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実践事例報告 PRACTICE REPORT 総説 健康教育の新しいキーワードとしてのヘルスリテラシー 江口泰正産業医科大学産業保健学部 Health literacy as a new keyword in health education Yasumasa Eguchi School of He

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要旨

近年、「ヘルスリテラシー」が医療や保健、教育等の分野で注目されてきている。世界的に見ても、ヘルスリテ ラシーに関する研究が飛躍的に増加している。背景として、2000年に米国における健康政策の指標であるヘ ルシーピープル2010で解説された影響もある。わが国においても厚生労働省が2015年に発表した「保健 医療2035」の中でヘルスリテラシーという言葉が使われている。しかしながら、ヘルスリテラシーについて理解し ている人はまだ決して十分とは言えない。一方近年、日本人のヘルスリテラシーは欧州と比較して低いとする報 告もあり、今後の議論が求められる。ヘルスリテラシーが不十分だと、さまざまな健康課題が増加し、また高めて いくことで人々の豊かな生活へ結び付けていくことが可能となる。本稿では、この新しいキーワードとしてのヘルス リテラシーについて、その定義や要素分類、評価法について、そしてヘルスプロモーションや健康教育との関連 性等について総説することを目的とした。 キーワード : ヘルスリテラシー、ヘルスプロモーション、健康教育 受付日 : 平成30年8月1日、受理日 : 平成30年8月8日 連絡責任先 : 江口泰正 〒807-8555 北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1 E-mail : [email protected]

健康教育の新しいキーワードとしてのヘルスリテラシー

江口泰正 産業医科大学産業保健学部

Health literacy as a new keyword in health education

Yasumasa Eguchi

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Ⅰ.

はじめに

近年、医療、保健、教育等、さまざまな分野において「ヘルス リテラシー」が注目されてきている。厚生労働省が2015年時点 で20年後の保健医療のあり方を示した「保健医療2035」の 中でも1)これまで、医療サービスの利用者は、健康医療に関 わる基礎知識の不足や受け身的な関わり方により、医療への 過剰な期待や反応を持つ傾向があった。こうした点を是正す るため、学校教育、医療従事者、行政、NPO及び保険者から の働きかけなどによってヘルスリテラシーを身につけるための支 援をする」と、具体的なアクション内容が提示されている。世界 的も見ても、ヘルスリテラシーに関する研究は幾何級数的に増 加している(図1)。 ヘルスリテラシーとはいったい何を意味するのか。またそれをど のように評価するのか。さらにはどのようにヘルスリテラシーを向 上させるのか。ヘルスリテラシーの概念や要素分類、評価法な どに関する研究が進んではいるものの、いまだ結論が出ていると は言い難く、議論が続いているのが現状である。ヘルスリテラシ ーの要素が多岐にわたるがゆえに、体系化されるまでにはまだ 時間を要すると考えられる。 一方、中山らは、日本人のヘルスリテラシーは欧州と比較し て低いと報告している2)その原因として、国民皆保険制度とい う医療の充実等によって“任せきり”の医療や保健となってい て、自らが情報収集したり、詳しく理解しようとしたり、また評価し て意志決定するといった機会が少ないということがあるのではな いか、とも考えられるが、実際の理由に関してはまだ明らかになっ ていない。 日本におけるヘルスリテラシー研究も徐々に増えてきてはいる ものの、まだ決して十分とは言えず(図2)、これからの研究の進 展が待ち望まれている。研究が進んでいない原因の1つとして、 認知度、理解度の不十分さとともに「識字率が高い日本では、 ヘルスリテラシーは関係ない」といった誤解がまだ残っている可 能性も否めない。他方、ヘルスリテラシーのことを知っていても「こ れまでの健康管理の能力との違いが分からない」といった意見 もあり、ヘルスリテラシーに対する議論を深めていく必要性があ る。そこで本研究では、この新しいキーワードとしてのヘルスリテラ シーについて、その定義や要素分類、評価法について、そして ヘルスプロモーションや健康教育との関連について総説するこ とで、ヘルスリテラシー研究の推進、さらには議論のきっかけとす ることを目的とした。

Ⅱ.

ヘルスリテラシーとは

ヘルスリテラシーとは何か。実は、現時点で固定された定義 と言えるものはない。多くの研究者や団体等において定義され てはいるが、それぞれに少しずつ異なった表現をしており、議論 は続いている。その中で、特に影響力があると思われる3つを挙 げるとすれば以下の通りであろう。 ① 良好な健康状態の維持、増進のために必要となる情報にア クセスし、理解し、活用する個人の意欲や能力を決定づける 認知と社会的スキル (Nutbeam, 1998)3) ② 健康に関する適切な意思決定を行うのに必要な基本的な 健康情報やサービスを手に入れて、整理して、理解する能 力の程度 (米国保健福祉省, 2000)4) ③ 健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、 意欲、能力 (Sørensen, et al., 2012)5) 最も有名なヘルスリテラシーの定義は、NutbeamがWHO 図1  「Health literacy」というキーワードでヒットした文献数の年次 推移(2018年は6月まで) 図2  「ヘルスリテラシー」というキーワードでヒットした文献数の 年次推移(健康リテラシーを含む、2018年は6月まで、英文の場合 と縦軸の桁が異なることに注意)

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で3)この定義なくしてはヘルスリテラシーについて語れないと言 っても過言ではない。次に、米国保健福祉省の定義とは、米国 における健康政策の指標であるヘルシーピープル2010 (2000年)で示されたものであり、ヘルスリテラシーの認知度を 大きく広げる機会ともなった。Sørensenらの定義は、Nutbeam の定義で示された3つのプロセスに、情報の「評価」を追加し て4つのプロセスにまとめられているのが1つの特色であり、近年 ではこのSørensenらの定義が引用されることが多い。これら3つ のいずれもが重要な定義と言える。 わが国においては、中山が示している「健康を決める力」6) が端的な表現としてよく知られている。「健康を決める力」のサイ トでは、ヘルスリテラシーについて「健康情報を入手し、理解し、 評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、 日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション について判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活 の質を維持・向上させることができるもの」と上記のSørensenら の定義を基本にした解説がなされている。筆者もこれまで、「健 康行動の剪定能力(江口2012)」7)「健康審美眼(江口 2016)」8)と表現してきた。しかし、現段階では個人的に以 下のような捉え方に至っている。 ヘルスリテラシー(江口2018)9)とは  自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善すること ができる能力 この考え方は、WHOのバンコク憲章(2005年)10)によるヘ ルスプロモーションの定義を土台にしている(第Ⅶ項で後述)。 元来「リテラシー」とは「読み書き能力」のことを示しており、 「社会生活を送る上での基本的能力」とも言える。1980年代 頃までは、この「リテラシー」に関する研究が多く見られる。たとえ ば、英語圏で生活する英語以外を母国語とする人々の読み 書き能力(リテラシー)と健康格差の問題が存在し、識字率が 低いことで、病院等で渡された文書が読めなかったり、受診の 予約ができなかったりすることが少なくない。ヘルスリテラシーの 評価法として黎明のような1つと言えるREALM(Rapid Estimate of Adult Literacy in Medicine, 1991年)11)は、

さに読み書き能力(医学関連単語の発音等)の評価が中心 であり、タイトルに「Health」という言葉は付いていなかった。 しかし、社会の発展に伴って健康情報が飛躍的に増加して いく中で、健康を左右するリテラシーはより広い概念で捉える必 以降は、膨大な情報の中から正しい情報や信頼できる情報を 得るための能力と、それを評価、活用する能力も間われるように なってきた。1998年にWHOのヘルスプロモーション用語集に おいて3)、続いて2000年に前述のヘルシーピープル2010にお いて4)ヘルスリテラシーという言葉が紹介されてから、単に健康 に関する読み書き能力だけを示す概念ではないことが広く理解 されるようになってきた。そして、本来基本的な能力を意味する 「リテラシー」の中に、さらに基本的/機能的リテラシーという捉え 方も出てきて12)もはや「リテラシー」は基本的能力を超越した 単純な「能力」という捉え方の方が自然な解釈になったのでは ないかと考えられる。  わが国においては、国民全体の識字率が高いため「リテラ シー」の課題とは縁遠いものだと思われてきたが、近年では次 第にリテラシーに対する認知度が高まり、読み書き能力だけで はないという捉え方が広がりつつある。しかしまだ決して十分とは 言えない。一方で、識字率の高さにあぐらをかくような時代とは 言えなくなってきているのも事実である。日本で働く外国人の数 は年々増加し、2017年においては約128万人と過去最高とな っており13)日本語を十分に話せない外国人児童も増加してき ている14)それとともに、医療機関においても言葉の問題が浮き 彫りにされつつある状況がある15)また、医療の高度化や多様 化に伴って患者への説明内容も複雑化し、伝えたことが正しく 理解されているか等、情報の提供方法についても十分に考慮 しなくてはならない時代になっている。さらに、誤った健康情報の 氾濫や外国からの危険な薬品の入手等が問題となったり、収 入格差が徐々に広がって、それが健康格差につながってしまっ たり、これまでの健康教育では追いつかないような社会の変化 が課題となってきている状況にある。これらの対策としても個人、 集団、そして社会レベルでのさまざまなリテラシー向上が求めら れるようになっていると言える。

Ⅲ.

ヘルスリテラシーが不十分だとどうなるのか

不十分なヘルスリテラシーは、人々にどのような影響をもたら すのか。当然のように、「自らの健康とその決定要因をコントロー ルし、改善すること」が十分にできない訳であるから、健康度が 低くなることは想像に難くない。不十分なヘルスリテラシーの人 の傾向としては、たとえば表1のようなものがあるとされている16) 一方、Eichlerら(2009)の試算によると17)、不十分なヘルス リテラシーの人々は、年間で1人当たり約1万6000~90万円

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(本原稿執筆時でのドル-円換算)の医療費が余分にかかっ ているとされる。不十分なヘルスリテラシーの人々は、たとえば栄 養面で言うと、食品に提示してある栄養成分表等から、食べ た分量に相当する摂取カロリーを計算したり、栄養成分を判断 してその食品の摂取が可能かどうかの判断をしたり、といったこ とができなかったりするかもしれない。また、他人から聞いた情報 や、健康食品のチラシに記載された情報等の、どの部分が正 しくてどの部分が間違っているのかの判断ができないのかもしれ ない。さらには、健康のことに詳しい人に聞いてみるのをちゅうちょ したり、専門書で調べたりすることが苦手だったりするかもしれな い。そのような行動特性が、健康を損なってしまう確率を高くして いる可能性は否めない。健康への影響内容は、健康行動に 関わるさまざまな要素や状況などによって違ってくる。不十分な ヘルスリテラシーへの対応方法も、その要素の内容によって変 わってくる。

Ⅳ.

ヘルスリテラシーの要素分類

ヘルスリテラシーと言っても、その要素は多岐にわたっており、 これらをどのように体系化するのかについては大きな課題と言え る。これまでヘルスリテラシーの要素に関して、さまざまな切り口か らの分類がなされている。

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.プロセスによる分類 はじめにプロセスという視点から捉えると、Nutbeam3)のヘルス リテラシーの定義の中で示されているものとして、「入手」、「理 解」、「活用」という要素がある。まずは健康情報にアクセス(入 手)して、その情報を理解し、それらの情報を判断して有効に活 用するという、それぞれのプロセスに関わる能力が重要となる。 Sørensenら5)は、前述のようにこれに「判断」を加えて、 ①入手 ②理解 ③判断 ④活用 の4つに分類しており、近年はヘルスリテラシーの定義とともに、こ ちらの方が引用されることが多い。一方筆者は、「判断」は「活 用」に含めた方が良いのではないかと考え、Nutbeamの分類 をもとにしながら、さらに学力を構成する基本的な要素である 「知識」、「理解」、「判断」という能力とも絡み合わせて、次の 3つに置き換えた分類を試案として紹介している18) ①健康情報への「接触・収集」 ②健康情報の「理解・蓄積(知識)」 ③健康行動への「判断・活用」 健康情報に詳しい人に接触したり、情報を収集したりするこ とが得意な人や、さまざまなことに高い関心を示す人は、健康行 動に役立つ情報を得やすい(反面、悪い情報も入りやすい)。 これは健康情報が入手しやすい社会や集団といった環境にも 影響を受ける。 次に、いくら情報が多く収集できても、それをかみ砕いて理解 できなければそれは利用可能な資源とはならない。理解を深め るためには、これまでに蓄積された情報と対比できるかが重要 であるため、情報の蓄積量(知識)も関わってくる。これら理解と 蓄積(知識)の相互的能力も求められる。 その次に、より良い健康行動へつなげるためには、これまでに 理解して蓄積された情報を駆使して総合的に価値判断(評 価)することとなる。ここではさまざまな情報を関連付けたり、論理 的に並べ替えたり、関連するものや異質なものをまとめていく能 力が求められる。理解・蓄積した情報が多いだけでは、間違っ た情報を信じ込んでしまって返って健康を害してしまう、というよ うなことも起こりかねない。情報を批判的に捉えながら、さまざまな 関連性も考慮して活用していくこととなる。 一方で、情報が理解・蓄積されているはずなのに、加齢や 長いブランク等によって出力に時間がかかったり、出力できずに 終わったりすることもある。これもまた活用の能力と言えよう。これら のプロセスは決して一方向ではなく、たとえばインターネットで健 康情報を入手する時、難しくて理解しにくい情報は入手時点 で除外する可能性は高いし、行動の選択判断を求められた後 にあらためて情報を入手し直したりすることもある、これは多くの 人が実践的に行っていることであろう。

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.レベルによる分類 次に、レベルという視点からは、Nutbeamがリテラシーを以下 の3つに分けて解説している12)(一部は前述)。

①基本的/機能的リテラシー(basic / functional literacy)

表1 不十分なヘルスリテラシーの人の傾向 ①救急サービスを利用しやすい ②病気のために入院しやすい ③薬を適切に服用できない ④薬や栄養に関する表示を理解しにくい ⑤予防サービス(健診や予防接種など)の利用率が低い ⑥高齢者の死亡率が高い  他 Berkman, et al., 201116)のレビューより

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interactive literacy) ③批判的リテラシー(critical literacy) 基本的/機能的リテラシーとは、日常生活場面で有効に機 能する読み書きの基本的な能力を表しており、狭義の「リテラ シー」ということになる。伝達的/相互作用的リテラシーは、より高 度で社会的なスキルを伴うもので、日常の活動に積極的に参 加して、さまざまな形のコミュニケーションによって、情報を入手し たり価値を引き出したりする能力を表している。批判的リテラシ ーは、さらに高度なスキルを伴うもので、情報を批判的に分析 し、日常の出来事や状況をコントロールするのに活用できる能力 を表している。 Nutbeamは、さらにこれらの「リテラシー」の分類を生かした 「ヘルスリテラシーのレベル」について言及している(表2)12) この分類では話が少々複雑となってしまうため、本稿では詳 細な説明について割愛するが、批判的ヘルスリテラシーに「エ ンパワーメント」の概念が絡み、「リテラシー」の分類で理解し た3つのレベルが、そのまま「ヘルスリテラシー」のレベル分類へと やや連想しにくくなっている。ここでいう批判的ヘルスリテラシー は健康に対する社会的、経済的な決定因子につながる情報 供給、また政策実現や組織改革の機会までを含んでおり、後 述するヘルスプロモーションの社会的決定要因に関連する内 容が盛り込まれている。

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.領域による分類 上記後半の、少々複雑な捉え方に関しては一部の批判もあっ たが、Nutbeamはその後以下の2つのモデルを提唱している19)

①リスクファクターモデル(risk factor model) ②アセット(資産)モデル(asset model) この分類では、リスクファクターモデルは臨床領域の捉え方 を反映しており、「不十分」な状態によって疾病のリスクが増大 する要因に主眼がある。アセットモデルは公衆衛生領域の捉え 活の質にもつながる資産としての側面に主眼がある。たとえば 臨床で求められる治療に関連する栄養知識と、健康増進に 関連する栄養知識には、異なる点も多い。このような領域の違 いによって求められるヘルスリテラシーの内容は異なってくる。 また、近年では、Sørensenらが包括的なヘルスリテラシーの 概念分析に基づき、前述のヘルスリテラシーの定義とともに、ヘ ルスリテラシーを次の3つの領域に分類している5) ①ヘルスケア(臨床)領域 ②疾病予防領域 ③ヘルスプロモーション領域 これは、ヘルスリテラシーの内容に関する数多くの論文につい てシステマティックレビューを行って導き出されたものとされてい る。Sørensenらは、この3つの領域と前述の「入手」、「理解」、 「評価」、「活用」という4つのプロセスを組み合わせた概念を 提案していて、それに関する評価法も開発している(後述)。

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.その他について 以上のような分類の他に、「集団のヘルスリテラシー」や 「国・社会のヘルスリテラシー」「情報提供側のヘルスリテラシ ー」といった、個人の能力だけに限らない捉え方も広がってきて いる。たとえば、ヘルスリテラシーの高い人が多い地域に住んで いると、自然と情報が入りやすくなり、身近な人に尋ねた時に比 較的信頼のおける情報が得やすくなるであろう。 さらに、健康関連サービスにすぐに手が届くような地域に住 んでいることによって、個人のヘルスリテラシーがたとえ低くても、 「思わず健康になる」というようなこともあり得る。その意味でも社 会制度としての健康施策や地域をあげての健康づくり、さらに は地域活動の推進による人々のネットワーク構築といった取り 組みの重要性は見直されるべきであろう。これは地域や社会レ ベルのヘルスリテラシーと言える。個人のヘルスリテラシーだけで は十分なコントロールはできない。だからこそ個人以外の健康 表2 ヘルスリテラシーのレベル レベル 分類 教育的な目標 内容

1 機能的ヘルスリテラシー(functional health literacy) 情報の伝達 健康リスクとサービス利用における、事実に基づく情報の

獲得

2 相互作用的ヘルスリテラシー(interactive health literacy) 個人的スキルの向上 機能的ヘルスリテラシーの内容に加えて、周囲のサポート

がある中でのスキル向上の機会

3 批判的ヘルスリテラシー(critical health literacy) 個人および地域社会

のエンパワーメント

上記の2つの内容に加えて、健康に対する社会的、経済的な 決定因子につながる情報供給、また政策実現や組織改革の 機会

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決定要因も考慮することが求められる。また、健康情報を提供 する側のリテラシーの高さも求められる。相手に理解しやすい表 現に替えたり、図や絵を挿入してイメージしやすくしたり、情報と 情報の関連性が理解できるような表現にしたり、といったことも 能力の一部であり提供者側のヘルスリテラシーとして意識して おく必要がある。

Ⅴ.

ヘルスリテラシーの評価法

ヘルスリテラシー研究の広がりとともに、さまざまな評価法が開 発され続けている。ヘルスリテラシー評価法のゴールデンスタン ダードの1つとも言えるのは第Ⅱ項で紹介したREALM11)である が、その後に出てきたもう1つのゴールデンスタンダードとも言える TOFHLA20)には、「Health literacy」という言葉がタイトルに

付いている。これは、実際に病院で使われる問診や予約文書、 服薬処方等の文書に関する読解力や計算問題から構成さ れている。これらの評価法が当初のさまざまなヘルスリテラシー 研究で使用されてきた。 近年においては、日本語版も存在する包括的なヘルスリテラ シーの評価法として、Sørensenらによる、European Health

Literacy Survey Questionnaire(HLS-EU-Q47)がよく知ら れている21)。前述の4つのプロセス(入手、理解、評価、活用) 関する能力について、それぞれ3つの領域(ヘルスケア、疾病予 防、ヘルスプロモーション)ごとに測定、評価できる尺度で、4×3 =12項目、合計で47問からなっている。たとえば、栄養に関する 質問例としては「食品パッケージに書かれている情報を理解す るのは」等があり、それぞれの質問に対して、「とても簡単」、「や や簡単」、「やや難しい」、「とても難しい」のいずれかを選択し て回答してもらい得点化する。その日本語版については中山ら が紹介している2, 22) 次に、健康に関する計算能力として「ヘルスニューメラシー」 というものがある。その評価法としては、WeissらによるNewest Vital Sign(NVS)23)というのがあり、日本語版として小暮らによ るNVS-J24)がある。これはアイスクリームの箱にある栄養成分表 の読解力と簡単な計算能力を評価する6問からなっている。 また、一般向けに使用できる簡易的なヘルスリテラシー評価 法として知られているのが、石川らの伝達的・批判的ヘルスリテ ラシー尺度(Communicative and Critical Health Literacy ;

CCHL)である25)これは、特定の疾患を持たない一般市民を 対象とし、基本的なヘルスリテラシーにあまり問題が無いことを 前提に、より高次のヘルスリテラシーを簡単に評価するのに使え る尺度である(図3)。 項目1)-3)が伝達的ヘルスリテラシー、項目4)-5)が批判的 ヘルスリテラシーの項目であるが、5項目全体で尺度得点を算 出している(5項目の平均得点として算出。得点が高いほど、ヘ ルスリテラシーが高いと判断される)。主に自記式質問紙の形 で実施されている。 栄養領域では、このCCHLの質問項目の「情報」を「食情 報」に置き換えて作成された、健康な食生活リテラシー尺度と してのHealthy Eating Literacy(HEL, 高泉ら, 2012)27)もあ

る。これら以外にも日本語版のヘルスリテラシー評価法は複数 存在するが、紙面の関係で割愛する。 ヘルスリテラシーは、単に十分か不十分か、高いか低いかと いうだけでなく、どのような要素が高くどのような要素で低い、とい うようにさまざまな要素をそれぞれに評価することで、個人の特性 を明らかにすべきである。その結果、それぞれの特性に応じた対 処法が見えてくる。要素別の評価ができなければ、目標や手段 の設定が漠然としたものとなり、健康教育には生かしにくい。そ の点で、これまでに発表されたさまざまな評価法の特性を整理 した杉森らの一覧表28)が非常に参考になる。 これは、ヘルスリテラシーの評価法のうち、妥当性の評価まで 実施された信頼性の高い27種の評価法について、質問項目 の領域や質問方法、質問数とともに、どの能力要素(入手、理 解、評価、活用、知識、認識)に特化しているかを分かりやすくま とめている。

たとえば、石川らのFunctional, Communicative, and Critical Health Literacy(FCCHL)29)では、ヘルスケア領域

の糖尿病に特化していて自記式14問、主観評価で「入手」、 「理解」、「評価」、「活用」の能力を評価していることが分か

る。また栄養領域に関するものとしては、Diamondによる Nutritional Literacy Scale(NLS)30)があり、自記式の28問

からなる、主に「理解」の能力についての評価法となっている。 GibbsらによるNutrition Literacy Assessment Instrument

あなたは、もし必要になったら、病気や健康に関連した情報を自分自身 で探したり利用したりすることができると思いますか。 【選択肢 : 1(全くそう思わない)、2(あまりそう思わない)、3(どち らでもない)、4(まあそう思う)、5(強くそう思う)】 1) 新聞、本、テレビ、インターネットなど、いろいろな情報源から情報 を集められる。 2)たくさんある情報の中から、自分の求める情報を選び出せる。 3)情報を理解し、人に伝えることができる。 4)情報がどの程度信頼できるかを判断できる。 5)情報をもとに健康改善のための計画や行動を決めることができる。

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「知識」の能力を評価するものとなっている。また、前述の Healthy Eating Literacy(HEL)27)も分析されており、これは

自記式の5問で、「入手」「評価」「活用」の能力について評 価するものとなっている。これからヘルスリテラシーに関する調査 を実施したい時に、その評価法を選択するのに役立つであろ う。

Ⅵ.

わが国における最近のヘルスリテラシー研究 

わが国におけるヘルスリテラシー研究については、図2にも示 しているように、少しずつ増えてきてはいるものの、まだまだ広がり を見せていないのが実情である。ただし、英文の文献について 詳しく調べると、この5年間で81の文献が「国/地域=Japan」と なっており(Scopusにて2018/7/23に検索)、日本語よりも英語 論文の広がりを垣間見ることができる。Health literacyに関する 「国/地域=Japan」の文献の中で最も被引用件数の高い文 献が、前述の石川らのFCCHLに関する論文で29)、続いて Jormと中根らによる、不十分なメンタルヘルスリテラシーとメンタル ヘルス不調等に関する日豪の国際的背景比較となっている32) 石川の執筆した文献は、被引用件数の高い上位10論文 中に4論文ランクインしており、わが国においてヘルスリテラシー 分野で最も学術的注目度の高い研究者の1人と言える。また、 栄養領域では、前述の小暮らのNVS-Jに関する論文や24)、相 原らによる高齢者の食生活リテラシーに関する論文なども存在 する33) 栄養領域における最近の日本語文献(査読有り)としては、 前述の高泉らによるHealthy Eating Literacyについての論 文や27)、同じく高泉らの、「食生活リテラシーと食情報検索バリ アおよび食情報源との関連」等が散見される34)いずれにせ よ、わが国における食生活ヘルスリテラシー研究はまだこれから、 といった状況にある。本稿の読者の中からヘルスリテラシーに興 味を持ち、近い将来、調査、研究にも挑戦していく例がさらに増 えることに期待したい。

Ⅶ.

ヘルスリテラシーとヘルスプロモーション、健康

教育との関係

Nutbeamは、ヘルスリテラシーはヘルスプロモーションの成 果の1つと位置付けている12)ヘルスリテラシーを理解するには ヘルスプロモーションについても理解しておくことが求められる。 ヘルスプロモーションとは、WHOが1986年のオタワ憲章にお ルし、改善することができるようにするプロセス」と定義された10) その後、バンコク憲章(2005年)で健康を決定する社会的要 因が考慮されて、「自らの健康とその決定要因をコントロール し、改善することができるようにするプロセス」と修正された10) まり、個人のスキルの向上だけでは限界があり、公共政策や地 域活動の強化等の環境整備が重要視されているのである。 わが国において「健康増進」というと、一次予防というイメージ が先行するが、「ヘルスプロモーション」ではそこにとどまらない視 点が存在する。 また、オタワ憲章では「健康は日常生活の資源の1つと見な されるものであり、生きる目的ではない」とも明言されており、「ヘ ルスプロモーションは健康分野の固有の領分というだけではな く、健康的なライフスタイルを越えて幸福へと向かうものである」と 結んでいる。したがってヘルスプロモーションの最終目的は、 人々の自己実現や豊かな人生にある。ヘルスリテラシーという能 力の中に、人生を豊かにする目標づくりに関する能力が含まれ るべきであろう。単に疾病のリスクを予防・改善したり、健康増進 したりするだけでなく、その先を見る視点が重要となる。 一方、ヘルスプロモーションが「自らの健康とその決定要因を コントロールし、改善することができるようにするプロセス」だとする と、少々強引な捉え方をすれば、その成果としてのヘルスリテラシ ーは、前述のように「自らの健康とその決定要因をコントロール し、改善することができる能力」とも言える9) ヘルスリテラシーという能力を向上させるためには、どのような 支援をしていけば良いのか。これはまさに健康教育の課題であ る。ヘルスプロモーションとヘルスリテラシーとの関連を前提にすれ ば、健康教育は「自らの健康とその決定要因をコントロールし、 改善することができるように支援していくこと」9)とも言える(図4)。 図4  ヘルスリテラシーとヘルスプロモーション、健康教育の関係イ メージ(江口2018試案)

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ヘルスリテラシーへの支援は決して目新しいことではなく、これ までも多くの人々によって、さまざまな機会で実践されてきたこと である。「これまでの健康教育とヘルスリテラシー向上のための 支援はどこが違うのか」という質問をいろいろな場面で耳にす る。支援法自体が大きく違う訳ではない。これまで培われてきたノ ウハウを存分に生かしていくことは重要である。しかし、視点を変 えることで新たな次元へとブレークスルーできることがある。ヘルス リテラシーという新しいパワフルなキーワードを絡め合わせること で、ベクトルが一方向に集約できれば、大きな波を作り出してい ける。結果的に、健康教育の充実につながることが期待される。 また、そのようになっていくことに英知を絞ることが大切である。

Ⅷ.

まとめ

ヘルスリテラシーとして、最も有名な定義は、Nutbeamが WHOのヘルスプロモーション用語集(1998年)において示し たものであるが、米国における健康政策の指標であるヘルシー ピープル2010で示されたものや、近年ではSørensenらの定義 が引用されることが多く、これら3つのいずれもが貴重な定義と言 える。 一方、WHOのバンコク憲章によるヘルスプロモーションの定 義を土台にすると、ヘルスリテラシーとは「自らの健康とその決定 要因をコントロールし、改善することができる能力」とも言える。ヘ ルスリテラシーが不十分だと、さまざまな健康課題の増加から、 医療費の増大等が発生する可能性があるし、また高めていくこ とで人々の豊かな生活へ結び付けていくことができる。 ヘルスリテラシー向上のためには、まずその要素について体 系化し、それを評価する尺度のさらなる開発が求められる。日本 におけるこれらに関する研究も少しずつ増えてきているが、まだ 十分とは言えない。一方、ヘルスリテラシーを高めることは、ヘルス プロモーションの成果の1つであり、それを支援していくことが健 康教育と言える。ヘルスリテラシーに関するさまざまな評価法を 駆使して、その実態を明らかにしながら、これからの健康教育を 進めて行くことが望まれる。そして本稿が今後のヘルスリテラシー 研究の推進、さらには議論のきっかけとして寄与できることを自 戒の意も込めて期待する。

文献

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Abstract

Health literacy has recently attracted attention as a keyword in the areas of medicine, health and education, and the total number of studies on the topic has risen steeply worldwide. This trend may have resulted from Healthy People 2010, a nationwide agenda on health-promotion and disease-prevention goals put forth in 2000 by the United States Department of Health and Human Services. The term, health literacy, is also used in Health Care 2035, which provides a vision of future health care policies set out in 2015 by the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan. Despite these trends, few people in Japan actually know the term, health literacy, even though there are specialists. One study indicated health literacy among people in Japan was lower than that among people in Europe. The issue of health literacy needs to be further studied and debated in this field. Low health literacy leads to various health problems, while improving health literacy can increase wellbeing. The present article aims to outline and review a range of factors and evaluation methods for health literacy, and to uncover the term s relationship with health promotion and health education.

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