入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 1
入札談合における受注調整と個別物件の
課徴金対象該当性
(その2)
――談合崩れの場合――
内
田
耕
作
! 問題の所在 入札談合が行われた場合,基本合意に基づいて個別物件の受注調整が行われ, その結果,決定された受注予定者が落札するのが常というわけではない。目論 見がはずれ,談合が崩れそうになること,また実際に崩れてしまうこともある。 本稿では,こういった事態を広く捉えて,「談合崩れ」と称する。 談合崩れの具体的様相は,事案に応じて多様である。直近の課徴金審判事件 で問題となったものだけでも,崩れが少ない順に,次のように整理することが できる。話合いなどにより入札直前の時点で,被審人を受注予定者に決定する 了解がまとまったと判断できる状態にまで至っていたもの(様相!)。受注予 定者が1名に絞り込まれることで競争が制限され,その制限された状況を被審 人が利用して落札したもの(様相")。受注予定者を1名に絞り込めなかった が,被審人を含め競争者が2,3名に制限されたもの(様相#)。被審人は受 注調整に一切応じないとの態度をとっていたわけではないが,入札において自 由な価格競争があったことを窺わせるもの(様相$)。 こういった談合崩れの場合,被審人は審判において次のような理由を挙げ, 該当物件は課徴金の対象とならないと主張する。最終的に受注予定者の合意は 行われず,自由に入札が行われた。そもそも基本合意の存在自体を認識してお らず,また受注調整には関与しておらず,自由かつ自主的に入札に参加し落札 した。当初から協力要請をせず,あるいは協力要請はしたが断念したので,競 争があった。一切話し合いに応じておらず,自主的に受注した。2 彦根論叢 第373号 平成20(2008)年6月 それに対し公取委は,ほとんどすべての事件で,談合は崩れてしまってはお らず,具体的な競争制限効果が発生しており,課徴金の対象となると判断して いる。しかし中には,具体的に競争制限効果が発生するに至った物件であると 認めるには足りないので,課徴金の対象とはならないとするものもある。 公取委の判断をめぐる問題状況は,二つある。一つは,どういった枠組み・ 構造で個別物件の課徴金対象該当性を判断しているかであり,もう一つは,そ の判断が妥当であるか否かである。もっとも本稿の検討は,前者に局限された ものとなる。それは,本稿の問題関心が,結論の妥当性それ自体にはなく,判 断枠組み・判断構造が明確さと説得力を持っているか否かにあることによる。 叙述は以下の順による1)。まず直近の審判事件の整理をする(!)。次に直近 の審判事件の分析・検討をする(")。そして最後に,簡単なまとめをする(#)。 ! 直近の審判事件の整理 取り上げる直近の審判事件は,次の7つである2)。 ① 森川建設事件(平16・8・4審判審決,審決集51・87) ② 岡崎管工事件(平17・9・28審判審決,審決集52・100) 1)関連して,波光巖「最近の入札談合事件の課徴金納付命令審決について――課徴金賦課 対象物件の認定を中心にして――」神奈38巻2・3号21頁(2006),平林英勝「最近の入 札 談 合 事 件 審 判 決 の 検 討――談 合 破 り に 対 す る 課 徴 金 賦 課・損 害 賠 償 請 求 は 妥 当 か?――」判タ1222号46頁(2006)参照。また,舟田正之「談合と独占禁止法」経法25号 24頁(2004),川濱昇ほか「最近の独占禁止法違反事件をめぐって」公取668号2,20―25 頁(2006),白石忠志『独占禁止法』457―67頁(有斐閣,2006),酒井紀子『独占禁止法の 審判手続と主張立証』(民事法研究会,2007)から示唆を得た。 2)土屋企業事件(平15・6・13審判審決,審決集50・3,東京高判平16・2・20審決集50・ 708,最決平18・11・14審決集53・999)は,次稿で取り上げることとしているので,本稿 の対象としない。また,アウトサイダーの協力をも得て受注調整が行われた事件も,対象 としない。関東建設事件(平16・1・21審判審決,審決集50・204),若鈴事件(平16・2・ 6審判審決, 審決集50・233), 南海カツマ事件(平16・2・6審判審決, 審決集50・249), 丸栄調査設計事件(平16・2・6審判審決,審決集50・272),初雁興業事件ほか4件(平 17・1・7審判審決, 審決集51・208), 田村工業所事件ほか3件(平17・1・7審判審決, 審決集51・226)参照。 なお,⑤・⑥事件に関連しては,東葉建設〔土木工事〕事件(平18・4・28審判審決, 審決集53・150),東葉建設〔舗装工事〕事件(平18・4・28審判審決,審決集53・157), 大葉開発〔舗装工事〕事件(平18・5・15審判審決,審決集53・168)もまた参照。
入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 3 ③ 愛北製作所事件(平18・3・24審判審決,審決集52・327) ④ 武田時計事件(平18・4・25審判審決,審決集53・48) ⑤ 白川土建〔土木工事〕事件(平18・4・26審判審決,審決集53・73) ⑥ 白川土建〔舗装工事〕事件(平18・4・26審判審決,審決集53・80) ⑦ 田原スポーツ工業ほか2名事件(平18・7・14審判審決,審決集53・361) 以下,談合崩れの様相ごとに,個別物件の課徴金対象該当性の判断枠組み・ 判断構造を整理する。 1.様相! 最終的に被審人を受注予定者に決定する了解がまとまったと判断できる状態 にまで至っていた場合である。⑤・⑥事件が該当するが,⑤事件のみを整理の 対象とする(⑥事件もほぼ同様)。審判官の判断は,実質的にみれば,課徴金 の対象についての考え方,基本合意など,該当物件の課徴金対象該当性から構 成されている。以下,本稿の問題関心に即して,整理する。 (1) 課徴金の対象についての考え方 独禁法7条の2第1項の規定を紹 介した後,次のように記述する。「受注調整の場合においては,違反行為に係 る基本合意に基づいて受注予定者が決定されることによって具体的に競争制限 効果が発生するに至ったものは,ここにいう『当該商品又は役務』に該当する と解すべきである。」3) (2) 該当物件の課徴金対象該当性 記述は,判断・結論,被審人の主張 とそれに対する判断の二つの部分に分けることができる。本稿では,後者は省 略し,前者の判断・結論についてのみ整理する。判断構造は,次のようである。 ① 違反行為に係る受注調整は,一般的に行われていたものと認めることが できる(証拠)。 ② したがって,受注希望者間の話合いがまとまらず,各社が自由に臨んだ 等の特段の事情があった物件を除いて,基本合意に基づき受注予定者が決定さ れていたものと推認することができる。 3)続けてなお書きとして,基本合意に基づいて受注予定者が決定された場合に当たるのは, 必ずしも,明示的な連絡・話合いにより受注予定者が決定される場合に限られるわけでは なく,いわば,暗黙の了解により受注予定者が決定される場合も含まれる,旨の記述が付 加されている。
4 彦根論叢 第373号 平成20(2008)年6月 ③ 次の各事実を総合すると,基本合意に基づき明示的に・黙示的に受注予 定者が被審人に決定された物件であると認めることができる4)。 !ア 特段の事情を窺わせる証拠はない。 !イ 一部の物件については,被審人の営業担当者において,受注調整の結 果,被審人が受注予定者となったことを認めている(証拠)。 !ウ 話合いなどにより,入札直前の時点で被審人を受注予定者に決定する 了解がまとまったと判断できる状態にまで至っていた事実を認めること ができる(審判廷における供述)。 ④ なお,落札率を見ると,98.18パーセント以上と高いものとなっている (証拠)。この事実は,受注調整が行われたことを断定する根拠とまではなら ないものの,受注調整が行われたことを推認させる事実ということができる。 ⑤ よって,違反行為に係る基本合意に基づいて受注予定者が決定されるこ とによって具体的に競争制限効果が発生するに至った物件ということができる のであり,課徴金の算定対象となる。 2.様相# 受注予定者1名への絞込みによる競争制限状況を被審人が利用して落札した 場合である。③・④・⑦事件が該当するが,④・⑦事件のみ整理の対象とする (③事件は④事件とほぼ同様)。両者の違いは,④事件ではアウトサイダーが いるのに対し,⑦事件ではいない点にある。 (1) ⑦事件 審判官の判断は,実質的に見れば,課徴金の対象について の基本的な考え方,基本合意等,T・JV が受注するに至った経緯など,該当物 件の課徴金対象該当性, JV の受注物件について課徴金が課されるべき事業者, から構成されている。以下,本稿の問題関心に即して整理する。 " 課徴金の対象についての基本的な考え方 独禁法7条の2第1項の規 定を紹介した後,次のように記述する。「受注調整の場合においては,基本合 意に基づいて受注予定者が決定されることによって,具体的に競争制限効果が 発生するに至ったものは,ここにいう『当該商品又は役務』に該当すると解す 4)審決における実際の記述は逆で,!ア!イ!ウ③の順である。
入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 5 べきである。」 ! T・JV が受注するに至った経緯など ① 当該物件は,東京都が財務局において希望制指名競争入札の方法により 共同施工方式によって施工する運動場施設工事として発注した建設工事であ り,3社による JV の結成が求められた。 ② 受注すべき JV を決めるための会合が開催された。協議の結果,被審人 T社代表者の強い反対などがあったが,受注すべき JV の構成員が決定された (N・JV)。また,受注すべき JV 以外の6組の入札に参加する JV の組み合わ せも決定され,被審人 T 社は,被審人2社と JV を結成することとなった。し かして,被審人 T 社代表者は,自分の主張が認められなかったため,この時 点で,N・JV が受注すべき JV になるとの決定に従わず,該当物件を T・JV に より落札しようと内心決意した。 ③ 会合の後,被審人 T 社代表者は,被審人2社に対し,JV 結成の申込み を行い,了承を得た。その後に,被審人3社は,JV 協定書を作成し,入札参 加を申し出た。 ④ 不満分子がくすぶっていることから開催された2回目の会合において, 不満の被審人 T 社代表者も説得を受け入れて,N・JV が受注予定者であるこ とが再確認された。また,受注すべき JV の第1グループの構成員である N 社 が会食費等を持つことで二次会・三次会が行われ,被審人 T 社代表者も参加 した。N 社の N 課長は,被審人 T が受注予定者である N・JV の受注に対して 協力を確約する行為であると受け取った。 ⑤ N社の N 課長は,N・JV の入札価格を,公表されていた予定価格の約 98パーセントである5億3600万円とした。そして,指名された JV それぞれに 入札してもらう価格(N・JV の入札価格を100万円以上上回るもの)を決め, 各 JV の第1グループの業者に対して連絡した。しかし,被審人 T 社代表者は, T・JV により該当物件を受注することを密かに決意していたので,独自に積算 を行い,落札できるであろうと見込まれる,予定価格の約90.4パーセントの価 格である4億9500万円を T・JV の入札価格とすることとした。
6 彦根論叢 第373号 平成20(2008)年6月 ⑥ N・JV および T・JV 以外の入札に参加した5組の JV は,N 社の N 課 長から連絡を受けた価格どおり入札することにより N・JV が受注できるよう に協力したが,被審人 T 社代表者は,予定どおり N 社から連絡があった価格 どおりではなく,4億9500万円で入札し,その結果,T・JV が落札した。 # 該当物件の課徴金対象該当性 記述は,判断・結論,被審人 T 社の 主張とそれに対する判断,の二つの部分に分けることができるが,後者につい ては省略する。 ① 該当物件については,次のことによって,「具体的に競争制限効果が生 じた」ものであると認められる(認定事実)。 !ア 関係業者が会合を開き,入札に参加する JV の組合せについて,基本 合意に基づいて受注予定者である JV および他の JV の組合せを決めた。 !イ 次の会合で N・JV を受注予定者とすることを確認した。 !ウ T・JV および N・JV を除く入札に参加した5組の JV が,基本合意に 基づき,N・JV から連絡を受けた価格で応札し,受注予定者である N・ JVが受注できるように協力した。 ② 加えて,被審人 T 社は,T・JV の代表者として,T・JV を除く他の5 組の JV は受注予定者が受注できるよう協力するということを認識した上で, 受注予定者の入札価格を下回ると見込まれる価格で入札し落札したものである と認められる(認定事実)。 ③ したがって,基本合意に基づいて受注予定者が決定されることによって, 「競争が制限された状況」を被審人 T 社が利用して落札したものであって,「具 体的に競争制限効果が発生するに至った」物件であるということができるので あり,課徴金の算定対象となる。 (2) ④事件 審判官の判断は,実質的に見れば,課徴金の対象について の基本的な考え方,基本合意とその実行行為,個別物件の入札状況,該当物件 の課徴金対象該当性,から構成されている。以下,本稿の問題関心に即して整 理する。 " 課徴金の対象についての基本的な考え方 ⑦事件と同じであるので,
入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 7 省略。 " 基本合意とその実行行為 基本合意は省略し,本稿と関わる実行行為 のみ記す。 ① 年1回,複数の物件について,順次,入札を行っていた。 ② 各入札における落札価格は,その都度公表されることから,次のことが 通例であった(証拠)。 !ア 受注予定者は,前回の入札の際の落札単価または当該入札日における 直近の落札単価と同額の単価またはこれをわずかに下回る単価を用いて 入札する。 !イ 他の入札参加者は,そのことを前提として,落札単価を上回る単価を 用いて入札することにより,受注予定者が受注できるよう協力する。 # 入札状況 本稿と関わりがあるのは,2・3・4物件である。三つの 物件とも入札状況は似ているので,以下,2物件に即して整理する。証拠によ れば,次のことが認められる。 ① 2物件ついては,K 社が受注予定者に決定された。 ② 被審人は,他物件の受注予定者に決定された。しかし,受注を希望する 物件ではなかったため,受注予定者となることを承諾しなかった。 ③ 被審人は,2物件の受注を目指すこととし,同物件について受注予定者 が決定されており,他の入札参加者は受注予定者が受注できるように受注予定 者の入札価格より高いと推察される価格で入札することを認識した上で,受注 予定者の入札価格より低いと推察される単価である2730円を用いて入札した。 ④ これに対し,受注予定者である K 社の入札単価は,2770円であった。 ⑤ 被審人および K 社以外の入札参加者のうち違反行為の主体である16社 は,受注予定者の入札価格以上の価格となる2770円ないし3500円の単価を用い て入札することにより受注予定者が受注できるように協力した。 ⑥ この結果,被審人が2物件を落札した。 ⑦ なお,入札に参加した,違反行為の主体ではない業者2社は,3000円お よび3800円という単価を用いて入札した。
8 彦根論叢 第373号 平成20(2008)年6月 ! 該当物件の課徴金対象該当性 判断構造は,次のようである。 ① 該当物件については,受注予定者が決定されているところ,違反行為の 主体ではない業者2社は,「価格競争を挑まず」,また,被審人および受注予定 者以外の違反行為の主体である16社は,基本合意に基づき,受注予定者の入札 価格を上回り自社が落札できないであろう価格で入札し,受注予定者が受注で きるよう協力することによって,「具体的に競争制限効果が生じた」ものであ ると認められる。 ② 加えて被審人は,基本合意に基づいて,受注予定者が決定され,受注予 定者および被審人を除く入札参加者は受注予定者が受注できるよう協力してい る事態を認識していた。 ③ さらに被審人は,受注予定者の入札価格を想定し,想定した受注予定者 の入札価格の単価よりわずかに低いと推察される単価を用いて入札し落札した ものであると認められる。 ④ したがって,基本合意に基づいて受注予定者が決定されることによって, 「競争が制限された状況」を被審人が利用して落札したものであって,「具体 的に競争制限効果が発生するに至った」物件ということができるのであり,課 徴金の算定対象となる。 3.様相" 受注予定者は1名に絞り込めなかったものの,被審人を含め競争者が2,3 名に限定された場合である。①事件が該当する。審判官の判断は,実質的に見 れば,課徴金の対象についての考え方,基本合意,受注調整の経緯,該当物件 の課徴金対象該当性,から構成されている。以下,本稿の問題関心に即して整 理をする。 (1) 課徴金の対象についての考え方 独禁法7条の2第1項の規定を紹 介した後,次のように記述する。「同条にいう『当該商品又は役務』とは,当 該違反行為の対象となった商品又は役務全体を指すところ,‥‥入札における 受注調整の事案においては,違反行為を実現する個別の受注調整手続に上程さ れ,具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきであり,
入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 9 したがって,受注調整手続が完結して受注予定者が1社に集約され得た案件に 限られず,受注調整手続を行った結果として競争者の数が限定されることに よって入札価額が完全な競争状態下における価額より高額化する等の競争を制 限する具体的な効果が生じた案件もこれに含まれることになる。」 (2) 受注調整の経緯 ① 被審人は,受注予定者を決定する合意の成立を争っているが,受注調整 手続が行われたこと自体は否定していない。 ② 次のことからすれば,競争関係の存否を確定するためには,さらなる審 理を要する。 !ア 指名業者全員による受注調整の合意が成立した事実を具体的に明示す る相指名業者の供述調書等は存在しない。 !イ 他方,被審人代理人は,相指名業者の協力を得て受注できた物件とし て供述し,他社との競争があった事実を述べていない(証拠による認定)。 !ウ また,相指名業者2社の担当者も,タタキ合いとなった物件として言 及していない(証拠による認定)。 ③ しかし,仮に指名業者全員の合意による受注調整の合意が成立していな かったとしても,入札の経緯は以下のとおりとなる(証拠,審判廷における発 言内容,準備書面における主張事実の総合)。 !ア 被審人を含む7社による指名競争入札が行われた。 !イ 被審人は受注を希望して,受注調整の手続に従い,相指名業者のうち 5社にその希望を伝えたが,その余の1社に対しては,入札価格を知ら せるとこれを逆用してさらに低い価格で入札される可能性があるとの懸 念のもとに連絡を取らなかった。 !ウ さらに,被審人が受注希望を伝えた相指名業者のうち1社も受注を希 望し,被審人との間で話がつかなかった。 !エ その結果,入札においては,最終的に受注予定者を1社に決めること はできず,被審人を含む2社または3社による競争となった。 !オ このような場合,7社による競争となった場合と異なり,各競争者は
10 彦根論叢 第373号 平成20(2008)年6月 相応の利益を確保できる金額により入札を行うことが予想できた。 !カ そこで,被審人は,7社による競争となった場合より高額の入札金額 (被審人としての積算額を10パーセント程度低くした額)により入札を 行い,発注者による予定価格(設計金額)の98.2パーセントに当たる価 額で落札することができた。 (3) 該当物件の課徴金対象該当性 判断構造は,次のようである。 ① 次の具体的な競争制限効果が発生しているのであるから,課徴金対象と なる役務に当たると解すべきである。 !ア 受注予定者を1社に決定することはできなかったものの,受注調整手 続の結果として競争者が2社または3社に限定されていること。 !イ さらには前記!アを前提とした被審人の入札額および落札額が,7社に よる競争の場合より高額となっていること。 ② 指名業者全員による受注調整の合意が成立していない事実を理由として 課徴金の対象外であるとする主張は,その事実の存否に関わらず採用できない。 4.様相" 被審人は受注調整に一切応じない態度をとっていたわけではないが,入札に おいて自由な価格競争があったことが窺われる場合である。②事件が該当する。 審判官の判断は,実質的に見れば,課徴金の対象についての考え方,受注調整 の経緯,該当物件の課徴金対象該当性,から構成されている。以下,本稿の問 題関心に即して整理する。 (1) 課徴金の対象についての考え方 独禁法7条の2第1項の規定を紹 介した後,次のように記述する。「ここにいう『当該商品又は役務』とは,‥ ‥受注調整による違反行為の場合には,‥‥違反行為に係る基本合意に基づい て受注予定者が決定されること又は受注予定者が決定されるまでには至らなく ても調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに 至ったものを指すと解すべきである。」 (2) 受注調整の経緯 本稿で問題になるのは,12の物件のうちの1つで あるので,以下の紹介はそれに特化したものとなる(もっとも①∼③は,12の
入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 11 物件すべてに関わる)。 ① 広島市水道局発注の特定上水道本管工事については,実行期間を通じて, 特定期間に入札のあった Y 社指名の物件以外,原則として違反行為に係る受 注調整の対象となり,違反行為に係る基本合意に基づいて受注予定者が決定さ れていたものと認めることができる(証拠)。 ② 競争入札においては,あらかじめ受注予定者を決定すれば,受注予定者 が競争を前提としない価格によって入札し受注することになるから,当該物件 について具体的に競争制限効果が発生するに至ることを推定することができ る。 ③ 該当物件は,実行期間内に発注された広島市水道局発注の特定上水道本 管工事であるから,特段の事情がない限り,違反行為に係る基本合意に基づい て受注予定者が決定され,そのことによって具体的に競争制限効果が発生する に至ったものと推定することができる。 ④ 次の事情からすれば,被審人が一切受注調整に応じない態度を取ってい た事実があったとは認められない。 !ア 被審人は,審査段階において,自由競争になった旨を述べているが, 話合いに応じない旨の宣言をしていた事実について全く言及していない (証拠)。 !イ 相指名業者の関係者も,被審人が話合いに応じない旨の宣言をしてい たとする事実について,審査段階で何ら供述していない(証拠)。 ⑤ 他方,次の事実は,入札において自由な価格競争があったことを窺わせ る事実でもあり,特段の事情があると認めることができる。 !ア 被審人の入札価格が4670万円で,相指名業者の入札価格を15パーセン ト以上下回り,低入札価格調査の対象となっている事実(証拠)。 !イ 相指名業者の入札価格も5550万円ないし7300万円とばらつきが大きい 事実(証拠)。 ⑥ そして,違反行為に係る基本合意に基づいて受注予定者が決定されたこ とまたは調整手続に上程されたことを直接認めるに足りる証拠はない。
12 彦根論叢 第373号 平成20(2008)年6月 (3) 該当物件の課徴金対象該当性 違反行為に係る基本合意に基づいて 受注予定者が決定されることまたは調整手続に上程されることによって具体的 に競争制限効果が発生するに至った物件であると認めるには足りないので,課 徴金の対象とはならない。 ! 直近の審判事件の分析・検討 1.課徴金対象該当性の判断枠組み 「課徴金の対象についての(基本的な)考え方」に関わっては,まず次の3 点を確認することができる。一つに,①事件,②事件,③∼⑦事件と,記述は 3通りある。二つに,書き振りの違いは別にして,記述の違いは事案の特性に よるものであり,「具体的に競争制限効果が発生するに至った」物件であるか 否かが問題とされる点では,実質的な違いはない。そして三つに,事案の特性 に応じて,具体的な競争制限効果の発生要因が,①事件では「違反行為を実現 する個別の受注調整手続に上程され」と,②事件では「違反行為に係る基本合 意に基づいて受注予定者が決定されること又は受注予定者が決定されるまでに は至らなくても調整手続に上程されることによって」と,③∼⑦事件では,「基 本合意に基づいて受注予定者が決定されることによって」と書き分けられてい る。 検討を要するのは,具体的な競争制限効果の発生が,その発生要因に起因す ることが論理的に導き出され得る判断構造になっているかである。改めて次節 (2.)で,具体的事案に即して検討する。 また,①事件において,考え方が当該事件に即して敷衍されている箇所につ いても,検討を要する。具体的には,「受注調整手続が完結して受注予定者が 1社に集約され得た案件に限られず,受注調整手続を行った結果として競争者 の数が限定されることによって入札価額が完全な競争状態下における価額より 高額化する等の競争を制限する具体的な効果が生じた案件もこれに含まれるこ とになる」とする箇所である。分明でないのは,「競争者の数が限定されるこ と」と「入札価額が完全な競争状態下における価額より高額化する等」の関わ
入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 13 りであり,「競争者の数が限定されること」だけでは,具体的な競争制限効果 の発生と判断するには不十分と考えているかである。換言すれば,具体的な競 争制限効果が発生したと判断するためには,「入札価額が完全な競争状態下に おける価額より高額化する等」が認定されなければならないかである。文面だ けからは一義的にみえるが,判断構造の局面での書き振りとは違っている。こ の点についても,改めて具体的事案に即して検討する(2.(3))。 なお,直近の審判事件における課徴金対象についての(基本的な)考え方が 妥当であるか否かについては,本稿では触れない。次稿の検討課題とする5)。 2.課徴金対象該当性の判断構造 いずれの事件においても,「具体的に競争制限効果が発生するに至った」物 件であるか否かをどのように判断しようとしているかがポイントである。以下, 様相(事件)ごとに分析・検討する。 (1) 様相!(⑤・⑥事件) ポイントは,基本合意に基づいて受注予定 者が決定されたか否かである。受注予定者が決定されれば,具体的な競争制限 効果が発生するのが通例であることによる。 ここでも,⑤事件に即して,判断構造を分析・検討する。まず,違反行為に 係る受注調整が一般的に行われていたことを証拠でもって認定する。次に,特 段の事情があった物件を除いて,基本合意に基づき受注予定者が決定されてい たものと推認することができるとする。その上で,特段の事情を窺わせる証拠 はないとする。逆に,一部の物件については被審人が受注予定者となったこと を被審人側で認めていると証拠でもって認定し,また,入札直前の時点で被審 人を受注予定者に決定する了解がまとまったと判断できる状態にまで至ってい た事実を審判廷における供述から認定する。そして最後に,上記の事実を総合 して,基本合意に基づき明示的に・黙示的に受注予定者が被審人に決定された 5)なお,本稿の対象である談合崩れとは別の類型であるが,ごく最近の審決では,「課徴 金の対象についての(基本的な)考え方」は示されていない。木下内組事件(平19・6・ 19審判審決),大石組事件(平19・6・19審判審決)参照。受注調整が行われたことが明 白な事案であることによるのかもしれないが,考え方の変更があったとも考えられる。次 稿の検討対象とする。
14 彦根論叢 第373号 平成20(2008)年6月 物件であると認めることができるとする。なお,落札率が高いことにも触れ, 受注調整が行われたことを断定する根拠とまではならないものの,受注調整が 行われたことを推認させる事実ということができるとする。 この判断構造は,基本合意に基づいて受注予定者が決定されたか否かを手堅 く判断するものであり,異論はない。 (2) 様相$(③・④・⑦事件) ④事件の判断構造は,アウトサイダー の扱いを除いて⑦事件と実質的に同じであるので,⑦事件に即して分析・検討 する。その後,④事件に即して,アウトサイダーをどう扱ったか,分析・検討 する。 ! 判断構造それ自体の問題性 ポイントは,具体的な競争制限効果の発 生に至ったと判断するに当たり,受注予定者1名への絞込みと実行行為で足り るとしているのか,1名への絞込みによる競争制限状況の利用まで必要として いるのかである。審決の判断構造は,分明でない。「具体的に競争制限効果が 生じた」ということばと,「具体的に競争制限効果が発生するに至った」とい うことばが,受注過程の異なったレベルで用いられていることによる(前出$ 2.(1)"の①と③参照)。 この点,審決は,受注予定者1名への絞込みと実行行為を重く見て,「具体 的に競争制限効果が生じた」とし,その競争制限状況を被審人が利用したこと をもって「具体的に競争制限効果が発生するに至った」と判断しているのかも しれない。それは,「生じた」ということばと,「発生するに至った」というこ とばが微妙に使い分けられており,また「加えて」ということばで接続して, 競争制限状況の被審人による利用が記述されていることからも分かる。様相# の場合の判断構造からすれば,この判断構造は論理必然といえるかもしれない。 しかし,本件事案に即してみれば,1名への絞込みと実行行為によってどう いった競争制限効果が具体的に生じるのか,判然としない。生じるのは,競争 制限状況に過ぎないのではないか。具体的な競争制限効果は,1名への絞込み と実行行為によって生じた競争制限状況を被審人が利用することによって発生 するのではないか。様相#と統一的に把握しようとするあまり,審決の判断構
入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 15 造は明確さを欠いている6)。 ! アウトサイダーの扱い ④事件に即して,アウトサイダーの扱いにつ いて分析・検討する。問題はアウトサイダーの評価であり,「価格競争を挑ま なかった」7)と判断する根拠がポイントの一つとなる。証拠でもって認定され ているのは,入札単価が,被審人2730円,受注予定者2770円であるのに対し, 3000円と3800円であったということのみである(両者以外の入札参加者で違反 行為の主体である16社の単価は,2770円ないし3500円)。アウトサイダーの価 格行動が入札談合の影響を受けているか否かについては,何らの言及もない。 入札単価が極めて高かったことのみが,価格競争を挑まなかったと判断する根 拠とされている。この判断構造は論理的であろうか。そしてもう一つのポイン トは,競争者は常に価格競争を挑まなければならないかである。落札希望物件 でない場合,高めの価格で入札することもあり得る。しかし,競争がなかった とは通常言わない。この点でも,審決の判断構造には問題が残る。より根源的 には,入札価格の高低に重きをおく判断構造そのものが,問題である。 これにより,審決の判断構造は,明確さを欠くだけでなく,説得力を欠くに 至っている。 (3) 様相"(①事件) 受注予定者は1名に絞られていないので,「課徴 金対象該当性の判断枠組み」(前出1.)で触れたように,ポイントは,受注調 整手続の結果として競争者の数が限定されることで足りるのか,加えて,入札 価額が完全な競争状態下における価額よりも高額化することなどを要するかで ある。審決の該当箇所は,「受注調整手続が行われて,その結果として競争者 が2社又は3社に限定されていること,さらには,これを前提とした被審人の 入札額及び落札額が7社による競争の場合より高額となっていることという具 体的な競争制限効果が発生している」と記述する。「さらには」をどう読むか 6)なお,本件に関わっては,競争制限状況を競争的に利用した場合,課徴金対象とすべき ではないとの有力な批判がある。平林・前掲(注1)。しかし,たとえ競争的利用であっ ても,被審人の入札価格が受注調整の直接的な影響下にあることに間違いない。批判は, 政策論としてはともかく,解釈論としては大いに疑問である。 7)同様の評価がなされた事件として,南海カツマ事件(平16・2・6審判審決,審決集50・ 249),犬飼建設事件(平18・7・31審判審決,審決集53・389)参照。
16 彦根論叢 第373号 平成20(2008)年6月 であるが,両様の理解が可能であろう。その限りで,審決の判断構造はあいま いである。もっとも,実際は,競争者の数の限定と,それを前提とした入札額・ 落札額の高額化との見合いで,具体的な競争制限効果の発生を判断しようとし ているのかもしれない。このストーリーに従えば,競争者の数が限定されない 程度に応じて,またその受注希望が強い程度に応じて,入札額・落札額の高額 化の立証の程度が高まらなければならないことになる。 本件に当てはめてみよう。7社による指名競争入札が行われ,受注調整の結 果,2,3社による競争となった。しかも2社は実際に受注を希望し,1社は 希望する可能性があった。このことからすれば,競争者の数が限定されただけ で,具体的な競争制限効果が発生したと判断するのは容易でない。次の2点の 厳密な立証が不可欠となる。①入札額・落札額が,受注調整の影響下にあるこ と。②そのことにより入札額・落札額が高額化していること。この点,審決は, ①に関わって,「7社による競争となった場合と異なり各競争者は相応の利益 を確保できる金額により入札を行うことが予想できた」と記述する。確かにこ れは,一般論としては妥当であるかもしれない。しかし,具体的事案に即して みれば,7社による競争となった場合と異なり,なぜ各競争者は相応の利益を 確保できる金額により入札を行うことが予想できたと判断するのか,分からな い。2,3社であっても,実際の受注希望者として激しい競争を行うことはあ り得る。その場合,各競争者は,相応の利益を確保できる金額により入札を行 うことは予想できそうにない。競争が馴れ合いであれば可能であるが,その立 証はない。入札・落札の結果から逆算して導き出した判断なのか。 他方,審決は,②に関わって,「そこで〔相応の利益を確保できる金額によ り入札を行うことが予想できたので〕,被審人は,7社による競争となった場 合より高額の入札金額(被審人としての積算額を10パーセント程度低くした額) により入札を行い,発注者による予定価格(設計金額)の98.2パーセントに当 たる価額で落札することができた」と記述する。問題は,入札額・落札額が高 いことそれ自体にあるのではない。競争者の数が限定されて競争が不活発とな り,入札額・落札額が高額化することにある。本件の落札額が高額であること
入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 17 は間違いない。しかしそれが,競争者の数が限定されることによる競争の不活 発に起因することは立証されていない。結果として落札額が高額となった可能 性は否定できない。 ここでは,受注予定者が1名に絞り込まれなかったので,様相!・"の場合 とは異なる判断構造が採られなければならないが,審決は,受注調整の結果, 実質的な競争者が2,3社に限定されたことと,入札額・落札額が高額であっ たこととを安易に結びつけて,具体的な競争制限効果が発生したと判断してい るのではないか。また,入札価格の高低に大きく依存した判断構造になってい る。これでは,判断構造が明確さと説得力を持っているとは到底言えない8)。 (4) 様相#(②事件) 受注予定者が決定されたか,または受注予定者 が決定されるまでには至らなくても調整手続に上程されたかが,ポイントとな る。このことは,課徴金の対象についての考え方からも分かる。しかし,直接 証拠がないこともあいまって,判断構造は分明とは言い難い。 審決の判断は,まず受注予定者の決定に関わって,次のように展開される。 実行期間内に発注された広島市水道局発注の特定上水道本管工事については, 原則として受注調整の対象となり,受注予定者が決定されていたことを証拠で もって認定する。続いて,受注予定者が決定されれば,具体的な競争制限効果 が発生するに至ると推定できるとする。そして,特段の事情がない限り,受注 予定者が決定されることによって具体的な競争制限効果が発生するに至ったも のと推定することができるとする。次に調整手続への上程に関わって,被審人 が一切受注調整に応じない態度をとっていた事実があったとは認められないと 認定する。しかし他方で,入札において自由な価格競争があったことを窺わせ る事実があり,特段の事情があると認めることができるとする。 問題は,調整手続への上程に係る判断が受注予定者の決定に係る判断に取り 込まれる形で行われ,その結果,受注予定者の決定に係る判断構造が切断され, また調整手続への上程に係る判断構造が希薄化していることにある。様相!と 統一的に把握したいとの意図が強過ぎ,事案の実態を見失っているのではない 8)波光・前掲(注1)30―31頁,平林・前掲(注1)51頁の批判も参照。
18 彦根論叢 第373号 平成20(2008)年6月 か。 また,被審人の入札価格が低いこと,相指名業者の入札価格がばらついてい ることをもって,自由な価格競争があったことを窺わせる事実とし,これをもっ て特段の事情があると認めていることにも着目しなければならない。この結論 はともかく,入札価格を決め手とする判断構造には問題がある。 総じて本件の判断構造は,明確さと説得力を欠いている9)。 ! 簡単なまとめ 判断枠組みについては,前述したところをもってまとめに代える(#1.)。 以下,談合崩れの様相ごとに,判断構造の簡単なまとめをする。 様相!(⑤・⑥事件)に関わっては,事案に即した,論理一貫した判断構造 が採られている。最終的に被審人を受注予定者に決定する了解がまとまったと 判断できる状態にまで至っていた事案であるので,通例の事案と同様,受注予 定者の決定と,それによって具体的な競争制限効果が発生したか否かを判断構 造とすればよいことによる。 それに対し,様相"(③・④・⑦事件)に関わっては,問題がある。受注予 定者1名への絞込みによる競争制限状況を被審人が利用して落札した事案であ るので,ポイントは,受注予定者1名への絞込みだけではない。被審人が競争 制限状況を利用して落札したか否かもポイントになる。そこに本件の特性があ る。問題が生じるのは,受注予定者1名への絞込みを重く見る判断構造である。 受注予定者1名が決定された場合として統一的に把握したいとの意図が強すぎ るのか,被審人が競争制限状況を利用することによって競争制限効果が具現す る側面があいまいになっている。そのため,事案に即した理路整然とした判断 構造とはなっていない。アウトサイダーがいる場合は,別の問題がある。アウ トサイダーとの間で競争がないことを立証するため,入札価格(単価)の高低 に単純に寄りかかった判断構造を採っている。この問題性も大きい。 他方,様相#(①事件),様相$(②事件)は,受注予定者1名が決定され 9)波光・前掲(注1)33頁の批判もまた参照。
入札談合における受注調整と個別物件の課徴金対象該当性(その2) 19 なかった場合であるので,判断構造は,おのずから異なってくる。様相!は, 受注予定者を1名に絞り込めなかったものの,被審人を含めて競争者が2,3 名に限定された場合であるので,受注調整手続への上程によって具体的な競争 制限効果が発生したか否かを判断枠組みの基本とし,受注調整手続の結果とし ての競争者の数の限定による入札額の高額化でもって,競争制限の具体的効果 を判断しようとする。この判断構造は,それ自体としては問題ない。問題があ るのは,現実の判断構造が,受注調整手続の結果としての競争者の数の限定と, 入札額が高額であったこととを安易に結びつけ,かつ入札価格の高低に大きく 寄りかかったものとなっていることにある。 様相"は,入札において自由な価格競争があったことが窺われる場合である ので,受注予定者が決定されたかあるいは調整手続に上程されることによって 具体的な競争制限効果が発生したか否かが判断枠組みとされ,判断構造もそれ に対応したものであることが要請される。しかし,現実の判断構造は錯綜して おり,明確さと説得力を欠いている。その原因の一端は,受注予定者が決定さ れたか否かに拘泥するあまり,調整手続への上程に係る検討が不十分な構造に なっていることによる。また,入札価格を決め手としていることにも,大きな 問題がある。 総じて,課徴金対象該当性の判断構造は,談合崩れの度合いが大きくなるに つれ不明確になり,また説得力を欠く傾向にある。 本稿では,判断枠組み・判断構造に関わって,以上のことを確認しておけば よい(次稿に続く)。