山梨大学教育学部紀要 第 27 号 2017 年度抜刷
-マレーシア,中国,日本を事例として-
In-Service Teacher Training System in Malaysia, China and Japan :
A Comparative Study
鴨 川 明 子
日 暮 トモ子 鈴 木 賀映子
Akiko KAMOGAWA Tomoko HIGURASHI Kaeko SUZUKI
アジアの教員研修制度の特質
-マレーシア,中国,日本を事例として-
In-Service Teacher Training System in Malaysia, China and Japan :
A Comparative Study
鴨 川 明 子
*日 暮 トモ子
**鈴 木 賀映子
***Akiko KAMOGAWA Tomoko HIGURASHI Kaeko SUZUKI
1.「研修」を通じて求められる教員の資質能力と教師像 教育の質向上の鍵は教師にあるといわれる。しかしその教師に求められる役割や責任は学校や社会 を取り巻く環境の変化に伴って変わってくる。平成 24(2012)年8月の中教審答申「教職生活の全体 を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」では,これからの教員に求められる資質能力1 を,①教職に対する責任感,探求力,教職全体を通じて自主的に学び続ける力(使命感や責任感,教 育的愛情),②専門職としての高度な知識・技能(新たな課題に対応できる知識・技能,思考力,判 断力,表現力等を育成することのできる実践的指導力など),③総合的な人間力(豊かな人間性,社会 性,コミュニケーション能力,同僚や地域の多様な組織等と連携・協働できる力)の3点に分けて示 している。つまり,今日の日本の教員には,子どもや社会の変化に応じつつ,同僚や地域と連携・協 働しながら共に学び続けることで専門的力量を身につけていくことが求められている。平成 27(2015) 年 12 月の中教審答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」においても「学び 続ける教員像」の確立が目指されており,この教員像の具現化に向けた教員政策の推進が提案されて いる。 学び続けることを通して向上が求められる専門的力量は日常の教育実践を通してだけでなく,「研修」 という場・機会を通じても形成される。教員は,絶えず「研究」と「修養」(=研修)に努めることが 職務遂行の上で不可欠とされる(教育公務員特例法,第 21 条)。ここでいう「研究」は教員の教科等に 関する専門的な知識・技能の向上を指し,一方「修養」は使命感や教育的愛情など人格的・人間的な 成長を指す。研修を含む教職生活の中でこの両面の向上・成長が教員に期待されていると言ってよい。 教職生活を通じて教員の力量形成や職能成長を重視する傾向は,諸外国でも同様に認められる。例 え ば,OECD は,教員が力量形成や職能成長(professional development)の機会を持ち続けること は,教員自身の実践力の向上とともに,間接的には生徒の学習効果にも関わってくると論じている (OECD2001,p.3; 国立教育政策研究所 2014,p.118)。また,小川・服部(2012)も,教育の普及が一 定程度進んだアジア諸国の次なる課題は教育の質向上とされ,その中核を担うのが教員であるという 認識や,教員という職業が専門職であるとの認識の深まりが見られると指摘する(pp.312-313)。すな わち,その国の生徒の学力向上を含む教育の質向上には質の高い教員の確保が不可欠との見方が諸外 国で共有されており,それゆえ,高度な専門性を備えた,専門職としての教師の育成が重視されてい る。 そもそも,研修を通じて育成される高い専門性を備えた,専門職としての教師像は諸外国で同じも のなのだろうか。岩田(2008a,2008b)は,日本を含む東アジアでは欧米の文脈とは異なる「専門職と しての教師」像があると述べる。岩田によれば,欧米における教師はteacher であり,職能は教えるこ と・授業をすることが中心とみなされている理由として,欧米のキリスト教社会での教師像は神から * 教育実践創成専攻 ** 目白大学人間学部子ども学科 *** 帝京大学教育学部教育文化学科
の神託(profess)を受けた「専門職」(profession)がモデルとなっているためであると分析する。対し て,東アジア,中でも日本の教師は,各教科の知識や技能を授けるteacher である以上に,進路指導や 生徒指導などのcounselorや学校に属する地域の活性化に寄与するcoordinatorなど様々な役割を担ってお り,人格や見識といった「人間性」など人格的諸要素が教師の有り様を決定づけているところに,東 アジアの教師像の特徴を見出している(岩田 2008a,pp.29-30; 岩田2008b,pp.43-44)。人格的要素の 重視が東アジア諸国の教師像の共通の特徴だとすれば,質の高い教師の育成を目指して行われる研修 の在り方も各国で類似してくるのではないだろうか。さらに,東南アジアも含め,欧米とは異なる教 師像を有するとされるアジアの国々は,どのような研修制度(目的,実施体制やプログラム等)の下 で,いかなる資質能力を備えた教師の育成を目指しているのだろうか。 そこで本稿では,同じアジアに位置するマレーシア,中国,日本の初等学校及び前期中等学校の教 員の研修に焦点を絞り,各国の教員研修の特質を分析することを試みる。教育制度は少なからずその 国の文化的社会的状況によって規定される。アジアの中でもイギリスの植民地であったマレーシアや 社会主義国である中国の状況を,日本のそれとの比較を試みることで,それぞれの抱えている社会上 や教育上の課題を受けて展開されている各国の教員研修制度の特質を明らかにする。 2.3ヶ国における教員を巡る動向 3ヶ国の教員研修制度の特質の検討に入る前に,各国の教員を取り巻く状況を簡単に確認しておく。 マレーシアでは教員の社会的地位は他の専門職に比べ相対的に低いものの,教員一人当たりの児童生 徒数(2015)は,初等学校 11.53 人,中等学校 11.74 人と一定数の教員を確保できている。それゆえ, 単に量を増やすことにではなく,管理職や就学前教育教員など社会の要請に応じた特定の分野・領域 の教員を増やすことが政策課題の一つとなっている。 教員の量から質へのシフトについて言えば,PISA2009 調査のすべての分野において国際平均を大き く下回ったことも相まって,マレーシア政府は教員の質の向上を重要な課題とみなし,国家教育政策 の中で「教師の質と専門性の向上」の原則をうたっている。また,長期的な教育計画を示すマレーシ ア教育ブループリント 2013-2025(以下,ブループリント)では,「教えることから専門職の選択へ」, 「すべての学校に優秀なスクールリーダーを」という目標を掲げている(MOE2012b, pp.25-26)。特に
研修については,2013 年から継続的な職能成長(continuous professional development: CPD)をうたい, 教員がその核となる教務に集中できるようにすることを目指している。加えて,第 10 次マレーシア計 画には,2015 年までに中等教育段階教員の 80%,初等教育段階教員の 60%を学士取得者にと,教員に 占める学士取得者の割合を増加することも喫緊の課題とみなされており,学位取得型の研修への期待 も高まっている。 学校現場の教員を巡る問題に着目すると,養成時に学んだ専門以外の教科を担当することと多忙化 が問題になっている。専門分野以外の教科を担当する教員には現職研修の整備と充実が不可欠になる と言える。また,2009 年にマレーシア教員スタンダード(Standard Guru Malaysia: SGM)が導入され, スタンダードが示すコンピテンシーベースの新しい教員評価システムの下で研修の在り方が見直され ている。 次に中国だが,教員は文化大革命期(1996~1977)にはブルジョワ知識人として批判され,長らく 経済的処遇が低く抑えられ続けた。90 年代頃から教員の身分や処遇の改善に向けて教員の資格,任用, 処遇などに関する制度を整備し,教員不足を補うために大量採用した無資格教員に対する学歴取得研 修を実施した。その結果,2000 年に入る頃には無資格教員数が大幅に減少し,それに伴い,研修の重 点も有資格教員対象の資質向上研修へとシフトしている。教員の資質向上への関心の高まりは,2000 年前後に受験中心の教育を見直し創造性や実践力を重視する「資質教育」が教育改革の方向性として
示され,それを支えるために質の高い教員が求められたことが背景にある。こうした流れに沿って, 近年は中堅教員研修の実施など対象の拡大とともに,研修請負機関も地方の研修センターだけでなく, 大学や企業も参入するなど多様化している(孫 2015)。 中国で教師という職業は公務員に準じた安定した職業と見なされ,一つの勤務校で定年まで勤務す ることが一般である。しかし,給与は他職種に比べて高くはなく,給与や待遇のよい私立学校へ移る 公立学校の教員もいる(孫 2014)。また,勤務条件の悪さや待遇の低さなどを理由として農村部で教員 になることを望まない者もおり,農村部の教員不足が都市と農村の教育格差を引き起こしている原因 の一つになっている。このほか,学校現場にも市場原理,競争主義が導入され,教師は日々学校や保 護者からのプレッシャーを感じている。その主たる原因は,生徒の学力向上に関する周囲からの要求 や,それに関連した生徒,同僚,校長からの評価制度の存在による(小野寺 2012,p.84)。中国の教員 評価制度は雇用や昇給の問題と関わっており,生徒の成績や進学率の高さ,さらに,生徒の成績向上 と関わる授業内容が,教員の勤務成績として評価されるためである(小野寺 2012,pp.84-85)。例えば, 上海市が 2014 年に参加したTALIS2013(国際教員指導環境調査,以下 TALIS と略す)の追加調査によ ると,上海市の場合,中学校教員の週当たりの仕事時間の合計は 39.7 時間で,うち授業に使った時間 は 13.8 時間と仕事時間の3分の1に過ぎないが(参加国平均では,授業時間は仕事時間の2分の1), 課題の添削(7.9 時間),生徒の教育相談(5.1 時間),同僚との共同作業や話し合い(4.1 時間)など, 授業時間以外の時間に仕事時間の多くを割かなければならないところにも,中国の教員の置かれてい る状況が示されている(教師教学国際調査上海項目組 2017,p.34)。 日本では,戦後 70 年の教員制度の歴史の中でも最も大幅な方向転換がなされようとしている。多文 化,貧困,格差,ジェンダーなど社会環境の大きな変化から生じる教育課題に対応できる教員の育成 に向けた,教職関連三法の改訂(教育公務員特例法,教職免許法施行規則,(独)教員研修センター法) や教員養成課程におけるコアカリキュラムの導入が目指されている。さらに新学習指導要領(平成 29 年3月告示)においては,英語,道徳,ICT,特別支援教育など教育課程における新たな課題への対応 や教科を超えたカリキュラムマネジメントによる授業方法の改革が示され,「新たな学び」を支えるた めの資質能力を有した教員が求められている。 新しい課題に対応できる質の高い教員を確保すべく,文部科学省は,教員養成・採用・研修を一体 としてとらえ,教員の職能育成を体系的に長期的に行う取り組みを進めている。従来,養成は大学, 採用は自治体,研修は学校,自治体,国,民間など各々で実施されていたものを,長いスパンで自ら のキャリアステージに応じて継続的に進めるための促進事業を実施している2。 日本における養成や研修を通じた教員の質向上への関心の高まりの背景に,OECD が 2013 年に実施し たTALIS3 の結果において,日本の教員の1週間当たりの勤務時間が調査参加国中最長であることが明 らかになり,多忙な教員の実態が浮かび上がったことがある。同結果では,校内研修等を通じた教員 同士の学び合いが日頃の指導実践の改善や意欲の向上等につながっていることや,職能開発研修への 参加意欲や指導実践の改善意欲が高い一方で,業務のスケジュールや費用,参加への支援等に課題が あることも指摘された。さらに日本では,管理職希望者の減少やスクールリーダー・ミドルリーダー 人材の不足,早期退職希望者と若手教員の離職率の増加など,過去 30 年間には見られなかった新たな 課題が生じている。大量退職を迎え,若手教員のロールモデルとなる教員が不在になり,知識や技能 の伝承がうまく図れていないことも職能形成における教員研修の重要性の高まりの背景の一つといわ れる。 3.3ヶ国の養成・採用システム 以上3ヶ国の教員を巡る動向を俯瞰すると,いずれの国においても,学校現場で生じている様々な
問題に対応できる質の優れた,高い専門性を備えた教員が求められていることがわかる。では,そも そも各国では,どのような養成・採用システムに基づいて教員を育成しているのだろうか。
まず,マレーシアの教員養成は,大学と教員養成機関(Institute Pendidikan Guru:IPGs)による2本柱 の教員養成である。大学の教員養成課程には,教育学学士課程と,教育学以外の学士課程,大学院教 育学ディプロマ・コースが設けられており,主として,初等学校および前期中等学校の教員は教員養 成機関の3年コース,後期中等学校の教員は大学4年の学士コース(学部平行型学位)か大学院ディ プロマ・コース(大学院付加学位)で養成される(田邊・杉本 2005,手嶋 2011)。免許制ではなくディ プロマによる資格制をとっており,資格となるディプロマの種類で専門分野が決められる。教科担任 制を採用しているが,専門以外の教科を教えることもあることは先述した通りである。また,1996 年 教育法で規定されるカリキュラムは,学術専門科目,教育学基礎理論および教育実習から構成される (田邊・杉本 2005)。採用試験はないが,マレーシア教育サービス委員会が選抜のための面接を行った 後に,地方教育局が合格者の中から採用および配属する(簗島 2014)。公立学校の教員は公務員として の身分を有しているが,1996 年教育法 103 条の下で登録された教員のみ教育機関で教えることが許可さ れる。 中国の小学校教員は後期中等教育レベルの中等師範学校(修業年限3又は4年)以上で,初級中学 教員は非大学型の高等教育レベルの師範専科学校(修業年限2又は3年)以上で養成される。従来師 範大学や師範学校のみの教員養成だったが,現在は一般の高等教育機関でも実施している。ただし, 教員養成課程以外の一般課程では教員養成を行っていない。教員資格は学校種に応じて区分されてい る。上級の学校の卒業者には,下級の学校で取得できる教員資格を同時に授与される。教科担任制を 採用しており,教員資格も各学校種の教科ごとに授与される。採用については,学校や地方の教育行 政機関が募集定員を公開して受験者を募った後,学校及び地方教育行政機関ごとに受験者に試験を実 施し,合格者を決定している。公務員ではないが,公立学校の教員は採用・昇格などの人事を所管の 地方政府が管理している。給与も主に地方政府が負担している。採用に当たっては,一般に,3~5 年の契約任期制が導入されている。 日本で教員となるには,小学校,中学校,高等学校などの学校種別の教員免許状が必要とされる。 教員免許状は,普通免許状,特別免許状,臨時免許状があり,都道府県の教育委員会により授与され る。教員免許状が授与されるためには,高等教育機関等で行われている教員養成課程を履修し,学士 などの基礎資格に加えて,文部科学省が定めた所定の科目の単位を取得する必要がある。養成は,国 立教育学部等を主として行われる「目的養成」と私立大学を主として行われる「開放制」養成に大別 される。各自治体が公立学校の教員採用選考を実施する。 総じて言えば,いずれの国においても,当該国の中等(中等後)教育又は高等教育レベルの養成機 関を経て教員資格や免許を取得し,地方教育行政機関や学校が実施している採用試験の合格者が教員 となっている。たしかに,試験合格は教員としての資質能力を一定程度身につけていることを証明す るものではある。しかし,教員としての在り方は,その後の研修を含む教職生活の中でいかに専門的 力量を向上させ,自らの職能形成を行っていくかによって左右されることが大きい。そのため以下の 章では,各国の研修制度に焦点を絞り,研修の目的,機会,内容,効果,教員に求められている資質 能力の5点からそれぞれの国の特徴を考察することにする。 4.マレーシアの教員研修制度の現状 ①教員研修の目的 マレーシア国家教育政策において教員研修に関する新しい目標が掲げられ,研修の具体的な内容が 示される。そもそも教員研修の原則は,「各自治体(州と地区)の教育事務所と学校が,教師のコン
ピテンシー,知識と専門性を世界水準まで高めるために努力する」こと,また,「コンピテンシーを上 げるために,すべての教育段階の教師と教員候補者に研修プログラムを実施する」ことにある(MOE 2012a, pp.37-40)。
②研修機会の提供機関
マレーシアの教員研修機関には,一般教員向けのマレーシア教員養成機関と管理職教員訓練機関ア ミヌディン・バキ・インスティテュート(Institut Aminuddin Baki)4がある。教員養成機関は,教員志望
の学生を養成する機能とともに現職教員研修の機能も担っている。2008 年の 1996 年教育法改正によっ て,教育省の教師教育課から教員養成機関課の管轄になり,教員養成カレッジはすべて教員養成機関 に変わった。元来教員養成カレッジはそれぞれ独立した機関であったが,マレーシア全土に 27 校ある 教員養成機関(2016 年現在)は,教員養成機関課の運営による各地方のキャンパスという位置づけと なった。なお,ICTを活用した研修機会も提供されている。 ③研修内容および形態 全一般教員を対象に年7日間の研修への参加が義務付けられている。現職教員のための研修および 管理職研修を含めた,マレーシア国家教育政策に示される国レベルの研修政策の全体像は表1の通り である(MOE 2012a, pp.37-40)。教員養成機関は学位取得研修と現職教員研修の両方を実施してお り,主に教授法や専門的知識・技能に関わる内容の研修を担う。各レベルの地方政府は新しい政策の 導入に伴う内容を,校内研修ではカリキュラム,評価,教授学に関わる内容の研修を実施している。 1年以下の短期研修を基本に,コース,ワークショップやセミナーが主な形態で,平日の開催が多い。 以下,国レベルと学校レベルに分けて概観する。 <国レベル>国の研修政策とマレーシア教員養成機関における研修 ( ⅰ ) 学位取得のためのプログラム:教員養成機関による学位取得のための代表的な5つの学位取得プ ログラム(カッコ内は標準年数)は、教育学学士準備プログラム(1.5 年),学士プログラム(教員養 成)(4年),大学院ディプロマプログラム(教員養成),マレーシアディプロマプログラム(教員養 成),大学院ディプロマプログラム(教員養成)(1~1.5 年)である。 表1 マレーシア国家教育政策における教師教育関連施策と研修 教育行政職と管理職を対象とする施策 教師教育全般に関する施策 a コンピテンシーを上げるために,すべての教育段階 の教師と候補者に研修プログラムを実施 b 「落ちこぼれをつくらない学校経営」,TQM など質の 標準化 c 管理職対象の研修実施 d 管理職対象の学位取得プログラム e 自治体の教育公務員,教頭や教師対象のプログラム f 校長等に対する学校経営能力の向上のための研修プ ログラム g 教育分野における技術向上のための研修プログラム h 教育公務員のための海外機関における研修プログラ ム i 学校関係者のためのICTの知識と能力向上のための研 修 j 学校における優秀な教員候補者へのアミヌディン・ バキ・インスティテュートの講師によるコンサルタ ントサービス a マレーシア教員スタンダードの原則の下で,教え学 ぶ技術とともに教師の専門性の価値,知識や理解を 習得するという観点から質とコンピテンシーを身に 着けた教員を養成 b 教員養成機関に優秀な学生を入学させる計画,運営 および実施 c 国家の教育の要請に応じたカリキュラムと特別活動 のカリキュラムを実施 d 質の向上と専門性を上げるためにすべての教員に現 職研修を実施 e 都市以外やへき地の教員の数を増加 f 学士を有する教員の数を増加 g 専門的かつ学術的なレベルのプログラムを受けるた めに教員への様々なインセンティブを用意 h 重要な教科科目の研修を受けた教員の数を増加 i 優秀な教員および困難を抱える教員を対象とする選 択プログラムを実施 j 国家間の教育協力プログラムを通じ国際的プログラ ムと海外での現職研修を実施 k 初等学校および中等学校の教授法を調和させ,教員 研修の機能をよりよくする専門的機関としての教員 養成機関の改善 出所:MOE 2012a, pp.37-40に基づき筆者作成.
国際標準教育分類(ISCED)2011によると,学士プログラムは,公立学校の就学前教育と初等教育の 教員訓練を実施する4年間のプログラムである一方,大学院ディプロマプログラムは,初等教育と中 等教育の教員訓練プログラム(優秀学生プログラム)と定められている。大学院ディプロマプログラ ムでは,最も優秀な学生には1年間の修業年限が,また,政府援助の宗教学校からの学生は1年半の 修業年限が課される。このように教員は,職場を完全に離れてフルタイムで修学するか,勤務のかた わらパートタイムで修学することとなる。 (ⅱ)現職教員のための研修(LDP):現職教員のための研修プログラムには,学卒資格を与える3年間 の特別学位プログラムの他に,1年間のスペシャリスト証書コース,専門性向上プログラム,マレー シア指導者訓練プログラム,スマートスクールコース,コンピュータ管理コースが用意されている。 その他に私立機関の提供するコースや国際プログラムが設けられている。また,オープンユニバーシ ティとのトゥイニングプログラム(OUM)や多くの海外大学との言語や理数系コースに特化したトゥ イニングプログラムも用意されている(田邊・杉本 2005,pp.120-124; 手嶋2011)。さらに,教育省は 教員養成カレッジの卒業生に対して,教員養成カレッジと国内の公立大学との間で連携(トゥイニン グ)プログラムを提供している。このプログラムを通じ,卒業生は 3 年コースの内最初の1年を所属カ レッジで,後の 2 年を国内の連携している公立大学で学び後期中等レベルの教職学位を取得することと なるが,この方式は現職教員にも適用されている(手嶋 2011)。 (ⅲ)ICT 活用による研修:ブループリントにおいて「現職教員研修への投資増加」が目標に挙げられ ている。その具体策の一つに,2013 年 1 月に導入されたe-Guru video libraryがある。e-Guru video library を利用して,教員は動画サイトにあげられた画像を見ながら教授法などの研修を受けることができる (MOE2012b, pp. 25-26)。3年ごとにさまざまな分野の重点課題を設定する政府変革プログラム(以下 GTP)2.0(2013-2015)によると,教員キャリア・パッケージと英語教員の研修コースが重点化されて いる。続くGTP3.0(2015-2020)では各教員に見合った職能開発がうたわれ,キャリア・パッケージに おける昇進制度の改良と教授法スキルの向上が重点化されるとともに,双方向のオンラインビデオ研 修プログラムEdu Web TVが導入された。 (ⅳ)英語教員のための研修:政府は英語教員のための研修に力点を置き,英語の堪能ではない教員に 補習サポートと研修の機会を提供している。2015 年までにすべての教室に英語の堪能な教員を配置す るという目標を立て,2012 年にパイロットプログラム実施した。パイロットプログラムでは,4つの 州で 7,000 人の教員を対象とする英語力テストを実施し,既に 5,020 人の教員が再研修の対象(~2013 年 12 月まで)になっている。2015 年までにすべての教員を対象に英語力テストを実施し,その結果を 受けて研修を実施する運びである(PEMADU2011, pp. 116-118)。 <学校レベル>学校改善スペシャリスト・コーチ(SISC+)による研修:バンド5, 6, 7に分類される 「困難校」を対象に,学校改善スペシャリスト・コーチ(School Improvement Specialist Coaches:SISC+)
が導入された。SISC +は学校をベースとして,3つの相互連関する領域(カリキュラム,評価,教授 法)にそってコーチし,それぞれの領域の教員の職能成長を促す研修を実施するが,近年SISC+による 研修の効果が認められ,SISC+はフルタイムでの勤務になった(MOE2012b, pp. 25-26)。 ④現職研修の参加実態と効果 マレーシアの教員の現職研修への参加率は高く,政府もその参加率の高さを評価している。TALIS2013 によると,マレーシアの中等教育段階の教員の研修活動(年 10 日程度)への参加率は 96.6%である。 これは教育省の命令により定められる年7日間の研修を上回っているだけでなく,参加国平均 88.4% に比しても高い。この場合の研修とは,自己学習,学校外でのワークショップ,スクールベースの コーチング(教室観察や授業計画など)を含んでいる。また,公式の初任者研修への参加は 87.4%と 参加国の中で最も高い。上述したTALIS2013 の結果を受けて,マレーシアの教員は積極的に自己研鑽
に励んでいると政府は評価している。政府は,スクールベースのコーチングを最も効果的な現職研修 ととらえてもいる (MOE2012b, pp. 5-5-5-9)。ただし,マレーシアでは,課程(コース)・ワーク ショップ型の研修への参加の割合(91.3%)は非常に高い一方,資格取得プログラム(学位取得など) への参加は 10.1%と,参加国平均 17.9%を下回っていることには留意すべきと筆者は考える。 先行研究においても,マレーシアの現職研修のあり方は批判的に検討されている。たとえば,Siti他 (2016)が実施した現職研修に関する質問紙調査(174 人の教員を対象)によると,たしかに,スクー ルベースの OJT による教員研修への教員のニーズは高い。しかしながら,教員研修の内容や講師,研修 の場所や時期に対する不満も少なからずある。Siti他(2016)の質問紙調査から,教員研修の内容は「教 員の質を向上させるために,現在および将来の教育ニーズに沿ったものであるべきだ」という意見に 全回答者の 87.9%が賛成している。また,「講師は現職研修の目的や目標をしっかりと理解すべきだ」 という意見にも全回答者の 87.9%が賛成している。さらに,研修の開催日や開催期間について,「教育 省は1年に7日のコースへの参加を義務付けるべき」という意見に 81.9%の教員が反対し,「土曜日に 研修を開催すること」にも多くの教員(79.7%)が反対している。しかも,開催場所は自宅から近い ところを希望する意見も多い。さらに,教員の専門性の向上に影響を及ぼす要因に相関関係が見られ たのは,研修の計画,内容と講師であり,研修の場所や時期には相関関係は見られなかったが,教員 自身は研修の場所や時期に再検討を望んでいる(Siti 他 2016, pp. 58-60)。このように教員から研修に 対する批判的な意見も少なからず挙がっていることから,研修に自主的・主体的に参加しているか否 かについてはさらなる検討が必要である。 ⑤教員に求められる資質能力 2009 年には教育省の教師教育課の作成によるマレーシア教員スタンダードが導入された。そのねら いは,教師のために高いコンピテンシー基準を構築し教師の地位を向上することにある。スタンダー ドは3つの主要な項目,すなわち「スタンダード1 専門職における専門的な価値」,「スタンダー2 教育や教科の問題,教科と特別活動のカリキュラムへの知識と理解」,「スタンダード 3 教え学ぶこと の技術」から構成される。これら3つのスタンダードは教員評価の評価項目とも関連付けられている が(表2),教員評価には「専門性への貢献」という独自の評価項目が設けられている5。 一方,スタンダードに示されたレトリックと教育現場とにかい離があるという先行研究による指摘 もある(Goh 2012)。マレーシアでは,コンピテンシーベースの教員スタンダードや教員評価によっ て,教員に求められる資質能力が明確に示されるだけでなく,評価結果に応じて,教員の資質能力に 見合った研修機会を提供しようとしている点に特徴が認められる。 表2 マレーシアの教員評価において期待される4側面のコンピテンシー 側面 レベル 1-2 3-4 5-6 Ⅰ 教え学ぶこと ・授業準備など ○授業計画に明確な目的があ る。 ○教材選択が適切ではない。 ○授業計画に計測可能な明確 な目的がある。 ○アクティビティが,適切な 教材を伴い,目的に見合うよ う計画される。 ○授業計画に計測可能かつ児 童生徒の能力に応じた明確な 目的がある。 ○魅力ある教材を用い授業が 目的にそって計画される。 Ⅱ 専門的な価値観 ○割り当てられた役目に十分 貢献できない。 ○割り当てられた役目に時々 貢献できる。 ○割り当てられた役目に十分 に貢献できる。 Ⅲ 教室外の活動 ○特別な活動計画を用意でき ない。 ○特別な活動計画を用意でき るが,包括的でも明確でもな い。 ○特別な活動計画を用意でき, その計画は明確かつ正確,包 括的である。 Ⅳ 専門性への貢献 ○自己の修養につながらない。 ○生涯(キャリア)学習のた めに自己の修養に努めている。 ○キャリアのために適切な自 己の修養に努めている。 出所:MOE2012b, pp.5-9, Exhibit5-10.
5.中国の教員研修制度の現状 ①教員研修の目的 1999 年制定の「中小学教師継続教育規定」には,教員研修は「在職教員の思想政治及び業務の資質 向上のために行う」と定められている(第3条)。研修への参加は義務であると同時に,権利として位 置づけられている(第4条)。研修は資質向上のための研修と学歴取得のための研修から構成され(第 9条),5年周期の初等中等学校の全教員を対象とした研修の実施(第7条)や,研修にかかる費用は 地方の各レベル政府が保障すること(年度予算の学校教育費の5%)になっている(第 13 条)。 ②研修機会の提供機関 研修は所属学校で行うことが基本だが,郷・鎮に設置される研修所,各種教員研修機関,及び省の 教員研修センターでも実施されている。先述のとおり,近年は大学も研修に関わるなど,研修の機会 の多様化がみられる。このほか,インターネットを通じた研修(継続教育サイトを通じたオンライン 研修)も実施されている(教育部 2011)。 ③研修内容および形態 中国では,一般に,国が研修の枠組みや方針を定め,地方政府が具体的な研修計画を立てて実施し ている。1993 年制定の「教師法」第 18 条・第 19 条において,教員研修は,地方政府の各レベルの教 員研修機関が担い,同研修機関や学校が研修計画を立て,多様な方法で思想政治や業務にかかる研修 を実施することと定めている。1999 年より全教員に対し,地方政府による研修と校内研修とに参加し, 5年間で計 360 単位時間の研修を修了することを求めており,修了しない場合,資格更新不可の場合も ある。さらに,研修での評価がその後の昇格等に結びつくこともある。このほか,教育情報化の進展 に伴い,教育部は,全教員が 2017 年末までに情報技術活用能力向上のための 50 単位時間以上の研修を 受けることとしている(教育部 2013,教育部弁公庁 2014)。 研修形態はパートタイム,期間は短期を基本とし,DVD,インターネット,衛星放送などを利用し た研修が行われている。学歴取得のための研修は半年から1年といった場合もある。その場合は職に 就きながら研修に参加している。受講期間中の教員の処遇については,基本給は支給され,福利厚生 も継続して享受できるが,勤務に伴う各種の手当は支給されない。受講費用については,国や地方が 全教員を対象に行う義務的な研修は政府が負担するが,教員個人の興味関心から参加する研修は個人 負担である。以下,国レベル,地方レベル,学校レベルに分けて概観する。 <国レベル>:国レベルの研修計画は,(ⅰ)「全教員対象の5年周期研修」と(ⅱ)「国家レベル教員 研修計画」に大きく分類できる。 (ⅰ)全教員対象の5年周期研修:全教員対象の研修は,1999 年より種類,段階,職務ごとに,実施さ れている。全教員対象の研修は,学歴取得研修と有資格教員対象の資質向上のための研修に大別でき る(教育部 2011)。 学歴取得研修は取得学歴の引き上げを目指す研修である。教員養成機関で系統的な課程が提供され, 一定のまとまった修業期間が要求される。教員は,職場を完全に離れてフルタイムで修学するか,又 は勤務のかたわらパートタイムで修学する。あるいは,通信教育,衛星放送やインターネットなどを 通じて受講する場合もある。 有資格教員対象のいわゆる在職者への研修は「継続教育」と呼ばれ,教職への意識や専門的知識や 技能の向上が目的である。研修内容は,政治・思想教育,教員としての修養,専門知識,教授法,コ ンピュータ活用法などである(教育部 1999)。この研修には,1年以上の教職歴を持つ全教員に対する
研修だけでなく,新採用教員の試用期間における研修や中堅教員研修も含まれる。 新採用教員の試用期間の研修は,教職歴1年未満の試用期間の教員にできるだけ早く教職に適応さ せるために,思想・政治の自覚,教員としての自覚,教育実践能力を身に付けさせる訓練を行う6。こ れには教員養成機関以外の一般の学校・大学卒業者に対する教育理論,教科教授法の訓練が含まれる。 研修期間は 120 単位時間以上である(1単位時間は 45 ~ 50 分。校内研修を含む)。中堅教員研修は,将 来性のある若手及び中年の教員を対象とし,指導的立場に立つ教員を育成することとされる。その内 容は,教育理論と実践,教育技術の応用と実践,課題研究等である。 (ⅱ)国家レベル教員研修計画:国は初等中等学校及び農村の教員の資質向上をねらいとして,一部の 模範となる教員(教員指導者,クラス主任,中堅教員など)を育成する国家レベルの研修プログラム (原語は「国家級培訓計画」。略称「国培計画」)を 2010 年から実施している。このプログラムは,▽模 範教員短期集中研修(市レベル以上の教科リーダーとなる教員対象),▽中西部短期集中研修(農村の 県レベル以上の中堅教員を対象),▽中西部フルタイム研修(農村の県レベル以上の教員を対象)の3 つからなる。同計画を実施するために教育部が 2012 年に発表した『「国家レベル研修計画」カリキュラ ム基準』では,教員の専門性を「専門性に対する考え方と教職倫理」「専門的知識」「専門的技能」の 3つに分け,対象ごと,教科ごとに研修プログラムを通じて身につけるべき内容を詳細に設定してい る(表3)7。内容配分を見ると,同研修プログラムでは,授業計画や学習評価,児童生徒とのコミュニ ケーションといった具体的な授業運営に関わる専門的技能の向上に重点があることがわかる。 表3 研修プログラムの内容配分基準(小学校国語教師の場合)※各割合の5%を超えない。 内容 対象 模範教員短期集中研修 中西部短期集中研修 中西部フルタイム研修 専門性に対する考え方と教職倫理 10% 10% 5% 専門的知識 40% 40% 45% 専門的技能 50% 50% 50% 表4 北京市の5年周期(2016-2020)の研修計画(※1単位=10単位時間。5年間で36単位取得) 分類 取得単位 扱う内容 ※( )内は単位数 共通必修 6単位以上 (60 単位時間以上) ○「社会主義核心価値及び中華優秀伝統文化」(2単位)/「法治教育」(0.5単位) /「情報技術応用能力」(2.5 単位)/「教師専門性基準」及び教育改革関連(「入 試制度改革」「学科教学改革」「課程教材改革」(1単位) 選択必修 10 単位以上 (100 単位時間以上) ○市・区の教育委員会や研修機関が研修内容を決定。理論や実践に係る発展 的な内容,政策関連,時事問題,教材研究などをテーマとする内容を実施。 1研修プログラム2単位。教材研究に係る活動は3単位を超えない。(教材研 究に係る活動は,市レベルの場合 20 単位時間で 1.5 単位,区レベルの場合 20 単位時間で1単位,校内研修の場合 20 単位時間で 0.5 単位で計算) ○インターネットを通じた学習など個人による学習は 20 単位時間で1単位。 ○市教育委員会が組織した「国家レベル研修計画」参加者は,20 単位時間で 選択必修の1単位に相当。 校内研修 年4単位以内 (5年間で 20 単位以内, 200 単位時間以内) ○各学校が組織した研修。20 単位時間で 1 単位。年4単位以内。 出所:教育部 2012a,p.12. 出所:北京市教育委員会 2016「北京市“十三五時期”中小学教師培訓工作実施意見」 (http://zfxxgk.beijing.gov.cn/columns/63/5/752536.html)及び同 2017「北京市“十三五”時期中小学培訓学分管理辦法」 (http://zhengwu.beijing.gov.cn/gh/dt/t1476991.htm)に基づき作成。2018年1月5日閲覧。
<地方レベル>:上述のとおり,一般に,国が研修の枠組みを定め,この枠組みに基づきながら各地 方レベル政府の研修機関(教師進修学院など)が地域の実情に応じて研修プログラムを策定し,実施 している。表 4 は北京市教育委員会の 2016 年~2020 年までの研修計画の内容である。 <学校レベル>:校内研修は,各学校で職務に応じて内容が決められ実施されている。その内容は, 全教員を対象としたもの,各教科の教員を対象としたもの,担任を対象としたものなど多様で,教材 研究や教授力の向上など授業実践に関わる研修が多い8。校内研修への参加も,国が定めた5年間で全 教員が修了すべき 360 単位時間の研修に含まれる。校内研修の具体的な内容と時間配分は各県(市)・ 区レベルの研修機関と学校が当該地域や学校の状況によって決定する9 。各地方の規定をみると,校内 研修の時間の割合が比較的高く,研修の基本が学校単位であることがわかる(上記北京市の場合は5 割強を占める)。江蘇省紹興県教育委員会の規定(2012)でも,校内研修の時間は全体時間(360 時間) の3分の1以内(120 単位時間)となっている10 。各学校では教員が学校内外の研修に参加できるよう 時間割を調整し,参加機会を確保するようにしている。 ④現職研修の参加実態と効果 上述のとおり,中国では全教員に対する年周期の研修への参加が義務づけられており,また,研修 に参加しなければ資格更新ができない。そのためか,教員の研修参加率は高く,例えば,華東師範大 学が1万 2,000 人の初等中等学校教員に行った調査(2011)によると,研修不参加教員の割合はわずか 1.6%だった(全国中小学教師専門発展状況調査項目組 2011)。また,TALIS2014の結果によると,上海 市中学校教員の年間の研修参加率は 97.7%であった(教師教学国際調査上海項目組 2017,p.19)。しか し,それはあくまでも義務として,資格更新としての参加が前提であり,必ずしも教員自身が自主的, 主体的に参加したかどうかは定かではない。研修へのモチベーションも,若手教員は昇給や能力向上 のため積極的に参加する傾向があるが,経験年数を重ねている教員ほど研修に積極的ではないとの意 見もある11。このことは,上記TALIS2014の調査結果において,研修参加の障壁と教員が考えている事 柄として,「仕事のスケジュールと合わないこと」(58.6%)とともに,「研修に参加するインセンティ ブがない」(51.6%)という回答が上位を占めているところにも示されている(教師教学国際調査上海 項目組 2017,p.23)。教員の自主的な研修への参加を促すべく,2016 年に教育部は「初等中等学校に おける研修の単位管理を大いに推進することに関する意見」を発表している。従来の研修は全体計画 を重視しすぎるあまり統一的な内容が課され,教師の選択権が少なく,期間も短かったため,十分な 成果が得られていないとの指摘があった12。単位制を導入することで,教師自らが自主的に内容を管理 し,継続的に研修を行うことのできる体制づくりが目指されている。 ⑤教員に求められる資質能力 「教師法」第3条において教員は「教育の職責を履行する専門人員」と規定しているが,その専門性 の内容は明確ではなく,そのため教員の質にばらづきがみられた。この状況を踏まえ教育部は,教員 の質の基準化を図るため 2012 年に教育部は教員の専門性基準(試行)を策定し,同基準を養成,採用, 研修,評価の重要な根拠としている。そこでは,▽教師としての規範や倫理・責任の遵守,▽専門性 の向上を目指し,学科の知識,教育理論と教育実践を有機的に結びつけた,実践的指導力の向上,▽ 実践し反省することの繰り返しの過程での専門的能力の絶えざる向上,▽生涯にわたる専門性の向上, の4つを理念に掲げ,教員に求められる専門性を,「専門性に対する考え方と教職倫理」「専門的知識 (教科の知識や児童生徒理解に関する知識)」「専門的技能(授業運営に関するスキル)」の3分野に分け ている。その下位項目として「領域」を設定し,さらにその下位に求められる能力を具体的に示して いる。小学校教員の場合,13 の領域内に 60 の能力が詳細に設定されている(表5)。
6.日本の教員研修制度の現状 ①教員研修の目的 日本の教員研修は,「教育基本法」において「法律に定める学校の教員は,自己の崇高な使命を深く 自覚し,絶えず研究と修養に励み,その職責の遂行に努めなければならない。」(第9条)と定められて おり,さらに「教育公務員特例法」では「その職務を遂行するために絶えず研究と修養に努めなけれ ばならない。」(21 条)と示されている。さらに教育公務員である教員は,「研修を受ける機会が与えら れなければならない」(22 条)として研修を受ける権利を有することが示されている。 ②研修機会の提供機関 文部科学省は、研修の機会を提供する実施組織によって(ⅰ)(独)教員支援機構が実施する国レベ ルの研修,(ⅱ)都道府県等の教育委員会が実施する地方レベルの研修,(ⅲ)市町村等の教育委員会や 学校などが実施する研修の3つに分類している13。 <国レベル>(ⅰ)(独)教員支援機構が実施する国レベルの研修は,独立行政法人教職員支援機構 (2017 年に独立行政法人教員研修センターから名称変更)が実施するもので,学校教育において中心的 な役割を担う教職員に対する学校管理研修や海外派遣研修,喫緊の教育課題に関する指導者育成のた めの研修が含まれる。2015 年には独立行政法人教職員支援機構の機関内に次世代型教育推進センター14 が設置され,アクティブラーニングの視点を取り入れた授業改善やICTを活用した講習会を実施するほ 表5 中国の小学校教員の専門性基準の内容 分野 領域 求められる能力の内容の一部 専門性 に対す る考え 方と教 職倫理 (1)職務に対する 理解と知識 ▽小学校教員の専門性と独自性を認識し,自身の専門性の成長を重視する。▽良好 な職業道徳に対する修養を持ち,模範となる。 (2)小学生に対す る態度と行為 ▽心身の健康を重視し,生命や安全の保護を優先する。▽小学生の独立した人格を 尊重し,合法的な権利を保護し,一人ひとりの小学生を平等に扱う。 (3)教育に対する 態度と行為 ▽人を育てることを根本とし,徳育を優先させるという理念を打ち立て,小学生の 全面発達を重視する。 (4)個人の修養と 行為 ▽愛情,責任感,忍耐力,細やかな心を持つ,▽熱心に学び,進取の精神を絶えず 持っている。 専門的 知識 (5)小学生の発達 に対する知識 ▽小学生の生存,発達,保護に関する法律法規及び政策の規定を理解している。▽ 異なる年齢及び特別なニーズのある小学生の心身の発達の特徴や段階を理解してい る。 (6)教科の知識 ▽教える教科の知識体系,基本的な考え方や方法を把握している。 (7)教育の知識 ▽小学校教育の基本的な理論を理解している。 (8)一般知識 ▽相応の自然科学や人文社会科学の知識を備えている。 専門的 技能 (9)教育設計・教 学デザイン ▽小学生の個人と集団に係る教学計画を合理的に定める。▽主題を明確し,豊富で 多彩な学級活動や少年先鋒隊活動を合理的に計画する。 (10)組織と実施 ▽児童の学習に対する積極性を引き出す。▽小学生の主体性を発揮させ,啓発型, 探究型,討論型,参加型の教育方式を柔軟に用いる。 (11)励ましと評価 ▽小学生の日常的な表現を観察し判断し,一人ひとりの児童のわずかな進歩を発見 し,認める。▽多元的な評価方法を柔軟に用いて,小学生に相応しい評価と指導を 与える。 (12)意思疎通とコ ミュニケーション ▽児童と効果的なコミュニケーションを図る。▽同僚と協力関係を築き,経験と資 源を共有し,専門性を高める。▽保護者,地域と連携協力し,児童の発達を促す。 (13)反省と発達・ 成長 ▽反省を絶えず行い,教育活動を改善する。▽専門性向上のための計画を定め,専 門性を高める研修に積極的に参加し,絶えず自ら専門的資質を向上させる。 出所:教育部 2012bに基づき作成。
か,研修プログラムとして各学校で実施できるモデル案の提供も行っている。 <地方レベル①:都道府県等教育委員会等>(ⅱ)都道府県等の教育委員会が実施する研修について は各自治体立の教育センターなどが研修を実施しており,名称は自治体ごとに様々である。法定研修 である,初任者研修(教育公務員特例法第 23 条),中堅教諭等資質向上研修(10 年経験者研修より名称 変更)(第 24 条),指導改善研修(第 25 条の2)などもここに含まれるほか,生徒指導主任研修,新任 教務主任研修など職能に応じた研修や専門的な知識や技能に関する研修が提供されている。都道府県 から研修として民間企業等へ長期派遣されるケースもあり,教職経験,職能,専門知識・技能に応じ た研修が実施されている。平成 21 年(2009 年)4月より導入された免許更新制度(改正教育職員免許 法)により,受講が義務化された教員免許状更新講習(教育職員免許法)も認定された大学や養成機 関等が実施している15 。 <地方レベル②:学校,市町村教育委員会等>(ⅲ)市町村等の教育委員会が実施する研修には市町 村の教育委員会,大学附属研究機関,民間教育研究機関,学校内の研修など幅広い多様な研修が含 まれる。各教育委員会が民間や大学へ講習会を委託して実施されたケースもある。一方で,OJT(On the Job Training)を中心とする学校レベルの研修システムは,各国に先駆けて授業研究,公開授業が 進められ教師の成長を担ってきた。日本の校内研修の文化は,教育の質向上の有用な手段であると して“Lesson Study”または“Kounaikennshu”という日本語のままの名称で諸外国へ広まっている。 TALIS2013の結果でも「校内研修等を通じて,教員が日頃から共に学び合うことが,教員の指導実践の 改善や意欲の向上等につながっている」という報告もされており16 ,学校内の教育課題に即した教員研 修が実施されている状況がうかがえる。 ③研修内容および形態 具体的な研修内容とプログラムについては,(ⅰ)初任者研修,(ⅱ)中堅教諭等資質向上研修,(ⅲ) 指導改善研修の法定研修および(ⅳ)教職経験者研修を例に挙げる。(ⅰ)初任者研修では,「初任者に 対して実践的指導力と使命感を養うとともに幅広い知見を得させるため行われる」とされており17 ,校 内での学習指導,生活指導,学級経営,教職員の服務や危機管理,メンタルヘルス等に関する研修が 週 10 時間以上(年間 300 時間以上)行われる。新任教員に配当される「指導教員」や「拠点校指導教 員」による指導を受ける。また学校外での研修では,教育センター等における年間 25 日以上の研修, 宿泊研修,他校種の参観やボランティア等への参加等が求められる18 。 (ⅱ)中堅教諭等資質向上研修について,中教審答申「今後の教員免許制度の在り方について」19で は,「教職経験に応じた研修は,初任者研修とともに研修体系の基本を成すものと位置付けられ」てお り,個々の能力,適性等に応じた研修が実施されるものとされている。中堅教諭等資質向上研修は, 教職 10 年の経験者が対象となっており,免許更新講習との時期が重複することから,研修の実施を後 ろ倒しにするなどの時期を調整し,免許状更新講習の一部を校外研修(選択研修)に振り替えるなど の軽減措置が図られるようになった。具体的な内容は,校内研修では,校長の指導のもとに,実際の 授業研究や教材研究,特定課題研究などが行われ,校外研修では,長期休業期間中に 20 日程度,自治 体の教育センター等において教科指導や生徒指導等が実施される20。教職経験に応じて,指導力を高め るための研修や学校マネジメント,学校説明責任,学校運営に関する内容も含まれる。 (ⅲ)指導改善研修は,指導が不適切な教員に対して義務付けられる研修であり,任命権者である教 育委員会の命令による研修となっている。2007 年,「教育公務員特例法」改正により指導が不適切な教 員に対する人事管理システムが厳格化された。これにより,1年または2年の指導改善研修を実施し て,指導力不足教員の指導力の向上を図ろうとするものである21 。都道府県の教育委員会では,当該教 員の課題に応じて配属校による校内研修と研修機関での研修を組み合わせて実施することもある。
(ⅳ)教職経験者研修は,都道府県教育委員会等において,経験年数,職能段階に応じた研修が実施 されている。例えば,東京都教職研修センターでは,スクールリーダー育成を目的として「教員研究 生」養成の事業が展開されている22。このコースの場合6年以上の教師経験が応募資格となっており, 勤務校管理職の推薦,選考により,東京都教員研修センターへ 1 年間派遣となる。教育行政や教育課 題,教科指導に関するカリキュラム開発を行い,その間の配属校への補充として非常勤教員などの対 応がされている。また,応募資格4年~ 10 年の教員を対象として,「東京教師道場」事業が行われてい る。授業力,指導力向上を目的として経験年数の少ない教員が参加できるようになっている。2年間, 継続的に研修を行い,社会体験研修,大学院等派遣研修,学校組織マネジメント研修や自主研修(大 学院修業研修,修学部分休業,自己啓発研修)を通して,教科等の専門性を高めるプログラムとなっ ている。 ④現職研修の参加実態と効果 平成 27 年(2015 年)度の初任者研修,10 年研修実施状況の法定研修は,研修対象者が1名以上いた 全ての自治体各都道府県,指定都市,中核都市の教育委員会で実施されており,実施率は 100%である23 。 TALIS2013によると,日本における初任者研修は公立学校の正規雇用の教員に受講が義務付けられてい るため,他国に比べ研修に参加する教員の割合が高い結果となっている24。経験年数や職能段階に応じ て実施される教職経験者研修も,初等教育,前期中等教育において高い実施率がみられるが。この他 にも民間や大学からも研修が提供されている。例えば,2020 年度に導入予定の次期学習指導要領に基 づき,小学校英語の指導が喫緊の課題となっている。2017 年の夏休みには,全国で英語教育指導の研 修が実施され,小学校の教員たちが参加したと各メディアでは報じている25 。日本では,教員各自で職 能に関する課題や教科指導に関する研修を選択し参加している。教員研修における評価は行われてい るが,日本の場合,それが給与,職位,処遇等に影響するものにはなっていない。 ⑤教員に求められる資質能力 これまで日本では教師としての明確な「専門性基準」は存在してこなかった。「免許状主義」は「劣 悪な教育をチェックするには一定の効果がある」ものの「教師教育を硬直化させ画一化」させるとし て,「専門性基準」による養成,採用,研修,評価を推進すべきであるとの指摘もある(佐藤 2015, pp.5-6,p.26)。先に述べたとおり,近年日本では,教員の養成,採用,研修を一体としてとらえた職 能開発が促進され,長い教職生活を通して生涯学び続けることのできる教師が求められている26。これ を受けて地方自治体の教育委員会でも,教員が各キャリアステージで求められる具体的な能力を示し た教員育成指標を策定しようとしており,これを専門性基準として捉える傾向がある。しかし,専門 性基準は各キャリアステージを一貫する専門家としての学びの基準であって,教員育成指標のような 教職生活の各キャリアに応じて段階的に達成する目標ではなく,両者を同一視する傾向に対しては批 判もある(佐藤 2016)。 7.3ヶ国の研修制度にみられる特質の分析-まとめにかえて 以上,各国の教員研修制度の現状について論じてきた。かつてマレーシアや中国の教員問題は,慢 性的な教員不足を背景にした教員の量の確保が主であった。そのため,教員研修は学歴要件を満たす ための学位取得型の現職研修に重きが置かれてきた。しかしながら,近年需給バランスが整ってきた マレーシアと中国において,教員制度改革の目的は教員の質の向上・維持へとシフトしている。一方, 日本では教員の大量退職やそれに伴う教員の経験年数の不均衡という新たに生じた課題の下で教員研 修への重要性が高まっている。こうした背景や現状を踏まえて,本章では,教員研修の特質を明らか
表6 3ヶ国の教員研修制度の概要 マレーシア 中国 日本 教員をめぐ る議論 (改革動向 や課題) 〇教員の質向上と学力向上-マ レーシア教員スタンダード制定, キャリア・パッケージによる一 体化 〇コンピテンシーベースの教員 評価と連動した「各教員に見合 う」研修機会 〇「困難校」における校内研修 ―教授法 ○英語教員対象の研修 ○農村教員不足問題への対応 ○ 教 員 の 専 門 性 基 準( ス タ ン ダード)制定(2011)。資格認定 要件に。 ○資格更新制の導入と研修のリ ンク ○養成校,行政機関,学校の連 携による研修機会の提供 ○養成・採用・研修の一体化 ○学習指導要領改訂,教員養成 改革関連法改正 ( 教育公務員特 例 法, 教 職 免 許 法, 教 員 セ ン ター法 ) ○育成協議会による「指標」の 提示:求められる教師像の強化 ○ ( 独 ) 教職員支援機構の機能強 化 ○慢性的な教員不足→質を高め る策に転じる。 ○ 教 員 一 人 当 た り 児 童 生 徒 数 (2015)―初等 11.5/ 中等 11.7 Ex.2013 年 ~ 教 員 養 成 課 程( 学 士)申請者に占める成績優秀者 の割合を高める,卒業生の上位 30%を教師に採用 ○他の専門職に比べて社会的地 位が高くない ○教員の待遇改善(地位,給与 等)の要請 ○教員の質のばらつきによる教 育格差,農村教員不足 ○実践力不足 ○質向上に重点を置いた研修の 必要性 ○教師大量退職 , リーダー層人 材の不足 , 若手教員の離職など ベテランから若手への知識 , 技 能の伝承が図れない,若手のロー ルモデルの不在 →「教員研修」の重要性が高ま り。 ○英語 , 道徳 ,ICT, 特別支援教育 等の新たな課題への対応 ○社会環境の変化 , 学校環境の 変化 →学習指導要領の改訂 , 教員免 許制度改革 , 関連法の改訂等大 転換期 , 新たな教師像の打ち出 し 研修の目的 および 関連法制度 ○ 2013 年から継続的な職能開発 〇教員研修の原則―「各自治体 (州と地区)の教育事務所と学校 が,教師のコンピテンシー,知 識と専門性を世界水準まで高め るために努力する」(国家教育政 策)。 〇 1996 年 教 育 法 に て 研 修 カ リ キュラム規定。 ○「在職教員の思想政治及び業 務の資質向上のため」(「中小学 教師継続教育規定」1999) ○研修への参加は,教員の義務 であると同時に権利(「中小学教 師継続教育規定」1999)。 ○原則5年周期。初等中等学校 の全教員に5年間で 360 単位時 間以上の研修を規定。 ○任命権者は,新規採用された 教員と在職期間が 10 年に達した 教員に対し,研修を実施しなけ ればならない。 ○任命権者は,その研修につい て,実施に努めるなど研修奨励 の方策を講じなければならない。 研修機会の 提供機関 〇マレーシア教員養成機関○学校,大学,地区,州レベル の教育事務所等,教育省管轄機 関(教員養成機関,カリキュラ ム開発センター),国際機関で実 施。 ○私立機関もあり。 ○アミヌディン・バキ・インス ティテュートでは管理職研修。 ○国が定めた研修方針に基づき, 所属学校で行うのが基本。 ○各レベル地方政府が設置して いる研修機関でも実施。 ○近年は,師範大学等の養成機 関でも実施。 ○全国中小学教師継続教育サイ ト(http://www.teacher.com.cn/) でのオンライン研修の提供。 ○国が実施するもの:(独)教職 員支援機構において実施。 ○都道府県・指定都市・中核市 教育委員会が実施するもの:所 管の教育センター等において実 施。 ○ そ の 他: 市 町 村 教 育 委 員 会, 学校 , 教育研究団体,民間企業 等において実施。 研修内容 および形態 ○全教員年7日の研修義務。 ○教員養成機関では,学位取得 研修と現職教員研修。教授法や 専門的知識・技能に関わる内容。 ○各レベル地方政府は新しい政 策の導入に伴う内容。 〇校内研修ではカリキュラム, 評価,教授学に関わる内容。 ○1年以下の短期を基本とし, コース,ワークショップやセミ ナーが多い。平日開催が多い。 ○ オ ン ラ イ ン ビ デ オ な ど ICT を 活 用 し た 研 修- e-Guru video library と EduWebTV に よ る 教 授 法スキルの向上 ○ 研 修 内 容 は, 学 歴 取 得 研 修, 有資格教員対象の資質向上研修, 校長研修,教材研究,教授法研 修,コンピュータ研修等。 ○校内研修では,改革動向に応 じた研修(カリキュラム改革な ど)や教科ごとの教材研究を実 施。 ○中堅教員対象の国家レベル研 修も実施(2010 ~) 〇研修形態はパートタイム,期 間は短期を基本とし,DVD,イ ンターネット,衛星放送なども 利用。 ○国で実施するもの:中核教員 に対する学校管理研修。重要課 題について地方公共団体が行う 研修。 ○都道府県・指定都市・中核市 教育委員会が実施するもの:法 定研修 , 教職・職能に応じた研 修 , 専門的知識・技術に関する 研修 , 長期派遣研修 ○その他 , 学校内で行う研修 , 教 育研究団体等が実施する研修等 →職能に応じた多様な研修制度 , プログラムが設置 出所:文部科学省編 2005『諸外国の教員』pp. 10-11,田邊・杉本2005, pp. 120-124,手嶋2011等に基づき作成.
にするとともに,研修を通じていかなる教員の育成が目指されているのかを考察する。教員研修の国 際比較に際して,下記6つの観点から各国の共通点と相違点を明らかにする(表6)。 第1に,3ヶ国とも研修が義務であるという点には共通点が見られる。義務として,あるいは資格・ 免許・評価に結びついた研修であるため,研修への参加者は多い。 第2に,研修の目的・目標・内容にみられる力点には3ヶ国ともに共通点が見られる。すなわち, 教員全体の質の引き上げ(マレーシアと中国はそれに伴う社会的地位の向上)という課題や,教員の 資質向上と専門性の高い,実践的指導力を備えた教員の育成に重点がある点も共通している。さらに, 各国ともに養成・採用・研修の一体化という国際的な動向に沿う教員制度改革を実施している。 第3に,研修プログラムにおいて,力量形成が段階的に示されている国と示されていない国に分け られる。中国は,全教員対象の研修とともに,リーダー研修,農村教員対象研修,校長研修,クラス 主任研修など対象を細分化し,各対象に求められる資質能力に応じた研修を実施している。日本も中 国に先んじて対象を細分化した研修を実施してきた。一方,マレーシアでは,各種政策文書で,養成 と採用,評価と研修の一体化が教員制度改革の柱として明記されているが,中国や日本ほど対象を細 分化した研修は多くない。 第4に,研修実施機関やプログラムの多様性について各国ともに課題が残る。研修の内容や形態を 見てみると,中国や日本では学校単位の校内研修が積極的に実施されているものの,マレーシアでは スクールベースのコーチングによる研修は緒についたばかりである。とりわけ日本では長年校内研修 をはじめとする教師同士の日常的な学び合いによって教科指導や生徒指導上の力量形成に努めてきた ことから,日本の校内研修の取り組みにおける成果や課題をマレーシアや中国の校内研修の在り方を 考える上で共有することには意義が認められる。しかし,国レベルや地方レベルでは,どちらかとい えば,固定的な,短期間の集中研修プログラムが多いという点は3ヶ国に共通している。 第5に,上述した研修実施機関やプログラムの多様性と関連して,研修プログラム参加への自由度, プログラム選択の有無(教員の自主性,主体性の有無)について,教員個人が自主的にプログラムを 選択して参加する傾向は 3 ヶ国ともに低い傾向にある。TALIS2013及びTALIS2014の調査結果では,研 修への参加支援として「就業時間内に研修に参加するために予め時間の割り振りを受けた」と回答し た教員の割合はマレーシア 88.0%,中国 87.8%であり,調査参加国の1位,2位を占める(日本は 58.4%)(国立教育政策研究所 2014,p.133 ; 教師教学国際調査上海項目組2017,p.22)。教員全体の質 向上にとっては,統一的な内容による研修は一定程度効果があると認められる一方,研修参加に対す る教師の自主性や選択の多様性が十分に検討されていない点は今後の課題と言える。 第6に,資格・免許・評価を通じて示される,教員に求められる資質能力や専門性基準と研修との 関係である。マレーシアと中国では研修と教員評価が少なからずリンクしている。マレーシアの場合, コンピテンシーベースの専門性基準と新たに導入された教員評価とが連動しながら,経験年数ではな くむしろ力量に応じた研修機会を提供しようとしている点に特質が認められる。中国の場合,専門性 基準は 2011 年に試行されているが,現職教員の資質能力を実質的に図る指標は 2000 年前後から導入さ れている教員評価制度に基づく。つまり,経験年数や研修状況等を参考にしながら「徳(政治思想)」 「能(業務水準)」「勤(勤務態度)」「績(勤務成績)」の 4 点から評価し,教員の等級づけを行う。し かし同評価には具体的な評価方法等が定められておらず,評価基準も学校ごとに異なるといった問題 がある。今後中国の専門性基準がマレーシアのように経験年数ではなく力量に応じた,言い換えれば 能力(業績)ベースのスタンダードとして確立していくのか,それとも現在のように最低限の基準を 提示するにとどまるのか,その方向性は現時点では定かでない。研修と評価との結びつきが強くなれ ばなるほど,研修自体の意味が「評価のための研修」になってしまう可能性もある。翻って,日本の 場合,育成指標を専門性基準の具体化と捉えてよいかどうかという問題がある。専門家としての学び