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クロマグロの漁獲枠配分の問題点:非定常な資源をどう配分するか?

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(1)保全生態学研究 (Japanese Journal of Conservation Ecology) 25 : 147-154 (2020) J-STAGE Advance published date: March 5, 2020 https://doi.org/10.18960/hozen.1912. 特 集 野生生物の管理ユニットと行政単位のギャップ 解 説. クロマグロの漁獲枠配分の問題点:非定常な資源をどう配分するか? 松田 裕之1,*・竹本 裕太1・田中 貴大2・森 宙久2 1. 横浜国立大学大学院環境情報学府 2 横浜国立大学理工学部. Conflict over the allocation of Pacific bluefin tuna quota in Japan: How to allocate the quota of fluctuating fishery resources Hiroyuki Matsuda1,*, Yuta Takemoto1, Takahiro Tanaka2 and Michihisa Mori2 1 Faculty. of Environment and Information Sciences, Yokohama National University 2 College. of Engineering Science, Yokohama National University. 要旨:クロマグロ Thunnus orientalis は、近年大きく資源が減った国際資源として国際的に厳しい漁獲枠制限が課され、 国内においてまき網や沿岸漁業などへの漁獲枠が割当てられている。その割当ての根拠が不明確であり、かつ一部地 域の定置網漁業で枠を大幅に超過していることが社会問題となっている。変動するクロマグロ資源の漁獲枠の配分方 法を精査し、確立する前に割当て配分が決まった。本稿では、厳しい漁獲枠の総量規制の根拠と、国内の配分枠の決 まり方とその問題点、今後の展望について論じる。現状のクロマグロの資源量が過去の資源量に対して激減している ことは国際合意である。2015-16 年生まれの加入量が多いことから、2017 年に日本も合意した。現状の変動するクロ マグロ資源の国内の捕獲枠の配分方法が不明確である。全体の漁獲金額を増やす合理的な配分方法として、低水準期 に沿岸を優先し、高水準期には沖合に多く配分する方法が考えられる。そこで、現在用いられている産卵親魚量より 合理的な繁殖ポテンシャルという資源量の指標を提案する。理論的には、捕獲枠の再配分を認めることで、総枠を守 りつつ、有効に利用することができる。   キーワード:沿岸漁業、漁獲可能量、コースの定理、資源変動、繁殖ポテンシャル Abstract: The abundance of Pacific bluefin tuna Thunnus orientalis has decreased markedly in recent years and is subject to strict international fishing quotas. The quotas for purse seine, coastal, and other fisheries are allocated domestically. The rules for domestic allocation are unclear and in some areas the set net fishery greatly exceeded the limit in the 2017/2018 season. The allocation was decided before the allocation method was agreed upon among stakeholders. In this paper, we discuss the grounds for strict quota limitation and how to determine domestic quotas, their problems, and future prospects. By international agreement, there has been a drastic decrease in comparison with the past stock abundance. Japan agreed to the strict catch limit because they expected more recruits to be born in 2015 and 2016. We propose a population reproductive potential that is defined as the sum of the reproductive values of all individuals as a more reasonable indicator of stock abundance than the spawning stock biomass that is used for international fisheries management. It is rational to prioritise coastal fisheries when the stock is low and to allocate more to offshore fisheries when the stock is high to increase the overall catch. In theory, allowing transfer of the catch quota will decrease the release of high-price tuna, while keeping the total quota. Keywords: Coase Theorem, coastal fisheries, population reproductive potential, stock fluctuation, total allowable catch * 〒 240-8501 神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台 79-7 横浜国立大学環境情報研究院 Faculty of Environment and Information Sciences, Yokohama National University, 79-7, Tokiwadai, Hodogayaku, Yokohama, Kanagawa 2408501, Japan e-mail: [email protected] 2019 年 4 月 15 日受付、2019 年 11 月 1 日受理、2020 年 3 月 5 日早期公開(J-STAGE). 147.

(2) 松田裕之・竹本裕太・田中貴大・森 宙久 き網漁業は魚群を探して能動的に獲る漁法であるのに対. はじめに. し、定置網漁業はマグロ類だけを狙った漁法ではなく、.   日 本 に お け る 漁 獲 可 能 量(TAC = Total Allowable. 魚のほうから入ってくるのを待つ漁法である。現状では. Catch)制度は、1994 年の国連海洋法条約発効を受けて. まき網でも小型魚も多く漁獲されている。また、魚体の. 1996 年に制定された国内法「海洋生物資源の保存及び. 保存状態から、定置網のほうが魚価が高い。. 管理に関する法律」により導入された。沿岸国は距岸お.  国内のクロマグロ小型魚の漁獲可能量が削減されたた. よそ 200 海里の排他的経済水域(EEZ)内の資源を排他. め、各地域各漁業の漁獲枠配分も厳しく削減された。漁. 的に利用できる代わりに、水産資源の乱獲を避けるため. 獲可能量は全国の漁獲可能量の合計であり、クロマグロ. に漁獲可能量を定める責務を負う。日本では 2018 年現. の場合、沖合の大中まき網などの大臣許可漁業、沿岸の. 在、サバ類、マイワシ Sardinops melanostictus、ズワイガ. 定置網など都道府県知事許可漁業に漁獲枠が配分され. ニ Chionoecetes opilio、サンマ Cololabis saira、スケトウ. る。去年の漁獲量実績よりも漁獲可能量が減れば、大臣. ダ ラ Theragra chalcogramma、 マ ア ジ Trachurus. 許可と各知事許可の漁獲枠が去年の実績を下回り、操業. japonicus、スルメイカ Todarodes pacificus、クロマグロ. 制限などの措置が必要になる。. Thunnus orientalis の 8 魚 種( た だ し マ サ バ Scomber.  このように漁獲可能量の割り当ては過去の漁獲実績と. japonics とゴマサバ S. australasicus はあわせて 1 魚種扱. 現在の親魚量を重視して配分されることが多いが、クロ. い)のみに漁獲可能量が指定されている。今まで、日本. マグロの全資源量は年変動が大きく、また空間的な季節. では多くの魚種で水産教育・研究機構が評価した生物学. 移動のパターンも海況によって年変動するため、繁殖ポ. 的許容漁獲量(ABC = Allowable Biological Catch)を超. テンシャルを利用して数年先を見越した全資源量の予測. える漁獲可能量が設定されていた。さらに、2011 年ま. を行いながら、ひとつの漁期内においても利害関係者が. では、実際の漁獲量も生物学的許容漁獲量を超えること. 合意可能な動的割り当て方法を開発する必要がある。. が多々あった。生物学的許容漁獲量は持続可能な漁獲量.  本稿では、クロマグロを例に、変動する資源の漁獲枠. の上限である。水産教育・研究機構は漁獲可能量対象種. 配分の問題点とそれを解決するために必要となるだろう. 以外でも生物学的許容漁獲量を評価しており、実際の漁. 理論を紹介する。. 獲量が水産教育・研究機構による生物学的許容漁獲量を 超えることがよくある。この事情のために、「政府が乱. 国際資源管理機関における資源評価の課題. 獲を容認する」と批判されていた(朝日新聞 2008 年 9 月 14 日付社説)。.  絶滅危惧種の判定基準については異論もあるが.  この中で、クロマグロは地域漁業管理機関(WCPFC) (Matsuda et al. 1997)、太平洋のクロマグロは 2014 年に により各国に漁獲枠が割り当てられている国際資源であ. IUCN により絶滅危惧種の第 2 ランク(EN)と判定され. る。近年の 0 歳魚の新規加入が好調であることを踏まえ、. ている。地域漁業機関である中西部太平洋まぐろ類委員. 2017 年には 2024 年までの資源量回復の中期目標が国際. 会(WCPFC)で合意した資源評価によれば、1960 年前. 的に合意され、それを達成するための厳しい漁獲量制限. 後の産卵親魚の資源量は 13 万トンと推定され、1984 年. が合意された。漁獲枠は体重 30 kg 以上の大型魚とそれ. には 1.1 万トン、2008 年には 1.2 万トンにまで減ったと. 未満の小型魚で別々に設定され、2002-04 年平均水準に. 推定された。推定誤差はあるだろうが、激減していると. 比べて、大型魚ではその漁獲水準を維持(日本の漁獲枠. いう認識は WCPFC で共有されている。. 4882 トン)、小型魚では半減させる(日本の漁獲枠 4007.  資源量の将来予測は親魚量だけでなく、未成魚量にも. トン)で合意された。. 左右される。ミナミマグロ Thunnus maccoyii では 1998.  2017 年のクロマグロの漁獲量は合計 13804 トンのう. 年に「2020 年までに 1980 年の資源量水準に回復させる」. ち日本、メキシコ、米国、韓国、台湾がそれぞれ 8148、. という 2020 年目標が地域漁業管理機関である CCSBT. 3643、855、743、415 トンを占め、1996 年から 2017 年. (みなみまぐろ保存委員会)によって国際合意された。. まで、日本の漁獲量が全体の 41%− 78%を占めている. 2000 年頃には親魚量が順調に回復しているように見え、. (中塚ほか 2019)。漁法別漁獲量(図 1)からわかるよう. 日本政府は 2020 年目標の達成は容易と考えたようであ. に、定置網漁業や曳き縄漁業、延縄漁業による漁獲より. る。しかし、齢構成を考慮すると、1993 年頃に生まれ. も、沖合漁業のうちのまき網漁業による漁獲が多い。ま. た未成魚が少なく、必ずしも楽観できないことが分かっ 148.

(3) 変動するクロマグロ資源の漁獲枠配分の問題点. 図 1.太平洋のクロマグロの漁法別漁獲量(ISC 資料より)。 Figure 1. Catch of Pacific bluefin tuna by fishing method (from ISC data).. た。通常の水産資源管理で用いられる産卵親魚量は未成 魚の情報を考慮しないが、繁殖ポテンシャル(Population Reproductive Potential、PRP)を用いれば、近い将来の産. ここで r は内的自然増加率、L t,a は以下のように表され. 卵親魚量の増加を事前に予測し、管理に役立てることが. る。. できる。産卵親魚量(Bt)は成魚の年齢別資源尾数 Nt,a (ISC 未発表)に年齢別成熟率 ma(ISC 2014)と体重 Wa(ISC 2016)をかけた成魚の資源量の総和のことであり、以下 の式であらわされる。. ただし、M a は自然死亡係数、F t,a は年 t、年齢 a の平均 漁獲死亡係数(ISC 2016)である。また、r を 0 とおき、 成魚の産卵数は体重に比例すると仮定した。r = 0 のと きの加入時の繁殖価は、水産資源学でよく用いられる指. ここで t は年、a は年齢を表す。ただしクロマグロの成. 標 で あ る「 加 入 当 た り 産 卵 量 」(SPR、Spawning per. 熟齢を 3 歳以上(ミナミマグロでは 8 歳)、最高齢を 20. recruitment)に一致する。. 歳(a_max = 20)と仮定した。なお、各変数の定義を表.  繁殖ポテンシャルとは未成魚を含めた年齢別資源尾数 に各年齢での繁殖価をかけた総和のことであり. 1 に示す。  各年齢の繁殖価 Rt,a は体重、成熟率 ma、a 歳までの生. (Katsukawa et al. 2002)、以下の式の P t であらわされる. 残率 Lt,a から以下のように求められる。. (Katsukawa et al. 2002) 。. 149.

(4) 松田裕之・竹本裕太・田中貴大・森 宙久 により異なり、繁殖価はその年の漁獲死亡係数を用いる. 表 1.各変数の定義。 Bt. 年 t の産卵親魚量. べきだが、過去はともかく、将来の漁獲死亡係数が不明. Ct,a 年 t,年齢 a の漁獲尾数. ならば近年生まれの個体の繁殖価は定義できない。そこ. d 経済的割引率 Ft,a 年 t,年齢 a の漁獲死亡係数 Ht,a 年 t,年齢 a の収穫価 Lt,a. 年 t,年齢 a までの生存率. ma. 年齢 a の成熟率. Ma. 年齢 a の自然死亡係数. で、人口学の簡易生命表のように、F t-a+i,i をその年の漁 獲死亡係数 F t,a で代用する場合、ある漁獲シナリオ、す なわち年に依らない齢別漁獲死亡係数{F a}で計算する 場合がある。ここでは中西部太平洋まぐろ類委員会 (Western and Central Pacific Fisheries Commission:. Nt,a 年 t,年齢 a の資源尾数 Pt 年 t の繁殖ポテンシャル. WCPFC)が評価基準としている 2002-2004 年の漁獲死 亡係数を比較対象として用いた。すなわち Ft-a+i,i = F2002-4,a. Rt,a 年 t,年齢 a の繁殖価 r 内的自然増加率 Va. 年齢 a の 1 尾あたり魚価. Wa. 年齢 a の体重. とみなした。クロマグロの産卵親魚量と繁殖ポテンシャ ルの推移を図 2 に示す。繁殖ポテンシャルの変動幅は産 卵親魚量ほど大きくはない。産卵親魚量が増加または減 少に転じるのに先んじて繁殖ポテンシャルの増減が起こ る。よって、繁殖ポテンシャルを指標にするほうがより 先を見こした管理が可能である。.  成魚はその年に産卵するだけでなく、翌年以後も生き ていれば産卵して次世代の資源量に貢献する。未成魚も、 その年の産卵には貢献しないが将来も生きていれば次世. 現在の国内捕獲枠の配分方法と 合理的な配分方法の提案. 代の資源量に貢献する。繁殖価は 1 尾あたりの次世代資.  全国の漁獲可能量が国際合意で決まったが、その日本. 源への貢献の指標であり、その資源全体の総和が繁殖ポ. 国内での配分方法については、残念ながらほとんど研究. テンシャルである。たとえば成魚の資源尾数が増えなく. 者の議論がないままに決められた。他国では個別漁獲割. ても未成魚の資源尾数が増えれば、将来の資源回復の可. 当量(IQ)制度が導入され、さらに割当量を漁業者同. 能性は高まる。これは産卵親魚量には反映されないが、. 士で取引する譲渡可能個別漁獲割当量制度(ITQ)があ. 繁殖ポテンシャルには反映される。. る国もある。他の国の割当量の決め方は、過去の実績に.  ミナミマグロの場合、1991 年頃に産卵親魚量は急激. 基づくか、競売する場合もある。. に回復しているがその後はいったん減少すると予測さ.  現在のクロマグロの漁獲枠は、おもに沿岸と沖合、小. れ、1991 年ころから繁殖ポテンシャルは一貫して堅実. 型魚と大型魚に分けられる。合理的な配分方法を検討す. な回復を示すと予測された(Mori et al. 2001)。2000 年. るにあたって、漁獲が資源に与える影響も、漁獲尾数. ころまでの産卵親魚量を用いると 2020 年目標は容易に. ΣCt,a や漁獲重量 ΣWa,C t,a でなく、漁獲物の繁殖価の合. 達成できるように思われ、日本は他国の合意のないまま. 計 ΣR t,a,C t,a で 評 価 で き る。 他 方、 利 益 は 漁 獲 重 量. に調査漁獲を実施して国際裁判に訴えられたが、繁殖ポ. ΣWa,C t,a または漁獲金額 ΣVa,C t,a で評価される。年齢と. テンシャルの回復はそれほど急激ではなく、2020 年目. 体重 Wa、繁殖価 R t,a、魚価 Va の関係は、概ね図 3 のよ. 標の達成は困難と予測された(Mori et al. 2001) 。その後、. うになる。魚価は夏に安く冬に高い。漁獲死亡係数を半. 実際に 2003 年に CCSBT は 2003 年に 2020 年目標が達. 年ごとに分けて考えれば、繁殖価も 1 歳ごとでなく各年. 成不可能であるという認識に至り、目標自体の見直し作. 齢の夏と冬で分けて定義できるが(Matsuda et al. 1994)、. 業に入った(黒田ほか 2015)。すなわち、産卵親魚量よ. その場合の繁殖価はクロマグロの場合でも産卵期に若干. りも繁殖ポテンシャルのほうが妥当な指標と考えられ. 高く冬に低い。資源への影響を抑えつつ利益を上げるに. る。2018 年のクロマグロの議論でも、産卵親魚量が好. は、Va/R a や Wa/R a が高い年齢と季節に獲るのが合理的. 転していないのに漁獲可能量を増やそうとする日本の主. である。小型魚、および夏に漁獲するのは効率が悪いこ. 張は不合理に見えるかもしれないが、繁殖ポテンシャル. とがわかる。ただし、畜養・養殖のための小型魚の生け. に好転の兆しがあったとすれば、繁殖ポテンシャルで評. 捕りは別である。その場合は天然資源への影響は獲った. 価すれば合意を得た可能性がある。 漁獲死亡係数は年. 時の繁殖価だが、体重や魚価は獲った時でなく、育てて 150.

(5) 変動するクロマグロ資源の漁獲枠配分の問題点. 図 2.クロマグロの産卵親魚量(SSB)と繁殖ポテンシャル(PRP)の年変動。 Figure 2. Annual variation in the spawning stock biomass (SSB) and population reproductive potential (PRP) of Pacific bluefin tuna.. 売る際の値になる。ただし、養殖中の死亡率、養殖の費. が多い。ところが、2017 年秋に北海道は定置網に許さ. 用を考慮することになるだろう。. れた小型魚の漁獲枠の 10 倍以上、鹿児島県は 4 倍以上.  持続可能性という制約の下での最適漁獲方針は、以下. 獲れてしまい、社会問題となった。加入量が環境に応じ. の収穫価を用いる(Matsuda et al. 1999) 。. て年変動するだけでなく、来遊場所は海流の蛇行などの 影響で予測不可能に大きく変化する。都道府県ごとの捕 獲枠を決めても、大幅な過不足が出ることは避けられな い。  定置網は多様な魚種を獲る受身の漁法であり、魚体の 痛みが少ないために魚価も比較的高いが、何が獲れるか. ただし δ は経済的割引率であり、先行論文では魚価 Va. なかなかわからない。他方、まき網は魚群探知機等でク. の代わりに体重 Wa を用いている。ここでは δ = 0 とする。. ロマグロの魚群を見つけて能動的に獲る。産卵期にも繁. なお、δ = 0 のときの加入年齢での漁獲重量を用いた収. 殖価は冬と大差ないが、魚価は安く、Va/Ra は低くなる。. 穫価は、水産資源学でよく用いられる「加入当たり漁獲.  定置網にクロマグロがたくさん入って漁獲枠を超過す. 量」(YPR、Yield per recruitment)に一致する。収穫価は. ると、操業自粛を求められる。クロマグロが主たる漁獲. 年齢 a で獲るのを見逃した個体が将来成長して漁獲され. 対象であれば操業を自粛すればよいが、他に獲りたい魚. る漁獲金額の期待値を表す。Va < H t,a ならば年齢 a では. 種がある場合、網に入ったクロマグロを放流することに. 獲らないほうがよい。図 3 に示す通り、3 歳魚以下で獲. なる。放流魚の生存率が低い恐れもあり、定置網漁業が. るのは効率が悪い。ただし、小型魚と大型魚の配分は国. 漁獲枠を超過した場合に、何らかの枠の再配分があるほ. 際的に決められており、それを変えるためには国際合意. うが、放流による資源の減耗を防ぐことができるだろう。. が必要である。.  漁獲枠を再配分または取引する場合、その取引に要す る手続き費用が十分安いならば、まき網は自分で獲るよ り高い値段で枠を売ることができ、結果として社会的に. 捕獲枠「取引き」の効果と課題. 効率的な漁獲が達成できる。.  実際には、このような全体の効率を考慮した漁獲枠配.  まき網漁業と定置網漁業によるクロマグロ 1 kg あた. 分ではなく、概ね過去の実績に基づいて配分されること. りの平均魚価をそれぞれ U p と U s とする。また、それ 151.

(6) 松田裕之・竹本裕太・田中貴大・森 宙久. 図 3.クロマグロの体重(Wa)、魚価(Va)、繁殖価(Ra)、2002-04 年の漁獲死亡係数(Fa)、収穫価(Ha)。 Figure 3 Pacific bluefin tuna body weight (Wa), fish price (Va), reproductive value (Ra), fishing mortality coefficient (Fa), and harvest value (Ha) in 2002–2004.. を得るためのまき網漁業の平均機会費用を c p とする。. 進んでいるが、漁業者の多くがこれを採用するのは時間. 定置網はクロマグロが主たる漁獲対象ではないので、機. がかかるだろう。. 会費用を 0 と仮定する。まき網から定置網への漁獲枠の.  国連食糧農業機構の「責任ある漁業のための行動規範」. 譲渡価格 T が、まき網自身が漁獲した場合の利益より. の 7.2.2 節 c には「生存漁業、小規模漁業及び沿岸小規. 低いならば、すなわち T < U p − c p ならば、譲渡はまき. 模漁業を含む漁業者の利益がされること」が明記されて. 網漁業者の不利益になる。幸い、同じ小型魚でも定置網. いる(FAO 1996)。この規範によれば、漁獲枠を予め多. のほうがまき網よりおおむね魚価が高い(Up < Us)から、. く沿岸漁業に確保するか、あるいは枠を超過した場合に. 譲渡額 T が Up − cp ≤ T ≤ Us ならば、まき網は譲渡する. クロマグロを放流せずに操業を続けることができるよう. ことで利益を得、定置網も放流するより枠を買うことで. な再配分措置を講じることを考慮すべきだろう。. 利益を得る。すなわち、Va/R a の高い漁法で獲る漁獲量.  ただし、2018 年に改正された漁業法においても、上. を制限することなく、Va/R a の低い漁法で獲る漁獲枠を. 記の行動規範が含まれているとは言えない。また、漁獲. 再配分することができる。. 枠の譲渡が推奨されるとは言いがたい。具体的には以下 の方策が有効と考えられる。2018 年春には、沖合漁業 は 1 月− 12 月、沿岸漁業は 7 月−翌年 6 月の期間での. 考 察. 漁獲量の合計を規制した。これでは調整が利きにくい沿 岸漁業が後手になっているので、順序を入れ替え、沿岸.  ただし、漁獲枠を取引する場合、その利益は定置網漁 業者でなく、漁獲枠を売ったまき網業者が得るかもしれ. 漁業は前年 7 月− 6 月、沖合漁業は 1 月− 12 月などと. ない。利益を誰がより多く享受するかは漁獲枠の配分方. 期間をずらして、漁獲量の合計を規制する。. 法と取引額による。これは公害問題等で「コース(Coase).  沿岸の漁獲量は道府県間で枠を超過した分を再配分. の定理」と呼ばれる(牧野 2013)。. し、かつ大量漁獲が生じないように操業を工夫し、全体.  また、受動的な漁獲の場合も、技術的に選別が可能な. で枠を守るよう努める。それでも超過した場合、沖合の. らば、Va/R a の低い小型魚は獲らないことが望ましい。. 漁獲枠を減らし、日本全体の漁獲量を漁獲可能量以下に. 網に入った小型マグロだけを選択的に逃がす技術開発も. 維持する。 152.

(7) 変動するクロマグロ資源の漁獲枠配分の問題点  沿岸の枠を超過した分のマグロの利益または沖合漁業. 比べて、誰も損をしないだろう。. が得るだろう利益(そのどちらか高いほう)を政府が「迷.  養殖用のヨコワの生け捕りは経済的に不効率とは言え. 惑料」として沿岸から徴収し、沖合漁業で枠を減らす漁. ない。しかし、天然種苗の活け込み漁獲尾数は 2011 年. 業者に政府が「補償金」として支払う。. の採捕実績に限られている。沿岸の漁獲量過剰がその枠.  資源が回復し、漁獲枠が大きく設定される時期には、. まで減らすことにはならないだろう。今回は資源に与え. おそらく定置網などの漁獲枠が余る。その枠をまき網漁. る影響と収益の関係で議論したが、経済学的には投資費. 業や曳き縄漁業が利用することができる。先に述べたよ. 用と収益の比率で議論することも可能である。. うに、取引きできるならば、取引きの際の手続き費用が 全体の利益を最適にすることと漁獲枠の配分は別問題に. 謝 辞. なる。必ずしも利益の高い漁業に優先的に配分する必要 はない。取引きにより利益の高い漁業に漁獲量が集中す.  本研究には ISC のデータを使わせていただいた。また、. るが、枠を超えて獲った利益は獲った者でなく、枠を譲. 2018 年 3 月の日本生態学会大会並びに日本水産学会大. った者が享受できる。取引手続き費用を考えるならば、. 会の参加者、本誌査読者に貴重な助言をいただいた。こ. 長期的に取引件数が少ない方法が合理的になるだろう。. の場を借りて感謝する。.  小型マグロの群れが大挙してくる場合は、海況などを 見ればある程度予測できるかもしれない。枠を超えそう. 引用文献. になってもずっと操業自粛する必要はなく、かかった後 で数日間自粛すれば、大量漁獲を避けられるかもしれな い。だが、魚価の低い沖合漁業のために沿岸漁業がせっ かくやってくるマグロを獲れないということは、当該漁 業者にとって負担が大きく、かつ、社会全体で見て効率 的とは言えないだろう。実際に 2017 年度(第 3 管理期間) の北海道では大量に来遊してしまい、クロマグロのため に操業自粛や捕獲枠を超過する事態を招いたのだから、 より丁寧な議論があってもよかったかもしれない。  上記は取引の手続き費用や係争解決の労力を無視した 議論である。おそらく、単純なルールほど取引手続き費 用は少ない。沿岸の枠を多くして低水準期にも漁獲量が 枠を超えないようにし、それでも超えたときには超えた 分のマグロの利益を返上し、逆に沿岸漁業が枠を満たさ ないときには、その枠を沖合に再配分すればよい。沿岸 と沖合の漁期をずらして集計することには、再配分を容 易にする利点があるともいえる。  上記では内的自然増加率 r と経済的割引率 δ を 0 と置 いたが、資源回復の数値目標が合意されているから、そ れを達成する増加率から r を設定することもできる。ま た、δ を実態経済に合わせ、年 3-5%などと置くことも できる。その場合はより若いうちに獲るよう最適解が移 動するが(Matsuda and Nishimori 2003)、大きな違いで はない。  経済的合理性のみならば、ITQ 制度のように売買によ って魚価の高い漁業の漁獲量を増やすことができるだろ うが、人間は必ずしも経済的合理性を追求しない。しか し、政府が上記のルールを決めれば、取引しない場合に 153. FAO [Food and Agriculture Organization of the United Nations] (1996) “Code of Conduct for Responsible Fisheries.” http://www.fao.org/3/a-v9878e.pdf, 2019年8月 10日確認 ISC [The International Scientific Committee for Tuna and Tuna-like Species in the North Pacific Ocean] (2014) “Stock assessment of bluefin tuna in the Pacific ocean in 2014. Report of the Pacific Bluefin Tuna Working Group.” http://isc.fra.go.jp/pdf/2014_Intercessional/Annex4_ Pacific_Bluefin_Assmt_Report_2014-June1-Final-Posting. pdf, 2019年2月10日確認 ISC (2016) 2016 Pacific Bluefin Tuna Stock Assessment. “Report of the Pacific Bluefin Tuna working group.” http:// isc.fra.go.jp/pdf/ISC16/ISC16_Annex_09_2016_Pacific_ Bluefin_Tuna_Stock_Assessment.pdf, 2019年9月29日確 認 Katsukawa T, Matsuda H, Matsumiya Y (2002) Population reproductive potential: Evaluation of long-term stock productivity. Fisheries Science, 68:1104-1110 黒田 啓行, 境 磨, 高橋 紀夫, 伊藤 智幸 (2015) TACを算定 する新しいアプローチ:ミナミマグロの管理方式の開 発と運用. 水産海洋研究, 79:297-307 牧野 光琢 (2013) 日本漁業の制度分析:漁業管理と生態 系保全. 恒星社厚生閣, 東京 Matsuda H, Mitani I, Asano K (1994) Impact factors of purse seine net and dip net fisheries on a chub mackerel population. Researches on Population Ecology, 36:201-207. https://doi.org/10.1007/BF02514936 Matsuda H, Nishimori K (2003) A size-structured model for stock rehabilitation program of an endemic overexploited bioresource. Fisheries Research, 60:223-236 Matsuda H, Yahara T, Uozumi Y (1997) Is the tuna critically.

(8) 松田裕之・竹本裕太・田中貴大・森 宙久 endangered? Extinction risk of a large and overexploited population. Ecological Research, 12:345-356. https://doi. org/10.1007/BF02529464 Matsuda H, Yamauchi A, Matsumiya Y, Yamakawa T (1999) Reproductive value, harvest value, impact multiplier as indicators for maximum sustainable fisheries. Environmental Economics and Policy Studies, 2:129-146 https://doi.org/10.1007/BF03353907 Mori M, Katsukawa T, Matsuda H (2001) Recovery Plan for the Exploited Species: Southern Bluefin Tuna. Population Ecology, 43:125-132. https://doi.org/10.1007/PL00012023 中塚 周哉, 福田 漠生, 西川 水晶, 田中 庸介 (2019) 「国際 漁業資源の現況 クロマグロ. 水産研究・教育機構」 http://kokushi.fra.go.jp/H30/H30_04.pdf, 2019年8月10日 確認. 154.

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Figure 1. Catch of Pacific bluefin tuna by fishing method (from ISC data).
Figure 2. Annual variation in the spawning stock biomass (SSB) and population reproductive potential (PRP) of Pacific bluefin tuna.
Figure 3 Pacific bluefin tuna body weight (W a ), fish price (V a ), reproductive value (R a ), fishing mortality coefficient (F a ),  and harvest value (H a ) in 2002–2004.

参照

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