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中国の'自主創新'は成るか? -- 第12次五ヵ年計画期を迎える中国の科学技術政策 (トレンドリポート)

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(1)

中国の'自主創新'は成るか? -- 第12次五ヵ年計画

期を迎える中国の科学技術政策 (トレンドリポート

)

著者

森永 正裕

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

189

ページ

46-51

発行年

2011-06

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004227

(2)

  「神舟七号」 「和諧号」 「殲二〇」 「天河一号」 。いずれも、科学技術 の発展による華々しい成果として 中国が世界に 喧 けん 伝 でん するシンボルで あ る ( 図 1)。 こ こ 数 年、 同 様 の ニュースが世界中のメディアを賑 わ せ て い る が、 こ れ ら の 成 果 に は ほ ぼ 例 外 な く、 世 界 中 か ら 嫌 疑 の 眼 が 向 け ら れ る。 「 技 術 の 盗 用 だ 」「 外 見 だ け の 捏 造 だ 」 「 デ ー タ が 疑 わ し い 」 と い う 具 合 で あ る。 本 稿 で そ の 真偽を論じるのは避けたいと思う が、確実に言えるのは、世界の世 論が「中国の科学技術はそれほど 急速に発展するはずがない」と信 じている、 またはそう願っている、 ということだ。中国の喧伝する科 学技術に対して各国メディアがこ ぞってネガティブな論調を浴びせ る の は、 「 そ の 技 術 は〝 本 物 〟 な の か?」 「 中 国 は ど こ ま で〝 真 〟 の技術力を身につけたのか?」と いう点に世界中が注目しているこ との裏返しでもあろう。   中国が必死に科学技術の発展を アピールする背景には、積極的に 推 進 す る 科 学 技 術 振 興 政 策 が あ る。本稿では、中国政府の科学技 術振興政策を概観しつつ、その目 標を整理し、達成度合いと可能性 を測ってみたい。

●科学技術重視の政策を継承

  今 年 三 月 上 旬 に 開 催 さ れ た全 国 人 民 代 表 大 会 ( 以 下 「 全 人 代 」 と 略 す ) に お い て 、「 第 12次 五 カ 年 計 画 ( 二 〇 一 一 ~ 一 五 )」( 以 下 「 十 二 五 」 と 略 す ) が 承 認 さ れ 、 中 国 は 新 た な 計 画 期 間 に 入 っ た 。 科 学 技 術 に 関 す る 方 針 と し ては 、 第 二 七章 「 増 強 科 技 創 新 能 力 」 の 冒 頭 に 、「 〝 自 主 創 新 〟〝 重 点 跨 越 〟〝 支 掌 発 展 〟〝 引 領 未 来 〟 の 方 針 を 堅 持 す る 」 と 明 記 さ れ た 通 り 、 二 〇 〇 六 年 二 月 に 国 務 院 よ り 発 表 さ れ た 「国 家 中 長 期 科 学 技 術 発 展 計 画 綱 要 ( 二 〇 〇 六 ~ 二 〇 )」( 以 下 「 綱 要 」 と 略 す ) に お け る 方 針 が 、「 第 11次 五 カ 年 計 画( 二 〇 〇 六 ~ 一 〇 )」 ( 以 下 「 十 一 五 」 と 略 す ) に 引 き 続 き 継 承 さ れ る こ と が 確 認 さ れ た 。   全人代での「十二五」承認に先 立ち、一月に科学技術部から発表 された「十二五期間の科学技術発 展五原則」では、五原則の筆頭に 「〝自主創新〟方針の堅持」が挙げ ら れ た ほ か、 「 経 済 社 会 発 展 の 原 動力を〝量の累積〟から〝質の向 上〟へ移行する」という方針も示 された。また温家宝首相も、今次 全人代初日に行われた「政府活動 報告」演説において、有人宇宙飛 行やスーパーコンピューターなど の 成 果 を 謳 い、 〝 自 主 創 新 〟 政 策 による科学技術発展をアピールし ている。一方、反省点として一部 の目標が達成できなかったことに 触 れ、 「 科 学 技 術 創 新 能 力 は 未 だ 弱 く 産 業 構 造 が 合 理 的 で な い 」、 「あくまでも科学的発展を堅持し、 ( 中 略 ) 自 主 創 新 を 力 強 く 推 進 し なければならない」 と述べている。   中国政府にとって、今年から始 神舟7号 和諧号 「神舟」は、92年に開始された宇宙船プロ ジェクトで、99年に「神舟1号」が軌道飛 行に成功。 03年10月に打ち上げられた「神舟5号」で はソ連、アメリカに次いで世界で3番目に 有人宇宙飛行に成功するとともに、有人 宇宙飛行の最長時間を記録した。「神舟7 号」では宇宙遊泳の映像が公開されたが、 「水中で撮影した捏造だ」との疑惑が持た れている。 「和諧号」は、2007年1月に運営を開始し た中国の高速鉄道の愛称。「和諧」は「調和」 という意味。 営 業 走 行 時 速350キ ロ 営 業 路 線 総 延 長 7531キロは、現在世界一。川崎重工やシー メンス等から技術供与を受けて生産され たが、中国政府は「独自開発」を主張して いる。 殲20 天河1号 中国が独自開発したとされる第五世代ス テルス戦闘機。 2011年初、ネットでの画像公開を皮切り に世界中で物議を醸し出した。世界の軍 事力バランスに大きな影響を与えるとの 脅威論がある一方、「アメリカの「F22」の 模倣」や、「ステルス機の外観をもつ殻」な どと国際世論の批判を浴びている。 湖南省の国防科学技術大学により開発さ れたスーパーコンピューター。 2009年11月に公開され、2010年にはアメ リカ製や日本製を抜き、計算速度世界一 を記録した。カタログ性能に対する実効 性能の比率はかなり低く、「単に数多くの CPUを繋げただけ」との批判もある。 (出所)各種報道を元に筆者作成。

の〝

〟は

12次

(3)

中国の〝自主創新〟は成るか? ─第12次五カ年計画期を迎える中国の科学技術政策─ まる 「十二五」 期間においても、 〝自 主創新〟を柱とする科学技術振興 が最重要課題のひとつであること は確実である。

●〝自主創新〟とは?

  〝 自 主 創 新 〟 と い う キ ー ワ ー ド は、二〇〇六年一月の全国科学技 術大会において胡錦涛国家主席が 「 自 主 創 新 路 線 を 貫 き、 創 新 型 国 家を建設する」と発言したのを皮 切りに、 同年二月に発表された 「綱 要」において初めて国家の重要方 針 と し て 打 ち 出 さ れ た。 〝 自 主 創 新 〟 は 通 常 〟 Indigenous Innova -tion 〟と英訳される。 そこには、 〝中 国固有の〟または〝中国産の〟と いう意味が込められ、外資企業で なく国内企業による技術革新であ ることが前提となっている。   そもそも中国では、一九五六年 の毛沢東による「科学技術へ向け た進軍」というスローガンに始ま り、 鄧小平時代の 「四つの近代化」 、 江沢民時代の 「科教興国」 政策と、 科学技術振興を国家建設の主柱と して位置付ける政策が継承されて きた。それら一連の政策では、海 外の先進技術の導入が主要命題で あったが、二〇〇六年以降の〝自 主創新〟政策では、その方針が転 換された。

●なぜ〝自主創新〟なのか?

  「 綱 要 」 で は 、 序 言 か ら 「 我 が 国 の自 主 創 新 能 力 は 弱 く 、 企 業 の 競 争 力 も 弱 い 」、 「 革 新 技 術 に 関 す る 自 主 開 発 の 割 合 が 低 く 発 明 特 許 が 少 な い 」 な ど 、 通 常 見 ら れ る 自 己 賛 美 も ほ と ん ど 無 い まま 反 省 点 が 並 べ ら れ て い る 。 さ ら に 、「 技 術 の 消 化 、 吸 収 お よ び 再 創 新 を 重 視 す る こ と な く 技 術 導 入 の み を 行 う こ と は 、 自 主 的 な 研 究 開 発 の 能 力 を 弱 め 、 世 界の 先 進 レ ベ ル と の 差 を 拡 大 させ る 結 果 とな る 」 と 述 べ ら れ 、 技 術 導 入 を 主 眼 と し た 政 策 が 限 界 に 来 て い る こ と を 明 確 に 認 識 し た こ と が 示 さ れ て い る 。 自 国 の状 況 に 対 するネ ガ テ ィ ブ な 表 現 は 、〝 自 主 創 新 〟 を 喫 緊 の 課 題 と 捉 え て い る こ と の 現 れ で も あ ろ う 。   中国商務部の統計によれば、こ こ数年、中国が外国に対し技術導 入の対価として支払っている総額 ( ラ イ セ ン ス 料 や 技 術 コ ン サ ル 費 など)は毎年二五〇億米ドルを超 える。一方、受取り額の統計はな く総額の把握はできないが、例え ば二〇〇九年の日本の対中技術貿 易収支は、技術輸出額が二七八九 億四八〇〇万円に対して技術輸入 額 が 四 二 億 七 六 〇 〇 万 円 で あ り (「 平 成 二 一 年 科 学 技 術 研 究 調 査 」 総 務 省 統 計 局 )、 中 国 側 が 得 る 収 入は微々たるものである。中国は 明らかに高額なライセンス料を先 進諸国に支払って技術を輸入する 技術貿易赤字体質であり、その状 況を政府が冷静に認識しているか らこそ〝自主創新〟政策が打ち出 されたのであろう。   「 知 的 財 産 」 が「 権 利 」 で あ る という認識は、近年まで中国では 極めて薄いものであった。海外か らの技術導入 政策 は、先進諸国の 進んだ〝権利意識〟によって思う とおりに進まず、さらに技術を使 うために高いライセンス料を払い 続けるというジレンマをもたらし た。長らく 「権利を守る」 とか 「権 利 を 侵 す 」 と い う 意 識 を 持 た な かった中国が、海外から技術を導 入しようとするや、 突然「侵害だ」 「 使 う な ら 使 用 料 を 払 え 」 と 言 わ れたのである。自国産業が自ら最 先 端 の 技 術 を 会 得 し、 イ ノ ベ ー ションを達成することが、先進諸 国に肩を並べる必須条件であるこ とを痛感したに違いない。

 研究開発費に関する目標

  「 綱 要 」 や「 五 カ 年 計 画 」 に お いて、科学技術に関する具体的数 値 目 標 と し て 掲 げ ら れ て い る の が、 GDPに占める研究開発費 (R & D 費 ) の 割 合 で あ る。 「 綱 要 」 では、 「二〇二〇年までに二 ・ 五% 以上」 を達成、 その過程として 「十 一五」 では 「二〇一〇年までに二 ・ 〇%以上」 、「十二五」では「二〇 一 五 年 ま で に 二・ 二 % 以 上 」 を、 それぞれ達成するとの目標が掲げ られた(表 1)。   R&D費は、当該国の政府、民 間 企 業、 大 学・ 研 究 機 関 が、 「 基 礎 研 究 」「 応 用 研 究 」 お よ び「 開 発研究」を実施するにあたって支 出する費用の総額である。人件費 や 原 料 費、 有 形・ 無 形 資 産 の 取 得 費 な ど が 含 ま れ、 海 外 か ら 獲 得 し た 資 金 で あ っ て も 当 該 国 内 で 支 出 さ れ れ ば 当 該 国 に カ ウ ン ト す る。 「 R & D 費 」 は、 産 官 学 問 わ ず 当 該 国 が 国 全 体 と し て 支 出 し た 研 究 表1 R&D費の対GDP比に関する目標と実績 計画 目標 実績 国家中長期科学技術発展計画綱要(2006-2020) 2020年に2.5%以上 - 第十次五ヶ年計画(2001-2005) 2005年に1.5%以上 1.3% 第十一次五ヶ年計画(2006-2010) 2010年に2.0%以上 1.75% 第十二次五ヶ年計画(2011-2015) 2015年に2.2%以上 - (各種政府発表文書より筆者作成)

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統 計 局 の 発 表 に よ れ 抜 い て 世 界 第 二 位 と なった二〇一〇年のGDPが三九 兆七九八三億元、R&D支出は六 九八〇億元であり、対GDP比は 一・七五%にとどまった(表 2)。 「十一五」 における 「二 ・ 〇%以上」 という目標を達成できなかったこ とは、今次全人代における温家宝 首相の「政府活動報告」でも触れ られた。   日本を見てみると、二〇〇九年 のGDP(名目値)四七〇兆円に 対してR&D費が一七兆二〇〇〇 億円、 対GDP比は三 ・ 六%となっ ている。またアメリカは、二〇〇 七年のGDP(名目値)一四兆一 〇八億ドルに対しR&D費が三六 八八億ドル、対GDP比は二・六 八%である。その他の先進国はお よそ二・〇%前後の数値となって おり (表 3)、中国の掲げる二 ・ 五% という目標は、世界最高水準を目 指すものと言える。   中国では「改革開放」政策によ る科学技術計画が開始された一九 七〇年代後半より、多くの国家給 付型科学技術プロジェクトが実施 された。特に、科学技術体制改革 が 叫 ば れ た 八 六 年 以 降、 「 ハ イ テ ク発展計画(八六三計画) 」「国家 自 然 科 学 基 金 重 大 研 究 計 画 」「 国 家 ソ フ ト 科 学 研 究 計 画 」「 国 家 重 点 基 礎 研 究 発 展 計 画( 九 七 三 計 画 )」 な ど、 毎 年 の よ う に 国 家 予 算 を 投 入 す る 政 策 が 開 始 さ れ た。 その多くが現在も継続され、R& D費の増加要因となってきた。   二・五%という目標が打ち出さ れた二〇〇六年からは、国家発展 改革委員会による「国家ハイテク 産 業 発 展 プ ロ ジ ェ ク ト 」、 財 政 部 による「技術革新関連企業所得税 優 遇 政 策 」、 国 家 開 発 銀 行 と 科 学 技術部による「ハイテク分野ソフ トローン」などが開始され、国を 挙 げ て の 科 学 技 術 振 興 が 加 速 し た。また、二〇〇八年一一月に景 気刺激策として実施された総額四 兆元の公共投資では、 「自主創新 ・ 産業構造調整予算」として当初 割 り当てられた 一六〇〇億元は、翌 二 月 に 三 七 〇 〇 億 元 へ 増 額 さ れ た。   ア メ リ カ の 民 間 シ ン ク タ ン ク (バトル記念研究所)の試算では、 二〇一〇年の中国のR&D費総額 は、GDPと同様に日本を抜いて 世界第二位となることが確実視さ れている。さらに、二〇二〇年に 二・五%を達成した場合の中国の R&D費を試算すると、GDPは 「 十 二 五 」 目 標 の 七 % 成 長 を 続 け たと仮定して約一兆一五六〇億米 ドル、その二・五%は約二九〇〇 億米ドルということになる。日本 のR&D費の平均的な伸び率およ び G D P 成 長 予 測 を 考 慮 し て も、 二〇二〇年のR&D費は二〇〇〇 億米ドル前後と見込まれ、総額と して中国の世界第二位の地位は揺 るぎないものとなるだろう。   た だし 、 R & D 費 支 出 の 増 加 が 科 学 技 術 水 準 の 向 上 に 直 結 す る わ け で は な い 。 イ ノ ベ ー シ ョ ン を 生 み 出 す に は 充 実 し た 「 基 礎 研 究 」 が 必 要 と な る が 、 R & D 費 に 占 め る 基 礎 研 究 の 割 合 は 、 日 本 一 三 ・ 九 % 、 ア メ リ カ 一 八 ・ 五 % に 対 し て 中 国 は わ ず か 五 ・ 二 % で あ る ( 二 〇 〇 八 年 )。 ま た 、 R & D 支 出 主 体 の内 訳 を 見 て も 、 先 進 諸 国 と 比 し て 政 府 支 出 が 大 き く 大 学 ・ 研 究 機 関 の支 出 が 極 端に小 さ い の が 中 国 の 特 徴で あ る 。 大 学 ・ 研 究 機 関 の 支 出 の 低 さ は 、 基 礎 研 究 の 不 十 分 さ を 表 す 。 中 国 の 科 学 技 術 研 究 に お い ては 、 基 礎 研 究 が 生み 出 す 要 素 技 術 や 必 要と な る 設 備 装 置 は い ま だ に 海 外 に 依 る 部 分 が 大 き く 、〝 自 主 創 新 〟 の 達 成 に は R & D 支 出 の 質 的 な 改 善 が 求 め ら れ る 。

●発明特許に関する目標

  R&D費支出のほか、特許に関 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 4000 3000 2000 1000 0 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 1.10 0.87 0.90 3664 2943 2367 1843 1520 1161 960 896 (出所)「中国統計年鑑」(国家統計局)より筆者作成。 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 フランス 韓国 イギリス インド カナダ ロシア (注)2007年のR&D費総額のトップ10ヶ国を表示。 (出所)「GLOVALNOTE」の統計より筆者作成(原典:UNESCO)。

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中国の〝自主創新〟は成るか? ─第12次五カ年計画期を迎える中国の科学技術政策─ す る 数 値 目 標 も 掲 げ ら れ て い る。 「 綱 要 」 で は「 二 〇 二 〇 年 ま で に 発明特許件数で世界五位以内」を 掲げ、 また「十二五」においては、 「 発 明 特 許 の 年 間 出 願 受 理 件 数 を 「 十 一 五 」 最 終 年 か ら 倍 増 さ せ 七 五万件」 、「人口一万人当たりの発 明特許保有件数を「十一五」期末 の一・七件から三・三件」との目 標が示されている。   世界五位以内という目標が掲げ られた「発明特許件数」について は、具体的にどの数値を用いた比 較 を 想 定 し て い る の か 不 明 だ が、 国 家 と し て の 科 学 技 術 力 と い う 視 点 か ら、 「 出 願 人 国 籍 別 特 許 登 録 件 数 」 を 見 て み た い ( 表 4)。 単 年 で は、 中 国 は 二 〇 〇 九 年 で 既 に 日 本、 ア メ リ カ に 次 ぐ 第 三 位 と な っ て い る が、 あ る 時 点 に お け る 有 効 特 許 保 有 件 数 を 比 較 す る 場 合、 権 利 保 護 期 間 二 〇 年 間 の 累 計 か ら 期 間 中 の 失 効 分 を 除 い た 数 値 を 見 る 必 要 が あ る。 推 計 値 で は 二 〇 〇 九 年 末 時 点 で 全 世 界 に お け る 中 国 国 籍 の 有 効 特 許 保 有 件 数 は 約 二 六 万 件 で 世 界 七 位、 伸 び 率 を 考 慮 す れ ば二 〇 二 〇 年 ま で に 世 界 五 位 以 内 を 達 成 す る 可 能 性 は 高 い 。   つ ぎ に、 「 発 明 特 許 の 年 間 出 願 受理件数」だが、こちらも「中国 発明特許出願受理件数の推移」 (表 5)の通り、過去数年間の増加率 を考えれば、二〇一五年に七五万 件を達成するのは難しくないと思 わ れ る。 「 人 口 一 万 人 当 た り の 発 明特許保有件数」については、二 〇一五年の中国国内出願による有 効特許保有件数を、現在の保有数 を基準に今後五年間の登録数と失 効数から推計するとおよそ五〇万 件、二〇一五年の中国の人口は国 連の中位予測値によれば一三億一 二二五万人であり、一万人あたり の発明特許保有件数は三・八件と なる。粗い推計ではあるが、いず れの目標も達成可能な数値と言え る。中国の科学技術水準が、数値 の上では国際的な最先端の水準に 近づくことになる。   二〇〇八年、広東省深圳市の通 信機器メーカー華為 ( Huawei )が、 P C T 国 際 出 願 ⑴ の 企 業 別 出 願 件 数ランキングで第一位となり世界 を驚かせた。二〇一〇年には同じ く深圳市の通信機器メーカー中興 通訊(ZTE)が前年の二〇位か ら一気に第二位にランキングされ た( 表 6)。 こ の P C T 国 際 出 願 については、近年中国からの出願 が急増している。世界知的財産権 機関 (WIPO) の統計によれば、 中国からのPCT国際出願は二〇 一〇年、前年比五六・二%増加し 国別で四位となった(表 7)。 表6 PCT国際特許出願件数企業別ランキングの推移 順位 2006 2007 2008 2009 2010 1 フィリップス(蘭) パナソニック(日) 華為(中) パナソニック(日) パナソニック(日) 2 パナソニック(日) フィリップス(蘭) パナソニック(日) 華為(中) ZTE(中) 3 シーメンス(独) シーメンス(独) フィリップス(蘭) ボッシュ(独) クアルコム(米) 4 ノキア(フィン) 華為(中) トヨタ(日) フィリップス(蘭) 華為(中) 5 ボッシュ(独) ボッシュ(独) ボッシュ(独) クアルコム(米) フィリップス(蘭) 6 3M(米) トヨタ(日) シーメンス(独) エリクソン(瑞) ボッシュ(独) 7 BASF(独) クアルコム(米) ノキア(フィン) LG電子(韓) LG電子(韓) 8 トヨタ(日) マイクロソフト(米) LG電子(韓) NEC(日) シャープ(日) 9 インテル(米) モトローラ(米) エリクソン(瑞) トヨタ(日) エリクソン(瑞) 10 モトローラ(米) ノキア(フィン) 富士通(日) シャープ(日) NEC(日) (出所)WIPOPCTYearlyReviewより筆者作成。 750000? 391177 314573 289838 245161 210490 173327 130133 800000 700000 600000 500000 400000 300000 200000 100000 0 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 (件) 表5 中国発明特許出願受理件数の推移 (注)2011年以降は筆者推計。 (出所)中国国家知識産権局ホームページ統計情報より筆者作成。 (件) 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 250000 200000 150000 100000 50000 0 日本 アメリカ 中国 韓国 ドイツ ロシア フランス イタリア イギリス 表4 出願人国籍別特許登録件数の推移 (注)PCT国際特許出願を含む。 (出所)「WIPOStatisticsDatabase,January2011」より筆者作成。

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の 特 許 の 質 の 低 さ が 指 摘 さ れ る。 特許を取得した技術が商品に使わ れる実用化率も低く、これが本稿 の 冒 頭 で 触 れ た「 〝 量 の 累 積 〟 か ら〝質の向上〟へ」という政府方 針の背景となっている。

●国際標準化への取り組み

  中国政府が〝自主創新〟政策に よって目指す目標のひとつが、中 国発技術の国際標準化である。自 国 産 業 が〝 自 主 創 新 〟 を 達 成 し、 最先端技術を獲得しても、国際標 準技術を全て海外に押さえられて いれば、高額なライセンス料を支 払う構図に変わりはない。 例えば、 携帯電話に利用される通信技術の 特 許 権 を 全 く 持 た な か っ た 中 国 は、携帯電話の爆発的普及により 第一世代 (1G) 、第二世代 (2G) の通信技術のために海外へ支払っ たロイヤリティが総計一〇兆円を 超えるとも言われている。   二〇〇七年三月、中国国家標準 化管理委員会より「十一五におけ る 標 準 化 発 展 計 画 」 が 発 表 さ れ、 国 際 標 準 化 へ の 戦 略 が 示 さ れ た。 同時に、 国際標準化機構(ISO) や国際電気標準会議(IEC)な ど関連機関へ人員を派遣し重要ポ ストを得るなど、中国政府は自国 技術の国際標準化へ向けた活動を 活発化させている。   これまで中国は、IT通信技術 や記録媒体分野などを中心に国際 標準化を目指してきた。国際電信 連盟 (ITU) への企画提案数は、 二〇〇三年は四七件だったが、二 〇〇六年には五九四件まで激増し ている。次世代DVD規格である 「 E V D 」 な ど に 象 徴 さ れ る よ う に、そのほとんどは失敗に終わっ てきたが、最近では、これまでの 〝 な し の つ ぶ て 〟 の 状 況 に 変 化 の 兆しが見え始めている。   国家プロジェクトとして開発さ れた第三世代(3G)携帯電話規 格「TD―SCDMA」は、二〇 〇〇年にITUより三大主流方式 に認定され、二〇〇八年に商用化 された。これはISO国際規格に 認定されるに至らなかったが、後 継技術として開発中である第四世 代(4G)規格の「TD―LTE ―Advanced」は、近い将 来国際規格の認可が得られる見込 みである。また、中国独自開発の 無線LAN暗号化技術である「W API」は、〇三年にISO/I ECから国際規格への申請資格が 拒否されたが、インテル社の対中 国戦略の転換などから国際世論が 軟化し、〇九年六月に申請資格が 認められた。   前記の他にも、デジタル家電通 信 ネ ッ ト ワ ー ク シ ス テ ム で あ る 「IGRS」 、デジタル画像音声圧 縮技術の「AVS」など、国際規 格として認められる事例も見られ 始めた。近年、国際規格認定にあ たっては、その技術が開発された 地点のみならず、その技術を用い た商品の製造地や消費地も考慮さ れる風潮が見られつつある。世界 の工場と言われ、巨大な市場を抱 える中国の発言権は大きくなるこ とが予想され、今後中国発の技術 が国際標準規格となる可能性は十 分にある。

●保護主義への懸念

  中国の〝自主創新〟政策におい ては、自国産業の極端な保護主義 への懸念も指摘される。   二〇一〇年一月に意見募集稿と して公布された「中国政府調達法 実施条例」では、優先調達や強制 調達などにより独自開発製品の支 持 と 保 護 を 図 る( 第 九 条 ) た め、 調達にあたっては政府財政部門の 認可が必要 (第一一条) とされた。 仮にこれらの規定が正式に同条例 に盛り込まれた場合、外資系企業 2006 30000 20000 10000 0 ドイツ 中国 韓国 フランス イギリス 2010 2009 2008 2007 (出所)WIPOPCTYearlyReviewより筆者作成。

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中国の〝自主創新〟は成るか? ─第12次五カ年計画期を迎える中国の科学技術政策─ の製品が政府調達から排除される ことになりかねないとして、諸外 国から大きな反発を呼んだ。   遡 れ ば、 「 綱 要 」 が 発 表 さ れ た 二 〇 〇 六 年、 「 国 家 自 主 創 新 製 品 認定管理規則」において政府予算 による調達の際は、自主創新製品 を優先的に調達すべきことが定め られて以降、数々の関連する規則 が定められた。 二〇〇八年頃より、 上海市や江蘇省、広東省などでは 独自の「政府購買自主創新製品リ スト」が次々に発表され、各地方 政府は〝自主創新〟を謳い文句に 地元企業の優遇策を打ち出してい たが、二〇〇九年一〇月の「国家 自主創新製品認定の展開に関する 通知」ならびに前述の「条例(意 見 募 集 稿 )」 の 公 布 に よ り、 国 家 レベルでの自国企業優遇政策が明 らかになった。特に、二〇〇八年 末から景気刺激策として実施され た 総 額 四 兆 元 の 公 共 投 資 に お い て、自国製品を優先調達すべきと するいわゆる〝バイ・チャイナ政 策〟が示されると、外国の政府や 業 界 団 体 は 強 い 懸 念 を 表 明、 こ ぞって同政策の見直しを求める書 簡を中国政府に提出した。   二〇一〇年に実施された在中国 アメリカ商工会議所メンバー企業 の 調 査 で は、 「 中 国 の 自 主 創 新 政 策 が 将 来 自 社 に 悪 影 響 を 及 ぼ す 」 とするメンバー企業は四三%にも 達 す る。 〝 自 主 創 新 〟 に 名 を 借 り た過度な自国産業保護、外国企業 の締め出しには今後も留意が必要 であり、必要に応じて是正を求め ていかなければならないだろう。

●おわりに

  三農問題、医療・教育・社会保 障の問題、雇用・格差の問題、環 境問題など、現在抱えている諸問 題を、科学技術の発展すなわちイ ノベーションによって克服してゆ こうというのが中国政府の方針で ある。また、外資依存型経済から の脱却という産業構造改変を実現 す る た め に は、 〝 自 主 創 新 〟 が 不 可欠である。そのために中国政府 は、本稿で概観したような多くの 政策を実施し、その成果をアピー ルしている。   確かに、輝かしく喧伝される技 術成果も、膨大に投入されるR& D予算も、膨大に出願される特許 も、その本質には疑わしい点が多 い。いくつかの指標について数字 の 上 で は 世 界 最 高 水 準 に あ っ て も、実際にその科学技術が世界最 高水準に達しているとは言い難い 面もある。しかし一方で、まがり な り に も 有 人 宇 宙 飛 行 を 成 功 さ せ、世界最高速度で新幹線を走ら せ、質はともかく特許出願件数を 世界で一番増加させているのが現 在の中国である。中国が日本や欧 米に肩を並べ、世界に技術を売る ことで稼ぐほどの科学技術大国に なるには一定の時間がかかりそう だが、振り返るとそこまで来てい るのも事実である。   中国企業がより強固な科学技術 競争力を得れば、懸念材料として 指摘される自国企業保護政策もま すますエスカレートする可能性が ある。また、これまで国際世論の 圧力に押され、知的財産権の侵害 として自国企業を取り締まり、敗 訴させてきた中国政府は、自国企 業が確固たる知的財産権を獲得す るや、反動で一斉に外国企業を締 め出そうとするかもしれない。日 本企業の知的財産関連業務の担当 者 の 多 く は 口 を 揃 え る。 「 今 で こ そ権利侵害行為が問題視されてい るが、ニセモノを作っているうち はまだ良い。我々日本企業にとっ ての本当の驚異は、中国が独自技 術を身につけてニセモノを作らな くなった時だ」と。   日本の産業が高い技術を持ちな がら世界での競争力を失いつつあ るのは、これまで生み出してきた 技術に固執し、 革新 (イノベーショ ン)でなく、改良(インプルーブ メント)に留まっているからだと 言われる。 「〝自主創新〟が求めら れるのは、むしろ日本の方だ」と の 声 も 聞 く。 先 進 諸 国 は、 「 中 国 の科学技術がそれほど急速に発展 するはずがない」とレッテルを貼 り、過小評価を続けていると、近 い将来、中国に支払うライセンス 料 に 苦 し む こ と に な り か ね な い。 〝 自 主 創 新 〟 を 達 成 し 得 る で あ ろ う中国を冷静に受け入れ、驚異だ として過剰に騒ぎ立てるばかりで はなく、科学技術の分野でも真に 適 正 な 国 際 分 業 体 制 を 構 築 す べ く、自国の科学技術振興のあり方 を見つめ直すことが、先進諸国に も求められていると言えよう。 ( も り な が   ま さ ひ ろ / ア ジ ア 経 済 研究所   研究企画課) 《注》 ⑴ 特 許 協 力 条 約( Patent Cooper -at ion Treaty ) を 活 用 し た 国 際 特許出願。この出願により全て のPCT加盟国へ出願したと見 なされる。

参照

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