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〈論説〉審決の予告と当事者の平等

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Academic year: 2021

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は じ め に

特許法164条の2は,無効審判において特許を無効とする審決をする場合に 審判長が審決の予告をして特許権者に訂正の機会を与えることを定める。この 規定は,平成23年の特許法改正において新たに設けられたものであり,その背 後には,特許の無効と訂正に関する長年にわたる制度の変遷が存する。しかし, この手続だけを注視した場合,特許権者がきわめて優遇され,無効審判の請求 人との間で公平を欠くのではないかとの疑念が生じる。 本稿では,特許の無効と訂正に関する手続の変遷をみた後,無効審判手続の 性格を考慮しながら164条の2の手続の正当性について考察する。

1 無効と訂正の手続

 昭和34年法(現行特許法) 現行特許法の当初の規定では, 訂正審判に関する特許法126条はその1項で 「特許権者は, 次に掲げる事項を目的とする場合に限り, 願書に添附した明細 書又は図面の訂正をすることについて審判を請求することができる。」と規定 していた。昭和34年法では,特許の無効審判と訂正審判の手続を調整する規定 はなく,それぞれが独自に請求されて手続が進行することが可能であった。

審決の予告と当事者の平等

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もっとも実務では,両審判が特許庁に係属する場合,訂正審判の審決が確定す るまで無効審判の審理が中止されるということが行われていたようである1) しかし,いずれかの審決に対して取消訴訟が提起され,裁判所に係属してい る場合には,そのような調整は行われなかった。 無効審決が先に確定すれば, 特許は出願時に遡って存在しないことになる (124条)。特許庁に訂正審判が係属している場合,その手続は対象を失い, 請 求は却下されることになる。訂正を認めない審決に対して審決取消訴訟が提起 されて係属している間に無効審決が確定した場合には,審決の対象となる特許 は存在しなくなるので,審決は取り消され,再開された審判手続において訂正 審判の請求は却下されることになる。 訂正審決が先に確定した場合には,特許は出願時に遡って訂正されたことに なる(128条)。特許庁に係属する無効審判の対象は訂正された特許に変更され るが,訂正審判の請求が認められるためには独立特許要件を満たしていること が必要とされるので(昭和34年法同条3項),無効審判の請求は退けられるこ とになろう。無効審決に対する審決取消訴訟が裁判所に係属している間に訂正 審決が確定すれば,審決の対象は訂正された特許に変更されるので,審決は発 明の要旨認定を誤ったとして裁判所によって取り消されるのが通例である。再 開された無効審判の手続において請求が退けられることは上述のとおりである。 昭和34年法のもとでは,先に確定した審決の結果が通用するため,どちらの 審決が先に確定するかによって結論が逆転するだけでなく,一方の手続が無駄 になるという弊害も存在した。  平成5(1993)年の改正 平成5年の改正によって,126条1項は「特許権者は, 第百二十三条第一項 1)中山信弘,小泉直樹編『新・注解特許法〔第2版〕【下巻】』2616頁(黒川恵)

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の審判が特許庁に係属している場合を除き,願書に添付した明細書又は図面の 訂正をすることについて審判を請求することができる。」と規定することになっ た。これによって,無効審判が係属している間は訂正審判を請求することは認 められなくなり,その間の訂正は,無効審判請求に対する答弁書の提出期間内, あるいは当事者が申し立てない理由について審理された審理結果に対する意見 申立期間(153条2項)内に訂正を請求することによって行われることになっ た(平成5年改正法の134条2項)。 これによって無効審判手続において訂正審決の確定を待つ必要がなくなり, 審理期間の短縮が可能となった。しかし,無効審判の審決に対して審決取消訴 訟が提起されて係属している間は,やはり訂正審判を請求することが可能で あったため,どちらの審決が先に確定するかによって結論が異なることや審理 に無駄が生じる点については変わりなかった。 訂正審決が確定すると裁判所は無効審決を取り消すことになるが2),特許庁 で再開された無効審判で審決がされると,再び取消訴訟,訂正審判を請求する ことが可能であり,特許庁と裁判所との間で事件が往復するキャッチボール現 象が問題となった。  平成15(2003)年の改正 平成15年の改正で,126条2項は「訂正審判は,特許無効審判が特許庁に係 属した時からその審決が確定するまでの間は,請求することができない。ただ し,特許無効審判の審決に対する訴えの提起があつた日から起算して九十日の 期間内は,この限りでない。」と規定した。さらに181条2項に「裁判所は,特 許無効審判の審決に対する第百七十八条第一項の訴えの提起があつた場合にお いて,特許権者が当該訴えに係る特許について訴えの提起後に訂正審判を請求 2)最判平成11年3月9日民集53巻3号303頁

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し,又は請求しようとしていることにより,当該特許を無効にすることについ て特許無効審判においてさらに審理させることが相当であると認めるときは, 事件を審判官に差し戻すため,決定をもつて,当該審決を取り消すことができ る。」との規定が置かれた。 平成5年法におけるキャッチボール現象への対応として訂正審判を請求でき る時期が大幅に制限されたほか,東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)での 審理が無駄になることを回避するために,特許権者が訴えの提起後に訂正審判 を請求しあるいは請求しようとしている場合に,決定によって審決を取り消す ことが認められた。 また,無効審判手続における訂正の請求について134条の 2に規定が整備され,無効審判手続の中で訂正と無効の判断を行う体制がさら に整った。すでに訂正審判が請求されている場合には,無効審決が取り消され た後に再開される無効審判において訂正の請求がされたものとみなされること になっていた(134条の3)。 しかし,裁判所が差戻しの決定をしなかった場合には無効審判の審決に対す る審決取消訴訟手続と訂正審判手続が併存することになる。差し戻された後の 無効審判手続に対してはなお審決取消訴訟を提起することが可能であった。

2 平成2

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1)年の改正

平成15年の改正でキャッチボール現象はかなり減少したものの,なお,次の ような問題点の指摘がされていた。 すなわち,「審決取消訴訟提起後に訂正審 判を請求して権利の客体を変更できることにより,裁判所の実体的な判断が示 されることなく,裁判所と特許庁との間で事件が往復することは非効率な手続 である。」,「裁判所の実体的な判断を得ることのない訴訟に関して, 手続上及 び金銭上の負担が生じており,当事者(特に,無効審判請求人)にとって,無 駄な負担を強いている。」,「裁判所と特許庁との間での事件の往復に期間を要

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することや,審決取消訴訟を二度,三度提起するとともにその都度訂正審判を 請求できることから,審理が遅延し,ひいては審決の確定が遅延することで, 争いがなかなか決着しない。」というものである3) 平成23年の改正で,126条2項は「訂正審判は,特許異議の申立て又は特許 無効審判が特許庁に係属した時からその決定又は審決(請求項ごとに申立て又 は請求がされた場合にあつては,その全ての決定又は審決)が確定するまでの 間は, 請求することができない。」とされ, 無効審決の確定まで訂正審判を請 求することができなくなった。しかし,これでは審判合議体による特許の有効 性の判断を踏まえて訂正ができるという特許権者の利点が失われるため,164 条の2が新設され,その1項で「審判長は,特許無効審判の事件が審決をする のに熟した場合において,審判の請求に理由があると認めるときその他の経済 産業省令で定めるときは,審決の予告を当事者及び参加人にしなければならな い。」という審決の予告の制度が導入された。同条2項は「審判長は,前項の 審決の予告をするときは,被請求人に対し,願書に添付した明細書,特許請求 の範囲又は図面の訂正を請求するための相当の期間を指定しなければならな い。」と規定し,特許権者に訂正の請求をする機会が与えられた。また,「第百 五十七条第二項の規定は,第一項の審決の予告に準用する。」(同条3項)とさ れることから,本来されるであろう審決と同じ内容が当事者等に示されること になった。同条1項の「経済産業省令で定めるとき」について,特許法施行規 則50条の6の2は以下のように規定する。 (審決の予告) 特許法第百六十四条の二第一項の経済産業省令で定めるときは,被請求人が審決 の予告を希望しない旨を申し出なかつたときであつて,かつ, 次に掲げるときとす 3)特許制度小委員会報告書37頁

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る。 一 審判の請求があつて審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場 合にあつては,審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第百三十 四条の二第一項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。) を認めないとき。 二 特許法第百八十一条第二項の規定により審理を開始してから最初に事件が審決 をするのに熟した場合にあつては,審判官が審判の請求に理由があると認めるとき 又は特許法第百三十四条の二第一項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項 に係るものに限る。)を認めないとき。 三 前二号に掲げるいずれかのときに審決の予告をした後であつて事件が審決をす るのに熟した場合にあつては,当該審決の予告をしたときまでに当事者若しくは参 加人が申し立てた理由又は特許法第百五十三条第二項の規定により審理の結果が通 知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしてい ないものに限る。)によつて,審判官が審判の請求に理由があると認めるとき。 無効審判の請求が退けられる場合のほか,特許権者が審決の予告を希望しな い場合には,審決の予告は行われない(柱書)。 審決の予告を希望しない場合 とは,たとえば特許権侵害訴訟が同時係属中であったり,ライセンス供与をし ているため,さらなる減縮訂正をする意思がない場合などをいうとされる4) 無効審判の審理で最初に事件が審決をするのに熟した場合は,無効の判断を する場合または訂正の請求を認めない判断をする時に審決の予告がされる(1 号)。「最初に」とあるのは,審決の予告をした後,再び審決をするのに熟した 場合には,原則として審決の予告をすることを要しないことと解されている5) 審決取消訴訟で審決が取り消され,再開された無効審判手続において最初に事 4)前掲報告書(注3)37頁注48 5)中山信弘,小泉直樹編『新・注解特許法〔第2版〕【下巻】』2815頁(澤井光一)

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件が審決をするのに熟した場合にも,無効の判断をする場合または訂正の請求 を認めない判断をする時に審決の予告がされる(2号)。1 号, 2 号の審決の 予告をした後に,再び審決をするのに熟した場合で,審決の予告までに存在し ていたが採用されていない理由に基づいて無効の判断をしようとする場合には, 審決の予告がされる(3号)。 特許権者が無効の審決を受けた場合には,審決取消訴訟を提起し,訂正審判 を申し立て,審決の取消しを得て再開された無効審判手続において訂正の請求 を行うのがこれまでの手続であった。平成23年の改正法は,これを審決の予告 と訂正請求に置き換えるものであり,手続の合理化の点では大きな成果をもた らすものといえる。無効の審決が予想される場合に審決が予告されるのも,こ れまでの無効審判と訂正審判をめぐる制度の変遷や,改正前に特許権者に与え られていた機会を考慮した場合,あながち不当なものとはいえないかもしれな い。しかし,改正法のもとでは,特許権者はあらかじめ無効の審決がされるこ とを知ることができ,それに対して訂正請求による対応を行うことが可能とさ れているのであって,制度として,当事者を平等に扱う公平な手続と評価され うるのか疑問が生じる。

3 無効審判手続の性格

特許庁の審判手続は,準司法的手続と解されている。行政庁である特許庁の 処分である審決に対する取消訴訟は,通常であれば東京地方裁判所に提起され るはずであるが,東京高等裁判所の専属管轄とされている(178条1項)のは, その現れであろう。以下では,審判,ことに無効審判の手続が準司法手続とさ れる理由について概観したい。 特許庁における審判の手続は,審判官の合議体によって行われ(136条1項), 審判官の資格は政令で定められている(同条3項,特許法施行令5条)。 審判

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の公正を担保するために,審判官が事件の関係人や事件と一定の関係にある場 合は手続への関与を禁止されており,法律上当然に職務の執行から排除される 除斥(139条)と,審判の公正を妨げる事情があるとして当事者の申立てによっ て職務の執行から排除される忌避(141条)の規定が設けられている。 除斥や 忌避に関する規定は,裁判官についての除斥,忌避の規定(民事訴訟法23,24 条)とかなり類似した内容となっている。 審判の請求には請求の趣旨とその理由等を記載した審判請求書の提出が必要 であり(131条1項),被請求人には答弁書の提出の機会が与えられる(134条 1項)。 無効審判においては口頭審理が原則であり(145条1項),その際には 審判書記官によって期日ごとに調書が作成される(147条1項)。 審判手続の審理は,職権進行主義で行われる。審判長は,当事者が指定の期 間内に手続を行わなかったり, 無効審判の当事者が期日に出頭しない場合で あっても,手続を進めることができる(152条)。また審判においては,職権探 知主義が採用されており,当事者又は参加人が申し立てない理由についても審 理することができる(153条1項)。職権探知主義が採用されるのは,手続に高 度の真実発見の要請が認められ,当事者による資料の収集に任せるだけでは不 十分と判断される場合であり,審判手続はこれに該当するということである。 もっとも,請求人が申し立てない請求の趣旨については審理することは許され ない同条3項)。この点については,通常の民事訴訟手続よりも,人事訴訟手 続や家事審判等の審判手続に類似する側面が強いといえよう。 審決をするにあたって,審判官は無効理由の存否など,要件の充足によって 結論を導くのであって,ここに一般の行政処分のように裁量の入る余地はほと んどない。 このように,審判手続,特に無効審判手続は,裁判所における手続ときわめ て多くの類似点を持つものである。拒絶査定不服審判のような査定系審判とは 異なり,当事者対立構造を持つ無効審判において,当事者が平等に扱われるこ

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とはきわめて重要であり,本質的な要請といえよう。

4 審決の予告の問題点

審決の予告制度の導入により,特許権者は自己の特許が無効とされることを あらかじめ知り,訂正請求による対応をすることが可能となった。これによっ て当事者,特許庁,裁判所は時間や労力を節約できるという恩恵を受けること になる。しかし,なぜ特許が無効とされる場合にだけ審決の予告がされるので あろうか。審決取消訴訟手続においては,審判手続において現実に争われ,か つ,審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされる6) 無効審判請求が退けられた場合には,無効審判手続で審理判断された無効原因 のみが審決取消訴訟で取り上げられ,新たな無効原因は,別途請求される無効 審判手続や審決が取り消されて再開された場合の審判手続(181条2項)にお いて主張されることになる。無効審判の請求が認められない場合にも審決の予 告がされるのであれば,審判請求人は当該審判手続において新たな無効原因を 追加して主張することができ,たとえ請求が認められない場合にも,審決取消 訴訟においてより広範囲な審理を行うことが可能になる。このように,無効審 判の請求が認められない場合にも審決の予告が行われることは手続の合理化に つながり,当事者,特許庁,裁判所は恩恵を受けるであろう。特許が無効とさ れる場合にだけ審決の予告を導入したのは,当事者間の公平の見地から問題が あるのではないか。 審決の予告においては,本来されるべき審決と同じ内容のものが当事者に示 される(164条の2第3項)が, これは適切であろうか。改正前の手続では, 特許権者は無効審決によってその理由を知ることになる。しかしこれは,審決 6)最判昭和51年3月10日民集30巻2号79頁

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がされる結果,手続の構造によって知ることになるだけであって,審決がされ ない場合であっても特許権者が審決の内容を知ることが当然に認められるかは 疑問である。審判合議体による特許の有効性の判断を踏まえて訂正ができると いう特許権者の利点は,審決によって手続が一区切りされることの反射的なも のであって,特許権者に本来認められる地位とはいえないのではないか。特許 を取得し維持するのは特許権者の責務であろう。特許権者は無効原因として何 が主張されているのかを知っているのであり,少なくとも審決の結論を知れば, あとは特許権者の対応にまかせれば十分なはずである。それを越えて具体的な 判断を示すことは,特許権者を過度に優遇すると考えられるし,そのために審 決と同一のものを作成提示するという負担を審判合議体に課すのは,手続の合 理化にも反するであろう。 無効審判は,利害関係人に限り請求できるのが原則である(123条2項)。利 害関係の代表例は,特許権者による権利行使を受けることであり,無効審判手 続は,それに対する対抗手段としての意味を持つ。特許権の消滅後も無効審判 を請求することができるのは(123条3項),特許権が消滅した後も特許権者に よる損害賠償等の権利行使が行われる可能性を念頭に置いたものであり,無効 審判に対する対抗手段としての訂正審判も同様に権利消滅後も認められている (126条8項)。特許権の侵害をめぐる紛争が訴訟へと至った場合,そこでは当 事者の公平はきわめて重要な原則である。特許を無効とする審決が確定するこ とはもちろん,そうでなくとも,特許が無効理由を包含することは,権利行使 制限の抗弁(104条の3)を主張する審判請求人にとってきわめて有利に働く であろう。審決の予告は,特許権者に無効理由を示し,訂正の請求を行うこと を促すものであり,このような状況を逆転させるが適切といえるか。 出願審査の手続において,審査官は,特許出願の拒絶理由を発見するのが職 責である(51条参照)。 特許庁は独占されるべきでない技術が独占されないよ うにすることが期待されている。 審判手続の職権探知主義を規定する153条が

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商標法において準用された事例であるが,最高裁7)はこの規定の趣旨を「第三 者に対する差止め,損害賠償等の請求の根拠となる特許権や商標権の性質上, 特許又は商標登録が有効に存続するかどうかは,当該審判の当事者だけでなく, 広く一般公衆の利害に関係するものであって,本来無効とされ又は取り消され るべき特許又は商標登録が当事者による主張が不十分なものであるために維持 されるとしたのでは第三者の利益を害することになることから,当事者が申し 立てない理由についても職権により審理することができるとしたものである。」 と述べている。審決の予告の制度は,特許が存続する方向で特許庁が積極的に 機能するものであり,これまで想定されていた特許庁のあり方とは異なったも のという印象を受けるが,それを根拠付ける説得力のある理由は存在するので あろうか。もちろん,これによって,与えられるべきでない特許が与えられる といったことはないが,それでも特許庁が特許権者に肩入れしているような印 象を与える可能性があるのではないか。

5 考   察

特許の無効手続を合理化しようとする方向は適切なものと考える。しかし, 平成15年までさまざまな改正を経て合理化された手続を,さらに改善すること は容易ではない。その大きな原因の一つは,現在の特許庁と裁判所の役割の分 担が,事後的な修正の結果として生じたものだからである。 現在の特許無効手続は,大日本帝国憲法下の大正10年法におけるものが原型 といえるであろう。すなわち,「無効審判(特許局)― 抗告審判(特許局)― 大審院」という構造である。抗告審判の事実認定は,大審院を拘束した。ここ では,大審院が自判できないということはあったが,通常の民事裁判と大きな 7)最判平成14年9月17日判時1801号108頁

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手続構造の相違はなく,特別な問題は生じなかったと想像される。しかし,特 別裁判所の設置と行政庁の終審としての裁判を禁止する日本国憲法のもとで, 「無効審判―抗告審判―東京高等裁判所―最高裁判所」という手続になり,現 行昭和34年法のもとで現在の「無効審判―東京高等裁判所―最高裁判所」とい う手続が完成した。このように,特許庁と,事実審である東京高等裁判所が無 効手続の中に存在し,しかも特許に関する処分が特許庁の専権とされているの であれば,キャッチボール現象が発生するのは仕方のないことであろう。この ような状況では,平成15年の改正による手続が合理化としては限界であった可 能性がある。 平成23年の改正は,無効審判が特許庁に係属してから審決が確定するまでの 間,訂正審判の請求ができないものとした。この改正は,明らかに特許権者に 不利なものである。そのため改正法は同時に,この不利益を回避するために, 審決の内容を事前に開示されるものとした。しかし,当事者が対立する司法あ るいはそれに準じる手続において,たとえば和解の勧試の際のように判断機関 の心証が開示されることはあっても,事前に結論が詳細に呈示されることはき わめて特殊なことと考える。結局のところ,特許権者が救われる代わりに,手 続の公平さに関する信頼が失われたことになるのではないだろうか。 訂正請求は事件が特許庁に係属している間しか請求できないので,無効の審 決がされた後,なすすべもなく審決取消訴訟に臨むのは特許権者にあまりに酷 である。何らかの対応が行われることは必要であったと思われるが,これまで 特許権者が審決の内容を知った上で訂正審判を請求できたことを,特許権者の 地位と理解したことは問題である。上述したように,それは手続が審決によっ て一区切りされたことの結果であって,特許権者にそこまでの配慮を行うのは 行き過ぎであろう。 特許権を存続させるのは特許権者の責務であり,特許庁はそれを支援する立 場にはない。特許権者に何らかの手立てを行うにしても,たとえば手続が本質

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的にキャッチボール現象を生じやすいものとして,審判長が(特許が無効とな る場合に限らず)心証を開示することを許容あるいは推奨するようなものにと どめるべきであったのではないか。あるいは,審査前置制度のように,訂正審 判の請求に基き,審判廷が審決を見直すといった制度も考慮しうるかもしれな い。 審決の予告という,特許権者の優遇ととらえられかねない制度は,当事者が 対立する準司法的手続である無効審判手続にはそぐわないと思われる。

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