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大学生における自尊感情の変動性と攻撃との関連

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Academic year: 2021

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(1)Title. 大学生における自尊感情の変動性と攻撃との関連. Author(s). 川村, 遼; 戸田, 弘二. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 65(1): 449-464. Issue Date. 2014-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7552. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第 6 5巻 第 1号 J o u r n a lo fHokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n( E d u c a t i o n l Vo . l6 5,No. l. 平成 2 6年 8 月. Augus . t2014. 大学生における自尊感情の変動性と攻撃との関連 1)2) 遼・戸田弘二. 川村. 北海道教育大学札幌校社会,心理学研究室. R e l a t i o no ft h eS t a b i l i t yo fS e l f E s t e e mandA g g r e s s i v e n e s si nC o l l e g eS t u d e n t s KAWAMURARyoandTODAK o j i Departmento fS o c i a lP s y c h o l o g y,S a p p o r oCampus,HokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n. 概要. K e r n i se ta , L ( 1 9 8 9 ) は,自尊感情の変動性が攻撃と関連していることを明らかにしたが,本邦では一貫 した結果が得られていない。筆者らは,これらの研究での変動性の測定方法に問題があると考え,. K e r n i s. らと同様に,毎日の自尊感情の高低を測定し,その変動性と攻撃との関連について検討した。その際,毎日 同じ時間帯に状態自尊感情を測れるように,. R e a lt i m eE v a l u a t i o nA s s i s t a n tSystem (REAS)を用いて. Web調査を行った。その結果, ( a )自尊感情が高いほど敵意が低いこと,. ( b )変動性が大きいほど他者軽視,. 怒り,八つ当たり等の感情発散が強いこと,が明らかになった。以上の結果から,自尊感情の不安定な者が 自尊感情の維持・回復の手段として間接的・認知的な攻撃を用いている可能性が議論された。. Keywords .自尊感情の変動性,攻撃,他者軽視, R e a lt i m eE v a l u a t i o nA s s i s t a n tSystem (REAS). 自尊感情とは,自己への肯定的な評価と定義さ れ , ( Baumeister, 1998),長い間,自尊感情が 高いことが適応的であるとされてきた。実際に,. 9 9 8 )。 ると考えられている(伊藤, 1. 自尊感情の不安定性 その 1つに自尊感情を安定したものではなく,. 従来の研究では自尊感情は抑うつや不安などの尺. 日々変動するものとして捉えた研究がある。自尊. 度と負の相闘が見られている(阿部・今野・松井,. 感情の変化のしやすさは. “自尊感情の変動性. 2 0 0 8 )。しかしながら,自尊感情が高いものほど. ( in s t a b i l i t yo fs e l f e s t e e m ) " と呼ばれている(阿. 攻撃性が高いというように,必ずしも自尊感情が. 0 0 8 )。自尊感情の変動性に関しては K e r 部ら, 2. 高いことが適応的であるとはいえないとする研究. msらが精力的に研究を f lっている。例えば,自. も存在している ( K e r n i s,Granneman,& B a r c -. 尊感情が不安定なものは公的自己意識が高いこと. l a y,1989)。このように自尊感情に関する先行研. や,ネガテイブな結果を一般化しやすく,その結. 究の知見は必ずしも一致しているとはいえず,近. 果を内的で安定した,全般的な要因に帰属しやす. 年では自尊感情の様々な側面に注目する必要があ. いなどが明らかにされている(阿部, 2009より)。. 449.

(3) J I I村. 遼・戸田弘二. また,本邦においても阿部を初めてとして自尊感. などを挙げているが,同時に“自尊感情の回復行. 情の変動性について多くの検討がなされており,. 動には,原田 ( 2 0 0 8 ) が取り上げている陰性感情. 自尊感情の変動性は日々の肯定的,否定的な出来. 発散のように,泣く,どなりつけるなどの感情を. 事に影響を受けやすいこと,自尊感情が不安定な. 発散する行動も含まれる.. ( p . 3 6 8 ) とも述べて. 者は嫌悪的な対人関係の出来事において自尊感情. いる。原田 ( 2 0 0 8 ) が取り上げている陰性感情発. の脅威となる側面に注目しやすいことなどが報告. 散は,「どなったりして大声を出した」などの項. されている(阿部・今野, 2006;阿部, 2 0 0 9 )。. 目から構成されている対処行動のひとつである。. さらに, Kernise ta l .( 19 8 9 ) や阿部 ( 2 0 0 8 ),. さらに,. l .( 1 9 8 9 ) は HU群は否定的 Kernise ta. 市村 ( 2 0 1 1 ) は,自尊感情をその高さと変動性か. 評価を行う評価者そのものの信頼性をおとしめた. ら 4群(自尊感情が高く,変動性が高い群; HU. り攻撃したりすることによって,肯定的な自尊感. 群/自尊感情が高く,変動性が低い群: HS群/自. 情を守っていると示唆している。以上の研究は,. 尊感情が低く,変動性が高い群: LU群/自尊感. 自尊感情が低下した時,もしくは自尊感情が低下. 情が低く,変動性が低い群: LS群)に分類し,. する脅威にさらされた時に攻撃行動が自尊感情の. 攻撃や対処行動との関連を検討している。その結. 維持・回復のための機能を持つ可能性を示してい. 果 ,. ると考えられる。. Kernisらでは,. やすく,. HU群は怒りと敵意を表し. HS群は低自尊感情者よりも怒りや敵意. Kernise tal .( 1 9 8 9 )は ,. HU群は怒りと敵意. を表しにくいことが明らかになった。また,阿部. を表しやすく,. や市村では,自尊感情低下後の対処行動の差異を. や敵意を表しにくいことを明らかにしている。し. 上記の 4群から分析した。その結果,. LU群は対. かし,清水 ( 1 9 9 9 ) は Kernisらが攻撃行動その. 処行動として気晴らし行動や内省は行わずに開示. ものを扱っていないことを問題にして,攻撃行動. 行動や希求行動を行うのに対して,. HU群は開. が自尊感情の維持・回復にどのように関連してい. 示行動を行わず,気晴らし行動を行うことを明ら. るかを大学生を対象に検討した。清水は攻撃行動. かにした。この違いは自尊感情の維持,もしくは. を測定するために秦(19 9 0 ) の敵意的攻撃インベ. 高揚させるための動機づけが自尊感情の高さとそ. ントリーを使用している。この尺度は個人の攻撃. の変動性の組み合わせによって異なるためである. 行動や攻撃の程度を多面的に測定するものであ. と考察している。つまり,. る。また,自尊感情の変動性は,毎週一回の授業. HU群は自尊感情が. HS群は低自尊感情者よりも怒り. 低下した時には他者から否定的に評価されるのを. 中に Rosenbergの自尊感情尺度(邦訳は山本・. 防ぐことで自尊感情を維持しようとするのに対し. 松井・山成, 1 9 8 2 ) を使って自尊感情を測定し. て ,. 計 5回の自尊感情得点の標準偏差を指標とした。. LU群は他者からの肯定的評価や受容を得る. ことで自尊感情を高揚させようとするというので. その結果,安定した低自尊感情者 (LS群)は「身. ある。このように自尊感情の高さとその揺れ動き. 体的暴力」経験が多く,「敵意 J,iいらだ、ち J,i間. やすさの組み合わせによって各群の特徴が異なる. 接的攻撃」でも低自尊感情者は高自尊感情者より. ことを考えると,自尊感情と適応についての検討. も得点が高かった。また,変動性に関しては,自. を行う際には自尊感情の高さと自尊感情の変動性. 尊感情が不安定な者の方が安定した者よりも「置. を組み合わせて考えることが必要といえる。. き換え」行動(例えば,「攻撃的な映画やテレビ. 自尊感情の維持・回復を目的とした攻撃行動. の方が好きだ、 J, i事件や事故は大きいほど面白. では,自尊感情を維持・回復させることを目的. いJ,など)の得点が高かったが,自尊感情の高. とした行動にはどのようなものがあるのだろう. 低による差異は認められなかった。以上の結果は,. か。市村 ( 2 0 1 1 ) は自尊感情低下後の対処行動と. いずれも Kernisらの結果とは異なっており,清. して「開示行動 J, i気晴らし行動 J, i希求行動」. 水は攻撃行動は自尊感情の維持・回復に結びつか. 4 5 0.

(4) 大学 t f てにおける白尊感情の変動性と攻撃との関辿. ないと述べている。. る。しかし,自尊感情の変動性に関する先行研究. 一方,松原・藤生 ( 2 0 0 5 )では中学生を対象に,. の多くは大学生を対象者にしており,変動性との. 自尊感情と攻撃行動およびうっとの関連を検討し. 聞には様々な関連が報告されている(例えば,阿. 1 9 9 9 ) とは異 ている。自尊感情の変動性は清水 (. 部・今野, 2006など)。よって今後は,対象を大. なり,ホームルームの時間を利用して 5日間を連. 学生に統ーしたうえで,改めて変動性と攻撃性と. 続して毎日同時刻に調査を行った。また攻撃行動. の関連を検討する必要がある。. では本人評価に加え,友人評価・教師評価も実施. 攻撃行動の評価者の遣い. 次に攻撃行動の評価. している。さらに,松原・藤生は自尊感情の確信. 1 9 9 9 ) では自己評 者の違いが挙げられる。 清水 (. 度を測定し,連続する実施回の回答の確信度の差. 2 0 0 5 ) 定のみを行っているのに対し,松原・藤生 (. を絶対値化して合計したものを変動性の指標とし. では友人や教師による他者評定も行っている。松. た。その結果,確信度の変動性とうつの聞には関. 原・藤生の結果でも,自尊感情と攻撃との関連が. 連は見られなかったが,攻撃行動との聞にはいく. 認められたのは,一部を除いてほとんどが他者評. つかの間連が見られた。すなわち,確信度の変動. 価であった。攻撃行動を尋ねる項目は社会的望ま. 性が高い生徒は,教師評価では「物理的な攻撃」. しさが反映されるために,自己評価では回答が歪. と「間接的な攻撃」が高く,仲間評価でも「物理. む可能性が考えられる。また,本人が意識してい. 的な攻撃」が高いこと,また,自尊感情の高さと. なくても,他者から見ることでわかる攻撃行動も. HU群は仲. あるだろう。社会的望ましさによる反応バイアス. 間評定での言語的攻撃,間接的攻撃が高く,自己. を避けるためにも,他者評価による攻撃行動の測. 評定では言語的攻撃が高いことが分かつた。この. 定が必要である。. 確信度の変動性の組み合わせでは,. 研究は自己評価だけでなく,他者評価(教師,友. 攻撃行動尺度の問題. 攻撃行動の測定方法によ. 人)でも変動性と攻撃行動との聞に関連が見られ. 1 9 9 9 )では,秦 ( 1 9 9 0 ) る違いも考えられる。清水 (. ることを示したという点で興味深い研究である。. の敵意的攻撃インベントリーから「敵意 J, Iいら. しかし自尊感情の変動性の指標として,自尊感. だ 、 ち J,I言語的攻撃J,I間接的攻撃J,I置き換え J,. 情尺度への回答の変動性ではなく,回答への確信. 「社会的望ましさ」の 6下位尺度,計30項目を使. 度の変動性を用いており,他の研究とは異なった. 2 0 0 5 ) では,秦 用している。一方,松原・藤生 (. 指標を用ているという点で,注意が必要である。. ( 1990) の尺度を参考にしているものの,「物理 的攻撃 J, I言語的攻撃 J,I関係性攻撃」から各 1. 先行研究における問題点 ところで,同じく自尊感情の変動性と攻撃行動. 項目ずつ選び¥さらに自己評定と友人評定では逆. の関連を検討しているにもかかわらず,清水. 転項目に修正して使用している。このように,松. ( 1999) と松原・藤生 (2005)で異なる結果となっ. 原・藤生で用いられた攻撃性尺度には信頼性に問. たのはなぜであろうか。その原因として次の可能. また,清水は LS群が HS群よりも攻撃行動が. 性が考えられる。 対象となった調査者の遣い. 題が残る。. まず,被調査者の. 多く,自尊感情が不安定な者が安定的な者よりも. 年齢の違いがある。中学生は思春期と青年期の聞. 「置き換え」行動とりやすいという傾向を明らか. であり,大学生と比較すると自尊感情が安定しな. にしている。しかし秦の「置き換え」下位尺度. い時期である。変動性を生じさせる要因として自. は,「私は,攻撃的な映画やテレビが好きだ、 J,I私. 己概念の不安定さがあげられているが(小塩,. は,事件や事故は大きい方が面白いと思う」など. 2 0 0 1 ),大学生を対象とした清水 ( 1 9 9 9 ) の研究. の項目で構成されており,この下位尺度は他の攻. では,中学生と比べて自己概念が安定化している. 撃行動尺度とは質的に異なる側面を測定してい. ために変動性の効果が出にくかった可能性があ. る。さらに,陰性感情発散のような攻撃行動を測. 4 5 1.

(5) J I I村. る下位尺度が含まれていない。攻撃行動としての 「陰性感情発散」を測定するための項目を新たに 追加し尺度の信頼性を確保した上であらためて 変動性と攻撃行動の関連を検討すべきだろう。. 遼・戸田弘二. 回,計 5日間の自尊感情尺度およびその回答に対 する確信度を測定している。 これらの先行研究には 2つの観点からの問題が ある。まず,自尊感情を測定する間隔の問題であ. また,秦の尺度は,例えば「いらだ、ち」のよう. る。清水のように 1週間もの間隔をあけて測定し. な攻撃の感情的側面を測る下位尺度に「私は,物. ている場合,日々の自尊感情の揺れ動きを正確に. 事がうまくいかないと,気持がイライラして,す. 測定できているのか疑問である。自尊感情の揺れ. ぐ人にあたる J,1"私は,気に入らないことがある. 動きやすさを自尊感情の変動性とするのであれ. と,当り散らすようなことがある」など,感情で. ば,多くの先行研究と同様に毎日,同じ時間帯に. はなく「八つ当たり」などの攻撃行動を測定する. 測定する必要があるだろう。そしてもうひとつは,. 項目が混在している。広義での攻撃では,感情的. 何の変動性を測定しているのかという点である。. 側面としての“怒り",認知的側面としての“敵意",. 清水は 5回測定した自尊感情得点の標準偏差を自. そして行動的側面としての“攻撃行動"を分類す. 尊感情の変動性の指標としている。それに対し,. ることがある(例えば,安藤・曽我・山崎・島井・. 松原・藤生は 5回の自尊感情尺度への回答の確信. 嶋田・宇津木・大芦・坂井, 1999など)。従来の. 度の差を絶対値化して合計したものを変動性の指. 自尊感情の変動性と攻撃性についての研究では,. 標としている。自尊感情尺度の回答への確信度と. この攻撃の区分が暖昧であった。そこで,本研究. は,毎日の自尊感情尺度への回答に対して,どの. では攻撃を感情的側面としての“怒り",認知的. 程度確信をもって回答したかを尋ねた項目であ. 側面としての“敵意",そして行動的側面として. る。自尊感情得点の標準偏差は,日々の自尊感情. の“攻撃行動"に分けて捉え,自尊感情の変動性. の揺れ動きの大きさを意味している。一方,自尊. との関連を検討する。. 感情の確信度の前日との差の絶対値は,自尊感情. また,上述の攻撃の 3側面に加えて,本研究で. の標準偏差とは異なり,あくまでも「自尊感情項. は攻撃の認知的側面として仮想的有能感を加えて. 目に対してどの程度自信をもって回答したか」と. 検討を行う。仮想的有能感とは「自己の直接的な. いう回答への自信の揺れ動きの大きさを示してい. ポジティブ経験に関係なく,他者の能力を批判的. る。したがって,松原・藤生の変動性は先行研究. に評価・軽視する傾向に付随して習慣的に生じる. の変動性とは異なっており,先行研究と同様の概. 1 ) 有能さの感覚 J (速水・木野・高木, 2004, p.. 念を測定しているとは言い難い。やはり,多くの. と定義されている。速水他 ( 2 0 0 4 ) は仮想的有能. 先行研究と同様に,自尊感情の変動性は連続した. 感が生じる理由として,現実的な有能感が得られ. 自尊感情得点の標準偏差を指標とするべきであろ. ないために,無意識に他者を軽視することで一時. つ 。. 的な有能!惑やプライドを回復させている可能性を. このように,本邦における自尊感情の変動性と. 指摘している。自尊感情の不安定な者が面子や体. 攻撃との関連についての研究は,必ずしも一致し. 裁を守るために攻撃行動を行うことで,不安定な. た方法を用いてないことが分かる。自尊感情の変. 自尊感情を安定させようとしているのであれば,. 動性の高い者が自尊感情の維持・回復の手段とし. 攻撃の認知的な側面の 1っとして他者軽視を行っ. て攻撃行動を行っている可能性についての明らか. ている可能性も考えることができるだろう。. にするために,これらの問題点を改善して自尊感. 自尊感情及び変動性の測定方法. 最後に変動性. 情の変動性と攻撃との関連を再度検討する必要が. 9 9 )は の測定方法の違いが挙げられる。清水(19. あるだろう。. 1週間間隔で 5回にわたって自尊感情を測定して. 変動性の測定方法について. 2 0 0 5 ) は毎日 1 いる。それに対し,松原・藤生 (. 452. では,自尊感情やその変動性とはどの様に測定.

(6) 大学 t f てにおける白尊感情の変動性と攻撃との関辿. すべきなのか。阿部・今野 ( 2 0 0 7 ) によれば変動. らの条件にかなう日誌j 去に代わる方法として,市. 性の測定方法としては,身体的魅力・能力・社会. R e a ltimeEva村は携帯電話を用いて REAS (. 的魅力の各領域における現時点の自己評価を尋ね. l u a t i o nA s s i s t a n tSystem) と呼ばれる Web上で. る既存の状態自尊感情尺度を使用する方法,. 行う調査を提案している。 REASとは,放送大. Rosenbergの自尊感情尺度を同一対象者に複数. 学 ICT活用・遠隔教育センターが運営するアン. 回に分けて実施する方法,そして独自の目的に合. ケート調査システムのことをいう。市村は,携帯. わせて作成した測定指標を用いる方法の 3種類の. 電話のメール機能を利用した調査と REASを用. 方法がある。しかし既存の状態自尊感情尺度を. いた Web上の調査を 7日間連続して行い,それ. 用いる方法では,個人によって重視する特定領域. ぞれの回答率を比較した。その結果,携帯電話の. は異なるので,個人全体の自尊感情とは言えない,. 9名の メール機能を利用した調査では調査参加者8. Rosenbergの自尊感情尺度は評価的なフィード. うち,有効データ数の割合は 7 1 .8%であったのに. パックを与えても得点が変化しないという報告が. 5 対し, REASを利用した調査では,調査参加者 9. 0 0 4 ),日々変化する状態自尊感情 あり(小林, 2. 名のうち,有効データ数の割合が 77.0%と,若干. を測定するには適していない,独自の指標を用い. ではあるが回答率が良いことを報告している。. た場合は他の研究に転用できないなどの問題点が. よって本研究では,毎日同じ時間帯に複数回の調. ある。そこで,阿部・今野 ( 2 0 0 7 ) はこれらの問. 査を行うことが難しい大学生に対して REASを. 題を解決するために新たに全体的評価を測定する. 用いた調査を行うこととする。. 状態自尊感情尺度を作成した。彼女らは自尊感情. 特性自尊感情と状態自尊感情. を,現時点での自分に対して感じる全体的な評価. ところでで、,現在では白尊!感惑剖,情│育は状況によつて変. であり,日常生活の出来事に対応して変動する状. 化する. 態自尊感情と,時間や状況を越えて自分に対して. 白尊感情"に区別して研究することが多くなつて. 感じる全体的な評価であり,比較的安定している. いる。. Rosenberg. 特性的尊感情に区別した。そして,. 阿部・今野 ( 2 0 0 7 ) は時間的に近接した出来事. の特性自尊感情尺度項目の先頭に「いま,自分は. が状態自尊感情に影響を与えると考えられること. ~J という文章をつけることで,現在感じている. から,一週間以内に感じた被受容感と被拒否感及. 自分に対する全体的評価を測定する尺度を作成し. び状態不安と特性不安を用いて特性自尊感情と状. た。阿部・今野が状態自尊感情尺度を作成して以. 態自尊感情の弁別性を検討している。その結果,. 降,本邦では,彼ムーらの状態自尊感情尺度を用い. 被受容感と被拒否感では特性自尊感情と状態自尊. た研究が多くなっている。. 感情に違いはみられなかったものの,短期的な不. 次に,数日間の自尊感情を測定する手法として,. 安を測定している状態不安は状態自尊感情と関連. 去を用いることが多かった(例えば 従来は日誌 j. を示し,長期的な不安を測定している特性不安は. Kernise ta , . l1 9 8 9;小塩, 2 0 0 1等) しかし,日. 特性自尊感情と関連を示すことがわかった。また,. 誌法には数日分の回答を一度に行ってしまう可能. 2 0 0 8 ) は,短期的な心理的不適応として 阿部ら (. 性があること,決められた時間帯での測定が保証. 抑うつを,長期的な心理的不適応として対人恐怖. できないことなどの問題点がある。市村 ( 2 0 1 2 ). 心性を用いて両者の弁別性を検討している。その. は,同一対象者に複数回調査を実施するための手. 結果,抑うつは特性自尊感情よりも状態自尊感情. a )実施者が回答時点を指示でき 法の条件として, (. と強い相関を示し,対人恐怖心性の「目が気にな. て,かつ回答時刻が確認できること, ( b )調査の対. る'悩み」は状態自尊感情よりも特性自尊感情と強. 象者および調査の実施に負担の少ない身近な測定. い相関を示していた。このように,特性自尊感情. 器具を使用すること,の 2点を挙げている。これ. と状態自尊感情の弁別性が報告されているにもか. 0. 453.

(7) J I I村. 遼・戸田弘二. かわらず,変動性研究においては,白尊感情の高. 答に不備のあるものを除いた 107名(男性 54名 ,. さとして使用される指標は短期的な白尊感情の高. . 6 0 ) を分析 女性 53名;年齢平均 19.50, SD = 0. さである状態白尊!感惑情を平均した値(J2J,以、後. の対象とした。. 平均"勺)を用いることが多くし,時間を越えた白尊. 攻撃行動尺度. 感情の高さである特性白尊感情と変動性の組み合. 9 9 0 ),自己 敵意的攻撃インベントリー(秦, 1. こ で で 、 , わせによる影響を検討した研究は少ない そ. 0 0 7 ), 報告式大学生の攻撃性尺度(磯部・菱沼, 2. 本研究では白尊感情の高さの指標として状態平均. 0 0 8 ),関係性 攻撃の置き換え傾向尺度(淡野, 2. だけではなく,特性自尊感情を含めて検討するこ. 0 0 5 ) を参考 攻撃傾向尺度(棲井・小浜・新井, 2. ととした。. に25項目からなる尺度を作成した。教示文には“あ. 本研究の目的. なたは普段の生活で,以下のように思ったり感じ. O. 以上より,本研究では状態自尊感情及び特性自. たりすることがどの程度ありますか。. 11. (あて. 尊感情の高低と自尊感情の変動性の 2側面から攻. はまらない) ~ 5 (あてはまる)~の中からもっ. 撃との関連を検討することで,攻撃が自尊感情の. とも近い番号に Oをつけて下さい。"と教示し 5. 維持・回復の手段として用いられている可能性に. 件法での回答を求めた。. ついて考察することを目的とする。. 結果と考察. まず予備調査において,陰性感情発散を含む攻 撃行動尺度を作成する。ついで本調査では,各尺 度の自己評価(調査 1),他者による攻撃行動の. 攻撃行動尺度 25項目の平均値,標準偏差を算出. 評価(調査 2),状態自尊感情の高さおよび変動. し天井効果,フロア効果を確認した。その結果,. 性を測定するための Web機能を用いた調査(調. 天井効果,フロア効果の見られた 2項目を削除し. 査 3)を行うことで目的を遂行する。. た23項目を用いて因子分析を行った。固有値の変 化は 5.92,2.07,1.77,1.54,1.16…というもの. 予備調査. であり, 4因子構造が妥当であると考えられた。 そこで 4因子を仮定して,十分な因子負荷量を示. 目的. さなかった項目や複数の因子に負荷量が高かった 項目の削除をくり返し,主因子法・ Promax回. 予備調査では,市村 ( 2 0 1 1 ) の指摘に基づき,. 転による因子分析を行った。 Promax回転後の. 陰性感情発散を含む攻撃行動尺度を新たに作成す. able1 最終的な因子パターンと因子間相関を T. ることを目的とする。. に示す。 第 1因子は 5項目から構成されており,「私は, 方法. I " 私 怒ったとき,人に八つ当たりしたことがある J, は対人関係でムカついたことを,友達にこぼして. 調査参加者・実施方法・倫理的配慮. 気晴らしをする」など,ゃっ当たりや感情発散の. 2 0 1 1年 9月,札幌市内の専門学校において,第. 経験を表す項目の負荷量が高くなっていることか. 1著者が講義を行う時間を利用して質問紙調査を. ら「感情発散」因子と命名した。第 2因子は 5項. 実施した。学生には,調査は任意で、あり,調査へ. 目から構成されており,「私は,言い争いをほと. の参加不参加を問わず授業成績に影響がないこ. んどしない J (逆転項目), 1"私は,人をなぐりた. と,回答は全てコンピュータにより統計的に処理. いという気持ちになることがある」など,直接的. されることなどの説明を口頭および紙面で事前に. な攻撃を表す項目の負荷量が高いことから「直接. 行った。調査に参加した学生は 114名であり,回. 攻撃」因子と命名した。第 3因子は「私は,あま. 454.

(8) 大学 t f てにおける白尊感情の変動性と攻撃との関辿. Table1 攻撃行動尺度の岡子分析の結果 (Promax回転後の岡子パターン). 感情発散. 直接攻撃. 関係性攻撃. 自己主張. 荘、は,怒ったとき,人に八つ当たりしたことがある 在、は,物事が計画通りに進まないとき,人にやっ当たりをすることがある 私は,学校やアルバイトで嫌なことがあったとき,家族や友人に八つ当たりす る事がある 荘、は,対人関係でムカついたことを,友達に話して気晴らしをする 在、は,腹がすーって, ドアを乱暴に閉める事がある 私は,旨い争いをほとんどしない(*) 夜、は,どんなに腹を立てても人にものを投げつけることはしない(*) 荘、は,喧嘩はしない方だ(*) 在、は,人をなぐりたいという気持ちになることがある 私は,時々人に皮肉を言ってしまうことがある 夜、は,あまり好きでない人が近づいてきたら,気付かないふりをして,その場 から離れる 在、は,友達のきらいな人とは,自分も仲良くしないようにする 私は,グループで話しをしているとき,気に入らない人とは,わざと会話をし ない 在、は,嫌いな人から話しかけられると,聞こえないふりをすることがある 私は,誰かに不愉快なことをされたら,不愉快だとはっきり百う 夜、は,なぐられたら,なぐり返すと思う 荘 、 は , どなられたら, どなり返す 在、は,議論していると,つい声が大きくなる 因子相関 I E E. I. H. E. . 8 0 . 7 1. . 0 4 2 5. . 0 4 0 6. N . 1 9 1 8. . 7 0. 0 1. 1 8. 1 4. . 5 7 . 3 8 0 3 0 8 . 2 4 2 2 1 2. . 0 5 1 8 . 7 1 . 6 1 . 5 5 . 5 2 . 3 8. . 1 5 . 0 4 2 6 1 6 1 9 0 5 . 2 6 一. 1 7 . 1 2 . 0 0 1 5 1 4 0 2 2 0. . 2 2. . 0 6. . 7 3. . 1 2. 2 5. 。 。. . 5 4. 1 4. . 2 7. 1 0. . 4 3. 0 2. 2 8 1 8 0 5 . 3 9 0 6. 1 6 0 2 0 9 . 1 1 0 1. . 3 4 0 1 0 8 . 0 1 1 5. I. H. E. 6 0. . 5 2 . 3 3. 1 1 . 6 7 . 4 8 . 4 7 . 3 4 N . 3 7 . 3 5 2 6. 注) (*)は逆転項目. 本調査. り好きでない人が近づいてきたら,気付かないふ りをして,その場から離れる J, i私は,友達のき らいな人とは,自分も仲良くしないようにする」. 目的. など,故意に仲間関係を操作し,ダメージを与え る行動を表す項目の負荷量が高いことから「関係 性攻撃」因子と命名した。第 4因子は「私は,誰. 状態自尊感情,特性自尊感情,それぞれの高低 と変動性の 2側面から攻撃との関連を検討する。. かに不愉快なことをされたら,不愉快だとはっき り言う Ji私は,なぐられたら,なぐり返すと思う」. 方法. なと他者からの攻撃に対する自己主張や反撃行 動を表す項目の負荷量が高いことから「自己主張」. 倫理的配慮と手続き. 因子と命名した。 4因子のうち,「感情発散」因. 2012年 12月,札幌市内の国立大学学生を対象に,. 子が陰性感情発散に対応した尺度項目であると考. 以下の 3つの調査を実施した。その際に,回答は. えられる。. 統計的に処理され,個人が特定されることはない. 次に各下位尺度の α係数を算出したところ, i j 惑情発散」で .77, i直接的攻撃」で .70, i関係. ことや回答を中断しでも不利益が生じないことを 口頭,紙面にて説明した。. 性攻撃」で .71, i自己主張」で .63と自己主張が. 調査 1. 若干低めであったが,その他はほぼ満足のいく内 的一貫性が得られたため,これらの項目への回答 を加算して下位尺度得点とした。各下位尺度得点 の相関を求めたところ,互いに有意な正の相関を 示していた ( r= . 35~ . 53, p s<.01) 。. 調査参加者・実施方法 大学生 92名(男性 25名,女性 67名;平均年齢 20.43歳 ,. SD=2.17) を対象に,授業中及び個. 4 5 5.

(9) J I I村. 遼・戸田弘二. 別配布により個別記入式の調査用紙を配布した。. た。「自分の周りには気のきかない人が多い J,i他. 対象者には,調査が任意であり,調査への参加不. の人の仕事を見ていると,手際が悪いと感じる」. 参加を問わず授業成績に影響がないこと,回答は. などの日項目に対して,. 7件法で回答を求めた。. 全てコンビュータにより統計的に処理されること 調査 2. などを口頭および紙面で事前に説明した。また, 調査用紙には,調査 3への調査協力依頼を記載し ており,任意で協力してくれるものにはメールア. 調査参加者・実施方法 調査 1の調査参加者に対して,友人評価用質問. ドレスの記入を行ってもらった。 調査項目. 紙を入れた封筒を 2通ずつ渡し,持ち帰って友人 特性自尊感情を測定するた. に評価してもらうよう依頼した。プライバシーの. 1 9 8 2 ) の特性自尊感情尺 めに山本・松井・山成 (. 観点から必ず封をして依頼した調査参加者に返却. 2 0 0 7 ) の状態自尊感 度を使用した。阿部・今野 (. すること,その封筒は次の週に調査実施者が回収. 情尺度と項目を一致させるために「もっと自分自. することを告げた。回収できた質問紙のうち,回. 身を尊敬できるようになりたい」という項目を除. 6名分の回答 答に不備のあるものを除いた大学生 6. 外した。「少なくとも人並みには,価値のある人. , を対象に分析を行った(平均年齢 20.41歳. 間である J, iだいたいにおいて,自分には満足し. =1 .5 8 ). ている」などの 9項目に対して,. して分析に用いた。. 特性自尊感情尺度. 1 (全くあては. まらない)から 7 (非常にあてはまる)の 7件法 で回答を求めた。 攻撃行動尺度. 0. SD. 2通とも回収できた場合は回答を平均. 調査項目 他者評価による攻撃行動尺度. 予備調査で作成. 下位尺度の項目数を等しくする. した攻撃行動尺度を参考に他者評価しやすいよう. ために,予備調査で作成した攻撃行動尺度に「き. に項目を修正して他者評価による攻撃行動尺度を. らいな人の,よくないうわさを友達に言う事があ. ) は,殴られたら, 作成した。尺度は「彼(彼 k. るJ (関係性攻撃)と「私は,口論では負けたく. 殴り返す人だと思う J, i彼(彼女)は,どんなに. ない J (自己主張)の 2項目を加えた 20項目につ. 腹を立てても人にものを投げつけることはしな. いて, 1 (あてはまらない)から 5 (あてはまる). いJ,i彼(彼女)は,怒ってドアや机などの物を. の 5件法で回答を求めた。. 乱暴に扱うことがある」など,各下位尺度 3項目,. 日常で感じる「怒り」を測定するた. 2項目 (4下位尺度 x 3項目)で構成されてい 計1. 2 0 0 1 ) の怒り喚起・持続尺度 めに,渡辺・小玉 (. る。教示文には“この質問紙をあなたに依頼した. の怒り喚起項目を使用した。「私を怒らせるのは. 友人(以下,彼(彼女)とします)についてうか. 簡単だと思う J, iささいなことにもかっとしやす. がいます。下記の各質問に対して,あなたから見. い方だ」などの 6項目に対して,. たその人の普段の様子をお答え下さい。 1 (あて. 怒り尺度. 5件法で回答を. 求めた。 敵意尺度. はまらない)から 5 (あてはまる)の中から,最 日常で感じる「敵意」を測定するた. 9 0 ) の敵意的攻撃インベントリーの めに,秦(19. も良くあてはまる番号に Oをつけて下さい。"と 教示し,. 5件法での回答を求めた。. 「敵意」項目を使用した。「私は,私の陰口を言 う人がいると思う J, i私は,いつも損をしている 0項目に対して, と思う」などを含む 1. 5件法で回. 調査参加者・実施方法. 答を求めた。 他者軽視尺度. 調査 3. 他者を軽視する程度を測定する. 調査 1で協力することを了承した参加者を対象. 2 0 0 4 ) の他者軽視尺度を使用し ために,速水ら (. に REASを用いて,状態平均と自尊感情の変動. 456.

(10) 大学 t f てにおける白尊感情の変動性と攻撃との関辿. 性の測定を行った。調査は 7日間に渡って行われ,. させて分析した人数を Table2に示す。調査 1. 調査開始前に調査内容を紙面および口頭にて説明. の分析対象者は 9 2名,調査 2は6 6名,調査 3は6 4. した。. 名であった。また,調査 1と調査 2に参加した対. 調査実施者は,. 1日に 1回,各対象者の携帯電. 5 名,調査 1と調査 3に参加した対象者は 象者は 6. 話やパーソナルコンビュータ一等の普段使用する. 6 1名,調査 2と調査 3に参加した対象者は 4 8 名で. 端末に“回答依頼メール"を送信した。当初は 1 9. あった。. 時前後にメールを送信していたものの,調査参加. T a b l e2 調査別参加者人数 調査 2. 9 2. 65. 承を得て 2 1時前後にメールを送ることにした。. 調査 2. 66. メールは“メール本文の URLにアクセスし,当. 調査 3. 64. η δ. 人数(人) 調査 1. い」という要望が多かったことから,参加者の了. 拍一日必. 者から「もっと遅い時間にメールを送信してほし. 4時までに(就寝するまでに)回答を行ってく 日2 ださい"という内容であった。メールを受信した 参加者は,メール本文中の URLにアクセスし,. 調査 1のデータ整理 特性自尊感情尺度特性自尊感情尺度 9項目に. 質問項目のページに移動し,回答を行った。以上. ついて逆転項目の処理を行った後に,. のような調査を 7日 間 (1日 1回)繰り返した。. 回答を合計して「特性自尊感情」得点を算出した. 対象者には分析の都合上,. 7日間全ての調査に回. 答する必要があること,また調査への参加は任意 であること,回答は統計的に処理され個人が特定 されることがないことなどを説明した。 調査 3に参加した対象者のうち,. 7日間を通し. て回答した参加者が少なかったため,. 4日以上回. 答を行った参加者6 4名(男性 1 8名,女性 4 6名;平 均年齢 2 0 . 6歳 ,. SD=1 .4 6 ) を対象に分析を行っ. た 。. (M=3 8 . 4 6, SD=9 . 5 1 )。なお,. 9項目への. α係数は . 8 9. と十分に高い値であった。 怒り尺度. 怒り尺度 6項目について逆転項目の. 処理を行った後に 6項目のへの回答を合計して. 7 . 2 0,SD=5 .5 5 )。 「怒り」得点を算出した (M=1 「怒り」得点が高いほど,怒りを喚起しやすいこ とをあらわしている。なお,. α係数は . 8 5と十分. に高い値であった。 敵意尺度. 0 項目について逆転項目の 敵意尺度 1. 処理を行った後, 1 0 項目の得点を合計して「敵意」. 調査項目 状態自尊感情現時点での自尊感情を測定する. 得点を算出した (M=28.96,SD=5.78)oi敵意」. 2 0 0 7 ) の状態自尊感情尺度を ために阿部・今野 (. 得点が高いほど,他者に対して敵意を認知しやす. 用いた。「いま,自分は人並みに価値のある人間. いことあらわしている。なお,. であると感じる J, iいま,自分には色々な良い素. 分な値であった。. 質があると感じている」などの 9項目からなり,. 他者軽視尺度. α係数は 7 3と十. 1項目の得点を合 他者軽視尺度 1. 教示丈には“あなたの今の自分自身の評価につい. 計して「他者軽視尺度」得点を算出した (M=. ておたずねします。 5段階評価で,該当する数字. 3 7 . 1 7, SD=10.21)o i他者軽視」得点が高いほ. を選択してください。"と教示し,. ど,他者を軽視していることをあらわしている。. 5件法での回. なお,. 答を求めた。. α係数は . 8 7と十分に高い値であった。. 攻撃行動尺度 結果. 攻撃行動尺度 2 0 項目について,. 逆転項目の処理を行った後,下位尺度ごとに信頼 性分析を行った。その結果,「直接攻撃」下位尺. 各調査の分析対象者 各調査の分析に使用した人数及び各調査を対応. 度の「私は,時々人に皮肉を言ってしまうことが ある」が α係数を下げていたため,この項目を. 457.

(11) J I I村. 遼・戸田弘二. 除外して再度 α係数を求めた。その結果,各下. 主張の α係数が低かったが,サンプル数,項目. 位尺度の α係数は「感情発散」で . 7 3,1直接攻撃」. 数とも少ないことから,このまま用いることとし. で. 6 3, 1関係性攻撃」で . 7 9, 1自己主張」で . 5 3. た 。. という値を示していた。甫:接攻撃と自己主張の α. 次いで、,. 4つの下位尺度に相当する項目の得点. 係数が低かったが,サンプル数,項目数とも少な. を合計し,それぞれ「他者感情発散」得点 (M. いこと,予備調査ではこれよりも高い値であった. ニ. ことから,このまま用いることとした。. .5 5 ), 1他者直接攻撃」得点 (M =3 . 8 9, SD=1. 次いで,. 4つの下位尺度に相当する項目の得点. 6 . 4 6, SD=1 .7 7 ),' f 也者関係性攻撃」得点 (M. =4.08, SD=1 .7 9 ), 1他者自己主張」得点 (M. を合計し,それぞれ「感情発散」得点 (M=1 4 . 4 7,. =7 . 3 6, SD=2 . 2 9 ) とした。各得点とも得点が. SD=4 . 3 8 ), 1関 係 性 攻 撃 」 得 点 (M=1 2 . 2 2,. 高いほど,友人からその攻撃行動を行うことが多. SD=4.33), 1直 接 攻 撃 」 得 点 (M=9 . 0 3, SD. いと評価されていることをあらわしている。. 3 . 5 3 ),1自己主張」得点 (M=1 3 . 9 2,SD=3 . 6 7 ). 調査 3のデータ整理. とした。各得点、は得点が高いほどその攻撃行動が. 状態自尊感情尺度. ニ. 阿部・今野 ( 2 0 0 7 ) に従っ. 多いこと示している。. て,逆転項目の処理を行った後に,分析対象者ご. 調査 2のデータ整理. とに各回の状態自尊感情尺度 9項目への回答を合. 他者評価による攻撃行動尺度. 計し,その合計得点の平均値を「状態平均」得点. 他者評価による. 2項目について逆転項目の処理を 攻撃行動尺度 1. (M=31 .2 5,SD=6.97),標準偏差を「変動 性 」. 行った後,下位尺度ごとに信頼性分析を行ったと. 得点 (M=3 . 2 8, SD=2 . 0 3 ) とした。「状態平. ころ,「関係性攻撃」下位尺度では「彼(彼女)は,. 均」得点が高いほど,短期的な自尊感情が高いこ. 対人関係での愚痴をよくこぼしている」が,「直. とを示しており,「変動性」得点が高いほど,自. 接攻撃」下位尺度では「彼(彼女)は,どんなに. 尊感情が不安定であることを示している。. 腹を立てても人にものを投げつけることはしな. 各得点聞の相関. d. い」が α係数を低めていたため,これらの項目. 調査 1から調査 3の結果に基づいて各得点聞の. を削除して再度 α係数を求めた。その結果,各. 相関係数を算出した。結果を T a b l e3に示す。. 7 3, 1直接 下位尺度の α係数は「感情発散」で .. 自尊感情と他の変数との関連特性自尊感情. 攻撃」で . 7 9, 1関係性攻撃」で . 6 4, 1自己主張」. は,状態平均と強い正の相関 ( r= . 7 9, p<. 0 1 ). で.42という値を示していた。関係性攻撃と自己. を示し,怒り ( r=-. 2 2, p<. 0 5 ),敵意 ( r=-.37,. T a b l e3 各尺度得点の平均, SDおよび各尺度相関 1 特性門尊感情 2 状態平均 3 変動性 4 怒り 5 敵志、 6 他者軽視 7 感情発散 8 関係性攻撃 9 直接攻撃 1 0 自己主張 1 1 他者感情発散 1 2 他者関係性攻撃 1 3 他者直接攻撃 1 4 他者自己主張. 2 3 4 5 6 7 9 * * . 2 1 . 2 2 *. 3 7 林 0 7 1 8 -. 1 3 ー. 3 2 * 0 6 3 2 1 4 3 3 * 4 4 * * 6 1 . 5 1 * *. p**<.01 .p*<.05 .pt<.10. 458. 水. 料 .. 7 . 0 5 . 0 3 . 2 5十 . 5 3 * * 4 0 * * 2 4 キ. 8 9 . 0 4 0 3 . 0 6 1 3 0 5 1 2 . 4 4 * * . 4 5 * * 3 9 紳 5 1紳 . 4 2 . 3 1粋 5 3 林 . 41 * * . 2 5 * 枠. 1 0 . 1 1 . 0 9 . 1 1 . 5 0 * * 5 1 4 6 . 45 . 41 5 1 料. 料. 帥. 料. 1 1 1 2 0 8 1 7 . 0 4 1 8 0 3 0 7 . 2 8 * 2 21 1 1 0 5 . 1 9 . 1 1 1 7 2 0 8 . 2 11 1 3 3 紳 2 0 4 3 紳 4 1粋 4 4 * *. 1 3. 1 4 0 5 0 1 0 6 1 2 0 8 . 0 9 0 5 0 5 2 6 キ 4 1 . 1 8 . . 49 * * . 6 5 * * 2 9 * . 3 9 * * . 4 4 紳 . 2 31 1 8 1 8 1 8 . 0 9 . 0 4 0 1 0 6 紳 3 8. 料. 孔f SD 3 8 . 4 6 9 . 5 1 31 .2 5 6 . 9 7 3 . 2 8 2 . 0 3 1 7 . 2 0 5 . 5 5 2 8 . 9 6 5 . 7 8 3 7 . 1 71 0 . 2 1 1 4 . 4 7 4 . 3 8 1 2 . 2 2 4 . 3 3 9 . 0 3 3 . 5 3 1 3 . 9 2 3 . 6 7 6 . 4 6 1 .7 7 3 . 8 9 1 .5 5 4 . 0 8 1 .7 9 7 . 3 6 2 . 2 9.

(12) 大学 t f てにおける白尊感情の変動性と攻撃との関辿. p<.01) とは弱い負の相関を示していた。一方,. 性に関する尺度を従属変数とした階層的重回帰分. r= 一. 3 2, p <. 0 5 ) と弱い負 状態平均は敵意 (. キ斤を行った。. r= . 3 3, p の相関を示しており,変動性は怒り (. 特性自尊感情と変動性を独立変数とした階層的重. <. 0 5 ),他者軽視 ( r= . 3 2, p< . 0 5 ) と弱い正. 回帰分析. の相聞を示していた。しかし,特性自尊感情,状. 多重共線性の問題を回避するために,独立変数. 態平均,変動性のいずれもが自己評価の攻撃行動,. として第 1ステップでは,特性自尊感情の平均か. 他者評価の攻撃行動とは有意な相関はみられな. らの偏差と,変動性の平均からの偏差をそれぞれ. かった。. 主効果項として投入した。次に第 2ステップでは,. 攻撃の情動的・認知的側面と行動的側面怒. 中心化した特性自尊感情と変動性の交互作用項を. り,敵意,他者軽視は全ての自己評価による攻撃. 9 8 7 )。その 投入して分析を行った (Cronback,1. 行動と有意な正の相関 ( r=.24~.53 , p < .05~. 結果,いずれの従属変数においても交互作用項は. . 0 1 ) を示したが,他者評価の攻撃行動とは怒り. 有意ではなかったので,以下では第 1ステップで. r= . 2 8, p <. 0 5 ) 以外に有意 と他者感情発散 (. T a b l e4参照)。 の結果を述べる (. な相関は見られなかった。. 攻撃の情動的側面標準偏回帰係数値係数). 攻撃行動の自己評価と他者評価. 直接攻撃と自. を見ると,怒りに対して変動性が正の影響を与え. 己主張は自己評価と他者評価の聞に有意な正の相. 3 0,p< . 0 5 )。なお,決定係数は 5 % ていた(戸=.. r=.38~.41 , ps < . 0 1 ) が見られたが,感情 関 (. 水準で有意であった (RZニ . 1 2, p<.05)。. 発散と関係性攻撃では自己評価と他者評価の聞に. 攻撃の認知的側面戸係数を見ると,敵意に対. 有意な相聞は見られなかった。. s= して特性自尊感情が負の影響を与えていた (. 自尊感情の高さと変動性の 2側面からの分析. 一. 3 6, p <. 0 1 )。一方,他者軽視に対しては,. 2 7, p <. 0 5 ),変動性(戸 特性自尊感情(戸=.. 2 0 0 7 ) によれば,特性自尊感情は 阿部・今野 (. . 3 4, p<. 0 5 ) ともに正の影響を与えていた。. 時間や状況を通した自分に対して感じる全体的な. ニ. 評価であり比較的安定しているもの,状態自尊感. なお,決定係数は両尺度とも 5 %水準で有意で. 情は現時点での自分に対して感じる全体的な評価. 1 6, ps< . 0 5 )。 あった (RZ=.14~ . 攻撃の行動的側面戸係数を見ると,自己評価. であり日常生活の出来事に対応して変動するもの. ( s= . 2 5, p <. 1 0 ),及び他. を指しており,両者の影響する側面は異なること. による感情発散. が予想される。そこで特性自尊感情得点と状態平. 者評価による匝接攻撃(戸 =.28, p<10) に対. 均得点それぞれを変動性得点と組み合わせ,攻撃. して,有意傾向ではあるが変動性が正の影響を与. Table4 特性白尊感情と変動性の階層的重回帰分析 S t e p 1. 日 特性円尊. 白己評価による 攻撃行動. 怒り 敵意 他者軽 t J i . 感情発散 関係性攻撃 自己主張 直接攻撃 他者感情発散. 他者評価による 攻撃行動. 他者関係性攻撃 他者門己主張 他者直接攻撃. . 1 2 . 3 6 * * 2 7 * . 0 5 . 0 6 . 2 0 . 2 1 . 0 4 . 2 1 . 0 3 . 2 2. 変動性 キ 3 0. 0 2 3 4 * 2 5十. S t e p 2. R2 1 2 キ. 1 7 1 3 . 0 1 1 7. 1 4 * 1 6 * . 0 6 . 0 1 . 0 4 . 0 6 . 0 2 . 0 4 . 0 3. 2 8t. 1 1十. . 0 3. 1 1. 日 特性自尊. . 1 5 一.38** 2 6 * 0 6 . 0 7 2 2 1 7 . 0 1 . 1 7 0 1 2 5. 変動性 キ 2 5. 交且作用. . 0 1 . 1 3 . 1 3. . 1 6 0 9 . 0 9 0 5 . 0 6 0 7 . 1 5. . 1 1. . 1 1. . 0 2 . 1 5 2 9十. . 1 0 0 8 0 5. . 0 0 3 1 * 2 6十. R2 1 4 * 1 4 水. 1 7 * . 0 6 . 0 1 . 0 5 . 0 8 . 0 3 . 0 5 . 0 3 . 1 2. 2 L lR. . 0 2 0 1 0 1. 。 。. . 0 0. 。 。. 0 2 0 1 . 0 1 0 1. 。 。. p**<.01 ,p*<. 0 5 ,pす<. 1 0. 459.

(13) J I I村. 遼・戸田弘二. Table5 状態平均と変動性の階層的重回帰分析 S t e p 1. 日. 状 態 、 │ え 均 一.08. 怒り 敵意 日己評価による 攻撃行動. 他者軽視 感情発散 関係性攻撃 自己主張 直接攻撃 他者感情発散. 他者評価による 攻撃行動. 他者関係性攻撃 他者自己主張 他者直接攻撃. . 3 1キ . 1 0 . 0 7 一.05 . 1 1 . 1 5 一.04 . 1 7 . 0 2 . 2 0. 変動性. 3 1 * . 0 9 3 3 * 2 6 * 0 4 . 1 2 1 5 0 2 . 0 5 . 0 6 2 0. S t e p 2. R2 1 1キ 1 1キ 1 1 * . 0 7 . 0 1 . 0 2 . 0 4 . 0 0 . 0 3 . 0 0 . 0 7. 日. 状態平均 . 1 8. 一.38. 。 1 料. 1 0 . 1 8 . 1 4 1 6 . 0 4 1 6 . 0 7 2 8. 変動性 キ 2 7. . 0 6 2 9 * 2 8 * 一.02 . 1 4 . 1 5 . 0 2 一.05 . 0 7 . 2 3. 父互作用. . 2 1 . 1 6 2 1 0 7 2 91 . 0 6 0 2 0 1 . 0 3 . 0 9 1 5. R2 1 5 * 1 3 * 1 5 水. . 0 7 . 0 7 . 0 3 . 0 4 . 0 0 . 0 4 . 0 1 . 0 9. 2 L lR. 0 4 . 0 2 0 3. 。 。. 0 61 . 0 0. 。 。 。 。 。 。. . 0 1 0 2. p**<. 0 1 , p*<. 0 5 , p'<. 1 0. えていた。なお,決定係数は他者評価による他者 直接攻撃で有意傾向を示すのみであった. 考察. (R2=. 1 1, p <. 1 0 )。. 本研究の目的は,攻撃を情動的な側面としての. 状態平均と変動性を独立変数とした階層的重回帰. 攻撃(怒り),認知的側面としての攻撃(敵意・. 分析. 他者軽視),そして行動的側面としての攻撃(攻. 特性自尊感情と同様の理由で,第 1ステップで. 撃行動)に分けて,特性自尊感情,状態自尊感情. は,状態平均の平均からの偏差と,変動性の平均. の高低と変動性の 2側面から検討することであっ. からの偏差を主効果項として投入し,第 2ステッ. た。以下,攻撃の側面別に考察する。. プでは,中心化した状態平均と変動性の交互作用. 攻撃の情動的側面と自尊感情. 項を投入して階層的重回帰分析を行った。その結. 階層的重回帰分析を行った結果,自尊感情の指. 果,いずれの従属変数においても交互作用は有意. 標に関わらず,変動性が怒りに対して正の影響を. ではなかったため,第 1ステップの結果を述べる. 与えていたが,交互作用は有意ではなかった。. ( T a b l e 5参照)。 攻撃の情動的側面. Kernise ta , . l( 19 8 9 )は ,. 3係数を見ると,怒りに対. やすく,. HU群は怒りを表し. HS群は低自尊感情者よりも怒りを表し. 3 1, して変動性が正の影響を与えていた(戸=.. にくいと報告している。変動性が高い者は怒りが. <. 0 5 )。なお,決定係数は 5%水準で有意であっ た (R2= . 1 1, p<. 0 5 )。. 喚起しやすいという点では,本研究と K ernisら. 3係数を見ると,敵意に対. 尊感情でも状態平均でも変動性との交互作用が見. s=一. 3 , 1 して状態平均が負の影響を与えていた (. られなかったことなど,一致していない点もある。. p< . 0 1 )。一方,他者軽視に対しては,変動性(戸. 交互作用項の. p. 攻撃の認知的側面. =. 3 3,p. <. 0 5 )が正の影響を与えていた。なお,. 決定係数は両尺度とも 5%水準で有意であった (ともに,. R2=. 1 1, ps<. 0 5 )。. 攻撃の行動的側面戸係数を見ると,自己評価. の結果は部分的に一致している。しかし,特性自. 3係数をみると,特性自尊感情,. 状態平均ともに有意ではないが,他の変数に比べ ると比較的大きい値を示している(それぞれ , s = 一. 2 1, s=一. 1 6 )。今後はサンプル数を増やす などして,もう一度交互作用について検討する必. 2 6,p<. 0 5 )に対して, による「感情発散J (戸=.. 要がある。ともあれ,本邦ではこれまで認められ. 変動性が正の影響を与えていたものの,決定係数. なかった怒りに対する変動性の主効果が認められ. は有意な値で、はなかった (R2= . 0 7, n. S.。 ). たことは注目に値する。. 460.

(14) 大学 t f てにおける白尊感情の変動性と攻撃との関辿. 点に対応するものである。このことを踏まえると,. 攻撃の認知的側面と自尊感情 敵意と自尊感情. Kernise ta , . l( 1 9 8 9 ) では. HU群は敵意を表しやすく, HS群は低自尊感情 者よりも敵意を表しにくいと述べているのに対し. 本研究の結果は,清水 ( 1 9 9 9 ) とも K e r n i se ta , . l. ( 1 9 8 9 ) とも一致した結果であるといえる。 他者軽視と自尊感情. 階層的重回帰分析を行っ. 1 9 9 9 ) では低自尊感情者が高自尊感情 て,清水 (. た結果,特性自尊感情を自尊感情の高さとして. 者よりも敵意を表しやすいと報告されていた。こ. 扱った場合には,特性自尊感情及び変動性の主効. れらの先行研究は矛盾する結果であったことか. 果に正の効果が見られた。一方,状態平均を自尊. ら,本研究においても攻撃性の認知的側面として. 感情の高さとして扱った場合には,変動性の主効. 敵意を検討することとした。その結果,特性自尊. 果においてのみ正の効果が見られた。このことか. 感情,状態平均ともに,自尊感情の主効果は有意. ら,特性自尊感情が高い者,また変動性が高いも. であり,負の影響が見られた。このことから,自. のが他者軽視を行っているといえる。速水ら. 尊感情の不安定さに関わらず,自尊感情が低い者. ( 2 0 0 4 ) は,仮想的有能感が生じる理由として,. ほど敵意的な認知を行いやすいといえる。. 他者を軽視することで一時的な有能感やプライド. 本研究の結果は清水(19 9 9 ) を支持するもので. を回復させる可能性を指摘している。これらを踏. e r n i se ta , . l( 19 8 9 ) と一致しない結果 あった。 K. まえると,本研究の結果は,もともと自尊感情の. となった原因として,敵意の捉え方の違いがある o. 高い者が,揺れ動く自尊感情を維持・回復させる. K e r n i sらは敵意の指標として Buss-DurkeeH o s -. 手段として,他者軽視を行っていることを支持す. t i l i t yI n v e n t o r y (以後“BDHI"と表記)を用い. る結果といえる。. ている。 BDHIは身体的攻撃,言語的攻撃,間. ところで,先行研究において他者軽視は特性自. 接的攻撃,反抗,怒り,恨み,猫疑心から構成さ. 尊感情と無相関であることが報告されている(例. K e r n i sらでは BDHIを攻撃行動を. えば,速水・木野・高木, 2005;小平ら, 2007等 ) 。. 去す Motor得点(身体的攻撃,言語的攻撃,関. 速水ら ( 2 0 0 5 ) によると自尊感情は他者と比較す. 係性攻撃,怒りの合計得点)と認知的な態度を表. ることのない自己評価であるのに対して,仮想的. t t i t u d e得点(恨み,猫疑心の合計得点)に すA. 有能感は他者を評価する,つまり,他者を軽視す. 分けて分析している。その結果,変動性は. ることで付随する潜在的な有能感であると述べて. Motor得点に正の影響を与えているのに対し,. いる。しかし,実際には他者軽視をすることで有. A t t i t u d e得点には影響を与えていなかった。一. 能感を高めることもあるが,もともと自尊感情が. 方,自尊感情の高さは Motor得点に影響を与え. 高いために,他者の欠点が見え,他者軽視を行う. A t t i t u d e得点には負の影響. ことも考えられる。そのため速水・小平 ( 2 0 0 6 ). を与えていた。また,交互作用は Motor得点に. では,両タイプを弁別するために自尊感情尺度と. HU群. 他者軽視尺度を用いて 4つの型に分類し,自尊感. れているが,. ていないのに対し,. おいてのみ有意傾向が認められており,. がもっとも敵意 ( Motor得点)を表しやすく,. 情が低く,他者軽視が高い者を仮想、型と呼ぴ,自. HS群は低自尊感情者よりも敵意を去しにくいこ. 尊感情が高く,他者軽視も高い者を全能型と呼ん. とを示している。つまり, K e r n i sらの敵意とは,. でいる。そして,特性自尊感情の高いものが他者. Motor得点のことである。一方,本研究では敵. 軽視を行うのは,自尊感情の高さゆえに経験に裏. 意感情として,清水と同様に秦(19 9 0 ) の敵意的. 付けられた他者軽視をするからであると述べてい. 攻撃インベントリーの敵意 1 0項目を使用してい. る。本研究では特性自尊感情が他者軽視に正の影. る。秦によれば,敵意項目は BDHIの恨みと猫. 響を与えていることが明らかになった。これは速. 疑心の項目を組み合わせたものである。つまり,. 水・小平 ( 2 0 0 6 ) の全能型の特徴に一致する。な. e r n i sらの A t t i t u d e得 本研究で使用した敵意は K. お,本研究でも他者軽視と特性自尊感情の相聞は. 4 6 1.

(15) J I I村. 遼・戸田弘二. 無相関であり ( r= .07, n. s. ),この点でも速水. ることが明らかになった。また,攻撃行動に関し. 2 0 0 5 ) の結果と一致する。 ら (. ては,怒りや他者軽視ほどではないが,自己評価. 攻撃の行動的側面と自尊感情. j長│育発散」に変動性が正の影響を与えて による i. 9 9 ) および松原ら ( 2 0 0 3 ) 本研究では,清水(19. いることがわかった。以上のことから,本研究は. で使用された攻撃尺度に問題があると考え,陰性. 本邦において一致していなかった変動性と攻撃と. 感情発散を加えた攻撃行動尺度を作成しさらに. の関連を明らかにし,自尊感情の揺れ動きやすい. 他者評価による攻撃行動の測定を行った。その結. 者が自尊感情の維持・回復の手段として攻撃を使. 果,各攻撃行動における決定係数はいずれも有意. 用している可能性を示す事ができた。このことは,. ではなく,攻撃行動に対する自尊感情と変動性の. 自尊感情の低下に対する対処行動として他者軽視. 影響は,攻撃の感情的側面(怒り)や認知的側面. や怒り,感情発散などが用いられている可能性を. (敵意,他者軽視)に比べるとさほど大きいもの. 示すものといえるだろう。つまり,自尊感情の変. とはいえないことがわかった。また,攻撃行動の. 動に伴う不快感情を怒りや八つ当たりなどで感情. 中では,感情発散に対する変動性の正の影響が比. 的に対処し,他者軽視をすることで認知的に自尊. 較的強く見られた。感情発散は「私は,怒ったと. 感情を維持・回復させているのではないかと考え. き,人に八つ当たりしたことがある」や「私は,. られる。. 腹が立って,ドアを乱暴に閉める事がある」など,. 変動性の影響が他者軽視や怒り,感情発散にの. 陰性感情発散を目的とした攻撃行動である。法務. み現れ,直接的な攻撃行動には明確な関連が見ら. 1 9 9 8 ) によれば「キレる非行」には過 省矯正局 (. れなかったのは,本研究の対象者が大学生であっ. 度の攻撃を振るうことで周囲を「び、びらせて」圧. たためと考えられる。直接的な攻撃行動によって. 倒し,その反応を確認するという意味があり,そ. 低下した自尊感情は回復できるかも知れないが,. れは同時に「自分を無視するな,ばかにするな」. 同時に他者に攻撃を加えることが自分の不利益に. といった自己主張であるとも理解できると分析し. なることを大学生は十分に理解しているし,その. ている。このことを踏まえると,不快感情が喚起. ための自己コントロールにも習熟している者が多. されたときに人や物にやっ当たりを行う行為は,. いだろう。このため,自尊感情の低下に伴う不快. 不快な感情を発散させるための置き換え行動であ. な感情を怒りや八つ当たりなどで発散し,不利益. ると同時に,自尊感情が脅かされる状況を打破す. を被ることなく自尊感情を回復できる他者軽視を. るための自己主張的な行動であるともいえる。こ. 用いて対処することが多いのだろう。. のことから自尊感情が不安定なものは,低下した. しかし,一方で,本研究で新たに作成した攻撃. 自尊感情の回復行動として八つ当たり攻撃のよう. 行動尺度の信頼性にも問題があった可能性があ. な不適切な対処行動を行いやすいことが予想され. る。特に,「自己主張」の α 係数は .42~. 6 3と一. る 。. 貫して信頼性が低かった。今後は項目数を増やす などして,より信頼性の高い尺度を作成し,自尊 総合的考察. 感情の高底や変動性と攻撃行動との関連を再度検 討する必要がある。. 本研究の目的は,自尊感情の維持・回復の手段. 本研究では大学生を対象とした。一方,松原・. として攻撃が用いられている可能性を明らかにす. 2 0 0 5 ) は「青年期に入って発達しはじめた 藤生 (. るために,大学生を対象として自尊感情の変動性. 認知能力はそれ自体が不完全なものであるために. と攻撃について検討する事であった。. 他者を過度に意識する」と,中学生は認知能力が. その結果,攻撃の感情的側面である怒りや認知. 不完全であるがゆえに,自尊感情が不安定になり. 的側面である他者軽視が変動性によって説明でき. やすいことを指摘している。また,自尊感情が不. 462.

(16) 大学 t f てにおける白尊感情の変動性と攻撃との関辿. 安定であるが故に,自己コントロールの能力に よって攻撃への影響も異なることが予想される。 今後は,中学生を対象にして,自己コントロール と関わりの深い社会的スキルなどとの関係も+食討. 泰 一 士 ( 19 9 9 ).敵意的攻撃インベントリーの作成心 理学研究, 6 1,2 2 7 2 3 4 . 速水敏彦・木野和代・高木邦子 ( 2 0 0 4 ).仮想的有能感の 構成概念妥当性の検討. 名古屋大学大学院教育発達科. 1,1 8 . 学研究科紀要, 5 速水敏彦・木野和代・高木邦子 ( 2 0 0 5 ).他者軽視に基づ. する必要があるだろう。. く仮想的有能感. 自尊感情との比較から. 感情心理. 学研究, 1 2,4 3 5 5 .. 脚注. 速水敏彦・小平英志 ( 2 0 0 6 ) . 仮想的有能感と学習観およ び動機づけとの関連パーソナリティ研究,. 1)本研究は第 1著者の修士論文(平成 2 5年度北海道教 育大学大学院教育学研究科)の一部を加筆・修正した. 0回大会で発表された。 ものであり,北海道心理学会第 6 2)本砂│究を進めるにあたり東洋大学 2 1世紀ビューマ ン・インタラクション・リサーチ・センターの市村美 帆先生に貴重な論文とご指導をいただきました。心よ. 1 4,. 1 7 1 1 8 0 . 法務省矯 1五局編(19 9 8 ).現代の少年非行を考える 年院・少年鑑別所の現場から. 少. 大蔵省印刷局. 市村美帆 ( 2 0 1 2 ).自尊感情の変動性の測定手法に閲する. 0,2 0 4 2 1 6 . 検討パーソナリティ研究, 2 市村美帆 ( 2 0 1 1 ).自尊感情の高さと変動性の 2側 l 耐と自 尊感情低下後の回復行動との関連心理学研究, 8 2,. り感謝いたします。. 3 6 2 3 6 9 . 伊藤忠弘 ( 1 9 9 8 ).特性自尊心と自己防衛・高揚行動. 引用文献. 心. 1,5 7 7 2 . 理学評論, 4 磯部美良・菱沼悠紀 ( 2 0 0 7 ).大学生における攻撃性と対. 阿部美帆 ( 2 0 0 8 ).自尊感情の高さおよび変動性の 2倶J I而 と自尊感情低下後の対処行動(日頭発表). 日本パー. 7回発表論文集, 3 0 31 . ソナリティ心理学会大会第 1 日本パーソナリティ心理学会. 阿部美帆・今野裕之 ( 2 0 0 6 ) . 白尊感情の変動性と自己意. 5回発 け本パーソナリティ心理学会大会第 1. 豊 ( 2 0 0 8 ).日誌 j 去を用いた. 自尊感情の変動性と心理的不適応との関連の検討. 筑. 安藤明人・曽我祥子-山崎勝之・島井哲志・嶋田洋徳・. 1 9 9 9 ). 日 本 版 宇津木成介・大芦治・坂井明子 ( Buss-Perry攻撃性質問紙 (BAQ) の作成と妥当性,. 0,6 8 7 9 . 傾向社会心理学研究, 2. 本語版作成に関する砂│究教育心理学制究. H常の対人関係によって生起する感情経験:抑欝感情 パーソナリ. ティ研究, 1 5,2 1 7 2 2 7 . 松原弘泰・藤'l英行 ( 2 0 0 5 ) . 中学生における自尊感情の. 5 3 8 . 育相談研究, 4,2 小塩真司 ( 2 0 0 1 ).自己愛傾向が自己像の不安定性,自尊 感情のレベルおよび変動性に及ぼす影響. 性格心理学. 0,3 5 4 4 . 研究, 1. 心理字研究, 7 0,3 8 4 3 9 2 .. 淡野将太 ( 2 0 0 8 ) . 攻撃の置き換え傾向尺度 (DAQ). H. 5 6,. 楼井良子・小 i 兵駿・新井邦二郎 ( 2 0 0 5 ).中学生におけ る関係性攻撃傾向の検討 の関連. 1 7 1 1 81 . Baumeister,R . F .( 19 9 8 ) .Thes e l f .I nD . T .G i l b e r t,S . T . .Lindzey ( E d s . ) ,Handbook01s o c i a l Fiske.& G. ρsychology ( 4 t he d . ;p p .6 8 0 7 4 0 ) . New York:. 清水. 同調行動および学校適応!惑. 筑波大学発達臨床心理学研究, 1 7,3 9 4 4 .. 裕(19 9 9 ).自尊感情の高さと安定性が援助と攻撃. に及ぼす影響. 昭和女子大学生活心理研'先所紀要, 2,. 1 1 3 山本真理子・松井豊・山成由紀子 ( 1 9 8 2 ) . 認知された. McGraw-Hill 原因宗忠 ( 2 0 0 8 ).コーピングが自尊感情の変動性と自己. 5 4,6 3 9 6 5 0 .. 小林知博 ( 2 0 0 4 ).成功・失敗後の直接・間接的自己高揚. 不安定さと攻撃性・うっとの関係上越教育大学心理教. 波大学心理学耐究, 3 5,7 1 5 .. 概念に与える影響. o u r n a l01P e r s o n a l i t y o fangera r o u s a landh o s t i l i t y .J. と敵意感情のレベルと変動性に注目して. 6,3 6 4 6 . パーソナリティ研究, 1. 信頼性の検討. ( 1 9 8 9 ) .S t a b i l i t yandl e v e lo fs e l f e s t e e ma sp r e d i c t o r s. 小平英志・小塩真司・速水敏彦 ( 2 0 0 7 ).仮想的有能感と. 3 2 1 3 3 . 表論文集, 1 阿部美帆・今野裕之 ( 2 0 0 7 ).状態白尊感情尺度の開発 阿部美帆・今野裕之・松井. ティ研究, 1 5,2 9 0 3 0 0 .. andS o c i a lP s y c h o l o g y,6 1, 8 0 8 4 .. 8回発表論文集, 1 1 8 1 1 9 . 大会第 1 識の関連. パーソナリ. .,Grannemann,B .D .,& Barclay,L .C . Kernis,M.H. 阿部美帆 ( 2 0 0 9 ).自尊感情の高さおよび変動性の 2側面 と出来事経験との関連. 人情報処理の関連印象形成の観点から. 京都大'子t 大学院教育 ~7~研究科紀要,. 0,6 4 6 8 . 自己の諸側両の構造教育心理学研究, 3 渡辺俊太郎・小玉正博 ( 2 0 0 1 ).怒り感情の喚起・持続傾 向の測定. 新しい怒り尺度の作成と信頼性・妥主性の. 4 6 3.

(17) 川村. 検討健康心理学研究, 1 4,3 2 3 9 .. (川村. 遼北海道教育大学大学院生). (戸田弘二札幌校教授). 4 6 4. 遼 ・ 戸 日 弘λ.

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Table 5  状態平均と変動性の階層的重回帰分析 日己評価による 攻撃行動 他者評価による 攻撃行動 怒り 敵意 他者軽視感情発散 関係性攻撃自己主張直接攻撃 他者感情発散 他者関係性攻撃 他者自己主張 他者直接攻撃 p**&lt; 

参照

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