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-南 徹弘先生の逝去を悼む
大阪大学 山田 一憲・中道 正之 日本動物心理学会で長年にわたり理事をお務めに なり,大阪大学名誉教授,元甲子園大学副学長,元 大阪成蹊短期大学学長であられた南 徹弘先生が, 2020年4月15日にご逝去されました。享年75でした。 鹿児島大学文理学部でマウスを対象とした条件情 緒反応に関する実験的研究をなされた後,サルを対 象とした比較行動学を志して1968年に大阪大学大学 院文学研究科心理学専攻に入学され,サル類の初期 行動発達と母子関係研究に従事されました。そこで 特に強い関心をもって進めておられた研究は,ニホ ンザルの常同行動の発現に関する発達研究でした。 飼育ニホンザルに生じる常同行動としては,指吸い や手足を用いて自分の身体を抱くといった自己指向 性の常同行動や,トンボ返りや床をぐるぐると回る といった移動性の常同行動があります。南先生は, 生起する常同行動の種類が母ザルとの分離のタイミ ングによって異なることを発見されました。通常の ニホンザルの子は,生後6カ月間は母ザルと密接な 身体接触を行い,授乳や移動は母ザルの体にしがみ つくことで行います。自己指向性の常同行動は,こ のような時期に母ザルと分離された子ザルにおいて 発現していました。南先生のご専門である比較行動 学では,それぞれの動物種はその生息環境に対して 異なる適応をしており,その種が持つ固有の形式で 環境に対して自発的に関わりわけると考えます。南 先生は,ニホンザルの子ザルにとって特別な意味を 持つ母ザルとの密接な身体接触の刺激が損なわれた 場合,その刺激の欠落を補うように,ニホンザルの 本来の行動とは異なる型の行動として自己指向性の 常同行動が発現したのだと指摘されました。動物福 祉の考え方が当たり前になった現在では,子ザルの 発達に対して不可逆的な影響をもたらす分離実験に 対して,強い批判がなされます。しかし当時は,常 同行動を含む飼育霊長類の異常行動の発現機序がま だ十分には明らかになっていませんでした。南先生 のこれらの研究は,生後初期の子ザルがその母ザル や同種個体と一緒に暮らすことの重要性を強く示す ものとなりました。 1978年に東京女子大学短期大学部に専任講師とし て着任された後は,筑波医学実験用霊長類センター において,飼育カニクイザルを対象とした母子関係 研究,先天性白内障子ザルの行動発達研究,薬理学 研究におけるサルの行動解析などをなされました。 南先生が霊長類センターでサルの行動観察をされる ことによって,飼育霊長類の適切な飼育環境を実証 的に評価することにも繋がったとうかがっています。 1985年に大阪大学人間科学部に着任された後は, サル類の行動研究に加えて,ヒト乳幼児を対象とし た比較発達心理学を新たに拓かれました。ヒト乳幼 児の行動発達研究においても,南先生は種特異的な 行動に注目するという比較行動学の視点を大切にさ れていました。直立二足歩行は,ヒト固有の行動で す。ヒトの子の多くが歩行能力を獲得する12カ月齢 頃に注目し,這行,つかまり立ち,伝い歩き,歩行 といった移動能力の変化が,どのような時期に,ど れくらいの頻度で生起するのかを個人差を含めて精 緻に解析されました。そしてこれらの移動能力の発 達的変化が,身体成長の変化,モノの操作,発声, 食行動,養育者との相互交渉といった他の行動とど のような関連があるのかを検討されました。南先生 のご研究では,それまで養育者から食事の介助を受 けていた子が,10カ月齢を過ぎる頃から,少しずつ 自分で食べ物を操作して食べようとすることが明ら かになっており,食の自立と移動能力の獲得との関 連性が議論されています。養育者が子に対して積極 的に食べ物を分け与えるのは,ヒトの大きな特徴で あって,近年では霊長類学においても注目されてい ます。食の介助というヒト固有の行動が,個体発達 の中でどのように変化していくのかに着目されたこ とは,先進的であるというだけでなく,系統発達の 影響を受けながら形づくられる個体発達の過程をと らえたいという南先生の強い信念を示すものであっ たと思います。 南先生が好んだ研究方法は,動物の自然な生活場 面に入り込んで,彼ら/彼女らの生活の中に頻繁に あらわれる「あたりまえの行動」を詳細に観察する というものでした。保育園や幼稚園で観察させてい ただく時は,設定保育場面よりも,子どもたちの行 動に制約の少ない「自由遊び場面」での観察を好ま れました。この姿勢は,行動が生起する背景の生態 学的妥当性を重視する立場に根ざしています。南先 生は指導教員として13名の研究者に博士号を与えて おられます。教え子の多くは,いまでは動物ではな く,ヒトを対象とした研究を行っていますが,比較 行動学に基づいた丁寧な定量的行動観察の手法は, 南研究室のお家芸として,これらの教え子に引き継 がれ,広く浸透しています。26