Author(s)
村上, 敬進 ; 柴田, 忠佳
Citation
沖縄大学法経学部紀要(28): 55-69
Issue Date
2018-03
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/22370
1.はじめに 喫煙防止教育及び飲酒防止教育の効果を検証した諸研究では、授業前後の受講者の理解を示 す代表値の増減を統計学的に検証することにより教育効果の存在を議論している。例えば、加濃 式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)1や沖協版社会的アルコール認識度調査票(OSACS) の各質問項目の授業前後の変化はWilcoxonの符号付き順位検定で検証し、授業前後のKTSND スコアやOSACSスコアは対応のあるt検定で検証する。これに対して本稿では、教育効果の低 下を今後の喫煙・飲酒意向の増加、CS(Customer Satisfaction)分析の優先的改善項目が存在 するかどうかで定義する。身近に喫煙者や飲酒者がいる場合、いない場合と比較して授業後の今 後の喫煙・飲酒意向が高くなり教育効果が低減する要因を検証する。更に、CS分析では、どの 講義品質が優先的改善項目に入るかにより教育効果の低減要因を考察する。 家族などの身近な人が喫煙者の場合、喫煙防止教育の効果が低減することが医学分野の喫煙防 止教育の先行研究において報告されている。遠藤他(2007)では、小学生を対象にKTSNDを用 いて喫煙防止教育を行い、家族に喫煙者がいる群といない群で各質問項目の数値が有意に異なる か検定した。その結果、質問7(ストレス解消の効果)について、喫煙者が家族にいる群の方が、 いない群よりも数値が有意に高かったことを報告している。その理由として、親の喫煙は子ども の心に刷り込みを起こすことを、先行研究を示して説明している。また横谷等(2012)では中学 生を対象にした喫煙防止教育のデータを用いてKTSNDスコアを従属変数、生徒の性別、学年、 父親の喫煙の有無、母親の喫煙の有無を独立変数として重回帰分析を行った結果、母親が喫煙し ている場合はKTSNDスコアの係数が統計学的に有意にプラスであったことを報告している。す なわち、喫煙をしている母がいる生徒の教育効果は低くなる。横谷等(2012)ではKTSNDスコ アの分析から、教育効果が無かった原因はタバコが身近にあることによって、喫煙を肯定的に見 【論文】
身近な人が喫煙者または飲酒者の場合の喫煙・
飲酒防止教育の効果
Effects of smoking and drinking prevention education on university students whose family members or friends are smokers or drinkers.
村 上 敬 進*
Akinobu MURAKAMI
柴 田 忠 佳**
Tadayoshi SHIBATA キーワード:喫煙防止教育、飲酒防止教育、CS 分析
る心理が作用したと結論付けている。更に、荻野等(2017)でも、大学初年次を対象にした喫煙 防止教育において、母親が喫煙している場合、KTSNDスコアが1.3有意に高かったことを報告し ている。その原因として、先行研究から女子学生の喫煙と母親の喫煙との間に強い関連が指摘さ れていることを可能性として挙げている。 身近な人が喫煙者の場合、教育効果が低下する理由の一つとして、遠藤他(2007)や横谷等(2012) が指摘した心理的な刷り込みが重要であろう(心理的な刷り込みによって教育効果が低下するこ とを本稿では刷り込み効果と定義する)。更に、本人が飲酒や喫煙のため依存症になったことに より、合理的判断が困難になり教育効果が低下することも、多くの研究で指摘されている2。し かし、教育効果の低下を説明する要因は刷り込み効果だけであろうか。喫煙・飲酒防止の授業に おいて煙草や飲酒によってもたらされる深刻な害が説明されれば、親の健康を心配するのが子ど もである。喫煙、飲酒している親の心配をしたいけれども、素直に心配できない心理的コストが、 教育効果を低減させている可能性を、本稿では理論とCS分析から検討し、刷り込み効果とデフォ ルト効果を区別して検証する。本稿では教育効果の低減を、今後の喫煙・飲酒意向が高くなるこ とやCS分析における優先的改善項目が存在することと定義している。この意味で本稿は遠藤他 (2007)、横谷等(2012)、荻野等(2017)のKTSNDスコアを用いた教育効果の低減分析とは異なる。 経済学の一分野である行動経済学の分野ではこの教育効果の低下をデフォルト効果として説明可 能である。デフォルト効果とは、デフォルトに従ってしまう惰性という人間の癖によってもたら される効果のことである。デフォルト効果を利用した行動経済学の代表的論文としてはThaler and Benartzi(2004)がある3。身近な人間関係に喫煙者がいる場合、喫煙防止教育の効果が無かっ たのは、初期設定の環境が、喫煙が日常の人間関係だからであると考えることができる。この喫 煙が当たり前の人間関係(初期設定)を変更するためには、かなり大きな心理的コストが発生する。 そのため、初期設定=タバコがあることが当たり前の人間関係が惰性で継続することが選択され るやすい(教育効果の低下)と説明できる。この場合、喫煙防止教育を合理的に実施しても、内 容は理解できるが感情的な抵抗(現状維持バイアス)が生じるはずである。非喫煙学生にとって の現状維持バイアスとは、喫煙防止教育の成果を受け入れることによって得られるリターン(家 族や友人の健康)よりも、それにより失う可能性のあるリスク(人間関係の悪化)に対して、過 剰に反応してしまう傾向のことである。この感情的な抵抗または現状維持バイアスを数値化して 把握することで、酒とタバコがある人間関係という状態がデフォルトの場合のデフォルト効果が どの程度発生しているかを示すことができる。刷り込み効果とデフォルト効果を区別し検証する ために順序プロビットとCS分析を導入する。 本稿の目的は次の2点である。第1に、本人が喫煙者でなくとも家族に喫煙者がいることによ り、授業後の今後の喫煙意向や飲酒意向が高くなるという意味で教育効果が低下する可能性を示 すだけでなく、デフォルト変更に対する心理的なコストと喫煙や飲酒に対して肯定的な感情を抱 いてしまう心理的な刷り込み効果を順序プロビット及びCS分析を用いて明らかにすることであ る。第2に、デフォルト変更のコスト(心理的コスト)を低下させ教育効果を高める提案を先行 研究に基づき行うことである。 本稿の構成は次の通りである。第2節では順序プロビット及びCS分析の概要を説明し、デフォ ルト効果、刷り込み効果をどのように区別するか説明する。第3節では教育効果がどのような要
因で低下するかを調べるために順序プロビットを用いて分析している。第4節ではCS分析を行 い、第3節の分析も考慮して教育効果低下の要因を整理した。第5節はデフォルト変更のコスト を低下させるための政策を先行研究に基づき調査した。第6節が本稿の結論である。 2.刷り込み効果とデフォルト効果の検証(順序プロビット及びCS分析の概要) 授業後に今後の禁煙意向または禁酒意向を7件法で質問している(7がタバコを吸わない、酒 を飲まない)。今後の禁煙意向、禁酒意向を被説明変数とし、喫煙者ダミー(父ダミー、母ダミー 等)、受講前後のKTSNDスコア、満足度(7件法)等を説明変数とし、順序プロビットで推計 する。父ダミーの係数の符号が負で統計学的に有意ならば、喫煙する父の存在が今後の喫煙意向 を高めるため、父からの刷り込みがあったと解釈できる。更に、説明変数に授業前のKTSNDス コアやOSACSスコアの10個の個別の質問を入れて推計することで、講義後の喫煙意向や飲酒意 向が講義前の思考から影響を受けているかどうか(刷り込み効果があったかどうか)検証できる。 例えば授業前質問9番の医者が騒ぎすぎの係数が負で有意ならば、授業前の理解度が低く3に近 いほど喫煙意向が高まる(7段階評価の数値が低くなる)ことを意味するため、受講前の考え方 に受講後の考えが引きずられたことになる。もし統計学的に有意な項目が一つもなければ、刷り 込み効果は無かったと解釈できる。次にデフォルト効果の検証方法としてCS分析を説明する。 CS分析とは、どの品質を改善すれば、総合満足度を高めることができるかを調べるマーケティ ング分野から発達した分析方法である4。具体的な分析方法は以下の通りである。第1に、サー ビスの利用者に対して、総合満足度(サービスや商品の総合評価)と個別の満足度(個別品質の 評価)を5段階または7段階で調査をする。第2に、個別品質の満足度について満足率を計算す る。例えば、7段階評価の場合、6と7を回答した件数/全回答数を満足率と定義する。第3に、 各品質の満足率と総合満足度の相関係数を求める。第4に、満足率と相関係数を偏差値に変換す る。第5に、満足率を縦軸に、横軸に相関係数を取り、散布図を作成する。満足率が低く、総合 満足度との関連が強い品質は散布図の右下(第4象限)に位置することになる。右下に位置する 品質ほど(満足率が低く総合満足度との関連が強い品質ほど)、サービスの利用者が満足できて いないが、もしこの品質を改善出来たら、総合満足度が高まる可能性がある。第4象限に位置す るサービスの品質項目は優先的改善項目と呼ばれている。優先的改善度(右下に位置するほど優 先的改善度が高い)を計算することで、サービスの利用者の総合満足度により大きな影響を及ぼ す不満足さを数値化できるのである5。 本稿の分析の場合、個別品質の満足度として次の8個を取り上げている。配布した資料の満足 度、講師の話し方の満足度、講義時間の満足度、健康や寿命についての説明の満足度、依存症の 説明についての満足度、嗜好品の説明の満足度、行政からの規制の説明についての満足度、先生 になった際の参考になったかどうか、以上の8つである6。 もしデフォルト効果が刷り込み効果よりも優勢であれば、講義内容の理解はできるが、喫煙が日 常の人間関係を惰性で維持したいという現状維持バイアスが喫煙防止教育の受講者に強く働くであ ろう。この場合、余計なことをしないで欲しいという気持ちから、特に講義自体の満足を低下させ るはずである。具体的には配布資料の満足度、話し方の満足度、講義時間の満足度を大きく低下させ、 なおかつ不満が強いため総合満足度との関連も強くなり、優先的改善項目になる可能性が高い。
もし刷り込み効果がデフォルト効果より優勢ならば、喫煙や飲酒に対する肯定意識から、依存 症の説明、嗜好品の説明、行政からの規制の説明に納得がいかず満足度が低下し不満が強くなる であろう。従って、刷り込み効果の場合は、依存症、嗜好品、規制の項目が優先的改善項目にな るであろう。デフォルト効果と刷り込み効果の両方が作用していれば、第4象限に講義そのもの に対する不満と依存症や嗜好品に対する説明の不満が出現するであろう。 3.教育効果の低下の要因分析 3-1.対象と方法 小学校の教員志望の学生を含むA大学103名の学生を対象に、喫煙防止教育と飲酒防止教育を 同時に行った。講義内容は、単に知識を与えるだけでなく、学生が将来教員または指導者になる という前提の基に、喫煙防止と飲酒防止に関する課題を提示し、それらについて自分が教える立 場であれば、どのように表現するかということを学生に発表させるという参加型の形態で行った。 講義の前後に、喫煙防止教育については加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)及び飲 酒防止教育については沖協版社会的アルコール認識度調査票(OSACS)を使用し教育効果を検証 した。更に講義後に満足度調査も行った。統計解析の方法は順序プロビット及びCS分析である。順 序プロビットにはStata15(StataCorp LLC)、CS分析にはEXCEL統計Ver.7.0(株式会社エスミ) を用いた。 3-2.順序プロビットによる刷り込み効果の検証 タバコのケース 表1の推計1より、授業後の今後の喫煙意向(7段階評価 1非常に吸いたいと思う、7全く 吸いたいと思わない)に対して、本人が喫煙の場合、友人が喫煙の場合に有意な結果が得られた。 係数の符号が負のため、本人が喫煙者の場合、友人が喫煙者の場合、今後の喫煙意向が高まるこ とを示す。すなわち、身近に喫煙者がいる場合、喫煙意向が高まるという意味で教育効果が低減 しているのである。身近な人が吸うから自分も吸いたいという刷り込み効果の存在可能性を示す ことができた。表1の推計2では、KTSNDスコアの個別質問項目を用いて推計している。授業 前質問⑴(喫煙自体が病気)と授業後のスコアのみ有意であった。ところが授業前質問⑴の符号 は正である。理解度が高まると喫煙意向が高まるという解釈不能な結果になった。この要因とし て、今回の調査では喫煙意向は7件法であったが、実際の回答された選択肢は、1、4、5、7 であり、更に、選択肢7が回答のほとんどを占めていたことが考えられる。データの分布が極端 に偏っているため、正確な推計ができていない可能性がある。授業後のKTSNDスコアが低くな ると(総合的な理解度が高まると)、今後の喫煙意向は低まる(7に近くなる)ということであり、 こちらは想定された結果となった。本稿では喫煙している友人に回答が引きずられているという 意味で刷り込み効果の存在可能性を示すことができた。 プロビットやロジットモデルの係数の符号は、説明変数が被説明変数に正(負)の影響を与え ていることを示すことができるが、係数の大きさから被説明変数への影響の程度を示すことはで きない。そこで、限界効果を推定したものが表2である。表2より、本人の喫煙は今後喫煙意向 の回答7(今後喫煙しない)を選択する確率を9.9ポイント減少させることがわかる。友人が喫 煙する場合、回答7を選択する確率が8.8ポイント減少する。影響の大きさは本人が喫煙者の時
とほぼ同じであることが分かる。友人の影響が大きいという結果が得られた。その他には、講義 後のスコアが1単位低下すると(理解度が限界単位上昇すると)、今後喫煙意向の回答7を選択 する確率が1.4ポイント増加することもわかる。 横谷等(2012)や荻野等(2017)では、KTSNDスコアを低下させるという意味で母の喫煙が 教育効果を低下させると報告しているが、本稿では友人に喫煙者がいる場合、喫煙を肯定し、今 後の喫煙意向に影響を及ぼす可能性を示すことができた。 一方で、本稿と同様に今後の喫煙意向を被説明変数としてロジスティック回帰分析を用いた研 究に原・田中(2013)がある。原・田中(2013)の研究において、喫煙防止教育後の将来の喫煙 意向の質問に対して肯定的な回答と有意な関連があったのは、男児、受動喫煙あり、喫煙経験あ り、喫煙願望あり、講義前のKTSNDスコア合計値が1以上、受講者数である。誰が喫煙してい るかではなく受動喫煙の環境が喫煙願望に結びつき、刷り込み効果によって喫煙に対する肯定感 が生じることを示している。 表1 順序プロビットモデル 被説明変数 今後の喫煙意向(7段階評価 7が喫煙しない) 推計1 推計2 係数 Z値 P値 判定 係数 Z値 P値 判定 本 人 喫 煙 -1.955 -2.340 0.019** 父 喫 煙 -1.334 -1.460 0.144 母 喫 煙 -1.411 -0.750 0.454 祖 父 母 喫 煙 -2.159 -1.570 0.115 配 偶 者 喫 煙 兄 弟 姉 妹 喫 煙 -1.231 -1.060 0.290 友 人 喫 煙 -1.750 -1.880 0.060* そ の 他 喫 煙 -0.431 -0.360 0.717 授 業 前 質 問 ⑴ 0.665 1.670 0.095* 授 業 前 質 問 ⑵ -0.169 -0.410 0.680 授 業 前 質 問 ⑶ 0.297 0.700 0.486 授 業 前 質 問 ⑷ -0.484 -1.340 0.182 授 業 前 質 問 ⑸ 0.117 0.220 0.828 授 業 前 質 問 ⑹ 0.030 0.100 0.923 授 業 前 質 問 ⑺ 0.199 0.480 0.631 授 業 前 質 問 ⑻ -0.572 -1.540 0.123 授 業 前 質 問 ⑼ 0.311 0.640 0.520 授 業 前 質 問 ⑽ -0.229 -0.540 0.591 講 義 前 ス コ ア -0.099 -0.760 0.450 講 義 後 ス コ ア -0.007 -0.090 0.931 -0.160 -2.360 0.018** 総 合 満 足 度 -0.471 -1.100 0.271 サンプルサイズ 88 88 対 数 尤 度 -11.486 -19.656 擬 似 決 定 係 数 0.629 0.365 尤 度 比 検 定 χ2乗値(自由度) 38.920 (10) 0.000** 22.580 (11) 0.020** 注1 *** は1%水準、** は5%水準、* は10%水準で有意であることを表す7 。 注2 今後の喫煙意向は7、5、4、1の選択肢のみ回答があった。
3-3.順序プロビットによる刷り込み効果の検証 酒のケース 次に、飲酒防止教育の効果についても授業後の今後飲酒意向を被説明変数にして分析したもの が表3である。表3を見ると、推計3では本人が飲酒の場合、父が飲酒している場合、講義前と 後のスコアで有意な結果が得られている。酒の場合、父の影響によって飲酒を肯定的に考える傾 向が観察された。推計4では講義前質問9番(医者は飲酒の害を騒ぎすぎる)と講義後スコアで 有意な結果になった。講義前に医者は騒ぎすぎであると考えている受講者ほど講義後の飲酒意向 が高いということであり、講義前の思考が講義後の飲酒意向に影響を及ぼしている。表3では父 が飲酒している場合、刷り込み効果が存在している可能性が高いことが示された。 タバコのケースと同様に限界効果を推計したものが表4である。本人が飲酒する場合、今後の 飲酒意向の回答7(今後飲酒しない)を選択する確率が14.3ポイント低下することがわかる。父 が飲酒者の場合、回答7を選択する確率を13.1ポイント低下させることもわかる。更に、講義前 質問9の回答が1単位上昇すると、今後飲酒意向7を選択する確率が13.3ポイント低下する。父 が飲酒する場合や講義前の思考に刷り込み効果が作用する場合、今後の飲酒意向に及ぼす影響は 本人が飲酒するときとほぼ同じ大きさであることがわかる。父以外が飲酒者の場合は、P値や限 界効果の大きさを見る限り、刷り込み効果は作用していない可能性が高い。 表2 限界効果の推計 タバコケース 推計1の限界効果 今後喫煙意向 推計2の限界効果 今後喫煙意向 1 4 5 7 1 4 5 7 本 人 喫 煙 0.005 0.051* 0.043 -0.099** 父 喫 煙 0.003 0.035 0.029 -0.067 母 喫 煙 0.004 0.037 0.031 -0.071 祖 父 母 喫 煙 0.006 0.056 0.047 -0.109 配 偶 者 喫 煙 兄 弟 姉 妹 喫 煙 0.003 0.032 0.027 -0.062 友 人 喫 煙 0.004 0.046 0.038 -0.088* そ の 他 喫 煙 0.001 0.011 0.009 -0.022 授 業 前 質 問 ⑴ -0.012 -0.026 -0.022 0.059* 授 業 前 質 問 ⑵ 0.003 0.007 0.006 -0.015 授 業 前 質 問 ⑶ -0.005 -0.012 -0.010 0.027 授 業 前 質 問 ⑷ 0.008 0.019 0.016 -0.043 授 業 前 質 問 ⑸ -0.002 -0.005 -0.004 0.010 授 業 前 質 問 ⑹ -0.001 -0.001 -0.001 0.003 授 業 前 質 問 ⑺ -0.003 -0.008 -0.007 0.018 授 業 前 質 問 ⑻ 0.010 0.022 0.019 -0.051 授 業 前 質 問 ⑼ -0.005 -0.012 -0.010 0.028 授 業 前 質 問 ⑽ 0.004 0.009 0.008 -0.020 講 義 前 ス コ ア 0.000 0.003 0.002 -0.005 講 義 後 ス コ ア 0.000 0.000 0.000 0.000 0.003 0.006* 0.005 -0.014** 総 合 満 足 度 0.001 0.012 0.010 -0.024 注 ***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを表す。
表3 順序プロビットモデル 被説明変数 今後の飲酒意向(7段階評価 7が喫煙しない) 推計3 推計4 係数 Z値 P値 判定 係数 Z値 P値 判定 本 人 飲 酒 -0.656 -2.380 0.017** 父 飲 酒 -0.599 -1.740 0.082* 母 飲 酒 -0.123 -0.460 0.644 祖 父 母 飲 酒 -0.187 -0.670 0.503 配 偶 者 飲 酒 0.961 1.110 0.266 兄 弟 姉 妹 飲 酒 0.250 0.950 0.342 友 人 飲 酒 -0.392 -1.520 0.129 そ の 他 飲 酒 0.317 0.740 0.460 授 業 前 質 問 ⑴ 0.004 0.030 0.977 授 業 前 質 問 ⑵ -0.189 -1.110 0.266 授 業 前 質 問 ⑶ 0.161 0.940 0.346 授 業 前 質 問 ⑷ -0.037 -0.210 0.836 授 業 前 質 問 ⑸ -0.297 -1.360 0.175 授 業 前 質 問 ⑹ -0.212 -1.430 0.153 授 業 前 質 問 ⑺ 0.133 0.780 0.438 授 業 前 質 問 ⑻ -0.035 -0.260 0.795 授 業 前 質 問 ⑼ -0.571 -3.100 0.002*** 授 業 前 質 問 ⑽ 0.373 1.470 0.143 講 義 前 ス コ ア -0.074 -1.870 0.061* 講 義 後 ス コ ア -0.090 -2.780 0.006*** -0.079 -2.520 0.012** 総 合 満 足 度 -0.037 -0.350 0.723 サンプルサイズ 88 88 対 数 尤 度 -129.998 -132.223 擬 似 決 定 係 数 0.178 0.164 尤 度 比 検 定 χ2乗値(自由度) 56.254 (11) 0.000*** 51.800 (11) 0.000*** 注 *** は1%水準、** は5%水準、* は10%水準で有意であることを表す。
4.CS分析によるデフォルト効果の検証 第4節ではデフォルト効果を検証する。図1では学生本人も家族や友人も非喫煙者の場合の CS分析の結果である。総合満足度と強く結びつく不満が存在しないため、第4象限は空欄であ る。図2は本人非喫煙者、周りに喫煙者がいるカテゴリーでCS分析を行った。表1で見たよう に、喫煙のケースでは父や母からの刷り込み効果を確認することはできなかった。そのため、確 かに総合満足度と強く結びつく不満はあるが、その不満は講義そのものに対する不満であること が分かる(第4象限に講師の話し方、配布資料が入る)。刷り込み効果は無いため、規制、依存症、 嗜好品についての説明には満足している(第4象限に入らない)。優先的改善項目に入るのは講 義自体の品質のみであることが明らかになった。 図3と図4は周りの喫煙者を父と父以外に分けてCS分析を行っている。表1より父の刷り込 み効果は確認されなかった。そのため図4の第4象限には規制、依存症、嗜好品についての不満 は出現していない。その代わりに、周りの喫煙者が父だけのグループでは、優先的改善項目に講 義品質3点すべてが入っている。煙草がデフォルトの家庭環境で、お父さんに喫煙防止教育の成 果を伝えて禁煙をお願いするのは難しいため、講義自体に不満が表出していることが示された。 父が喫煙している受講者は、家庭内に喫煙者がいる人間関係を変更するコストが大きいため、授 業そのものの品質が第4象限に3つ登場し、優先的改善項目になっていることが明らかになった。 デフォルト(喫煙者が周りにいるという人間関係)を変更するコストが大きければ大きいほど、 講義そのものへの不満が第4象限に出現することになる。 表1では友人の喫煙が今後の喫煙意向に影響を及ぼしていた。友人の喫煙が刷り込み効果をも 表4 限界効果の推計 酒ケース 推計3の限界効果 今後飲酒意向 推計4の限界効果 今後飲酒意向 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 本 人 飲 酒 0.052 0.082** 0.036** 0.005 -0.023* -0.009 -0.143** 父 飲 酒 0.048 0.075 0.033 0.004 -0.021 -0.009 -0.131* 母 飲 酒 0.010 0.015 0.007 0.001 -0.004 -0.002 -0.027 祖 父 母 飲 酒 0.015 0.023 0.010 0.001 -0.006 -0.003 -0.041 配 偶 者 飲 酒 -0.077 -0.120 -0.053 -0.007 0.033 0.014 0.210 兄弟姉妹飲酒 -0.020 -0.031 -0.014 -0.002 0.009 0.004 0.054 友 人 飲 酒 0.031 0.049 0.022 0.003 -0.014 -0.006 -0.086 そ の 他 飲 酒 -0.025 -0.040 -0.017 -0.002 0.011 0.005 0.069 授業前質問⑴ 0.000 -0.001 0.000 0.000 0.000 0.000 0.001 授業前質問⑵ 0.015 0.023 0.012 0.003 -0.006 -0.003 -0.044 授業前質問⑶ -0.012 -0.020 -0.011 -0.003 0.006 0.002 0.038 授業前質問⑷ 0.003 0.005 0.002 0.001 -0.001 -0.001 -0.009 授業前質問⑸ 0.023 0.037 0.019 0.005 -0.010 -0.004 -0.069 授業前質問⑹ 0.016 0.026 0.014 0.004 -0.007 -0.003 -0.050 授業前質問⑺ -0.010 -0.016 -0.009 -0.002 0.005 0.002 0.031 授業前質問⑻ 0.003 0.004 0.002 0.001 -0.001 -0.001 -0.008 授業前質問⑼ 0.044** 0.071*** 0.037** 0.010 -0.02** -0.009 -0.133*** 授業前質問⑽ -0.029 -0.046 -0.024 -0.006 0.013 0.006 0.087 講義前スコア 0.006* 0.009* 0.004 0.001 -0.003 -0.001 -0.016* 講義後スコア 0.007** 0.011** 0.005** 0.001 -0.003* -0.001 -0.02*** 0.006** 0.01** 0.005** 0.001 -0.003* -0.001 -0.019** 総 合 満 足 度 0.003 0.005 0.002 0.000 -0.001 -0.001 -0.008 注 *** は1%水準、** は5%水準、* は10%水準で有意であることを表す。
たらしていたのである。この状況をCS分析で確認したものが図5である。第4象限の優先的改 善項目に嗜好品についての説明の不満、行政からの規制についての説明の不満が出現している。 仲の良い友人からの影響が喫煙を肯定する考えに繋がることを示すことができた。 図1 本人も周りも非喫煙者の場合のCS分析 n=28 図2 本人非喫煙、周囲に喫煙者有り n=61
図3 本人非喫煙、父以外が喫煙 n=32
次に酒のケースで同様にCS分析を行う。表3の推計3では本人が飲酒の場合、父が飲酒して いる場合、講義後のスコアで有意な結果が得られていた。父が飲酒している場合、刷り込み効果 が存在している可能性が高い。本人が非飲酒者、父が飲酒者のグループでCS分析を行った図7 から、父が飲酒の場合、講義自体の品質ではなく、嗜好品についての説明、行政からの規制につ いての説明に対して不満を感じ、しかも総合満足度との関連も強くなっている。タバコの場合と は違い、酒の場合では、父の飲酒による刷り込み効果が働いているため飲酒に対する肯定感が強 くなり、規制や嗜好品に対する説明に納得できず、不満が強まっていることがCS分析から明ら かになった。図6は父以外の飲酒者のケースである。父以外の飲酒は今後の飲酒意向に影響を及 ぼさなかった。すなわち、刷り込み効果は確認されなかった。そのため、優先的改善項目に講義 図5 本人非喫煙、友人喫煙 n=22 図6 本人非飲酒、父以外が飲酒 n=8
自体の品質が入っており、デフォルト変更のコストが大きいため講義自身に対して不満が表出し ている可能性を示すことができた。 5.デフォルト変更のコストを低下させる方法 デフォルト変更のコストを低下させ喫煙防止教育の効果を発揮させるためには、人間関係を変 更する(父や親しい友人に禁煙や禁酒を実行してもらう)心理的コストを低下させなければなら ない。そのための方法としてpeerサポートや家族によるサポートがある。Campbell et al. (2008) では、同級生に影響力をもつ生徒が教室外で友人に喫煙しないよう働きかける喫煙予防プログラ ム(ASSISTプログラム)の有効性を、イギリスの中学校の生徒1万730名(59校)を対象にラ ンダム化比較試験を行い実証した。このプログラムでは教室外でのインフォーマルな交流の際に、 喫煙しないように友人に働きかける支援者として行動できる生徒を養成した。つまりpeerサポー トにより、周りに喫煙者が多かった人間関係を変更するコスト(ここでは自分も友人も含め禁煙 するコスト)が低下し、中学生の喫煙防止に効果を発揮したのである。Campbell et al. (2008)は、 このプログラムを継続的に繰り返せば、学校全体の喫煙行動に対する文化的規範に影響を及ぼす ことが可能であると述べている。すなわち、すなわち、本稿の言葉で言えば、喫煙の人間関係が デフォルトである状態を変更できるのである。デフォルトを変更することで、ナッジが作用し、 受講者の教育効果を高めることができると考えられる。 本稿ではpeerサポートの理論的根拠を行動経済学(デフォルト変更のコスト、ナッジ)に求め たが、Westmaas and Bauer(2010)では、peerサポートや家族によるサポートを含むより広義 のソーシャル・サポートの根拠を心理学に求めている。Westmaas and Bauer(2010)ではソー シャル・サポートの役割を、禁煙対象者の感情面でのサポート、情報提供面でのサポート、物的 なサポート(健康保険、ニコチンパッチの提供など)の3点であると言及している。更に、peer サポートの実証研究上の根拠を整理するために4つのランダム化比較試験の論文をサーヴェイし
ている。その結果、よく訓練されたpeerサポート体制は、少なくとも3か月程度の短期間では禁 煙率を上昇させると結論付けている。
更に、デフォルトの変更がナッジの役割を果たし、病院での禁煙治療がスムーズに行われる ことを検討した諸研究を整理したものとして、Richter and Ellerbeck(2014)がある。Richter and Ellerbeck(2014)では、初期治療段階のガイドラインの問題を提起している。現在多く採 用されている禁煙治療を望む患者にのみ禁煙のための医療サービスを提供できるオプト・インタ イプの意思表示は、全ての喫煙者へ禁煙治療を提供するための障壁になっている。そのため、タ バコ治療の初期設定をオプト・イン(承諾する治療)からオプト・アウト(拒否できる治療)に 変更すべきだと主張している。デフォルトを変更すること(オプト・アウト)は意思が曖昧な喫 煙者に治療を受けるためのナッジになると述べている8。 6.結論及び残された課題 本稿では喫煙防止教育および飲酒防止教育の効果について、デフォルト効果と刷り込み効果に 分けて分析を行った。刷り込み効果は喫煙や飲酒を肯定的にとらえるようになり、今後の喫煙ま たは飲酒意向に影響を与えてしまうことを順序プロビットにより確認できた。更に、この2つの 効果をCS分析を用いて視覚的、定量的にも把握することが可能になった。 デフォルト変更のコストを考慮したより効果的な喫煙防止教育の提案として次のような方法が 考えられる。児童、生徒、学生だけで受講してもらうのではなく、事前調査において父母が喫煙 している場合、父母も参加し子供たちと考えて喫煙に関する影響の学習、禁煙に向けてのサポー トの利用方法を学習できれば、喫煙がデフォルトの人間関係による教育効果の低下を防止できる と期待できる。 本稿の残された課題として次の4点が考えられる。第1に、サンプルサイズの問題である。順 序プロビットによる分析でも、CS分析でも、サンプルサイズが少なかった。サンプルサイズを 増やして再分析する必要がある。第2に、刷り込み効果は講義品質により低減できないかの検証 を行う必要がある。ナッジを働かせた講義を工夫すること、政府による喫煙や飲酒の諸問題の規 制については経済学の外部性や社会的費用をわかりやすく授業に取り入れることによって、刷り 込み効果をどの程度削減できるかを検証する必要がある。第3に、禁煙や禁酒の失敗は時間割引 率で説明が可能である。時間割引率も調査し、双曲割引群、指数割引く群などでグループ分けを 行いCS分析することによって、新しい知見が得られる可能性がある。最後に、デフォルト効果 をCS分析によらない方法で直接推計できるように適切な質問を調査票に加える必要がある。そ うすれば、回帰分析で刷り込み効果とデフォルト効果の両方を同時に推計可能になる。 参考文献 遠藤明・加濃正人・吉井千春・相沢政明・磯村毅・国友史雄「小学校高学年生の喫煙に対する認 識と禁煙教育の効果」『日本禁煙学会雑誌』第2巻第1号,pp.10-12. 大鳥徹・井上知美・細見光一・中川博之・高島敬子・近藤尚美・高田亜美・伊藤栄次・中山隆志・ 和田哲幸・石渡俊二・前川智弘・船上仁範・中村真也・窪田愛恵・平出敦・松山賢治・西田 升三(2016)「CS分析(Customer Satisfaction analysis)による薬剤師のためのフィジカ
ルアセスメント講習会の評価と改善」『社会薬学』第35巻 第2号,pp.94-101. 荻野大助・大見広規・メドウズマーチン(2017)「大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査」 『日本禁煙学会雑誌』 第12巻 第1号,pp.4-11. 栗原智香・青森達・鈴木小夜・高木彰紀・大塚尚子・地引綾・中村智徳(2017)「事前学習お よび薬局実習におけるOTC実習の問題点と満足度向上のための提案」『薬学教育』第1巻, pp.1-8. 原めぐみ・田中恵太朗(2013)「喫煙・受動喫煙状況、喫煙に対する意識および喫煙防止教育の 効果 佐賀県の小学校6年生の153校7,585人を対象として」『日本公衛誌』第60巻 第8号, pp.444-452. 横谷省治・堤円香・高屋敷明由美・中村明澄・阪本直人・前野貴美・前野哲博(2012)「中学生 の喫煙に対する認識に及ぼす父母の喫煙の影響」『日本プライマリ・ケア連合学会誌』第35 巻 第1号,pp.23-26.
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2 教育効果が得られないことを説明する経済学上の仮説として合理的中毒論がある。合理的中毒 論では、中毒財も含めた消費による効用最大化問題として喫煙行動を説明する。Becker(1988) がその代表である。合理的中毒者は、タバコを吸う際の満足感などの利益と健康への害など将 来的な不利益をすべて合理的に考えた上で効用最大化の観点から喫煙を選択することになる。 このような場合、禁煙教育を行っても有意な効果を得ることはできない可能性がある。 3 医療の分野でデフォルト効果を応用した代表的な研究に臓器提供希望者の割合を研究した
Johnson and Goldstein (2003)がある。臓器移植の提供を承諾したい場合に意思表示する設
計のオプト・イン(初期設定は拒否)、初期設定として臓器移植を承諾することになっており 拒否したい場合に意思表示する設計のオプト・アウト、この2つの臓器移植シートの効果を比 較すると、明らかにオプト・アウトの臓器移植シートの方が提供希望者の割合が高くなること が明らかになっている。 4 教育分野にCS分析を適用した先行研究は多数存在する。その中でも医学・薬学分野では、例 えば、大鳥等(2016)、栗原等(2017)などの研究がある。 5 第1象限に位置するサービスの要素は満足率が高く、総合満足度との関連も強い要素である。 第2象限に位置するサービスの要素は、満足率は高いが総合満足度との関連は弱いサービスの 要素である。一定の資源制約(予算制約)の下では第2象限に位置する要素は資源を過剰に投 資していると考えられる。第3象限に位置する要素は満足率も低く総合満足度との関連も弱い 要素であり、総合満足度との関連が弱いという意味で喫緊の改善項目ではない。第4象限に位 置する要素が喫緊の改善項目と考えられる。 6 小学校の教員免許を取得する学科の受講生のため、この質問を採用している。 7 経済学分野では10%有意水準を用いる場合も多い。本稿で10%有意水準を用いた理由は、サン プルサイズが少ないからである。プロビットやロジットによる推計では最尤法を用いるため 200以上のサンプルサイズが欲しい。サンプルサイズを多くして再分析する必要がある。 8 Faseru et al.(2017)では禁煙治療の初期設定の問題を整理し、オプト・アウトとオプト・イ ンの効果をどのように検証するか、その研究の手順についてランダム化比較試験の具体的な方 法の説明を行っている。