Japan Advanced Institute of Science and Technology
JAIST Repository
https://dspace.jaist.ac.jp/
Title
ステップ状大変形により衝突させた2液滴の合一過程
の観察
Author(s)
岡本, 健三; 田村, 良太; 石川, 優
Citation
日本レオロジー学会誌, 30(1): 45-48
Issue Date
2002
Type
Journal Article
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/10119/7841
Rights
Copyright (C) 2002 日本レオロジー学会. 岡本 健三
,田村 良太,石川 優, 日本レオロジー学会誌,
30(1), 2002, 45-48.
Description
2002 The Society of Rheology, Japan
Article
Observation of Coalescence of Two Polyisobutylene Droplets in
Polydimethylsiloxane under Large Step Shear Strain
Kenzo O
KAMOTO, Ryota T
AMURA, and Masaru I
SHIKAWADepartment of Polymer Science and Engineering, Yamagata University 4-3-16 Jonan, Yonezawa 992-8510, Japan
We observed collision and coalescence after application of large step shear strains for two polyisobutylene (PIB) droplets in polydimethylsiloxane (PDMS) matrix using a stereo microscope. When coalescence occurred, interface vanished in an overlapped area of deformed droplets. Then a single droplet recovered to spherical shape. Time necessary for recovery to spherical shape with coalescence was longer than that without coalescence. Coalescence was easy to occur for larger strain and smaller d0/r0, where d0 and r0 represent initial distance between centers of droplets and initial droplet radius, respectively. In the case of shape recovery without coalescence, the distance between the centers after shape recovery was smaller than d0. Time dependence of shape of droplets was similar in both cases with coalescence and without coalescence. Ratio of length of overlap, lov’, to length of semi major axis, a’, in view perpendicular to shear plane determines occurrence of coalescence.
Key Words: Coalescence / Large step shear strain / Polyisobutylene / Polydimethylsiloxane
ステップ状大変形により衝突させた
2 液滴の合一過程の観察
岡本 健三,田村 良太,石川 優
(原稿受理:2001年9月28日)1. 緒
言
高分子材料の衝撃吸収性能向上のためにエラストマーを ブレンドする方法が有効であることが知られている.1), 2) 射出 成形機でエラストマーブレンドの成形を行うと,射出条件に よりエラストマー相が配向し衝撃吸収性能に著しい悪影響 を与えることがある.2) 射出成型品におけるエラストマー相 の分散状態は液滴の分裂と合一により決まると考えられる ので,3) 射出成型時のエラストマーの配向を防ぎ衝撃吸収性 能の高い材料を得るために流動中の液滴の分裂および合一 の機構を明らかにする必要がある. 液滴に大変形を与えたときの分裂の挙動は理論,実験の両 面から研 究されており現在ま でに基本的な点は明ら かに なっている.4), 5) 一方,液滴が衝突したときの合一過程を扱っ た研究は少なく,衝突・合一がどのような要因に支配される のかあまりよくわかっていない. 本研究では高分子液体のマトリクス中の2 つの高分子液滴 にステップ状大変形を与えたときの衝突・合一と形状回復の 過程を観察し液滴の合一を支配する要因を明らかにする.2. 実験方法
試料にポリイソブチレン(PIB)(ポリサイエンス社製)とポ リジメチルシロキサン(PDMS)(信越化学工業株式会社製)を 用いた.23ºCでのゼロせん断粘度はそれぞれ87.8 Pa.sと1.08× 103 Pa.s である.マイクロシリンジを用いて PDMS中にPIBの 液滴(半径267∼
277 µm)を二つ作り,2枚のスライドグラス に挟んだ.厚さ1.2∼
1.5 mmのスペーサをスライドグラスの間 に入れ,実験中試料の厚みが変化しないようにした.本論文 では,時間0 で瞬間的に所定のひずみが加わりその後ひずみ の大きさが変化しない変形を「ステップ状変形」と呼ぶこと にする.実験室の温度をほぼ23ºCに保ち,試料を挟んだガラ ス板の一方を液滴の中心間を結ぶ方向と平行に手で動かす ことにより,ステップ状変形を0.5秒以内に加え,実体顕微鏡 (Nikon; SMZ-10)とCCDカメラ(Nakamura; IK-920N)を用い,せん断面(すなわち,スライドグラスの面)に垂直な方向か ら液滴の衝突・合一過程を観察しビデオテープに記録した. この際,加えるひずみの量はガラス板の先に置いたストッ パーの位置を調整することで誤差0.1程度で制御した.ひずみ を加える間に液滴が局所的に形状回復する可能性はあるが, PIB/ PDMSの界面張力3.1 mN•m−1 を用いてPalierneの理論か ら計算した6)液滴の線形緩和時間175 s(液滴半径267 µmのと き)に比べ十分短い時間でひずみを加えているので,ひずみ を加える間に液滴全体の形状回復は生じず,ステップ状のせ 山形大学工学部機能高分子工学科 〒992-8510 山形県米沢市城南 4-3-16 Phone: +81-238-26-3043 Fax: +81-238-26-3410 E-mail: [email protected]
日 本 レ オ ロ ジ ー 学 会 誌 Vol.30 2002
ん断大変形が加わっていると見なした.なお,本論文では二 つの液滴がせん断面と平行にならんでいる場合のみ実験を 行 っ た.ス テ ッ プ 状 ひ ず み を 加 え る 前 に 光 学 顕 微 鏡 (OLYMPUS; BH-2)でせん断面と垂直方向から液滴の赤道部 分を観察し,一方の液滴の赤道部分に焦点をあわせたときに もう片方の液滴の赤道部分にも焦点が合っているか否かを 調べることにより,2液滴がせん断面に平行に並んでいるか 否かを確認した.
3. 結果と考察
Fig.1にせん断ひずみγ =4.58を加えた場合に液滴形状が時 間 と と も に 変 化 す る 様 子 を 示 す.衝 突 後 合 一 し た と き ((a)∼(e))はd0/r0=2.29の場合であり,合一せずに再び二つの液 滴に分かれ形状回復したとき((f)∼(i))はd0/r0=2.68である.こ こでd0とr0はそれぞれ液滴の変形前の中心間距離と初期半径 を表す.合一したときは変形して重なった液滴の重なり部分 から液滴界面が消え2 倍の体積の液滴となり球状に回復して いる.合一しないときは液滴が変形し重なるが界面が消滅す ることなく再びもとの二つの液滴に形状回復する.同じひず みの場合,合一するときのほうが球形に回復するまでに時間 がかかる.また,合一しない場合でも液滴どうしに引き合う 力が働き,形状回復後の液滴中心間距離が衝突前より小さく なっていた.これを利用し,同じ二つの液滴に繰り返し同じ 大きさのせん断ひずみを加えることで液滴中心間距離を変 化させながら二つ の液滴が合一するま で繰り返し実験を 行った. Fig.2にせん断ひずみγ とd0/r0に対して衝突後の合一の有無 を示した.プロットの○と×はそれぞれ合一が生じた場合と 生じなかった場合を示している.γが大きいほど,またd0/r0が 小さいほど衝突した液滴が合一しやすいことがわかる. Fig.3にγ=4.58を加えたときの液滴形状の時間依存性をa’/r0 とc/r0を用いて示す.ここで,2a’と2cがせん断面に垂直方向 から見た液滴の長軸方向の長さと短軸(ダンベル状の場合は もっともくびれた部分)の長さをそれぞれ表す.d0/r0は5.22, 2.68, 2.29でありd0/r0=2.29のときlog(t/s)=2.9で液滴の合一が生 じている.合一が起こらないとき(d0/r0= 5.22, 2.68)a’は時間 とともに単調に減少しr0へと形状回復している.また,cは初 めr0とほぼ同じ値をとり,いったん減少したのち増大してr0 へと回復する.これは,単一液滴にステップ状大変形を加え たときの形状回復7)と同じ挙動である.合一が起こるとき(d 0/ r0= 2.29)も合一するまでは合一しないときとほぼ同じ挙動を 示し,せん断面に垂直方向からの観察では合一するときとし ないときの液滴形状の違いを見い出すことができなかった. Fig.4 に二つの液滴が重なっている部分をせん断面に垂直 方向から観察したときの長さlov’と a’ との比 lov’/a’の時間依存 性を示す.合一が生じる場合を黒いプロットで,合一が生じ ない場合を白抜きのプロットで示している.Fig.4より時間t = 0 sでのlov’/a’が1.48以上のとき合一が生じており,1.48以下で は合一が生じていないことがわかる.したがって,lov’/a’を用 いて合一の有無を上手く整理できる.lov’/a’が合一の有無を整 理する良い基準となるのは,液滴が重なっている部分では液 滴間または液滴界面の間に流体力学的な引力が働き,重なっ ていない部分では液滴がもう一つの液滴から離れて元の形 に戻ろうとする力が働くためと考えられる.ここで言う流体Fig.2 Coalescence diagram of PIB droplets in PDMS matrix. Circles and crosses indicate coalescence and recovery to two droplets, respectively. r0 = 267−277 µm.
Fig.3 Time dependence of a’/r0 and c/r0 of droplets at various d0/r0. γ =
4.58, r0 = 270 µm.
Fig.4 Time dependence of lov’/a’ at various strains and distance between droplets center. Open and filled symbols indicate coalescence and recovery to two droplets, respectively.
日 本 レ オ ロ ジ ー 学 会 誌 Vol.30 2002 力学的な引力とは液滴の形状が変化することによりマトリ クスに局所的な流れが生じたときに,生じた流れが液滴に及 ぼす,液滴が互いに引き合う方向の力のことである.また, 液滴が元の形に戻ろうとする力とは液滴が元の液滴の重心 を中心とする球形に回復しようとする力であり,液滴の界面 張力により液滴界面の法線ベクトルを等方的にしようとす る力である. さらに別の要因を考えると,曲率が大きくしたがって単位 体積あたりの界面積が局所的に大きい部分では合一が起こ りやすいはずであり,合一には液滴の曲率が大きく関係して いるはずである.2液滴の合一過程を単一液滴の形状回復7)と 比較すると,合一が生じている時点では液滴が長軸を対称軸 とする棒状または亜鈴状の回転体になっているはずであり, 曲率を考えればa’が大きいほど液滴の曲率が大きくなり合一 が起こりやすくなるはずである.しかしながら,Fig.4ではa’ の増大とともに合一が生じにくくなっている.したがって, 合一には曲率以外の要素が影響していると考えられる. なお,用いるステップ状せん断ひずみの大きさをさらに広 い範囲で変化させたときにはlov’/a’が1.48より小さくとも合一 が生じることもあり8),l ov’/a’だけですべての合一を整理する ことはできないが,いずれにせよFig.4の結果は重要である.
結
論
ステップ状せん断大変形を二つの液滴に加えた際の形状 回復を観察し,本論文の実験条件の範囲では,せん断面に垂 直方向から観察したときの液滴の重なり部分の長さlov’ と液 滴のみかけの半長軸の長さa’との比によって液滴の合一の有 無を整理できることを見いだした.謝
辞
本研究を始めるにあたり京都工芸繊維大学繊維学部,高橋 雅興教授より多くのご教示をいただきました.また,lov’/a’と 液滴間に働く力の関係について京都大学化学研究所,尾崎邦 宏教授よりたいへん有益なご指摘をいただきました.両先生 に厚く御礼申し上げます. 本研究の一部は泉科学技術振興財団研究助成(H12 - J - 84) により行われました.参 考 文 献
1) 久松徳郎,中野 哲,足立朋史,清水恒明,石川 優, 岩倉賢次,成形加工,12(5), 287(2000)2) Hisamatsu T, Nakano S, Adachi T, Ishikawa M, and Iwakura K, Polymer, 41, 4803 (2000).
3) Okamoto K, Hisamatsu T, Nakano S, Adachi T, Shimizu T, Ishikawa M, and Iwakura K, in preparation.
4) Taylor GI, Proc R Soc London, A138, 41 (1932); Taylor GI,
Proc R Soc London, A146, 501 (1934).
5) Tomotika S, Proc R Soc London, A150, 322 (1935); Elemans PHM, Hanssen JMH and Meijer HEH, J Rheol, 34, 1311 (1990).
6) Hayashi R, Takahashi M, Yamane H, Jinnai H, Watanabe H.,
Polymer, 42, 757 (2001) ; Graebling D, Muller R and Palierne
JF, Macromolecules, 26, 320 (1993).
7) Yamane H, Takahashi M, Hayashi R, Okamoto K, Kashihara H, and Masuda T, J Rheol, 42, 567-580 (1998).
8) 岩月繁典,岡本健三,石川 優,第 49 回レオロジー討 論会講演要旨集,193 (2001).