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脳血管障害患者の歩行再建と高次脳機能障害のかかわり

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 801 ~ 802 脳血管障害患者の歩行再建と高次脳機能障害のかかわり 頁(2015 年). 801. 分科学会シンポジウム 8(日本神経理学療法学会). 脳血管障害患者の歩行再建と高次脳機能障害のかかわり* 中 村 学**. 日本人の死亡原因と死亡率において,脳血管疾患による死亡. の安定に必要な情報の入力・統合と運動出力の調整が必要不可. 率は悪性新生物,心疾患,肺炎に次いで 2013 年度では第 4 位. 欠で,高次脳機能として脳内で処理・統合されている。これら. となっている 1)。一方で我が国の社会的因子として人口の高齢. のメカニズムが脳血管障害によりどの部分を障害されたか理解. 化が問題となっており,脳血管疾患の高齢発症や罹患患者数は. し,治療アプローチまで結びつけることがセラピストに求めら. 年々増加傾向である。このような背景から,我が国では脳血管. れる。. 疾患の生存率が増加する一方で高齢発症や多臓器障害などを合. 重症例の立位・歩行練習では,まず姿勢制御障害に対してア. 併しやすく,脳血管疾患の患者像は高齢化に加え,多様化・重. プローチしていくが,脳血管疾患患者は運動麻痺に加え先行随. 症化しているといえる。. 伴性姿勢調節・適応的姿勢調節能力や抗重力機能の障害が生じ. 当院回復期病棟においても地域の急性期病院から患者が回復. ている。このため,座位保持すらできず難渋することもあるが,. に向け入院してきているが,発症から入院までの日数は重症例. 骨盤前傾位をとることが困難である座位では,この抗重力機能. も軽症例とほぼ変わらず,この傾向は全国でも変わらない。回. 障害を呈した脳血管障害者は圧倒的に不利である 4)。体幹の抗. 復期入院基本料も基準Ⅰが厳格化され,看護必要度 A 項目を. 重力伸展機能が不十分な状態では下肢の各関節に大きなモーメ. 導入するなど,重症例の早期受け入れ,そして積極的かつ質. ントが負荷され,麻痺筋では対応できない。したがって,骨盤. と量を兼ね備えたリハビリテーションの必要性が高まってい. 前傾位を比較的容易にとることのできる立位または座面を高く. る. 2). 。. した座位での練習から開始し,姿勢制御やバランス練習を実施. 重症例に対する歩行再建と問われると「歩行再建が最優先で. することも選択肢のひとつとして考慮すべきである。. はない」と指摘する療法士も少なからずいると思われる。大抵. また,臨床で歩行再建に難渋するのは,半側空間無視症例. の場合,重症例は運動麻痺が重度で座位や立位がとれず,ADL. や Pusher 症例など,高次脳機能障害を合併する例である。こ. 場面でも介助が必要な症例が多いだろう。それは姿勢制御や歩. こではそういった症例の垂直認知能力から臨床へつながるア. 行に必要な能力が多く障害を受けているからだと考える。した. プローチについて述べる。脳血管障害患者の垂直認知能力. がって,なにが障害され,どのような症状を呈するかを把握. について,先行研究では主観的視覚垂直(Subjective visual. し,それに対する適切なアプローチが必要であることはいうま. vertical:以下,SVV)や主観的身体垂直(Subjective postural. でもない。歩行再建に向けて,歩行を評価し,歩行に対してア. vertical 以下,SPV)についての報告が多い. プローチすることが重要である。. にて眼前にある視覚指標(白い棒など)が水平位から回転し,. 脳血管障害者の歩行再建に必要なものを挙げると,大きく分. 主観的に垂直と感じた時点の角度を測定する。SVV は元々耳. けて患者の身体機能,高次脳機能,セラピストの技術・能力が. 鼻科における前庭機能検査として使用されているもので 8),視. 挙げられる。患者の身体機能には①網様体脊髄路などによる抗. 覚・前庭覚からの入力がおもに関与する。これに対して SPV. 重力機能(姿勢制御・下肢抗重力伸筋活動),②下肢交互踏み. は閉眼にて回転する装置に身体を固定し,身体ごと傾斜させた. 出し(Central pattern generator(CPG)による歩行パターン. 後に垂直方向へ傾斜を戻し,主観的に垂直と判断した時点の. 生成),③平衡機能(前庭機能,固有感覚入力,視覚),④選択. 角度を測定する。SPV は体性感覚や内臓感覚,重力知覚の関. 。SVV は暗室. ,歩行が. 連が深いとされている 10)。半側空間無視症例といえば病巣と. すべて随意運動で成り立っておらず,姿勢制御能力や下肢の自. 反対側の様々な刺激に対して気づかない病態だが,SVV は麻. 動歩行機能,パッセンジャーユニットの平衡機能などが要素と. 痺側へ偏倚している 5)。また Pusher 症例では SPV が非麻痺. して含まれている。また歩行は外界の環境に適応しながら自身. 側もしくは麻痺側へ偏倚しているのが特徴的である 7)10)。程. 的下肢動作(皮質脊髄路:いわゆる随意性)があり. *. 3). 5–7). The Relation between Gait Reconstruction and Higher Brain Dysfunction of Stroke Patients ** 医療法人社団苑田会 竹の塚脳神経リハビリテーション病院リハビ リテーション科 (〒 121–0064 東京都足立区保木間 4–15–16) M a n a b u N a k a m u r a , P T : D e p a r t m e n t o f R e h a b i l i t a t i o n , Takenotsuka Noushinkei Rehabilitation Hospital キーワード:脳卒中,歩行再建,高次脳機能障害. 度の差こそあれ,座位や立位時にこの障害が影響してくるの は体幹の平衡機能である。人の脳は前庭皮質が高次前庭機能 を司っており,皮質下にてその損傷が起こると垂直認知障害, 半側空間無視などが生じる 11)。GVS などの前庭刺激では垂直 認知に変化を及ぼすと報告があり 12),SVV の障害が頭頸部の 平衡機能維持に影響を与えている可能性がある。また Pusher.

(2) 802. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 図 1 脳の機能局在と垂直認知機能,臨床症状について. syndrome の責任病巣は視床後外側腹側核に加え 13) 島後部や 中心後回,下頭頂小葉などといわれており 14),SPV の障害が 骨盤帯の偏倚(マルアライメント)に影響を及ぼすと考えられ る 15)(図 1)。 以上のことを念頭に置き,臨床にて座位・立位姿勢を観察し てみるとどの垂直認知モダリティの障害が体幹機能の逸脱に影 響し,どう介入していくかがアプローチのヒントとなる。残存 した垂直認知モダリティを利用する場合は視覚垂直,身体垂直 の残存した指標を用いて介入する。障害された垂直認知モダリ ティについては,障害により逸脱や偏倚した体幹のマルアライ メントを修正して歩行時に逸脱しない体幹機能の再建を図る。 Pusher 症例では視覚垂直の偏倚が少ないため,眼前に垂直指 標を提示しそこに身体を合わせるような運動が安定性を学習す る機会となる. 13). 。また,障害された身体垂直においても高座. 位や非麻痺側の壁を利用することで,体性感覚情報を増やし安 定する補助的役割を果たすことができる。歩行練習の際には, 障害された垂直認知障害により介助方法を変更する。 回復期病棟では重症傾向にある患者に対して,圧倒的に立 位・歩行に対する練習量が少ないように感じる。歩行練習量は 生活期において人的資源・制度的資源の制限からさらに不足す る。回復期病棟では歩行再建に向けて,できる限り歩行を阻害 する因子を減らしつつ,本質的な歩行練習を可能な限り多く実 施することが重要と考える。. 文 献 1) 厚生労働省ホームページ平成 25 年(2013)人口動態統計(確定数) の概況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei13/ (平成 27 年 7 月 1 日引用). 2) 岡本隆嗣,園田 茂,他:時論 回復期の現状と今後の行方─平 成 24 年度実態調査結果から.回復期リハビリテーション.2013; 12(2): 22–30. 3) 大橋正洋,野村 進:歩行の運動学 動画で学ぶ異常歩行の分析. 理学療法.2009; 26(1); 11–18. 4) 吉尾雅春:運動学的視点からみたクリニカルリーズニング 標準 理学療法学 神経理学療法学.吉尾雅春,森岡 周(編),医学書 院,東京,2013,pp. 318–326. 5) Saj A, Honoré J, et al.: Subjective visual vertical in pitch and roll in right hemispheric stroke. Stroke. 2005; 36: 588–591. 6) Yelnik AP, Lebreton FO, et al.: Perception of Verticality After Recent Cerebral Hemispheric. Stroke. 2005; 33: 2247–2253. 7) Karnath HO, Ferber S, et al.: The origin of contraversive pushing. evidence for a second graviceptive system in humans. Neurology. 2000; 55: 1298–1304. 8) 國 弘 幸 伸: 自 覚 的 視 性 垂 直 位(SVV).Equilibrium Res.2004; 63(6): 533–548. 9) Perennou DA: Postural disorders and spatial neglect in stroke patients: A strong association. Restor Neurol Neurosci. 2006; 24: 319–334. 10) Pérennou DA, Mazibrada G, et al.: Lateropulsion, pushing and verticality perception in hemisphere stroke: a causal relationship? Brain. 2008; 131: 2401–2413. 11) Brandt T, Strupp M, et al.: Towards a concept of disorders of “higher vestibular function”. Front Integr Neurosci. 2014; 47(8): 1–8. 12) Volkeninga K, Bergmannb J, et al.: Verticality perception during and after galvanic vestibular stimulation. Neurosci Lett. 2014; 581: 75–79. 13) Karnath HO, Broetz D: Understanding and Treating “Pusher syndrome”. Phys Ther. 2003; 83(12): 1119–1125. 14) Johannsen L, Broetz D, et al.: “Pusher syndrome” following cortical lesions that spare the thalamus. J Neurol. 2006; 253(4): 455–463. 15) Pérennou DA, Amblard B, et al.: Understanding the pusher behavior of some stroke patients with spatial deficits: a pilot study. Arch Phys Med Rehabil. 2002; 83: 570–575..

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図 1 脳の機能局在と垂直認知機能,臨床症状について

参照

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