、その年12 月 31 日(その者がその年の中途にお いて死亡し又は出国をする場合には、その死亡又は出国の時。以下この条において同じ。) の現況による。 2 第79 条第2項又は第3項の場合において、居住者の控除対象配偶者又は扶養親族が 同項の規定に該当する特別障害者若しくはその他の特別障害者又は特別障害者以外の障 害者に該当するかどうかの判定は、その年12 月 31 日の現況による。 3 第79 条から前条までの場合において、その者が居住者の老人控除対象配偶者若しく はその他の控除対象配偶者若しくは第83 条の2第1項(配偶者特別控除)に規定する生 計を一にする配偶者又は特定扶養親族、老人扶養親族若しくはその他の控除対象扶養親 族若しくはその他の扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年12 月 31 日の現況に よる。 102 条(年の中途で非居住者が居住者となつた場合の税額の計算) その年12 月 31 日(その年の中途において死亡した場合には、その死亡の日)におい て居住者である者でその年において非居住者であつた期間を有するもの又はその年の中 途において出国をする居住者でその年1月1日からその出国の日までの間に非居住者で あつた期間を有するものに対して課する所得税の額は、前2章(課税標準及び税額の計 算)の規定により計算した所得税の額によらず、居住者であつた期間内に生じた第7条 第1項第1号(居住者の課税所得の範囲)に掲げる所得(非永住者であつた期間がある 場合には、当該期間については、同項第2号に掲げる所得)並びに非居住者であつた期 間内に生じた第 164 条第1項各号(非居住者に対する課税の方法)に掲げる非居住者の 区分に応ずる同項各号及び同条第2項各号に掲げる国内源泉所得に係る所得を基礎とし て政令で定めるところにより計算した金額による。 所得税法施行令 第258 条(年の中途で非居住者が居住者となつた場合の税額の計算) 法第 102 条(年の中途で非居住者が居住者となつた場合の税額の計算)に規定する政 令で定めるところにより計算した金額は、同条に規定する居住者につき次に定める順序
18 により計算した所得税の額とする。 一 その者がその年において居住者であつた期間(「居住者期間」)内に生じた法第7条 第1項第1号(居住者の課税所得の範囲)に掲げる所得及びその者がその年において非 居住者であつた期間(「非居住者期間」)内に生じた法第 164 条第1項各号に掲げる非居 住者の区分に応ずる当該各号に定める国内源泉所得に係る所得を、法第2編第2章第2 節(各種所得の金額の計算)の規定に準じてそれぞれ各種所得に区分し、その各種所得 ごとに所得の金額を計算する。 二 前号の所得の金額を基礎とし、法第2編第2章第1節及び第3節(課税標準、損益 通算及び損失の繰越控除)の規定に準じて、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金 額を計算する。 三 法第2編第2章第4節(所得控除)の規定に準じ前号の総所得金額、退職所得金額 又は山林所得金額から基礎控除その他の控除をして課税総所得金額、課税退職所得金額 又は課税山林所得金額を計算する。 四 前号の課税総所得金額、課税退職所得金額又は課税山林所得金額を基礎とし、法第 2編第3章第1節(税率)の規定に準じて所得税の額を計算する。 五 その者がその年において法第2編第3章第2節(税額控除)の規定により配当控除 及び外国税額控除を受けることができる場合に相当する場合には、前号の所得税の額か らこれらの控除を行い、控除後の所得税の額を計算する。 六 その者が非居住者期間内に支払を受けるべき法第 164 条第2項各号に掲げる非居住 者の区分に応ずる当該各号に定める国内源泉所得がある場合には、当該国内源泉所得に つき法第169 条(分離課税に係る所得税の課税標準)及び第 170 条(分離課税に係る所 得税の税率)の規定を適用して所得税の額を計算し、当該所得税の額を前号の控除後の 所得税の額に加算する。 2 前項第1号の規定により各種所得ごとに所得の金額を計算する場合において、給与 所得、退職所得、法第35 条第3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係る雑 所得又は山林所得、譲渡所得若しくは一時所得で居住者期間内及び非居住者期間内の双 方にわたつて生じたものがあるときは、これらの所得に係る法第28 条第3項(給与所得) に規定する給与所得控除額、同条第4項若しくは法第57 条の2第1項(給与所得者の特 定支出の控除の特例)の規定による給与所得の金額、法第30 条第2項(退職所得)に規 定する退職所得控除額、法第35 条第4項に規定する公的年金等控除額又は法第 32 条第 4項(山林所得)、第33 条第 4 項(譲渡所得)若しくは第 34 条第3項(一時所得)に規 定する特別控除額は、居住者期間内及び非居住者期間内に生じたこれらの所得をそれぞ れ合算した所得につき計算する。 3 第1項第3号の規定により同号に規定する基礎控除その他の控除を行う場合には、 これらの控除のうち次の各号に掲げるものについては、当該各号に定める金額を控除す る。
19 一 雑損控除 法第72 条第1項(雑損控除)に規定する損失の金額で居住者期間内に生 じたものと当該損失の金額で非居住者期間内に生じたものとの合計額が法第72 条第1項 各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を超える場合におけるその超える 部分の金額 二 医療費控除 その者が居住者期間内に支払つた法第73 条第1項(医療費控除)に規 定する医療費の金額が第1項第2号に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得 金額の合計額の100 分の5に相当する金額(当該金額が 10 万円を超える場合には、10 万円)を超える場合におけるその超える部分の金額(当該金額が 200 万円を超える場合 には、200 万円) 三 社会保険料控除及び小規模企業共済等掛金控除 その者が居住者期間内に支払つた 又はその給与から控除される法第74 条第2項(社会保険料控除)に規定する社会保険料 の金額及びその者が居住者期間内に支払つた又はその給与から控除される法第75 条第2 項(小規模企業共済等掛金控除)に規定する小規模企業共済等掛金の額 四 生命保険料控除及び地震保険料控除 その者が居住者期間内に支払つた法第 76 条 第1項(生命保険料控除)に規定する新生命保険料及び旧生命保険料、同条第2項に規 定する介護医療保険料、同条第3項に規定する新個人年金保険料及び旧個人年金保険料 並びに法第77 条第1項(地震保険料控除)に規定する地震保険料につき法第 76 条又は 第77 条の規定を適用した金額 (以下、略) 所得税基本通達 (年の中途で居住者が非居住者となった場合の税額の計算) 165-1 その年 12 月 31 日(その年の中途において死亡し又は出国をした場合には、 その死亡又は出国の日)において非居住者である者でその年において居住者であった 期間を有するもの(165-2 において「居住者期間を有する非居住者」という。)に対 して課する所得税の額は、法第165 条第 1 項の規定により、法第 102 条《年の中途 で非居住者が居住者となった場合の税額の計算》の規定に準じて計算することに留意 する(平28 課 2-4、課法 11-8、課審 5-5 改正)。 (居住者期間を有する非居住者に係る扶養親族等の判定の時期等) 165-2 居住者期間を有する非居住者につき法第 165 条第 1 項において準用される 法第102 条の規定により所得税の額を計算する場合に控除する法第 79 条《障害者控 除》から第84 条《扶養控除》までに規定する控除額の計算の基礎となる扶養親族等 の判定の時期等については、法第85 条第 1 項《扶養親族等の判定の時期等》に規定 する「その年 12 月 31 日(その者がその年の中途において死亡し又は出国をする場 合には、その死亡又は出国の時……)」とは、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞ れ次に掲げる時をいうものとして、同条の規定を準用する(平28 課 2-4、課法 11
20 -8、課審 5-5 改正)。 (1) その者が通則法第 117 条第 2 項《納税管理人》の規定による納税管理人の届 出をして居住者でないこととなった場合 その年12 月 31 日(その者がその年中に 死亡したときは、その死亡の時) (2) その者が同項の規定による納税管理人の届出をしないで居住者でないことと なった場合 その居住者でないこととなる時 (2)具体的な適用 (問)顧問先法人の従業員であるK さんは、平成 29 年5月1日に成田空港から中国に向 けて旅立ちましたが、12 月5日に帰国しました。K さんには、妻と満 17 歳と 15 歳の子 供2人がいますが、単身赴任でした。この場合、K さんの所得税申告と所得控除はどの ようになりますか。 次に、仮にK さんが同日に中国に向けて旅立った後、平成 29 年中は帰国しなかった場 合、つまり12 月 31 日現在非居住者であった場合、同じようなことについてどのように 考えればいいでしょうか。 いずれについても、居住者期間と非居住者期間の両方を有する場合の所得控除につい て、納税管理人を届け出ている場合とそうでない場合とに区分して説明して下さい。 (答) 1 【所得税申告の部(12 月 31 日現在、日本の居住者であった場合)】 通常の確定申告義務を負いますが、所得税法 102 条に基づいて各種所得について居住 者期間と非居住者期間ごとにそれぞれ区分して計算することになります。給与所得につ いて、非居住者期間において中国で課税を受けている場合には外国税額控除の対象とな ります。 2 【所得税申告の部(12 月 31 日現在、日本の非居住者であった場合)】 非居住者であった場合、納税管理人を届け出ていれば、居住者期間についての確定申 告をすることになります。このほか、先に説明した所得税法165 条にあるように、給与 所得以外の所得(不動産所得など)があれば、その部分を含めることになります。一方、 納税管理人を届け出ていない場合には、5月1日以前に準確定申告書を提出することに なるなど、上述した通りとなります。 3 【所得控除の部(12 月 31 日現在、日本の居住者であった場合)】 年の途中に非居住者期間がある場合、納税管理人に関係なく認められる控除としては、 基礎控除、寄付金控除及び国内部分における雑損控除があります。 次に、居住者期間内に支払ったものについて、医療費控除、社会保険料控除、小規模
21 企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除が所得控除の対象になります。 そして、その他の人的控除については、12 月 31 日の現況によって扶養控除、配偶者 (特別)控除、寡婦(夫)控除、障碍者控除、勤労学生控除が認められるか否かを判断 することになります。 4 【所得控除の部(12 月 31 日現在、日本の非居住者であった場合)】 所得税法165 条により総合課税となる場合には、基礎控除、寄附金控除以外のものと して雑損控除の一部が認められるほか、居住者期間内に支払ったものについて、医療費 控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除 が所得控除の対象となります。 そして、納税管理人を届け出ている場合は12 月 31 日の現況で扶養控除等が判断され る一方、納税管理人を届け出ていない場合は出国した日の現況により扶養控除等が判断 されることになります。 *住民税の取扱い 住民税については、その年の1月1日現在、住所を有する個人、道府県内に事務所、事 業所又は家屋敷を有する個人で当該事務所、事業所又は家屋敷を有する市町村内に住所を 有しない者等に対して課税されることになっています(地方税法24 条)。 居住者が非居住者になる場合、住民票で判断されるので住民票を抜くことで住民税の納 税義務がなくなります。逆に、非居住者が居住者になり、翌年1月1日現在で住民票があ れば住民税が賦課されることになります。
22 6 国税庁質疑応答事例より (1)退職して帰国した外国人の住民税の負担 【照会要旨】 内国法人A 社の従業員である英国人 B は、本年 2 月に退職し帰国しました。B の給与 に対する所得税については、既に年末調整も終わっていますが、帰国後B に対し住民税 が賦課されました。この住民税については、B との契約により A 社が負担することにな っていますが、A 社が負担する住民税相当額について、源泉徴収の対象となりますか。 【回答要旨】 国内源泉所得として源泉徴収を要します。 会社が負担する住民税相当額は、過去における国内勤務の対価と認められるので、所 得税法第161 条第 1 項第 12 号イ《国内源泉所得》に掲げる給与に該当します。 具体的には、その負担額を税引後の手取金額として源泉徴収税額を算出し、源泉徴収 を行うこととなります。 【関係法令通達】 所得税法第161 条第 1 項第 12 号イ 【解説】 本事例の英国人 B は、2月に退職して帰国したとありますので、今年の1月1日には日 本に住所があったと考えられます。 そうなると、昨年の所得に対して本年住民税が賦課されることになります。住民税の納 税義務者はB になりますが、会社との契約により A 社負担とのことです。A 社が負担する 住民税相当額は、B にとっての経済的利益になりますので、所得税の対象になります。所得 区分としては、A 社勤務に起因することですので、給与に該当します。既に、B は帰国して いますので、日本の税法上非居住者となりますので、所得税法161 条1項 12 号イに該当し、 源泉徴収の対象となります。 所得税法161 条1項 12 号 次に掲げる給与、報酬又は年金 イ 俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提 供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役 員として国外において行う勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因す るもの さて、国内法上の取扱いがわかったとして、租税条約についてこの質疑応答事例では全 く触れられていません。なぜでしょうか。そこで、日英租税条約を見てみましょう。 まず、日英租税条約2条 1 項(a)(iii)住民税、とありますので、同条約上日本の住民
23 税が対象になることがわかります。 次に、今回問題になったのは英国人Bが A社に勤務して報酬を得たことによりますので、 日英租税条約14 条(給与所得)を見てみましょう。この場合、B がもともと英国人である ことから、一方の締約国を英国とし、他方の締約国を日本として読み替えてあります。 14 条 次条、第17 条及び第 18 条の規定が適用される場合を除くほか、英国の居住者がその 勤務について取得する給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、勤務が日本国 内において行われない限り、英国においてのみ租税を課することができる。勤務が日本 国内において行われる場合には、当該勤務について取得する給料、賃金その他これらに 類する報酬に対しては、日本において租税を課することができる 日英租税条約14 条を見る限り、英国人が日本国内で勤務する場合の課税権は日本にあり ます。そうなると、日本の国内法で処理すべきことになりますので、国税庁質疑応答事例 では日英租税条約による課税の減免に関する記述がなかったことになります。 なお、日本での滞在期間が短い場合には、いわゆる短期滞在者免税に該当する場合があ り、そうなった場合には日本には課税権がないことになります。本事例の最初の照会要旨 には、滞在期間の記述がないことから、短期滞在者免税には該当しないと考えられます。 なお、本事例とは逆の場合、すなわち、日本人が英国法人に勤務した場合に照会要旨と 同じような内容の事実がある場合においても、取扱いは同様になり、英国所得税法の規定 によって課税の有無、税額などが決定されることになります。 (2)非居住者である非常勤役員に支払う退職金 【照会要旨】 内国法人A 社の非常勤役員の中に、米国の居住者である米国人 B(日本では非居住者 に該当)がいますが、この外国人役員については、近く交代が予定されており、退任に 際してA 社から若干の退職金が支払われる予定です。 このような非居住者である外国人役員に対して支払われる退職金は、どのような課税 関係となるのでしょうか。 【回答要旨】 非居住者である役員に支払う退職金については、租税条約上の役員報酬条項が適用さ れます。 所得税法の規定では、非居住者に支払う退職金のうち、居住者として勤務(内国法人 の役員としての勤務で国外において行うもので国内における勤務とみなされるものを含 みます。)した期間に対応する金額は、国内源泉所得に該当することとされ、その支払 の際に源泉徴収が必要となります(所得税法第161 条第 1 項第 12 号ハ、第 212 条第 1 項、所得税法施行令第285 条第 3 項)。
24 一方、一般に租税条約では「退職金」についての明文の規定はありませんが、退職金 は給与の一形態(退職に基因して支払われる給与)であることから、年金条項やその他 所得条項(明示なき所得条項)の適用はなく、役員報酬条項が適用されることとなりま す。 日米租税条約第15 条では、役員報酬については、法人の所在地国で課税できることと されており、米国の居住者である役員B に支払う退職金については、所得税法の規定に 従って課税されることとなります。 【関係法令通達】 所得税法第161 条第 1 項第 12 号ハ、第 212 条第 1 項、所得税法施行令第 285 条第 3 項、日米租税条約第15 条 【解説】 本事例は、従業員の給与ではなく役員退職金の取扱いに関するものです。国内法上、国 内源泉所得については、ちょうどこの事例の役員退職金に特化した規定があります。所得 税法161 条1項 12 号ハのカッコ書きを適用することになります。 所得税法161 条1項 12 号 次に掲げる給与、報酬又は年金 ハ 第30 条第1項(退職所得)に規定する退職手当等のうちその支払を受ける者が居住 者であつた期間に行つた勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として非居住者 であつた期間に行つた勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するも の 本事例では内国法人A 社の非常勤役員として、非居住者(米国の居住者)である B がい たのですが退職することになったということです。そこで、所得税法上の国内源泉所得に 該当することになり、5ページにあるように源泉徴収の対象になります。 さて、今度は日米租税条約の役員報酬に関する規定を見てみましょう。ここでも、一方 の締約国を米国とし、他方の締約国を日本と読み替えて記述しています。 日米租税条約15 条 米国の居住者が日本の居住者である法人の役員の資格で取得する役員報酬その他これ に類する支払金に対しては、日本において租税を課することができる このように、租税条約においても、役員退職金を含む役員報酬については、その法人の 所在地国の法令で課税できることとされています。 以上のことから、国税庁質疑応答事例のような結論が導かれることになります。