水に対する人権とWTO : 外国事業者による水サービス提供とGATSとの関係を中心に
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(2) 76. 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). (578). 人権を保障すべきとの見解が示されている.. 利の検討作業は,このための重要な段階と位置. 経済的,社会的及 び 文化的権利 に 関 す る 委. づけられる8).. 員会 が 2002 年 の 第 29 会期 に 採択 し た「社会. 他方で,次にみるように国際社会では水の処. 権規約委員会一般的意見 15」は,規約 の 締約. 遇の上で水に対する人権と対立的と捉えられる. 国に対して拘束力を持つものではなく委員会. 概念が示されていることは国家が水へのアクセ. による権威ある解釈にとどまるものの,水の. スを人権と捉えることに消極的となるもう一つ. 利用を人権と捉え,その確保のために国家や. の要因であろう.. 国際社会の採用すべき法や政策を示した最初 の 国際的 な 試 み の 一 つ で あ る.こ の 文書 は,. 2.水に対する人権及びその対立的概念. 冒頭で,水が生命と健康にとって基本的な公. 国際的な宣言や協定における水に対する概念. 共財であり,水に対する権利が人間の不可欠. 的処遇は一定ではない.1977 年にマルデルプ. な権利であるにもかかわらず,途上国のみな. ラタで開催された国連水会議で採択されたマル. らず先進国においても水に対する権利が否定. デルプラタ行動計画が,「発展の段階及び社会. されてきた現実を踏まえ,国家が水に対する. 的経済的状況にかかわらず,全ての人が質及び. 権利の差別のない実現のために実効的な措置. 量において基本的ニーズに相当する飲用水に対. 4). を採る必要性を指摘する .ここでは水に対. する権利を有する」と述べ,水に対する権利を. する人権は「全ての人に個人及び家庭利用の. 明確に認識して以降,複数の国際文書にこの権. た め の 十分,安全,受 け 取 り 可能,物理的 に. 利が明記されてきた.しかし,水に対する人権. アクセス可能かつ購入可能な水に対する権利. に言及する国際文書がある反面,これに対立的. を付与するもの」であると定義され,国家は. と捉えられる概念が導入される場合もある.以. この人権を個人に保障するため,国内的に「立. 下では水に対する人権を含めた水の概念的処遇. 法措置の導入を始めとした,全ての適切な措. を,第一に水について経済的価値と社会的価値. 5). 置」をとることを求められるという .. のどちらを重視するか,第二に個人の水へのア. このように,水に対するアクセスの確保は個. クセスを法的に認めるか,という側面から整理. 人の生活及び生存の上で不可欠であるにもかか. する.. わらず,これは国際法上で保護される権利と明. ⑴ 水に対する人権と経済財としての水. 確に認められてきたわけではない.ブルーメル. 水を経済財と捉える見解は,これが水の効率. (Erik B. Bluemel)によると,従来,水に対す. 的な利用を促すことで水価格を低下させ社会的. る権利は,食料,健康に対する権利や生存権と. 公正を改善させることを論じる.この立場から,. いった経済的, 社会的及び文化的権利に従属し,. 例えば 1992 年の国連環境開発会議で採択され. これらを確保するための付随的権利と解釈され. たアジェンダ 21 や第二回世界水フォーラム閣. 6). てきたにすぎない .水に対する人権は必ずし. 僚宣言は効率的な資源利用が行われることを求. も独立した権利と認識されてきていないのであ. める.「ハーグ閣僚宣言」は,「全ての利用にお. る.このように考えると,権利の重要性にもか. いて経済的,社会的,環境的,文化的価値を反. かわらず現在この人権が慣習国際法であるとの. 映させる方法で水を管理し,提供の費用を反映. 見解は否定的に捉えられることとなる.水に対. するように水サービスの価格決定を行う」こと. する人権が国家を含めた各主体に一般的に自覚. を主要課題としている.. されるには,権利の地位,範囲及び内容が明確. 「経済財 と し て の 水」の 概念 は,水関連事業. にされなければならないであろう7).国連人権. の効率を改善することで,より広範囲に安価な. 委員会や社会権規約委員会による水に対する権. 水の提供を可能としうるが,他方でこれが個人.
(3) 水に対する人権と WTO(波多野). (579). 77. の水へのアクセスに否定的な側面を有すること. 心課題とする傾向にある.例として,前述のア. も指摘される.水を経済財と捉えることを前提. ジェンダ 21 は水が経済財であると認識すると. に途上国で外国事業者が水サービスに投資する. 共に,水の社会経済的価値を論じ,水に対する. 複数の事例では,投資費用の回収と収益率向上. アクセス確保の必要性を指摘する.また,1997. の目的でサービス利用者による供給経費の全費. 年の第一回世界水フォーラムで採択された「マ. 用負担が試みられてきた.しかしこの費用体系. ラ ケ シュ宣言」は「ク リーン な 水 と 廃水処理. は水に対するアクセスが支払意思よりも支払能. 施設にアクセスを得る人間の基本的なニーズ. 力に応じて与えられるため,一部の利用者が購. (Basic Human Needs)を認識するための行動」. 入可能な価格で水を入手できなくなると問題視. を 勧告 す る.2000 年 の 第二回世界水 フォーラ. 9). されるのである .このような水を経済財とし. ムで採択された「21 世紀の水の安全保障に関. て扱うことへの懸念に対し,個人が生活上で必. するハーグ閣僚宣言」は冒頭で「水は人間と生. 要な水の利用を法的に保障する試みとして水に. 態系の生命と健康に不可欠であり諸国家の発展. 対する権利が主張されるのである.. のための基本的な要件であるが,世界中の女性,. もっとも, 「経済財としての水」が利用者に. 男性及び子供は最も基本的なニーズを満たすた. よる供給費用の全額負担を意味するという考え. めに十分かつ安全な水へのアクセスを欠いてい. 方は,水の社会的価値を重視する立場から反論. る」として,「安全かつ十分な水と廃水処理施. される.サフェナイエ (H. H. G. Savenije)とファ. 設に対するアクセスが人間の基本的なニーズ」. ンデルツァーク(Van der Zaag)は,ダブリン. であることの認識を中心的課題の一つと位置づ. 宣言に示される「経済財としての水」を例にあ. ける.これらの国際文書は個人の水へのアクセ. げ,この概念は水を経済財としてのみならず社. スを水に対するニーズという用語によって表現. 会的に必要な財と認識するものであると指摘す. し,他方で水の利用が人権であるという見解は. る.彼らは水を経済財と捉えることは,水の最. 採用しない.. 適利用や他の潜在的利用への配分に関する決定. 水へのアクセスを人権と捉えることは,国際. が社会経済的考慮に基づいて行われることを意. 的に国連人権委員会などの国際機関が国家によ. 味するという.この見解では,産業部門,都市. る権利の保障の進展を監視する体制,及びこれ. 富裕層や商業部門へは経済的価値に基づいた水. に対して国家が説明責任を負う体制の構築を促. 価格設定がなされ,他方で,支払い能力の低い. す11).また国内的には国民がこの権利を保障さ. 貧困層への水の提供へは政府が補助金を出すと. れることで,地域社会及び社会的弱者が関連の. 10). いう社会政策的考慮が正当化されるのである .. 政策決定過程に関与する権限を持つことにつな. ⑵ 水に対する人権と水に対するニーズ. がる12).しかしながら人間の水へのアクセスを. 水に対する人権と水に対するニーズはいずれ. 保障する社会体制の構築は,国家の社会や経済. も個人の生活利用水を確保する必要性に関する. の現状や発展段階,また水資源の分布などの地. 概念であるが,両者は異なる意味で用いられ. 理的状況と密接に関係する.このため,国家は. る.すなわち前者が個人の権利を保障する国家. 個人の水の利用を人権と論じる声明に関与しそ. の国際義務に関係するのに対し,後者は国際的. の補償のための義務を負うことに前向きと見ら. な指針に留まる.1977 年のマルデルプラタ行. れることを懸念する傾向にある.ゆえに条約に. 動計画が水に対する権利を明確に認識するのに. おける水に対する権利の容認には国家はさらに. 対し,近年の国際宣言などでは国家の義務を想. 消極的となる.現在,普遍的な批准がある条約. 起させる水に対する権利への言及は回避し,水. で水に対する人権の内容が明確に規定されてい. 管理における効率性の改善及び国際的連携を中. るものは女子差別撤廃条約と児童の権利条約に.
(4) 78. 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). (580). 留まる13).. サービス提供者を含めた民間部門に公共サービ ス市場を開放する政策が選択されてきた17).し. 3.水サービスの利用と水に対する人権. かし,外国事業者の関与した複数の水サービス. 水に対する人権が確保されるべき分野とし. 提供の事例では,個人の水に対するアクセスの. て,水が利用者に送られる過程である水サー. 確保が問題とされる場合がある.. ビスは最も重要な局面の一つである.水供給. アルゼンチンのブエノスアイレスではスエズ. サービスに対する個人のアクセスを人権と捉え. と ビ ベ ン ディの 合弁企業 ア グ ア ス・ア ル ヘ ン. ることは,この権利が国家の権限によって確保. ティーナ (Aguas Argentina) が 1993 年から 30 年. されることを意味する.さらに,水に対する人. 契約のコンセッションにより水供給及び廃水処. 権をサービスの局面から見た場合,水供給サー. 理サービスの運営を請け負った18).契約では対. ビスと不可分な性質のものとして,廃水処理. 象地域のサービス普及率につき水供給を 70% か. サービスへのアクセスも人権としての性質を有. ら 100% に,廃水処理を 58% から 85% に拡大さ. すると捉えられる.国連人権委員会内の人権保. せる義務が課され,当初は貧困層の水アクセス. 護促進小委員会において水に対する権利に関す. 状況改善に資するとの期待があった19).しかし,. る特別報告者として任命されたギセ(El Hadji. 新規利用者にインフラ接続に際する費用負担が. Guissé)が 2002 年に提出した報告書によると,. 求められ,この支払い滞納および支払い拒否者. 水と廃水処理へのアクセスは国家がそれらへの. が頻出すると20),事業者は貧困地域へのサービ. 個人のアクセスを促進及び保護するために積極. ス拡大の中断と契約の再交渉を余儀なくされ,. 14). 的な義務を負う .ここでは水及び廃水処理へ. 1997 年に接続料は大幅に引き下げられた21).. のアクセスを国家の保護が必要な人権と捉えら. ボリビアのコチャバンバ市では 1999 年にア. れている.. グアス・デル・トゥナリ社 (Aguas del Tunari) が 上下水道事業運営 の 40 年契約 の コ ン セッ. 4.若干の事例. ションを落札し事業運営を行った.同社は契約. 主に途上国においては,保健,水,廃水,教. において,ダム建設を含むミシクニ多目的計画. 育,エネルギー等の主要なサービスへのアクセ. (MMP)の実施で給水量を増加させることを主. ス確保は優先的な開発目標とされてきた.これ. な理由に,サービス利用料を平均 35% まで増. らサービスを提供するための政策を策定し,経. 加させる合意を得た.しかし利用料金は消費者. 済的,人的資源を確保する目的で,従来多くの. によっては約 200% 上昇し22),後に市は事業を. 社会福祉 や イ ン フラサービスは国有事業者に. 公営に戻すことが求められ,同社は撤退するこ. 15). よって提供されてきた .他方で,国有事業者. ととなった23).. によるサービス提供が必ずしも全ての人へ確保. これらの例にも見られるように,外国事業者. されてきたわけではなく,利用料支払いの金銭. の導入による抜本的な規制緩和による事業効率. 的問題,地理的な孤立,民族的及び性別的要因. の健全化が,利用者に事業者の収益を含めた多. など様々な要因が国家目標の達成を困難にして. 額のサービス提供費用を負担することで成立す. きた16).このような事態に対して政府は,一部. る複数の例がある.それらの事例では主に貧困. サービスの無料化や補助金政策の導入によって. 層の水サービスへのアクセスが損なわれるとい. 貧困層が基本的なサービスを利用できる措置を. う弊害が指摘されている.次に見る GATS の. 採るという対処法を有する.しかしサービスの. 枠組みでは外国事業者が水サービス事業へ参入. 供給を増加させるための資本と技術に差し迫っ. する交渉が進められうるが,そこでは外国事業. た必要性がある場合,一つの方法として外国の. 者の参入の余地が模索されるとともに,それが.
(5) 水に対する人権と WTO(波多野). (581). 79. 国家の規制権限に与える影響が懸念されるので. 2002 年 に 国連人権委員会 の 人権保護促進. ある.. 小委員会 に お い て 人権高等弁務官 が 提出 し た 「サービス貿易の自由化と人権」についての報. 5.GATS と外国事業者による水サービス提供. 告書 は,GATS に よ る サービ ス 貿易自由化 が. GATS は WTO 協定の一部として 1995 年に. 直接または間接的に人権の享受に悪影響を及ぼ. 発効した国際協定であり,サービス貿易の障害. しうることを指摘する26).報告書は,サービス. となる政府規制の緩和及び撤廃によりサービス. 貿易自由化はサービスの効率的な供給によって. 貿易自由化の推進を試みるものである.GATS. 経済成長と発展を促進させ,人権の促進に必要. が対象とするサービス業は通信,金融,運輸な. な経済的手段を提供するとして,WTO が推進. ど,産業全体のインフラストラクチャーの役割. するサービス貿易自由化を擁護する27).他方で. を果たす分野も包括的に含まれる.それらの分. これは,政府による適切な規制を欠き,十分に. 野での自由化は経済構造の大規模な変革がとも. 影響が評価されることなく行われるサービス貿. なう.そのため加盟国は GATS の交渉及び義. 易の自由化が貧困層の主要サービスに対する普. 務の履行にあたり,自国の多様なサービス分野. 遍的アクセスを妨げうると指摘し,サービス貿. における国内法及び規制につき現状確認, 整備,. 易自由化が逆に人権享受の疎外要因ともなるこ. 改善するとともに,自由化が自国経済へ与える. とを論じるのである28).. 影響を認識する必要がある.また,サービス貿 易自由化にあたっては,各国の国内事情や発展 24). Ⅱ.水サービスの自由化に対する規制. の度合いに応じた柔軟な対応が必要となる .. 水サービスの民営化,自由化に付随する問題. さ て,GATS 締約国 は こ の 協定 の 対象 と し. への対処として,国家はサービス利用者が水へ. て,水の供給や廃水処理などのサービスを含ん. のアクセスを得られるための措置をとることが. で交渉することができる.GATS はサービス. 求められる.水に対する人権の認識は,国家が. 貿易を四つのモードに分類して定義するが,こ. そのような措置を実施する義務を有することを. の内の第 3 モードでは「業務上の拠点を通じて. 意味する.. のサービス提供」が規定され, 「いずれかの加 盟国のサービス提供者によるサービスの提供で. 1.水サービスの事業形態. あって他の加盟国の領域内の業務上の拠点を通. GATS は サービ ス 貿易自由化 を 推進 す る 国. じて行われるもの」が GATS の対象となると. 際協定であって,加盟国に民営化を要求するも. する(第 1 条 2 項) .外国事業者が提供する水. のではない.しかし水サービス市場を外国事業. サービスは,浄水施設や営業事務所などの業務. 者の新規参入の対象として考察する場合,以下. 上の拠点を通して浄水や配水,廃水処理に関与. にみるように自由化と民営化が密接に関連する. す る 必要 が あ り,GATS の 第 3 モード の 事業. ことが理解できる.. 形態に位置づけられ交渉される25).. まず,自由化の側面から考えると以下のよう. この GATS の枠組みを用いたサービス自由. な相関関係を持つ.自由化とは法的その他の競. 化では,公共インフラサービス分野への外国事. 争障壁の撤廃である29).これは市場の開放と競. 業者の参入も想定されることから,サービスの. 争的市場環境 の 導入 を 意味 す る た め,既存 の. 受入国のサービス提供構造を大きく変革させる. サービス提供が独占や市場支配的な状況で行わ. 可能性がある.その過程では,受入国のサービ. れていた場合,その事業者は市場に対する支配. ス消費者に人権侵害を含めた悪影響が生じるこ. 権を以前に比べ制限される.そもそも水サービ. とが懸念されるのである.. ス分野では自然独占が発生しやすいこと,及び.
(6) 80. (582). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). 公営独占の形態で行われてきたことを踏まえる. を維持する必要がある33).. と,このサービスの自由化は公的独占であった 事業を民営化する文脈で実現される30).. 2.水サービス提供における国家の措置,施策. 他方で,民営化の側面から考えると次のよ. ⑴ ユニバーサルサービス義務. うな相関関係を持つ.民営化とは狭義の法的. 民間部門は高収益を見込めるサービス形態を. な意味では,官から民への所有権の移転を意. 追求するため,民間事業者の水サービスへの参. 味 す る31).通常,民営化政策 は 公的事業者 が. 入が必ずしも社会全体の水に対するアクセス状. 生産又は供給するサービスが民間事業者のそ. 況の改善につながるとは限らない.このため,. れより効率が悪いと考えられる場合,効率性. 国家は事業者との契約の際,ユニバーサルサー. 32). の 向上 を 目的 と し て 進 め ら れ る .し か し,. ビス義務の規定を導入することで貧困層や収益. 民営化による効率性の向上が競争原理の結果. の低い地域に対するサービス供給を確保しよう. であると考えるなら,その予定された効果は,. とする34).ユニバーサルサービス義務とは,サー. 競争的環境の導入及び維持のための政策がと. ビスを提供する事業者に,利用者が相当な低価. もなう場合のみ得られる.すなわち,民営化. 格又は無理のない料金でのアクセスを可能とさ. と自由化は実質的な関連性を有する.. せるよう義務付けるものである35).例えば日本. さらに,本稿が後に検討を試みる GATS の. の 水道法 で は,国及 び 地方公共団体 が 国民 に. 枠組 み で は,民営化 と 自由化 が 密接 に 関係 す. 対して「水源及び水道施設並びにこれらの周辺. る.WTO 事務局 が い う よ う に GATS は サー. の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に. ビス貿易自由化を推進する国際協定であり,民. 関し必要な施策を講じなければならない」こと. 営化を求めるものではない.しかし,水サービ. を規定し(第 2 条),水道事業者が消費者に対. スが多くの国で公的事業者によって提供されて. する義務として,「事業計画に定める給水区域. いること,及び多くの場合ではサービス貿易自. 内の需要者から給水契約の申込みを受けたとき. 由化によって他国へ進出する事業者が民間企業. は,正当の理由がなければ,これを拒んではな. であることを考慮すると,GATS 上での水サー. ら」ず,原則として「水道事業者は,当該水道. ビス分野におけるサービス貿易自由化は通常,. により給水を受ける者に対し,常時水を供給し. 事業の民営化が要求されることとなるであろ. なければならない」ことを規定する(第 15 条).. う.このように,水サービス分野においては自. また料金については「能率的な経営の下におけ. 由化と民営化は密接な関連性を持つ.. る適正な原価に照らし公正妥当なものであるこ. さて,通常水サービスは民営化及び自由化さ. と」及び「定率又は定額をもつて明確に定めら. れたとしても国家の権限を離れて民間事業者の. れていること」が事業者に要求されている(第. 経営方針に完全に服することはなく,またサー. 14 条の 2).このようなユニバーサルサービス. ビスが完全に民間事業者の決定する利用条件,. 義務を設定することで,政府は自国のサービス. 価格で提供されることが認められるわけでもな. が普遍的に提供されることを義務づけ,サービ. い.経済的利益,人権,環境といった問題のバ. スが民間事業者によって提供される場合でも利. ランスを効果的に維持しながら水の管理を行う. 用価格や提供対象について政府の示す基準が確. には,国家が民間部門の関与の速度や条件に対. 保されるように求めるのである.. する管理を維持することが不可欠となる.例え. ⑵ 補助金. ば貧困層をはじめとした全ての人にサービスの. ユニバーサルサービス義務とともに,水サー. 利用が可能となるために,国家はユニバーサル. ビス部門における政府の権限の行使として重要. サービス義務や補助金に関する規制の実施権限. な措置が補助金の交付である.ここでの補助金.
(7) 水に対する人権と WTO(波多野). (583). 81. は商業的性質を持つユニバーサルサービスが提. のすべての分野におけるサービス」と定義する. 供される場合に,主に貧困層がサービスに対す. (第 1 条 3 項⒝).ま た,第 1 条 3 項⒞ に よ れ. る価格的入手可能性を阻害されないために採用. ば「商業的な原則に基づかず,かつ,一又は二. される.公共サービスの提供において,地域間. 以上のサービスの提供者との競争を行うことな. や所得階層間で価格の格差を小さくする目的で. く」,政府によって提供される公共サービスは. 実施される内部補助金政策は,水サービス分野. 自由化の対象とはならない.すなわち,商業ベー. においても貧困層や水の入手が困難な集団に. スで提供され,競争関係にあるサービスは「政. サービス提供を行う手段として有力である.し. 府の権限の行使として提供されるサービス」と. かし,内部補助金は他の地域や顧客層で一定水. は見なされず自由化の対象となる.. 準の収益が得られることを前提とするため,こ. 従来多くの国では,電気通信,郵便,電力・. の収益が見込めなければ補助金支出は困難とな. 水道サービスなどの公共サービスは政府が独占. る.また,行政部門が貧困層や地理的に孤立し. 的に運営し,それによって公益性の確保と経済. た地域へサービスを提供する事業者に補助金を. 発展の段階に応じた整備が確保されてきた.ま. 支払う場合,途上国では行政の財政収支の都合. た,水をはじめ,電気通信,電力などの公共イ. 上で補助金交付が困難となることもあり, また,. ンフラサービスは,提供に際する初期投資費用. 当事国が GATS などの国際協定の締約国であ. が莫大であるために,その多くが独占事業者に. る場合には,一部事業者への補助金支出が協定. よって運営されてきた経緯を持つ.すなわち,. 上の反競争的行為を構成することや,内国民待. 水サービスは歴史的に多くの国で公的事業者に. 36). 遇規定に違反する事態も想定される .そのよ. よって独占的に提供されてきた.. うな場合には,GATS のようなサービス貿易. 他方で,民間事業者による水サービス提供が. 自由化や直接投資を扱う国際協定に整合的な方. 進展する例も見られる.先進国ではイギリス及. 法で国内措置がとられるよう模索されなければ. びフランスで大規模な民営化による水道事業の. ならない.. 効率化が行われている37).また,1990 年代に. Ⅲ.GATS と水サービス自由化を巡る交渉と 政策 . 世界銀行や国際通貨基金が多額の債務を抱える 途上国に融資条件として要求したことで,アル ゼンチン,ボリビア,ブラジルなど複数の国で. GATS は サービ ス 自由化 を 目的 と し た 最初. 水道事業の民営化が進められた.先進国でも規. の世界規模の多数国間協定である.この協定枠. 制緩和による経済的な効率性の追求を目的とし. 組みに基づいて,GATS 締約国は自国の事業. て,公共部門における民間の活用が議論されて. 者が他の締約国内で水サービスを提供するため. い る.日本 で は 2002 年 4 月 に 包括的外部委託. に交渉することができる.以下では,水サービ. を可能にした水道法の改正が行われ,水道の管. スが GATS の対象となりうることを示した上. 理に関する技術上の業務の全部または一部を他. で,他国からの水サービス分野の自由化推進の. の水道事業者若しくは一定要件を満たす民間会. 要求に対し,自由化義務の引き受けにかかわる. 社に水道法上の責務も含めて移管できるように. 交渉段階で締約国が行う規制権限を確保しうる. 法制が整えられた38).このように,従来,政府. ものとして分類及び特定約束を検討する.. の権限として提供されると考えられてきた公共 サービスも今日では民営化や自由化が進められ. 1.GATS の対象となるサービス. る傾向にあり,水サービスが政府によって独占. GATS は 協定 の 対象 と な る サービ ス を「政. 的に提供されるという従来のサービス形態は転. 府の権限の行使として提供されるサービス以外. 換してきている39)..
(8) 82. (584). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). さ て,実際 に WTO 加盟国 が GATS 上 で 水. が規定されている.このような義務を新規に参. 分野を自由化の対象として市場アクセスや内国. 入した外国事業者のみに課し,他方で従来通り. 民待遇を享受するには,相手国に特定約束の対. 公営で事業が行われる地域が義務を負わない場. 象としてリクエストを行い,オファーを得る必. 合,サービス普及率を上げる義務が GATS 上. 要がある.このリクエスト及びオファーをめぐ. の 内国民待遇規定(第 17 条)に 違反 す る 可能. る交渉では,当事国が各サービス分野を約束表. 性がある.また,補助金の交付も GATS 規定. に記入する方法がサービス貿易自由化の程度を. との整合性が問題となりうる.通常,事業者は. 40). 決定する .交渉に先立って,特定のサービス. 自由化されたサービス部門において,高い収益. につき,その内容が明白でないなどの争いのあ. を望める市場への参入を選択し収益の低い市場. る場合には,特定約束委員会を通した分類の方. への参入には躊躇する.政府は後者の市場への. 法や明確化の交渉が行われる.. サービ ス 提供 に あ た り,事業者 に 補助金 を 交 付することでサービスが利用者の購入可能な. 2.GATS と水サービスに対する規制権限の確 保,自由化の回避・制限 ⑴ 水サービスへの規制権限の確保と特定約束 の方法. 価格で提供されるように確保できる44).しかし GATS 締約国 が 自国 の 公的事業者 に 補助金 を 交付し,他の加盟国の外国事業者にこれを交付 し な い 場合,GATS の 内国民待遇規定 に 違反. WTO 事務局 は GATS 及 び そ の 交渉 に よ る. することが主張されうる.. 漸進的な自由化のために,公共サービスを含む. このような懸念に対し水サービスへの特定. あらゆるサービスは民営化させられ,多国籍企. 約束 を 回避 し た り,特定約束 を 行 う と し て も. 業の利益を目的とする WTO の規則に服する. 条件設定 を す る こ と は,政府 が 水 サービ ス へ. ことにつながるという誤解があるとして,その. の規制権限を確保する有効な方法である.2005. ような誤解に対処する見解を示している41).そ. 年 5 月 を 提出期限 と し た 改訂 オ ファーで,EC. れによると,現在,配水に関する約束をしてい. の 全加盟国 は 各分野 に 共通 の 約束(horizontal. る GATS 締約国はないが,例えそのような約. commitments)として,公益事業 (public utilities). 束がなされても,それは加盟国政府が適切と考. を「国又は地方で公益事業と見なされるサービ. える政策目的で水質,安全,価格,その他の基. スは公的独占又は民間事業者への独占権に服さ. 準設定をする権利に影響を与えるものではな. せることができる」と市場アクセスの制限をし. く,外国提供者にも国内提供者に適用されるも. ている45).また,ノルウェー,リヒテンシュタ. のと同様の規制が適用される42).しかし水サー. インは環境サービスの約束で,事業の所有者や. ビス分野で個人のサービスへのアクセスを確保. 契約者を問わず,公共的機能を有するサービス. させるために有効な政策であるユニバーサル. を除外するものとしている46).. サービス義務の設定や補助金の交付は,競争制. ⑵ 分類問題. 限的な要素を含むため GATS 規則に違反する. 原則として GATS 上の多くの規定は「一般. 可能性がある.. 的な義務及び規律」として全てのサービスに適. も し GATS 締 約 国 が 特 定 約 束 を 行 う 際. 用される.他方で市場アクセス及び内国民待遇,. に,その条件や制限を慎重に策定しなければ,. そ の 他 の 追加的 な 約束 の 義務(以上,特定約. WTO 加盟国のユニバーサルサービス義務を確. 束)は,各国家が選択したサービス部門で自国. 43). 立させる能力は制限される .前述のブエノス. の許容する範囲内で発生するため,国家は合意. アイレスの事例ではコンセッション契約に水. なくサービス自由化の義務を負うことはない.. サービス普及率を一定水準まで上昇させる義務. GATS に お け る サービ ス 貿易自由化 は,特定.
(9) 水に対する人権と WTO(波多野). (585). 83. 約束によって市場アクセスと内国民待遇の適用. よる分類は地域社会に供給される公共インフラ. を拡大させる過程を通して進められる.. サービスを列挙し,従来型の環境サービスを提. 各国は特定約束のために約束表を作成し,自. 示するに留まっている.また,中心的な焦点が. 由化を行う分野や自由化の程度について記載す. 廃棄物管理や汚染管理に当てられている51).. る.WTO 事務局は約束表の作成を容易にする. このため,WTO 事務局による環境サービス. 目的で十二分野からなる分類表(W/120)を作. の分類は,この分野の現状に見合わないとの批. 成している47).この WTO 事務局や他の機関が. 判がある.より具体的には第一に,事務局分類. 作成した分類表は締約国が参照するにとどまる. 表の環境サービスのより明瞭な分類のために. ものであり拘束的なものではないが,締約国が. は,水,土壌,大気,騒音というように環境媒. サービス貿易自由化の交渉を行う上で基礎と. 体に応じた整理がなされることが好ましいが,. なる重要な資料である.しかし,サービス貿. 事務局分類は明確でない.第二に,排出される. 易の態様は分野によって著しく進展し新しい. 環境汚染物質 を 除去及 び 処理 す る 伝統的 な 末. サービスが確立されることから,事務局分類表. 端(end-of-pipe)アプローチに焦点が当てられ. (W/120)は現在のサービス貿易実態を適切に. ており,汚染防止や資源の持続的管理に関する. 反映していないとする見解が示されている.. サービスがほとんど対象とされない.第三に,. ウルグアイ・ラウンドの合意済み交渉項目と. 特定の施設,工場,設備の稼動において提供さ. されていたサービス分野における WTO 交渉. れるサービスを対象としているが,それらの建. は 2000 年 1 月 1 日に再開された.当初の交渉. 設や改修に必要な環境配慮型の設計(design),. で水部門に最も関係のある問題は環境サービス. 技術(engineering),研究開発(R&D),コ ン. の分類の議論であり48),EC は日本を含む複数. サルティングサービスを想定していない.第四. 国に環境サービスの分類において生活利用水. に,地域社会に供給されるサービスに焦点を当. (water for human use)を含めたリクエストを. てており,産業に直接供給されるサービスを想. 行った.し か し,現在までにこれをオファー. 定していない52).. している国はなく,日本も生活利用水及び廃. このような批判から,WTO 事務局による分. 水処理管理分野のオファーでは「分類に関する. 類表は環境サービスの現状を反映するものでな. 締約国間の合意に服する」として現時点で約束. く,適切でないと指摘されてきた53).締約国に. 対象としていない49).また,米国は環境サービ. とってサービス貿易自由化のために,より明確. スの小分類で「生活利用水を除く廃水処理管理. な分類が求められる場合には,次に見る EC の. ( Wastewater Management, excluding Water. 例のように,このために交渉が行われることと. for Human Use) 」と 記載 し,生活利用水 を 明. なる.. 確に排除する50).. ⅱ EC の提案. ⅰ WTO 事務局による分類表(W/120). EC は 1999 年に環境部門の分類問題を扱う通. WTO 事務局による分類表によれば,環境サー. 達(communication)を提出し,現在の W/120. ビスは⒜汚水サービス⒝廃棄物処理サービス⒞. 及び CPC 分類には複数の問題があると指摘し. 衛生サービス及びこれに類似するサービス⒟そ. ている54).ここで示される最も根本的な問題は,. の他の四分野より構成される.ここでは水サー. 主要環境サービスが環境媒体別に明確に示され. ビスについての明確な分類はなされていない.. ていない点であり,EC はこの問題に対処し,. 水サービスは⒟のその他のサービスに含まれる. かつ相互排除性を持つとする独自の分類案とし. 可能性があるが,現在まで水サービスを含んだ. て,サービ ス を,空気,水,固形物,共有性,. 解釈及び約束を行っている国はない.事務局に. 騒音など,環境媒体に応じて分類することを.
(10) 84. (586). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). 求める55).このような意図で提案された EC の. 価格的利用可能性(affordability)を 規制 す る. 1999 年案は,環境サービス中で「生活利用水及. 権限を決して損なわせたり低下させたりしな. 56). び汚水管理」の項目を分類化し(6B) ,その小. い」ものとする59).しかしこの立場は,EC の. 分類では「蒸気及び温水を除く水道管を利用し. 要求が受入国の規制権限の余地を否定しないこ. た給水サービス」を明記している. 57). .. とを示すものであり,水分野の自由化要求を否. EC は 2000 年の修正提案でも媒体に応じた. 定するものではない.実際に EC は初期リクエ. 環境 サービ ス の 分類,水サービスの明確な記. ストを行った 109 カ国の内,72 カ国に対して生. 入を求める分類案を維持している.修正提案は. 活利用水の自由化を要請しており,EC の企業. 1999 年の提案を基礎に,貿易と部門ごとの現. が GATS の枠組みで第三国における水事業へ. 実をよりよく反映させる「中核的」環境サービ. 直接投資を行うための交渉を継続している60).. スの新たな分類を提案した. そこでは, 「水サー. 他方,2005 年の香港閣僚会議でリクエスト・. ビス」を「蒸気及び温水を除く水道管を利用し. オファー交渉が二カ国間のみでなく複数国間で. た集水,浄水,給水サービス」と定義し,上水. も進められることが合意され,分野ごとに同様. 58). 事業を上流から下流まで包括的に記載する .. の関心を持つ複数国が共同でリクエストを行う. EC が 1999 年及び 2000 年に提出した分類案. ことが可能となったが,EC はこのリクエスト. は,概念的 に 多様化する傾向がある環境サー. (2006 年 2 月 28 日提出)では生活利用水(water. ビスを媒体によって分類することでより的確. for human use)を 含 め て い な い61).し か し,. に捉えようとするものである.他方でこの分類. こ れ が EC の サービ ス 貿易自由化政策 の 転換. 案には事務局分類に明記されていない生活利用. と考えるには次の点から問題がある.第一に,. 水サービスを分類に明記し交渉土台に載せる試. 2006 年のリクエストでは EC はなおも「衛生及. みであると促えることができる.事務局分類を. び汚水サービス」を含めている.この「衛生及. 含め国際機関などによって作成される分類表は. び汚水サービス」はサービス提供の構造上,生. 拘束的なものではなく,国家は自国の作成する. 活利用水の供給と密接な関係があり,EC はそ. 分類表で自由にサービス貿易自由化のリクエス. れまでのサービス分類では二つのサービスを一. トをできる.しかし分類問題は加盟国のリクエ. 組のものとして自由化の要求を行っている.ま. ストとオファーの基礎を提供する交渉過程であ. た, 「衛生及 び 汚水 サービ ス」は 水供給 サービ. り,加盟国はここでも国内規制の目的に沿った. スと同様に,サービスの利用が人権としての性. 分類の作成に関与する政策を選ぶこととなる.. 質を持つことが論じられている.このことから,. ⑶ EC による水サービス自由化の要求. EC の政策転換は少なくとも人権保護を根拠と. 以下にみるように,EC は水サービスの公共. したと考えられるものではない.第二に,2006. 的性質に注意を払いつつも,GATS の枠組み. 年のリクエストは複数国間交渉(プルリ交渉). で水サービスの自由化を可能とさせるための. として行われているものにすぎない.プルリ交. 交渉を行っている.2002 年 6 月 30 日提出期限. 渉はそれまでの二カ国間での交渉に加えて行わ. とされた初期リクエストでは,EC は国営企業. れる性質のものであり,既存の交渉内容を破棄. が民営化しない状態では公共サービスの解体. するものではない.実際に EC はプルリ交渉の. (dismantle)を求めない立場を示している.そ. リクエストがそれまでの二カ国間リクエストに. こでは環境サービスについてはリクエストす. 置き換えられるものではないことを言明し,他. るが水資源へのアクセス問題には触れないと. の GATS 締約国 と の 二 カ 国間関係 で 生活利用. して, 「受入れ国が選択する水供給の価格設定. 水分野の自由化の要求を継続している62).. ( pricing) ,地 域 的 入 手 可 能 性( availability) ,.
(11) 水に対する人権と WTO(波多野). Ⅳ 水サービスに対する規制権限の確保:一般 的例外規定を根拠とした規制. (587). 85. 定の解釈においては GATT の同類系の義務を 参照できることを示している64).また,米国・ 賭博サービス事件で米国は第 14 条⒜及び⒞を. 実際 に GATS 締約国間 に お い て,外国事業. 援用しているが,これに対しパネル及び上級委. 者の水サービス市場参入及びその受け入れ国に. 員会の裁定は GATT 第 20 条で用いられた分. おける国民の生活に必要な水へのアクセス上の. 析方法を用いて裁定を下している.そこで,以. 問題が発生した場合,GATS 上ではいかなる措. 下 で は GATT 第 20 条⒝ に 対 す る WTO の 裁. 置がとれるであろうか.これにつき,本章では. 定の検討を利用して,問題となる措置の GATS. GATS の一般的例外規定,その中でも「人,動. 整合性を考える.. 物又 は 植物 の 生命又 は 健康 に 必要 な 措置」を. GATT 第 20 条⒝ の 一般的例外条項 を 用 い. と る こ と で 外国事業者 の 提供 す る 水 サービ ス. て,他の GATT 規定に違反する措置を正当化. を規制する可能性を論じる.これは,第一に,. するための要件として,米国・ガソリン事件パ. GATS 締約国が水サービスの特定約束を行った. ネル報告書は三つの要件を提示している65).す. 場合,それによって参入した外国事業者への規. なわち第一に,規定が引用されるための措置に. 制の問題,第二に,GATS 締約国が既に二カ国. 関する政策が,人間,動物,植物の生活または. 間協定などで水部門への直接投資が行われてい. 健康を保護することに向けられた政策の範囲に. る場合における一般的例外規定を根拠とした規. あること,第二に,例外が引用されている対象. 制措置の援用の可能性という問題に対応するも. となる整合的でない措置は政策目的を満たす必. 63). のである .. 要があること,第三に,措置は条文の柱書の内. GATS 第 14 条は GATS 締約国が協定の規定. 容と整合的に適用されることである.以下これ. の例外として,一定の条件の下で規制措置をと. ら三つの要件についてそれぞれ検討する.. れる こ と を 規定 する.同条は⒝で「人,動物. 第一に,一般的例外を構成すると主張される. 又は植物の生命又は健康の保護」を規定してお. 措置が,人間,動物又は植物の生活又は健康の. り,この目的において加盟国がとる「必要な措. 保護を目的とする政策であることである.これ. 置」は他の GATS 規定の例外となる.すなわ. ま で の GATT 及 び WTO の 判例 で は,GATT. ち,水分野のサービス貿易が自由化されている. 第 20 条の例外と主張される措置につき,その政. 場合,外国企業によって運営される水サービス. 策目的を問題とする例は少ない.フランスのア. の事業運営形態が人の生命や健康を脅かすので. スベスト輸入禁止措置を判断した事件で,上級. あれば,当該サービスの受け入れ国は GATS. 委員会は措置が「保護」を目的としているとさ. 第 14 条⒝に規定される必要な措置をとること. れるには人間の健康や生活に危険を与えている. が許される.. ことが前提となるとした66).しかし,ここでは. これまで WTO の判断では政府によるサー. フランスが危険からの保護のために採った選択. ビス貿易自由化を規制する措置の根拠として. を評価する必要はなく,フランスが達成するこ. GATS 第 14 条⒝ が 援用 さ れ た 事例 は 無 い た. と を 望 む 公衆衛生(public health)の 保護基準. め,政府が GATS 第 14 条⒝に従った措置を採. も評価する必要はなく,単に問題となるクリソ. るための要件を判例から直接検討することはで. タイル・アスベストの利用禁止政策が人間の生. きない.しかし,GATS の条文を解釈する上で,. 活や健康を保護することに向けられた政策の範. GATT における同様の原則を解釈する先例を. 囲内かを決定すればよいと述べられた67).つま. 参考とすることは可能であろう.実際,EC・. り上級委員会は措置の目的を検討するにあたっ. バ ナ ナ 輸入制度事件 で 上級委員会 は GATS 規. て,立法目的よりもアスベストが明白な健康損.
(12) 86. (588). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). 害を与えているかという点を判断している68).. 的に制限される国の政策決定過程を考慮するも. EC・アスベスト事件を参考にすると,水サー. のでなく,当事国の現実的な政策立案を困難に. ビス分野で人の健康と生活を保護するための措. すると論じられる73).さらに,他の GATT 規. 置を採るには,水サービスが人の健康と生活に. 定への違反の程度が最も小さい規制を前もっ. 明白な損害を与えることを立証する必要があ. て決定することは不可能であり法的な予見性. る.つ ま り,他 の GATS 締約国 の 外国事業者. が確保されないことが問題とされる74).そこで. が提供する水サービスによって,水へのアクセ. WTO の判例では,この要件の適用基準は緩和. スが不可能になる,又は水質低下による健康被. されてきている.EC・アスベスト事件パネル. 害が生じるといった,明白に証明できる損害が. 報告は合理的に利用可能な代替措置が,当事国. なくてはならない.このため,単に事業におけ. の直面する経済的行政的な現実に鑑みて評価さ. る効率性追及などの社会的目的のみを理由に措. れなくてはならず,さらにそれが政策を実施す. 置を採ることは難しいであろう.. る措置であるかを考慮しなくてはならないとし. 水サービスに対する規制は通常,多様な社. た 75).同事件では上級委員会もカナダの上訴. 会的目的を持ち,その全てが必ずしも「人間. を退け,パネルの見解を支持している 76).こ. の健康と生活の保護のため」に向けられては. れは WTO 上の義務とそれに抵触する国内規. 69). いない .各種規制はそれぞれ人の健康に直. 制との双方の実施により得られる利益を衡量. 接または間接の影響を持つため,水質の規制. し,後者を優先させるものである77).. は第 14 条⒝の範囲に確実に入るが,独占的事. また上級委員会は韓国・牛肉事件において,. 業者 に 対 す る 事業効率確保や独占権限の濫用. 措置が「必要」とされるには,問題となる法又. 管理などは,その射程に補足されないであろ. は規制の実施が貢献する程度,実施によって守. 70). う .ここで問題となるのは,ユニバーサル. られる共通利益又は価値の重要性,実施の輸入. サービス義務や補助金であるが,ラング(A.. 者又は輸出者への影響を含む一連の要素を比較. Lang)が言うように,例えば補助金は人間の. 衡量させる過程を伴うと論じる78).. 健康を保護する直接の手段としてより,政治. このように,WTO 司法機関による一般的例. 的便宜 や 社会問題 へ の 対処 と いった 社会的衡. 外規定の必要性の解釈では,WTO 法の履行に. 平のために実施されており,措置が混合的ま. よる利益と国内措置による利益衡量が重視さ. たは不明瞭な目的を持つ事例もあるため,こ. れ,措置に伴う国内的事情が考慮される傾向に. れが第 14 条(b)の範囲に入るかの判断は個別. ある.この過程では,不可欠な共通利益や価値. 71). の状況ごとに異なるであろう .. が問題となる場合ほど問題となる措置が容易に. 第二に,整合的でないとされる措置が主張さ. 必要と判断されるであろう79).そこでは WTO. れる政策目的を満たすのに「必要」であること. 法上でサービス提供を行う外国事業者を保護す. の立証である.第 20 条(b)の意味で「必要」と. ることによる利益と,サービス受入国の国内措. して正当化するには,合理的に利用可能な代替. 置によって得られる利益の衡量過程が重視さ. 措置(reasonably available alternative)の中か. れる.このように考えると,水サービス分野に. ら,GATT 整合的 な 代替措置 を,こ れ が な け. おいては,貧困層やサービス利用から排除され. れば違反の程度の最も少ない措置を利用しなけ. る地域への施策を目的とした補助金交付やユニ. ればならない 72).. バーサルサービス義務の設定が GATS 第 14 条. しかし,合理的に利用可能な代替措置という. ⒝によって許される可能性があるといえよう.. 要件は過度に厳格であるとして批判される.す. 第三に,措置が柱書の要件を満たすことで. なわち,これは政策的,経済的,技術的,文化. あ る.GATT 第 20 条( GATS 第 14 条)の 柱.
(13) 水に対する人権と WTO(波多野). (589). 87. 書は,恣意的な差別,正当と認められない差. 発展した GATT/WTO は,人権の保護を積極. 別,国際貿易(サービス貿易)の偽装された制. 的に考慮する司法的役割を果たしうるであろう. 限となるような方法で,一般的例外にあたると. か.. いう措置を適用しないものとする.この第 20 条柱書の目的は一般的に「第 20 条の例外の濫 80). Ⅴ WTO 上における人権保護とその方法論. 用」を防止することにある .米国・エビ海亀. 前章では水に対する人権の保障に資する措置. 事件の上級委員会報告によると,第 20 条柱書. が,WTO 法で正当化される余地があるかを検. は信義誠実原則を表明するものであり,この一. 討 し た.本章 の 課題 は WTO 司法機関 に お け. 般原則の一つの応用を構成する権利濫用の原理. る法適用の上で水に対する人権が考慮される. (doctrine of abus de droit)は,国家 の 権利 の 濫. 余地を検討することである.WTO 法と人権規. 用的行使を禁止し,条約義務の適用を受ける分. 範の抵触の可能性を認めつつ,WTO 法の解釈. 野に影響を与える権利の主張の際には常に,誠. において人権保護の目的を内在化させることが. 実に (bona fide)すなわち合理的に (reasonably). 可能であれば,それは水に対する人権をより積. 行使されなければならないことを要求する.上. 極的に認めることにつながる.この方法として. 級委員会は,柱書の解釈及び適用は,ある加盟. 以下では,WTO と人権保護の関係を論じた上. 国が第 20 条における例外を引用する権利と他. で,制限解釈 の 原則(principle of restrictive. の加盟国の GATT の実体規定の下の権利の均. interpretation)に 基 づ く WTO 法 の 解釈,及. 衡線を描き出す作業であるが,この均衡線は固. び発展的解釈の原則(principle of evolutionary. 定的でも不変でもなく,問題となる措置の種類. interpretation)に 基 づ く WTO 法解釈 に つ い. や形態の差異,及び事件の事実の差異により異. て検討を行う.. 81). なるものであるという .このように,柱書の 要件の審査では個別案件毎の当事者間の利益衡. 1.WTO における人権保護. 量が求められるのである.. GATT 及 び WTO は 専 ら 国家間 の 経済関係. 国内で水サービスを提供する外国事業者に対. を規律するものとして発展してきた.このため,. す る 国家規制 を GATS の 一般的例外規定 を 用. 国際経済法学者と人権法学者とでは,必ずしも. い て 正当化 す る 方法 は,GATS 第 14 条 (b) に. 同一基盤で人権の概念が理解されているわけで. いう人の生命又は健康の保護という国家の社会. はない 82).. 政策として行使されるものである.しかし,本. 通商法研究者 に よ る WTO と 人権 の 関係 を. 章にみるように一般的例外規定の援用による措. 調和させる一つの試みは,ペーテルスマン(E.. 置の正当化においては,一方で国家の規制に. Petersmann)の研究に見られるように「権利」. よって得られる利益,他方でサービス貿易自由. の共有主体を企業やその他の法人と捉え,人. 化の制度及びそれによって得られる利益との比. 権概念を主に財産権を指すものとして用いる. 較衡量を経ると考えられる.必要性要件の検討. 傾向 に あ る83).こ こ で は,財産権 が 明記 さ れ. が示すように,この衡量過程では,国家の規制. ていないことが国連人権規約の欠陥と捉えら. によって保護される対象が,不可決な共通利益. れ,例えば貿易関連知的所有権協定(TRIPS). や価値である場合ほど,措置の必要性も容易に. の実施と個人の人権,特に健康に対する権利. 判断される.この意味では,個人の水に対する. の侵害との関係が議論される84).この立場か. アクセスが人権であるという主張は措置の正当. ら は,食料 と 住居,健康,水 の 供給 は 自由化. 化を容易にする可能性がある.では本来,人権. された経済における市場プロセスを通して効. 保護の目的を達成する直接的な役割を持たずに. 果的かつ効率的に供給されると想定されるた.
(14) 88. (590). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). め,食料と住居に対する権利,健康に対する. を「政府の権限の行使として提供されるサービ. 権利,そ し て 水 に対する権利は,国際経済法. ス以外のすべての分野におけるすべてのサービ. の十分な厳守を通して最もよく保護及び保障. ス」と定義し,⒞は「政府の権限の行使として. されることとなる 85).他方で,人権法研究者. 提供されるサービス」を「商業的な原則に基づ. が想定する権利の共有主体は個人や自然人と. かず,かつ,一又は二以上のサービス提供者と. いった 国際人権法の下の権利の主要な名宛人. の競争を行うことなく提供されるサービス」と. で あ り,そ の 人権概念 は 財産権,知的財産権. 定義 す る.こ れ ら の 規定 を,GATS の 範囲 か. を中心的な争点にはしていない.. ら特定サービスを除外するように制限的な解釈. このように考えると,ペーテルスマンに代表. をするのである89).. される見解は WTO と人権の抵触の問題を法. 他方 で,一般国際法上 に お け る 適用 を み る. 律的に調和させる過程に深く言及するもので. 限り in dubio mitius 原則は十分な支持を得てい. 86). はない .水に対する人権が財産権のような経. るとはいえず,この解釈方法が一般的となる. 済的権利として理解することは適切でないこ. 保障はない.ノックス(J. H. Knox)によれば. と,及びこの権利の GATS 上でのより実質的. PCIJ は in dubio mitius の 解釈原則 に 度々言及. な保護の施策が求められることを考慮すると,. しているが,そこではこの原則の利用は最後. GATS の制度,および条文に基づくより具体. の手段とされ実際の適用例はほとんどない90).. 的な人権と WTO の調整方法が求められるこ. GATS においても実際に紛争解決実行の方向. ととなろう.. 性を決定するのには関連事例が少なきに過ぎ, WTO 紛争解決がこのアプローチに従うかどう. 2.制限解釈による調整. かは明らかではない91).また,この調整方法. 実際 に WTO 規則 と 人権規範 が 抵触 し た 場. で保護されるのは国家の規制権限そのもので. 合 に 対処 す る 方法 と し て WTO 司法機関 に. あり,調整の過程で人権という価値を司法機. よって採択された報告で言及されているのが,. 関が積極的に考慮するものではない.この意. 曖昧で解釈の余地のある GTAS 規定から生じ. 味では制限解釈による調整方法は人権保護と. る義務につき,できる限り主権国家の負担とな. の関係で直接的な合目的性を欠くと考えられ. らないように解釈する方法である.これは一般. る.他方 で,次 に 見 る 発展的解釈 に よ る 調整. 国際法上で条約解釈の補助手段として認められ. は人権保護という目的を WTO 法の解釈と直. る,in dubio mitius の 解釈原則(制限的解釈 の. 接的に両立させようとする試みである.. 原則ともいわれ,疑いのある場合には国家主権 に対する制限は制限的に解釈しなければならな. 3.発展的解釈による調整. いというもの)を WTO でも用いる考え方であ. WTO 司法機関が個人の水へのアクセスのた. る.EC・ホルモン事件で上級委員会は同原則. めに GATS 第 14 条⒝を解釈するとしても,そ. を用いることで SPS 措置が国際基準に「基づ. れは水に対する人権の保護に貢献する措置に過. いて」とられることにつき,措置が国際基準に. ぎない.水サービスの「人権」としての規範内. 服すると考える主権制限的なパネルの解釈を否. 容を容認し,その権利の実現を担う過程に結び. 87). 定した .すなわち,EU は自身の健康及び環. 付けるには,そのための解釈理解が求められる.. 境基準を適用する裁量を是認された88).. 結論を先に言えば,GATS 第 14 条⒝により「水. こ の 方法 の 適用 を 検討 で き る 例 と し て,. に対する権利」の実現がはかられるには,この. GATS の 適用範囲 を 示 す 規定 で あ る 第 1 条 3. 規定の解釈基準に人権規範の考え方を織り込む. 項の解釈があげられる.同項⒝は「サービス」. という方法による発展的解釈が求められる92)..
(15) 水に対する人権と WTO(波多野). (591). 89. これは,WTO 司法機関が GATT 第 20 条⒝や. き で あ ろ う95).す な わ ち,WTO 司法機関 は,. GATS 第 14 条⒝の規定を解釈する上で,人権. WTO の解釈の上で一般国際法を考慮するに留. 規範の内容を考慮するということである.. まると考えられる.. では,WTO 司法機関はいかなる方法で人権. もとより GATT は専ら自由貿易のための交. 規範 を 考慮 す る の で あ ろ う か.WTO 協定 の. 渉と監視の規則に関する協定であり,制度的に. 紛争解決に係る規則及び手続に関する了解は,. 他の国際法体系から孤立状態で発展してきた96).. WTO の紛争解決制度が「同制度が対象協定に. 資源保全や健康に関する措置の利益が十分に考. 基づく加盟国の権利及び義務を維持し並びに解. 慮 さ れ な かった 従来 の 紛争解決 の 結果 は,こ. 釈に 関 す る 国際法上の慣習的規則に従って対. の発展形態がもたらした悪影響であり,そこ. 象協定の現行の規定の解釈を明らかにするこ. ではパネルは環境保護や人権保障に資する可. とに資するものである」と規定する(第 3 条 2. 能性のある第 20 条を制限的にしか解釈してこ. 項) .この点,条約法に関するウィーン条約は. な かった97).他方 で,米国・エ ビ 海亀事件 に. 第 31 条で, 「条約は,文脈によりかつその趣旨. お け る 上級委員会報告(1998 年)は,そ れ ま. 及び目的に照らして与えられる用語の通常の意. での GATT 解釈の方法と異なる解釈がされう. 味に従い,誠実に解釈する」 (第 31 条 1 項)と. ることを示す.すなわち本案で上級委員会は. した上で,文脈とともに考慮する事項の一つと. GATT が起草から 50 年以上を経ていることを. して「当事国の間の関係において適用される国. 考慮し,国際社会の現在の関心事に基づいた条. 際法の関連規則」 (第 31 条 3 項 c)をあげてい. 約解釈の必要性を指摘するのである98).このよ. 93). る .この条項の解釈につき,パウエリンに代. うにして,報告では GATT 第 20 条⒢の有限天. 表 さ れ る 学説 は WTO 司法機関 が WTO 以外. 然資源の解釈の際に,国際環境法の発展が考慮. の国際法を適用する権限を肯定的に解釈する.. される.. 彼は第 3 条 2 項は適用できない法を明確に排除. ハウズ(R. Howse)とミューチャ(M. Mutua). してはおらず,また第 31 条 1 項⒞は条約規定,. によれば,このような解釈は GATT 第 20 条内. 慣習国際法,国際法の一般原則いずれをも参照. の他の規定にもあてはまるものであり,同条⒝. することができるものとし,この条項はそれら. にいう「必要性」も国際人権協定を含めた国際. の規則の成立時期に制限されるものではないと. 法の関連規則に照らした解釈が要求される99).. して,条約締結後及び解釈の時に存在する一般. 他方 で,GATT 第 20 条⒝ や GATS 第 14 条⒝. 国際法を適用可能とする発展的解釈を容認する. を,人権保護を達成させることのできる規範と. 94). のである .このような解釈方法を採用した場. 捉える解釈には批判もある.例としてユエン(G.. 合,水に対する人権の成熟度によっては WTO. Juen)は,GATS 第 14 条は貿易制限措置の正. 司法機関がこれを適用法規とできると考えるこ. 当な根拠の一つとして人権に明確な言及をして. ともできる.. いないと指摘し,WTO の紛争解決における制. し か し,パ ウ エ リ ン に よ る 発展的解釈 は. 度上の権限は WTO の解釈に限定されること. WTO 司法機関の適用法規を国家の合意によら. を論じる100).他方で,このような見解も WTO. ずに拡大させるものである.解釈に関する国際. 法の規定を人権保護に資する目的で解釈するこ. 法上の関連規則として,当事国間の間に適用さ. とを否定するものではない.別段に規定のない. れる国際法を引用するとしても,WTO 司法機. 限り,WTO 司法機関は,適用法を WTO 法に. 関が国家に義務を課す規則自体は WTO 法で. 限定しながらも,諸規定を可能な範囲で人権. あることから,関連規則として非 WTO 法を. 保護の目的に整合する解釈を行うことは可能. 適用法規とすることはできないと考えられるべ. であろう.もっともこのような解釈によって個.
(16) 90. (592). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). 人の水に対するアクセスが確保されるには,水. 国内の法や制度を整備し,対応する政府の規制. に対する人権の法規範性に対する諸国の認識が. 権限を確保する形で GATS 関係の政策に取り. 一定程度に高まることが条件となる.しかし,. 組むことが課題となる.. GATS の枠組みで行われる特定の経済活動に. 水サービスに対する国家の規制権限が十分. よって水に対するアクセスが妨げられるのであ. に確保されるためには,本来,水サービスが. れば,WTO 司法機関はこの権利を背景にした. GATS の 特定約束 に よ る 義務及 び 一般的義務. GATS 第 14 条の解釈を行う余地も残されるで. のいずれにも服さないことが好ましいとも言え. あろう.. よ う.し か し,GATS は 原則 と し て「あ ら ゆ おわりに. る分野におけるすべてのサービス」を対象とす る国際協定である.EC の複数の多国籍企業は. 個人の水に対するアクセスの確保はなおも国. GATS 外でも他国に水サービスの民営化及び自. 内問題としての性格が強く,各国は自国の社会. 由化を要求しており,そこで投資紛争が生じた. 政策上の課題として領域内での水関連設備の敷. 場合,受入国が人権を根拠として抗弁を行うこ. 設や個人への水提供を行う.他方で,地球規模. とは,適用法と慣行の欠如のために困難であろ. での人口増加,開発の進展,外国事業者による. う101).こ れ に 対 し て,GATS で は 人権保護目. 水サービス提供といった様々な要素によって,. 的の制度的手続きの整備はみていないものの,. 個人の水に対するアクセスの問題は国際的な関. 人権保護に資する規制措置の慣行が形成されう. 心事と認識される傾向がある.水に対する人権. る.水に対する人権の保障にあたっては,この. は,国家が他国や国際社会に対して,また,個. 権利がより一般的に認識される過程,そして,. 人が国家や国家の契約する事業者及びその本国. その保障を実質的に可能とさせるための国際的. に対して,個人の水へのアクセスが確保される. 及び国内的な規範形成の過程が,国家及び国連. ための制度と政策の要請及び享受の正当化の根. 機関や WTO などの国際機関の作業により進展. 拠を与える.この概念の一般化の程度によって. することで,その実現がより具体性を持つよう. は GATS の場合のように国際貿易や投資に関. になるであろう.. する協定が水サービスなど個人の水へのアクセ スに関連する場合に,国家は個人の水に対する 人権の侵害が生じないように規制権限を確保す ることが求められるであろう. GATS と水に対する人権との関係では,本 稿で検討した特定約束の段階における約束の回 避 や 条件付 け,GATS 規定 の 人権擁護的解釈 はそのための有力な方法である.しかし,これ らの方法は GATS の制度上に構築された人権 保障メカニズムの実践ではなく,GATS の規 範及び規範体系を人権目的に援用しようと試み るものに過ぎない.他方,GATS のような国 際協定の枠組み内で実質的に人権保障をはかる 方法論の整備は,人権の規範認識のために必要 な 作業 で あ る.こ の た め に,GATS 締約国 は 水に対する人権の内容を実現する措置のために. 注 1)Salman M. A. Salman, The Human Right to Water (2004), p. 3. 2)Ibid., pp. 3─4. サルマンは,一方で水資源管理 における民間部門の役割の拡大,他方で貧困層 及び社会的弱者の水に対する権利の認識の高ま りという傾向を考慮し,水に対する人権と経済 財としての水の双方の概念を両立させることが 主要課題であるという. 3)Stephen C. McCaffrey, “A Human Right to Water: Domestic and International Implications”, Georgetown International Environmental Law Review, Vol. 5 (1992), pp. 3─4. 4)General Comment No. 15 (2002): The right to water (arts. 11 and 12 of the International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights) (E/C.12/2002/11) (20 January 2003),.
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