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読書記録 -- 研究者を目指す人のために (特集 本の森への道案内)

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Academic year: 2021

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読書記録 -- 研究者を目指す人のために (特集 本

の森への道案内)

著者

近藤 則夫

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

240

ページ

20-21

発行年

2015-09

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003115

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.240(2015. 10)  

20

世紀に剥製や化石、鉱物に混じっ てこの博物館に生息した並外れた 研究者の一部を紹介してみたい。   ランドルフ・カークパトリック は「貨幣石」と呼ばれる大型有孔 虫の化石をどこにでもあるものと 信じ込み、火山から生まれる玄武 岩のなかに時たまみられる円形文 様も貨幣石と考え一九〇六年に出 版 さ れ た『 貨 幣 石 世 界 』 に そ の 「 発 見 」 を 掲 載 し た( 参 考 文 献 ②、 一 九 九 ペ ー ジ )。 い う ま で も な く 溶岩のなかには動物は住めない。 将来を嘱望され一九三二年に若く して古生物研究所に配属されたレ スリー・ベアストウはあまりに完 璧性を追求したため研究対象のジ ュラ紀化石の収集と分類に生涯を 費やし、結局一九六五年に退職す るまで一遍の論文も書かなかった という(参考文献②、一二二ペー ジ )。 も っ と も ベ ア ス ト ウ の コ レ   アメリカ人で生物学の大御所、 エドワード・O・ウィルソンは、 科学者として生きている限り、自 分のテーマに対する情熱を持ち続 けることが必要であると述べてい る( 参 考 文 献 ①、 六 〇 ペ ー ジ )。 情熱をかき立てる刺激を得る自分 なりのひとつの方法は、他分野の 優れた研究者が何をどのようにや ってきたのかその「生き様」を知 ることである。そのためにはでき るだけ極端な研究者の生き様を覗 いてみるのがよい。それは、えて して自分が平凡な研究者でよかっ たと慰みを得ることにもつながる。 これに関してまずお薦めするのは リチャード・フォーティの『乾燥 標本収蔵1号室――大英自然史博 物 館   迷 宮 へ の 招 待 』( 参 考 文 献 ②)である。大英自然史博物館は 大英博物館の自然史部門が一八八 一年に分離したものである。二〇 クションは後の研究者によって利 用されその役目を果たした。また、 ピーター・ロレンスは昆虫のなか でも最小のトビムシを専門として いたが、研究を進める内に躁鬱病 に苦しみ一九八〇年代にはついに 入院させられた。しかし並外れて 創 造 的 な ロ レ ン ス は 躁 病 患 者 が 「 ハ イ 」 な と き 如 何 に す ば ら し い 仕事を成し遂げられるかをまとめ た『すばらしき躁病患者たち』を 一九八九年に出版した(参考文献 ②、 二 九 九 ペ ー ジ )。 魚 類 の ニ シ ン科の権威で大著『世界のニシン 目魚類』を一九八五年から八八年 にかけて出版したピーター・J・ ホワイトヘッドは恐ろしく自己中 心 的 な 人 物 で、 「 お 役 所 仕 事 」 や 「 会 社 人 間 」 を 嫌 悪 し て い た。 フ ォーティの言い方によると仕事場 にはネアンデルタール人ならいて も良いが会社人間の居場所はない と考えるタイプの人間であった。 彼が一九九二年に亡くなったとき、 奥方が研究室を訪ねたが、動物研 究部長は彼の研究室に入室させな かったという。彼のさかんな恋愛 遍歴の証拠が山のように残されて いたからである(参考文献②、一 八五~一九〇ページ) 。   このようなワイルドな研究者の 生息を許してきた大英自然史博物 館の度量の大きさには 刮 かつ 目 もく すべき ものがあるが、サッチャー首相が 登場した一九八〇年代から徐々に 「 現 実 主 義 化 」 し て い っ た よ う で、 役に立つ、メディアに取り上げら れるような研究が重視され、テー マパーク化が進んだ。   強烈な個性といえば、 デボラ・ ブラムの『愛を科学で測った男: 異端の心理学者ハリー・ハーロウ と サ ル 実 験 の 真 実 』( 参 考 文 献 ③)で登場する天才心理学者ハリ ー・ ハ ー ロ ウ( 一 九 〇 五 ~ 八 一 年)も強烈である。ハーロウは、 「 サ ル で あ ろ う が 人 間 で あ ろ う が、 もし幼児期に愛を学ばなければ、 『 お そ ら く、 一 生 愛 を 学 ぶ こ と は な い 』」 ( 参 考 文 献 ③、 一 八 ペ ー ジ)ということをサルの実験によ って初めて示した研究者である。 戦前のアメリカ心理学会の主流の

 

本の森への道案内

 

近藤

  則夫

[現代インド政治・比較政治学]

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  アジ研ワールド・トレンド No.240(2015. 10) 考え方では赤ちゃんを抱きしめた りあやしたりする母親のあからさ まな愛情は子どもを軟弱にし、依 存心の強い大人に育ててしまうと 考えられ、それゆえに子どもは隔 離されて育てられるのが科学的と された。しかしハーロウはこのよ うな「定説」をあざ笑った。彼は 生まれたての子ザルに、柔らかい 布製の代理母と針金製の代理母を 与えた比較実験で、柔らかく慰撫 してくれる母親がいない場合、子 ザルは不安定で奇妙な行動を示す サルに成長する傾向が強くなるこ とをみいだした。子ザルにとって 母親は単なる母乳の出るところで は な く、 「 接 触 に よ る 安 ら ぎ 」 に よって、危険や恐怖から逃れ安心 していられる精神的絆を与えてく れる基盤であることを「発見」し たのである(普通の人間の母親は そのような実験をするまでもなく、 知 っ て い た の だ が )。 そ れ が 意 味 するのは人生最初の段階である幼 少期に愛情欠落によって安心感を 得られない者は思い切って次の段 階に成長することが難しい、つま り、幼少期の愛情関係をうまく築 けない者は他の者と交わり、さら には社会に出て独り立ちすること がスムーズに行かないということ であった(参考文献③、二一〇~ 二 一 四、 二 五 六 ~ 二 七 一 ペ ー ジ )。 母親の愛情は成長するために決定 的に重要なのである。   ハーロウの業績が偉大なもので あったことは間違いない。しかし、 彼はつむじ曲がりで、発言は攻撃 的で自制を知らなかった。ある講 演会では「もっとも侮辱的であか らさまに愚弄する性差別発言」が ちりばめられ、女性の怒りをかっ た(参考文献③、三一八~三二〇 ペ ー ジ )。 ま た、 サ ル に 対 す る 実 験の多くは悲惨なものであった。 赤ちゃんザルに対する実験は度を 超した過激なものであった(参考 文 献 ③、 三 八 二 ペ ー ジ )。 一 年 間 隔離され社会を剥奪されたサルは もはや生き物とはいえないものに なった。彼はキャリアの後半には フェミニストや動物愛護団体の非 難の的となった。そこにはフェミ ニズムや動物実験に対する倫理問 題へ意識が広まりつつあったとい う時代背景もあったのであるが。   さて、最後にエドワード・O・ ウィルソンに戻ろう。ウィルソン は昆虫大好き少年で大学に入学す る時に既にアリの研究をすること を決め、進化生物学者、社会生物 学者として成功した。彼が科学者 に求められる資質として最も重要 と考えたのが情熱であることは前 に述べた。それでは他の資質につ いてはどうか。彼は成功する科学 者とは必ずしも天才ではなく、 進 しん 取 しゅ の気性をもち努力を惜しまない 「 そ こ そ こ 」 頭 の 切 れ る 程 度 の 頭 脳をもつ者ではないか、と述べて いる。なぜならIQの高い者(= 天才)は初期の学問的訓練は簡単 すぎ、データ収集と分析という必 要ではあるが退屈な作業にやりが いを感じられず、科学のフロンテ ィアという険しい道を好んで選ぶ とはあまり思えないから、という ことである(参考文献①、六〇~ 六 三 ペ ー ジ )。 ま た 彼 は 最 近 の 傾 向としてシンクタンクやチームで 研究することがもてはやされる現 実について次のように述べている。 す な わ ち、 「 本 当 に 新 し い 科 学 を 創るのにチーム思考が最良の方法 といえるだろうか。異端のそしり を覚悟のうえで、私はノーと言お う」 (参考文献①、七四ページ) 。 以上をまとめると、平凡な能力の 研究者でも新しいことにチャレン ジする情熱をもって一人地道な努 力を続けることで成功への道が開 けると読める。天才・奇人・変人 でない平凡な研究者にとって、ま ことに母親の愛情のように安心感 を与えてくれる言葉である。 ( こ ん ど う   の り お / ア ジ ア 経 済 研 究 所   南 ア ジ ア 研 究 グ ル ー プ 長 ) 《参考文献》 ① エ ド ワ ー ド・ O・ ウ ィ ル ソ ン (翻訳:北川玲) 『若き科学者へ の手紙――情熱こそ成功の鍵』 創 元 社、 二 〇 一 五 年 ( Edward O. Wilson, Letters to a Young Scientist, New York: Liveright, 2013 )。 ② リ チ ャ ー ド・ フ ォ ー テ ィ( 翻 訳: 渡 辺 政 隆・ 野 中 香 方 子 ) 『 乾 燥 標 本 収 蔵 1 号 室 ―― 大 英 自然史博物館   迷宮への招待』 NHK出版、 二〇一一年( Rich -ard Fortey, Dry Store Room No. 1: The Secret life of the Natural History Museum, Lon

-don: Harper Collins, 2008

)。 ③ デボラ・ブラム(翻訳:藤澤隆 史・ 藤 澤 玲 子 )『 愛 を 科 学 で 測 っ た 男: 異 端 の 心 理 学 者 ハ リ ー・ ハ ー ロ ウ と サ ル 実 験 の 真 実』 白揚社、 二〇一四年 ( Debo -rah Blum, Love at Goon Park: Harry Harlow and the Science of Affection, New York: Basic Books, 2002 )。

参照

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出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所/Institute of Developing Economies (IDE‑JETRO) .

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雑誌名年月日巻・号記事名執筆者内容 風俗画報189012.10女力士無記名興行