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高等学校商業教育における特別活動としての就業体験実習を通した進路指導の検討

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Academic year: 2021

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(1)1. 妻校教育学研究,2007,第19巻,pp.1−6. 高等学校商業教育における特別活動としての    就業体験実習を通した進路指導の検討   井 上 仁 志 (兵庫県立神戸商業高等学校).   成 田.  滋    (兵庫教育大学).  商業高等学校では商業教育の一環としての就業体験実習を特別活動として実施している。進路成熟度尺度(CMAS−4)を 利用した進路意識調査を通じて,商店経営・販売実習,各種インターンシップなどの就業体験実習を体験することによる進. 路成熟度の高まりについて研究した。就業体験実習の体験者と非体験者との間で進路成熟度に有意差がみられた。ま左2年 生で実施される就業体験実習が,高等学校卒業時に希望する企業や職種への就職を実現させ,フリーター志向を防止する効 果があることについて考察した。. キーワード:商業教育,特別活動,就業体験,進路指導 井上 仁志:兵庫県立神戸商業高等学校・教諭,兵庫県立大学・非常勤講師,〒663−8174兵庫県西宮市甲子園四番町2−8,       E−mai1;hinoue@hyogo−u,acjp. 成田  滋:兵庫教育大学臨床健康教育系・教授,〒673−1421兵庫県加東市山国2007−109,E−mail:narita5@hyogo−u.acjp. Career Guidance through Intemship in. High School Commercial Education        Hitoshi Inoue (1かogo Prξゾκobε Co〃3η3εア(:∫α1ゐ配9乃 5c1∼oo1).        Shigeru Narita  (1か090伽Vθπ吻・(ゾ距00乃ε7E伽Cα∫’0η).  Working lntemship has been practiced as a pa質of the commercial education at the commercial high schooL This study explored students「levels of career awareness through a variety of working experiences such as store management, sales practices, and work intemship. A survey of students, career awareness survey was conducted by using CMAS4 battery..  Results showed that working experiences of the second grade students af艶cted to develop a perspective{br job expectancy and speci負。 job opportunity. Working expehences of high school students demons往ated ef驚ctiveness of preventing unstable employment. and unemployment Key Words:commercial education, career awareness, workin倉experience, career guidance. Eitoshi Inoue is Teacher of Hyogo Pref Kobe Commercial High Schoo1, and Instructor of University of Hyogo,2−8, Koshien4, ishinomiya, Hyogo 663−8174, Japan. E−mai1:hinoue@hyogo−u.acjp. Shigeru Narita is Profbssor, Center fbr School Education Research, Hyogo University of Teacher Education,2007−109, Yamakuni, ash三ro, Kato, Hyogo 673−1421, Japan・E−mai1鴇ahtas@hyogo一“・acjp.

(2) 2. 学校教育学研究,2007,第19巻. 1 はじめに. ではなく,実習の事前・事後において入念に指導をし,. 1週問前後の実習を,より有効に位置づけるための一連  高校生が将来の自分の職業を決めることは非常に難し. の取り組みでなければ,十分な効果が得られるかを検証. い。平成17年度の文部科学省・学校基本調査によれば,. できない。就業体験実習が,参加した生徒一人一人に対. 平成17年3月卒業の大学・短大生の卒業後の進路状況を. していかなる効果があったのかを測るための方法として,. みると,就職率は大学卒59.7(前年度55.8)%,短大卒. 事後アンケートや感想文などがある。「インターンシッ. 65.0(同61.6)%と,それぞれ前年より増加している。. プ実施手引書 平成17年度高校生就業体験事業 一イン. しかし「一時的な仕事に就いた者」としてアルバイトや. ターンシップ推進プランー」(兵庫県教育委員会 2005). 派遣など正社員ではない仕事に就いたものは,大卒で. によれば,体験後の生徒用アンケートの例をあげている. 35(前年度4,6)%,短大卒で6.4(同84)%。さらに. (TABLE l)。ここでは実習後の効果を測るための質問. 「進学も就職もしていない者」は大卒で17.8(前年度22.5). 項目として,①体験によって学んだことを確認させる②. %,短大卒で13.2(同19.4)%である。好景気から求人. 実習中の自分の取り組みに対する振り返り,反省③自分. 数が伸びた結果,いずれも前年度より減少しているのが. の今後の学習方針や態度への影響など,実習で得られた. わかる。しかしこのように進学,あるいは正社員への就. ものの将来への応用について④自分の体験したことを通. 職のいずれの道にも進まなかった者は,あわせて大卒で. じて,生徒なりの「働くということ」についての考え方. 21.3(27.1)%,短大卒で19.6(27.8)%と,5人に一人. を確認し,将来の職業選択への有効性を問う。などのア. という相変わらずの高率であり,「大学・短大を卒業し. ンケート項目で構成されている。他に就業体験事業を今. たらすぐ就職」という構図が変わりっっある。これは雇. 後展開する際の参考にするための学校側の立場で意見を. 用環境の変化,景気の影響も関係しているが,学校を新. 求める項目が並ぶ。. 規で卒業する時点で,自分の職業を自分で決めるという,.  商業教育専門高等学校であるK高等学校では進路に対. 重要な進路選択がなされていないといっても過言ではな. する意識調査を進路成熟度尺度(CMAS−4)を利用して,. い。大学,短大生であってもそのような状況がみられて. 定期的に実施している。心理尺度は生徒一人一人に備わっ. おり,まして18歳の高校生に高校卒業時に一生涯の職業. ている特定の態度を測ることが出来るため,前述のアン. 生活を送るうえでの自らの「適職」を選択することは,. ケートと併用することで,学校におけるキャリア教育の. 大変困難な作業である。そこで高等学校における職業指. 精密な評価方法として利用することが期待できる。. 導の上で,何らかの援助的介入が準備されることが不可 欠である。それが高等学校における進路指導においての.  そこで本研究の目的として,K高等学校における定期. 重要なポイントであるといえる。そのために各高等学校. 的な進路意識調査の分析結果から,以下のことを検証す. では生徒の主体的な進路選択能力育成に対して援助的介. ることである。①生徒が就業体験実習を体験することに. 入を試みているが,その最も注目されているのが就業体. よって,生徒自身の進路成熟度にどれだけの影響を与え. 験実習・インターンシップの取り組みである。. ることが出来るのか,就業体験実習体験生徒と非体験生.  全日制公立高等学校におけるインターンシップの実施. 徒との進路意識についての比較から明らかにする。②高. 状況調査によれば,学科別の実施率は平成13年度38.9%,. 等学校2年次に実施される就業体験実習の体験の有無が,. 平成14年度47.1%,平成15年度52.2%,そして平成16年. 高等学校卒業時にフリーター志向,あるいはフリーター. 度は59.7%であった(文部科学省,2005)。このなかで. 傾向である生徒と,希望の就職を達成した生徒の進路意. 商業に関する学科における平成16年度の実施率は815%. 識の違いが発生するタイミングについての2品目ある。. にまで達している。このようにインターンシップを実施. する高等学校は年々増加傾向がみられる。若年者の早期. TABLE 1 インターンシップアンケート(生徒用). の自発的離職やフリーターの増加が著しい現在の状況下. 1 インターンシップでどんなことを主に学びましたか。(2. において,高校生に勤労観・職業観を醸成する教育の一 方策としてインターンシップに対する期待が急速に高まっ. つまで). ているあらわれでもある。. イ 鋤くことの厳しさ. ア 働くことの楽しさ ウ 専門性の必要性・大切さ. 2 研究の目的. 工 挨拶や言葉づかいなどのマナーの大切さ オ 時間を守ることの大切さ. 力 人間性やチームワークの大切さ.  就業体験実習を実施する高等学校が増加しているのは,. キ 学校と社会の違い. それが教育的な効果があるということを教員が感じてい. ク 社会の中での企業等の役割 ケ 企業等が社会に果たす責任. るからである。単なる“やって終わり”という実施方法.

(3) 3. 高等学校商業教育における特別活動としての就業体験実習を通した進路指導の検討. 2 研修先の方々の働きぶりはどうでしたか。.  K高等学校における就業体験実習は2年生の7,8月.  ア いつも和気あいあいと楽しそうにしている. の夏季休業中に行われる。実施した進路意識調査のうち,. イ だらだら適当にしている  ウ 仕事中とそうでない時のけじめがはっきりしている 工 常に緊張感を持って働いている. オ その他(  ) 3 「働く」ということはどういう事だと考えていますか。 ア アルバイトの延長 イ 生きがい  ウ 収入を得る手段. 工 自分の能力を高める オ 社会への貢献. 力 その他(   ) 4 将来において就職先決定の重要なポイントは何ですか。. 2003年目7月から8月にかけて実習を体験した,平成17. 年3月に卒業した124回生のデータと平成18年3月卒業 の125回生のデータを利用した。 調査時期.  次の日程で調査を実施した。①2003年1月14日②. 2003年4月24日③2003年9月1日④2004年1月9日 ⑤2004年4月2日⑥2004年7月20日⑦2004年9月1日 ⑧2005年4月1日 質問紙  進路成熟度尺度(CMAS−4)(坂柳・竹内,1986)を用.  (2つまで). いた。本尺度で測定される進路成熟には,1)関心性,.  ア 給料・待遇. 2)自律性,3)計画性の3っの下位概念が設定されて. イ 企業の規摸・安定性。将来性  ウ 勤務場所や通勤時間 工 自分の興味・関心・能力に合致しているか オ 自分が勉強してきた専門性が生かせるか 力 社会に貢献できる企業・仕事内容であるか. キ その他(   ) 5 インターンシップの実施日数は何日ぐらいが適当だと思. いる。これらの3っの下位概念は,主に進学についての 進路成熟を扱う教育的進路成熟,主に就職についての進 路成熟を扱う職業的進路成熟の2側面によって測定され,. 全体として6っの下位尺度をもつ尺度として構成されて. いる。各下位尺度の信頼性係数αはTABLE 2の通りで あった(坂柳・竹内,1986)。. いますか。. ア 2∼3日. TABLE 2 質問紙の信頼性係数. イ 1週間  ウ 2∼3週間 工 4週間以上. 中 学 生. 高 校 生. 全体 男 女. 全体 男 女. 6 実施時期はいっ頃が適当だと思いますか。 ア 現在のままでよい(○月). 教育的 自律度. 549,493,600. .61L608589. イ よくない(  月頃がよい) 7 どのようなことに気を使いましたか。. 計画度. .716,692,740. .767.762フ68. 関心度. .672,683,661. .709,688,729. ア マナー. 職業的. イ 安全・事故 ウ 作業内容. 自律度. .625,628,606. .630,632,605. 計画度. .683b66.700. .756,742,768. 関心度. .650,626,678. .673,624,719. 工 その他(  ) 8 インターンシップを来年以降も続けるべきだと思います か。. ア 続けるべき. イ やめた方がよい(理由:     ) 9 今回のインターンシップで,特に印象に残っているのは どんなことですか. 手続き.  筆記による学級毎の集団実施。主にロングホームルー. ム(以下LHR)の時間を利用した。所要時間は約7分で あった。. 4 特別活動としての就業体験実習の実施. 3 進路意識調査の実施  就業体験実習に含まれる内容については①民間企業等 調査の対象. の事業所へ出向いての「職場実習」②兵庫匠の会所属の.  兵庫県内の専門高校(商業科),K高等学校生徒,平. 職人宅(または作業場)へ出向き,職人の技を体験的に. 成13年忌学生(以下123回生)356名(男子104名,女子. 学ぶ「技能実習」③県庁や市内の公共機関における「公. 252名),平成14年入学生(以下124回生)351名(男子. 務員実習」④最新設備の工場や物流センターを見学する. 102名,女子249名),平成15年入学生(以下125回生). 「職場見学」などがあげられる。124回生の参加した2003. 313名(男子88名,女子225名),平成16年入学生(以下. 年度の就業体験実習実施内容についてはTABLE 3の通. 126回生)320名(男子111名,女子209名),合計1,340名. りである。全18事業所での実習に86名が参加した。. (男子405名,女子935名)に対し進路意識調査を行った。.

(4) 4. 学校教育学研究,2007,第19巻.  就業体験実習の各取り組みの中で,本研究で取り扱う 「就業体験実習を体験したもの」とは①の職場実習に参 加した生徒を指し,その体験者と非体験者について検討. 洋菓子販売. 8月16日∼8月20日 W月25日∼8月27日. 1名 P名. 刀  貨  店. 8月2日∼8月6日. 4名. 〈技能実習〉. した。.  職場実習に参加した生徒1盲あたりの平均実習日数は. 技能・職人  7月25日∼8月30日内の5日間   3名 〈公務員実習〉. 4。02日であった。同様に125回生の参加した2004年度の. 区役所・消防署等 7月25日∼8月30日内の5日間   8名. 就業体験実習実施内容についてはTABLE 4であり,1. 〈職場見学会〉. 名あたりの平均実習日数は4.38日,.、126回生参加の2005. 子供服物流. 年度は5.11日であった。徐々に受け入れ先事業所の就業. ビール工場・製鉄所等. 7月16日 7月28日∼8月4日内の1日間. 15名 12名. 84名. 体験実習に対する理解も得られ,年々平均日数が増加す る傾向にある。. 5 就業体験実習による進路成熟度への影響 「TABLE 3.就業体験実習実施内容(2003年度). 受入事業所       日  程     参加生徒数 〈職場実習〉. 洋菓子製造A. 7月28日∼8月、1日. 4名. 旅行代理店. 7月28日∼7月31日 7月28日∼7月30日. 1名. ホ  テ  ル A. 洋菓子製造B 日用雑貨専門店 ホ  テ  ル  B. 百  貨  店. 食品製造C 書  店  A 書  店  B 書  店  C. 洋菓子販売 子供服販売A 子供服販売B プロ野球球団. W月4日∼8月6日 7月29日∼8月1日 8月3日∼8月10日. 8月4日∼8月6日 8月4日∼8月8日 8月7日∼8月11日 8月9日∼8月ll日 8月9日∼8月11日 8月9日∼8月11日 8月18日∼8月20日 W月25日∼8月27日 8月18日∼8月22日 8月18日∼8月22日 10月5日. 10名. 1名. 3名 4六 2名 4名 3名 3名 2名 2名. 5.1 就業体験実習前後,体験の有無による比較.  2003年8月に就業体験実習を体験した124回生のデー タ,その中でも2年生1学期当初の2003年4月25日と, 就業体験実習の職場実習体験直後である2学期始業式直. 後のLHRにて実施した9月1日,3学期始業式直後の LHRにて実施した2004年1月9日のデータについて SPSSを用いて統計処理をした。2003年夏季休業中の就 業体験実習の体験生徒と非体験生徒のいずれについても 進路成熟度尺度の全項目の合計得点を進路成熟得点とし た。以下,この進路成熟得点について検討した。.  2003年4月の時点での進路意識の比較においては,T 検定の結果,その年の7,8月に就業体験実習を体験す ることになる生徒と体験しない生徒の比較における5% 水準での有意差はみられなかったが(t(318)=1,66,. 2名. p>.05)(TABLE 5),就業体験実習を実施した夏季休業. 1名. 終了後である9月での進路意識の比較では,両者に有意. 4名. 〈技能実習〉. 差が認められた(t(318)=2.08,p>,05)(TABLE 6)。. 技能・職人 7月25日∼8月30日内の5日間   9名 TABLE 5. 〈職場見学〉. 生徒の就業体験実習体験の有無による進路成熟得点 の平均値と標準偏差(2003.4). 通信販売物流 7月16日           31名. 就業体験二二 42. 就業体験無群 278. 平均値. 18.90. 17.61. 標準偏差. 4,75. 4.69. 86名. 被験者数 TABLE 4 就業体験実習実施内容(2004年度) 受入事業所       日  程      参加生徒数 〈職場実習〉. 7月22日∼7月28日. 食品製造A. V月29日∼8月4日 W月9日目8月15日. ホ  テ  ル A. 7月25日ッ7月30日 7月26日∼7月28日. ホ  テ  ル  B. W月2日∼8月4日. 書  店  A 書  店  B 書  店  C. 8月8日∼8月10日 8月8日∼8月10日 8月8日∼8月10日. 日用雑貨専門店. 8月23日∼8月29日. 子供服販売A. 8月2日∼8月6日. 4名 Q名 Q名 3名 5名 T名 4名 4名 3名 2名 2名. TABLE 6. 生徒の就業体験実習体験の有無による進路成熟得点 の平均値と標準偏差(2003.9). 就業体験有田 42. 就業体験無群. 平均値. 呈9.17. 17.33. 標準偏差. 4.O1. 5.48. 被験者数. 278.  また就業体験実習の体験後約5ヶ月経過した2004年1 月の3学期当初での比較においては,就業体験実習体験 生徒と非体験生徒との間に有意差が認められなくなった.

(5) 5. 高等学校商業教育における特別活動としての就業体験実習を通した進路指導の検討. (t(318)=1.62,p>.05)(TABLE 7)。. TABLE 9. 卒業時の就業選択行動の相違による進路成熟得点の 平均値と標準偏差(2004.9). TABLE 7 生徒の就業体験実習体験の有無による進路成熟得点     の平均値と標準偏差(2004.1) 就業体験有群 42. 就業体験無三 278. 20.14. 18.58. 5.14. 5.92. 二験者数 平均値 標準偏差. フリーター志向群  希望就職達成者群 18. 20. 平均値. 17.39. 20,15. 標準偏差. 3.84. 4,18. 被験者数. TABLE 10. 卒業時の就業選択行動の相違による進路成熟得点 の平均値と標準偏差(2005.4). フリーター志向群  希望就職達成者群. 5.2 卒業時の就業選択行動の違いにみる比較.  125回生313名のうち,「フリーター志向」の生徒とし て18名,正規職員としての就職を希望し,卒業時には希 望の企業・職種への就職を実現させた「希望就職達成者」. 14. 18. 平均値. 17.57. 20,72. 標準偏差. 3.52. 3.86. 被験者数. 20名を抽出,分析した。「フリーター志向」18名の内訳 は次の通りである。①積極的に正規職員としての就職活. 6 考察. 動を行わないために進路が未決定である“就職活動ぜず. に未決濡者”10名②アルバイトとして就業先を決めた. 6.1 就業体験実習体験の有無. へ進路変更したため未決定である“進路変更で未決定者”.  124回生の2年生時の就業体験実習の体験生徒と非体 験生徒を比較した結果,就業体験によって進路意識が高. 1名④正社員として就職内定していたが,3月中の研. まることが明らかとなった。確かに就業体験実習の体験. 修中に早々と退職し,その後アルバイトをしている“超. は,実施直後の生徒の進路成熟度に影響を及ぼしている。. 早期退職者”4名である。なお,①∼③はいずれも卒業. しかし就業体験実習を体験した生徒と非体験生徒との進. “アルバイト決定者”3名③卒業直前に進学から就職. 式(2006年2月28日)の時点である。全卒業生から大学. 路成熟得点の比較において,その有意差が生じるのは体. 等進学者,公務員合格者を除いた生徒は90名であったの. 験直後のみであり,冬季休業をはさみ3学期に入ると,. で,抽出割合は342%である。また125回生の2年次の. その差は消滅する。2年生の夏の就業体験学習は,将来. 夏季休業中に実施した就業体験実習への参加の有無につ. の自らの職業について考える機会となり,それが進路意. いての資料も参考にした。. 識の向上へ影響を及ぼすことは確かである。しかし今回 の就業体験実習への取組では,体験生徒と非体験生徒と.  2003年4月から2005年4月までの7回のデータについ てSPSSを用いて統計処理をし,「フリーター志向」と. の有意差が持続しなかった。このことについては,まず. 専門高校生にとって2年生の3学期から3年生に進級す. 「希望就職達成者」のいずれも進路成熟得点について検. る4月までの数ヶ月間は,大きな進路意識の成熟が見ら. 討した。2003年4月から2004年7月までの5回の進路成 熟得点の比較においては,T検定の結果,2006年2月28. れる時期でもある(井上,2003)ということがあげられ る。担任教師との進路面談も控え,就業体験実習非体験. 日目卒業時点で「フリーター志向」と「希望就職達成者」. 者の進路意識も向上していると考えられる。次に就業体. になる生徒の比較における5%水準での有意差はみられ. 験の作業内容,実施期間,受入事業所担当職員の指導方. なかったが(t(36)=LO8, p>.05)(TABLE 8),2004. 法などを含めて,いくつかの要因が考えられる。しかし. 年9月,2005年4月調査の進路成熟得点比較では,有意. 本研究ではこれらについては明らかに出来ていない。. 差が認められた(t(36)=2。11,p>.05)(TABLE 9),. 6.2 卒業時の就業選択行動の違い. (t(30)=2.38,p>.05)(TABLE lO)。.  125回生が2年生の夏季休業を終えて2学期に入った TABLE 8 卒業時の就業選択行動の相違による進路成熟得点の     平均値と標準偏差(2003.4) フリーター志向群  希望就職達成者群 被験者数 平均値. 18. 20. 16.l1. 17.65. 標準偏差. 4.60. 4.21. 直後から進路成熟得点の比較で,有意差が認められた。. 2年生時の就業体験実習を体験することによって,進路 意識が高まることは上記で明らかになっている。今回の 125回生でも,2年生の夏季休業中にインターンシップ. を実施しており,本研究の比較対象者の参加割合は TABLE llの通りであった。.

(6) 6. 学校教育学研究,2007,第19巻. TABLE 11 2年次の就業体験実習参加率(125回生) 卒業後の就職状況. インターンシップ. @参加率. から勤めているアルバイト先に,そのままアルバイトと して勤務し続ける者,またハローワークに求職者登録を して,新規学卒者用の求人ではなく,一般求人から就職. 希望就職達成者    N=20. 40.0%. 先を探し,正社員として就職する者もいる。従って本研. フリーター志向    N司8.  22.3%. 究で定義した「フリーター志向」というものは,必ずし. @就職活動ぜずに未決定者  N=10           一   .   一   「   π   匿  −   .   .   一   一  一   .   一   .   7   匿   .   一. も「就職の意欲の無い者」として決めつけることは出来 ②アルバイト決定者    N翼3          丁   冒  −   匿   .   一  一   一  一   .   一  7   冒  −   一   .   一   ’  一   r  一   一   −   一   .   .   一   i. ない。しかし,3年生の1学期から夏季休業中にかけて ④早期退職者       N−18. 0.0%. が,最も自分の就職について考える時期であり,企業研 究を活発に行う時期でもある。その時期に一貫して「自.  高校生が自分の希望や適性を考慮しながら,職業調べ. 分のやりたい仕事がわからない」「自分は何をしたいか. や企業研究をし,具体的な就職先について考えるなど,. わからない」と,就職指導に“乗ってこない”生徒は,. 進路意識が高まるタイミングは,3年生で実際に求人票. 高い確率で就職未決定のまま卒業を迎える。. を目にする7月頃である(井上,2003)。しかし高校卒.  就職に対する意識が未熟な者は,進学希望の生徒から. 業時の希望就職達成者とフリーター志向の生徒の比較に. もうかがう事が出来る。例えば,将来の就職に直結する. おいては,すでに2年忌の2学期以降に有意差がみられ. 学びの場である専門学校への進学者にみることができる。. る。これは自らの職業観・勤労観を育成するインターン. 正規職員への就職を深く意識している者は,理美容,看. シップに自主的に参加している生徒の割合からみると,. 護・医療,調理,ビジネス系などの具体的職業教育に直. 希望就職達成者は40.0%であり,全校生徒からみた参加. 結する学校を選択する者が多いが,声優,音楽,演劇な. 率が14.05%であることから,高い割合であることがわ. どの趣味系の学校を選択する者は,具体的なキャリア・. かる。またフリーター志向の生徒は22.3%と,全校割合. プランニングに対する意識が希薄で,専門学校卒業後も. からみれば高率であるが,希望就職達成者との比較にお. フリーターというケースが多い。. いては意識が低いことがわかる。.  今回の研究では五24回生,125回忌の2学年分のデータ.  しかしフリーター志向のグループに入っている者の中. を使用し,2っの視点から分析を試みた。しかし高校生. には,卒業時に就職が決まっていないという条件を満た. の進路が多様化し,就職したとしても正社員だけではな. すものが含まれ,TABLE IIの③に示した進路変更で未. く,紹介予定派遣,一定期間の契約社員の条件であった. 決定者は,家庭の事情で進学希望から就職へと卒業式間. り,パート契約の新規学卒求人もみられる。どのような. 近になって進路変更をしたため,就職への意欲が低いた. 企業に就職をするのか,どのような学校に進学するのか. めに未定であるとは言えず,この1名は卒業式から2週. という生徒の選択行動についても,生徒一人ひとりの進. 間後の3月中旬には,正社員として就職が決定している。. 路意識に影響を受けている可能性がある。今後さらに精. さらに2年次のインターンシップ体験の有無だけが,ブ. 密なデータと分析が必要である。. リーター志向と希望就職達成者との意識の差が生じる原 因ではない。学校内でのキャリア教育に対する生徒個々. 引用・参考文献. の取り組みの状況によっても違いが生じる可能性もあり, 研究の余地が残されている。. 兵庫県教育委員会 2005 インターンシップ実施手引書 平成  17年度高校生就業体験事業 一インターンシップ推進プランー. 7 まとめと今後の課題. 井上仁志 2003 専門高等学校における進路意識調査からみた  キャリア教育の心理的影響 日本進路指導学:会 第25回研究.  本研究では,就業体験実習が生徒の進路成熟の発達に.  大会論文集 pp60−61. 有効であり,さらに高等学校卒業時の就業選択行動の違. 井上仁志 2004高校生のインターンシップ体験による進路成. いの生じる時点が,就業体験実習の実施時点と重なるこ.  熟度への影響 日本進路指導学会 第26回研究大会論文集. とが明らかとなった。.  pp52−53.  就職活動に積極的に取り組まず,高等学校を卒業する. 厚生労働省 2005平成17年版労働経済の分析(労働経済白書). ときに,進学も就職もせず,明確な進路を決めずに卒業. 内閣府 2003若年層の意識実態調査. する者は少なからずいる。このようなケースでは卒業後. 坂柳恒夫 竹内登規夫 1986 進路成熟度尺度(CMAS−4)の. クラス担任に,その後の進路について自ら積極的に報告.  信頼性および妥当性の検討 愛知教育大学研究報告35(教育. することも少ない。従って高等学校には卒業生の卒業後 の正確な情報が入り難い。卒業時には就職未決定であっ.  科学編). ても,その後すぐにアルバイトを始める者,高校在学中.            (2006.9.1旧稿,2006.10.17受理).

(7)

TABLE 11 2年次の就業体験実習参加率(125回生) 卒業後の就職状況 インターンシップ @参加率 希望就職達成者    N=20 40.0% フリーター志向    N司8 @就職活動ぜずに未決定者  N=10           一   .   一   「   π   匿  −   .   .   一   一  一   .   一   .   7   匿   .   一  22.3% ②アルバイト決定者    N翼3          丁   冒  −   匿   .   一  一   一  一  

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