神戸常盤大学紀要 第2号 2010 54 − − 看護学領域で「その人らしさ」という言葉がよく使われているが、そもそも「その人らしさ」とはどういう ものであろうか? 「その人らしさ」とは一般的に、「その人固有の生活背景・歴史そのもの」だといわれている。そうであるな らば、その人自身ではない他者が「その人らしさ」について真に理解することはできるのか、すなわち他者で ある看護者の認識する「その人らしさ」がその人自身の認識する「自分らしさ」にどの程度一致できているの かという疑問が生じる。さらには、看護において「その人らしさを尊重する」「その人らしく生きることを支 援する」という文言を当たり前のように使っていることに対して、言葉だけが一人歩きをしているのではない かという懸念さえ生じる。そこで本研究は、看護において「その人らしさ」をどのような意味合いで使ってい るのかを明確にすることを目的とし、さらに、その過程をとおして看護者が「その人らしさ」をどのように理 解し得るのかについて検討を試みる。 本研究では、まず、「その人らしさ」について、言語辞典、その人らしさに関する書籍、研究論文を幅広く 検索・検討した。その結果、「その人らしさ」を見出しにしている言語辞典はなく、「その人らしさ」を主題と した書籍もなかった。しかし、研究論文では、「その人らしさ」を主題にした文献が僅かではあるがみられた。 そのうち、春木ら(2006)は、看護教員6名を対象とし「その人らしさ」を構成する5つの要素を明らかにし ているが、看護者が捉える「その人らしさ」の認識と主観的プロセスを分析したものであり、それらが、その 人自身の認識する「自分らしさ」とどの程度一致できているかについては検討されていない。 一方、検索・検討の過程で、心理学の分野において、「その人らしさ」や「個性」といったものを出発 点として「パーソナリティ」に関する研究が行われていることが判明した。また、イギリスの老年心理学 者 Kitwood が認知症ケアの分野において Person Centered Care という新たな概念を提示し、その中で Personhood という用語を用いているが、これを長谷川(2002)は、「その人らしさ」としていることも判明 した。 今後は、さらなる文献的検討や心理学的観点からの検討を進めるとともに、臨床で看護を実践する看護師と その看護の対象となる人びとに対する半構成的面接調査の結果を比較・検討するなどして、「その人らしさ」 に関する看護学的探究を続けていく予定である。
「その人らしさ」に関する看護学的検討
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