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議員と住民とのコミュニケーション

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議員と住民とのコミュニケーション

著者

飯島 淳子

雑誌名

法学

83

3

ページ

1-27

発行年

2020-01-28

URL

http://hdl.handle.net/10097/00127060

(2)

Ⅰ 課題設定 Ⅱ 法制度  1 地方公共団体における取組み  2 国における取組み Ⅲ 判例  1 議員の発言の権利・自由と責任  2 地方議会の自律権と一般市民法秩序 Ⅳ 分析  1 コミュニケーションとその制度化  2 議員の法的地位

Ⅰ 課題設定

 地方議会は,わが国の公法学においていわば狭間の存在であり続けてき た。それは第一に,憲法学と行政法学の狭間であった(1)。憲法学は国会に専 らの関心を向け,国会との差異において地方議会を検討するにとどまってき 論 説

 議員と住民とのコミュニケーション

飯 島 淳 子

(1) 駒林良則㈶地方議会の法構造㈵(成文堂,2006 年)1 5 頁参照。なお,行政 学・政治学は,国政のみならず,地方政治にも関心を向けているが(曽我謙悟 =待鳥聡史㈶日本の地方政治Ё二元代表制政府の政策選択㈵(名古屋大学出版 会,2007 年),馬渡剛㈶戦後日本の地方議会Ё1955∼2008㈵(ミネルヴァ書房, 2010 年),金井利之㈶自治体議会の取扱説明書Ё住民の代表として議会に向き 合うために−㈵(第一法規,2019 年)等),公法学との協働は必ずしも十分に 行われていない。

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た。もっとも,この学問的態度は,日本国憲法が,国会についてはその基本 的事項を憲法に留保しているのに対し,自らの政府は自らつくるという地方 自治の本旨ゆえか,地方議会については直接には 1 カ条(93 条)しか定めて いないことにも由来している。関連して第二に,地方議会は,伝統的に行政 機関として性格付けられてきたため,憲法上の議事機関であり,憲法上の直 接公選議員で構成され,憲法上の自主立法権を保障されていることの法的意 味は,行政と立法の狭間で,必ずしも十分に解明されてこなかった。そして 第三に,地方議会は,団体自治と住民自治の狭間で揺れ動いてきた。この 20 年間においても,第一次地方分権改革は,国による関与を縮減し,地方 公共団体自身によるコントロール,とりわけ長に対する牽制を議会に期待す るとともに,地方公共団体ひいては地域住民の自己決定の拡充を目指して議 会の活性化を強く促してきた。その後,市町村合併を通じて議会・議員のリ ストラを強行しつつ総合行政主体を確立しようとする企てが進められる一方 で,地方議会自身による議会改革を通した住民自治の実現が掲げられてき た。  糠塚康江教授は,こうした狭間に自覚的に取り組んできた数少ない憲法学 者の一人である。2010 年の著書㈶現代代表制と民主主義㈵(2)には,地方議会 改革を憲法学の観点から分析したА地方自治からの示唆Ё自治空間における А対話Бの重層化Бが収められている。そして,この著書のむすびА討議空 間の創出Ёmedium としての言語Бで打ち出された構想は後に,2017 年の 論文А《proximite》考Ё何を概念化するのかБによってА制度的観点からБл 考察の深化が図られた(3)  この論文は,フランス第五共和制における選挙制度改革の分析を通じて, (2) 糠塚康江㈶現代代表制と民主主義㈵(日本評論社,2010 年)。 (3) 糠塚康江編㈶代表制民主主義を再考するЁ選挙をめぐる三つの問い㈵(ナカニ シヤ出版,2017 年)114 頁注 1。

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А議席がА本質的人口の基礎Бに基づいて配分されるべきことが憲法院によ って繰り返し確認されていることを前提に,地理的広がりのより小さい選挙 区の選択を正当化するために《proximite》が援用されていたБл (4)ことを明ら かにした上で,選挙民と議員のつながりという proximite の意味を代表制理л 論の展開を踏まえて考察した結果,proximite の原理とА距離Бの原理とのл А交差点Бに位置する議員像,すなわち,А議員は,選挙区という地理的に限 定されたА地域Бに自らの正統性の基盤を置いて活動する一方,議会内で選 挙区の利益擁護と院内政治グループの活動を通じて国民総体の意思表明に貢 献するБ(5)存在であること,そして,А議員と選挙人相互のコミュニケーショ ンこそが,熟議空間と統治空間を接合する《medium》であるБ(6)ことを主 張したものである。  この論文は,近接性という概念のもつ豊かな法的含意を梃子に,議員像を 再定義することで,現代の代表制民主主義の可能性と方向性を示したもので あると評されよう。しかし,なぜ議員個人に着目するのかという疑問が直ち に浮かぶ(7)。市民参加をめぐる歴史が,議員個人への陳情・要請から組織体 (4) 同上 126 頁。 (5) 同上 134 頁。 (6) 同上 135 頁。なお,medium について,糠塚教授は,蟻川恒正А責任政治Б法 学 59 巻 2 号(1995 年)1 頁以下のА表現を借用しБつつ(糠塚・前掲注 2) 230 頁注 1),“原義”とは異なる意味を与えているようにも見える。というの も,第一に,糠塚教授は,責任政治ないしА批評の連鎖Б(蟻川・前掲 22 頁参 照)ではなく,たえざる民意の構成ないし議員と選挙人相互のコミュニケーシ ョンに重点を置いており,第二に,当事者の間を結ぶ媒介者はА消えるБ(蟻 川・前掲 22 23 頁参照)ものであるのに対し,糠塚教授においては,А当事者Б の概念が必ずしも明らかでなく(А熟議空間と統治空間Бが当事者であるとは 考え難いであろう),したがって medium の意味も判然としない(А議員と選 挙人相互のコミュニケーションこそが……《medium》であるБという表現の ほか,А議員の身体を medium とするБ(糠塚・前掲注 2)231 頁)という表現 もなされている)。 (7) なお,糠塚教授は,民意の活性化の役割を,議員個人のみならず,地方議会 (А議会の審議は選挙時点で写し取られたА民意Бを時間の経過の中で再活性化

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としての議会への参加へと進んできたなかで(8),なぜ,社会の現実の動きに 反して逆戻りするような理論が必要なのかという疑問である(9)。しかも,議 員個人への着目において,А議員と選挙人という主体間の現実的・具体的相 互コミュニケーションБないしА身体性を有する主体が対面し,言葉のやり 取りをすることБ(10)が重視されていることにも疑問が呈されよう。社会一般 におけるサイバー空間でのコミュニケーションの隆盛というだけでなく,選 挙制度においても,インターネット選挙運動解禁(公職選挙法 2013 年改正) 等の流れがあるにもかかわらず,生身の人間に拘り続けるべきなのか,拘り 続けられるのかという疑問である。  こうした疑問に基づいて,本稿は,議員と住民とのコミュニケーション が,民主政にとって,果たして,また,どのような法的意味を持ちうるもの として設計され,運用されているかを把握することを,課題として設定す る。その際,検討の対象を地方議会議員に限定する(11)。地方公共団体にお ける実践が第一フェーズから第二フェーズへと移りつつあるなかで,法理を 探り出すべき段階に至っていると考えられるからである。以下では,地方公 共団体における議会改革の実践と国における地方議会・議員の制度改革論に するБ(糠塚・前掲注 2)168 169 頁))や国会(А国会は,政府の活動の情報を 集め,対話し,その評価を行うことによって,国民による政府批評を喚起す るБ(同 188 頁))にも期待しているように見える。仮にそうであるとすると, 本稿の問いは空振りに終わることになる。しかしなお,生身の人間と機関を, また地方議会と国会を同列に扱ってよいのか,課題は残りうる。 (8) 野口暢子А自治体議会への市民参加Б廣瀬克哉編著㈶自治体議会改革の固有性 と普遍性㈵(法政大学出版局,2018 年)129 131 頁参照。 (9) 教授自身,АА代表性Б確保のためのА討議的傾向Бにおいて重要な役目を演ず る〔ものとして〕議員に注目する議論は,〔政党政治の下では〕いかにもリア リティに欠けると嘲笑を招くかもしれないБと述べている(糠塚・前掲注 2) ⅱ頁,231 頁も参照)。 (10) 糠塚・前掲注 3)135・136 頁。 (11) なお,駒林・前掲注 1)147 151 頁は,地方議員の法的地位には,議会法的要 素に加えて公務法的要素があり,国会議員の法的地位とはかなりの差違がある と指摘している。

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ついて検討し(Ⅱ),また,議員の発言をめぐる近時の判例の動向を分析す ることを通じて(Ⅲ),上記疑問に対する答えを探ってみたい(Ⅳ)。

Ⅱ 法制度

1 地方公共団体における取組み  2000 年代後半以降,多くの地方公共団体において,議会基本条例の制定 とそこで掲げられた基本理念の実現に向けて,それぞれに,また,連携し て(12)実践が積み重ねられてきた(13)。議会改革は,議員相互間の関係(自由 討議制)や議員と長との関係(一問一答方式,反問権)をも対象とするが,以 下では,議員と住民との関係に焦点を当て,かつ,法的規律のあり方に着目 するという方法に拠って検討する(14) (1)議場内  議場内における住民参加の手法として,各地方公共団体は,地方自治法の 定める手法にとどまらない取組みを編み出している。  例えば,А福島町議会への参画を奨励する規則Бは,議会に対して傍聴者 (12) 例えば,栗山町議会基本条例 12 条は,А議会は,分権時代にふさわしい議会の 在り方についての調査研究等を行うために,他の自治体の議会との交流及び連 携を推進するものとするБと定めている。実際,地方議会間の連携は極めて精 力的に行われている。 (13) 廣瀬克哉А議会基本条例の時代Б前掲注 8)7 頁は,最初の事例である栗山町 議会基本条例がモデルとしての役割を果たしたことや,当時の栗山町議会事務 局長らがА議会基本条例必須要件 3 項目(議会報告会開催の義務付け,請願・ 陳情者の議場での意見陳述機会の保障,議員間の自由討議を基本とする議会運 営理念)Бを提起したことなどにより,議会改革が一定の規範性を帯びて普及 していったと指摘している。 (14) 長野基А自治体議会改革の成果と構造ИЙ基礎自治体パネルデータからの分析 ИЙБ法学志林 116 巻 1 号(2019 年)39 頁は,А議会改革として取り組まれる どの側面に着目し,何をもって,自治体議会改革の成果として測定するのか, は規範的認識とも連動する問題であるБと指摘している。

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の受入れと意見聴取機会の付与を義務付けると同時に(3 条),傍聴者に対し てА基本条例の理念・原則に基づきБという規律と議長の許可制の下で討議 への参加を認めている(2 条)。  また,愛知県犬山市議会のА市民フリースピーチ制度Бは,①定例会開催 期間に,犬山市内に在住・在学・在勤する者は,議場で議員に対し,市政に 関して 5 分間自由に発言することができる(議員から発言内容を確認すること もある),②市民の意見は,全員協議会で議員間討議を行い,申し入れなど のアクションをとる,③協議結果は文書やホームページで公開する,という ものである。この制度は,議会基本条例を含めて法的根拠なしに事実上行わ れているが,自ら内容を決めることを含めたАフリースピーチБを市民に認 めるのに加え,全員協議会での討議→議会への申し入れ等→結果の公開とい う,市民の意見の実現に向けた組織的・手続的対応を備えている。 (2)議場外  議場内での参加に比べ,議場外での参加はより柔軟に展開されている。各 種団体と議会との意見交換(15)が実際には大きな位置を占めているとされる が(16),以下では,住民個人をアクターとする典型的な取組みを二つ取り上 げる。  一つは,議会報告会制度である。なかでもА会津若松市議会市民との意見 交換会の実施に関する規程Бは,意見交換会を政策形成サイクルの起点とし て制度化している(17)。本規程は,一連のプロセスとして,市民との意見交 換会に出席した議員が,市民の意見等をまとめ,議長に報告する(6 条 1 項) →議長は,当該意見等の整理・検討を広報広聴委員会に依頼する(6 条 2 項) (15) 例えば,栗山町一般会議制度(栗山町議会基本条例 4 条 2 項・14 条 2 項)等。 (16) 野口・前掲注 8)132 頁。 (17) 連載議会改革リポート 変わるか!地方議会 98Бガバナンス 2009 年 7 月 126 頁。

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→広報広聴委員会は,議会における当該意見等への対応を協議し,議長に報 告する(6 条 3 項)→議長は,議会運営において適切に対処する(6 条 4 項) →議会は,意見等について,議会の対応と併せて公表する(7 条)ことを定 めている。ここでは,各アクターによる役割分担とその担保措置(公表)を 通じて,市民の意見等がА議会の対応Бに制度的に結び付けられている。  もう一つは,議会モニター制度である。例えば,А浦幌町議会モニター設 置要綱Бは,議会モニターの職務を定めた上で(9 条),議会モニターから提 言等が提出されたときは,議長は必要に応じて関係する会議に当該提言等を 検討させ,この検討結果は,議会モニターに通知するとともに,公表すると している(10 条)。議会モニターについては,定員(10 人以内,3 条),資格 (年齢満 18 歳以上の町民等,4 条),募集方法(公募原則と推せん方法,5 条),議 長による委嘱に当たっての考慮事項(А年齢・居住地等に著しい偏りが生じない ように配慮Б,6 条),任期(2 年,8 条)といった限定が課されている。こうし た限定されたメンバーによる提言について,議会の対応が制度化されてい る。 (3)分析  以上のような議会改革の取組みを素材に,法的規律のあり方という観点か ら,これらを分類し,分析するための枠組みを探ってみたい。  第一に,法的根拠の有無に着目する。一方で,議会改革の取組みのなかに は,何らの法的根拠もなく,事実上実施されているものも多いが,そこで も,実務を通した事実上のルールが形成されていることがある。犬山市議会 のА市民フリースピーチ制度Бは,市民の発言を議会運営に組み込むための ルールが慎重に設定されるとともに(例えば,フリースピーチ申込書への発言項 目や発言内容の記入,これに照らした発言の可否の決定,事後の変更の禁止等),前 述の通り,公開の議場でなされた市民の発言を議会対応に結びつけるための 組織的ルールが整備されている。

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 他方で,法的根拠が存在する場合には,まず議会基本条例において一定の 取組みが定められ,これに基づいて,規則や要綱によって当該取組みの具体 的内容等が定められていることが多い(例えば,福島町傍聴者参加制度,会津若 松市意見交換会制度,浦幌町議会モニター制度)。この場合には,議会基本条例 の規律密度に加え,規則や要綱等の規範の選択如何が問われうる。逆に,自 治基本条例に根拠があるものの,規則や要綱による具体化なしに,取組みが 実施されていることもある(18)  第二に,諸取組みの目的に着目する。議会改革の究極的な目的は民意の把 握と反映に求められうるが,その際に,住民からの議会への要望を基礎とす るか,それとも,議会による住民の“活用”を基礎とするかという選択肢が ありうる。両者は厳格に区別されるものではないが,法的規律のあり方をは じめ,制度設計の基本的方針に関わってこよう。  第三に,諸取組みの態様に着目する。作用の態様に関する設計の仕方が中 心的な論点となろう。  まず,①参加を議場内とするか,それとも,議場外とするかという基本的 な選択がなされる。議場内での参加は,議会運営上の手続的・実体的規律に 服さなければならないのに加え,住民を公開の圧力にさらすことに伴う権利 利益の保護が求められる。議場外での参加については,こうした法的規律付 けの要求は低い。次に,②対象者をどのように設定するかという選択が,制 度の趣旨・目的に則して行われる。具体的には,住民を基本としつつ,いわ ゆる準住民(在学・在勤者)を含めたり(例:犬山市市民フリースピーチ制度), (18) 例えば,飯綱町議会基本条例は,А町民と議会との懇談会(議会報告会)Б,夜 間・休日会議開催の努力義務,町民が町長等に質問するА模擬議会Бの開催努 力義務,А町民広聴会Бの開催,А議会広報モニターБという 5 種類の議会参加 手法を定めているが(6 条),このうち,要綱が定められているのはА飯綱町 議会政策サポーター設置要綱БとА飯綱町議会広報モニター設置要綱Бのみで あり,裏を返せば,この 2 つ以外の手法については,自治基本条例のみに基づ いて実施されていることになる。

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団体を対象にしたり(例:栗山町一般会議制度),何らの限定も課さない(19) いうように範囲を広げる方向と,逆に,有権者という要件を設定したり(未 成年者や外国人を除く),議長の委嘱によって参加者を限定する(例:浦幌町議 会モニター制度)というように範囲を狭める方向とがありうる。②と合わせ て,③対象事項を限定するか否か,限定する場合に,誰がどのように対象事 項を決めるかという選択もなされる。具体的には,対象事項を限定せずに市 民のА自由Бに委ねたり(例:犬山市市民フリースピーチ制度),逆に,議長が 特定のテーマについて参加者に検討を依頼したりする(例:浦幌町議会モニタ ー制度)。加えて,④参加の回数を 1 回ないし年に数回のみとするか(単発イ ベント方式),それとも,期間を区切りつつ恒常的な活動形態とするか(会議 体方式),⑤参加の仕方を一方向的とするか,それとも,双方向的とするか, といった選択肢がありうる。  第四に,議会の対応のあり方に着目する。参加者による提案について,議 会が対応するか否か(対応しない場合の説明責任を含む),どのように対応する か(全員協議会や委員会での検討→議会での対応→結果の公表といった組織内での役 割分担とプロセスのルール化(例:犬山市市民フリースピーチ制度,会津若松市意見 交換会制度,浦幌町議会モニター制度)),どこまで対応するか(対応のための手続 を開始すること,提案内容の実現に向けて一定の考慮事項の抽出や実現方法の検討 (代替案を含む)といったプロセス面での対応を実践すること,提案内容の実現とい う結果を達成すること等)が問題となりうる。 (19) ただし,例えば,栗山町議会サポーターはА町内外から自主的な協力者Бをメ ンバーとし(栗山町議会基本条例 16 条),住民要件を課していないものの,そ の制度趣旨は,外部の有識者等(“応援団”)の参画にある。

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2 国における取組み (1)地方自治法  国における取組みの最たるものとして,地方自治法における議会関係規定 の改正が数多くなされているが(20),依然として,А地方自治法は,合議体と しての議会を自覚したうえで議会関係規定を形成しているとはいえないだろ うБ(21)という指摘もなされている。  議会への参加に関わる規定として,一つには,“利害当事者参加の保障” が挙げられる(22)。条例の制定・改廃請求に係る審議での請求代表者への意 見陳述機会付与の義務付け(74 条 4 項)がこれに当たる。ただし,この規定 は,(代表民主制とは緊張関係に立ちうる)直接請求制度について,手続的ステ ップを一つ増やし,手続保障を強化すると同時に,議会のよりよい審議に資 する機能を持つものであるとも解される。  もう一つは,専門的事項の調査(100 条の 2)や公聴会,参考人制度(109 条 5 項・115 条の 2)である。これらの規定は,議会政にとっての必要性や有 用性の観点から,能力,知識,適性等によって参加者を“選別し,活用す る”という機能を果たしうるとも解される。仮にそうであるとすると,ここ には,民主主義とは異なる理念も盛り込まれていることになろう。 (2)政府の報告書(23)ЁА町村議会のあり方に関する研究会Б報告書  地方議会・議員をめぐる制度改革論議は,地方公共団体の自己決定と自己 責任の原則の下に地方分権を推進した 1990 年代から,人口減少社会論の文 脈のなかで地方議会制度の持続可能性を模索する 2010 年代へとトーンを変 (20) 駒林良則А地方議会法制の変容Б立命館法学 2013 年 2 号 15 頁は,地方議会法 制の変容を組織・運営の自由度の拡大として意味付けている。 (21) 同上 18 頁。 (22) 長野基А議会改革と地方自治法Б月刊自治研 2017 年 3 月号 49 頁は,法定外税 条例制定時の対象納税者意見聴取の義務付け(地方税法 669 条 2 項)も“利害 当事者参加の保障”として挙げている。

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えつつある。以下では,А町村議会のあり方に関する研究会Б報告書(2018 年 3 月。以下ではА報告書Бという)を素材として,国レベルの動きの基底に ある考え方を抽出することを試みる。  報告書は,町村議会の課題を議員のなり手不足と投票率の低下に見出した 上で,対応の基本的方向として,住民の関心を高め,住民の信頼を確保する ことを掲げ,その具体的な方策として,А新しい 2 つの議会のあり方Бすな わちА集中専門型БとА多数参画型Бを打ち出したものである。  まず,報告書(2 頁)は,А真の問題が所在するのはБ人口 1 万人未満の小 規模市町村であるとしてターゲットを絞ったが,その理由として,無投票当 選率の高さと多様性の不足(高齢者の多さと女性の少なさ)を挙げている。前 者(24)に比べると注意を向けられることが少ない後者の理由こそ,人口減少 社会下の地方議会の課題として認識されるべきであろう。  そして,議員のなり手不足に対し,報告書(11 頁)は,Аより多くの住民 が市町村運営に参画することで,住民自らが議会権能の発揮に一定の役割を 持つあり方があり得るБと述べている。ここでは,А住民自らがБ,(議会運営 にとどまらない)А市町村運営Бへの参画という形で,А議会権能の発揮Бに А一定の役割Бを持つというА視点Бが示されている。自らに与えられた権 能を発揮することのみに目的付けられているはずの公的機関たる議会がこれ を十分に発揮しえていない(あるいは発揮しえなくなる)ことから,住民が自 (23) 総務省は,А地方議会のあり方に関する研究会Б報告書(2014 年 3 月),А地方 議会に関する研究会Б報告書(2015 年 3 月),А地方議会・議員に関する研究 会Б報告書(2017 年 7 月),А町村議会のあり方に関する研究会Б報告書 (2018 年 3 月)につづき,現在,А地方議会・議員のあり方に関する研究会Б において検討を進めている。 (24) 堀内匠АА社会状況の変化Бから見た報告書Б地方自治職員研修 2018 年 7 月 20 21 頁は,Аもともと小規模市町村における無投票は,事前の候補者調整の 結果として理解するのが常識であったБと述べた上で,А投票率が下がり始め た 1990 年代もしくは無投票当選が増え始めた 1980 年代ごろБと現在との違い として,合併と議員定数の削減による議員との距離の変化を指摘している。

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らの役割として議会権能の発揮という役割を分担するというのである。  それはなぜなのか,という直ちに呈される疑問に対して報告書(11 頁)が 用意したのが,А小規模市町村における議会制民主主義による住民自治の確 保Бという理念であると推察される。А小規模市町村Бという特定・限定の 是非が問われるが,それにもまして,議会制民主主義АによるБ住民自治が 鍵になろう。というのも,住民自治は,一般には,地方公共団体内部におい て(地方)官僚ではなく住民こそが主体となるという民主主義の理念に基づ くものであり,そのための制度として,選挙権の行使に加え,直接請求が特 長であるとされる。しかるに,報告書には,行政との対抗という考え方も直 接民主主義への傾斜も見られない。報告書はストレートに,А議会制民主主 義による住民自治Бという新たなあり方を小規模市町村における住民自治と して打ち出したものであると解されよう。  このように解すると,報告書の課題設定と対応策のつながりも見えてく る。その端的な顕れが,集中専門型議会制度の一環をなす議会参画員制度で ある。集中専門型においては少数の議員(5 名程度)が想定されているとは いえ,А多様な民意を反映させる機能Бはおよそ議会たるものの本来的機能 であるはずなのに,なぜ,集中専門型についてはА別にБこれを確保する必 要があるのか(報告書 16 頁),十分には説明されえない。報告書は,民意の 反映だけでなく,別の役割をも期待して,議会参画員制度を設計した。それ が,住民が議会活動に関わる経験を得られる仕組みという制度目的であろ う。この制度は,А住民自らが議会権能の発揮に一定の役割を持つあり方Б という視点を基盤とし,無作為抽出というЁ裁判員制度に倣ったЁ選出方法 ゆえに多様性不足という課題の解決に資するものとなりつつ,(議員のなり 手を生み出すという直接的契機のみならず)議会制の枠組みを用いた住民自 治という基本理念を実現する,というのが報告書の描くストーリーであろ う。

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 ただし,この制度の具体化を目指すならば,制度設計論のみならず,基本 理念をも鍛えておく必要があろう。例えば,А一方で議会参画員が多様な意 見に固執する場合議員間の合意形成が困難になる。他方で議決責任は有しな いことから責任を有した参加にはならない可能性があるБ(25)という指摘がな されている。かかる指摘に対し,前半部分については合意形成論の開拓 が(26),後半部分については熟議民主主義論の蓄積が,応答を与えることが 期待されよう。とりわけ,熟議民主主義論においては,制度化されない公共 と制度化された公共という二段階で国家意思形成を考えることは既に共通認 識となっている。市民社会での公論は,А自由Бでなければならず,А公的な 決定装置とは切り離されている必要があるБ(27)という見解は示唆的である。 無論,この論者が指摘するА自由と決定との緊張Б(28)は,議会参画員制度に おいてそのままでは通用しない。議会参画員は,決定から切り離されている ものの,本会議での審議すなわち公開の圧力の下で意見を述べるのであり, また,議員は,議会参画員との意見交換だけでなく,議会参画員ではない大 多数の住民によるА自由な批判Бをも考慮して,決定を行わなければならな い。熟議民主主義論の蓄積を踏まえつつ,А自由と決定との緊張Бを議会参 画員制度に則して組み替えていく必要があろう。 (25) 江藤俊昭А小規模自治体における〈代表制〉の諸問題Ё代表性と代表制度の 2 つの揺らぎから考えるБ都市問題 2019 年 4 月号 61 頁。 (26) 齋藤純一А合意形成における理由の検討Б金井利之編著㈶縮減社会の合意形成 Ё人口減少時代の空間制御と自治㈵(第一法規,2019 年)28 頁等参照。 (27) 毛利透㈶民主政の規範理論Ё憲法パトリオティズムは可能か㈵(勁草書房, 2002 年)279 頁。 (28) 同上ⅲ頁。А代表民主政は,有権者による秘密投票での決定を議員選出に限定 し,……決定は,決定圧力から逃れた市民の自由な批判にさらされながら,人 為的なフォーラムにおいて議員が説明責任を負いつつおこなうБ(同 280 頁) とも述べられている。

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Ⅲ 判例

1 議員の発言の権利・自由と責任  議員と住民とのコミュニケーションにとって,スタートでもありゴールで もあるのが,議員の議事における発言である。議員の発言をめぐっては,近 時,判例の動向が注目を集めている(29)。裁判所の判断は,まず当該訴訟の А法律上の争訟Б(裁判所法 3 条 1 項)該当性如何に及ぶが,そこでは,部分社 会論ないし地方議会の自律権の法理の下で,一般市民法秩序との関わりの有 無が分かれ目となる。以下では,議員の発言をめぐる 3 つの事案類型,すな わち,議員の発言の権利・自由の性質,議員の発言の権利・自由の範囲およ び議員の発言に係る責任を取り上げる。 (1)議員の発言の権利・自由の性質Ё議会代読拒否事件(30)  発声障害のある市議会議員が代読による発言を拒否されたために長期間に わたって市議会で発言することができなかったとして,市等を被告として国 家賠償請求訴訟を提起した。  名古屋高判平成 24 年 5 月 11 日判時 2163 号 10 頁は,А地方議会議員は, 憲法で定められた地方公共団体の議事機関である地方議会(憲法 93 条 1 項) の構成員として,当該地方公共団体の住民による直接選挙で選出され(同条 2 項),議会本会議や委員会等における自由な討論,質問・質疑等を通じて, 当該地方公共団体の住民の間に存する多元的な意見や諸々の利益を,当該地 方公共団体の意思形成・事務執行等に反映させる役割を担っているのである (29) 議員の発言をめぐる事件以外に,二親等規制条例違憲訴訟(最判平成 26 年 5 月 27 日判時 2231 号 9 頁)等の重要な判決が下されている(とりわけ,神橋一 彦А地方議会議員の議員活動のА自由Бとその制限Ё二親等規制条例違憲訴訟 上告審判決についてЁБ阪本昌成先生古稀記念論文集㈶自由の法理㈵(成文堂, 2015 年)911 頁参照)。 (30) 第一審岐阜地判平成 22 年 9 月 22 日判時 2099 号 81 頁,控訴審名古屋高判平成 24 年 5 月 11 日判時 2163 号 10 頁(確定)。

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から,地方議会の議員には,表現の自由(憲法 21 条)及び参政権の一態様と して,地方議会等において発言する自由が保障されていて,議会等で発言す ることは,議員としての最も基本的・中核的な権利というべきであるБと述 べ,地方議会によるこの権利自由の侵害は一般市民法秩序に関わるとして法 律上の争訟性を肯定した。  この判決は,憲法 93 条と多元的立法過程を根拠とした地方議会議員の役 割から,А表現の自由(憲法 21 条)及び参政権の一態様としてБ発言の自由 を導出したが,別の箇所では,ほぼ同様の根拠に基づく地方議会の役割か ら,地方議会の自律権А(法 103 条ないし 137 条,市議会委員会条例,会議規則)Б を導出している。議員の発言の自由は憲法レベルの自由として保障される一 方,議会の自律権は法律レベルの権限にとどめられている。実際,判決は, А市議会の自主性,自律性は,市議会議員各自に議会において発言する権利, 自由が認められることを前提としてБいるという理解に立っている。このよ うに,議員の発言の権利自由は,議会の自律権を打ち破り,裁判所の介入を 要請するものとして性格付けられている(31) (2)議員の発言の権利・自由の範囲Ё配布用会議録への発言不掲載事件(32)  県議会議員が,一般質問における県知事に対する発言の一部につき,議長 から地方自治法 129 条 1 項に基づいて取消しを命じられたのに対し,この取 消命令の取消訴訟を提起した。当該発言は,会議規則に基づいて,配布用会 (31) ただし,本件で問題となった発言方法の制約については,А基本的にБ議会の 自律権に委ねられており,А発声障害者の場合,健常者に比べ,発言し得る方 法が限定され,議員として議会で発言する場合,発言方法の規制により,議会 での発言の機会が奪われる結果となるおそれがより大きいため,そのような結 果を招来しないよう,健常者である議員の発言方法を制約する場合とは異なる 配慮が必要となるにすぎないБという判示もなされている。 (32) 第一審名古屋地判平成 27 年 9 月 28 日判自 434 号 15 頁,第二審名古屋高判平 成 29 年 2 月 2 日判時 2354 号 26 頁,最判平成 30 年 4 月 26 日判タ 1460 号 24 頁。

(17)

議録には掲載されず,ウェブサイト上の会議録と会議中継録画からも削除さ れたが,会議録原本には掲載されたままである(33)  第二審名古屋高判平成 29 年 2 月 2 日判時 2354 号 26 頁は,会議規則の趣 旨につき,А〔地方自治法 123 条 1 項〕が議長に付与した会議録調製権を著し く制限するとともに,……議事の公開の原則を広げ,推し進めるところにあ るБと同時に,А議員に対しては,……議事における発言が住民に公開され ることを保障するとともに,発言が配布用会議録に掲載されない例外的な場 合を限定したものБであると解釈した。このように,А会議規則 121 条 2 項 及び 122 条が保障する,議員の議事における自らの発言が配布用会議録に記 載される権利Бは,А議会内に止まらず一般社会と直接関係する重要な権利 であるБから,А〔これを制限する〕本件命令の適否は,議場の秩序保持とい う単なる内部規律の問題に止まるものということはできないБとして,法律 上の争訟性が肯定された。  二審判決は,会議規則の解釈に基づいてА議員の議事における自らの発言 が配布用会議録に記載される権利Бをも導出し,しかも,住民への公開を梃 子に,この権利をА一般社会と直接関係する重要な権利Б(34)に仕立て上げ た。А議員の議事における発言が住民に公開されることБの保障については, 住民の側の権利として構成するという解釈もありえたが,控訴人の権利利益 の救済という裁判所の任務をも踏まえて,二審判決は,この保障によって議 員の権利のА重要Б性を基礎付け,発言の住民への公開という範囲まで,議 員の側の権利を拡張したものであると解される。  この二審判決の解釈は,最高裁によって否定された。最判平成 30 年 4 月 (33) なお,結果的に,裁判で争われることによって,取消線が付された会議録が (判例データベースも含めて)公開されることになった。 (34) 一般社会Бという表現の背後には,配布用会議録の住民への公開が(住民の 表現の自由などの)А一般市民法秩序Бに関わるとまではいえないという判断 があると解される。

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26 日判タ 1460 号 24 頁は,まず,議会の議事機関としての性質と地方自治 法 104 条・129 条 1 項に照らして,地方自治法が,議員の議事における発言 に関しては議会の自主的・自律的解決を前提としているものと解釈した。そ して,会議規則 123 条(議長が取消しを命じた発言の配布用会議録への不掲載) が地方自治法の規定を前提として定められたという解釈の上で,А議事を速 記法によって速記し,配布用会議録を関係者等に配布する旨を定めた同規則 121 条 2 項及び 122 条は,同規則 123 条の規定と併せて,同法 123 条 1 項が 定める議長による会議録の調製等について具体的な規律を定めたものにとど まると解するのが相当であり,県議会議員に対して議事における発言が配布 用会議録に記載される権利利益を付与したものということはできないБと述 べ,法律上の争訟性を否定した。  最高裁が法律上の争訟性の判断に当たって根拠としたのは,最終的には会 議規則 121 条 2 項(議事の速記法による速記)と 122 条(会議録の配布)であ る。これは,当該規定が議員の権利を保障したとする二審判決を否定するた めに必要な論理構成であった。ただし最高裁は,いくつかのステップを経て ようやく結論にたどり着いている。すなわち,第一に,地方自治法が議会の 自主的・自律的解決を前提としているという解釈,第二に,会議規則 123 条 が議長の権限に係る地方自治法の規定を前提として定められたという解釈, 第三に,会議規則 121 条 2 項と 122 条はА規則 123 条の規定と併せてБ地方 自治法 123 条 1 項の具体的な規律を定めたにとどまるという解釈である。つ まりは,議長の権限に繋ぎ止められた会議規則 123 条をА併せてБ解釈する ことで,会議規則 121 条 2 項と 122 条を(議員の権利ではなく)議長の権限に 繋ぎ止めるという,いわば仕組み解釈がとられたのである。 (3)議員の発言に係る責任Ё懲罰等をめぐる争い  議員の発言に係る責任追及には,第一に,議会が議員に対して懲戒処分等 を行う場合があり,この場合には,議会の懲戒処分等に対して議員が処分の

(19)

取消や損害賠償を求めることがある。第二に,議員の発言によって権利利益 を侵害された他者(他の議員や私人)が損害賠償を求める場合がある。以下で は,本稿の課題設定に照らして,議会の自律権と議員の権利自由が衝突した 2 つの事件を取り上げる。 ① 視察旅行欠席事件(35)  自らの属する常任委員会の視察旅行を欠席した市議会議員が,厳重注意処 分とその公表により名誉を毀損されたとして,国家賠償請求訴訟を提起し た。  第二審名古屋高判平成 29 年 9 月 14 日民集 73 巻 2 号 157 頁は,А本件請求 は,外形的な請求内容だけでなく,紛争の実態に照らしても,一般市民法秩 序において保障されている移動の自由や思想信条の自由という重大な権利侵 害を問題とするものであるから,一般市民法秩序と直接の関係を有するとい え,かつ,その手続には明白な法令違反があると主張されているБとして, 法律上の争訟性を肯定した。  対して,最判平成 31 年 2 月 14 日民集 73 巻 2 号 123 頁は,А私法上の権利 利益の侵害を理由とする国家賠償請求であり,その性質上,法令の適用によ る終局的な解決に適しないものとはいえないБという判示のみで,法律上の 争訟性を認めた。その上で,А国家賠償請求の当否を判断するに当たっては, 当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り,議会の自律的な判断を尊 重し,これを前提として請求の当否を判断すべきものと解するのが相当であ るБという枠組みを示し,本件については,А議員としての行為に対する市 議会の措置であり,かつ,本件要綱に基づくものであって特段の法的効力を 有するものではないБし,А殊更に被上告人の社会的評価を低下させるなど (35) 第一審津地判平成 28 年 8 月 18 日民集 73 巻 2 号 143 頁,第二審名古屋高判平 成 29 年 9 月 14 日民集 73 巻 2 号 157 頁,最判平成 31 年 2 月 14 日民集 73 巻 2 号 123 頁。

(20)

の態様,方法によって本件措置を公表したものとはいえないБため,А本件 措置は議会の内部規律の問題にとどまるものであるから,その適否について は議会の自律的な判断を尊重すべきであり,本件措置等が違法な公権力の行 使に当たるものということはできないБと判断した。  二審判決が移動の自由(憲法 22 条)や思想信条の自由(憲法 21 条)を持ち 出してようやく法律上の争訟性を根拠づけたのに対し,最高裁は,このよう な労をとることなく,А私法上の権利利益の侵害を理由とする国家賠償請求Б について法律上の争訟性を基本的に肯定するという立場を明らかにした。た だし,最高裁は,本案審理においては,議会の内部規律の問題であるか否か を基準とし,当該措置の性質(議員Ё議会関係に関わる法的効力を有しないもの であること)と当該措置の態様・方法をその判断要素とし,内部規律の問題 を裁量の問題に直接リンクさせて結論を導いている。 ② 少数会派懲戒処分事件(36)  市議会議員が,自らの属する少数会派の他の議員が陳謝の懲戒処分を受け たことに関して発言したところ,9 月定例会の全会期(23 日間)の出席停止 処分を受け,これに伴い議員報酬を減額されたのに対し,出席停止処分の取 消と減額分の支払いを求める訴えを提起した。  仙台高判平成 30 年 8 月 29 日判時 2395 号 42 頁は,地方自治法の定める議 員の諸活動に係る仕組みは,憲法の定めるА地方自治の根幹部分をなすもの であり,これを担う議員の活動を実効あるものとするため,地方自治法は, 普通地方公共団体はその議会の議員に対して議員報酬を支給しなければなら ないこととしているのであるから(203 条 1 項),普通地方公共団体の議員 は,少なくとも,議会の違法な手続によっては減額されることのない報酬請 求権を有しているというべきである。そうすると,出席停止といえども,そ (36) 第一審仙台地判平成 30 年 3 月 8 日判時 2395 号 45 頁,第二審仙台高判平成 30 年 8 月 29 日判時 2395 号 42 頁(上告・上告受理申立て)。

(21)

れにより議員報酬の減額につながるような場合には,その懲罰の適否の問題 は,憲法及び法律が想定する一般市民法秩序と直接の関係を有するものとし て裁判所の司法審査の対象となるというべきであるБと判示した。  出席停止処分について初めて法律上の争訟性を肯定した(37)この判決が一 般市民法秩序との関わりを導出する直接の手がかりとしたのは,地方自治法 203 条 1 項である。これは,憲法とА地方自治の根幹部分をなすБ地方自治 法上の仕組みを基盤として解釈されている。 2 地方議会の自律権と一般市民法秩序 (1)判例の判断枠組みЁ部分社会論と地方議会の自律権  近時の判例においては,地方議会を他の団体と区別し,部分社会論ではな く,地方議会の自律権を根拠に地方議会の内部紛争に対する司法審査が行わ れているとの指摘がある(38)。確かに,下級審判決には,憲法(93 条)と地 方自治法(会議規則制定権に係る 120 条,議員に対する懲罰権に係る 134 条以下等) を根拠に,地方議会の自律権の枠組みを設定するものが見られる。しかし, 最高裁は,いまだ憲法に依拠したことがなく,最判昭和 35 年 10 月 19 日民 集 14 巻 12 号 2633 頁を引用するにとどめている。最判平成 30 年 4 月 26 日 (配布用会議録への発言不掲載事件)に至っては,会議規則の“仕組み解釈” によって,法律上の争訟性を否定した。法律上の争訟性を肯定した二審判決 もまた,会議規則の解釈を決め手としたものであった。  かかる解釈方法に対しては,端的に憲法 21 条を根拠とするべきであった との批判もなされている(39)。だが,配布用会議録への発言不掲載という表 (37) 永田秀樹・新・判例解説 Watch 憲法 No.153 2 頁。 (38) 奥村公輔・平成 29 年度重要判例解説 11 頁。 (39) 例えば,上田健介・法教 441 号(2017 年)121 頁,同 445 号(2018 年)141 頁 参照。

(22)

現の自由そのものを侵害するわけではない事案において憲法 21 条を持ち出 すことは,憲法 21 条の稀釈化を招くおそれがある。のみならず,より一般 的に,会議規則という地方議会自らが定立した法規範を裁判所が解釈するこ との意味を考える必要があろう。確かに,会議規則は地方自治法 120 条によ り制定自体を義務付けられているが,当該事案で問題となった法 123 条 1 項 によって委任されているわけではない。地方議会がその内部関係を規律する ために自主的に制定した法規範であるからこそ,外部の第三者機関である裁 判所も(国家を拘束する規範である憲法を大上段に持ち出すよりも)会議規則を尊 重したとも解される。 (2)一般市民法秩序との関わりのロジック  改めて確認すべきは,最判平成 31 年 2 月 14 日(視察旅行欠席事件)が, А私法上の権利利益の侵害を理由とする国家賠償請求Бは基本的に法律上の 争訟に当たるとしたことである(40)。かかる事案類型については,訴訟要件 の段階では,一般市民法秩序との関わりを根拠づける憲法論を展開する必要 はない。もっとも,平成 31 年最判は,本案審理の段階では,議会の内部規 律の問題か否かを検討し,これを肯定して議会の広範な裁量の下に請求を棄 却した。したがって,依然として一般市民法秩序との関わりの導出の仕方を 追究していく必要がある。  そこで,本稿が取り上げた下級審判決について,a 紛争の内容と b 原告の 権利自由の性質を整理し直しておくと,①名古屋高判平成 24 年 5 月 11 日 (40) 従来から,国家賠償請求訴訟において,結論として法律上の争訟性を肯定した り(最判平成 6 年 6 月 21 日判時 1502 号 96 頁),特段検討することなく本案審 理を行ったりする(最判平成 15 年 2 月 17 日裁判所ウェブサイト)例は存在し ていた。市川正人・判例セレクト’94 7 頁は,平成 6 年最判での議員辞職勧告 決議が,原告と町との土地をめぐる境界紛争にかかわるものであり,地方議会 の自律権の範囲内の行為とは認められないと指摘していた。平成 31 年最判で はまさしくА議員としての行為に対する市議会の措置Бが問題となったことか ら,平成 6 年最判とは事案が異なる。

(23)

(議会代読拒否事件)では,a 議会と議員らの対応という事実行為による発 声障害をもつ議員の発言方法の規制が争われ,b 発言の自由が表現の自由 (憲法 21 条)と参政権という憲法上の自由として構成された。②名古屋高判 平成 29 年 2 月 2 日(配布用会議録への発言不掲載事件)では,a 会議規則 に基づく議長による議事における発言の取消命令が争われ,b 会議規則の解 釈を通じて,発言が配布用会議録に記載される権利が,住民への公開をもっ て一般社会と関わるとされた。③名古屋高判平成 29 年 9 月 14 日(視察旅行 欠席事件)では,a 政治倫理要綱(告示)に基づく厳重注意処分とその公表 による名誉毀損が争われ,b 移動の自由(憲法 22 条)と思想信条の自由(憲 法 21 条)という憲法上の自由が持ち出された。④仙台高判平成 30 年 8 月 29 日(少数会派懲戒処分事件)では,a 地方自治法に基づく出席停止処分とそ れに伴う報酬の減額が争われ,b 報酬請求権(地方自治法 203 条 1 項)が憲法 92 条・93 条に基づく地方自治法の仕組みを実効あるものとするための権利 として構成された。  判例はこのように,争われた行為等の根拠規範に関わりなく,一般市民法 秩序との関わりを導出するために,憲法レベルの権利自由を構築しようと試 みている。とりわけ④判決は,他に例のないА憲法及び法律が想定する一般 市民法秩序Бという表現を用い,法律レベルにとどまらない憲法上の根拠と して構成する努力を行っている。例外的に②判決は,会議規則の解釈によっ て,住民への公開を捉えてА一般社会との関わりБを導出した。この点に関 し,③判決では,マスコミ報道は原告にとっては名誉毀損に当たり,しか も,公表は事実上の対応であって法的に構成されえないことから,②判決と 同様のロジックは採用されなかった。

(24)

Ⅳ 分析

1 コミュニケーションとその制度化  最後に,本稿冒頭で提起した問いに立ち返っておきたい。  まず,議員と住民という生身の主体間のコミュニケーションについて。政 府の制度改革論においては,議員のなり手の確保という狙いに照らしても, その一つの提案である議会参画員制度をとっても,生身の主体が想定されて いる。また,判例において,議会に対する当の議員の救済が論じられること は言うを俟たない。  他方,地方議会改革の実践の主体は,議員よりむしろ議会であると見るべ きであろう。議会自体への参加が志向される理由の一つは,住民参加を議会 権能に制度的に接続する必要性にあると考えられる。この点に関し,ある市 議会議長は,住民自治の充実の触媒になるのが議会の大きな役割であると語 っている(41)。議会は,住民を起点とする,長とは別個の組織・基準・方法 に拠って政策を立案し実現する仕組みとなることで,長つまりは官僚への対 抗という意味で住民自治の拡充に寄与するというのである。このことは,議 会制の枠組みを用いた住民自治という点で,政府報告書の考え方と通じると ころがあろう。  その議会制とは,何よりもА語るБことを基本とする統治構造である。言 葉の応酬は,その人自身の人格のかかった・その場その時限りの音声を介し てなされる。だからこそ,実際にその人自身を認識しうる近接性のなかで生 身の主体同士が向き合うことが求められるのであろう。対して,サイバー空 間のネットワークで,場所と時間を越えて意見をまとめ上げるのでは,言葉 が一人歩きする。生身の主体として相対する住民と議員の間の言葉の応酬に (41) 連載議会改革リポート 変わるか!地方議会 201Бガバナンス 2018 年 2 月 129 頁(会津若松市市議会議長発言)。

(25)

根差した議会制による政策の立案と実現が,近接性概念の狙いなのかもしれ ない。  次に,議員と住民という生身の主体間のコミュニケーションの制度化につ いて。本稿の検討を通じてまず浮かび上がるのは,アプローチの違いであ る。すなわち,地方公共団体における実践は,住民の意見に対して,組織 的・手続的ルールによって議員を動かし,議会の対応に制度的に結びつける という意味において,議員に着目したアプローチともいえる(42)。逆に,政 府の制度改革論は,議会参画員制度に典型的に表れている通り,住民に議会 の権能発揮という役割を担わせるという意味において,住民に着目したアプ ローチともいえる。もっとも,この二つのアプローチは截然と区別されるも のではない。前述の住民自治の触媒という考え方は,地方議会改革の実践を 政府の制度改革論につなげる可能性を秘めている。  具体的な制度設計に関しては,理念・原則の提示(自治基本条例),組織 的・手続的ルールの設定(組織間の役割分担や公開の義務づけ),考慮事項(例 えば,健常者の場合とは異なる配慮の必要性)を手がかりとした裁判統制(名古 屋高判平成 24 年 5 月 11 日(議会代読拒否事件))等,実務を通してヒントが示さ れつつある。議員と住民とが生身の主体として関わる空間において,自律法 秩序と一般市民法秩序の間で,いかなる法秩序が妥当すべきかという視点も 検討に値しよう。 2 議員の法的地位 (1)合議体構成員としての議員  こうしたコミュニケーションにおいて想定される地方議会議員像は,国会 議員とは大きく異なる。すなわち,国会議員は,発言・表決免責の特権を保 (42) なお,名古屋高判平成 29 年 2 月 2 日(配布用会議録への発言不掲載事件)が, 住民への公開の保障を議員の側の権利として意味づけたことも参考になる。

(26)

障され(憲法 51 条),議院は自律的運営権として議員の懲罰権を保障されて いる(憲法 58 条 2 項)。ある論者は,当該特権は議員の独立性を保障するた めの特権であり,議員に対する選出母体の命令委任を禁止すると述べ(43) かつ,これと表裏の関係にある議院の懲罰権は,院内の秩序維持のため,憲 法がとくに各議院に留保した権能であるから,司法審査は否定されると述べ ている(44)。議員は,選挙人から切断されるだけでなく,裁判所の介入ない し救済からも切断され,議院の内部にとどまることになる。  対して,地方議会議員については,部分社会論の枠組みの中で,懲罰権の 行使に対して司法審査が及び,裁判所が議会から議員を守るという可能性が 一定程度認められている(45)。国会議員が各議院の傘ないし枷の下に“埋没” しているに比べ,地方議会議員は裁判所の関与を通じて主体性を回復する可 能性を握っている。近接性だけでなくこの主体性ゆえに,地方議会議員はコ ミュニケーションの対象としてふさわしいという理解が成り立つのではない か。これは,部分社会の中から構成員個人が法的に掴み出されるかどうかと いう法的視点である。  確かに,判例においては,建設的な政策論争というより,多数派から抑圧 された少数派の“告発”といった古典的な実態も垣間見られる。だが,少数 派議員は,多数派の政策や対応の違憲性,違法性を主張することでА情報 (43) 長谷部恭男㈶憲法〔第 7 版〕㈵(新世社,2018 年)353 355 頁。 (44) 同上 358 359 頁。 (45) もっとも,斎藤誠А議員の発言による国家賠償・個人責任と司法審査のあり 方Б佐藤幸治=泉徳治編㈶滝井繁男先生追悼論集 行政訴訟の活発化と国民の 権利重視の行政へ㈵(日本評論社,2017 年)は,А議会の自治・自律権および それを具現化した〔地方自治法〕133 条の存在により,議員の当該訴権がない ことを根拠に訴えを却下するБという解釈を提示し(246 247 頁),А議員対議 員の場合に,個人責任および国家賠償の訴権を否定する私見は,近時あらため て問題になっている,聞くに堪えないやじの問題も含め,議会の自律権の適切 な行使を促そうとする趣旨も含んでいるБ(249 頁)と説明を加えている。

(27)

化 (46)し,住民自身の批評を起動させる。ここでの議員は,政府の活動では なく議会の活動を批評し,住民にコミュニケートすることで,住民が議会の 活動を批評することを可能ならしめるという意味において,民主主義の実現 に資するものであろう。 (2)公選職としての議員  議員は住民によって直接選挙される。住民が投票行為を通じて評価するの は,議員選挙候補者個人である。住民は,選挙公報に記載された各候補者の キャッチフレーズや政策ないしプラン(優先順位付けや財源の裏付けを含む), 現職議員の任期中の活動の成果等を評価し,投票という法的手段を行使す る。この投票という行為が決められた時間内に決められた場所に出向き投票 用紙に記入することを要するように,実際に人間が動かなければ,民主政は 維持されえない。現在の日本社会の問題は不作為にある(47)という認識が共 有されつつあるなかで,問題への対処の仕方として,主体性を有し,自ら動 くことのできる個人に期待をかけるというのが,一つの答えなのであろう。  従来から住民自治は,団体自治に比べ,法理論化の困難に直面してきた。 今日では,住民の意見を起点とする日常的な議会参加の PDCA サイクルを 基礎に,C(評価)のフェーズを梃子として,住民による投票・選挙(議員個 人の任期中の活動の評価や候補者の政策プランの評価)と裁判所による法的統制 (議会の議員に対する措置等の適法性審査)を接合させ,このサイクルを回して いくことで,住民自治を法的に仕組んでいくことも考えられよう。  今後は,制度設計上の選択肢の組み合わせに応じて,コミュニケーション (46) 蟻川・前掲注 6)23 頁参照。なお,議会代読拒否事件では,住民による署名活 動等も熱心に行われた。 (47) 宇野重規А縮減社会の民主主義,そして政府Б自治実務セミナー 2019 年 3 月 号 10 12 頁は,縮減社会においては,А不作為Бという合意を消極的にするこ とで問題を先送りし,民主主義を動かしていくことが難しくなるが,А絶望し ないようにしよう,何とか工夫していこうБと一貫して考えていると述べてい る。

(28)

の法理を追究していく必要がある。差し当たりのアイディアとして,まず, 正統性の担保が住民全体に対する関係において求められよう。一部の住民の 参加にとどまる場合,その提案に議会として対応することが住民全体の公益 に資することを担保しなければならない。また,自由の確保が参加者に対す る関係において求められる。議場内では,公開の圧力の下で,とりわけ参加 者の表現の自由が保障されなければならない。議場外では,参加の任意性な いし自発性が基盤となる。強制や動員にわたることのないよう,一定の制度 的歯止めも必要になろう。公私協働論の蓄積を活かしつつ,政治の法化を模 索していくことが,この場面でも公法学に求められている(48) (48) 本稿の執筆過程で,選挙法制研究会(2019 年 7 月 31 日開催)において大変貴 重なご教示を賜った。記して感謝申し上げる。

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