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殺虫・殺菌剤を使用せず栽培したブドウ‘デラウェア’の新梢生育と果実品質

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Ⅰ 緒   言  病害虫の総合防除においては,各種防除手段の設 計に当たり,まずは植物側がどのような被害をどの 程度受けるかの情報が基本となる2).また果樹は収 2018 年 7 月 31 日受領 2018 年 12 月 28 日受理 Correspondence: vividlyoceanly@gmail.com 〔研究資料〕

殺虫・殺菌剤を使用せず栽培したブドウ‘デラウェア’の

新梢生育と果実品質

細見彰洋・安永昌代

* (地独)大阪府立環境農林水産総合研究所 *現ガーデンミュージアム比叡

Shoot Growth and Fruit Characteristics of ‘Delaware’ Grapevines Cultivated

without Pesticides

Akihiro Hosomi and Masayo Yasunaga

Research Institute of Environment, Agriculture and Fisheries, Osaka Prefecture

Present address: Garden Museum Hiei

Summary

Early defoliation occurred frequently in ‘Delaware’ grapevines cultivated without pesticides in an open field, probably due to downy mildew disease. The characteristics of the fruits of these grapevines did not differ markedly from those of conventionally cultivated grapevines where pesticides were used, apart from the acidity of the fruit juice, which was somewhat higher in pesticide-free plants. However, severe dieback occurred during winter in the shoots of pesticide-free grapevines, and their condition worsened from year to year.

Artificial defoliation to simulate leaf infection was applied to ‘Delaware’ grapevines from May to September under various conditions. Trimming all the leaves from a shoot from the end of May to mid-June resulted in a lower berry weight, paler skin color, and lower sugar content, and higher acidity of the juice. The winter dieback of the shoots was induced more severely by the artificial defoliation in July than in May to June.

Therefore, the leaf damage that emerged under pesticide-free cultivation probably reduced photosynthesis assimilation after stage III of the fruit growth. The winter dieback of shoots due to early defoliation probably weakened the grapevines; however, it had little effect on fruit quality.

(2)

約 6000 本 /10 a になるよう芽かきし,新梢あたり平 均 2.5 果房を着果させ,ジベレリン 100ppm 溶液を 2 回花(果)房浸漬処理し,すべてに白色の傘紙を掛 けた.新梢は摘心しなかったが,新梢基部から最も 先の着房位置付近までの副梢は,4 月~5 月に随時 切除した.また 7 月以降,葉が混み合う(葉面積指 数でおよそ 3 以上)場合も適宜副梢を間引いたが, 葉の損傷が進んでいる場合は,その損傷程度に応じ て,落葉節から発生する副梢を温存し,なるべく葉 面積指数 3 程度に近づけた.また,樹体が衰弱した 場合は,剪定時に衰弱の程度に応じて樹冠を切り詰 めた.なお,無防除区の 1 樹は再生産不可能な状況 にまで衰弱したため 1995 年で試験を終えて改植し, 残る 2 樹も 1999 年で試験を終えた.一方,試験の 反復のため,1999 年から同齢の無防除区 1 樹と慣行 区 2 樹を新たに選定し,2003 年まで同様の管理を継 続した.  供試樹は Table 1 に示す構成で調査を行った.ま ず各種病害虫発生とその被害程度,新梢生育,樹勢 の推移等を目視により 1991 年~1999 年に観察した. このうち,1991 年には樹冠下の葉群の陰影と落葉の 状態を 8 月 8 日,樹体側面の状態を 10 月 14 日にそ れぞれ写真撮影した.また,1991 年および 1999 年 から無防除とした各 1 樹と,それぞれの慣行区の 1 ~2 樹については,その後 5 年間,果実品質を毎年 調査した.すなわち,毎年の成熟期に各樹から新梢 の第 2 果房の 10~20 房を採取し,果房重,果粒の 無核率(ただし,1999 年からの無防除樹は 3 年目ま で調査せず),無核の 1 粒重(以下,果粒重),果皮 色(目視により 1 果房中の着色歩合を 1:全粒が黄緑, 穫対象が果実であり,主に葉を加害する病害虫の場 合,その損傷が果実生産並びに樹体に及ぼす間接的 な影響についても把握が必要である2)  そこで本試験ではブドウ‘デラウェア’を事例と し,慣行の栽培体系から殺虫・殺菌剤の使用を除い た場合に生ずる,樹体生育や果実品質への変化を確 認した.また,特に葉の被害解析では人為的な切り 取り試験を併用することが一般的なため18),本試験 でも人為的な葉の切除を加えて被害の再確認を試み た.本試験の規模では,得られた結果を普遍的現象 として示すには十分でないが,防除を放置してどの ような被害が及ぶかの情報は思いのほか少ない1) そのため,事例の蓄積として相応の意義があると考 え,資料として公表するものである. Ⅱ 材料および方法 1 無防除で管理した露地栽培‘デラウェア’の樹 体生育と果実品質(試験 1)  大阪府立環境農林水産総合研究所(大阪府羽曳野 市)の露地圃場で,1963 年に 10a あたり約 23 本の 密度で定植し慣行栽培で維持してきたブドウ‘デラ ウェア’樹を用いた.試験は 1991 年~2003 年に行い, 石灰硫黄,ベノミル,硫酸銅,マンゼブ,マンネブ, メタラキシル,チオファネートメチル,フェニトロ チオン,マラチオン,ペルメトリンなどを成分とす る農薬を年間 10~12 回施用する慣行区と,これら 殺虫・殺菌剤をすべて使わない無防除区を設け,3 樹をそれぞれに配した.雑草管理はすべて除草剤で 行った.結果母枝は長梢剪定とし,発生する新梢は No.

2 No.4 Numberof trees No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10 Numberof trees

Observing tree growth Figure 1, 2, 3 1991-1999 ● z ● ● y 3 ● ● ● 3

1991-1995 ● ●

1999-2003 ● ● ●

Defoliation by disease

v.s. Fruit characteristics Table 2 1999 ● ● 2 ● 1

2 Artificial defoliation v.s. Fruit characteristics Table 3 1996, 1998 ● 1 1 Examination Figure 4 Tested periods Result Theme Fruit characteristics

Composition of tested trees

with pesticide (Control) without pesticide

3 2

No.

1 No.3

z Black dots indicate the use in each examination theme.

y Tree of “No. 3” was replanted in 1996 and then omited from the examination.

(3)

除く)に調査した.また,用いた新梢は翌年 1 月に 基部 2~3 芽の節間で切り返し,全長と基部径およ び枯れ込み重を測定した.また,1996 年処理の新梢 については,翌年 4 月の発芽から生存の有無を判別 した.  得られたデータは,年度の異なる結果を並列に比 較できるよう,それぞれの年の無処理区の平均値を 100 としたときの比数で扱うこととし,年度別に各々 の無処理区との有意差を Dunnett 法(発芽の有無に ついては Fisher の正確確率法)で比較した. 3 落葉被害を模した葉の切除が鉢植え‘デラウェ ア’樹の新梢と果実品質に及ぼす影響(試験 3)  マサ土とピートモスを体積比 1:1 で混合した土 を用土とした約 10 リットルの素焼き鉢に 1 樹ずつ 定植し,慣行防除で管理している 5 年生‘デラウェ ア’(5BB 台)の鉢植え樹を用い,1999 年~2000 年 に試験を行った.供試樹には,緩効性肥料(N: P2O5:K2O = 10:18:15 有効期間 100 日)を 1 樹 当たり年間で 50g 施用した.1999 年,各樹から発生 する新梢を芽かきによって 1 本伸ばし,生育途上に 全葉を切除する,葉身の 3/4 を切除する,葉身の半 分を切除する 3 種類の処理を行った.処理は 1999 年 6 月 7 日,収穫前の 7 月 21 日,収穫後の 9 月 2 日の 3 時期に,その時点の新梢に着生する全ての葉 に行って合計 9 の処理区とし,これに無処理区を加 えて各 4 樹計 40 樹を配した.着房は,新梢当たり 2 花(果)房とし,ジベレリン 100 ppm の 2 回処理を 施し,すべて白色の傘紙を掛けた.新梢は摘心しな かったが,副梢は 2 葉を残して切除した.成熟果房 は 7 月 30 日に収穫し,試験 1 と同様に果実品質を 調査し,各果 2 果房の平均をその個体の値とした. 新梢は 9 月 17 日に新梢ならびに副梢の着葉数を計 数し,翌年の 1 月 14 日に 2~3 芽を残して剪定した.  葉の切除が翌年の生育に及ぼす影響を明らかにす るため,全ての個体について翌 2000 年も樹あたり 1 本の新梢を伸ばして各 2 果房を着生させた.葉の切 除は行わなかったが,副梢の処理を含め,それ以外 の栽培管理は 1999 年と同様に行った.ジベレリン 1 回目処理を行った 5 月 12 日に主穂の長さ(以下, 主穂長)を測定した.また 8 月 1 日に収穫した果実 について,1999 年と同様の方法で各樹の果実品質を 2:色付いているものの全粒の半分以下,3:色付き が全粒の半分を超えるが明らかに緑色部が残る,4: 全粒が色付くものの完全着色には及ばない,5:濃 い紫褐色に完全着色,で指数化した),果汁の Brix 値(以下,糖度)と NaOH(0.1N)による滴定酸度(以 下,酸度)を測定した.なお,1992 年と 1997 年に 果房の外観を写真撮影した.  さらに,1999 年には,慣行区 1 樹と無防除区 2 樹 の新梢について,落葉被害と果実品質および新梢の 枯れ込み程度との関係を調査した.すなわち,7 月 29 日に,慣行区からは無作為に 15 本,無防除区か らはべと病の症状を伴って,枯損や落葉が始まって いるといった葉の損傷が様々に異なる新梢を各 15 本の計 45 本選び,その第 2 果房の果実品質(果粒 の無核率を除く)を前述と同様に調査した.また, 被害の指標とすべく,新梢とその副梢に着生してい る葉の数(着葉数)と離脱跡の節数(落葉数)を 9 月 8 日に計数した.また,翌年 1 月 14 日に,木部 が淡緑色で水分が保たれているか否かから判断した 新梢と副梢を併せた枯れ込み部分の乾燥重量(枯れ 込み重)を測定した.そして,新梢および副梢それ ぞれにおける着葉数と落葉数の計 4 つを説明変数, 果実品質の各特性と枯れ込み重を目的変数として重 回帰分析を行った. 2 落葉被害を模した葉の切除が露地栽培‘デラウェ ア’樹の新梢と果実品質に及ぼす影響(試験 2)  試験 1 と同一圃場の‘デラウェア’で,慣行防除 で栽培する別の 1 樹を用いて試験を行った(Table 1). 1996 年 5 月 9 日,5 月 31 日,7 月 2 日,7 月 11 日に, 正常に生育しているそれぞれ 3 本の新梢に対して, 全葉を切除する,新梢の基部側半分の葉を全て切除 する,先端側半分の葉を全て切除する,の 3 種類の 切除を行って処理区とし,別の新梢 9 本を切除しな い無処理区とした.また,同年実施できなかった 6 月の処理を補完するため,1998 年 6 月 5 日に同一樹 の新梢各 3 本に同じ 3 種類の葉の切除を行い,別の 7 本を無処理とした.以上,両年を併せた処理区を 時期 5 区と手法 3 区の計 15 区,無処理をそれぞれ 1 区の計 2 区として試験を実施した.  葉を切除した 1996 年と 1998 年に,それぞれ各新 梢の第 2 果房の果実品質を試験 1 と同様(果皮色を

(4)

1).葉は枯損が進んで収穫期ごろから離脱が目立ち, 秋の着葉状況には両区に大きな違いが生じた(Fig. 2).主要病害には果房に生ずる晩腐病も挙げられる が,傘紙によって雨滴が遮断されたためか目立った 発生はなかった.無防除区ではつる割病も発生した 調査した.  得られた個体単位のデータについて,無処理区と の有意差を Dunnett 法により比較した.なお,9 月 2 日処理は葉の切除前に果実品質を調査しているた め,1999 年の果実品質データについては 9 月 2 日処 理区も無処理区に含めて扱った. Ⅲ 結   果 1 無防除で管理した露地栽培‘デラウェア’の樹 体生育と果実品質(試験 1)  無防除区では,6 月下旬には主に葉裏に灰白色の 菌糸が増殖するといったべと病被害が多発した(Fig. 16th June 25th June

Fig. 1  Leaves of ‘Delaware’ grapevines cultivated without pesticide in 1993. Symptoms of downy mildew disease spread on the lower side of leaves from late June.

Without pesticide 8th Aug 14th Oct + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + With pesticide

Fig. 2  Horizontally projected (in summer)and side (in autumn) canopies of ‘Delaware’ grapevines cultivated with (right) and without (left) pesticides, in 1991. Blue markers “+” indicate the defoliated leaves deciphered from the photographs.

31th July 1992 6th August 1997 With

pesticide

Without pesticide

Fig. 3  No obvious difference was observed in the apearance of bunches of ‘Delaware’ cultivated with (upper) and without (lower) pesticides.

(5)

式において,目的変数である,果房重,果粒重,果 皮色,糖度,酸度,枯れ込み重のうち,酸度と枯れ 込み重の重相関係数が比較的高く,回帰が有意と なった.また,説明変数のうち回帰係数が有意となっ たのは副梢落葉のみで,副梢の落葉が多い新梢ほど 果肉酸度が高く,冬季の枯れ込みが甚だしい傾向で あった(Table 2). 2 落葉被害を模した葉の切除が露地栽培‘デラウェ ア’樹の樹体と果実品質に及ぼす影響(試験 2)  結果は Table 3 に示すとおりである.まず新梢に ついては,全長と基部径にはいずれも無処理区と有 意差がなかった.しかし,全葉を切除した区の枯れ 込み重は試験した 5 月から 7 月の比較的後期に葉を 切除したほど大きい傾向があり,7 月 11 日の全葉切 除区と無処理区に有意差が認められた.また,7 月 11 日全葉切除区の新梢は越冬後の生存率が有意に低 かった.  果実品質のうち,果穂長,果房重,果粒数,無核率, 酸度についてはいずれの区も無処理区と有意差がな かった.しかし,全葉を切除した区では,比較的早 が被害は限定的であった.一方,虫害では,無防除 区でチャノキイロアザミウマ被害と思われる葉の萎 縮がやや目立ったが,べと病被害のような明らかな 枯損に至るものではなかった.また本虫の果実への 被害について,穂軸の褐変は確認しなかったが,少 なくとも果皮の被害は目立たなかった(Fig. 3).ブ ドウトラカミキリやブドウスカシバも重要害虫だ が,発生は局地性があり,少なくとも試験 1 での発 生はまれであった.このように,‘デラウェア’栽 培において殺虫・殺菌剤を不使用とすることで最も 変化したのはべと病の蔓延と,主にその影響と思わ れる早期落葉であった.  一方,無防除区の果実品質として,1991 年~1995 年,1999 年~2003 年の各 1 樹の事例を慣行区との 相対比として Fig. 4 に示した.無防除化から 5 年目 までの試験期間中,無防除区の果肉の酸度は,常に 慣行より値が高かった.しかし,他の項目は大きい 年もあれば小さい年もあり,少なくとも年々差が拡 大する様相は酸度も含めて認められなかった.  また,1999 年の供試樹では,新梢着葉,副梢着葉, 新梢落葉,副梢落葉の 4 つを説明変数とした重回帰 40 60 80 100 120 140 1 2 3 4 5 R at io t o co nt ro l

Years after free-pesticide (%) Weight of bunch No.1 No.4 40 60 80 100 120 140 1 2 3 4 5 R at io t o co nt ro l

Years after free-pesticide

Ratio of seedless berries (%) No.1 No.4 40 60 80 100 120 140 1 2 3 4 5 R at io t o co nt ro l

Years after free-pesticide

Weight of Seedless berry (%) No.1 No.4 40 60 80 100 120 140 1 2 3 4 5 R at io t o co nt ro l

Years after free-pesticide

Skin coloring z (%) No.1 No.4 40 60 80 100 120 140 1 2 3 4 5 R at io t o con tro l

Years after free-pesticide

SSC of juice y (%) No.1 No.4 40 60 80 100 120 140 1 2 3 4 5 R at io t o co nt ro l

Years after free-pesticide

Acidity of juice x

(%)

No.1 No.4

Fig. 4  Fruit characteristics of two samples of ‘Delaware’ grapevines cultivated without pesticides, from 1991 (“No. 1”), and from 1996 (“No. 4”). Shown is the ratio to grapevines cultivated conventionally with

use of pesticides, which corresponds to 100 (indicated by horizontal line).

z Color index: coloring index of fruit skin, from faintly (1) to complete (5). y SSC: Brix° of refrect meter as soluble solids concentration.

(6)

年 7 月 21 日切除区の果粒重が小さく酸度が高いと いうのが無処理区との有意差を認めた特性であっ た.葉身の 3/4 や 1/2 の切除で無処理区との有意差 を認めたのは,前年 7 月 21 日の 1/2 切除区で糖度が 優ったのみで,それ以外で有意差はなかった. Ⅳ 考   察  慣行露地栽培の‘デラウェア’を無防除で栽培す ると,被害が目立ったのは主にべと病によると思わ れる葉の損傷と離脱であった(Fig. 1;Fig. 2).べと 病は開花前から発生し,葉だけでなく,花穂や幼果 にも被害が及ぶ場合が知られている19).しかし,試 験 1 の病徴はほぼ葉に生じており,主に問題とすべ きは葉の同化能力低下3)による果実生産や樹体生育 への間接的影響と考えられた.これら無防除樹の果 実について,果房重,無核化率,果粒重,果皮色, 糖度に慣行防除樹との明瞭な差異はなかったが,果 汁の酸度がやや高く(Fig. 4),新梢の冬季の枯れこ みが目立ち,これらの特徴には副梢の落葉数との因 果関係が認められた(Table 2).  そこでこれら被害の再確認と原因の考察を目的 に,人為的な葉の切除の影響を調査した.ブドウで の葉の切除試験は,同化養分の転流や最適な結果量 など,その目的は異なるものの,過去にいくつかの 報告がある8, 9, 10, 12, 15, 17).葉の切除は同化能力が突 然失われるものの,再生した副梢葉などで時間を置 期の葉の切除で果粒重が小さく糖度が高い傾向があ り,果粒重は 5 月 31 日と 6 月 5 日の全葉切除区, 糖度は 5 月 9 日と 5 月 31 日の全葉切除区で無処理 区との有意差を認めた.ただし,新梢の基部側ある いは先端側のみの葉の切除では,いずれの調査項目 でも無処理区と有意差のある区はなかった. 3 落葉被害を模した葉の切除が鉢植え‘デラウェ ア’樹の新梢と果実品質に及ぼす影響(試験 3)  葉の切除を行った年の結果は Table 4 に示すとお りである.着葉数を無処理区と比較すると,全葉切 除区でも切除後に伸びた新梢部分で着葉はしたが, その数は少なく,特に着葉の調査日に近い 9 月 2 日 の全葉切除区で有意に少なかった.一方,副梢の着 葉は 6 月 17 日と 7 月 21 日の切除区で多い傾向があ り,特に 6 月 17 日の全葉切除区で有意に多かった.  果実品質については,収穫前の 6 月 17 日と 7 月 21 日の葉の切除の影響を確認した.まず,全切除の 場合は 6 月 17 日の処理で無処理区に比べて果粒重 が小さく,果皮色が劣り,糖度が低く,酸度が高く なり,これら全ての項目で有意差が認められた.葉 身の 3/4 や 1/2 の切除で無処理区との有意差を認め たのは,7 月の 3/4 切除区で果皮色が優ったのみで, それ以外で有意差はなかった.  葉の切除翌年の果実の特性は Table 5 に示すとお りである.全葉切除を行った区では,前年 6 月 17 日切除区の主穂長と果房重が小さく糖度が高い,前

Multiple correlation coefficient 0.280 ns v 0.331 ns 0.276 ns 0.255 ns 0.498* 0.652 **

Shoots 0.796 ns 0.008 ns -0.009 ns -0.014 ns 0.002 ns 0.114 ns Lateral shoots 0.236 ns -0.001 ns -0.004 ns -0.001 ns 0.000 ns -0.128 ns Shoots 0.996 ns 0.001 ns -0.003 ns -0.016 ns 0.001 ns -0.012 ns Lateral shoots 0.031 ns 0.001 ns 0.005 ns -0.002 ns 0.003* 0.289** s n 5 . 2 * * 8 5 . 0 * * 9 . 0 2 * * 9 . 3 * * 4 5 . 1 * * 3 . 3 2 1 )t p e c r e t n I (

Regression coefficient of explanatory variableu Remained Defoliated k c a b ei D ti u r F weight of shoot w Acidity of juice x SSC of juice y Skin coloring z Weight of seedless berry Weight of bunch

z  Color index: coloring index of fruit skin, all of berries are yellow green (1), more than half of berries are yellow green (2), more than half of

berries are purple brown (3), all of berries are purple brown (4), and all of berries are dark purple brown (5).

y SSC: Brix° of refrect meter as soluble solids concentration. x Acidity: titratable acid(g/100ml)with NaOH(0.1N). w Dry weight of shoot parts died in winter.

v Significance of regression at 1% (**), 5% ()level, and non-significant (ns).

u Number of the leaves remained or defoliated were counted on the shoots and lateral shoots in September 8 1999.

Table 2  Multiple regression analysis between fruit characteristics and shoot dieback, and the number of leaves on September 1999 of ‘Delaware’ grapevines cultivated in an open field.

(7)

Yea r M et ho d D at e Day s af te r b ud bu rs t 9-M ay 23 79 u 10 2 53 10 0 95 67 76 10 1 91 10 5 * 10 4 31 -M ay 45 70 86 66 10 0 10 0 64 84 10 1 84 * 10 6 ** 87 2-Ju l 77 12 0 10 5 33 4 67 11 4 10 1 78 10 1 10 8 99 88 11 -J ul 86 12 3 10 5 51 7 ** 33 * 11 3 94 10 7 10 1 98 10 1 11 8 9-M ay 23 78 99 96 10 0 93 73 71 10 1 91 10 2 11 5 31 -M ay 45 66 96 10 8 10 0 11 0 99 89 10 1 91 10 1 99 2-Ju l 77 11 6 10 8 19 5 67 10 1 84 10 0 10 1 90 10 1 10 8 11 -J ul 86 14 5 99 11 7 67 10 8 87 91 10 1 99 10 0 10 2 9-M ay 23 93 10 6 10 1 10 0 10 2 86 11 0 10 1 10 7 10 1 10 7 31 -M ay 45 13 9 11 7 94 67 12 3 89 10 3 10 1 84 10 2 93 2-Ju l 77 12 3 10 7 92 67 11 3 77 10 2 10 0 11 0 99 98 11 -J ul 86 10 8 94 16 4 67 10 8 10 0 98 10 1 10 3 10 1 10 3 001 00 1 00 1 00 1 00 1 00 1 00 1 00 1 00 1 00 1 00 1 N t l m0 01/ g 16. 0 0.1 9 19 98 A 5-Ju n 64 71 91 83 -95 92 80 10 1 86 * 97 96 T 5-Ju n 64 78 93 84 -92 95 10 1 10 0 91 10 1 98 B 5-Ju n 64 10 5 10 2 14 8 -97 10 0 94 10 0 94 10 0 96 N 5-Ju n 64 10 0 10 0 10 0 -10 0 10 0 10 0 10 0 10 0 10 0 10 0 l m0 01/ g 36. 0 0.8 7 -mc 4.0 1 mc 56 1 7. 4 m m 10 0% 1. 63 g 20 .4 ° g 92 1 g 2.6 T 19 96 22 .1 ° g 14. 1 %5. 99 mc 4.7 g 4.4 m m 4.7 g 83 1 mc 83 2 Ac id ity o f ju ic e v Ra tio o f see dl es s be rr ies W eig ht o f bu nc h Be rr y nu mb er pe r b un ch B W eig ht o f see dl es s be rr y SS C of ju ic e w A Sh oo ts Su rv iv in g ra tio x 100 % Tr ea tm en t o f d ef ol iat ion z Fr ui ts Le ng th Ba sa l di am ete r D ieb ac k w eig ht y Le ng th o f bu nc h z  Grapevines cultiv ated conventionally

with pesticides were used. Entire leaves of all

“ A ”, apical “ T” or basal “ B

” of half of the shoots

were removed on May 9, May 31, July 2, and July 1

1 in 1996, and June 5

in 1998, and not removed

N

” in each year

.

y 

Dry weight of shoot parts died in winter

.

x 

Percentage of the shoots surviving in next spring.

w 

SSC:

Brix

° of refrect meter as soluble solids concentration.

v 

Acidity: titratable acid

( g/100ml ) with NaOH ( 0.1N ). u 

The data shown

as the ratio to the mean values for

N

”(

= 100

) of the respective year

. Significant dif ferences relative to “ N ” are indicated by *( P<0.05 ), or **( P<0.01 ). Analytical

methods for analyzing

the surviving ratio was Fisher

's exact test and Dunnett

's test were used for the other parameters.

t 

Mean values recorded for the shoot of

“ N ” in each year . Table 3   Ef

fect of artificial defoliation on the shoots of the current season and fruit characteristics of

Delaware

(8)

M et ho d D at e 17 -J un 12 .8 45 .0 * u 57 .8 22 .0 20 .3 1. 0 ** 96 .1 1. 4 ** 14 .1 ** 1. 00 ** 21 -J ul 14 .5 37 .3 51 .8 32 .3 18 .8 1. 7 92 .0 3. 8 20 .8 0. 59 2-Se p 1. 5 ** 29 .8 31 .3 * 17 -J un 25 .0 41 .5 66 .5 31 .4 22 .3 1. 4 97 .9 4. 0 21 .5 0. 73 21 -J ul 30 .8 37 .8 68 .6 38 .6 22 .3 1. 7 96 .4 4. 8 * 21 .2 0. 66 2-Se p 21 .0 26 .8 47 .8 17 -J un 24 .5 39 .3 63 .8 32 .2 21 .4 1. 5 97 .1 3. 8 22 .0 0. 74 21 -J ul 24 .3 30 .8 55 .1 37 .6 20 .5 1. 8 90 .7 4. 5 21 .9 0. 66 2-Se p 22 .5 27 .3 49 .8 56. 0 5.2 2 1.4 8.3 9 0.4 2 8.1 5 0.7 2 8.4 2 N W eig ht o f bu nc h (g ) Be rr y nu m be r p er bu nc h (g ) Tr ea tm en t o f d ef oli at ion z 37 .1 Sk in co lo rin g x W eight o f se ed les s be rr y (g ) SS C of ju ic e w (° ) Ac id ity o f ju ic e v (g /1 00m l) A P3/4 Lea f n um be r on s hoot p er tree (A ) Fr ui t Le af numb er on la te ra l sho ot s pe r tre e (B ) To ta l l ea f numb er (A +B ) 1. 6 g Ra tio o f see dl es s be rr ies (% ) P1 /2 z  Potted trees with one shoot were used. The entire leaf “ A ”, three-quarters “ P3/4 ”, or half “ P1/2 ” of every leave blades was removed

on June 17, July 21, and

September 2 in 1999. No artificial defoliation: “ N ”. x 

Color index: coloring index of fruit skin, from faint

( 1) to complete ( 5) . w  SSC: Brix

° of refrect meter as soluble solids concentration.

v 

Acidity: titratable acid

( g/100ml ) with NaOH ( 0.1N ). u  Significant dif ferences relative to “ N ” ( Dunnett 's test ) are indicated by *( P<0.05 ), or **( P<0.01 ). Table 4   Ef

fect of artificial defoliation on shoots of the current season, and fruit characteristics of

Delaware

’ grapevines cultivated in 10 L

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葉が再生するものの,‘デラウェア’の葉面積拡大 には 1 か月程度を要するとされており17),その間は 葉の生長に同化養分を浪費し,生育第Ⅲ期(7 月上 旬~下旬)6)にはまだ糖の供給態勢が不十分で,果 粒肥大だけでなく糖蓄積も妨げたと推察される.6 月 17 日の全葉切除では切除年の着色の低下も有意 であったが,着色は糖度と連動する関係にあること から5)同様の結果が得られたものと考えられる.ま た,同じ全葉切除でも 7 月 21 日の切除で糖度や着 色の低下がなかったのは,この時ほぼ糖蓄積が完了 していたからであろう.  しかしながら,試験 1 では,こういった果粒肥大, 糖度,着色に明らかな減少や葉被害との因果関係は 確認されなかった(Fig. 4,Table 2).べと病の蔓延 は 6 月下旬ごろからで,生育第Ⅰ期の段階では養分 生成能力はさほど低下しておらず,果粒肥大への影 響は少なかったと推察される.試験 2 や試験 3 で, 部分的な切除では全葉切除と違っていずれも果粒肥 大に有意な影響がなかったことも,この推察を裏付 ける結果と言えよう.また,葉被害の時期が同化養 分の影響が大きい生育第Ⅲ期と重なったにもかかわ らず,糖度についても試験 1 の供試樹での明確な低 下や葉被害との因果関係は確認されなかった(Fig. 4,Table 2).これに関して,この時期の‘デラウェア’ の増糖に必要な新梢あたりの葉枚数は 12 枚程度で 足りるとの報告がある10).また,べと病に罹患した 葉であっても緑色が保たれている部分は通常の光合 いて復元するなど,病害による落葉とは現象的にも 差があって,単純な比較は難しいが,ブドウでのべ と病罹病葉の同化能力を直接測定した知見が限られ る3)中では,これらの結果が葉の損傷の実害を考察 する手がかりとなろう.  まず,葉の切除では,果粒の肥大や糖度を抑制す る事例が過去の多くの報告で示され8, 9, 10, 12, 17),同 化養分の供給不足が原因と考えられる.同化養分の 果実への分配は,その生育ステージで大きく異なり, 露地栽培‘デラウェア’では,生育第Ⅰ期と第Ⅲ期 に多く分配され,第Ⅰ期は果粒肥大に関わる細胞数 の増加,第Ⅲ期は大半が糖の蓄積に利用される11) 本試験では,全葉を切除した場合,試験 2 では 5 月 31 日と 6 月 5 日(Table 3),試験 3 では 6 月 17 日の 切除で果粒肥大の抑制を確認した(Table 4).これ らの期間は果実の生育第Ⅰ期にあたり6),この時期 の全葉切除が果肉組織の細胞分裂を急減させ,果粒 肥大を阻害したことが容易に推定される.また,果 房重や果粒重では,葉の切除の影響が翌年にまで及 んだ事例が報告されていて12, 15),翌年の果房重や果 粒重が小さい傾向は試験 3 の全葉切除でも認められ た(Table 5).これは,花芽分化に必要な養分が不 足して生じたと推定されており15),試験 3 の葉の切 除翌年の結果についても同様の理由が該当すると思 われる.また,糖度については,試験 3 の 6 月 17 日の全葉切除で切除の年に有意な低下を認めた (Table 4).葉の切除自体は 6 月中旬で,その後副梢 Method Date 17-Jun 3.0 ** v 40.7 * 38.5 1.1 98.5 4.0 23.1 * 0.46 21-Jul 4.4 54.1 54.0 1.1 * 100.0 4.1 22.0 0.48 * 2-Sep 4.3 64.9 57.3 1.1 97.7 4.1 22.0 0.42 17-Jun 4.6 62.4 50.8 1.4 99.8 4.0 22.0 0.44 21-Jul 4.1 71.5 48.0 1.6 98.1 3.9 21.2 0.46 2-Sep 4.6 66.1 49.4 1.4 97.8 3.9 21.6 0.44 17-Jun 4.8 75.0 54.9 1.3 99.0 4.0 21.5 0.41 21-Jul 4.1 65.4 48.9 1.4 99.7 4.0 22.5 * 0.46 2-Sep 4.1 74.2 50.1 1.4 100.0 4.1 21.5 0.44 2 . 4 N 49.1 1.4 99.3 4.0 21.5 0.42 A P1/2 Weight of seedless berry (g) SSC of juice x (°) Skin coloring y 67.9 Berry number per bunch Treatment of defoliation z Length of

flower rachis (cm) Fruit Weight of bunch (g) P3/4 Ratio of seedless berries (%) Acidity of juice w (g/100ml) z, y, x, w, v See Table 4.

Table 5  Effect of artificial defoliation on fruit characteristics of the following season in ‘Delaware’ grapevines cultivated in 10 L pots.

(10)

れていて4, 7),葉が除かれて枝の養分貯蔵が減少し たことが枯損の主な理由として挙げられよう.試験 1 で 6 月下旬から始まった葉の損傷は前述のとおり 樹の全葉切除に値するほどではないと推定されるも のの,その後落葉が進行して明らかに早期落葉した (Fig. 2).試験 2 の部分的な葉の切除で再現されな かった枯れ込みが,試験 1 で観察されたのは,同化 力において,前者では残した新梢葉が健全なまま維 持されるとともに副梢葉の成葉化で葉面積が回復し たのに対して,後者は抑制された状態が収穫後も継 続したためであろうと推察される.  ブドウでの葉の損傷の事例は Eutypa 属菌の感染 による枝葉の被害でも報告があり,果実品質に大差 はないものの,冬枝の枯損とともに樹が衰弱し,年々 収量が低下したとされている14).試験 1 でも,1991 年から無防除を 9 年継続した樹は冬季の枯れ込みに よって翌年の結果母枝候補が漸減する傾向にあっ た.そして,無防除化 3 年目あたりから慣行区と同 程度の数の結果母枝が確保し難くなるとともに,側 枝や亜主枝の切り戻しを余儀なくされ,1 樹は無防 除開始 5 年後に再生産不可能な状況にまで衰弱し, 残りの樹も当初 80 本/樹ほどあった結果母枝が 9 年目には数本しか残せない状態に落ち込んだ.冬季 枯れ込みに伴う樹体の衰弱は,病害等による葉の損 傷の共通の影響と言えるかも知れない.  以上,病害虫防除に関して傘かけによる物理的手 段を用いながらも,殺虫・殺菌剤を使わなかった露 地栽培ブドウ‘デラウェア’では,主にべと病に由 来すると思われる葉の枯損が多発した.また,その 実害としては,果実の減酸抑制とともに,冬季の枝 枯れを通じた樹体衰弱が大きいと考えられた.当然 ながら果実収量が年々低下する事が予想され,それ を防ぐ意味でべと病の防除は露地栽培のデラウェア の栽培上不可欠な作業であると考えられた.もちろ ん,病害虫の被害は年次や栽培環境によって変化す るので,今回の供試樹での結果は一事例の域を出な いものである.べと病一つ取っても,農薬削減の影 響についての情報はまだまだ不足しており,普遍的 な評価にはより多くの事例の蓄積が望まれる.  また,農薬削減については異なる前提での評価も 必要であろう.今回は慣行の露地栽培から単純に農 薬を除いた影響を確認したが,例えば,試験 1 でベ 成能力を持つとされる3).従って,試験 1 での葉の 損傷については,試験 2 や試験 3 の部分的な葉切除 と同様に,見かけの光合成速度が最低限の葉面積に 匹敵するだけの能力が確保されていたことで,糖度 への明確な影響が生じなかったと思われる.また, 果実への糖の転流は,果実が着生する新梢以外の器 官からも行われているとされており11),試験 1 や試 験 2 では,旧枝や比較的葉被害の軽微な新梢から養 分が供給された可能性がある.新梢が 1 本しかなく, かつ旧枝部分もごくわずかしかない試験 3 の全葉切 除にのみ糖度への影響が生じ,全葉とはいえ切除が 全樹体中一部の新梢であった試験 2 で糖度低下が認 められなかったのも,この可能性を裏付ける結果と 言えよう.  次いで高酸は,試験 1 の無防除区の唯一の特徴と して示された果実品質で(Fig. 4),葉の損傷との因 果関係も認められた(Table 2).試験 3 でも,7 月 21 日の葉切除では明らかでなかったものの,6 月 17 日の全葉切除で切除年での有意な高酸を認めた (Table 4).葉の切除が果実の高酸に結びついた例は, ‘デラウェア’を含むブドウでも報告がある9, 10, 17) このうち ‘デラウェア’での報告によると10),果汁 の酸度は成熟第Ⅲ期に入ると成熟の進行とともに急 速に低下する.この間,比較的早期に葉の切除を行 うほど,切除後の減酸自体は持続するものの,早い うちから減酸が衰えることで,同一の満開後日数で 比較すると酸度が高くなる.試験 3 で成熟第Ⅲ期後 半の 7 月 21 日より,成熟第Ⅲ期より前の 6 月 17 日 切除でその年の顕著な高酸を招いたのもその反映と 考えられ,試験 1 でも,6 月からの葉の損傷の進展が, 成熟果の高酸に結びついた可能性がある.もっとも, 果粒肥大や糖度の増加に比べて減酸に関わる樹体条 件は知見が少なく,試験 1 の落葉被害との因果関係 を認めたのが酸度のみであったことについては,今 のところ明確な理由は不明である.  一方,早期落葉した枝は冬季の枯れ込みが懸念さ れる13).試験 1 の無防除樹では,冬季の新梢(結果 母枝)の枯れ込みが目立ち,落葉被害との因果関係 が認められた(Table 2).試験 2 の葉の切除でも,7 月 11 日の全葉切除で枯れ込み重が有意に大きく, 生存率が低かった(Table 3).ブドウの場合も,冬 季の枝枯れは養分蓄積との関連が大きいことが知ら

(11)

年数とともに樹体を衰弱させたものと推察された.

引 用 文 献

1) Bunea, C. I., M. Ardelean, N. Pop, A. Bunea, A. Babes and A. Calugar: Influence of variety and type of cultivation (organic and conventional) on quality, in five wine grape varieties, grown in Cluj county, Romania, Bull. UASVM Hort., 67, 179-182, 2010. 2) 深谷昌次・桐谷圭治:被害解析と被害予測,総

合防除,74-83,講談社サイエンティフィック, 東京,1973.

3) Giuntoli, A. and S. Orlandini: Effects of downy mildew on photosynthesis of grapevine leaves, Acta Hort., 526, 461-466, 2000.

4) Hamman, R. A., I. E. Dami, T. M. Walsh, and C. Stushnoff: Seasonal carbohydrate changes and cold hardiness of Chardonnay and Riesling grapevines, Am. J. Enol. Vitic., 47, 31-36, 1996.

5) 平田克明:第 2 章果実の成熟と追熟(5)ブドウ, 33-37,伊庭ら編著,果実の成熟と貯蔵(改訂版), 養賢堂,東京,1993. 6) 稲葉昭次:デラウェアブドウ果実の成熟に関す る生理学的研究―とくに植物ホルモンとの関係 について―,京都大学学位論文,1-137,1975. 7) Jones, K. S., J. Paroschy, B. D. Mckersie, and S. R.

Bowley: Carbohydrate composition and freezing tolerance of canes and buds in Vitis vinifera, J. Plant Physiol., 155, 101-106, 1999.

8) Kliewer, W. M.: Effect of time and severity of defoliation on growth and composition of ‘Thompson Seedless’ grapes, Am. J. Enol. Vitic.,

21, 37-47, 1970.

9) Kliewer, W. M. and A. J. Antcliff: Influence of defoliation, leaf darkening, and cluster shading on the growth and composition of Sultana grapes, Am. J. Enol. Vitic., 21, 26-36, 1970. 10) 松井弘之・湯田英二・中川昌一:ブドウ‘デラウェ ア’果実の成熟生理に関する研究(第 1 報)果 粒中の糖蓄積に及ぼす新梢上の葉数及び果粒中 の多糖類,有機酸の変化,園学雑,48,9-18, 1979. レーゾン期以降の副梢を落葉度に応じて温存したよ うに,同化器官の除去を意図的に省くことで,病害 による葉の損傷が補償できないかは興味が残る.副 梢の存在は養分浪費の一面もあって,新梢との時系 列の物質収支についてはさらに究明を要するが,結 果として貯蔵養分確保に寄与できる副梢温存の時期 や程度が明らかになれば,手間を省いて便益を得る という合理的な対応が提案できる.むろん,高酸化 の問題だけを取っても,生食用の高品質ブドウを殺 虫・殺菌剤なしで生産するのは現実的とは思えない が,担い手の減少や高齢化が進行する中,果実をワ インなど加工用に仕向けることで,労力的に管理が 難しい現状を打開する動きもある.ワインの場合, 原料果実の酸度は比較的高い方が良いなど16),生食 とは求められる条件が異なり,省力的な栽培が受け 入れられ易い側面も考えられる.農薬削減の影響評 価においても,より多様な前提での事例蓄積が望ま れるところである. Ⅳ 摘   要  殺虫・殺菌剤を使わず栽培した無防除区の露地栽 培‘デラウェア’樹では,べと病の蔓延が目立ち収 穫期ごろからの落葉が多発した.果実品質ではやや 酸度が高い特徴が観察された以外,慣行栽培樹と異 なる傾向は認められなかった.しかし,新梢は冬季 の枯れ込みが多く,供試樹は年々衰弱して結果母枝 の確保が困難となった.  落葉被害が無防除区の特徴であったことから,立 木や鉢植え樹を使って様々な時期や規模で人為的に 葉を切除し,果実品質と新梢生育への影響を確認し た.その結果,果実生長第Ⅰ期に相当する 5 月末~ 6 月中旬に全葉を切除した場合に果粒の肥大や着色, 糖度の低下,酸度の増大が認められた.一方,葉の 切除が部分的な場合や,果実生長第Ⅲ期である 7 月 中旬以降の場合には明らかな影響は認めなかった. 一方で,冬季の枯れ込みは 5~6 月よりも 7 月の葉 の切除で助長された.  以上から,露地栽培‘デラウェア’において,殺虫・ 殺菌剤の不使用で顕在化した葉の損傷は,果実生長 第Ⅲ期以降の同化養分の供給を阻害し,果実品質へ の影響は少ないものの,冬季の枯れこみを助長し,

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15) 中川昌一:ブドウの受精の生理と果実の発育な らびに成熟,104-111,ブドウ栽培の新技術,誠 文堂新光社,東京,1962. 16) 奥田 徹:ワイン製造のための原料ブドウの品 質, 日 本 食 品 化 学 工 学 会 誌,64,278-282, 2017. 17) 高橋国昭:ブドウの適正収量に関する研究,島 根農試研報,21,1-104,1986. 18) 田村市太郎:作物損傷の生態,誠文堂新光社, 東京,1949. 19) 田中寛康:果樹/ブドウ,岸国平編,日本植物 病害大事典,853,全国農村教育協会,東京, 1998. 11) 松井弘之・湯田英二・中川昌一・今井克太:ブ ドウ‘デラウェア’における光合成産物の転流 と分配,園学雑,54,184-191,1985.

12) May, P., N. J. Shaulis, and A. J. Anfcliff: The effect of controlled defoliation in the Sultana vine, Am. J. Enol and Vitic., 20, 237-250, 1969.

13) 三好武満・平田克明・柴  寿:ブドウねむり 病の発生機構と原因について,長野農試報, 33,86-92,1968.

14) Munkvold G. P., J. A. Duthie, and J. J. Marois: Reductions in yield and vegetative growth of grapevines due to Eutypa dieback, Phytopathol., 84, 186-192, 1994.

Table 1 Composition of the trees of  ‘Delaware’  grapevines used in the field examination.
Fig. 3  No obvious difference was observed in the apearance of bunches of
Fig. 4  Fruit characteristics of two samples of  ‘Delaware’  grapevines cultivated without pesticides, from 1991
Table 2  Multiple regression analysis between fruit characteristics and shoot dieback, and the number of leaves on September 1999  of  ‘Delaware’  grapevines cultivated in an open field.
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