主要な研究成果
背 景
電力系統の安定性の向上を目的とした発電機制御系の設計では、従来、線形解析である固有値解析が多く用
いられている。ここでは、小外乱に対しては最適な設計が行われるが、非線形性の影響が大きい大外乱* 1
に
対しては最適性は必ずしも確保されない。
当所では、これまでに振動発散現象に関して非線形性を考慮できる安定性解析手法を開発してきたが* 2
、
これを発電機制御系の設計に適用し、振動発散に対する安定性を高めることで限界送電電力を増加できる可能
性がある。
目 的
振動発散の抑制に有効な非線形性を考慮した発電機制御系設計手法を開発し、その有効性を検証する。
主な成果
1.非線形性を考慮した発電機制御系設計手法の開発
既開発の非線形解析手法を基に、振動発散に対する安定性を向上させる発電機制御系の設計手法を開発し
た。概要は下記のとおりであり、効率的な定数設定が可能である。
(1)基本的考え方:限界送電電力の増加を目的に、大外乱に対する安定性が向上するような設計を行う。
但し、小外乱を対象に最適化を行う固有値解析に基づく手法と比較すると、小外乱に対するダンピン
グ(動揺の減衰)が低下するため、これを許容範囲内に留める(図 1)。
(2)手順:固有値を用いて最適に設計した制御系定数をスタートとし、既開発の非線形解析手法から得ら
れる安定限界となる振幅を大外乱に対する安定性の指標として、これが拡大するように定数を調整す
る(図 2)。
2.開発手法の有効性の検証
電気学会標準系統モデルにおいて、開発した手法を PSS(Power System Stabilizer)の定数設定に適用
した。その結果、発電機至近端での大外乱事故ケースに対して、限界送電電力が固有値解析に基づく設計と
比べて最大で 8 %程度増加することを明らかとした(表 1、図 3)。
今後の展開
実規模系統で開発した発電機制御系設計手法の効果を確認してゆく。
主担当者 システム技術研究所 電力システム領域 主任研究員 天野 博之
関連報告書 「非線形解析理論を用いた新しい制御系設計手法の開発―振動発散の抑制に有効な PSS 定数
設定法―」電力中央研究所報告: R05003(2006 年 3 月)
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非線形解析理論を用いた新しい発電機制御系設計手法の開発
―振動発散の抑制に有効なPSS定数設定法―
* 1 :小外乱、大外乱:小外乱とは緩やかな負荷変動や日常的系統操作などを指し、大外乱とは地絡、短絡事故などを
指す。
* 2 :天野 博之、熊野 照久、井上 俊雄、「多機くし形系統における内部共振の解析への非線形動揺安定性指標の適用」、
電気学会論文誌 B、Vol.125、No.7(2005 年 7 月)。開発手法は、小外乱に対しては安定であるが、大外乱発生時
には非線形性の影響によって振動発散が生じる場合に対して、安定限界となる振幅の近似値を解析的に算出でき
る(図 1)。
4.電力流通/流通コストの低減・信頼性確保
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表1 開発手法による限界送電電力の増加効果
限界送電電力
の増加効果
発電機#1のPSSに適用 +3%
発電機#10のPSSに適用 +2%
EAST10機系統 発電機#10のPSSに適用 +8%
WEST10機系統
-300
-200
-100
0
100
200
300
0 5 10 15 20
内
部相差
角
[度]
時間 [秒]
発電機#1
発電機#5
発電機#9
-300
-200
-100
0
100
200
300
0 5 10 15 20
内部相差角
[度]
時間[秒]
発電機#1
発電機#5
発電機#9
固有値解析に基づく設計
開発手法による設計
図3 シミュレーション解析例
固有値解析に基づく設計では動揺が発散して
しまうような場合に対しても、開発手法によ
る設計によって振動発散を抑制できている。
END:
開発手法を用いて設定した定数
START:
固有値を用いて設定した定数
(安定限界となる振幅)
非線形解析手法による指標
YES
固有値が許容範囲内?
(小外乱に対する
安定性確保)
指標が大きくなるように
制御定数を変更
1ステップ前の
定数を採用
YES
収束?
NO
NO
の感度を計算
図2 開発手法のフロー図
内部相差角
時間 小外乱の場合
小外乱に対するダンピング → 許容範囲内に留める
大外乱の場合(振動発散)
安定限界
となる振幅→ 拡大
安定限界の場合
振動発散に対する
2
1
図1 開発した発電機制御系設計手法の基本的な考え方
① 大外乱に対する安定性を向上させるために、安定限界となる振幅を拡
大することにより、振動発散を抑制する。
② 但し、小外乱に対するダンピングを許容範囲内に留める必要がある。