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SpillNotの力学的解析

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Academic year: 2021

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(1)SpillNot の力学的解析. 山本郁夫 横浜国立大学教育学部. Analyzing Kinetic Motion of the SpillNot Ikuo YAMAMOTO. SpillNot®は,容器の中の液体をこぼさずに運ぶことを目的とした器具である。力学モデルによ る理論解析を通じて,この容器ホルダーの運動を調べ,その優れた機能の背後にある物理的機構 を理論的に明らかにした。特に,二重振り子モデルにおいて,SpillNot®に固定した座標系では, 方位角方向の加速度成分と重力加速度が厳密に打ち消し合い,大きく振れて運動する場合でさえ SpillNot®に載っている容器は安定で台から滑り落ちることもなく,同時に,容器内の液面の傾斜 角は底面と常に平行に保たれることを示した。 1.はじめに SpillNot®は図1に示すような構造を持ち,容器に入った飲料をこぼ さずに運ぶことを目的とした器具である. 1)。滑り止めシートを載せた. 底面の上に液体の入った容器を置き,上部のストラップに指を入れて 容器とホルダーを吊り下げて持ち運ぶ。また,運動している限り,全 体がかなり傾斜,あるいは上限反転した状態においても液体はこぼれ ない(図2) 。 これと同様な現象に, “垂直面内における水の入ったばけつの回転運. 図1. SpillNot®本体. 動” ,あるいは,遊園地のアトラクションの1つである“回転ループ部 分を持つジェットコースターの運動”がある。どちらの現象も遠心力 が重要な働きを演じている。いずれも,重力の大きさを上回る慣性力, すなわち,遠心力の作用により,静止していれば当然落下しているば けつの中の水(またはジェットコースターの台車)が落下せずに円軌 道を描いて運動し続ける 3)。 “水の入ったばけつの回転運動”は,通常,遠心力を示す身近な例 として物理学の講義において,しばしば,演示される。運動により,. 82. 図2 揺れている SpillNot®と容器 2).

(2) 回転運動の中心から,円軌道に対して外向きの慣性力が働き,ばけつの内部の水は外向き押しつ けられ,こぼれることなく運動を続ける。しかし,回転運動を行っている座標系から見ると,回 転していくのに従って重力の向きも回転していくので,液面の傾斜などを定量的に求めるには, もう少し精密な議論が必要である。そこで,本論文では,SpillNot®を単振り子,および,二重振 り子を用いてモデル化し,上述の運動が可能となる物理的背景を解析的,および,数値シミュレ ーションにより探った。 2.単振り子モデル SpillNot®を単振り子で近似して振り子を揺らした場. y. 合の運動を考える。 SpillNot®と容器を合わせた質量を m,全体の重心位. . 置を G,支点と重心との間の距離を l とする。SpillNot® と容器を質点で代表させて単振り子とみなし,振り子に 関する極座標(r, )を図3のように定義すると運動方. l. 程式は. l  g sin . (1). と表される。 つぎに,加速度と慣性力を求める。. G. x  l cos  , y  l sin  x  l sin  , y  l cos . a. x. ar. および. x  l 2 cos   lsin  y  l 2 sin   l cos . 図3. 単振り子モデル. より,加速度の動径方向と方位角方向の成分は. a r  (l 2 cos   lsin  ) cos   (l 2 sin   l cos  ) sin   l 2 a  (l 2 cos   lsin  ) sin   (l 2 sin   l cos  ) cos   l. (2). ゆえに,重力場中の鉛直面内で振動する振り子に固定された座標系から見た慣性力と重力との合 力,W + F* = m(g  a),の動径方向と方位角方向の成分は,式(1),(2)の関係を用いて. W  F  W  F . r.  g cos   a r  g cos   l 2. .  g sin   a   g sin   l  0. * *. この結果は,一般に重力以外の外力が働かず自由振動を行っている振り子では接線方向に力が働 かないことを示している。したがって,補足の式(A.3)に示したように液面の傾斜角 はゼロとな り,液面は振り子の動径方向に対して常に垂直に保たれる。この関係は,一般的に,円弧に沿っ て運動する質点は,曲率中心に向かう向心力を受けるという一般的な事実から計算に寄らずに導 くことができる。. 83.

(3) 3.二重振り子モデル SpillNot®の運動を考える場合,より現実に近いモデ. y. ルは二重振り子に置き換えたモデルである。肩を支点 として,SpillNot®のストラップの上端をつまんだ状態. . は図のような二重振り子で近似することができる。第 1. l1. 振り子が“人の腕”に,第 2 振り子が容器を載せた SpillNot®に相当する。第 1 振り子と第 2 振り子のおも りの質量と腕の長さを,それぞれ,m1,m2,l1,l2 とす. m. ると,ラグランジアン,および,運動方程式は l2. . m. x 図4. 二重振り子モデル. 1 m1  m 2 l1212  1 m 2l 222  m 2l1l 212 cos1   2  2 2  m1  m 2  gl1 cos 1  m 2 gl 2 cos  2. L. m1  m 2 l121  m 2l1l 22 cos1   2   m 2l1l 222 sin1   2   m1  m 2  gl1 sin 1. (3). m 2l 222  m 2l1l 21 cos1   2   m 2l1l 212 sin1   2   m 2 gl 2 sin  2. (4). となる 4)。ただし,1,2 は各振り子の腕と鉛直下方(x 軸)とのなす角である。 また,第 2 振り子の質点 m2 の加速度は,式(2)を導いたのと同様な計算により. . 2. . . 2. x2   l i i2 cos  i  l i i sin  i , y2   l i i2 sin  i  l i i cos  i i 1. . i 1. の関係から,第 2 振り子に固定した座標系 S2 における質点 m2 の加速度の方位角方向の成分は. a  x2 sin  2  y2 cos  2 2. 2. i 1. i 1.   (l ii2 cos  i  l i i sin  i ) sin  2   (l ii2 sin  i  l i i cos  i ) cos  2  l112 sin 1   2   l11 cos1   2   l 22 となる。さらに,式(4)の関係を用いると. a  g sin  2 となり,座標系 S2 における慣性力と重力加速度の方位角方向の成分は. W  F  *. .  g sin  2  a  0. となる。すなわち,第 2 振り子の運動中心(ジョイント部分)が移動する場合でも,接線方向に 力が働かないことを示している。. 84.

(4) 4.重心と液面の位置がずれている影響について 上述の“振り子に固定した座標系 S2 では,任意の運動に対して, ‘重心に関しては’接線方向 に力が働かない”ということは,実は,単振り子の支点が任意の運動を行う場合についても成立 する。つまり,重心における加速度による慣性力によっては,吊り下げられた容器の液面の傾斜, または,揺れによる液体の横溢は説明できないことになる。スマートフォンの加速度センサーを 利用して SpillNot®の運動を解析した Tornaria ら 5)は,容器内の液体がこぼれないのは,加速度 の動径方向成分が接線方向成分に比べて非常に大きいことが主要な原因であると論じている。し かし,理論的には,接線方向成分はゼロであるから,容器が口を下向きにした状態で静止するよ うな特殊な位置,いわゆる上死点を除けば,この条件は常に成立している。したがって,上記の 計算結果は,現実的に液面が揺らぐ原因を支点の不規則な揺れに求めることはできないことを示 している。 そこで,この節では,液面が容器に対して傾く原因として,別の原因,液面の位置と重心の位 置の違い,すなわち,有限の大きさの効果を,SpillNot®を単振り子で近似し,単振り子の支点を 水平方向に固有振動数で励振した場合の運動を用いて調べる。この場合,運動方程式は,式(1)と 同様にして. l  g sin   cos . (5). となる。ここで,強制振動項を.   a sin t おくと,運動方程式は.   02 sin    02 sin t cos . (6). となる 6)。ただし. 0 . g a ,  l l. である。 式(6)を数値的に解いて,式(2)中の l (振り子の支点から重心までの距離) を支点から液面までの距離 ls に置き換 え,同時に強制振動項による加速度へ の寄与を加えた液面での加速度を数値 計算により求めた結果を図5に示 し た。計算に用いたパラメーターは,l = 0.21m,ls/l =0.9,a = 0.01m, = 0 で ある。この数値設定は,単振り子の固有 振動数で SpillNot® 上部のストラップ の先端を横方向に 1cm の振幅で振動さ せた場合に相当する。. 図5. 85. 加速度の時間変化.

(5) 振り子に固定された座標系から見た加速度の動径方向成分は,振れが増大するのにしたがって, 最大加速度が 2G 程度まで増大する一方で,方位角方向の成分は,小さな値のままで振動に同期 して変動する。この結果は,Tornaria ら 5)の実験結果を良く再現している。また,このときの振 り子の最大振幅は約 63°であるが,容器内の液面の傾斜角は,最大でも約 12°程度である。ま た,動径方向に対する方位角方向の加速度成分の比は,最大で約 0.2 である。共鳴周波数で励起 しているが,振幅の増大とともに周期が増していき,振り子振動と励起振動の周波数と位相がず れるために,振り子の振幅は途中から時間の経過とともに減衰していく。 強制振動の振幅を大きくした例を図6に示した。計算に用いたパラメータはは,a = 0.03m とし た他は図5と同じ値を用いた。結果を見ると,図5の場合と比べて加速度の方位角方向の大きさ はそれほど大きくはならないが,加速度の動径方向の大きさが負になる点が現れ,そのときに液 面の傾斜が急激に変化することがわかる。これは,容器の口が下方に向いた状態で運動がほぼ静 止する点に相当する。これは,液体がこぼれるというよりは,SpillNot®の底面と容器と間の抗力, そして摩擦が消失し容器が台から転落する状況を表している。 (b). (a). 図6. (a) 加速度と(b) 液面の傾斜角の時間変化. 5.まとめ SpillNot®により容器の中の液体をこぼさずに運ぶことができることは,“鉛直面内での水の入 ったばけつの1回転運動”を可能にすることと本質的に同じである。容器内の液面が傾斜する, すなわち,振り子に固定した座標系における加速度の接線方向成分が有限の値となることは,物 体の重心と表面との位置が異なることを考慮して初めて説明が可能となる。実際に SpillNot®を使 う場合,SpillNot®のストラップの長さと人の腕の長さを足した値が振り子のひもの長さになり, 支点(肩)-液体表面間距離と,支点-重心間距離の差は無視できるようになると考えられ,こ のような条件であれば,任意の揺れ運動に対して,容器に対する液面の傾斜角はほぼゼロに保た れる。SpillNot®に要求される構造は,液体の入った容器と SpillNot®からなる系の重心とストラ ップの上端を結ぶ直線に対して,底面の法線を常に迅速に一致させる機構を持つことである。な お,ここで示した解析結果は,ブランコの安全性(大きく漕いでも乗っている人が振り落とされ ない)や出前の際にオートバイの荷台に付けて使用する出前機の原理の説明にも適用できる。. 86.

(6) 補足 液面の傾斜角 重力と慣性力との関係を用いて容器内の液面の傾斜角を求める。液面の法線方向は重力 W と慣 性力 F*との合力(W + F*)で与えられる。この方向と鉛直下方とのなす角は.   ay   g  a x  .   tan 1 . (A.1). で与えられる。また,液面の傾斜角を表す容器の底面と液面がなす角度は動径方向と液面法線と のなす角.    . (A.2). で与えられる。また,重力と慣性力を動径方向と方位角方向に分解すると液面の傾斜角は.  g sin   a   g cos   a r.   tan 1 .   . (A.3). と表される。.  F*. F*.   W W+F*. 動径方向 W. 図7. W+F*. 液面の傾斜角. 参考文献 1) The Incredible SpillNot, https://spillnot.myshopify.com/ 2) Cool Science Experiment (YouTube), https://www.youtube.com/watch?v=yyDRI6iQ9Fw 3) Fun with the Spill Not, http://blog.teachersource.com/2015/02/09/fun-yes-spill-not/ 4) 渡辺慎介: 一般力学入門(培風館,1988 年) 5) F. Tornaría, M. Monteiro, and A. C. Marti: "Understanding coffee spills using a smartphone", Phys. Teach. 52 (2014) 502. 6) V. B. Barger and M. G. Olsson: Classical Mechanics :A Modern Perspective (McGrawHill, 1973).. 87.

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