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<研究ノート>
1)リチャード・ヒースフィ・一ルドの公債償還計画
仙 田 左 千 夫
!815年,ナポレオン戦争終結とともに戦時債の巨大な累積を前にしてその償還論議が活 澄化した。!786年以来のピットの減債基金はひきつづき「漸次的償還」を目途として作動 していたが,その成果の評価をめぐる喧曝の中から「即時的償還」の主張が台頭するにい たった。 18!7年,リカードウ(David Ricardo)は『経済学および課税の原理』において,公債 の重圧は資本を海外に逃避させる危険が存在するとの判断から「この不自然な制度に伴う 困難の渦中に陥入った国にとっては,その財産の中から負債償却のための必要な部分を犠 2) 牲にして,そこから脱けだすのが賢明な処置であろう」として「即時的償還1の具体的骨 格を示唆した。ついで1820年の『公債制度論』においては,減債基金の現実的運用上,不 可避的とも見敬される欠陥を指摘したのち,「もしなんらかの基金を起すことなく財産に たいする課税によって公債が償還されるとすれば,ただの一度でその目的を達するであろ 3) う」とのべた。 公債問題についてのりカードウの解決策は如上のごとく財産にたいする一般的課税計画 であった。だが彼のこの提案は多くの人々によって全く非現実的なものとみなされた。し 4) かし麦持者が皆無であったのではない。 1819年,リチャード・ヒースフィールド(Richard Heathfield)は公債償還に関するプ ランを公表したが,それはりカードウ提案の線にそうた「財産への一般的課税」を内容と 5) するものであった。さらに1820年には,二つの匿名によるパンフレットが現われて同様主 1)小稿は昭和54年度科学研究費補助金による研究成果の一部である。 2)小泉信三訳『経済学および課税の原理』241頁。 3)磯村隆文訳『公債制度論』リカードウ全集 第4巻 238頁。 4) Hargreaves, L., Tke National Debt, 1930, p, 139. 5) ヒースフ’f一ルドの詳しい経歴は必ずしも明らかでない。およそ1775−1859年の生存とされ, 計理士であったとされる。(リカードウ全集 第8巻 165頁注(1))〈研究ノート〉.リチャード・ヒーススィールドの公債撲還計画 71 6) 旨の議論を展開した。この中にあってヒースフィールドの議論がより具体的な内容をふく むものであったことから,ロンドンはもとより地方を通じても広くかつ深い関心を呼び起 7) した。このことはこの著作が同じ年度内に第6版を重ねた事実に端的にあらわれている。 このノートの目的はうえのフレイム・ワークの中におけるヒースフィールドの地位を確 8) 認し,主張の具体的内容を鳥臓するにある。 1 公債累積の悪影響 過ぐる戦争の動機や原因が何であれ,その結果として,イギリスが強大な政治権力を掌 中に収めたことは明らかである。アメリカ・アジア・南アフリカ各大陸諸地域にまたがる 領土の拡大と支配人口の増大はかかる政治権力強化のあらわれである。(p.1.) このことは各産業分野に大きな変化をもたらした。世界的規模での競争に勝利したこと により,イギリス産業の発展の可能性は著しく増大した。多種多様の便宜品や嗜好品を網 羅する産業諸分野への需要が,今後ともひきつづき拡大されるであろうことは明らかであ 6) Anon. (A Friend to National Reiormatien), ProPosal for the Liauidation of lhe National Debt, 172e; Anon (Patriotions), Sz{ggestions for the Entire Discharge of the National Debt, 1720. (Acworth, A, W,, Financial Reconstruction in England, 1815−1822, 1925, p 57.) 7) Acworth, A. W., ibid., p. 57. 8)手元にあるヒースフィールドの書物は第4版(Heathfield, R., Elements of A PIan fbr the Liquidation of the Pzablic Debt of the United Kingdom, Fourth Edition, 1819) である。本文30頁,「宣言草稿」(Draught of Declaration)8頁,「第4版への増補」9頁, 計47頁からなる丈字通りの小冊子である。かれはその後もFurther Observations(on the same Subject),1820.およびAddenda to the FuTther Observations,1820.を著わして敷 徹こつとめたとされるが,いま手元tlこはない。小稿においてはアクワースの引用するところによ り,これらの論旨を適宜参照する。(cf. Acworth, A. W,, ibid., p,154.) 総じてヒースフィールドの叙述は結論のみが先行しており,必ずしも納得的な論証が付されて いるわけではない。科学的分析の成果というより,減債問題についての世論の喚起を意図した時 論的色彩が濃い。本文のあとに付された「宣言草稿」は27ケ条から成り,ほぼ本丈の論旨にそい ながら,そのエッセンスと目される部分を宣言用の文体に整えたものである。この草稿が陽の目 をみたか否か,いま知るよしもない。冒頭に曰く。「われわれの行為は社会のすべての秩序を抑 圧している不便や苦悩を除去したいという純粋な願望に支えられている。われわれは公債問題に 関して明快で簡明かつ包括的な措置の必要性を確信している。この確信の下に,われわれの心情 と判断,そしてそれに関する見解を宣明することは,不可避的なわれわれの義務と考える」と。 以下の叙述においては,必要なかぎり,その主要なものを本文の論旨と対比し並記して利用する。 なお,Hargreaves, E. L., The National l)ebt,1930, PP 139−41.はヒ・一一スフ曾一ルドの 所説に簡潔な要約を与え.ている。
72 る。 しかしながら,かかる政治権力の増大と産業諸分野の活況にもかかわらずJこのことが 必ずしも「一般国民の幸福」(public happiness)の土曽進に結び付’いているとはいえない。 いな,それどころか逆比例して減少させる傾向にすらある。何故か。その最大の原因は公 債累積による租税負担の加重であり.これによって体験されつつある産業諸分野の異常な 停滞と深刻な苦悩である。(p.3.) 諸税(duties and taxes)の重圧はすべての生産物の価格騰貴を招いている。たとえば, 農業においては,イギリス国民はもはや従来のごとき安価なパンを確保することはできな い。租税の重圧はイギリス農業の国際競争力を脆弱化し,自らの国民の需要を充たすに十 分な穀類の生産を不可能としている。もし重税から解放されうるとすれば巨大かつ強力な D 刺激がもたらされて農業が活況をとりもどすであろうことは疑をいれない。(p.10.) 以上のことは他の産業諸分野においても同じである。それゆえ,租税の軽減はすべての 2) 国内製品にたいする需要を増大せしめることに役立つであろう、(p.11.) かくて,現体制が維持されるかぎりあらゆる生活必需品価格は騰貴する。国民は生活水 準維持のために労働強化を余儀なくされるであろう。それは社会内部における勤勉な労働 階層の正当な労働報酬を不当に侵害することとならざるをえない。(p.4.) (第1条) イギリス連合王国は広範な領土と多様な人種を支配しているQそして,国富・国力の 巨大な増加をはかるべぎ諸手段や,個々人の快楽・幸福を増進せしむべき諸方策を掌中に収めてい る。 (第2条) このような諸手段を所有しているにもかかわらず,国家的義務遂行のためtlこは多大の 困難が伴う。現実の社会生活において,あらゆる階層において,ないしは農・商・工業のすべての 産業諸分野において,異常な不首尾と苦悩が体験されている。 (第3条) 現行公債制度によってひきおこされる租税の重圧が,これら不首尾と苦悩との主たる 原因である。 (pp,31−32) 1) リカードウはヒースフィールドにたいする私信(後述第7節参照)の中で「公債の減少がわが 国の農業に及ぼすと思われる影響の点でわれわれは意見を異にしています。私の意見では,その ためにわれわれと外国の穀物裁培者との競争が,現在われわれに可能な以上にほんのわずかの程 度でも有利になることはないでしょう。したがって,もし穀物法が土地関係者のために現在必要 であるなら,それは公債が償還されたのちも同様に必要であるだろうと思います」としている。 (「リカードウからヒースフィールドへの手紙」リカー・一ドウ全集第8巻164頁) 2) この点についてもりカーードウは「あなたは関税や諸税の軽減は製造品にたいする需要を増大さ せるだろうとお考えです。しかしわれわれはそういう利益を少しも経験しないだろうと私は考え ざるを得ません」といって批判している。(同上164頁)
〈研究ノート〉リチャード・ヒースフーイールドの公債償還計画 73 ]1 減債基金制度の欠陥と破綻 イギリスは長期にわたって公債発行に慣れてきた。公債制度によって多くの便宜や利益 を現実的ないし結果的に享受してきたことは事実である。だが,いまやその最終的かつ完 全な償還が問題である。(P.4.) 償還については現実の問題として現行減債基金制度が稼動している。それは,たとえば 当年(1819年)1月5日で終了する1ケ年間における金額は!5,620,503ポンド17シリング 5%ペンスに達している。これによる成果に期待をつなげないであろうか。現行減債基金 制度による償還は適切と判断される市場価格による公債の買戻しを意味しているが,この 方法から必然的に派生する一つの効果は,債権者側における政府買戻価格のつりあげをめ ぐる思惑と打算である。それは政府にとっては重圧となり苛酷な負担となる。(pp.6−7.) 政府買戻価格のつりあげは一般的な投機ムードを醸成する。対政府投機取引に成功を収 めた人達は同様の心構えで商業上の利益追及に立ち向うであろう。かくて商業活動全体が 著しく投機的色彩を帯びるにいたる。本来の商業活動による正常な利益はほとんど実現さ れなくなる。勤勉な労働はかげをひそめ,精励の気風は減少するばかりか嫌悪の対象とさ えなる。 このような悪影響を生みだす減債基金の運用に期待をつなぐことはできない。これは恐 るべき結論というべきである。一国がこのような状態に長期にわたっておかれてよいわけ はない。代替方法が模索されねばならないゆえんである。(pp.8−9.) ところで1819年1月5日現在,イギリス政府が負う公共債務はつぎの4つの部分から成 っている。(p.14.)
減債基金(5%)
長 期 債 短 期 債(4%) 終身年金公債 合 計1, 161, 803, 202 注1) 象とならない。 注2) (第 元 本 312, 410, 077 797, 401, 119 51, 992, 095 一 表)s9014
4 d 2D 10十 2−2一 3 利子および管理費 £ s 15, 620, 503 17 28, 131, 187 3 2, 079, 683 16 2, 028, 612 18 47, 859, 987 15 d 去寺⊥・ FD 7 7 の 参311
公債償還委員会の手中に留保されている政府買戻分。したがって,直接,償還の対 終身年金包張の元本は償還の対象とならないから表示されていない。74 みられるように元本総額1,161,803,202ポンド4シリング3ペンス。これに関する利子 および管理費は47,859,987ポンド15シリング11%ペンスである。(p.14.) (第4条) 偉大な社会の諸力を完全かつ適切に発揮せしめるためには,公債制度の廃棄が必須の 条件である。 (第5条) イギリス連合王国の負う公債の究極的完全償還は,国家信用を損うことなく,かつ, 民間の財産状態に有害な擬乱を伴うことなく達成することができる。 (第6条) 年金受領者・長短期債所有者・公債償還委員会の手中にある公債元本の総額は約12億 ポンドである。 (第7条) 利払その他管理費など諸経費をふくめての毎週の支払額は約100万ポンドである。 (第8条) これらの費用調達のための課税は経常費調達のための課税と相侯って,産業人を圧迫 し資本家を窮地に陥入れている。つまり最も悲惨な諸結果をもたらすべき兆候がすでにあらわれて いる。(pp.32−33) 皿 臨時財産税の提唱 現行減債基金制度によって公債償還が有効に行われると期待することはでぎない。それ ゆえ.イギリス国民を公債負担の重圧から解放しうるのは,財産にたいする一般的課税す なわち財産税以外にはない。ここでいう1財産」の中には公債その他すべての貸上金にか かわる「すべての対政府請求権」(all claims on the government) (外国人所有のものを除 く)も含まれる。(p.12.) さて1812年現在におけるイギリス国内の私有財産総額はColquhoun博士のAn Attempt to estimate the Property in Great Britain and lreJand,1812.によれば26億4,764万ポン ドであった。ヒースフィールドはこれを基礎にして1819年現在の財産の推計を試みる。こ のさい数年のタイム・ラグを考慮しつつも,逆に,土地財産の過大評価に疑義を呈したう えで課税対象個人財産総額はやや低目に評価するのが安全である(on the safe side)と の判断から,これを25億ポンドとする。(p.13.)さらに1819年現在の対政府請求権のうち 長期債総額は797,401,119ポンド10%ペンス。ここから外国人所有分15,000,000ポンドを 控除して782,401,119ポンド10%ペンス。短期債総額は51,992,095ポンド14シリング2%ペ ンス。対政府請求権合計834,393,214ポンド15シリング1ペンス。(P・15.) かくて課税対象私有財産総額は33億3,439万3,214ポンド!5シリング1ペンス。これに15 %相当の財産税を課すれば500,158,982ポンド4シリング2ペンスの税収をうるから,こ れを直ちに償還にあてる。
〈研究ノート〉リチャード・ヒースフィールドの公債償還計画 75 しかし,これによってもなお3億4,923万4,232ポンド10シリンダー1ペンスの未償還高が のこる。(p.16.) (第5節参照)。 課税対象財産 個人財産 長 期 債 外国人所有分 短 期 債 償還用15%財産税 償還対象長・短期債合計
未償還残高
(第 二 表) 2, soo, eoo, ooo o 0 797,401,119 O 10−1一 一 15, OOO, OOO O O (Total) 2, 500, OOO, OOO O O 782,401,119 O 10−1− 51,992,095 14 2−i一 782,401,119 O 10−1− 51,992,095 14 2{一 500, 158, 982 4 2 797,401,119 O 10t 十 51, 992, 095 14 2−S一 3,334,393,214 15 1 500, 158, 982 4 2 849,393,214 15 1 849,393,214 15 1 349,234,232 10 11 (第9条) 公債は私有財産にたいする15%の課税によって償還しうる。この私有財産中セこは公債 や貸上金に係わるすべての対政府請求権もふくまれる。 (第10条) この財産税実施以降においては,現行減債基金の作動は不必要である。(p.33、) IV 財産税の徴収方法 15%の財産税課徴はその徴収にさいして種々の困難が伴う。それにはつぎのような解決 方法を用意する。 (1)長短期債所有者(終身年金受領者をふくむ)(総額849,393,214ポンド15シリング1ペンス) については,おのおのの所有元本(受取年金をふくむ)の15日前永久に無効ないし帳消(ab− atement)とする。いわば自己償還であってこれによって納税は完了するものとする。(税 mP ・一帳消額127,408,982ポンド4シリング2ペンス)(pp.!9−20) (2)財産所有者(総額2,500, 000,000ポンド)については,所有財産の性格に応じてさらに 1) 二つのグループに分ち,おのおのの実情にあわせて別の徴収方法を適用する。このさい流 動資産ないし換金可能資産の所有者はそれを支払に利用すべきものとする。 1) アクワースのまとめによれぽ,二つのグループからなる財産所有者(財産総額2,500, OOO, OOO ポンド)にたいする15%課徴(総額375,000,000ポンド)の,おのおのの税額はつぎの通り。な お,アクワースの列挙する各グループの内訳はヒースフィールドのそれと若干異るものをふくん でいるo76 ” f. i, ,・・ .. , ・ ・!
(/)、土地・住家屋・鉱山・運河等の所有者 納税に10ケ年の時間的余裕をあたえ る。この期間内に,適宜,割当額を納入すればよい。未納額分については年5%の一 種の延滞料を半年毎に納入せしめる。10ケ年を経過したのちなお未納額のある場合に は,それが完納されるまで年6%の延滞料を納入させる。 (ロ)製造業者・船舶所有者・商人・貿易商人・農民その他 納税に5ケ年にわたる 年賦払いをみとめる。この間,未納額については年5%の延滞料を半年毎に納入せし める。期間延長の権限をこのための委員会(Commissioners to extend the time of Payment of the principal sum)に委ねるが,10年を超えてはならないものとする。 このさい,ヒースフィールドは,この方法はたとえば農民にたいしても不当な厳し さを要求するものでないとし,また製造業者や商人についてはこの臨時財産税が可 2) 能にするはずの減税効果によって,容易に償わるべきものと考えている。(pp.20− 21,) (第12条) 公共漬権者(年金受領者をふくむ)によって支払われる15%の財産税は,すべての公 共債券(年金をふくむ)の15%の永久削減(permanent reduction)tlこよって納入される。 (第15条) 財産所有者によって支払われる15%の財産税は,即時納入させる必要はない。未納額 については未納期間に応じ年々延滞料を,それが完納されるまで納入せしめればよい。(pp.33−34) (£) (1)土地・家屋・運河・鉱山・漁業権の所有老から 263,000,000 (2)講燦像騨ゐ講罷孟闘三三需薯講 ・・2・・・・・・… 37s, oeo, ooo (Acworth, A. W,, Financial Recontruction in England, 18J5−1822, 1925, p. 59) なお,ヒースフィールドは長短期債所有者および第1の財産所有者グループからの徴収につい てはとくに問題はないが,第2の財産所有者グループについては所有財産の性格上,隠匿の可能 性が皆無でないことを懸念している。だがもしあるとしても,大した額には達しないものと楽観 している。「尊敬すべきすべての国民は,本来,自らの所有財産を正直かつ明瞭に開陳するもの である。」(Heathfield, R. Further Observations,1820, p. 34. in Acworth, A W,, ibid,, p. 59.) 2)財産税500,000,000ポンドの徴収は,別の角度からすれぼつぎのようにも表現しうる。 (£) 長短期債所有者の帳消(abatement)によって 125,000, OOO 財産所有者の意志(will)によって 263,000,000 財産所有者の5ケ年均等年賦(five equal annual instalments)によって 112,000, OOO 500, OOO, OOO (Heathfield, R,, Further Observations, 1820, p, 103. in Acworth, A. W,, ibid., p, 60.)〈概究ノート〉リチャード・ヒースフィールドの公債償還計画 77 V その他の財源 残存する未償還高349,234,232ポンド10シリング11ペンスをいかにして償還するか。そ れは以下の諸手段による。 (pp.16−19.&pp 27−28、) (1>在外財産への課税 植民地財産,在アジア財産について,イギリス本国の立法に よって所得税(income tax)を課する。 ② イギリス本国での課税 臨時財産税徴収後において獲得された純所得にたいして 所得税(income tax)を課する。また将来とも形成される財産への課税も考慮の対象に 加える。 ⑧ 余剰財源の充当 臨時財産税計画実施によって財源に余剰が生ずる。これは減税 に向けられるべきであるが,償還財源に充当してもよい。 (4)総財産の再評価 財産の再評価により,さきの推定総額25億ポンドを超えるとす れば,その分にたいして課税を考慮する。 ㈲ 請求権留保による余剰 所有者不明などの事情による請求権行使の半永久的留保 によって余剰が生ずる。 ㈲ 請求権消滅による余剰 長期債ないし有期年金公債の期間満了によって余剰が生 ずる。 (7)言替一新規借入による財源調達 臨時財産税による公債償還政策によって新規借 入の諸条件が整備される。すなわち,この政策を採用すべく立法機関が明確かつ最終的 決断を公表すれば,あらゆる政府債券の市易価格は回復し,加えて以後もこの傾向が持 続されるものと期待される。このような環境においてては,政府債券はあらためて投資 家の好個の投資対象となる。それゆえに,年利3%での新規起債は順調に進むものと思 われる。この新規発行による財源のすべては残存未償還高の償還にあてられるのであっ て,減債基金の維持などの他目的にあてられるのではないから,発行限度は残存未償還 高である。 以上のごとき補助的諸手段は,適宜,結合されて運用されればよい。その組合わせにあ らかじめ一定のルールを設ける必要はない。時に応じて最善の組合わせが模索されればよ い。 (第19条) イギリス連含王国を公債負担から解放するためには,その他の諸手段が実施されるこ
78 とが便宜である。 1) (第20条) その他の諸手段・諸財源は以下の通り。 2) (1)植民地。印度における財産への課税(一定期間に限る)。 3) (2)本国内における財産への追加的課税(一定期間に限る)o (3)臨時財産税による償還実施によって生ずる収入の余剰。 (4)一部請求権の半永久的留保の可能性。 (5)長期ないし年金公債の満了による請求権の消滅。 ⑥ 国内財産総量の再評価によって25億ポンドを超える可能性。 (第24条) 大小さまざまな量の貨幣が公共体ないしは個人によって王国内Uこ蓄積されている。こ れらの貨幣は投資対象として政府債券を選ぶことになる。 (第25条) 額面発行の新規債に,これら貨幣の可なりの割合が第三機関の介入なしに投下される 4) と期待しうるQ (第26条) 残存公債を鎚還すべく新規債発行により償還作業を強力に推進することが期待され る。この貨幣は現行減債基金の維持に向けられない。近い特来,残存公債の全面的償還によってこ の措置は終結する。(pp,35−37.) VI予想反対論への反駁 ヒースフィールドは自らの計画にたいする反対論を予想し,あらかじめ反駁を加えると ともに,さらに計画の利点を強調している。 予想反対論工 「納税が行われている間,支払手段または流通手段の不足が生ずる。」 これについてヒースフィールドはいう。(a)長短期債所有者からの財産税!25,000,000ポ ンドの支払は,帳簿上の帳消によるいわば自己償還であるから,なんら支払手段を必要と しない。(b)財産所有者からの財産税375,000,00Qポンドの支払は,5∼10年の期間にま たがっている。それゆえ「支払」が集中する心配はない。貨幣不足が生じて通常の一般取 1) 引に影響を与えるとは思われない。(pp.21−22) 1)本文中の「その他の諸手段(7>」はここでは列挙されておらず,第24・25・26条として提唱され ている。 2),3)二丈中の「所得税」なる表現がここでは再び「財産への課税」(contribution in respect of property)となっている。 4)たとえばClose Subscription trこおけるLoan Contractorの介入のごとき。 1) リカードウはこの点についてヒースフィールドほど楽観的でない。リカードウは「この支払を うまくはこぶためには特殊の紙幣を発行するのが望ましい」とし「この手段によって,・・…・わが 国の流通手段にたいする大がかりな需要をすこしもひき起さないで償還される」とする。「リカ ードウからマカアロクへの手紙」1820aP 9 H 15日付。(リカードウ全集第8巻(書簡集1819− 1821年6月)268∼69頁。)
〈研究ノート〉リチャード・ヒースフィールドの公債償還計画 79 予想反対論III 「公債償還は資本の過剰をひきおこす。」ヒースフィルドはいう。5 ∼10年間にわたる財産所有者からの支払貨幣(財産税)は,メカニカルには国庫を媒介と して債権所有者(年金受領者をふくむ)に手渡されることになる。つまりこのシェーマにお いては,債券所有者は土地その他財産の買手となり,財産所有者は売手となる。この「取 引」の完結のためには,たしかに一定期間にわたって貨幣が流通せねばならない。だがそ れだけのことである。資本はそれによって増加もしなければ減少もしない。債券所有老は 即資本家ではない。「国庫を通過する賃虚位が多かろと少かろうと資本の量は不変のまま である。」(P.23.) ヒースフィールドによれば,この計画の現実的効果は懸念されることの逆であって,そ れは利点として歓迎されねばならない。財産税徴収の結果,減債基金は事実上中断ないし は廃絶されるが償還は現実化する。それゆえ少くとも2,300万ポンドの貨幣が節約可能と なる。すなわち (a)1819年改定された減債基金繰入額500万ポンドの節約,(b)償還分 5億ポンド分の利子1,800万ポンドの節約。 ヒースフィールドによれば,これらはすべて間接税の整理にあてらるべきものである。 この減税によって需要が喚起される。資本家は活気をとりもどし,資本の過剰どころか逆 2) にその不足が懸念される,というべぎである。 V旺 む す び 一臨時財産税をめぐるヒースフィールドとリカードゥー りヵードゥがはじめて財産税に関聾したのは1817年の主著『経済学および課税の原理』 においてである。ヒースフィールドの著作の初版は1819年の恐らくはその初期と推定され るが,この中でかれはリカードウの名をあげていないし,自己の提案とリカードウの主張 との関連を明らかにしていない。さらに,同じ1819年,リカードウは『公債制度論』を執 筆し翌1820年これを刊行しているが.ここにおいて,再度,財産税創設の必要に言及しな がらもヒースフィールドの所説に全く触れていない。つまり,このかぎり両者の議論の係 1) りあいは不明のままである。 2) Acworth, A, W,, Financial Recontruction in England, 18f8−1825, 1925, pp. 61−62. 1) 「ヒースフィールドの公債処理案にリカルドその他の同時代の経済学者が大きな刺激を受けた ことは当然である。もっとも,リカルドがこのような財産税の計画について,どのように深入り していたかは十分確認できない。」佐藤進r近代税制の成立過程』昭和40年131頁。
80 両者の議論の「間接的」な係りあいを示唆して興味あるのは,1819年もおしせまった12 月19日付のリカードウよりヒースフィールドにあてた私信である。その冒頭でリカードウ はヒースフィールドからの著作の恵与に礼をのべたあと,「わが国の公債を消滅させてし まうことが望ましいという一般的なご意見には私もまったく賛成で,二・三年前に公刊し 2) は私の出版物にもこの主旨の意見をのべておきました」とし,『原理』における議論の先 駆性に注意を喚起しているかにみえる。さらに「過ぎ去ったばかりの今秋,私はこの問題 3) につきむしろ細部に関して私の考えをまとめる仕事にしたがいました」として『公債制度 論』の出版を予告し,「この問題にかんしてわれわれの意見がいちじるしく符号していま すので,これらの事実をお知らせして私がことわりなくあなたの議論を借用したとおりに 4) ならないようにしておくべきだと考えました」として,この中でヒースフィールドの所説 に触れなかったことについての釈明ともとれる発言をしている。両者がなに故に表面での 議讃を避けたのか,いま詮索するすべがない。 「私信」はさらに若干の理論問題について,ヒースフィールドの所説をコメントしてい 5) る。その一つに償還価格をめぐる議論がある。戦時債の多くは3%債であるが,発行価格 は著しい割引をうけざるをえなかった。時には50%で発行される有様であった。1819年の 3%債は70%で発行された。もしこれらの公債が額面通り償還されるとすれば,公債所有 者は不当な増加元本を受取ることになる。市場価格にしたがって償還すれば公債所有者は 契約不履行の抗議をおこすことになろう。いずれの方策をとるべきか。ヒースフィールド は前者すなわち額面通りの償還を主張するのである。(p.16.) これについてリカードウの「私信」はいう。「ご意見と私の意見のあいだの主たる相異 はつぎのものです。あなたは公債所有者に100ポンドを支払おうとなさっています。私は 公債所有者が3%債にたいして現在の市場価格で,すなわち約70%を支払われれば彼は全 く公正な取扱いを受けることになると思います。われわれはいまや公債償還の,いなむし ろ不償還の手続きをとろうとしているのですから,彼は100%を受取れると合理的に期待 しうるのではなく,むしろけっきょくは彼の全資本を失うのだと予期する方がより妥当か 6) も知れません。」 2),3),4) 「リカードウからヒースフィールドへの手紙」リカードウ全集第8巻(書簡集1819− 1821年6月)163頁0 5) その他の議論の内容については第1節脚注1)2)参照。 6) 「リヵードウからヒースフィールドへの手紙」前掲163頁。なお,この点について,1819年議 会人となったりカードウは議会で同様の意見を開陳している。「公債は額面で償還されるべきで
〈研究ノート〉リチャード・ヒースフィールドの公債償還計画 81 みられるように償還価格についてのりカードウの見解はヒースフィールドのそれにたい してきわめて非妥協的である。これに刺激されてかその後のヒースフィールドの態度に変 化がみられる。すなわち,かれは翌1820年のFurther Observations trこおいて,5%債以 外のすべての政府債券を額面以下で償還することの可能性について考察している。リカー 7) ドウの所説への一部接近がみとめられる。 臨時財産税計画は,つまるところ陽の目をみなかった。財産所有者とりわけ地主層の反 擁を招き,当時の「地主議会」の容認するところとはならなかった。 ヒースフィールドの財産税計画の特徴は,アクワースが指摘しているように,財産所有 8) 者の負担において財源を捻出し償還を推進する点にある。したがって一般大衆(財産の非 所有者)は公債費の負担からまぬがれることが可能とされていた。大方の注意を喚起した ゆえんでなければならない。 (1980,103L) はありません。債権者達はそのような請求権はもっていないのです。もし市場価格で償還したと しても公共の信義にもとることにはなりません。」(Acwerth, A. W. Financial Reconstr− uction iu England, 1815−1822, 1925, p, 61.) 7) Acworth, A. W. ibid. p. 61. 8) Acworth, A. W., ibid.. p. 63.