子育てと幸福度の負関係改善の考察
Consideration on Improvement of Negative Relation in Parenting and Happiness
坂田美和
1秀島栄三
2Miwa Sakata
1,
Eizo Hideshima
21
名古屋工業大学 ダイバーシティ推進センター
1
Nagoya Institute of Technology
2
名古屋工業大学 大学院 工学研究科
2
Nagoya Institute of Technology
Abstract:「幸福度」を地域政策に活用することを目指した取組みが進められている.また,近 年注目が集まっているワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)においては,子育てに関 しての男女意識差の存在が明らかとなっている.本研究の目的は,この子育てに関する男女意識 差が仕事の有無にかかわらず一般地域にも存在すること,また,幸福度に影響を及ぼす子育ての 要因が何であるかを明らかにすることである.これにより,女性にみられる子育てと幸福度の負 の関係を改善し得る方策を考察することをねらいとしている.2016 年に行われた安城市の市民 幸福度に関するアンケート調査を基に,統計分析を行った.その結果,男女の意識に有意な差の ある要因は「子の健やかな成長」「親子のコミュニケーション」「子育てサービスの充実」であり, 特に女性の幸福度に影響を及ぼす要因は「家族の子育ての理解協力」「子の健やかな成長」であ ることが明らかになった.
1.はじめに
幸福度指標を政策評価に導入しようとする動きが 広がっている.「国民総幸福量(GNH)」を政策判断 の基準として活用しているブータンをはじめとして, 近年では,日本,フランス,英国,アメリカ,ドイ ツ,フィンランド,オーストラリアなどの多くの国 で幸福度を導入しようとする動きがみられる.また, OECD 等の国際機関が幸福度指標の作成に向けた検 討を進めるなど各国が連携しながら取組む動きもみ られる. こうした動きは中央政府や国際機関に限らない. わが国の多くの地方自治体では幸福度の導入に向け た取組みが進められている 1).この取組みの中,少 子化問題を抱える現代社会において,一人でも多く の親が幸福を感じながら子育てができるように子育 て支援サービスが重要視されてきている.しかし, 子どもを持つ女性は子どもを持たない女性より幸福 度が相対的に低いという研究事例もみられる 2).ま た,近年ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の 調和)に注目が集まっているが,男女によりその捉 え方や実践方法が異なることが明らかとなっている 3).2.既存の研究と本研究の位置づけ
前述のように,ワーク・ライフ・バランスにおけ る男女の意識差が問題視されているが,子育てに関 する意識差は仕事の有無にかかわらず一般に存在し, また,幸福度への影響要因も男女で異なるのではな いかと考える.そこで本稿では,一般地域における 「子育てに関する男女の意識差」と「幸福度に影響 を及ぼす子育ての要因」の双方を分析することで, 女性にみられる子育てと幸福度の負の関係を改善す るための方策を考察することをねらいとする.3.対象調査概要
本研究は,2016 年に行われた安城市の市民幸福度 に関するアンケート調査を基に,統計分析を行った. 調査対象区域は,愛知県安城市の全域であり,母集 団は,安城市在住の満 18 歳以上の男女個人である. 安城市住民基本台帳から市の年齢別人口構成比に応 じて無作為抽出し,標本数は 3000 人である.平成 28 年 9 月 24 日から 10 月 18 日の調査実施期間で, 郵送配布・郵送回収にて実施され,回収数は,1660 (55.3%)であった.18 項目(「健康・医療」「地域 福祉」「社会保障」「環境」「生活安全」「防災・減災」「都市基盤(住環境)」「都市基盤(交通)」「都市基 盤(市街地)」「農業」「商工業」「観光」「子育て」「学 校教育」「生涯学習」「文化・芸術」「スポーツ」「参 加と協働」)の調査項目から,本研究では「子育て」 分野の調査結果を使用した.
4.分析内容
(1) 設問項目
本研究で使用したアンケートの設問項目は次のと おりである.( )内は,以降略記として使用する. ♦各分野でのあなたの意識をおたずねします 次の各質問(問 1 から問 44)について,あなたの 感じ方の度合いに応じて,1 から 5 までの数字のど れか 1 つに〇印を付けてください.1 が「まったく 感じない」,5 が「大いに感じる」となります.わか らない場合は,0 の「わからない」にのみ〇印を付 けてください.(以下は,本稿で用いた「子育て・教 育」分野のみを記載.この分野は,同居している 18 歳未満の子がいる回答者のみが回答.) No. 質問内容 問 38 お子さんが規則正しい生活習慣を身につ けていると思いますか? (子の生活習慣) 問 39 お子さんが,社会で生活していく上で必 要な知識や技能,社会性,体力などを日々 身につけていると思いますか? (子の知識,社会性) 問 40 親子の間でコミュニケーションがとれて いると感じますか? (親子のコミュニケーション) 問 41 あなたのご家族,ご親族は,子育てに関 する理解や協力があると感じますか? (家族の子育ての理解協力) 問 42 お住まいの地域における子育て・教育に 関する事業・サービス・施設などが充実 していると思いますか? (子育てサービスの充実) 問 43 お住まいの地域に,子育て家庭に対して 理解し,協力する雰囲気があると感じま すか? (地域の子育ての理解協力) 問 44 お子さんが健やかに成長していると感じ ますか? (子の健やかな成長) ♦あなたの幸福度(幸福感)についておたずねします No. 質問内容 問 47 現在,あなたはどの程度幸せですか? 「とても幸せ」を 10 点,「とても不幸」 を 0 点とすると,何点くらいになると思 いますか.あなたの実感に最も近い数字 どれか 1 つに〇印をつけてください. 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (現在の幸福度) ♦あなたご自身についておたずねします No. 質問内容 問 50 あなたの性別を教えてください.あては まる番号に 1 つだけ○印を付けてくだ さい. 1 男性 2 女性 (性別) 問 58 同居している 18 歳未満のお子さんがい らっしゃる方におたずねします.該当す るそれぞれについて人数を記入してく ださい. 1 0 歳~小学校入学前( ) 人 2 小学生 ( )人 3 中学生 ( )人 4 中学卒業~18 歳未満( )人 (18 歳未満の子・同居)(2) 集計結果
「子育て・教育」分野の集計結果は,男性では表 -2,女性では表-3 のような結果となった.この分野 においては,「同居している 18 歳未満の子がいる回 答者のみが回答」という制約が存在するため,同居 している 18 歳未満の子の人数(問 58)の回答者を 抽出した.このため,男性 699 人,女性 941 人(全 回答数 1660.無回答 20 人.)の中で,それぞれ半数 以上が未該当となった(表-1).また,該当者の中で も,「子育て・教育」分野(問 38~44)を回答して いないケースも存在し,集計結果の各回答者数に相 違がみられる. 表-1 「子育て・教育」分野の回答該当者数 全回答数 1660 無回答 男性 699人 女性 941人 20人 該当 189人 未該当 510人 該当 347人 未該当 594人表-2 「子育て・教育」分野の集計結果(男性) 表-3 「子育て・教育」分野の集計結果(女性) また,「子育て・教育」分野と同様に,同居してい る 18 歳未満の子の人数(問 58)の回答者を抽出し て出した幸福度の集計結果は,男性では表-4,女性 では表-5 のような結果となった. 表-4 幸福度の集計結果(男性) 表-5 幸福度の集計結果(女性) 以上の集計結果を基に,「子育て・教育」分野の集 計結果(表-2,表-3)の男女差と幸福度の集計結果 (表-4,表-5)の男女差を図-1 に示す.男女の回答 数が異なるため,各回答の割合を算出し比較した. すべての項目に共通でみられる傾向として,回答 の中間値よりやや高い値付近では男性の回答数の割 合が高いが,回答の最高値(問 38~44 では 5,問 47 では 10)では,逆転して女性の回答数の割合が高く なっていることがあげられる.これにより,本アン ケート調査地域のみの特徴である可能性もあるが, 「子育て・教育」分野の感じ方の度合い・幸福度は, 男性については中程度,女性については強いと考察 される.
(3) 分析方法
「子育て・教育」分野の感じ方の度合い・幸福度 をそれぞれ男女で比較した.比較検定は Wilcoxon の 符号付順位検定を用いた. 図-1 集計結果の男女差 また,「子育て・教育」分野の感じ方の度合いと幸 福度の相関関係を Spearman の順位相関係数を用い て求めた.相関の強さの判定値 4)については,表-6 を参照した. 表-6 相関の強さの判定値(4) 分析結果
a) 子育てに関する男女の意識差
子育てに関する男女の意識差として,「子育て・教 育」分野(問 38~問 44)の平均,標準偏差,分散お よび Wilcoxon の符号付順位検定の結果を表-7,図-2 に示す.なお,回答「0」の「わからない」について は除外して算出した. 女性 ( n = 347 ) 0 1 2 3 4 5 計 問38(子の生活習慣) 6 5 29 104 127 62 333 問39(子の知識、社会性) 9 3 17 124 129 50 332 問40(親子のコミュニケーション) 5 1 6 86 124 110 332 問41(家族の子育ての理解協力) 3 6 18 52 129 123 331 問42(子育てサービスの充実) 20 13 37 106 113 43 332 問43(地域の子育ての理解協力) 23 15 48 127 90 29 332 問44(子の健やかな成長) 3 1 6 49 112 160 331 男性 ( n = 189 ) 0 1 2 3 4 5 計 問38(子の生活習慣) 6 3 19 64 68 21 181 問39(子の知識、社会性) 7 5 10 64 80 15 181 問40(親子のコミュニケーション) 5 2 9 44 86 35 181 問41(家族の子育ての理解協力) 0 6 5 37 82 50 180 問42(子育てサービスの充実) 7 9 21 73 57 13 180 問43(地域の子育ての理解協力) 13 7 21 79 51 10 181 問44(子の健やかな成長) 1 5 1 27 85 62 181 女性 ( n = 347 ) 0 1 2 3 4 5 問47(現在の幸福度) 1 4 5 11 17 38 6 7 8 9 10 計 33 60 81 39 52 341 男性 ( n = 189 ) 0 1 2 3 4 5 問47(現在の幸福度) 0 0 3 5 4 16 6 7 8 9 10 計 23 57 52 11 13 184 r の値 相関の強さ の判定 .00~±.20 ほとんど相関がない ±.20~±.40 弱い相関がある ±.40~±.70 中程度の相関がある ±.70~±1.00 強い相関がある 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 1 2 3 4 5 問38( 子の生活習慣) 男性 女性 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 1 2 3 4 5 問39( 子の知識、 社会性) 男性 女性 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 1 2 3 4 5 問40( 親子のコ ミ ュ ニケーショ ン) 男性 女性 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 1 2 3 4 5 問41( 家族の子育ての理解協力) 男性 女性 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 1 2 3 4 5 問42( 子育てサービスの充実) 男性 女性 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 1 2 3 4 5 問43( 地域の子育ての理解協力) 男性 女性 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 1 2 3 4 5 問44( 子の健やかな成長) 男性 女性 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 問47( 現在の幸福度) 男性 女性表-7 「子育て・教育」分野の男女による意識差 図-2 平均値の男女差(「子育て・教育」分野)