23 481 平成29年 8 月18日 第58回真空に関する連合講演会で発表
1 京都大学航空宇宙工学専攻(〒6158540 京都府京都市西京区 京都大学桂C3 棟)
Fig. 1 Concept of the stackable Knudsen pump.
23 481 ―( )― Vol. 60, No. 12, 2017 第回真空に関する連合講演会論文集
速
報
温水駆動による積層式 Knudsen ポンプの試作
田村
翔太
1・杉元
宏
1Fabrication of Stackable Knudsen Pump Driven by Hot Water
Shota TAMURA1and Hiroshi SUGIMOTO1
1Department of Aeronautics and Astronautics, Kyoto University, Kyoto daigaku-katsura C3, Nishikyo-ku, Kyoto-shi, Kyoto 6158540, Japan
(Received August 16, 2017, Accepted October 1, 2017)
A stackable Knudsen pump consisting of multistage pump units driven by temperature diŠerence between hot and cold water is fabricated. Each unit has a porous membrane of 64 cm2area, through which thermal transpiration ‰ow, the driving force of the Knud-sen pump, is induced at atmospheric ambient pressure. This study demonstrates the preKnud-sent device facilitates the cascade or parallel connection of multiple pump units to improve performance. For example, a Knudsen pump consisting of 6cascaded units provides a shut-oŠ pressure of 9.2 kPa and a 300 sccm maximum ‰ow rate at the temperature diŠerence of 45 K. The feasibility of the pumping system driven by low-grade waste heats is also demonstrated.
. は じ め に ポンプは産業界の幅広い分野で利用されており,静音化や 長寿命化が強く望まれている.この点で最近注目され始めて いるのが,駆動力として希薄気体の効果である熱遷移流を利 用する Knudsen ポンプである.このポンプは機械的な駆動 部をもたないため,脈動や振動騒音なしで動作する,耐久性 や密閉性に優れている,といった特徴がある.近年では,大 気圧下で駆動する Knudsen ポンプとして,多孔膜を利用し た装置が報告されている1).また,その応用として,膜を透 過する熱遷移流と圧力勾配による流れを組み合わせることで 二成分混合気体を分離する装置が開発され,有意な濃度変化 を誘起できることが示されている2,3). Knudsen ポ ン プ に は 多 段 の 直 列 お よ び 並 列 接 続 で 圧 力 差,流量を拡大できるという特性がある.これを利用すれ ば,ポンプ,気体分離といった各目的に応じたシステムが構 築可能であろう.そこで,本研究では,その特性を容易に引 き出すことができる積層式 Knudsen ポンプを試作した.ま た,温度差数十°C程度の温水と冷水を用いて動作させること で,駆動源として廃熱程度の安価なエネルギーが利用できる ことを示す. . 装置の概要 装置の概要を Fig. 1 に示す.本装置は,アルミプレート C, H とそれらに挟まれた多孔膜の組合せ(ユニット)を多 段備えた構造をもつ.冷水,温水を用いてプレート C を冷 却,H を加熱すると,各ユニットの膜の裏表に温度差が生 じる.膜の孔径が大気圧における気体分子の平均自由行程と 同程度であれば,膜を低温側から高温側に透過する熱遷移流 が大気圧下で誘起される.その流れは膜とプレートの間に設 けられた流路によって集められ,ユニットを接続することで 各ユニットを順に通過する気体の流れが発生する. 本装置は,プレートの枚数を増やすことで自由にポンプ性 能を拡大することが可能である.例えば,複数のユニットを 直列接続すれば装置全体で発生する圧力差が増大し,並列接 続すれば装置全体を流れる気体の流量が増大する.また,構 造上低温のプレート C が装置の両端に配置されるため,取 扱上の安全性に優れている,外部への熱の流出を抑えられる といった利点がある. . 実 験 . 実験装置
実験装置の外観を Fig. 2(a)に,構造を Fig. 2(b)に示 す.本装置は文献 3 で用いられた装置の構造を応用したも のである.装置を構成する複数のアルミプレート C, H(120 mm×120 mm×20 mm)は同一の形状を裏表逆に使ったも のであり,その上面と下面にはそれぞれステージ(80 mm ×80 mm×1.7 mm)が設けられている.ステージ上には, Fig. 2(c)に示すように0.5 mm 四方の正方形断面をもつ溝が 平行に70本配置され,気体の流路としての役割を果たす. 溝の両端は,端部に設けられたトレンチを介して装置外部の
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Fig. 2 Stackable Knudsen pump. (a) Overview. (b) Explod-ed view. (c) Ditches and trenches as the gas passage formExplod-ed on the stage of plates. (d) SUS mesh.
Fig. 3 Diagram of the measurement system.
Fig. 4 Performance of a single unit for various DT.
24 482 ―( )― J. Vac. Soc. Jpn. コネクタに通じている.このコネクタ同士を接続することで 複数のユニットを連結する.また,各プレートの内部には直 径8.0 mm の円形断面をもつつづら折り状の流路が設けられ ており,冷水,温水を導入することで一様にプレート C を 冷却,H を加熱する.冷水は外部から供給される20°Cの冷 却水を使用し,温水は温水循環装置(3 kW)を用いて導入 した. 以上の構造をもつプレート C と H のステージの間に多孔 膜(混合セルロースエステル,孔径0.1 mm,厚さ110 mm, 面積80 mm×80 mm)を配置する.膜の裏表は綾畳織金網 (ステンレス,縦線径25mm,横線径15 mm,厚さ50 mm,面 積80 mm×80 mm)でカバーする.この金網は Fig. 2(d)に 示すように平面上に網目の開きをもたない構造をしているた め,気体分子が膜表面に届くまでに熱を受け取りやすくな る.したがって,文献 3 で用いられた金網のように膜表面 を保護することに加え,各プレートの熱を膜表面全体に伝え る役割も果たす.さらに,高真空用グリスを塗布した 2 枚 のゴムパッキン(内寸80 mm×80 mm)を用いて,膜の周 囲を密閉する. . 実験方法 実験の 概要を Fig. 3 に示す .装置は大 気圧下に 設置さ れ,出口が大気開放されている.まず,装置に冷水(3.0 L/ min/プレート)と温水(4.5 L/min/プレート)を導入し, プレート C, H 間に温度差 DT を発生させる.各プレートの 温度はプレートに設けた穴にそれぞれ K 熱電対を挿入,固 定して測定する.次に,マスフローコントローラ(MFC) を用いて装置に窒素を導入する.窒素の流量を Q=0~625 sccm の範囲で変化させ,各流量に対するポンプ出入口の圧 力差 Dp を差圧計(Honeywell ASDXRRX001PDAA5, FS : 6.9 kPa)を用いて測定する.以上の実験を,ユニットの数 および接続方法を変化させた装置についてそれぞれ行う.た だし,Dp が差圧計のフルスケールを上回る実験について は,同差圧計を 2 つ使用した.なお,本実験では膜を透過 する流れの Knudsen 数はおよそ0.7であり,熱遷移流の発生 が期待される分子流条件を満たしている. . 結果と考察 まず,単一のユニットを使用し,DT=0, 22.5, 45.0 K と 変化させた場合についてポンプ性能を測定した.結果を Fig. 4に示す.DT=0 では,Q=0 のとき Dp=0 となる負 の傾きの直線となり,DT を上昇させるとその傾向を保った ままグラフがシフトする.つまり,Q=0 でポンプに圧力差 が発生しており,その値 DpmaxはDT が 2 倍になるとほぼ 2 倍となっている.これは熱遷移流の効果によるものと考えら れ,本装置が Knudsen ポンプとして動作していることがわ かる. 次に,DT=45.0 K で固定し,複数のユニットを接続した 装置について実験を行った.Fig. 5(a)は直列接続するユニ ット数を変化させた場合の測定結果を比較したものである. 図の通り,Dp=0 での流量 Qmaxは変化せず,最大圧力差 Dpmaxはユニット数の増加に比例して増加している.このこ とから,個々のユニットの性能は複数ユニットを接続しても 目立った変化はせず,ユニットの接続数に応じて大きな圧力 差が得られることがわかる.結果として,6 ユニットを直列 接続した装置では,Dpmax~9.2 kPa,Qmax~300 sccm が得
られた.続いて,Fig. 5(b)は 3 ユニットを直列接続した装 置と,その装置 2 組を並列接続した装置の測定結果を比較 したものである.後者の装置では,Qmax~560 sccm が得ら
25 483 Fig. 5 Performance of the multi-unit Knudsen pump for DT=45.0 K. (a) Pumps in which 1, 3 and 6 units are cascaded, (b) Pumps in
which 3 units are cascaded and in which two 3-cascaded units are connected in parallel.
25 483 ―( )― Vol. 60, No. 12, 2017 の結果より,ユニットの数および接続方法を変更すること で,ポンプ性能を自由に変化させることが可能であるとわか る.また,6 ユニットを使用した装置について,いずれのユ ニットにおいても測定中のDT のゆらぎは±0.2 K の範囲に あり,時間的に安定した温度差を与えられていることがわか る.具体的には,多段構造の両端に位置するユニットでそれ ぞれ DT=45.0, 44.1 K であり,その他のユニットでは DT =42.4~43.6 K の範囲にあった.このとき,装置を通過し た温水,冷水の温度変化から,消費エネルギーは高温プレー ト 1 枚あたり430 W であることがわかった. 最後に,ポンプ性能の経時変化について実験を行った.結 果,6 ユニットを直列接続した装置では,14日経過した時点 でDpmaxは 変 化 し な か っ た が , Qmaxが 300 sccm か ら 270 sccm に低下した.実験後の分解点検により,ゴムパッキン に塗布したグリスが膜に浸透し有効面積が減少していること が確認された.グリスの変更など密閉方法の改善が望まれる だろう. . ま と め 本研究では,多段構造をもつ積層式 Knudsen ポンプを試 作することにより,ポンプ性能を自由に拡大することが可能 であることを示した.また,温度差数十°C程度の温水と冷水 で動作することを確認し,駆動源として廃熱程度の安価なエ ネルギーが利用できることを示した.本装置は,ユニットを 自由に組み合わせることで,目的に応じた無脈動ドライポン プシステムを構成することができる.この特性は,文献 2, 3 で提案している混合気体分離装置にも有効に応用できるだろ う. 謝辞 本研究は,科学研究費補助金(課題番号 15K05794)によ って行われました.ここに謝意を示します. 〔文 献〕
1) N. K. Gupta and Y. B. Gianchandani: Micropor. Mesopor. Mat., 142 (2011) 535.
2) S. Nakaye and H. Sugimoto: Vacuum,125 (2016) 154. 3) M. Matsumoto and H. Sugimoto: J. Vac. Soc. Jpn.,60 (2017)