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条約法に関するウィーン条約第60条に関する一考察(2) : 歴史的変容、多数国間条約への適用および5項の意義

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(1)条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). 論 説. 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2) ――歴史的変容、多数国間条約への適用および5項の意義――. 萩原 一樹 目次 第 1 章 問題の所在 第 2 章 条約違反を根拠とする条約の終了・運用停止規則の歴史的展開(以上、 第 23 巻第 1 号) 第 3 章 ‌‌条約違反を根拠とする条約の終了・運用停止のための手続の意義― 一方的廃棄権から黙諾のメカニズムへ(以上、本号) 第 4 章 条約違反を根拠とする条約の終了・運用停止に対する実体的制約 第 5 章 ‌‌多数国間条約への終了・運用停止規則の適用の拡大―法典化以前の理 論と実行 第 6 章 ‌‌ILC による多数国間条約の終了・運用停止規則の法典化―Fitzmaurice 草案から Waldock 草案へ 第 7 章 第 60 条 2 項の解釈―個別的対応と集団的対応の意義 第 8 章 第 60 条 5 項の射程(1)―成立過程および定義的アプローチ 第 9 章 ‌‌第 60 条 5 項の射程(2)―適用論アプローチ:条約類型論と条約廃棄 可能論 第 10 章 結論. 147.

(2) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). 第 3 章 ‌‌条約違反を根拠とする条約の終了・運用停止のための手続の 意義―一方的廃棄権から黙諾のメカニズムへ(le mécanisme de l’acquiescement)1) 第 60 条に法典化された終了・運用停止規則は、その法典化以前には一方的 廃棄権と称され、条約の双務性や国際社会の分権性を基礎に国際関係に適用可 能な規則として発展してきた 2)。相手国の条約違反を根拠とした条約の一方的 廃棄は、他方の当事国を条約の拘束力から解放することで消極的に当事国間の 契約的均衡を回復する 3)。その法的効果は、違反された条約の法的存在を消滅 させ、当事国間の関係に大きな影響をもたらす 4)。そのため、その発展過程に おいては、どのように濫用を防止し、違反により影響を受ける当事国の救済と 国際関係の法的安定のバランスを図りうるかが問われた。そこで、本章では、 一方的廃棄権に対する手続規則の発展過程を跡付け、それが条約法条約に結実 した意義を明らかにする。. 第 1 節 法典化前史 ‌18 世紀から国際法委員会(以下、ILC。 )による条約法の法典化が完了する前 までの一方的廃棄権に関する学説の多くは、条約違反がその事実それ自体とし て自動的に条約の廃棄をもたらすことはなく、相手方の違反を根拠に違反され 1)‌F. Capotorti, “L’extinction et la suspension des traités”, Recueil des Cours, tome 134 (1971-III), p. 563. 2)‌拙稿「条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1)―歴史的変容、多数国 間条約への適用および 5 項の意義―」 『横浜法学』第 23 巻 1 号(2009 年)115-124 頁。 3)‌B. Simma, “Reflections on Article 60 of the Vienna Convention on the Law of Treaties and Its Background in General International Law” Österreichische Zeitschrift für öffentliches Recht, vol. 20 (1970), pp. 20-21. 4)‌E. Zoller, Peacetime Unilateral Remedies: An Analysis of Countermeasures (Transnational Publishers, Inc., 1984), pp. 15, 27, 30-31. 148.

(3) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). た条約の廃棄を望む当事国(以下、援用国。 )5)に一方的廃棄権を生じさせるに 過ぎないという点で一致していた 6)。多くの学説、判例、政府見解等が一方的 廃棄権を肯定し、国際関係における適用の妥当性を強調した一方で、援用国が 具体的にどのような過程を経て条約違反を根拠に違反された条約を廃棄しうる のかという点について詳細に論じたものは多くない 7)。 条約違反を根拠に条約が一方的に廃棄される過程について論じた若干の学説 や判例によれば、援用国は、自国がもはや当該条約に拘束されない旨を宣言し、 5)‌相手方の条約違反を援用して条約を廃棄しようとする当事国を示す一定の用語は、とく に な い。例 え ば、ハーヴァード 草案 は、非違反国(innocent party)の 語 を 用 い る。非 違反国とは違反された「条約の当事国であって、当該違反を犯しておらずかつその原 因を作り出していない当事国」と定義される。 (Harvard Research in International Law, Codification of International Law: Part III--Law of Treaties, Supplement of American Journal of International Law, vol. 29 (1935), p. 1078. [Harvard Research] ただし、実行上は相手国の違反 を援用した国が違反を犯していないかどうか、違反の原因を作り出していなかったかどう かは当事者間で争われうる。 (Book Review by K. Marek, Harvard International Law Journal, vol. 10 (1969), p. 407. )そこで、本稿では、こうした点を考慮し、相手方の条約違反を援用 して条約を廃棄しようとする当事国を「援用国」とする。 6)‌M  . M. Gomaa, Suspension or Termination of Treaties on Grounds of Beach (Martinus Nijhoff Publishers, 1996), p. 95; Simma, supra note 3, p. 26; B. P. Sinha, Unilateral Denunciation of Treaty Because of Prior Violations of Obligations by Other Party (Martinus Nijhoff, 1966), pp. 83-84; P. Guggenheim, Traité de droit international public, tome I (Librairie de l’Université, Georg & Cie S. A., 1953), p.117; J. Spiropoulos, Traité théorique et pratique de droit international public (Librairie Générale de Droit et de Jurisprudence, 1933), p. 257; A. Cavaglieri, “Règles du droit de la paix”, Recueil des Cour, tome 26 (1929-I), pp. 534-535; A.-F. Frangulis, Théorie et pratique des traités internationaux (Rédaction Administration, 1934), p. 136; Ch. G. Fenwick, International Law (The Century Co., 1924), p. 342; C. Phillipson, Termination of War and Treaties of Peace (Fisher Unwin, 1916), pp. 205-206; T. D. Woolsey, Introduction to the Study of International Law: Designed as an aid in teaching, and in historical studies (6th ed. by T. S. Woolsey, Scribners, 1891), p. 172; J. Kent, Kent’s Commentary on International Law: Revised with notes and cases brought down to the present time, (J. T. Abdy (ed.), Deighton, Bell and Co., 1866), p. 419; E. De Vattel, The Law of Nations or the Principles of Natural Law, Applied to the Conduct and to the Af fairs of Nations and of Sovereigns, translation of the edition of 1758 by Ch. G. Fenwick; with an introduction by Albert de Lapradelle, Classics of International Law, No. 4, vol. III (Carnegie Institution of Washington, 1916), p. 177; Ch. Wolff, Jus Gentium Methodo Scientifica Pertractatum, trans. Joseph H. Drake, Classics of International Law, No. 13, vol. II (Clarendon Press, 1934), p. 226. 7)‌See Harvard Research, supra note 5, pp. 1077-1084. 149.

(4) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). 条約を廃棄する意思表示を行うことによって条約を廃棄することができるとさ れる 8)。また、その宣言は、行政府により外交経路を通じてまたは立法府によ る国内法の制定を通じて行われるとされる 9)。 さらに、学説上、その過程において、一定の手続的要件を満たす必要がある と主張するものもある。例えば、Guggenheim らによれば、援用国は、違反が 生じた場合、 違反国に対して合理的な期間内に履行の再開を請求し、 それによっ て履行再開がなされない場合にのみ、条約を廃棄することができる 10)。また、 Dahm らは、違反国とされた当事国が違反の事実などを争い、関係当事国間に 紛争を生じた場合、関係国が解決についての合意に至らず、または第三者機関 に紛争を委ねることについての合意に達することができなかった場合にのみ、 援用国は、違反された条約を一方的に廃棄することができるとする 11)。 8)‌例 え ば、D. Anzilotti, Cours de droit international, vol. I (trans. G. Gidel, R. Sirey, 1929), p. 466; Cavaglieri, ibid., p. 534. ま た、Ware Administrator v. Hylton et al 事 件(A. J. Dallas, Reports of Cases Ruled and Adjudged in the Several Courts of the United States and of Pennsylvania Held at the Seat of the Federal Government, vol. 3, (Originally published in 1799, reprinted by William S. Hein & Co., Inc.,1968), p. 261.)お よ び Hooper v. United States 事件(Court of Claims, vol. 22 (1887), p. 408.)。 9)‌例えば、In re Lepeschkin 事件 (Annual Digest of Public International Law Cases (1923-1924), pp. 324.)および Security for Costs (Switzerland) 事件(International Law Reports (1950), pp. 309-310.)において、それぞれの判決を下した裁判所は、条約の廃棄を宣言する権 限を有するのは政治的な役割を担う国内機関であるとした。なお、国家による対外的 な条約の終了・運用停止と国内裁判所の関係については、B. Conforti and A. Labella, “Invalidity and Termination of Treaties: The Role of National Courts”, European Journal of International Law, vol.1, (1990), pp. 44-66. 10)‌Guggenheim, supra note 6, p. 117; L. Oppenheim, International Law: A treatise, vol. I 8th ed. by H. Lauterpacht (Longmans, 1955), p. 948; G. Dahm, Völkerrecht, Band III (W. Kohlhammer, 1961), p.138; F. Berber, Lehbuch des Völkerrechts, Band I (C. H. Beck, 1960), p. 475; Lord McNair, The Law of Treaties (Clarendon Press, 1961), p. 571. ま た、 このような考え方は、Wolf の記述にも見られる。Wolf によれば、条約違反を根拠と ‌する条約の廃棄は、履行の強制が不成功に終わった場合にとりうる選択肢として位置 づけられる。Wolff, supra note 6, pp. 225-226. 11)‌Dahm, ibid., pp. 137-138; M. Sibert, Traité de drot international public, tome II (Dalloz, 1951), p. 299. 150.

(5) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). 相手国の条約違反を根拠として一方的に条約が廃棄されたと考えられる例と して、ここでは、1778 年から 1788 年にかけて締結された米仏諸条約、1832 年 の米露通商航海条約、1899 年および 1936 年に締結されたエジプト・英国間の 諸条約に関する事例を取り上げる。 米国とフランスは、1778 年から 1788 年にかけて、領事、通商関係等に関す る諸条約(以下、米仏諸条約。 )を締結した 12)。締結当初から、両国間に同諸 条約の解釈適用を巡る外交上の対立が生じたが、条約の廃棄にとって決定的な 契機となったのは、1796 年に米国が英国との間で締結した、いわゆるジェイ 条約であった 13)。フランスは、ジェイ条約の締結は、米仏諸条約の不可欠な 規定を同意なしに修正または停止したに等しいと非難した 14)。これに対して、 米国は、フランスによる度重なる条約違反を非難し、これを理由に、1798 年 7 月 7 日に国内法を制定し、米仏諸条約を一方的に廃棄した 15)。 これに対し、フランスが米国による一方的廃棄は認められないとして争っ たため 16)、両国は、その後、外交交渉を重ねて問題の解決を試みた。その結 果、1800 年に締結された条約(以下、1800 年条約。)により、米仏諸条約の 廃棄を定めると共に、これまでに合意に至らなかった問題を将来の交渉に委 12)‌Treaties and Conventions, International Acts, Protocols and Agreements Between The Unated States of America and Other Powers, Since July 4, 1776, revised ed.. (U.S. Government Print Office, 1873), pp. 241-244, 244-253, 260-266 respectively. [Treaties and Conventions] 13)‌J. B. Moore, History and Digest of International Arbitrations to which the United States has been a Party, vol. V (Government Printing Office, 1898), pp. 4339-4420 [Moore, History]; Sinha, supra note 6, pp. 106-107. 14)‌American State Papers, Foreign Affairs, 1789-1797, vol. I, p. 739. 15)‌J. B. Moore, A Digest of International Law, vol. V (Reprint of 1906 ed. AMS Press, 1970), pp. 356-367. 16)‌フランスは、米国による米仏諸条約の一方的廃棄が、戦争を誘因する行為であるとして、 これを非難した。American State Papers, Foreign Relations (1797-1807), vol. II, p. 331. 151.

(6) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). ねることとした 17)。 1832 年の米露通商航海条約 18)は、ロシア国内のユダヤ人政策が同条約に抵 触するとして、米国により一方的に廃棄された。契機となったのは、1903 年 春にキシニョフ(キシナウ)で発生したの大規模なユダヤ人迫害事件であった。 さらに、その後、ロシアが、自国から米国に帰化したユダヤ人に発給された米 国パスポートの承認を拒否するなどしたため、米国内において 1832 年の米露 通商航海条約の廃棄を求める政治的圧力が高まった。その結果、1911 年 12 月 に条約廃棄を求める合同決議が上下両院を通過した 19)。合同決議が上院で可 決されるの先立ち、Taft 大統領は、条約の廃棄を承認した 20)。Sulzer 下院外 交委員会委員長が提出した決議案は、ロシアによる条約違反を厳しく非難する ものであったが 21)、上院で採択された合同決議は、同条約第 12 条に定められ た通告による条約の廃棄を意図するものとして、ロシア側に対する配慮がなさ 17)‌1800 年 条 約 第 2 条。Treaties and Conventions, supra note 12, pp. 266-267; Moore, History, supra note 13, p. 4431. 18)‌Treaty of Commerce and Navigation with Russia, Treaties and Conventions, ibid., pp. 735-739. 19)‌以 上 の 経 緯 に つ い て は、Sinha, supra note 6, pp. 133-134; C. A. Bradley, “Treaty Termination and Historical Gloss” Texas Law Review, vol. 92 (2014), p. 795; E. V. Fedorova, “Abrogation of the Russian-American Trade Treaty of 1832 and the U. S. Press” The Macrotheme Review, vol. 3(6)(2014), pp. 18-37; N. W. Cohen, “The Abrogation of the RussoAmerican Treaty of 1832” Jewish Social Studies, vol. 25 (1) (1963), pp. 3-41; J. S. Reeves, “The Jones Act and the Denunciation of Treaties” American Journal of International Law, vol. 15 (1921), p. 36; Y. Hunter, Sacred Suspicion: Religion and the Origins of the Corld War, 1880-1948, (Ph.D. Thesis, McMaster University, 2014) [unpublished], pp. 40-45 <https://macsphere. mcmaster.ca/handle/11375/16568>. 20)‌United States Department of State, Papers relating to the foreign relations of the United States with the Annual Message of the President Transmitted to Congress December 7, 1911 (Government Printing Office, 1918), pp. 695-699. 21)‌US. Congress, House, Committee on Foreign Afairs, Abrogation of the Russian Treaty, December 12, 1911, 62nd Congress, 2nd Session, House of Representatives, Report No. 179, pp. 2-14. 152.

(7) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). れた 22)。一連の過程は、ロシアの条約違反を理由として同条約の廃棄を求め る動きを示すものであったが、Sinha によれば、同条約の廃棄は、法的には、 同条約第 12 条に基づく通告によるものと解される 23)。 1936 年のエジプト・英同盟条約 24)および 1899 年のスーダンの共同統治に 関する諸協定 25) (以下、エジプト・英諸条約。 )は、1951 年 10 月 15 日にエジプ ト議会で制定された国内法に基づき、一方的に廃棄された 26)。第二次世界大戦 後、エジプトは戦前から続く英国の影響から脱し、英埃領スーダンに対する 領土的野心を実現するため、スエズ運河を含む国内からの英国軍の撤退につい て英国との交渉に臨んだが、不調に終わった 27)。エジプト政府は、エジプト・ 英諸条約の廃棄を決定し、同年 10 月 8 日、議会に法案を提出した。当時のエ ジプト首相 Mustafa El Nahas は、一方的廃棄の正当性を示すため、事情の根 本的な変更等いくつかの根拠を挙げ、その 1 つとして、英国が 1936 年のエジ プト ・ 英同盟条約の定める上限を超えて軍を国内に駐留させたことが条約違反 に当たると主張した 28)。同法案は、10 月 15 日に可決され、同日をもって、エ 22)‌US House Joint Resolution166, Providing for the termination of the treaty of eighteen hundred and thirty-two between the United States and Russia, 62nd Congress, 1911. 23)‌Sinha, supra note 6, p. 135. 24)‌Treaty of Alliance between His Majesty, in respect of the United Kingdom, and His Majesty the King of Egypt, available at Foreign and Commonwealth Office, UK Treaties Online <http://treaties.fco.gov.uk/docs/pdf/1937/TS0006.pdf> 25)‌British and Foreign State Papers, vol. 91 (1898-1899), pp. 19-22. 26)‌Sinha, supra note 6, pp. 171-175; Ch. B. Selak, Jr., “The Suez Canal Base Agreement of 1954” American Journal of International Law, vol. 49 (1955), pp. 487ff., esp. 493; The Department of State, Bulletin, vol. XXV, no. 643, 22 October 1951, p. 647. 27)‌Selak, ibid., pp. 492-493. 28)‌Statement in Parliament by H.E. Mustafa El Nahas Pasha, President of the Council of Ministers, on Monday October 8th, 1951, in Ministry of Foreign Affairs, Records, of Conversations, Notes and Papers Exchanged Between The Royal Egyptian Government and the United Kingdom Government (March 1950-November 1951), pp. 168-178, esp. 176-177. 153.

(8) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). ジプト・英諸条約は廃棄された。 このエジプトによるエジプト・英諸条約の一方的廃棄に対し、英、米、仏が これを非難し、条約の継続を主張したのに対し、アラブ諸国はエジプトの決定 を支持した 29)。エジプトと英国は、1954 年に新たな条約を締結し 30)、その第 2 条において英国が 1936 年の同盟条約の廃棄を宣言することで、両国間にエジ プト・英諸条約の廃棄に関する合意が形成された。この規定の挿入は、エジプ トによる一方的廃棄を巡る両国間の紛争の再燃を防ぐことが目的であった 31)。 上述した、条約の一方的廃棄が実施されたと考えられる事例に対し、相手方 の違反を指摘し、それを根拠として自国が一方的廃棄権を有することを主張し つつも、それらが外交上の応酬にとどまったり、関係国を取り巻く政治的、経 済的な事情により条約の廃棄にいたらなかった例も多い 32)。例えば、1783 年 9 月 3 日の英米間の平和条約 33) (以下、1873 年条約。 )に関して、米国によれば、 同条約第 VII 条に定められた英国軍の撤退に際し、英国軍がニューヨークなど から黒人を連れ去るなどの条約違反があった 34)。当時の米国国務長官 Jefferson. 29)‌Sinha, supra note 6, p. 174. 30)‌Agreement between the Government of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland and the Egyptian Government regarding the Suez Canal Base, available at Foreign and Commonwealth Office, UK Treaties Online <http://treaties.fco.gov.uk/ docs/pdf/1955/TS0067.pdf> 31)‌Selak, supra note 26, p. 495 32)‌Sinha, supra note 6, pp. 104-193. 33)‌W. M. Malloy, Treaties, Conventions, International Acts, Protocols and Agreements Between The Unated States of America and Other Powers, 1776-1909, vol. I (U.S. Government Print Office, 1910), pp. 586-590. [Malloy, Treaties] 34)‌Treaties and Conventions Concluded Between the United States of America and Other Powers, Since July 4, 1776 (Government Printing Office, 1889), Notes by J. H. Haswell, p. 1318. [Treaties and Conventions 1898] 154.

(9) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). が駐米全権公使 Hammond に宛てた 1792 年 5 月 29 日付の書簡は、この件に関 して、米国が現地の英国軍司令官に対して抗議を行ったにもかかわらず、英国 による違反が繰り返されたとして、米国が一方的廃棄権を有することになると 主張した 35)。しかし、実際には、1783 年条約は、かかる違反を理由として廃 棄されることはなかった。1783 年条約の継続は、1812 年の英米戦争後の両当 事国間の外交上のやり取りから見て取れる。英米戦争の戦後処理において、英 国は、同戦争の法的効果として、1783 年条約は廃棄されたと主張したのである が、米国は、逆に、同条約の継続を主張した 36)。米国が同条約の継続を主張し たのは、戦後処理と領域画定のために締結されたガン条約 37)が 1783 年条約上 保障された米国の漁業権について定めなかったためである 38)。この外交上のや り取りから、少なくとも同戦争までは、両国によって 1783 年条約が有効なも のとみなされていたと考えられる。 また、1924 年の米国移民法を巡って、日本人移民を制限する同法の成立 が 1907 年から 1908 年にかけて日米間で交わされた覚書に基づく紳士協定お よび 1911 年の日米通商航海条約に違反するとして、日米間で問題となった 35)‌Mr. Jefferson, Secretary of State of the United States, to Mr. Hammond, Minister Plenipotentiary of Great Britain, American State Papers, Foreign Relations, 1789-1797, vol. I, pp. 201-237, esp. 207. 36)‌Extract of a letter from Mr. Adams to Earl Bathurst, American State Papers, Foreign Relations, vol. 4, pp. 352-354; Lord Bathurst to Mr. Adams, ibid., pp. 354-356; Reply to the note of Lord Bathurst, ibid., pp. 356-359. 37)‌British Foreign State Papers, 1814-1815, vol. 2, pp. 357-364. 38)‌Treaties and Conventions 1898, supra note 34, Notes by Haswell, p. 1237. な お、1783 年 条約 の継続的な有効性に関する両国の見解の相違を生み出した事実上の背景である漁業権に ついては、1818 年の条約(漁業、領域および奴隷の回復に関する条約)の締結によって 解 消 さ れ た。Treaties and Conventions 1898, supra note 34, pp. 415-418. See also The North Atlantic Coast Fisheries Case (Great Britain, Unated States), Report of International Arbitral Awards, vol. XI, p. 171 <http://legal.un.org/riaa/cases/vol_XI/167-226.pdf>. 155.

(10) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). 事例がある。同法の制定に際して、日本側からの抗議および米国国務長官の 進言もあり、3 条(6)に「現行通商航海條約ノ規定ニ準據シ單ニ商業ヲ營 ム目的ヲ以テ合衆國ニ入國シ得ル外國人」を制限から除外する旨が挿入され、 日米通商航海条約との整合性が図られることとなった 39)。しかし、紳士協定 については、同法の成立により廃棄されるうるとの見解が双方によって示さ れた 40)。とくに、米国国務長官が埴原駐米大使に手交わした米国政府回答は、 同法の成立が紳士協定の履行条件に合致せず、ゆえに、同法の発効によって 日本政府が紳士協定の履行を免れうるという見解に対して、米国政府はそれ に同意せざるを得ない、と述べて、日本の一方的廃棄に同意する旨が記され た 41)。ただし、かかる一方的廃棄は、非拘束的合意である紳士協定に関する ものであって、日米通商航海条約に関するものではなかったことに留意する 必要がある。 米国の移民政策を巡る同様の事例として、中米間の諸条約に関する紛争では、 米国が自国の条約違反を争わず、相手国に一方的廃棄権が生じることを認めた ものの、中国は政治的状況を考慮し、条約の廃棄は行われなかった 42)。 また、パナマ運河の中立を定めた英米間の 1850 年のクレイトン・ブルワー 条約 43)を巡っては、外交上、相手国の条約違反を理由として、同条約を一 39)‌瀬川善信 「一九二四年米国移民法と日米外交」 『国際政治』 第 26 号 (1964 年)55-71 頁、L. A. Makela, “The Immigration Act of 1924” in D. T. Nakanishi & J. S. Lai (eds.), Asian American Politics: Law, Participation, and Policy (Rowman & Littlefield, 2003), pp. 51-80, esp. 57. 訳 文 は、外務省編『一九二四年米国移民法制定及之ニ関スル日米交渉過程〔本編〕 』 (朝陽会、 大正 13 年)巻末資料「北米合衆國移民法」3-4 頁(コマ番号 101-102)<http://kindai.ndl. go.jp/info:ndljp/pid/957177> 40)‌外務省編、同上、155 頁。 41)‌同上、171-172 頁。 42)‌Sinha, supra note 6, pp. 129-130. 43)‌Convention Between the United States of America and Her Britannic Majesty, Treaties and Conventions, supra note 12, pp. 377-380. 156.

(11) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). 方的に廃棄する可能性が示されたものの 44)、実際には、一方的廃棄権は行使 されず、後に当事者間で締結された 1901 年のヘイ・ポンスフォート条約に よって廃棄された 45)。 上述した諸事例から、外交上、相手方の条約違反を指摘し、自国が一方的 廃棄権を有する旨を主張することは、一般的に行われていたと考えられる。 また、実際に、外交上のやり取りの後に、国内法の制定などを通じて条約を 廃棄した例もみられる。他方で、両国間に一方的廃棄の有効性を巡る紛争が 生じ、その後の交渉を通じて両当事国が改めて当該条約の廃棄について合意 することで紛争解決が図られた事例や、相手方の条約違反を非難した後も一 方的廃棄を行わない場合もあり、かかる外交上のやり取りが一方的廃棄権に 関する手続として法的に要求されたものであったのか、単に外交交渉の過程 に過ぎないのか、明らかではない。 このような手続の曖昧さに着目し、外交上の合意形成過程を重視したのが 次節でみる一方的廃棄権否定論である。. 第 2 節 一方的廃棄権否定論 上述した諸学説が一方的廃棄権の国際関係における適用の妥当性を肯定し、 その上で手続的な制約を考慮したのに対して、手続の不確定さに着目し、条約 の法的安定性をより重視して一方的廃棄権を否定した学説がある。それらは、 一方的廃棄権の手続を明確化し、関係国間の合意または国際裁判等の決定に基 づく条約の廃棄だけを認める立場をとることで、援用国による一方的な条約の 廃棄を否定した。この立場は、実体的制限として導入される違反の重大性や条 44)‌クレイトン・ブルワー条約について生じた紛争からヘイ・ポンスフォート条約への一連 の過程については、J. B. Moore, A Digest of International Law, vol. III (Government Printing Office, 1906), pp. 130-210. 45)‌ヘイ・ポンスフォート条約第 1 条。Malloy, Treaties, supra note 33, pp. 782-784. 157.

(12) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). 項の可分性といった考慮が援用国の主観に依存するものであるため 46)、条約 の法的安定性を考慮する観点からは十分でないという認識に基づき、手続的制 限に重きをおいたものである。 条約法条約の成立以前において、この点でもっとも先駆的な見解であったと 考えられるのは、Fiore の学説である。彼は、相手方が条約の実施を停止した 場合には、自国も対抗的に条約の実施を停止させることができるとし、一時的 な条約の停止を容認する一方で、条約を廃棄することができるのは、交渉によ る当事国の合意または国際裁判もしくは国際会議の決定に基づく場合に限られ ると主張した 47)。 Fiore と同様に関係当事国間の合意に着目したハーヴァード草案は、当事国 の合意に基づく国際裁判の判決に従ってなされる条約の廃棄だけを認め、判決 が下されるまでの間、条約の履行を一時的に停止することができると定めた。 「第 27 条 条約義務の違反 46)‌実体的制限が援用国の主観的判断に依存するという見解につき、A. Verdross, Yearbook of the International Law Commission, 1963, vol. I, p. 125, para. 48. See also Simma, supra note 3, pp. 28, 31; J. L. Briely, The Law of Nations, 6th edition, ed. by Waldock (Oxford University Press, 1963), pp. 327-328; 経塚作太郎「条約違反と条約の終了―ウィーン条約法条約第 60 条 の 研究―」森川俊孝(編) 『紛争 の 平和的解決 と 国際法』 (皆川洸先生還暦記念) (北 樹出版 1981 年)304 頁。 47)‌P. Fiore, International Law Codified and its Legal Sanction or the Legal Organization of the Society of States (Trans. from the 5th Italian ed. with an Introduction by E. M. Borchard) (Baker, Voorhis and Company, 1918), p. 340, para. 788. 同書において、Fiore は、既存の国際法規 則の記述ではなく、組織化の進まない国際社会の当時の現状を踏まえ、それを促すべく、 将来にわたり国際社会を規律すべき法( 「“common” law」 )を立法論の形で提示しようと した。Fiore によれば、 「“common” law」の確立に向けて先鞭をつけたのは、1856 年の 「海 上法ノ要義ヲ確定スル宣言」であった(ibid., pp. 1-28.) 。また、Borchard が評したように、 ハーグ会議の成功は、Fiore の立法論が実現する可能性を示すものであったが、Fiore 自 身は、本書における提案のすべてが直ちに実定法になるという考えには否定的であった。 Ibid., pp. vi-vii. したがって、Fiore の一方的廃棄権に関する記述もかかる文脈において理 解されるべきである。 158.

(13) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). (a)国家が条約上の義務を誠実に履行することを怠った場合、他のいずれかの 条約当事国は、不履行が生じてから合理的な期間内に、権限を有する国際裁判 所に対して、当該条約が自国に関して将来の履行を要求されるという意味での 拘束力を失ったとする宣言を請求することができる。 (b)当事国による合意及び権限を有する国際裁判所の判決までの間、前項の 宣言を請求する当事国は、不履行の責任を負う国家に対して当該条約に基づく 自国の義務の履行を暫定的に停止することができる。 (c) (a)項の宣言を請求する当事国による履行の暫定的停止は、権限を有する 国際裁判所の判決が下されるまで、最終的に正当化されない。 」48) ハーヴァード草案の一方的廃棄権に対する懐疑的な姿勢は、その歴史的発展 過程において表明されてきたさまざまな制約も、その運用が援用国の主観的判 断に委ねられてしまえば、一方的廃棄権の濫用を防ぐことはできないという批 判に基づく。 「・・・ 多くの論者と少なからぬ外交官は、・・・ 国家が条約上の自国の義務を一 方的に終了させる権利を有していると主張してきたが、ほとんどの者は、若干 の疑念をもちつつそのように主張し、終了させる権利が容易に濫用されること も承認してきた。かかる濫用を避けるために、終了させる権利は、最終手段と してのみ行使されうると主張したり、深刻な違反もしくは条約上の不可欠の規 定の違反の場合にのみ行使できると主張することで、この権利を限定しようと する者もいた。しかし、かかる制限は、条約を終了させようとする当事国の判 断のみに委ねられるとすれば、まったく効果のないものとなってしまう」49)。 48)‌Harvard Research, supra note 5, p. 662. 日本語訳にあたって、経塚作太郎『条約法の研究』 (中央大学出版会、1967 年)582 頁および山本良「条約の違反に対する対抗措置(1)― 条約法条約第 60 条と一般国際法上の復仇の関係に関する一考察―」 『宮城教育大学紀要』 第 35 巻(2000 年)58 頁を参照した。 49)‌Harvard Research, ibid., p. 1089. 159.

(14) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). さらに、ハーヴァード草案が一方的廃棄権を否定する論拠としたのは、こ の問題に関する古典的な事例とされる上述した米仏諸条約および 1856 年パ リ条約に関する実行に対する評価である。 ハーヴァード草案は、米仏諸条約の廃棄を、米国による一方的廃棄ではな く、1800 年条約の締結による廃棄と解した。前節でみたように、フランスは、 米国による米仏諸条約の一方的廃棄を受け入れず、両国間の外交交渉の結果、 1800 年条約第 2 条において、米仏諸条約の廃棄が定められた。かかる過程を 重視し、ハーヴァード草案は、米仏諸条約の廃棄を合意に基づくものとみなし たのである 50)。 1856 年パリ条約に関しては、多数国間条約に関して考察した第 5 章において 詳細に論じることとし、ここでは、次の点を指摘するにとどめる。ハーヴァード 草案が重視したのは、パリ条約の廃棄が、ロシアによる一方的廃棄の通告にも かかわらず、最終的にはロンドン議定書の締結の結果として生じた点である 51)。 ハーヴァード草案は、これらの国家実行を踏まえ、条約が廃棄される過程に おける当事者間の合意を重視した 52)。ハーヴァード草案の起草に際して報告者 を務めた Garner は、Jobst と共に公表した論文においても、同様に、条約の廃 棄における明示または黙示の同意の形成を重視する立場を示した 53)。それに加 えて、当時の国際聯盟の下で構築された紛争の平和的解決の制度と国際法の制 度化に対する過度の期待が、一方的廃棄権を否定し、国際裁判に基づく条約の 廃棄だけを定める条文草案を作り出したと考えられる 54)。そのため、ハーヴァー 50)‌Ibid, p. 1086. 51)‌Ibid., pp. 1088-1089. 52)‌Ibid., pp. 1084-1090. 53)‌J. W. Garner & V. Jobst III, “The Unilateral Denunciation of Treaties by One Party Because of Alleged Non-Performance by Another Party or Parties”, American Journal of International Law, vol. 29 (1935), pp. 569-585. 54)‌S. Rosenne, Breach of Treaty (Grotius, 1985), p. 9; 経塚「前掲論文」 (注 46)304-5 頁。 160.

(15) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). ド草案は、立法論に過ぎないとの批判を免れなかった 55)。 以上のように、ILC による条約法の法典化以前における、一方的廃棄権を制 限する手続的考慮に関して、学説は、条約違反それ自体が自動的に条約を廃棄 するものではないという点で一致していたものの、どのような手続を経るべき かについては、一定の段階を踏むべきとする見解から関係当事国間の合意また は第三者機関による裁定に基づくべきとする一方的廃棄権否定論まであって、 一致はみられなかった。 実行上は、相手方の条約違反を非難し、自国が一方的廃棄権を有することを 主張することが普通に行われていた。しかし、それが法的義務として行われて いたのか、単に外交上の交渉過程の一部として行われていたのか、明らかでは ない。したがって、条約法条約の手続規則は、条約違反を根拠とする条約の廃 棄に関する手続の曖昧さを払拭し、廃棄を求める当事国が踏むべき手続的段階 を確立した点に意義があると考えられる。そこで、次節において、この点を明 らかにする。. 第 3 節 黙諾のメカニズムへ―条約法条約第 65 条 条約法条約第 42 条 2 項は、 「条約の終了若しくは廃棄又は条約からの当事国 の脱退は、条約又はこの条約の適用によってのみ行うことができる」とし、運 用停止についても同様とする旨定める。1966 年草案第 39 条(現在の第 42 条) に付されたコメンタリーによれば、 「この条約の適用」の文言には、実体的規 則だけでなく手続的規則も含まれる 56)。第 5 部は、無効・終了原因を網羅的 55)‌経 塚、 同 上、Sinha, supra note 6, p. 26; Simma, supra note 3, p. 43. Cf. C. C. Hyde, International Law Chiefly as Interpreted and Applied by the United States, vol. II (2nd revised ed., Little, Brown & Co., 1945), p. 1542; Gomaa, supra note 6, pp. 81-82. 56)‌小川芳彦訳 「資料国際法委員会条約法草案のコメンタリー(4) 『 」法と政治』 (関西学院大学) 第 20 巻第 1 号(1969 年)116 頁。 )116 頁。 161.

(16) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). に列挙しており 57)、そのすべてが条約法条約の定める手続に付される 58)。第 60 条は、第 5 部の一部を構成し、終了・運用停止原因としての条約の重大な 違反について規定する。したがって、第 42 条により、重大な違反を援用する 当事国は、第 65 条以下の手続にしたがって、終了・運用停止を実施に移すこ ととになる。 また、第 60 条 2 項(a)に定められた集団的対応の場合を除き、1 項、2 項 (b)および(c)は、それぞれの規定が定める個別の当事国が条約の重大な違 反を終了・運用停止の「根拠として援用することができる」と定める。第 45 条の表題によれば、この権利は、 「根拠を援用する権利」である。この「根拠 として援用する」という定式は、それ自体、手続との連結を示している。この 点に関連して、2 項(a)には、 「根拠として援用する」定式が用いられていな いことに留意すべきである。ウィーン会議において、 英国は、2 項(a)にも「根 拠として援用する」定式を用いるべきであるとの修正案を提出した 59。しかし、 この英国修正案は、3 分の 2 以上の賛成を得ることができずに否決された 60。 したがって、2 項(a)の場合には、違反国以外の他の当事国は、 「一致して合 57)‌小川、同上。なお、条約法条約における無効、終了および運用停止原因の網羅主義に関 する批判として、Capotorti, supra note 1, p. 519; I. Sinclair, The Vienna Convention on the Law of Treaties, 2nd ed. (Manchester University Press, 1984), pp. 162-165; P. Reuter, Introduction au droit des traités, 2ème édition (Presses Universitaires de France, 1985), p. 159. 58)‌S  inclair, ibid., p. 161; S. Rosenne, “The Settlement of Treaty Disputes under the Vienna Convention of 1969”, Zeitschrift für ausländisches öffentliches Recht und Völkerrecht, vol. 31 (1971), pp.35-36; Waldock (Expert Consultant), United Nations Conference on the Law of Treaties, First Session, Vienna, 26 March-24 May, 1968,Official Records, Summary records of the plenary meetings and of the meetings of the Committee of the Whole, vol. 1 (William S. Hein & Co., Inc., 2001), p. 441, para. 21. 59)‌A/CONF.39/L.29, reproduced in United Nations Conference on the Law of Treaties, First and Second Sessions, Vienna, 26 March-24 May 1968 and 9 April-22 May 1969,Official Records, Documents of the Conference, vol. 3 (William S. Hein & Co., Inc., 2001), p. 269. 60)‌United Nations Conference on the Law of Treaties Second Session, Vienna,9 April-22 May 1969,Official Records,, Summary records of the plenary meetings and of the meetings of the Committee of the Whole, vol. 2 (William S. Hein & Co., Inc., 2001), p. 115, para. 61. [Official Records, vol. II] 162.

(17) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). 意する」条件を満たせば、手続に服することなく、条約を終了または運用停止 させることができると解される 61)。 第 60 条は、3 項において重大な違反の定義を定めるが、それを終了・運用 停止の根拠として援用する方法については何ら規定しない。その方法は、第 65 条において規定され、終了・運用停止は、第 67 条に基づく書面を関係国に 伝達することによって実施される。条約法条約第 65 条から第 68 条および附属 書に規定された手続は、終了・運用停止の法的効果が生じるまでの過程を規律 する側面とその過程において紛争が生じた場合にその解決を規律する側面を有 する 62)。本稿はそのうち、前者の過程に着目し、条約法条約上、条約違反を 根拠とする一方的廃棄権が、もはやその一方的性格を維持しえず、援用国によ る通告とそれに対する違反国の黙諾によって条約を終了・運用停止させる、同 意による条約の消滅の過程へと変容したことを明らかにする。 第 1 項 通告の制度化―第 65 条 1 項の通告は法典化か漸進的発達か 第 60 条に基づき、条約を終了または運用停止させるために他の当事国によ る重大な違反を援用する当事国は、 「自国の主張を他の当事国に通告しなけれ ばならない(must notify the other parties of its claim) 」 (第 65 条 1 項) 。 第 65 条に定められる手続は、条約の無効、終了、運用停止および脱退に関 連し、第 5 部に定められるすべての無効原因、終了・運用停止原因をその射程 に含む。かくして、手続は、第 46 条から第 64 条までの諸規則と不可分に結び ついており、条約法条約に基づく条約の無効および終了・運用停止の仕組みに おいて、まさに「要となる条文」63)である。その中でも通告は、手続の開始 61)‌Simma, supra note 3, pp. 65-66; Gomaa, supra note 6, p.101. 62)‌Rosenne, supra note 58, p. 35; Gomaa, supra note 6, p. 158. なお、Capotorti は、手続を「通 告」 、 「事実認定」 、 「紛争解決」の 3 つの側面において捉える。Capotorti, supra note 1, pp. 562-564. 63)‌Yearbook of the International Law Commission, 1966, vol. II, p. 262, para. (1). 163.

(18) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). に位置づけられる重要な段階である 64)。 通告について規定した第 65 条 1 項の法典化の性格 65)については、判例お よび学説は必ずしも一致していないが、漸進的発達と捉える見方が有力であ る。A.Racke GmbH & Co. 対 the Hauptzollamt Mainz 事件 66) (以下、Racke 事 件。 )において、欧州司法裁判所は、事情変更の原則を定めた条約法条約第 62 条の規定が慣習国際法を反映しているとした一方で、第 65 条以下の手続は、 慣習国際法を形成していないとした 67)。本件では、欧州経済共同体(以下、 EEC。 )とユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国(以下、SFRY。 )の間の「協 力協定」68)を一方的に停止した EEC 理事会決定の適法性が争われた。欧州司 法裁判所は、第 65 条が慣習国際法でないという認定に基づき、 「協力協定」を 一方的に停止した EEC 理事会の決定は、たとえ第 65 条の要件を満たしていな かったとしても、有効であったと結論した 69)。 他方、ガブチコヴォ・ナジマロス計画事件 70)において、国際司法裁判所(以 下、ICJ。 )は、ハンガリーとスロヴァキアが「第 65 条から第 67 条までの規定 64)‌Capotorti, supra note 1, p. 562. 65)‌ILC は、その設置当初、法典化を狭義の法典化と漸進的発達に区別する立場をとって いたが、50 年代前半には、実行上の困難からかかる区別の維持を放棄したとされる。 Sinclair, supra note 57, pp.11-12; 小川芳彦「条約法法典化に関する若干の問題」 『国際法外 交雑誌』第 78 巻第1、2 合併号(1979 年)54-55 頁。 66)‌Judgement of the Court, 16 June 1998, Case C-162/96, para. 24, para. 59, online: http://eur-lex. europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:61996CJ0162&from=EN [Racke 事件] 67)‌Ibid., paras. 53, 59. 68)‌1980 年 4 月 2 日 EEC 加盟国 と SFRY に よ り 署名、1983 年 1 月 24 日 EEC 理事会承認。 (Ibid., para. 3.) 69)‌J. Kokott & F. Hoffmeister, “International Decisions: A. Racke GmbH & Co. v. Hauptzollamt Mainz. Case C--162/96. Court of Justice of the European Communities, June 16, 1998”, American Journal of International Law, vol.93 (1999), p. 205. 70)‌I.C.J. Reports 1997, p. 7. 164.

(19) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). が慣習法を法典化したものでないとしても、少なくとも、一般的に慣習国際法 を反映し、誠実に行動する義務に基づくある種の手続的な諸原則を含んでいる」 ことについて合意していることを認めた 71)。このため、ICJ は、条約法条約の 手続規則が既存のまたは新たに形成された慣習法とみなされるかどうかについ て、言及しなかった 72)。 学説上も、条約違反を根拠として条約を終了または運用停止させる場合に違 反国に対して通告を行うことが国際慣習法上確立した規則であるかどうか見解 の一致がない。通告を慣習国際法の規則と捉える見方がある一方 73)、最近の 研究では、通告を含む条約法条約の手続規則は、既存の慣習法の法典化でなく、 漸進的発達であるとされる 74)。 第 2 項 通告の様式 第 65 条 1 項は、 「通告においては、条約についてとろうとする措置及びその 理由を示す」ことを求める。また、第 67 条 1 項により、 「通告は、書面によっ て行わなければならない」75)。第 67 条 1 項が通告に書面の形式を求めるのは、 71)‌Ibid., para. 109. 72)‌Cf. Sir A. Watts, “The International Court and the Continuing Customary International Law of Treaties” in N. Ando, E. McWhinney, & R. Wolfrum (eds.), Judge Shigeru Oda: Liber Amicorum, vol. 1, (Kluwer Law International, 2002), pp. 264-266. 73)‌Capotorti, supra note 1 p. 562; E. Suy, Les actes juridiques unilatéraux en droit international public, (Librairie générale de droit et de jurisprudence, 1962), p. 94. 74)‌M. E. Villiger, Commentary on the 1969 Vienna Convention on the Law of Treaties (Martinus Nijhoff Publishers, 2009), pp. 913-814; H. Krieger, “Article 65,” in O. Dörr & K. Schmalenbach (eds.), Vienna Convention on the Law of Treaties: A Commentary (Springer, 2012), p. 1133. 75)‌ウィーン条約法会議において、現在の第 67 条 1 項の規定を盛り込む契機となったドイ ツ連邦共和国の Fleischhauer の発言によれば、 「…一般国際法上も、通告が書面によっ てなされなければならないという趣旨の明示の規定がない」という。Official Records, vol. II, supra note 60, p. 156, para. 32. 165.

(20) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). 口頭による通告がもたらす曖昧さを残さないためである 76)。また、第 67 条 1 項は、2 項と異なり、国家元首等の署名を求めていない。したがって、1 項で 求められている書面は、口上書や覚書で十分であると解される 77)。 通告に当たって備えるべき様式に関して、Racke 事件判決は、条約法条約第 65 条が規定する正式の要件を満たさない可能性を考慮しつつも、協力協定の一 方的停止の決定以前になされた EEC と加盟国による共同声明が第 65 条 1 項の 通告に相当するとした 78)。判決によれば、EEC と加盟国は、1991 年 10 月 5 日、 6 日および 28 日に発表した共同声明において、停戦協定(1991 年 10 月 4 日) が遵守されなければ、 その当事者に対して制限措置をとることを表明した。また、 EEC は、停戦協定締結の過程で、停戦協定が遵守されなければ協力協定を終了 させる旨を通知していた。実際に協力協定が停止されたのは、共同声明から 1 ヵ 月あまり後の 1991 年 11 月 11 日であった 79)。 第 3 項 通告の範囲 第 65 条 1 項は、単に「他の当事国」に通告しなければならないと定める。二 国間条約の場合、援用国は他方当事国を違反国として通告を行うことになるが、 多数国間条約の場合には、違反国にのみ通告を送付すれば足るのか、すべての 当事国に通告を送付しなければならないのか、疑問が生じる。第 60 条に関する 学説の中には、多数国間条約の場合、他のすべての当事国に通告を行うべきと する見解もみられる 80)。しかし、この点は、第 77 条ならびに第 78 条の規定と 76)‌Ibid. 77)‌Rosenne, supra note 58, p. 41. 78)‌Racke 事件,supra note 66, p. 1339, paras. 58, 59. 79)‌Ibid., p. 1131, para.1. 80)‌援用国が他のすべての当事国に通告を送付しなければならないとする学説として、 Gomaa, supra note 6, pp. 159, 180; A. Verdross, B. Simma, Universelles Völkerrecht: Theorie und 166.

(21) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). の関連で検討されなければならない 81)。第 78 条は、 「条約又は条約法条約に別 段の定めがある場合を除くほか、この条約に基づいていずれの国の行う通告又 は通報も、 (a)寄託者がない場合には通告又は通報があてられている国に直接 送付し、寄託者がある場合には寄託者に送付する」と規定する 82)。第 78 条は、 条約法条約に基づいてなされる通告または通報について扱う 83)。条約自体に規 定がある場合および条約法条約に別段の規定がある場合は除かれる 84)。第 78 条 (a)は、寄託者の有無により 2 つの場合について規定する。そのうち、寄託者 がいない場合には、通告を行う国は、通告が宛てられた国に直接送付すること になる 85)。これに対し、寄託者がいる場合には、通告を行う国は、寄託者に対 して通告を送付することになる。寄託者は、 第 77 条 1 項(e)にしたがって、 「通. ‌‌Praxis (Dritte Aufl., Dritte Aufl., Duncker and Humblot, 1984), p.533, §838; Simma, supra note 3, p. 80. ま た、批判的見地 か ら で あ る が、D. Alland, Justice privée et ordre juridique international (Pedone, 1994), para. 331. 81)‌S. Rosenne, “Modification et terminaison des traités collectifs”, Annuaire de l’Institut de droit international, vol. 52 (1967), tome I, p. 190, para. 58. 82)‌第 78 条は、寄託者の任務に関する条文草案の検討過程において Tunkin から提起され た寄託者のない条約の場合を取り扱うために第 815 回会合において起草委員会によって 提案 さ れ た 第 29 条(bis)が 原型 で あった(Yearbook of the International Law Commission, 1965, vol. I, p. 280, paras. 61-62.) 。 83)‌第 78 条が第 29 条(bis)として ILC で検討された当初の条文草案は、条約法条約だけで なく個別条約に基づいてなされる通告もその適用範囲に置かれていた。しかし、外交・ 領事関係条約のように寄託者を有しながらも通告が個別国家間で直接にやり取りされる 場合があるとの指摘を受け、個別条約に基づく通告は対象外とされた。 84)‌A. Aust, Modern treaty law and practice (Cambridge University Press, 2000), p. 270. 85)‌この点、Simma は、第 65 条 2 項の文言が「いずれの国の当事国も異議を申し立てなかっ た場合」となっていることから、多数国間条約の場合に違反国以外のすべての当事国が 異議申し立てを行うことができると解する(Simma, supra note 3, p. 80, fn. 345.) 。しかし、 本文で述べたように、第 65 条 2 項は、条約法条約上の通告を扱う第 78 条との関係で解 釈されなければならない。 167.

(22) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). 告及び通報を当事国および当事国となる資格を有する国に通知する」ことにな る。ここで、通告は、先の場合と異なり、寄託者を通じて、通告の宛てられた 国のみならず、他の当事国および当事国となる資格を有する国にも送付されるこ とになると考えられる 86)。かくして、通告が送付される国の範囲は、寄託者の 有無により条約ごとに異なると考えられる。 第4項 ‌‌通告から終了・運用停止までの期間―第 65 条 2 項「一定の期間 (特に緊急を要する場合を除くほか、通告の受領の後 3 箇月を下る 期間であってはならない。 ) 」 ガブチコヴォ・ナジマロス計画事件において、ICJ は、 ハンガリーとスロヴァ キアが締結した特別合意第 2 条 1 項(c)により、 「1992 年 5 月 19 日にハンガ リーが行った条約(1977 年条約)の終了通告の法的効果がいかなるものであ るか」を決定するよう求められた 87)。この問題に対し、ICJ は、当該終了通告 が時期尚早であったため、何らの法的効果も有しないと結論した 88。その推論 において、ICJ は、通告が行われた時点(1992 年 5 月 19 日)におけるスロヴァ キアによる条約違反の有無という実体的論点とともに、通告から 6 日後(1992 年 5 月 25 日)に条約を終了させる法的効果が生じると主張された点について も検討した。実体的論点に関して、ICJ は、スロヴァキアの条約違反が生じた 時点を 1992 年 10 月と認定し、終了通告が行われた 1992 年 5 月 19 日には、ま だ条約違反が生じていなかったとした 89)。 次に、ハンガリーの終了通告が通告の日付からわずか 6 日後に終了の効果を ‌Yearbook of the International Law Commission, 1966, vol. II, p. 270, para. (2). 86) 87)‌I.C.J. Reports 1997, p. 62, para. 98. 88)‌Ibid., para. 155 (1) D. 89)‌Ibid., para. 108. この点に関して、Fleischhauer 判事は、重大な違反の完成を待ってから なされる通告でなければ事実状況が未成熟であるとして無効とされるような厳格な運用 を「異常な形式主義(an extraordinary formalism」と批判した。Ibid., p. 210. 168.

(23) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). 生じるよう意図されていたことについて、ICJ は、実体的論点において認定し た違反の発生時期に基づき、1992 年 5 月 19 日および同 25 日のいずれの時点 においてもスロヴァキアの条約違反が生じていなかったとし、ハンガリーの終 了通告を時期尚早として、その法的効果を認めなかった 90)。この点に関する ICJ の推論は、結局のところ、いつの時点でスロヴァキアによる条約違反が生 じたかという論点にのみ関わる。 そこで、通告から 6 日後に 1977 年条約終了の効果を生じさせる意図をもっ たハンガリーの終了通告をどのように捉えるべきかについて、ICJ は、WHO とエジプトの間の 1951 年 3 月 25 日の協定の解釈に関する勧告的意見を引用 して次のように述べた。 「・・・ 終了通告にいかなる期間が与えられるべきかは、 特定の事案の要件にしたがって必然的に多様な問題である。ゆえに、原則とし て、各事案において、誠実になされる協議と交渉によりかかる期間の長さを決 定するのは当事者である」91)。ICJ の見解によれば、条約法条約の枠外にあっ ては、待機期間(waiting period)92)の長さは、当事者の交渉に委ねられる。 ILC の委員として条約法条約の作成にも携わった Briggs によれば、多くの委 員が、理由を付した通告と待機期間に関する規則を漸進的発達のひとつと捉え ていたとされる 93)。したがって、通告から 3 ヶ月という期間は、条約法条約 第 65 条 2 項の適用においてのみ妥当する期間ということができる。. 90)‌Ibid., para. 108. 91)‌Ibid., para.109. 92)‌待機期間という用語は、Racke 事件で用いられたが、条約法条約で用いられているわけ ではない。 93)‌H. W. Briggs, “Procedures for Establishing the Invalidity or Termination of Treaties under the International Law Commission’s 1966 Draft Articles on the Law of Treaties”, American Journal of International Law, vol. 61 (1967), p. 980. 169.

(24) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). 第 5 項 ‌‌‌黙諾―第 65 条 2 項「いずれの当事国も異議を申し立てなかった 場合」 条約法条約は、終了・運用停止原因を援用する当事国の意思表示を求め、そ のための様式を整えただけでなく、通告を受領した他の当事国による異議申立の 機会をも設ける。一方的廃棄権が単に通告を行うことで条約を終了させることが できるとされたこととの対比において、この点が最も重要な変化である。第 65 条 2 項の意図するところは、終了・運用停止原因の存在およびとられる措置に関 して当事国間の見解の一致を得ることにある。条約違反を理由とする条約の終了 または運用停止の通告に対して異議申立を行わないことは、通告に対して黙諾 を与えたことになる 94)。すなわち、同項は、同意原則を具体化した規定と考えら れるのである 95)。したがって、条約法条約の手続規則を経てなされる条約違反 を根拠とする終了・運用停止の場合、違反の事実およびそれを根拠とする終了 または運用停止について当事国間の合意形成が求められるのである 96)。この点 において、第 60 条の終了・運用停止は、一方的行為たる通告とそれに対する黙 諾をもって実施されるため、一方的廃棄権とは性質を異にする、同意を基礎とす る条約の消滅過程と捉えることができる。 黙諾のメカニズムは、条約法体系において条約の形成から消滅に至る過程に おける同意の役割を一貫させる点で有意義であるが、条約法条約の手続規則が 一般的に条約の無効、終了および運用停止原因に関して定めるため、さまざま な終了・運用停止原因のそれぞれの機能を十分に考慮していないとして批判さ れる 97)。終了・運用停止原因としての条約の重大な違反に関して言えば、違反 国に終了・運用停止に関する同意を求めることの妥当性が問われなければなら 94)‌Villiger, supra note 74, p. 809. 95)‌Krieger, supra note 74, p. 1133. 96)‌Capotorti, supra note 1, p. 563. 97)‌Ibid., pp. 563-564. 170.

(25) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(2). ないであろう。この点に関し、興味深いのはナミビア事件における次の議論で ある。南アフリカは、第 60 条に照らして、条約たる委任を解除するためには、 他の当事国の同意が必要であると主張し、委任に関して国際聯盟の後継となっ た国連も一方的に委任を終了させることはできないと主張した 98)。これに対し、 ICJ は、委任の義務の重大な違反を犯した受任国の同意なくして当該委任を取 り消すことができないと主張することは、違反による終了を支配する法の一般 原則に反するだけでなく、不可能なことを必要条件として要求することになる として、南アの抗弁を退けた 99)。. 第 4 節 小括 第 60 条は、2 項(a)の集団的対応の場合を除き、条約の重大な違反を条約 の終了・運用停止の根拠として援用することができると定める。同条に基づき 条約の重大な違反を援用する当事国は、第 65 条以下の手続にしたがって違反 された条約を終了または運用停止させる意思を違反国に通告し、通告を受領し た違反国が異議を申し立てず、黙諾を与える場合にのみ、終了または運用停止 の措置を講じることができる。異議が申し立てられ、12 ヶ月以内に解決でき ない場合には、国連憲章第 33 条が定める紛争の平和的解決の諸手段を用いて 解消が図られる。 この手続の意義は、終了・運用停止のための手続を明確化し、終了・運用 停止を同意原則に基礎付けた点にある。つまり、この手続は従来の一方的廃 棄権から合意に基づく終了・運用停止への変容をもたらしたと考えられるの である。他方で、違反国の黙諾を得られなければ終了・運用停止の対応をと 98)‌ICJ Reports, Pleadings, Oral Arguments, Documents, Legal Consequences for States of the Continued Presence of South Africa in Namibia (South West Africa) Notwithstanding Security Council Resolution 276 (1970), vol. I, Request for Advisory Opinion, Documents, Written Statements, p. 537, para. 15 and fn. 4. 99)‌I.C.J. Reports 1971, pp. 49-50, paras. 101-103. 171.

(26) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2015 年 3 月). りえないとするならば、ICJ が指摘したように、不可能なことを要求すること にもなりかねず、制度上、問題がないとはいえない。条約法条約の手続規定 に含まれる個々の条件については、なお学説上見解の分かれる点も多く、そ の意義と内容の明確化を図るためには、今後の実行の蓄積と理論の精緻化が 不可欠であろう。. 172.

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参照

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