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福祉施設を運営する法人の特別縁故者該当性

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福祉施設を運営する法人の特別縁故者該当性

生 駒 俊 英

はじめに  相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産管理人に関する審判の新受件 数は、昭和40年の910件から平成28年には19,811件に増加しており、相続人不存在の事例が 年々増加していることが統計上からも推測される。このような相続人不存在の事例が増える につれ、特別縁故者制度(民958条の 3 )についても少なからず脚光を浴びる事となっている。 特別縁故者制度は、昭和37年(1962年)の民法の一部改正によって導入されたものであり、 制度導入後昭和40年の特別縁故者への相続財産の分与に関する審判の新受件数は189件に過 ぎなかったのに対して、平成28年には1,068件に上っている。このような中、これまであま り公表されることのなかった特別縁故者に関する裁判例が近時複数公表されている。特に、 本件を含め高裁レベルにおいて、立て続けに福祉施設を運営する法人が特別縁故者として認 められた事からも、今後同様の法人の申立てが増加することも予想される。そこで、本判例 研究においては、改めて福祉施設を運営する法人がどのような場合に特別縁故者として認め られるのか、公表事例をもとに考察していく。 家事審判・調停事件の新受件数(司法統計より) 昭和40年 平成26年 平成27年 平成28年 相続財産管理人選任等(相続人不分明) 910件 18,447件 18,615件 19,811件 特別縁故者への相続財産の分与 189件 1,136件 1,043件 1,068件 死亡者数 700,438人 1,273,004人  1,290,444人 1,307,748人 名古屋高金沢支決平成28年11月28日(判時2342号41頁) 福井家審平成28年 9 月26日 【事案の概要】  被相続人 A(昭和22年生)は、昭和55年から平成27年までの約35年間にわたって X の運 営する障害者支援施設に入所していた。A は、平成 5 年以降てんかんによる発作が頻発し、 平成21年以降はほぼ寝たきりの状況にあった。施設利用料に関しては平成18年までは市町村 が負担し、同年以降は A が 5 万円前後を公的給付の中から負担していた。平成27年 2 月に A は死亡し、死亡後は X が A の葬儀、永代供養を行った。A 死亡後、X の申立てにより相 続財産管理人が選任され、相続人捜索の公告がなされたが、相続人としての権利を主張する

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者がいなかったため、X が本件申立てを行った。A の財産は、普通預金債権約2256万円であっ た。  原審(福井家審平成28年 9 月26日判時2342号42頁囲み記事)は、X の運営費は国と地方自 治体からの補助金及び利用者負担金により賄われ、利用者負担額は利用者の所得に応じて決 まり、A の利用者負担金は、市町村の措置費又は A が受給する公的給付により支払われて いたことなどからすると、X が A に提供した療養看護が、社会福祉事業を目的とする障害 者支援施設とその利用者との関係を超える特別なものであったとはいえないとして、特別縁 故者に該当しないとした。X が即時抗告。 【判旨】  以下のように判示し、A の清算後残存すべき相続財産の全部を X に分与すべきとした。  「被相続人は、昭和55年から平成27年までの約35年間にわたって抗告人の運営する施設に 入所していたところ、その間、同施設の職員は、知的障害及び身体障害を有し、意思疎通が 困難であった被相続人との間において地道に信頼関係を築くことに努めた上、食事、排泄、 入浴等の日常的な介助のほか、カラオケ、祭り、買い物等の娯楽に被相続人が参加できるよ うに配慮し、その身体状況が悪化した平成 5 年以降は、昼夜を問わず頻発するてんかんの発 作に対応したり、ほぼ寝たきりとなった平成21年以降は、被相続人を温泉付きの施設に転居 させて、専用のリフトや特別浴槽を購入してまで介助に当たるとともに、その死亡後は葬儀 や永代供養を行うなどしたのであって、抗告人は、長年にわたり、被相続人が人間としての 尊厳を保ち、なるべく快適な暮らしを送ることのできるように献身的な介護を続けていたも のと認められる。このような療養看護は、社会福祉法人として通常期待されるサービスの程 度を超え、近親者の行う世話に匹敵すべきもの(あるいはそれ以上のもの)といって差し支 えない。  なお、確かに抗告人の施設利用料は、平成18年までは市町村が負担し、それ以降は利用者 負担金として毎月 5 万円程度を被相続人が負担していたが、これは法令に従い所得に応じて 決定された金額であって、国等からの補助金があることを考慮しても、被相続人の介護の内 容やその程度に見合うものではなかったといえるし、しかも、このような低廉な利用料の負 担で済んだことが被相続人の資産形成に大きく寄与したことは、前記認定のとおりである。  これらの事情を総合考慮すれば、抗告人は、被相続人の療養看護に努めた者として、民法 958条の 3 第 1 項にいう特別縁故者に当たるというべき」であるとした。 1  特別縁故者制度について ( 1 )概説  相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人となり、相続財産管理人が選任 される。そして、相続財産管理人選任の公告(民952条 2 項)、相続債権者及び受遺者への公 告(民957条)、相続人捜索の公告(民958条)を経て、特別縁故者への財産分与(民958条の 3 )が行われる。さらに、以上の手続きを経ても残余財産が生ずる場合には、国庫へと引き

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継がれることとなる(民959条)。  本制度導入の背景1としては、戦後の民法改正以前の旧法では、相続人の範囲が広く定め られており、相続人不存在によって相続財産が国庫に帰属することはごくまれにしか生じな かったが、現行法において規定される相続人の範囲では、相続人不存在による国庫帰属の事 例がかなり生じていたことがある。また、そのような場合に備えて遺言を利用すべきとの主 張も存在したが、当時の遺言の普及状況及び急死の場合等もありうるとして、特別に縁故の 深い者(例として、内縁の妻、事実上の養子)に対しては、家庭裁判所を通じて適当に相続 財産を取得させる道があればよいとして本制度が創設された。実際上、本制度導入以前にお いては、相続財産が国庫に帰属することを防ぐために、不動産については生前贈与を工作し たり、相続財産管理人選任の請求をせずに20年の時効期間の経過を待ったり、動産について は勝手に着服したりするなどの事態が生じていたという2  制度発足後のまもなくの時期において、学説は、一般にこの制度を遺言法や遺贈ないしは 死因贈与法を補充するものとして理解すべきであるとした3 ( 2 )要件 4  特別縁故者への相続財産の分与に関する審判では、「特別縁故者」の抽象的資格の有無を 検討し、特別縁故者であるとされれば、「相当性」の判断がなされる。 ①特別縁故者の範囲  条文からは、特別縁故者に該当する例として、「生計を同じくしていた者」、「療養看護に 努めた者」、「その他被相続人と特別の縁故があった者」が規定されている。「生計を同じく していた者」とは被相続人の側から親身の世話を受けていた者を示し、「療養看護に努めた もの」は、逆に被相続人に対し親身の世話をした者を指す。「その他被相続人と特別の縁故 があった者」とは、前二者に準ずる者であると理解されているが、どのような場合に該当す るかは、個々の事件における裁判所の判断に委ねられる。  正当な報酬を得ていた場合に、特別縁故者として分与を請求し得るか否かについては、正 当な報酬を得ていた者は原則として特別縁故者とはなりえず、特別の事情がある場合に限っ てこれが肯定されるとする。特別の事情とは、「単に金銭的対価に応じた機械的サービスを しただけではなく、プラス肉親に近い愛情の伴っている献身的サービスを必要とすると解す るのが相当である」5との指摘がなされている。  また、特別縁故者には、法人をも含むとする見解が立法時から定着している。 ②相当性  相当性の判断においては、特別縁故者と認定しながらも分与を否定する場合の問題、数人 1  加藤一郎「民法の一部改正の解説(三)」ジュリ251号52-58頁、阿川清道「民法の一部を改正する法律について」 曹時14巻 4 号61-66頁参照。 2  松原正明「家庭裁判所にあらわれた「無縁社会」」家族<社会と法>31号55頁。 3  立法時の議論においても、特別の縁故があった者の範囲について、平賀政府委員は、「抽象的に申し上げます と、被相続人と特別の関係がありまして、被相続人が、もしその機会がありましたら、遺言でもってその者に財 産を与えてやろうというような、そういう関係がある者…」と述べている(第40回国会衆議院法務委員会会議録 8 号 8 頁)。 4  谷口知平=久貴忠彦編『新版注釈民法(27)補訂版』(有斐閣、2013年)723頁以下〔久貴忠彦=犬伏由子〕参 照。 5  阿川・前掲注( 1 )64頁。

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の申立人に分与を認める際にいかなる基準ないしは方法でこれを決定するかの問題、いかな る場合に全部の分与がなされあるいは一部の分与にとどまるかの問題、遺産の中で法律上分 与対象となりえないものがないかの問題が検討される6  以上の二つの要件を考えるにあたって、基準となるのは被相続人の意思、被相続人のある べき意思であると考えられている。従って、被相続人が何もいっていない場合でも、相当性 を判断する際には、被相続人が遺言をするとしたらどのように相続財産を処理するかという ことを基準として考えるのが妥当であり、国庫に帰属させるよりはよいという安易な気持か ら、一部の縁故者に不当な利益を得させないように十分に配慮すべきと指摘される7 2  関連裁判例  本件と同様に福祉施設を運営する法人が特別縁故者の申立てを行い、認められた事例が公 表されている。当該事件は、本件の即時抗告の理由においても、挙げられていた。  高松高決平成26年 9 月 5 日(金法2012号88頁)  平成 7 年、被相続人 A(昭和16年生)は、仕事中の事故によって首から下の全身に麻痺が 生じ、日常生活においてほぼ全介助が必要な状況となった。A は、平成14年11月から平成15 年 9 月までの間、労災特別介護施設 B に入居し、平成16年 9 月から平成22年 8 月まで労災 特別介護施設 C に入居していた。上記各労災特別介護施設は、X が厚生労働省からの委託 事業として運営しているものであり、入居費用は入居者の総収入額に応じて段階的に定めら れる。A の利用料は、平成16年 9 月から平成20年 4 月までは月額16万円、平成20年 5 月から 平成22年 8 月までは月額25万8000円であった。平成22年 8 月に A が死亡し、X は本件申立 てを行った。A の財産は、預金及び現金約1890万円と動産(腕時計、印鑑)である。なお、 X は被相続人の財産の分与が認められた場合には、内規に従い、寄附金収入として、福利増 進事業に使用する予定である。  第一審(松山家裁西条支決平成26年 5 月 2 日金法2012号88頁)は、入居費用が一律に決定 されるものであったとしても、特段の事情のない限り、入居費用と施設のサービスは対価関 係にあると解すべきであるとし、その他の事由を考慮しても「特別の縁故」があった者には 該当しないとした。  第二審では、「被相続人は、首から下がほぼ麻痺状態で、約 6 年間、本件施設に入居して おり、その間、親族との交流があったとは認められず、本件施設において、日常生活につい てほぼ全面的な介護や介助などを継続的に受けて生活してきたものと認められる(なお、被 相続人は、本件施設への入居前に、前記「B」においても約10か月間同様の介護又は介助を 受けていたものと認められる。)。また、本件施設では、被相続人を適宜買い物やレクリエー ションに連れ出すなどしていたほか、被相続人の実母が死亡した際には、その求めに応じて、 葬儀や納骨、相続に関する手続などに便宜を図ったことが認められる。さらに、本件施設で は、介護に関する被相続人独自のサービスの要求や無理な注文にも職員が辛抱強く対応して きており、これにより被相続人もほぼ満足できる生活状況であったことが認められる。 6  久貴忠彦『判例特別縁故者法』(有斐閣双書、1977年)149頁。 7  加藤・前掲注( 1 )57頁。

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 これらの事情によれば、被相続人は、本件施設において献身的な介護を受け、これにより ほぼ満足できる生活状況を維持することができていたものと認められるのであるから、本件 施設を運営する抗告人は、被相続人の療養看護に努めた者として、民法958条の 3 第 1 項に い う「 被 相 続 人 と 特 別 の 縁 故 が あ っ た 者」 に 当 た る と 認 め る の が 相 当 で あ る。  なお、被相続人が本件施設への入居中に月額16万円又は25万8000円の施設利用料を支払っ たものと認められるものの、これは、先に認定したとおり厚生労働省が入居者の年間収入額 等に応じて定めたものであって、実際の介護サービス等の程度や内容等を反映して定められ た報酬であるとは認められない。また、仮に結果的に施設利用料が介護サービス等に対する 報酬として正当な額であり、両者間に対価関係が認められるとしても、それだけで前記の特 別縁故者に当たらないと判断するのは相当ではない。本件においては、先にみたように被相 続人が長年にわたって本件施設で手厚い看護を受けてきたなどの事情が認められるのである から、抗告人が被相続人の特別縁故者に当たるものと認めるのが相当である。」とし、A の 清算後残存すべき相続財産の全部を X に分与するとした。 形態 期間 利用料 被相続人の財産 その他 本件 (認容) 施設入所 35年 (公的給付から支給)約 5 万円 (普通預金)約2256万円 被相続人のために高額の設備導入 関連裁判例 (認容) 施設入所 7 年 16万円25万80000円 (現金及び普通預金)約1890万円 被相続人の実母死亡の際に手続を実行  関連裁判例も被相続人の明確な意思表示はなされておらず、事実関係から特別の事情の有 無を判断している。本件と関連裁判例は、多くの共通点を有する。共に第一審は、被相続人 たる各施設利用者の利用料金は、所得又は収入に基づき段階的に決定されるものの、各施設 のサービスと利用者の利用料の対価関係が否定されるものではなく、特別な関係にあるもの ではないとして法人を特別縁故者として認めなかった。一方で、第二審は共に具体的詳細な 事実から献身的な介護であったことを認定した上で、被相続人の療養看護に努めた者として 法人を特別縁故者と認めている。ただし、この対価関係に関する評価は、本件と関連裁判例 とでは、考え方を異にしているようである。それは、本件ではサービスが利用料及び国から の補助金を考慮しても見合うものではなく、さらにそれが故に被相続人の資産形成に大きく 貢献したと評価している。これに対して、関連裁判例では対価関係の有無にとらわれず、長 年の看護状況に重点をおいて特別縁故者として認めている。 3  学説の状況  本件のように福祉施設を運営する法人が、相続人不存在の利用者の特別縁故者として申立 てを行う事について、学説における指摘を整理しておく。  積極的に認めるべきとする肯定的見解として、「老人人口が増加し、養老院等で相続人な く死亡する例が増えると思われる近時の傾向からすると、本件のような地方公共団体が経営 する養老院で、その施設の管理運営の実態に照らして、法人格なき社団ないし財団と同視し 得るものであれば、積極的に分与を肯定してよいと思われる」8「特別縁故者・分与額の拡大 8  山口純夫「法人格なき県立老人ホームを特別縁故者と認めた事例」民商104巻 6 号105頁。

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については、近時モラルハザードへの懸念も表明されているが、そのような懸念があっても、 高齢者を巡る諸事務が積極的かつ円滑に遂行されるのであれば、それに越したことはない」9 と指摘される。  一方で否定的・慎重な見解として、「(関連裁判例について、括弧内筆者)「手厚い」、「愛 情のある」サービスを提供したかどうかによって、被相続人からの財産移転の有無が左右さ れるのは、それらの事業の性格からして疑問である。被相続人の財産からの填補が適切と考 えられるのであれば、制度の根拠法令において、明文の規定を設けて実現されるべきであ る」10、「重度の障害者を介護する施設が、障害者の死後とはいえ、障害者の財産を取得する という状況は、何らかのモラルハザードの萌芽を秘めているようにも思われる」11と指摘さ れる。 4  考察  本件は、第一審と第二審において結論を異にした。その理由は、第一審が被相続人の利用 料と施設が提供したサービスは社会福祉事業を目的とする障害者支援施設とその利用者の関 係を超えるものではないとしたのに対して、第二審では被相続人に対してなされた療養看護 の状況を詳細に認定し、社会福祉法人として通常期待されるサービスの程度を超え、近親者 の行う世話に匹敵すべきもの(あるいはそれ以上のもの)として、特別縁故者として認めた 点である。つまりは、特別の事情の有無について判断が分かれたものと考えられる。本件に おける特別の事情の判断は、立法時の学説によると、「プラス肉親に近い愛情の伴っている 献身的サービス」の有無が問題となる。この点第一審は、本制度の目的を対価関係の不均衡 の是正と捉えているかのような印象を受ける。これに対して、第二審では、「社会福祉法人 として通常期待されるサービスの程度を超え」ていると指摘し、関連裁判例と同様に「献身 的な介護」という文言を用いて特別の事情が存在したことを示している。本制度の役割から 考えると、方向性としては第二審が正しいものと考える。  ただし、特別の事情を根拠づけるべく挙げられている事情については若干の指摘をしてお きたい。本件で裁判所が認めた食事、排泄、入浴等の日常的な介助は勿論の事、利用者の娯 楽等のためのレクリエーションも、実際は多くの施設で取り組まれている内容であり12、こ れらを施設が行うことはあくまで通常期待されるサービスに含まれる。本件で重要なのは、 これらの通常期待されるサービスが、意思疎通が困難であった被相続人との間において、地 道な信頼関係を築くことに努めた上で行われていた点である。その結果、被相続人が人間と しての尊厳を保ち、快適な暮らしを送ることができるようなったのであり、これら施設での 状況を総合して、「献身的な介護」として評価しているのである。  決定の後半部分については、以下の指摘をしておきたい。本決定では、利用料及び補助金 と介護内容及び程度を比較しているが、たとえ双方の関係が相当な対価関係にあったとして 9  松尾知子「特別縁故者を巡って家裁と高裁の判断が分かれた 2 事例」民事判例15号113頁。 10 久保野恵美子「特別縁故者に対する相続財産分与」法時89巻11号65頁。 11 本山敦「介護施設が特別縁故者に当たるとされた事例」金商1486号119頁。 12 各福祉施設の HP 等を見てみると、多くの施設で行事内容として祭りの様子や買い物の様子等が載せられてい る。

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も、特別の縁故があった者に対して相続財産を分与するとの制度趣旨からすれば、特別縁故 者該当性は相当の対価関係のみを理由として否定されてはならない。さらに、決定は続けて このような低廉な利用料の負担により被相続人の資産形成に大きく寄与した点をあげるが、 特別縁故者制度は寄与行為を評価する制度ではない。さらに言えば低廉な利用料を決定して いるのはあくまで国であり、また本件では被相続人の利用料は公的給付から負担されてお り、国の被相続人の資産形成への寄与が取り上げられるべきこととなる。従って、決定後半 部分のこの点の理由付けについては蛇足であったと考える。  立法時の議論をみると、「被相続人が深く関係した公益法人や、被相続人が世話をしても らっていた養老院のような老人施設などは、実質からいって特別縁故者になりうるといって よいと思われる」13と述べられている点を踏まえると、本件のような福祉施設を運営する法 人についても、特別縁故者として含めることに問題はなく、ことさら要件を厳格にする必要 はないと考えられる。しかし、特別縁故者を無限に認めることは問題が生じるため、一定の 基準が必要となる。本件及び関連裁判例は、ともに被相続人の療養看護に努めた者として法 人を特別縁故者として認めている。そこで一定の報酬を得ている福祉施設を運営する法人の 特別縁故者該当性を判断するにあたっては、献身的な介護がなされたか否か、「介護の献身 性」がメルクマールになるものと考えられる。そして、「介護の献身性」の有無の判断にあ たっては、被相続人に対して行われた介護の状況、つまりは機械的サービスではなかったか 否かを判断することとなる。この点につき、本件では被相続人のための特別な設備の設置等 が示されていた。さらに、分与する割合に関しては、上記事項に加えて、施設への入所年数 や施設に分与された場合の使い道14等といった事情から総合的に判断すべきである。 おわりに  特別縁故者制度導入の際には、遺言が普及していない状況が挙げられていた。しかし制度 導入から半世紀を経て、状況も大きく変わってきている。遺言の検認数及び公正証書遺言作 成数は本制度導入時に比べると格段に増えている15。現在、法制審議会(相続関係部会)に おいて、自筆証書遺言の方式緩和のための改正議論が続いているが、今後さらなる遺言の普 及が進めば、特別縁故者制度自体の必要性についても議論する必要がある16。さらに、基準 の明確さが重視される傾向にある昨今、本制度のような特別な縁故といった明確な基準で図 れないものを評価する制度は居心地の悪いものでもある17。しかし、本件のように、福祉の 13 加藤・前掲注( 1 )54頁。 14 相続財産の三分還元説(木村健助「法人格のない養老院に特別縁故者として相続財産を与えた審判例」法時39 巻 2 号117頁)に従うならば、第一の自力の要素、第二の近親者の協力の要素の三分の二部分が、一般的に特別 縁故者に分与される範囲であると考え、本件のような社会福祉法人であれば、分与された場合の使い道によって は、社会的還元とする第三の社会的要素も含めた全部の分与の余地があると理解する。 15 遺言の検認数は、昭和30年640件だったのに対して、平成28年には17,205件に達し、公正証書遺言の作成件数も 平成28年は105,350件に上る。 16 「立法当時と比べれば、今日では、遺言の観念は相当程度普及しているとも見られる。被相続人が遺贈を望ん でいたとも解される事情がありつつも、有効な遺言がなされていないときに、遺言がない以上、遺贈の意思はな かったと推測することにも十分に理由があるともいえそうである。」(久保野・前掲注(10)68頁)。 17 立法時の議論においても、基準がなく裁判官の裁量に任されている点の指摘がなされていたが、政府委員は、 がっちり動きがとれないものにすると、制度の妙味が失われると答えている(第40回国会参議院法務委員会会議 録13号 7 頁)。

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現場では未だ法的なサービスが行き届いていない点18、さらに多くの相続人不存在による国 庫帰属財産が存在する事19を踏まえると、特別縁故者制度はその役割を未だとどめていると も評価できる。  今後は、法人からの申立てだけではなく、成年後見人又は市民後見人からの申立ても増え てくる事も予想される。その際に、先の指摘にもあったような様々なモラルハザードの懸念 が現実味を帯びてくる。  最後に、本判例評釈を執筆するに当たり、本件被相続人の財産管理人を務められた佐藤辰 弥弁護士からは、原審に関する資料及び様々な御指摘を頂いた事、先生の御厚意に厚くお礼 申し上げたい。 (福井大学国際地域学部准教授) 18 本件では、被相続人の財産である普通預金2256万円も当該施設が管理していた。 19 相続財産の国庫帰属額は、336億7700万円(平成25年)、434億1100万円(平成26年)、420億6300万円(平成27年) で推移している。

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