本州西部の中国山地にある高津川、錦川、日野川、
高梁川、円山川、市川について、河川水中の化学組
成の比較検討
著者名(日)
西山 勉
雑誌名
東洋大学紀要. 自然科学篇
号
46
ページ
61-84
発行年
2002-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00002471/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja本州西部の中国山地にある高津川、錦川、日野川、高梁川、
円山川、市川について、河川水中の化学組成の比較検討
西 山 勉*Examination by Comparison on Chemical Composition
in River Water:the Rivers of Takatsugawa, Nishikigawa,Hinogawa, Takahashigawa, Maruyamagawa and Ichigawa
in the Chugoku Mountains in Western Honshu of Japan
Tsutomu NlSHIYAMA
Abstract
In the westerIl Honshu which has topography stretching in the east-west di- rectiol1, rivers flow from the Chugoku Mountains constituting the central ridge to the direction of the Sea of Japan on the north side as well as to the direction of the Seto Inlarid Sea on the south side. The authors chose 6 rivers consisting of 3pairs in the west, central and east parts of the mountains, each flowing in the directions of both north and south, and analyzed cations and anions in the rivers to compare the characteristics of each pair of rivers. Vs. river investigated in the west are the Takatsugawa River and the Nishikigawa River, and in the center, they are the Hinogawa River and the Takahashigawa River, alld then, they are the Maruyamagawa River and the Ichigawa River in the east. It was proven that sea water-originated components were high in tributary Tsuwanogawa R三ver in the Takahashigawa River, Ca2+component was rich in the Takahashigawa River dlle to limestone area existing at the back ground, and SOI7 component was rich in the upper stream of the Maruyamagawa River and the Ichigawa River. By calculation, terrigeneous grade ill the rivers flowing into the Seto Inland Sea was high in the west and central parts, and the difference between the r}orth and south was little ill the east. This shows that rivers in the west part of the Chugoku Mountains, the effect of sea is conspicuous on the side of the Sea of Japan but terrigeneous effect is large on the side of the Seto Inland Seat due to weathering effect. In the Hinogawa River located in the west part of Tottori *東洋大学自然科学研究室 〒351-8510埼玉県朝霞市岡2-11-10 Natural Science Laboratory, Toyo University,11-100ka 2, Asaka-shi, Saitama,351,JAPAN62 西 山 勉 Prefecture, F-component increased one month after the M7.3 western Tototori Prefecture earthquake. However, F-component increased ill all the samples of 6 rivers in November compared with those ill May. Therefore, it is not clear that the increase of F was directly coImected to the earthquake.
1.はじめに
筆者らはこれまでに東北地方(西山,1992,1995,1996,1997,2000),房総地方(西 山,1999),中部地方(西山,1998),近畿地方(西山,1993)の河川について,河川水を 同一河川について複数箇所の橋上から採水し,陰陽イオンを中心に分析し,その特徴を把 握してきた. 今回,本州の西部にあたる中国地方から近畿の西部地方を流れる河川の内,中央脊梁と なる中国山地の西部,中部,東部から日本海と瀬戸内海にそれぞれ流れ下る二対の河川の 三組,都合6河川を選び,これまでの調査と同じ手法によって河川水を採取し,その水質 について陰陽イオンを分析し,相互比較をしながら,各河川の特質と対河川にみられる関 係を検討した. 西部で調査した対河川は,高津川と錦川である.高津川は日本海側の高津町・益田市に 河口をもち,錦川は瀬戸内海に面する岩国市が河口となる.中部での対河川は日野川と高 梁川であり,日野川は日本海側の米子市に河口をもち,高梁川は瀬戸内海側の倉敷市が河 口である.そして東部では日本海側の城崎町を河口とする円山川と瀬戸内海側の姫路市が 河口の市川について調べた. 採水は1999年11月11-14日と2000年5月7-10日と異なる季節に行った.また高津 川,日野川,高梁川については2000年11月9-10日に再調査した.2.採水方法,分析方法
採水は各地点の橋の上から流水のほぼ中央あるいは最流速部で行った.採水は2回行い 試料を平均化した.水温とpHの測定はその場で行った.採水試料は実験室に持ち帰り, 濾紙とメンブランフィルター(0.2μm)による濾過後,イオンクロマトグラフにて陽・陰 イオンの分析を行った.分析した陽イオンはLi+, Na+, NHオ, K+, Mg2+, Ca2+,陰 イオンはF-,Cl , NO『, Br , NOご, SO]一である.なお,詳しくは西山(1992)に よる.また以降のイオン種の表記はイオン電荷を省略している. クラスター分析は,河川間のクラスター化が最適となるように,市街地距離を試料間距 離とし,群平均法にて行った.詳しくは西山(1992)による.結果はデンドログラムにし て示した.3.河川と採水地点について
今回採水した6河川と採水地点は図1に示した.なお,採水地点に当てた番号は河川水 の化学成分表(表1,3,5)中の番号と一致する.本州西部の中国山地にある高津川、錦川、日野川、高梁川、円山川、市川について、河川水中の化学組成の比較検討 63 3.1 高津川と錦川 3.1.1 高津川 高津川は山口県との境となる島根県鹿足郡六日市町蔵木が最上流域である.蔵木から日原 まではかつて吉賀川(よしかがわ)と呼ばれ,日原で津和野川が合流して高津川となる.さ らに横田で匹見川が合流して,高津町にて日本海に出る流路延長81km,流域面積1080km2 の河川である.なお流路延長と流域面積は「日本全河川ルーツ大辞典」(編者村石利中,竹 書房,1979)による. 高津川の採水地点 高津川の上流域での採水は六日市町六日市と,柿木村柿木において支流福川川の流入前 の柳原橋と流入後の柿木バス停前とで行った.また中流域では日原にて支流津和野川の合 流手前と,横田にて支流匹見川の合流手前とでそれぞれ行った.支流の福川川は柿木で高 津川に合流する手前にて採水した.支流津和野川は津和野町の市街地(津和野大橋,津和 野駅前),青野山駅前,および高津川に合流する手前の日原(宝泉橋)にて採水した.また 支流匹見川は高津川に合流する手前の横田橋にて採水した. 3.1.2 錦川 錦川は山口県都濃郡鹿野町を上流として玖珂郡錦町・美川町を経て岩国市で瀬戸内海に 出る流路延長110kmの河川で,かつて岩国川といわれた.美川町椋野にて小郷川が合流す る.錦川の上中流部は高津川の上流域の六日市町に隣接している. 錦川の採水地点 錦川は中流域として錦町の広瀬新橋と,支流小郷川が合流する直前の椋野橋にて採水し, 下流域として新幹線新岩国駅に近い岩国市御庄(御庄橋)にて採水した.また支流小郷川 は錦川へ合流する手前の椋野にて採水した. 3.2 日野川と高梁川 3.2.1 日野川 日野川は鳥取県の最西部を流域とし,日本海側の米子市が河口となる.西側は島根県,南 側は広島県,南東側は岡山県のそれぞれの県境が分水嶺となり,そして東は大山(1713m) の西山麓を流域とする,流路延長77km,流域面積860km2の河川である. 日野川の採水地点 日野川上流域での採水は日南町生山で支流石見川が合流する直前の生山橋と合流後の日 南橋とで行った.中流域では日野町根雨の舟場橋で採水した.また下流域は米子市岸本町 岸本で採水した. 3.2.2 高梁川 岡山県は西から東に高梁川,旭川,吉井川の流域にほぼ三等分される.高梁川は西側を
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10Km 水島封 瀬戸内海66 西 山 勉 占める河川である.北側が上流域で鳥取県との県境が分水嶺となり,鳥取県側の河川とな る日野川の上流域と接する.高梁川に西側から合流する支流成羽川は広島県内に流域をも つ.高梁川は南に下って倉敷市・玉島市で瀬戸内海に出る.高梁川は吉備高原に広く流域 を占め,「理科年表」(国立天文台,丸善,2001)によると,その流域面積2670km2は中国 地方において江の川(3870km2)に次ぐ第2位の広さであり,日本全体では第23位とな る.また流路延長は111kmである. 高梁川の採水地点 高梁川での採水は,上流域では新見市の伯備線新見駅前の橋から,その支流の西川を伯 備線備中神代駅前で,さらに西川の支流となる神代川を下神代でそれぞれ行った.中流域 では高梁市段町の落合橋と,その少し上流にて合流する支流成羽川の神崎橋で採水した. 下流域では伯備線清音駅近くの川辺橋で採水した. なお,高梁川の支流西川の流域は南で日野川の支流岩見川の流域と隣接する. 3.3 円山川と市川 3.3.1 円山川 兵庫県は北部で幅狭くなるが,円山川はその東側半分を流域として,京都府との境に近 い城崎町・豊岡市で日本海に流れ出る河川で,古くは朝来川といった.生野鉱山の太盛山 の西方を源流とし,流路延長68km,流域面積1280km2の河川である(「日本全河川ルー ツ大辞典」,1979). 円山川の採水地点 円山川の上流域では朝来町新井にて採水した.中流域では和田山町和田山,そして日高 町鶴岡にて採水した. 3.3.2 市川 市川は丹波・田島・播磨の三国の境から南に流れ,兵庫県が幅広くなる南部では東を揖 保川,西を加古川で挟まれた南北に細長い流域をもって,姫路市で瀬戸内海に出る.上流 域は円山川の上流域に接する,流路延長76kmの河川である. 市川の採水地点 市川では上流域から下流に向けて,播但線沿いの生野町口銀谷,大河内町寺前,市川町 甘地,姫路市豊富町仁豊野にて採水した.なお大河内町寺前では支流の小田原川からも採 水した.
4.結果と考察
4.1 高津川と錦川の水質 高津川と錦川水系の河川水中の陰陽イオン,pH,水温を表1に示した.67 本州西部の中国山地にある高津川、錦川、日野川、高梁川、円山川、市川について、河川水中の化学組成の比較検討 115巴コ⑦⑳.ぬc.① お工日コZ,お之ば @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @(8迫已日bD自言§・。ごo(らdで)□(言δ已)=(駕旦まo「 .。,き弓]器①お℃・c三△ξ・−①日・,言①竃aご①﹄︹昌パ﹂b。q三日5㊤︹自,︹.b。三日﹄㊤迫已sΦ廿8●五目一雰㊤吉。・芒㊤。・㊤包㊤﹂ ξ轟差・。乏で5ξ一ばξる・、亘塁已Φ日ヨ・㊤]塁・①﹀三・①§§2①;目疽ぎ三。。・巨§一§§壱①[巨 一蝋 [. nN 卜oo,卜 ⑩O.q⊃ 卜N.O OO.O OO.O 寸寸,寸 OO.O ト一.卜 “り⑦.】 ooO,O 卜N.O Oひり.寸 OOO,O 臨室・一一「鷺ノマ・是桝={鴛 めO卜NめOOO N〔「 一, nN Noo.O Hりg,O ooO,[ OO.O OO,O 寸eう.嶋 め一、O O卜.卜 O卜.目 Noo.O めN.O O[.口 OOO.O 聾週尽圖喪毒・=「籔 一〇卜N鴎OOO 】= uっ, g一 oo禔D㊤ OO,ト 一N,﹁ OO.O OO,O 寸め.め OO.O 卜O.oo O卜.目 ①卜.O NN.O [︼.鴎 OOO.O 撃猷堤・壷渠・=へ笹舗 NO卜N沿OOO O= O.ト一 寸め.卜 め「.め 寸O.口 OO.O OO.O ⑩的.め OO.O 卜鴎,ト 一N.↓ 一ト.O HN,O ∀卜.め OOO.O 曄↑森疑逼・」宝焉・=「緩 寸O卜NのOOO ⑦〇一 O.卜H O「.卜 Oめ.寸 Oばり.「 OO.O OO.O 卜O.や uでO,O ひりO.uり ⑳N.「 oD一.㌣ 目O.O 卜O.寸 OOO.O 蜜零・一一「薫,マ・還棉=「霜 〔う n==O⑦ N一 め.u⊃目 oon.卜 寸卜.口 oooo.一 〇〇,O OO.O ⑰O.鴫 N一.O ooO.ト マ寸.︼ ooO,[ NO.O ooO.uう OOO,O 蛭山]蓮画︰工康・=﹁麗舗 】O==OO 目「 O.u⊃目 oo禔C卜 め寸.寸 め②.一 〇〇,O OO.O トめ.的 Nら.O ooO.oo め∀.一 NO.[ ⇔O.O q⊃め.訂⊃ NOO,O 準宙蛭.・歯渠・=「壬㊤ NO==OO Oら O.
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わち気温の差に基づく降水の岩石に対する反応,および大地を覆う植生の相違が,中国地 方で東北地方より河川水中の溶存イオン量を大きくしたのだろう。なお,閉伊川は中古生 界の地層と花固岩の中を流れて,岩手県宮古で太平洋に流れ出る河川である. 今回採水した6河川の全試料の内で12化学成分(内NO2は全て測定限界0.02ppm以 下)の合計濃度が最も高いのは2000年5月に採水した津和野川(日原・宝泉橋)の試料 で256ppmであった.その試料は特にNa(84ppm), Cl(128ppm)が高く,Brも0.30ppm 含まれていた.これらはいずれも海水に多く含まれる成分であり,この河川水で海水起源 の割合が高いことが予想できる.そこで,河川水中の主要成分となるNa, K, Mg, Ca, Cl, SO4の5成分について, Clを全て海水起源として求まる海水寄与濃度(これを海水起 源量とする)を除いて陸性濃度を求めると,表2に示したように,この津和野川試料では 海水起源量の和が232ppm,陸性濃度の和が22PPmとなり,陸性濃度が低く海水寄与の極 めて高いことが分かる.その際,陸性濃度がSO4濃度で10ppm, Mgで0.7ppm程マイナ スとなることに注目したい. 津和野川で海水起源量が著しく高く,その源を求めて2000年11月青野山駅前で採水し た.青野山駅前は津和野駅前よりも7.5km下流であり,さらにその青野山駅前から7.5km ほど下流が日原・宝泉橋となる.上流である津和野駅前から下流のそれぞれの地点で,CI 濃度は35ppm,78ppm,65ppmとなった.青野山駅前試料のCl濃度が最も高く,津和野 駅前から青野山駅前の間でCl濃度(海水起源量)が高まることになる.五万分の一の地形 図をみると,その間に岩瀬戸川が流入するので,岩瀬戸川でCl濃度が高いのかも知れな い,また岩瀬戸川の合流地点から下流1.5kmの川筋に“塩ヶ原「という地名がある.“塩ヶ
70 西 山 勉 原”は塩分と関係する地名のようであり,この付近で海水起源量が増すことと結び付くか も知れない.しかし今回はこれ以上の調査はしていない.
津和野駅から1km強上流の津和野大橋でClは1999年11月と2000年5月で27ppm,
34ppmと高津川水系においても高いようだ.津和野駅から津和野大橋にかけては津和野町 の市街地が広がっていて,人為的影響も強そうだ.ちなみに津和野町の平成12年におけ る人口は6090人である.3回の調査において2000年5月の水量がもっと多く,また濁り も強かった.この5月の組成濃度を11月と比較すると,5月でNO3は少なく,Na, Mg, Cl濃度が高かった. NO3が下水道で増す化学種であのに, NO3が減ずたことは,特に市 街地からの汚染水の混入によってCl成分が著しく増加したわけではないようで,津和野川 流域には海水起源成分を放出するような地勢・地層が分布しているようだ.島根県西部地 域には鹿足層群が分布している.鹿足層群日原層は三畳系の上部ノーリアン以降となる片 岩の地層で,さまざまな時代を示す外来岩塊(オリストリス)が泥質基質と混在した全体 として大規模な海底地すべり堆積物(オリストストローム)と考えられると田中(1980) は述べている.すなわち津和野川流域には海成層があり,特に岩瀬戸川,あるいは“塩ヶ 原”にて海水起源成分の値が高くなったのかも知れない.この地層には石灰岩もレンズ状 に挟まれているようで,津和野川でCa成分が高いことと関係しよう.なおこのことが正 しいならば,広島市を流れる太田川の中流域は三畳系の地層が分布しており,津和野川に 類似する海水成分に富む水質かと類推できる. 先に指摘した津和野川日原試料で陸性濃度がSO4とMgでマイナスとなることは,仮 定した海水組成の変質や人為的なClの付加などが考えられよう.そこでBr濃度から海 水起源量を改めて求めた.その結果は表2の下段に示したが,津和野川の青野山駅前と日 原・宝泉橋とで2000年11月採水試料のClについての海水起源量はそれぞれ49.69ppm, 40.92ppmとなり,Cl成分のそれぞれ63.5%,62.9%に当る.さらに残りのCl成分を全 て人的な負荷で,かつその組成をNaClと仮定すれば,青野山駅前と日原・宝泉橋におけ る河川水中のNa成分は海水起源量:人的起源量:その他の陸性起源濃度=27.46ppm: 18.52ppm:7.37ppm=51.5:34.7:13.8,22.61ppm:15.63ppm:6.59ppm=50.4:34.9: 14.7とそれぞれ分配できる.両地点の平均では海水起源が51.0%,人的起源が34.8%, そしてその他岩石風化などの起源が15.2%となる. 5月の津和野川の日原・宝泉橋試料についても同様の仮定にて計算すると,48.45ppm: 26.73ppm:8.99ppm=57.6:31.8:10.7となり,海水起源が57.6%,人的起源が31.8 %,その他岩石風化などの起源が10.7%となる.両者を比較すると2000年11月試料は5 月試料に比べて,海水起源の寄与が6%ほど低く,人的起源が3%,そしてその他の起源 が3%それぞれ高くなったことになる. 2000年11月の高津川の調査では,津和野川が合流する前の日原でClが9.56ppmであ るが,津和野川(日原で65.02ppm)が合流した後の横田で19.20ppmと高まる.この関 係から,途中での水の出入りが無いとすると,津和野川は高津川の水量の21%ほどと計算 できる(西山,1995)が,一一一・方水質(Cl)への寄与率は47%にもなる.また横田で高津 川に合流する匹見川のCl濃度は6.35PPInであり,津和野川が高津川の水質に与える影響本州西部の中国山地にある高津川、錦川、日野川、高梁川、円山川、市川について、河川水中の化学組成の比較検討 71 がいかに大きいかを知ることができる. 4.1.2 錦川 錦町試料では1999年11月で,Caが目だって高く,Na, Clも高い.錦町の錦層群は古 生代の地層でレンズ状に石灰岩・石灰岩礫岩があり,また海溝充てん堆積物の特徴を示す ようであり(徳岡,1987),このことと関係するのかもしれない.しかしまた1999年11 月採水時の水量は2000年5月より明らかに少なかった.上流部の錦町で流量に差が大き く,錦町の採水地点は市街地の出口に当たるので,水量の少い11月時に人為的な影響が大 きくでたとも考えられる.水量が多い2000年5月試料の錦町では,降水によってNO3以 外の成分は薄められて低くなったようだ.なお,錦町の平成12年における人口は4196人 である. 1999年11月採水時には下流でNa, Mg, Ca, Cl成分は低くなり,逆にKとNO3は 若干だが増加する傾向がみられた. 4.1.3 高津川と錦川との比較検討 今回採水した高津川と錦川の全試料について,12成分を用いてクラスター分析した結果 を図2に示すと,津和野川と他の河川とに大分けできた.因子分析をするとNH4に関係す る第二因子が,高津川,錦川両河川とも5月試料でプラスとなった.相関係数が0.6以上 となったイオン間の関係を見ると,Liとの相関はNa, Cl, K, Br, Mg(093), Ca(8.0), SO4(0.62)が高く,NaではF, Cl, K, Br, Mg(O.93), Ca(0.8), SO4(0.63)と, KはNa,
4321■967己54コ;一
1 ←°° ??゚旨9二三三竺ev§「vE⇔§m旨Rm∨ua…品宣卜o「§§ 図2Dendrogram based on the cluster analysis by the chemical composition of rivers of the Takatsugawa River and Nishikigawa River iIl Table 1、 The verticaI axis represents the dissimilarity in merging、 The higher leve1、 themore dissimilarity is in the chemical compositiolls among sanユples. The止lorizontalaxis represents the locality of the sample code number ill Table 1.72 西 山 勉 Li, Br, Mg, NO3(9.0以上), SO4(O.66)と,MgはCl, Na, Li, K(0.92以上), Br(0.86), SO4(O.79)と, CaはMg, K, SO4, Na, Li(0.80以上), Cl, Br(O.73)と, GlはNa, Li, Mg, K(O.92), Br, Ca(O.78), SO4(0.61)と, BrはLi, Na, K(O.93), Cl, Mg(O.86), Ca(0.73)と,そしてSO4がCa(0.81), Mg(0.79), Na(0.63), Li, Cl(0.61)とそれぞれ相 関した.0.9以上の相関係数を示すイオン対はLi, Na, G1, Mg, K, Brのイオン間に見 られ,それは海水の主要成分となるNa, Cl, SO4, Mg, Ca, K, BrからCaとSO4が 除かれたものに相当している.K, Ca, SO4成分は陸性成分として岩石風化により河川水 中にもたらされ易いことから,これら試料が海水起源成分より影響を強く受けていること が分かる. そこで,陸性濃度を用いてクラスター分析を行うと,図3に示したように全組成を用い た場合よりも,錦川の分岐がはっきりとした.津和野川の青野山・日原での試料,津和野 川の津和野大橋試料と津和野川合流後の高津川の横田試料,錦川と津和野川合流以前の津 和野川の試料とが明らかに分岐されている.このことから津和野川は,特に青野山・日原 で特徴的な陸性濃度を持ち,高津川は津和野川が合流する前では錦川と似た陸性濃度を持 つが,両者は異なって分岐したことになる. このことを因子分析にて確かめてみると,3つの主要因子があり,第一因子はK,Na, Caが,第二因子はMg, SO4が強く関係する.津和野川は第一因子が大きく関与し,錦川 は第二因子の関与が強いことが分かった. 陸性濃度にみられるイオン間の相関係数はNa-K(O.90), Ca-SO4(0。80), Mg-Ca(0.78), N亘一Ca(0.72)において高い値を得た. 海水起源量を陸性濃度で除した陸性度を表2で見ると,錦川は高津川水系よりも,Na, K,Mg, Ca, SO4がいずれも高い.陸性度の合計は,高津川水系が6.9-44.6であるのに 3 i v88°°巴8製pa 8 Pt習8n富 一 ア^ 一 N N ▼一 一 一9-:::
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図3Dendrogram based on the cluster analysis by the terrigenous concentration of rivers of the Takatsugawa River and Nishikigawa River in Table 2. The horizontalaxis rep- resents the locality of the sample code number in Table 2.本州西部の中国山地にある高津川、錦川、日野川、高梁川、円山川、市川について、河川水中の化学組成の比較検討 73 対し錦川は82.6-130.8となり,明らかに錦川で高い.高津川でこの値が低いのは,津和野 川で顕著であった海水起源量が大きいことと関係しよう.一方の錦川でこの値が高いこと は,瀬戸内側で岩石風化の寄与が大きいためと言えるようだ. 4.2 日野川と高梁川の水質 日野川と高梁川水系の河川水中の陰陽イオン,pH,水温を表3に示した. 4.2.1 日野川 日野川ヒ流域の日南町生山で支流石見川の合流前の生山橋と合流後の日南橋での水質を比 較すると,生山橋でMgが若干だが高い.このことは日野川の上流域となる道後山(1271m) 付近に蛇紋石化した岩石が分布することが関係するのだろう. 下流での岸本試料でNa, Cl成分濃度が高くなっている.それは採水地点が海(日本海) から10kmと近く,海水による影響であろう.斐伊川(島根県)の調査で,海岸から20km 離iれたところでのCl成分の増加を海水起源とした(生沼ら,1993). 2000年10月6日にM7.3最大震度6強の鳥取県西部地震が日野川流域にあった.震央 北緯35.3度・東経133.4度,震源の深さ約10kmのこの地震による影響が,日野川の水質 に残っているかを調べるために,地震後の2000年11月10日に調査した.震源地に近い 日野町根雨では,まだ木造・土蔵建物の屋根・壁などに地震の爪痕が多く見られ,根雨神 社では石灯籠・石碑などが倒れ落ち,また傾いたりしていた.米子市で,「米子・皆生温泉 で一時温泉水が濁った」,「米子市の水道が一時濁った」と聞いた.境港市や米子市では液 状化現象が生じた(国土地理院地理調査部地理第一課,2000).発振機構は東西方向に圧力 軸を持つ横ずれ型で,北北西 南南東走向の震源断層が左横ずれしたようだ(地震調査委 員会,2000).日野川の水質を根雨・船場橋で地震の前後で比較すると,地震後にFが高 く0.19ppm認められた.地震前の1999年11月で0.03ppm,また2000年5月では測定 されていない.日野川の水量は2000年11月に比べ2000年5月でやや多く,1999年11 月で少なかった.このFの増加は地震と関係付けられるかもしれない. しかし,Fがこの11月で多いという現象は,同時に調査した他の河川,高津川,日野川, 高梁川においても1999年11月,2000年5月に比べ高く,日野川だけの現象ではなかっ た.Fが11月試料で5月試料より高くなることは,これまでに調査した本州の多くの河川 水でも認められ,Fは季節による変動が一般的のようだ. Fは土壌中にあり,埋没化石の 時間経過がフッ素置換量によって比較されることもある.また,中部,京阪神,瀬戸内海の 花圃岩地帯の井戸水や湧水にFが多く含まれるようだ(日本環境管理学会,2000).島根県 西部から鳥取県東部にかけて白亜紀から古第三紀に貫入した岩石が分布し(飯泉,1987), 日野川の上流となる山地は一部安山岩も分布するがほとんどが風化した花陶岩地帯となる. 11月と5月を比べると,5月は植物が繁茂し始めるが,11月は植物が落葉・枯れ始める. また岩石風化は低温となる12月一4月期間よりも高温となる6月一10月期間で進もう.し たがって,Fが岩石の化学風化で土壌に供給・吸着され,循環水によって河川中に排出さ れるとすれば,降水に対して土壌が裸となり,しかも土壌にFが富むと思われる11月に
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76 西 山 勉 河川水のF濃度が増すと考えやすい.加えて地震のような大地の振動・崩壊は土壌からF の放出を助長しよう.日野川の2000年11月試料でF濃度が高かったことも,このような 意味では鳥取県西部地震と無関係ではないかも知れない. KとMgは地震後の11月試料で少ない.陸性濃度を見てもそのことが言える. NH4に ついては2000年11月試料で高くなっていたとだけ記録したい.その他の成分では地震前 後で特に気付く差は認められない. 全成分を用いてのクラスター分析をすると,11月試料と5月とが分離でき,季節によっ て河川水の水質が変化することが捉えられた.鳥取県西部地震後の試料が特に分岐するこ とは無く,クラスター分析では地震による変化は特に認められなかった. 4.2.2 高梁川 上流域での支流神代川と西川を伯備線備中神代駅近くで見ると,2000年5月時に河川 は濁り,特に西川で河川水は川幅いっぱいに激しく流れていた.2000年11月では5月 ほどではないが,流れは強く,澄んでいた.1999年11月では清流ではあったが水量は少 なかった.神代川と西川のCa成分をこの採水試料順で見ると,8.63,9,63ppln;10.18, 12.54ppm;14.89,14.60ppmとなって, Ca濃度と水量の間に逆(負の)相関があるよう だ.一方,SO4では逆に両河川,特に西川で水量の多いときにその濃度が高かった.両河 川のpHは7.53,7.57;7.80,7.72;8.31,8.53と順に高くなる.高梁川流域は上流部で も石灰岩が各所に分布する.したがって河川水はアルカリ性に傾くが,SO4を含む酸性降 水によって中和される.水量が増すとSO4濃度が増し, pHは中和されるのは,このよう に説明できよう. 下流の伯備線清音駅近くの川辺橋下で,高梁川は大きく二筋に分かれて流れていた.こ の二筋の流れの間隔は250mほどであり,各々の流れから採水して水質を調べた.その結 果は表3中で清音(手前),清音(後方)として示したが,分析値はほとんど一致した。こ のことは河川水の成分が河川全体で十分に混合していることと,ここでの河川水のサンプ リングと化学分析が正しく行われていることを示していよう.かつて富士川(静岡県)の 波高島・富LLI橋で4筋の流れが幅250rnの内にあり,4筋の流れの水質分析をした結果が 極めて良く一致していた(西山,2000).これらの結果は,本水質調査が正しく行われてい ることの一つの証ともなろう. 4.2.3 日野川と高梁川との比較検討 日野川と高梁川から採水した全試料について,Li, Na, NH4, K, Mg, ca, F, c1, No3, SO4の10成分を用いてクラスター分析すると,図4に示したように高梁川と日野川は明 らかに分岐する.EI野川を含む方の分岐は日野川と高梁川上流の支流神代川と西川の一部 試料とに分岐する.西川の流域は日野川の流域と接していることから,両水質が類似する ことは,両流域において地勢が類似することを意味しよう. イオン間の相関係数を見ると,Na-Cl(0.78), K-NO3(0.60), Ca-SO4(0.59)より高い相関 は認められない.これはこれら水系では海水起源の寄与率がそれほど高くないことによろう.
本州西部の中国山地にある高津川、錦川、日野川、高梁jl[、円山川、市川について、河川水中の化学組成の比較検討 77 65」3」ニー-臼ヨ67ξロ.、弓3三⊥ 1:P三三§二三竺三三25N目:三Nるsuee言§§竺竺§目§gegR竺 図4Dendrogram based on tlhe clug. ter analysis by the chemical colllpositioll of rivers of the Hinogawa River and Takahashigawa River ill Table 3. The horizoIltalaxis represellts the locality of the s. am pIe code number in Table 3. 10成分による因子分析では,第一因子(SO4, NO3, K),第二因子(Na, Cl),第三因子 (F,NH4),第四因子(Mg),第チ[因子(Li、 K),そして第六因子(Ga)が認められた.第 一因子は高梁川の清音,神代川,成羽川で高い.第二因子は日野川および高梁水系の1999 年5月採水で高い.第三因子は,2000年11月の両河川全体が高い.第四因子は高梁川支 流の西川で高い.また高梁川・新見で高い傾向が見られ,支流西川が高梁川・新見に影響 を与えているとも読み取れる.第五因子は日野川・岸本,高梁川・清音で認められる.第 六因子は高梁川水系で認められる,第二因子を海水起源に,そして第六因子を石灰岩の分 布と関係づけて考えられる.すなわち日野川で海水起源の影響があり,高梁川で石灰岩の 地質による影響が認められた.注目に値するのは日野川の2000年11月試料で,第二,第 三因子がプラスで他は全てマイナスの値となり,水質にある特徴が負荷されているかのよ うだ.日野川の水質の項でも述べたが,この結果をこの試料が鳥取県西部地震後1ヶ月の 採水であることと結び付けて考えられるかもしれない. 陸性濃度を用いてクラスター分析を行うと,図5に示したように,日野川と高梁川水系 が明瞭に分離できた.高梁川水系は新見より上流と下流でさらに分岐できる.このことは 日野川流域と高梁川流域で,地勢的,すなわち地質的・気候的・植生的・人為的な異なり が明らかにあるようだ. すでに地質的については高梁川流域で石灰岩が分布することを述べた.気候的には理科 年表による松江と岡山の月別雨量から類推して,4,5月では高梁川で,10,11月では日 野川流域で雨量が多く,年平均気温は松江よりL5℃ほど岡山で高く,日野川流域より高 梁川流域の方が高いといった違いがあろう.このことは,高梁川流域で,陸性濃度が高い ことを予想させる.
78 西 山 勉
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