1 はじめに 労働災害防止計画は,戦後の労働災害や職業性疾病の 急増に伴い,1958年に産業災害防止総合5か年計画が策 定されたことに端を発する.以後5年ごとの見直しを経 て,現在の名称に変更されわが国の安全衛生水準を大き く改善させてきた.2018年4月~2023年3月に至る現在 の第13次労働災害防止計画(以下,第13次防)では,労 働安全衛生対策の継続的な実施に加え,就業形態や個人 特性の多様性を踏まえた労働者の安全と健康の確保を目 指している1).第13次防には8つの重点事項があり,各 重点事項の具体的取組が掲げられている.そのうち「国 民全体の安全・健康意識の高揚等」における活動の一つ として「国際動向を踏まえた施策推進」が掲げられてい る.その実現のために,労働安全衛生総合研究所(以下, 当研究所という)には,労働安全衛生関連の専門家とし ての国際的な情報収集と現状把握,協力体制の構築,共 同研究の実施などが求められている. 以上の視点に基づき,本稿では当研究所の国際センタ ー(研究推進・国際センターの一部門)で取り組む活動 として,労働安全分野における諸外国の最新の動向把握 及び諸外国の研究機関等との協力による研究等を報告す る. なお,当研究所では労働衛生分野においても,国際研 究交流等,個別もしくは学会・協会等を通じた国際的な 情報収集と現状把握,研究交流等も精力的に行っている. 2 諸外国の労働安全の最新の動向 諸外国の労働安全分野,主として機械安全,建設安全, 化学安全,電気安全,人間工学領域における最新の動向 を述べる.特に,機械安全では安全管理システム,建設 安全では土砂崩壊,化学安全では防爆,電気安全では静 電気に焦点をあて解説する.また,人間工学については 墜落・転落防止を解説する. 1)第4次産業革命下の安全管理システム(機械安全) ドイツでは,産官学共同での国家プロジェクトとして 推進するIndustry4.0がある.ドイツ語のIndustrie4.0は第 4次産業革命を意味し,2011年に始まりヨーロッパ全土に 広がった.既に,製造業ではオートメーション化及びデ ータ化・コンピュータ化をベースにした製造スタイルが 実現されているが,Industry4.0では,さらに進化した「サ イバーフィジカルシステム」に基づく新たなものづくり の実現を目指す.サイバーフィジカルシステムとは,セ ンサーネットワーク等の現実世界と,サイバー空間の高 いコンピューティング能力を密接に連携させ,コンピュ ーティングパワーで現実世界のより良い運用を想定した 生産システムである.ほぼ同時期に,米国,カナダ,日 本でも同様の取り組みが始まり,韓国と中国へも波及し た.しかしながら,これらの新たな生産システムに適用 可能な安全管理システムは十分に構築されていない. 我が国の生産現場では,長く人の注意力に大きく依存 した安全管理システムを主流として安全を確保してき た.しかし,この方法ではIndustry4.0にみられる,機械 の稼働領域と人の作業領域の共通区域は常に高いリスク が潜在している状態となる.この共存領域におけるリス クを低減するために,情報処理・通信分野の関連技術で あるInformationandCommunicationTechnology(ICT) 機器を利用して「人・もの(機械)・環境」がそれぞれの 情報を共有することで安全性と生産性を両立する安全管 理システムの導入が求められている.そこで,新たに
Industry 4.0で適用可能な安全管理システムとして支援
的保護システム(Safeguarding SupportiveSystem, SSS) が,機械システム安全研究グループにより構築された.
労働安全衛生総合研究所における
諸外国の最新の動向を踏まえた労働安全研究の推進
北 條 理恵子
*
1,大 塚 輝 人
*
2,堀 智 仁
*
3,菅 間 敦
*
4,崔 光 石
*
5 労働安全衛生総合研究所の国際センター(研究推進・国際センターの一部門)の業務には(1)国内外の労 働安全衛生関連情報の収集・分析・提供,(2)国際研究交流及び共同研究の推進,(3)世界保健機構(WorldHealthOrganization; WHO)の開発途上国への協力等がある.これらの業務は,厚生労働省の第13次労働災害
防止計画(計画年度:2018年4月~2023年3月)における重点対策の一つである「研究等により諸外国の最新の 知見,動向を把握し,施策に活用する」に基づき重要な業務に位置づけられている.本稿では,2019年度の業 務のうち,諸外国における労働安全分野の最新の知見,動向調査の結果と,共同研究等の現状について記述す る.これらの活動は,世界の情勢に沿う新たな安全研究領域の構築及び国内の労働安全行政・国際標準化に向け ての貢献の基盤となりうる. キーワード:労働安全衛生総合研究所,労働安全,国際動向,第13次労働災害防止計画,国際研究交流
原稿受付 2020年4月30日(Received date: April 30, 2020) 原稿受理 2020年6月25日(Accepted date: June 25, 2020)
J-STAGE Advance published date: August 19, 2020
*1労働安全衛生総合研究所機械システム安全研究グループ *2労働安全衛生総合研究所化学安全研究グループ *3労働安全衛生総合研究所建設安全研究グループ *4労働安全衛生総合研究所リスク管理研究グループ *5労働安全衛生総合研究所研究推進・国際センター 連絡先:〒204-0024 東京都清瀬市梅園1-4-6 労働安全衛生総合研究所機械システム安全研究グループ 北條理恵子 E-mail: [email protected] doi: 10.2486/josh.JOSH-2020-0005-KE 研究紹介
現在,SSSは国際規格であるInternationalOrganization forStandardization(ISO)の中で,TechnicalReport(TR)
22053として日本初の発信で国際規格化の取り組みを行 うなど,世界に向けた活動を行っている. 2)土砂崩壊防止(建設安全) 米国をはじめとした多くの国において死亡災害が最も 多い業種の一つが建設業である.特に,韓国では2019年 の産業災害による年間死亡者が855名にのぼり,その約 半数が建設業で発生している.その防止のため,「仮設機 材の安全認証」や「建設業の安全管理業務効率向上」な どの研究が行われている. 一方,地盤に関連する労働災害は,多くが溝掘削作業 中に発生しており,国内外の建設安全に携わる人々がそ の対策に邁進している.米国労働統計局(Bureau of LaborStatistics, BLS)のデータでは,2000年から2006年 までの間に年平均54名の死亡災害が発生していること が報告されている2).溝掘削作業の危険性は認識されて おり,防止可能な災害であるが,死傷災害は引き続き発 生し続けている.これを受け,米国労働安全衛生局 (Occupational Safety and Health Administration,
OSHA)は,掘削時の危険性低減を優先目標にしている3).
カナダのロベール・ソウベ労働安全衛生研究所(l’Institut de rechercheRobert-Sauvé ensantéet ensécurité du
travail, IRSST)も小規模掘削時の労働災害防止に関する
研究を継続的に行っており,近年では崩壊予知等の研究 に力を注いでいる.
3)防爆(化学安全)
防爆に関しては,国際電気標準会議(International ElectrotechnicalCommission,IEC) の 枠 組 み の 中,
IECExの所掌するIEC60079シリーズの改正が着実に進
んでいる.表1に我が国で受け入れているIEC60079シリ
ーズの改正状況を示す.IECの防爆認証を行うExCB
(CertificationBody)は,2017年3月31日時点で26か国
55機関となり,IECの推奨するOneTest,Certificate,
OneMarkも広く受け入れられつつある.
また,昨今のInternetofThings(IoT)の利用推進を
受けた形で,IECExへの新たな提案として携帯電話を含
む電子機器の利用が可能となる規格が,昨年のTechnical
Committee(TC)-31のSubCommitteeに31J/300/NP
として提出されている.この提案は米国のUnderwriters LaboratoriesInc.(UL)規格121203を基にしたものであ るが,IECとして導入されるか否かは今後2年間の議論 による.携帯電話などは内部にバッテリーを持ち,IEC 60079-11Ed. 6.0の4.5V以下のセルに対する緩和措置に より,火花点火は省略できるが,実際には短絡電流が数 百Aにもなる場合があり,インダクタンス成分によって は点火することから,危険性を無視できない実情が指摘 されている.今後,試験強化の可能性もあるため,携帯 電話等の取り扱いに関しては予断を許さない状況であ る. 4)静電気対策(電気安全) 静電気放電は,可燃性物質の爆発・火災の着火源とし て軽視できない存在である.静電気に起因した可能性が あるにも関わらず,明確な災害原因が特定されにくいこ となどから,各国において活発な議論はあるものの,研 究・対策が十分に実施されていない状況である.しか し,諸外国での静電気安全に関する規格・標準は,少な いながらも存在している.欧州規格(EuropeanNorm, EN)には欧州電気標準化委員会(ComitéEuropéen de NormalisationElectrotechnique,CENELEC)のCLC/TR
504046)がある.これは英国規格とドイツ規格等を基に
制定したものであり,主に固体,液体,ガス・蒸気,粉 体を取り扱う現場においての静電気防止対策,人体の静 電気帯電とその防止対策などから構成されている.英国 規格(BritishStandards, BS)では英国規格協会(British StandardsInstitution, BSI)の5958-1&27,8があるが,
現在はEN規格に移行している.ドイツ規格にはドイツ
連邦安全衛生研究所(BundeanstaltfürArbeitsschutsund Arbeitsmedizin,BAuA,英訳:InstituteforOccupational SafetyandHealth)のTRGS(TechnischeRichtlinie Gefahr-stoffe,英訳:TechnicalGuidelineDangerousSubstances)
727がある.米国規格では全米防火協会(National Fire ProtectionAssociation, NFPA)のNo. 77があり,静電気 に関する推奨作業基準が詳しく説明されている.韓国に おいては,産業安全保健公団(KoreaOccupationalSafety
& HealthAgency,KOSHA)のKOSHAGUID-89-2013
があり,可燃性物質を取り扱う際の静電気災害に関する 全般的な予防および対策を述べている. 一方,産業現場では静電気を利用する装置や技術が広 く使われている.一例として,静電塗装がある.表面処 理技術の中で,最も優れた技術の一つであり,塗料の無 駄を減らし,塗着効率の向上ができるなど,さまざまな メリットから,現場では一般的になりつつある.現在, 対応IEC規格 (edition)
1 総則 No.46-1:2020JNIOSH-TR- 60079-0:2017(ed.7) 2020-01-202017/COR1:2020 2 耐圧防爆構造 “d” No.46-2:2018JNIOSH-TR- 60079-1:2014(ed.7) 2018-06-262014/COR1:2018 3 内圧防爆構造 “p” No.46-3:2018JNIOSH-TR- 60079-2:2014(ed.6) 2015-07-072014/COR1:2015 4 油入防爆構造 “o” No.46-4:2018JNIOSH-TR- 60079-6:2015(ed.4) 2020-02-242015+AMD1:2020
CSV 5 安全増防爆構造 “e” No.46-5:2018JNIOSH-TR- 60079-7:2015(ed.5)
+AMD1:2017
8 非点火防爆構造 “n” No.46-8:2020JNIOSH-TR- 60079-15:2017(ed.5) 容器による粉じん
防爆構造 “t”
10 特殊防爆構造 “s” No.46-10:2015JNIOSH-TR- 60079-33:2012(ed.1)
11 光放射を用いる機器及び伝送システムの保護”op” No.46-11:2020JNIOSH-TR- 60079-28:2015(ed.2) 2019-11-142015/ISH1:2019
JNIOSH-TR-No.46-7:2018 60079-18:2014(ed.4) +AMD1:2017
9 No.46-9:2018JNIOSH-TR- 60079-31:2013(ed.2)
2018-07-25 2014/COR1:2018 編 防爆構造 指針番号 (2020/5/11現在)最新版
6 本質安全防爆構造“i” No.46-6:2015JNIOSH-TR- 60079-11:2011(ed.6) 2019-12-132011/ISH6:2019 7 樹脂充塡防爆構造“m”
表1 国際整合防爆指針TR-No.46の構成
COR=Corrigendum, CSV=Consolidatedversion,
静電塗装機の着火安全性評価に関する指針は,英国の BSEN50050-1:2013が唯一のものであるため,今後は国 内指針が切望されている. 5)墜落・転落防止(人間工学) 人間工学分野では,安全な作業環境の構築や作業方法 の確立に向け,人間の特性に関する基礎データとして多 数の規格の提案や改訂が進められている.国際規格とし ては,人体寸法(ISO14738,15534,7250など),作業 姿勢(ISO11226),体力(ISO11228など),人間と機械 のインタラクション(ISO9355,9241,11064など)な どが制定されている.例えば,人体寸法の規格は,機械 安全のための人体寸法に関する規格(ISO13854,13855, 13857)に関係している. 一方,様々な国で主要な死亡原因となっている墜落・ 転落災害については,墜落制止用器具等の国際規格とし てISO10333(( 国 内 で は 日 本 産 業 規 格(Japanese IndustrialStandards,JIS)T8165が対応))の制定など
が進められた.また,米国安全衛生研究所(National
InstituteforOccupationalSafetyandHealth, NIOSH)な どが中心となり,高所作業の安全対策に関する研究を行 っている.しかし,作業者の行動特性,適切な作業環境, 作業内容に対する理解は依然として十分とは言い難い. そのため墜落・転倒災害の防止に向けた人間特性の研究 とその規格化が必要とされている. 現在,OSHAでは墜落・転落に対するリスク低減措置 の優先順位を次のように定めている.初めに高所作業自 体を取りやめることができないか検討し(レベル1),次 に手すりなどの設備・装置の使用(レベル2),そしてワ ークポジショニングまたはフォールレストレイント用器 具の使用(レベル3),フォールアレスト用器具の使用 (レベル4),はしご・脚立などの使用または管理的対策 (レベル5)を行う.脚立作業は上記のレベル5に位置づ けられているように,その他の安全対策の実施が困難な 場合に行われることが多いことや,高所作業に該当せず 十分な安全対策がとられないことが多いため,墜落・転 落のリスクが潜在的に高い.それにも関わらず,これま で正確な労働災害件数の把握や原因の分析がなされてお らず,災害防止対策などの研究も十分に進められていな い.国内では建設業以外の業種でもはしごや脚立を使用 して墜落する事故が多く発生しており,対策が必要とさ れている. 3 国際動向を踏まえた労働安全研究の推進 当研究所では,国際的な最新の知見,動向の収集のた め,海外の大学・研究機関等との国際交流を積極的に推 進している.前出の2で述べた国際動向を踏まえた当研 究所における現在の主な研究を以下に紹介する. 1)第4次産業革命下の安全管理システム(機械安全) 我 が 国 の 新 た な 社 会 シ ス テ ム と し て,Connected IndustriesやSociety5.0等の構想がある.形態は様々であ るが,共通の認識として,「人・もの(機械)・環境」の 調和がある.人をシステムの構成要因と捉え,その振る 舞い(行動)をより理解・分析し,予測することで安全 を担保する手立てが今後必要といえる.その一つとして, 製造業及び建設業界における作業者の安全行動の強化と 不安全行動の削減を目指し,主に作業を最適化するアプ ローチである,産業安全行動分析学(Behavior-based Safety,BBS)を展開してきた.機械側からの対策はむろ ん必須であるが,近年の目覚ましい生産システムの変遷 により,作業者の行動の理解は世界共通の方向性といえ る.そこで,行動に着目した領域での学際的な研究の必 要性から,ドイツのヴュルツブルク専門大学(The
University ofAppliedSciencesWürzburg-Schweinfurt,
2019年MoU締結)のBBSの専門家であるChristoph Bördlein教授との共同研究を開始した.BBSとは,作業 者の安全行動を科学的に分析・評価・予測する学問であ る. 同教授はコンサルタントとして,多くの職種にBBSを 用いた作業現場での行動改善を行ってきた.この背景か ら今後の検討項目も含めて,1)リスクアセスメント実施 の現状調査,2)自立歩行支援ロボットの利用者・介助者 の行動分析学による機能解析リスト作成,3)当研究所開 発のフィードバック音源付きジャイロスコープやICT機 器による作業者の行動分析学的姿勢改善方策の構築 (Bosch-Rexrothとの共同研究を予定)を行う.実証実験 に加え,3年ほど前から国際学会でのシンポジウムの主 催,共通のセッションでの相互発表,機械安全領域での BBSの啓蒙等の活動を行ってきた.今後は国際シンポジ ウムやworkshop等の主催や発表も予定している. 2)土砂崩壊防止(建設安全) 当研究所とIRSSTは2018年度より共同研究を行ってお り,同年5月にケベック州ルイズビルの屋外実験場にて, 溝掘削による土砂崩壊再現実験を行った.また,2019年 10月には当研究所の施工シミュレーション施設にて溝 掘削時の崩壊災害防止に関する実大実験を実施した. 深さ1.5mの溝をコンクリート製のL型擁壁と関東ロー ムを締め固めて模擬し,溝内には当研究所が開発した簡 易な仮設機材(土砂ガード)を設置して,重機でローム を段階的に盛土して不安定化させることにより崩壊現象 を再現した(図1).土砂ガードは仮設機材として現場で 利用しやすい手段を提供するため開発したものであり, 2組の矩形のアルミ製の軽量フレームを回転可能に結合 したものに,高強度なシート材を取り付けたものである. 深さ1.5m程度の小規模崩壊に対する被災防止を想定し て作製したが,安全性を検証するため実験では約3m程 度の崩壊を発生させた.実験後の観察では土砂ガード自 体に変形や破損は見られず,シート材に生じた張力もシ ート材の引張強度の約1/20程度であった.そのため,十 分な強度を有していることが確認された.実大実験の結 果から,崩土に抵抗して内部に空間を確保し,人的被害 を軽減できる可能性が明らかとなった.今後は,カナダ 特有の粘性土等で崩壊実験を実施する予定である. Vol. 13, No. 2, pp. 151 155, (2020)
3)防爆(化学安全) IoTの利用推進は,危険箇所を持つような事業者にも 及んでおり,特に化学プラント等では,危険箇所に入る 作業者について,そのスーパーバイズや,装置に関する 記録の一元化,危機管理マニュアルの携帯など利用方法 は多岐にわたる.IoT機器自体の安全化が速やかに行わ れていれば問題ないが,実際には機器開発のスピードに 防爆対応が追い付いているとはいえない.そのような背 景の中で,2019年4月25日,経済産業省は,危険箇所の 同定に関して,「プラント内における危険区域の精緻な設 定方法に関するガイドライン」を作成,公開した.危険 箇所の同定については,厚生労働省2008年9月25日基発 第0925001号通達によって,JISC60079-10が引用され ており,このJISに従って分類することとなっている.た
だし,このJISはJISが引用しているIEC規格である
IEC60079-10の最新版が2015年版であるのに対して, 2008年から改正されていない.IEC60079-10-1の最新版 は,漏洩に関しての推定方法が記載されており,利用し やすい形となっている.先の経済産業省ガイドラインは, IEC60079-10-1の最新版を引用しつつ,事業者側のリス クアセスメントによって,危険箇所のリスクを評価する ことで非危険箇所と解釈しなおせる場合があることを示 したものである.危険箇所の判断には,漏洩があっても 被害が小さい箇所をNegligibleExtentとしているが,こ の判断基準については,先に挙げた厚生労働省通達上で も利用されており,新しい概念ではない. 現在,当研究所では外部有識者による委員会によって, 上記の危険箇所判断についての資料を,TR-No.44「ユー ザーのための工場防爆設備ガイド」へ追補し,IoT機器 利用を見据えたガス検知器とのインターロックによる安 全の確保に関する議論を行っている. 4)静電気対策(電気安全) 2の4)で述べたように,静電気安全分野については, 国内外ともに十分に活発な研究等が実施されているとは いえない状況である.それにも関わらず,産業現場では 静電気を利用する技術である静電塗装が注目を浴びてい る.静電塗装は数十kVの高電圧を使用することにより, 異常静電気放電を引き起こす可能性があるものの,その 着火危険性を定量的に評価する方法,指針などが国内に はない.電気安全研究グループでは,静電塗装ガンから の異常放電による着火性評価の試験方法として,ヨーロ ッパのBS規格を参考にし,爆発容器に試験用プロパン (LP)ガスを充填し,静電塗装ガンに異常放電を起こし て着火有無を試しながら,その妥当性を確認した.実験 装置は主に静電塗装ガン,爆発容器,接地鋼球電極,小 型ロボット,ガス濃度計,制御用ノートパソコン等から 構成されている.爆発実験中に,接地鋼球電極(φ25mm) を移動させるため,小型ロボットを使用した.なお,爆 発容器内のLPガス濃度は光波干渉式濃度計をモニタリ ングしながら循環させ,所定のvol%になるように調整し た.実験中において,静電塗装ガンに電圧の最大値-60kV の印加を約10分間実施し,LPガスが着火しなかった場 合,不着火とした.なお,本実験では定電流保護回路・ 過電流遮断回路の安全機能を有する市販用静電塗装ガン を使用し,安全機能を動作させた状態の実験(実験A), 安全機能を停止させた状態の実験(実験B)の2つの条 件の下でおこなった.実験結果によると,実験Aは全て 不着火,実験Bは複数回着火した.これらにより,静電 塗装ガンの安全機能装置が異常静電気放電の抑制により 着火防止に有効であることが確認された.実験Bにおけ る着火爆発の様子を図2に示す.主に着火を引き起こし た際の接地鋼球の位置は,静電塗装ガンのヘッド部(絶 縁部を含む)に接触した時である.これらの原因につい 図1 溝崩壊実験の様子(施工シミュレーション施設) 図2 着火試験中における着火爆発の様子 (a)着火前 (d)炎が衰える (c)爆発 (b)着火
てはブラシ放電,沿面放電などが発生した可能性があり, その電荷量などの測定を行い,詳しく調べる予定である. なお,本研究で製作した爆発容器と方法を用いて,静電 塗装ガンの着火危険性を評価したところ,再現性に優れ た結果が得られ,その妥当性が確認できた. 5)墜落・転落防止(人間工学) 脚立やはしごからの墜落・転落災害の防止に向けて, 災害原因の解明と防止対策の充実,規格化などを進める 必要がある.脚立やはしご作業においては,作業者が姿 勢のバランスを崩すことが墜落・転落の一因となる.リ スク管理研究グループでは作業者の姿勢・動作分析に基 づく身体動揺の定量化を2014年から開始した.身体動揺 の大きさは,脚立などの用具の構造と,作業内容,人体 や個人の特性の相互作用によって決定する.そこで作業 現場で起こり得る様々な要因を取り入れた実験を実施 し,身体動揺の大小について比較検討した.一例として, 脚立への立ち方4種類(天板に立つ,天板1段下に立ち 天板をまたぐ,天板の1段下片側に立つ,天板の2段下 片側に立つ)について,リーチ動作時の体重移動を評価 した.その結果,天板の2段下片側に立った場合に最も 広く体重移動が可能であった.そのため天板の2段下に 立つことを,作業中の外乱があっても姿勢を保持しやす い立ち方として推奨している.またステップの前後幅に ついては,作業者の姿勢がステップ幅の逆数に比例して 不安定化することがわかった.前後幅が6cmより短くな ると急激に姿勢保持が困難になり,4cmより短くなると 静的な姿勢保持すら困難になることが明らかとなった. これらの知見は脚立等の用具の設計指針に寄与すると考 えられる.その他に,上向き姿勢や荷物保持といった作 業内容などが姿勢安定性に影響を与えることも明らかに している.今後は,倒れにくい脚立や可搬式作業台の利 用推奨をはじめとして,適切な作業方法や,作業者教育 の手法の提案など,ハード面とソフト面を組み合わせた 総合的な脚立作業の安全対策の提案を行っていく. 4 おわりに 本稿で報告した諸外国の労働安全の最新動向に関する 情報収集,情報交換,研究活動は今後も継続し,国際的 な結びつきをより一層強化していく予定である.国を超 えた有意義な研究がますます盛んになるよう今後も尽力 していく所存である. 文 1) 厚生労働省:ホームページ,第13次労働災害防止計画に ついて,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bun-ya/0000197308.html(2019年2月26日閲覧).
2) Morbidity andMortality WeeklyReport: MMWR, 2008,
57(16), 425-429.
3) https://www.jisha.or.jp/international/topics/pdf/20090318_1. pdf(2020年2月6日閲覧)