山梨大学工学部研究報告 第51号 2002年
立体の類似検索を利用した
工程設計支援システムへのアプローチ
機械システム工学科古川進
1.はじめに
コンピュータ技術の発展に伴って,種々のCAD/CAMシステムが開発され広く利用されるように
なってきた.しかしながら,加工時における工作機 械の選定や機械の利用順序,工具の種類あるいは組 立手順などのような生産のプロセスを定めるプロセ スプランニング(工程設計)に関しては過去多くの 研究が報告されているのにもかかわらず,実用的に 使用できる工程設計システムの実現には至っていな い(1).設計・生産の能率をより高めるためには,信 頼性の高い工程設計支援(Computer Aided Process Pla皿ing:CAPP)システムの開発が急務である. 本稿においては工程設計に対する熟練技術者の有 する経験・知識のデータベースの構築と共に,先に 著者等が開発した3次元立体の形状の類似度を認識 する手法(2)を利用して工程を決定する方法について 考察する.また,工程設計支援システムの概念設計 について述べ,最後に本システムの実行例について 述べる. 2.立体の類似度の定量化手法について こでは省略して先に進むことにしよう. 凹部を有する多面体の類似度を計算するための基 本的な考え方は,凹の部分を仮想の立体で埋めてし まうか,可能なら本体から切り取ってしまうことに よって対象となる多面体をすべて凸多面体の集まり として表現することにしよう,ということである. このときどのような多面体も必ず一意に分解できる ことが絶対条件であるが,著者等の研究によれば一 意に分解できることが分かっている(2). 上述の考え方に基づいて凹部を有する多面体を実 体の存在する凸多面体と実体から取り去るべき凸多 面体の集合で表すことにして,それらをまとめてた とえば図1に示す立体の場合には図2のような2層 構造で表現することにする.図の+側が実体のある 部分を,一側が+側の立体から取り去るべき仮想の 凸多面体を表している.A
図1 立体の例 工程設計支援システムについて述べる前の準備と して,3次元立体(多面体)の類似度を定量化する ための方法について簡単に説明しておくことにしよ う. 凸多面体の類似度を計算する方法は比較的容易で ある.凸多面体はその構成頂点の位置が決まるとそ の形状が自動的に決まってしまうので,比較したい 凸多面体同士の頂点の位置のずれ量を計算すればよ いことがわかる.ここで,注意しなければならない ことは二つの立体の姿勢を一致させる必要があると いうことである.この作業は少し面倒であるが,こ 図2 2層構造の例 一11一山梨大学工学部研究報告
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0.029 LO72 L 0.217 小さい穴の部分が異なる.全体の構造が異なる. これを除いた場合0.362 図3 立体の類似度の計算例 2層構造で表された複数の立体に対して,まず① 構造が一致しているかの確認を行い,次に②対応す る凸多面体を特定し,③対応付けられた凸多面体の 類似度を計算する,最後に④各凸多面体の類似度を 集計して全体としての類似度を計算する,という手 順で多面体の類似度を計算する.図3に一つの立体Gに対して立体H∼Lの類似度
を計算した例を示しておく.図中に書かれている数 値は類似度であるが,本来は非類似度とも言うべき もので,値の小さい方が類似度が高いことになって いる.立体Gについて,すでに工程が分かっている として,たとえば立体H,1は極めて類似している ので同じ工程が利用できるであろう,立体Jは不 明,K, Lは同じ工程ではできそうもない,といっ たところであろうか. いろいろな立体に対して,一対比較法と呼ばれる 心理学的な測定法を利用して,人間の感覚による判 定結果に基づき類似の順位を決定してみた.20人の 学生に対して調査した結果とコンピュータによる計 算結果とのスピアマンの順位相関係数を求めてみた ところ,0.8を越える強い相関があることが分かっ た.ちなみに,被験者間の相関係数でもっとも低い 値が0.77であったことを考えれば,本手法はほぼ人 の判断と同じ程度の判定が可能である,という結果 になっていると言えるであろう.3.類似検索による工程設計支援システムの構
想 いろいろな形状に対して,熟練技術者があらかじ め加工手順などを決めて,それを表にまとめてお き,加工が必要になったときには,その表の中に同 じような形のものがあれば,すでに決められている 手順で加工することにすれば良いのではないか,と いう考え方は合理的なものであろう.この考え方は グループテクノロジの基本的な考え方と同じである が,コンピュータで類似形状を自動的に分類し, CAPPシステムとして構築するところに本研究の特 徴がある,といってよいであろうか. 本節では,上記の類似形状の認識に基礎をおいた 工程設計支援システムの基本的な考え方と,現在著 者の研究室で得られている若干の成果について述べ る.著者が構想しているCAD/CAPP/CAMシステム
の概念図を図4に示す. 図4から明らかなように,本システムは(1)部品の 形状および工程に関する工程設計用のデータベー ス,(2)工程設計用のデータベースから工程設計を行 うべき部品と形状が最も似ている部品を取り出す類 似検索システム,(3)取り出された部品の工程を再利 用して新たな工程および加工パラメータを設定する 設計 データ [=〉 デタ ベ ス 類似度 判定 fi 図4 CAD/CAPP/CAMシステムの構想図 一12一立体の類似検索を利用した工程設計支援システムへのアプローチ (a)データベースより抽出された立体 (b)新たに設計された立体 図5 データベース中の類似の高かった立体の例 工程設計システム,(4)(3)で設定された工程を使って 実際の加工を行うシステム(工具経路の決定なども 含む),によって構成される. 上記(1)のデータベースは工程の詳細データを記憶 しておく部分であり,ここが本システムの心臓部で ある.ここでは,たとえば工作機械の種類,チャッ キングの場所,主軸回転数,送り速度,切り込み量 などが熟練者の経験に基づいてデータ化されてい る,と考えていただきたい.また,②の類似検索シ ステムは新しい設計物の工程を定めるための極めて 重要な役割を果たす部分である. 著者の研究室においては,上記(1)∼(4)のシステム について並行的に研究・開発を進めている.現在, システム全体のプロトタイプの開発を終了し,これ からは実際に現場で利用されている工程データの収 集と設計データの比較,工程創成の実験的検証を行 う予定である. 図5に新たに設計した形状と最も類似度の高い立 体をデータベースから取り出した例を示す.図の(a) がデータベース中で最も類似度の高かったものであ り,(b)は新たに設計されたものを表している. 上記(b)の立体に対する試作システムの出力の例を 以下に示す. (1)底の面をフライス盤によって切削する. (2)上面をフライス盤によって切削する.斜めの面は ジグが必要である.ジグの形状と取り付け方も出 力される. (3)上面の穴をボール盤を使って切削する. (4)横の穴をボール盤を使って切削する.チャッキン グの方法も示される. 新たに設計された立体には,上面に2つの穴があ いているので,上記(3)の工程では,ボール盤を使っ て,2つの穴を加工することになる.このプロセス もコンピュータによって自動的に生成される.