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<論文>ランダムに組み合わされたペアとの議論を取り入れた授業スタイルに対する大学生の評価と学習効果

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Academic year: 2021

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1.はじめに

日本において大学におけるアクティブ・ラーニングの議論が本格化されたのは、2012年の中 央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主 体的に考える力を育成する大学へ~」からである(中央教育審議会、2012)。 ここには大学に おける従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、能動的学修(アクティブ・ラー ニング)への転換が必要であると記されている。 このような指摘のターゲットとなったのは、大学の授業の中に従来からある一方向型の講義 形式の授業である(小針、2018)。 これらの授業に対する質的転換は我々大学教員にとって急 務であるといえようが、大学の授業におけるアクティブ・ラーニング実施には大学ならではの 困難が伴う。例えば、受講する人数が多いことやその授業でしか会わない学生がいるなど、大 学の授業では学生の人間関係が希薄な場合が多い。このような集団においては、アクティブ・ ラーニングの条件とされるコミュニティの感覚(バークレイ、2015)が薄くなりやすい。その ため、教員の意図と反して積極的なインタラクションに結びつけづらい現状がある。このよう な状況を打開するために、大学特有の授業環境に特化したアクティブ・ラーニングの在り方に ついての様々な研究がなされてきているが(例えば、バークレイなど、2009;森川、2011;松 本・秋山、2012;近田・杉野、2014;石川、2015)、十分な実証的研究にまでは至っていない。 そのような中で、大学での大人数授業において学生の積極的なインタラクションが得られた

ランダムに組み合わされたペアとの議論を取り入れた

授業スタイルに対する大学生の評価と学習効果

川 武

憲*

University Students’ Evaluation and the Learning Effects

of the Lesson Style Incorporating Discussion

by Pairs Decided by Chance

(YOSHIKAWA Takenori)

*近畿大学教職教育部准教授 〔キーワード〕ペア学習、共同学習、インフォーマル・グルー プ、大学生、学習効果

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一例として、大矢・内田(2018)が実施したランダムに組み合わされたペアによる話し合いを 講義の中に取り入れた授業がある。 この授業に対する大学生の評価は、 通常の授業と比べて 「楽しかった」、「集中できた」などの肯定的な感想が多かっただけでなく、 大部分の学生がペ アの組み合わせがよかったとしたのである。このような成果は、コミュニティ感覚が十分では ない学生集団においても、やり方次第で有効なアクティブ・ラーニングが実施できる可能性を 示唆する。ただし、大矢・内田(2018)は、1時限の授業によるペア学習の効果を検証したも のであり、継続された授業での検証はなされていない。 そこで本研究では、ランダムに組み合わされたペアによる学習を継続して実施し、大矢・内 田(2018)が示したようなペア学習の効果が得られるかを明らかにすることを目的とする。そ の際、ジョンソンほか(2010)によってインフォーマル・グループに有効だとされる協同学習 の一種である、講義の途中にペアによる議論が適宜挟まれる授業スタイルを用いる。ここで用 いられるインフォーマル・グループとは、大学の講義など、当座の学習目標を協力して達成さ せるために編成された一時的なグループをさす(ジョンソンほか、2010)。 また、 今回実施するペア学習は、 協同学習の要素の一つである「活動の同時性」(授業に参 加している多くの学生が具体的な活動を同時に行うこと)において最も効率的だとされるとと もに、「個人の2つの責任」(自分の学びに対する責任と、仲間の学びに対する責任)が高まる 学習法といえる( Kagan 、1994;ジョンソンほか、2010)。これらの要素は、学習に積極的に ならざるを得ない状況を醸成するもので、学習に対する深い関与が期待できる。その反面、今 回実施するようにランダムにペアリングされた者同士の学習を継続することで、これまでの研 究でも指摘されてきたペアとの人間関係や学習意欲の不つりあい等の問題(例えば、大矢・内 田、2008;2019)が表出する可能性は残される。 以上から、本研究では2019年度に実施した著者の大学生を対象とした授業において、講義の 途中にランダムに組み合わされたペアによる議論が適宜挟まれる授業スタイルで14回の連続し た授業を行い、これが協同学習の理念である学生一人ひとりに仲間と共に学ぶ喜びや楽しさを 実感させ、確かな学力と自己の変化成長をもたらす(安永、2015)かどうかを視点に検証する こととする。具体的には「仲間とともに学ぶ喜びや楽しさ」と「確かな学力」の2つの視点に 着目し、本授業スタイルが希薄なコミュニティ感覚を打破し、学生にとって楽しい授業として 成立したかどうか、そして、このような授業が学生たちの主体的な学びや学びの深まりに効果 があったかどうかを、まず、参加した大学生を対象とした質問紙調査の結果から明らかにした

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い。さらに、本授業スタイル未実施であった2018年度の定期試験の結果と比較して、本授業ス タイルに学習内容の定着に関する効果があったかどうかについての考察も試みる。本研究の成 果が大学における積極的なアクティブ・ラーニングの実施に資することを期待したい。

2.2

8年度の授業スタイルとその課題

研究対象となる授業は、著者が近畿大学東大阪キャンパスと農学部キャンパスで受け持つ地 学概論Ⅰと地学概論Ⅱの2科目である。地学概論Ⅰ、Ⅱは、近畿大学で教員養成のために開講 された「教科に関する科目」で、中学校及び高等学校「理科」の免許を取得するための選択必 修科目である。地学概論Ⅰの内容は、地球がその内部や表面でどのような活動をしている天体 かについて学習した後に宇宙の天体へと視野を広げていくもので、高等学校「地学」の内容で は「固体地球の概観と活動」及び「宇宙の構造」に当てはまる。一方、地学概論Ⅱの内容は、 地球がどのような歴史を積み重ねてきた天体かを学習した後に地球表面の気象現象に着目して いくもので、高等学校「地学」の内容では、「地球の歴史」と「大気と海洋」に当てはまる。 2018年度の地学概論Ⅰ、Ⅱでは、 オリエンテーションを中心とした1回目の授業を除く14回 の授業において、授業内容に関する講義の間に本時に理解させたい科学概念に関連する学習課 題を与え、それに対する自分の考えを個人でワークシートに書かせた。そしてその後に学生同 士で5分程度の議論をさせた上で、 代表者数人に考えを発表させ、教員による解説を行った (図1)。そして、このようなユニットを1時限の授業の中で3~4回程度繰り返した。なお、 2018年度の授業における議論の人数は指定せず、座席の前後にいる数人の学生で自由に議論さ せた。 例えば、地学概論Ⅰ「月の運動と日食・月食」では、教員による講義として地球から見た大 きさの違う2つの満月の写真を見せ、「なぜ、 大きさの違う満月が地球から観測できるのか。 その理由を、最大の満月と最小の満月がどのような場合に観測できるのかについて示して説明 せよ」という学習課題に対する自分の考えをワークシートに書かせた(図2上)。 この学習課 題は、地球から観測する満月の大きさに違いがあることに気づかせ、その事実から月の軌道が 楕円であるという概念をつかませるためのものである。 また、「太陽の天球上の運動」で用い た学習課題のように(図2下)、自分の考えに選択肢を設け、そこに〇をつけさせるとともに、 そう考えた理由を書かせる場合もあった。このようにして学習課題を明示した後、図1に示し た流れで授業を展開した。

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図1 地学概論Ⅰ、Ⅱに取り入れたユニットと2019年度の変更点

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しかし、2018年度の授業スタイルでは、以下のような課題がみられた。 ① 同じグループ内で話し合いをしている学生としていない学生ができる。 ② 仲の良い学生同士での話し合いの場合に私語が増える傾向にある。 ③ グループに入りづらい学生が少なからずいる。 これらの理由としては、それぞれ次のような原因が推測できた。①話し合いのグループの人 数の問題が関係したと考えられる。人数が多すぎることで、ただ聞いているだけの学生が少な からず存在したのではないか。②真剣に議論している学生もいるが、中には、普段からの会話 の延長のような感覚で、真剣みに欠けた議論になってしまったグループが存在したのではない か。③本授業が異学科、異学年の学生が多く参加しているために、初対面の学生や話したこと がない学生がいるためにグループに入りづらかったのではないか。

3.2

9年度の授業スタイルについて

2.に示した2018年度の課題を解消するために、2019年度の授業においては授業開始前に実 施するくじ引きによってペアを決定し、その2人で並んで着席させ、その2人で学習課題に対 して議論をさせるようにした(図1)。ただし、授業の内容や展開は2018年度と同様である。 ペアにした理由は、ペアであれば2人ともが積極的に学習に参加せざるをえない状況を作る ことができるとともに( Kagan 、1994;ジョンソンほか、2010)、初めて会話するようなペア であれば私語等がしづらいと考えたからである。一方、ペア決めは毎回授業前に行うため、ほ とんどの授業でペアと初めて会話することが予想される。そこでその対策として、授業の最初 に「好きな食べ物は?」などのテーマを与え、自己紹介を兼ねて自由に話し合うアイスブレイ クの時間を2~3分程度設けた。なお、東大阪キャンパスと農学部キャンパスの授業は同じ内 容で実施した。

4.実施した質問紙調査について

 質問紙調査の内容と対象者 ペア学習を取り入れた2019年度の授業スタイル(図1)に対する学生の評価を把握するため に、2019年度の全15回の授業終了後に以下の4項目に対する無記名の質問紙調査を実施した (図3)。質問1はペア学習に対する楽しさを問う内容、質問2はペア学習が主体的な学びや学 びの深まりに効果があったかを問う内容、質問3は毎回ペアを交代したことが主体的な学びや

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学びの深まりに効果があったかを問う内容、質問4は授業の最初に設けたアイスブレイクの必 要性を問う内容である。本質問紙調査では、5 つの選択肢から自分の気持ちに近いものを選択 させたのち、そう感じた理由について自由記述させた。ただし、質問2における主体的な学び や学びの深まりについては定義づけを行わず、回答者の主観で回答させた。 質問紙調査の対象者は、地学概論Ⅰを受講した東大阪キャンパスの学生44人(以下、東大阪 Ⅰとする)と農学部キャンパスの学生37人(以下、農学部Ⅰとする)、地学概論Ⅱを受講した 東大阪キャンパスの学生29人(以下、東大阪Ⅱとする)と農学部キャンパスの学生8人(以下、 農学部Ⅱとする)であった。  質問紙調査の結果 図4は今回実施した授業スタイルに対する質問紙調査の結果をまとめたものである。図4左 列(①、③、⑤、⑦)は、各質問に対する東大阪Ⅰ、農学部Ⅰ、東大阪Ⅱ、農学部Ⅱの回答の 図3 質問紙調査の内容 ただし、自由記述の欄は削除してある。

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図4 質問紙調査の結果

①、③、⑤、⑦は、各質問に対する東大阪Ⅰ、農学部Ⅰ、東大阪Ⅱ、農学部Ⅱごとの回答比較である。②、 ④、⑥、⑧は、各質問に対する自由記述を著者が内容で分類し、東大阪Ⅰ、農学部Ⅰ、東大阪Ⅱ、農学部 Ⅱごとにまとめたものである。

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割合(%)を示している。一方、図4右列(②、④、⑥、⑧)は、各質問に対する自由記述を 著者が内容で分類し、東大阪Ⅰ、農学部Ⅰ、東大阪Ⅱ、農学部Ⅱごとにその割合をまとめたも のである。ただし、記述内容によってはその理由が複数の分類内容に当てはまる場合があった ことから、当てはまる理由をすべて分類してカウントした。そのため、図4②、④、⑥、⑧の 縦軸は、分類した意見の総数を母数とした回答割合(%)で示してある。 ペア学習に対する楽しさを問う質問(質問1)の結果では、本授業の楽しさを「たいへん楽 しかった」や「楽しかった」と肯定的にとらえた学生の割合は、東大阪Ⅰが60%程度、東大阪 Ⅱが80%程度であったが、 農学部Ⅰと農学部Ⅱは90%を超えた(図4①)。 また、 この肯定的 にとらえた主な理由を自由記述から類推すると、「1人では得られない気づきがある」や「人 と話すこと自体が楽しい」などが該当する(図4②)。一方、「あまり楽しくなかった」と否定 的にとらえた学生が東大阪Ⅰと東大阪Ⅱに数%存在した(図4①)。その理由として該当する と考えられる自由記述には、「ペアのやる気がないと楽しくない」や「人と喋ることが苦手で 疲れる」があり、中でも「ペアのやる気がないと楽しくない」という意見が農学部Ⅱを除いて 20%程度あった(図4②)。 ペア学習が主体的な学びや学びの深まりに効果があったかを問う質問(質問2)の結果では、 「たいへん効果があった」や「効果があった」と肯定的にとらえた学生の割合は、東大阪Ⅰ、 農学部Ⅰ、東大阪Ⅱ、農学部Ⅱの順に割合が増加しており、最も低い東大阪Ⅰでも約80%を示 した(図4③)。しかし、 東大阪Ⅰと東大阪Ⅱには「あまり効果はなかった」とする学生が数 %いた(図4③)。肯定的にとらえた理由を自由記述から類推すると、「様々な考えとの出会 い」、「ペアとの議論に備えて自身の考えを練る」、「議論によって生じる新たな考え」などが該 当する(図4④)。中でも、質問2の結果(図4③)と同様に、 東大阪Ⅰが最も低く、農学部 Ⅱが最も高い割合を示したのは、「議論に備えて自身で考えを練る」であった(図4④)。一方、 ペアに対して受動的な立場で学習に臨んでいると推測できる「ペアに教えてもらう」やペアと 議論することで強制的に頑張らざるを得なくなるという「ペアと議論することで生じる責任感」 をあげる学生も少なからずいた(図4④)。 その中で「ペアに教えてもらえる」は、 質問2の 回答傾向(図4③)と逆で、東大阪Ⅰが最も高く、農学部Ⅱが最も低かった(図4④)。 毎回ペアを交代したことが主体的な学びや学びの深まりに効果があったかを問う質問(質問 3)の結果では、「たいへん効果があった」や「効果があった」と肯定的にとらえた学生の割 合は、 東大阪Ⅰ、農学部Ⅰは60%程度、東大阪Ⅱ、 農学部Ⅱは80%程度であった(図4⑤)。

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ただし、東大阪Ⅰでは「まったく効果がなかった」が1人いた(図4⑤)。 学生が肯定的にと らえた理由を自由記述から類推すると、多くの学生との会話や考えを交流し合うことに価値を もつ「いろいろな人と議論ができた」や、知らない人との出会いに対する期待感から得られる 刺激とともに、仲のよい者同士であれば私語をしてしまうなどの理由を含めた「知らない人だ から刺激があった」が多くなる(図4⑥)。一方、否定的な意見としては、やる気がないペア とのマッチングに際しては評価が下がると回答した「ペアによって良し悪しが変わる」がすべ てにおいて約10%存在した(図4⑥)。 また、 初めて出会う人との会話自体が苦痛になる「新 たなペアに気を遣って疲れる」という回答もあった(図4⑥)。 授業の最初に設けたアイスブレイクの必要性を問う質問(質問4)の結果では、東大阪Ⅰ、 農学部Ⅰ、東大阪Ⅱについては「たいへん必要だと思う」や「必要だと思う」と肯定的にとら えた学生の割合は約80%を占めたが、 農学部Ⅱは約50%であった(図4⑦)。 肯定的にとらえ た理由を自由記述から類推すると、「緊張がほぐれる」が最も多かったが、「なくても話はでき る」や「あってもなくてもよい」、「話すテーマによる」などといった否定的な回答も含まれた (図4⑧)。特に農学部Ⅱは「なくても話はできる」が20%を超えた(図4⑧)。

5.2

8年度と2

9年度の定期試験の得点比較

ランダムに組み合わされたペアによる議論を取り入れた授業スタイルに、学習内容の定着に 関する効果があったかどうかを調べるために、2018年度と2019年度の定期試験(全15回の授業 後に実施)の得点(50点満点)を、地学概論Ⅰ、地学概論Ⅱごとに東大阪キャンパスと農学部 キャンパスに分けて比較した。なお、 2018年度の試験問題と2019年度の試験問題はいずれも授 業の際に実施した学習課題(学生同士で議論した内容)から出題したもので、2018年度と2019 年度の問題において30%~50%程度は同一の問題を出している。また、それ以外の問題につい ても、難易度に偏りが出ないように考慮して出題した。なお、2018年度の定期試験受験者数は、 地学概論Ⅰは、東大阪キャンパスが44人、農学部が42人、地学概論Ⅱは、東大阪キャンパスが 53人、農学部が8人であった。2019年度の定期試験受験者数は、地学概論Ⅰは東大阪キャンパ スが47人、農学部が39人、地学概論Ⅱは、東大阪キャンパスが28人、農学部が8人であった。 表1は、各キャンパスの地学概論ⅠあるいはⅡごとに2018年度と2019年度の平均点と受験者 数、2019年度の平均と2018年度の平均の差、その平均点のt値および有意差について表したも のである。各平均点における有意差については、f検定において2つの標本が等分散かどうか

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確かめたのち、t検定により求めた。 表1の結果によれば、平均点については、農学部の地学概論Ⅱだけが2019年度において1.7点 低下したが、 それ以外は2019年度が0.7点~5.8点上昇をしていた。t検定の結果では、 東大阪 キャンパスの地学概論Ⅱのみ2019年度が有意に上昇していた(t(79)=-3.169、P<0.05)が、 それ以外の平均点に有意な差は認められなかった。 図5は、各キャンパスの地学概論ⅠあるいはⅡ別に、定期試験の得点の割合分布を2018年度 表1 2018年度と2019年度の地学概論Ⅰ、Ⅱの定期試験の平均点比較 有意差 t値 差 20192018 平均点(受験者数) 2019年 2018年 n.s. -0.449  0.7 32.8(47) 32.1(44) 東大阪 地学概論Ⅰ n.s. -0.607  1.0 32.8(39) 31.8(42) 農学部 * -3.169  5.8 32.6(28) 26.8(53) 東大阪 地学概論Ⅱ n.s.  0.483 -1.7 30.3(8) 32.0(8) 農学部 *:p<0.05,n.s.:No significance   図5 2018年度と2019年度の地学概論Ⅰ、Ⅱの定期試験の得点分布比較

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と2019年度で比較したものである。これによると、2018年度と2019年度について比較的顕著な 差が認められるのは、東大阪キャンパスにおける地学概論Ⅱ(地学概論Ⅱ(東大阪))で、2019 年度の結果において下位層が減少し上位層が増加していることがわかる。それ以外では、農学 部における地学概論Ⅱ(地学概論Ⅱ(農学部))には変化がほとんど認められないが、 地学概 論Ⅰにおける東大阪キャンパスと農学部のいずれも、若干ではあるが下位層の減少と上位層の 増加の傾向がみとてれる。

6.考 察

 仲間とともに学ぶ喜びや楽しさはあったか 2019年度の地学概論Ⅰ、Ⅱの授業では、学習課題の解決にあたり、毎授業でくじ引きによっ てランダムに組み合わされた2人による議論をさせた。図4①からすれば、本授業で実施した ペアによる議論を取り入れた授業を学生は概ね楽しかったと受け止めたと推測できる。また、 この楽しさに対して否定的な回答の割合は、概ね20%が否定的な回答を示した大矢・内田 (2018)の1時限の実験授業において得られたペア学習の評価と大差はない。この2つの結果 からすれば、ランダムに決定された2人によるペア学習を継続した場合においても、十分に楽 しく学習に参加できたことがわかる。おそらく、アイスブレイクの時間を設けることや積極的 に会話せざるを得ない環境をつくることで、限定的ではあるが学習に必要なコミュニティの感 覚(バークレイなど、2015)が成立したに違いない。 一方、総意として本授業スタイルをどのように受け止めたかどうかは別にして、「ペアのや る気がないと楽しくない」と自由記述した学生の割合は、農学部Ⅱを除き20%程度存在する (図4②)。農学部Ⅱの受講者数が8人で、全員に教員の目が行き届く環境にあったことを踏ま えると、受講者数が多くなればやる気のない学生が混在する可能性は高まってこよう。このペ アのやる気の問題は、毎回ペアを交代することに対する意識にも表れている。図4⑤において は肯定的な評価をする学生が60%を超えるが、図4⑥に示すように「ペアによって良し悪しが 変わる」という意見が各授業で10%以上含まれる。今回のように毎回ペアを交代する授業スタ イルでは、やる気のない学生が1人であったとしても、14回の授業においては14人に上記のよ うな経験をさせてしまう可能性がある。逆に固定したペアでは、図4⑥に示す「いろいろな人 と議論できた」や「知らない人だから刺激があった」など、本授業スタイルだからこそ得られ る効果が得られなくなる。このような効果を保持しつつ、やる気のない学生とのペアリングの

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問題に対処することが望ましいと考えられる。 次に、図4②には少ないながらも「人と喋るのが苦手で疲れる」という指摘がある。同様な 意見として図4⑥には毎回ペアを変えることによる「新たなペアに気を遣って疲れる」もあり、 授業によっては10%程度の学生がそう感じている。これはペア学習に伴う「活動の同時性」や 「個人の2つの責任」の高まりから生じた悪い面であろう。これを防ぐために実施したのが、 授業の最初のペアによるアイスブレイクである。この効果については、農学部Ⅱ以外の学生は 大きく評価している(図4⑦)ことから、有効であったと推測できる。農学部Ⅱは前述したと おり受講人数が8人しかおらず、何度も同じペアになった学生も多くいたことから、毎回この ような時間が「なくても話はできる」と感じた学生が多かったと推測すると(図4⑧)、これ も大人数の授業でのアイスブレイク等の必要性を支持している。大矢・内田(2018)でも事前 に自由会話の時間を設けているし、白鳥(2017)によっても授業の冒頭にアイスブレイクを実 施した大学の授業で、その後のディスカッションに効果があったとされる。ペアによるアイス ブレイクの時間を維持しつつ、人と喋るのが苦手と考えている学生たちが安心して議論できる 場を提供し、人との議論を恐れずに展開できるように育成していく視点も必要であろう。  確かな学力はもたらされたか ここで議論する確かな学力は、質問紙調査によって得られた学生の主観としての主体的な学 びや学びの深まりと、定期試験の比較で求められる学習内容の定着状況と限定する。 2019年度の授業スタイルを実施したことにより主体的な学びや学びの深まりに効果があった かという質問に対して、80%程度の学生は肯定的な回答をしている(図4③)。 その理由を図 4④から類推すると、「様々な考えとの出会い」や「議論に備えて自身で考えを練る」、「議論 によって生じる新たな考え」、「相手に教える」などの意識をもつことが高評価の要因になった と考えられる。これらから、主体的な学びや学びの深まりがあったとする感覚は、他者と学び 合うからこそ生じたものであると推測できる。 さらにペア学習に学びの効果があったとする学生の割合は、東大阪Ⅰ、農学部Ⅰ、東大阪Ⅱ、 農学部Ⅱの順で大きくなっている(図4③)。これと同様な傾向を示す意見としては「議論に 備えて自身で考えを練ること」があり、逆の傾向を示す意見には「ペアに教えてもらえる」が ある(図4④)。この結果は、ペア学習を教えてもらえる学習法だと認識するのではなく、自 身で考えを練るなどの主体的な学習法だと認識できることが学びの効果の自覚に有効にはたら

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くことを示している可能性がある。また、対象人数が少ない農学部キャンパスの地学概論Ⅱは 議論からはずすが、実際の定期試験結果においても、東大阪キャンパスにおける地学概論Ⅱが 有意に2018年度よりも上昇している(表1、 図5)。東大阪Ⅱの学生の「議論に備えて自身で 考えを練る」が多いこと(図4④)、そして、「ペアに教えてもらえる」という姿勢での参加が 少ないこと(図4④)などが、定期試験の結果に表れたのかもしれない。ただし、定期試験の 点数比較による学力の議論は、母集団が異なる集団における単年度の比較でしかないことから 確定的に言及できる状況にはない。  今後の授業スタイルはどうあるべきか 今回2019年度に実施した授業スタイルは、学習課題に対して各自が自分の考えを練ることが できるように、ランダムに組み合わされたペアによるペア学習を取り入れた。著者が授業をし た感覚では2018年度の授業スタイルよりも議論に集中している学生の割合が高まったという実 感をもつし、 質問紙調査の結果からもそれが推測できる(図4)。 その中には、 自らの意思で 主体的に議論する学生がいただけでなく、「ペアと議論することで生じる責任感」(図4④)の 高揚による強制的に生じた主体性も含まれるであろうが、結果的にはそのような学生も積極的 に議論したことに変わりない。その意味で誰もが議論に参加しなければならないペア学習は、 学習内容の理解や定着にもつながりやすいと考えられるし、それを支持する可能性をもつデー タも得られた(表1、図5)。 また、 ランダムに組み合わされたペアとの議論は私語を防ぐと いう観点からも有効だと考えられる。これらはペア学習が「活動の同時性」が高い学習法であ ることや、「個人の2つの責任」を有すること(kagan、1994;ジョンソンほか、2010)の良い 面だといえよう。 一方、ランダムに組み合わされたペアによる学習においては、授業によってやる気がないペ アとのペアリングが生じる場合が発生する。このような状況が生じていることに対する学生の 批判は大きい(図4②⑥)。 また、「人と喋るのが苦手で疲れる」(図4②)という意見も少な いながら存在する。この問題解決を第一に考えるとするならば、グループの人数を増加するこ とも有益かもしれない。例えば3人グループであれば、やる気のない学生を除いた議論も可能 であるし、他の2人の議論を見ることにより自ずとやる気のない学生の学習意欲が向上するこ とが期待できる。また、人見知りの学生に対して自分が絶対にしゃべらなくてはならないとい う強迫的な感情を持たせなくてすむとも考えられる。さらに、2 人よりも3人での議論の方が

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様々な考え方に出合える可能性は高まであろう(ジョンソンほか、2010)。ただし、 グループ の人数を増やすことは、「活動の同時性」や「個人の2つの責任」(kagan、1994;ジョンソン ほか、2010)の観点からすればマイナスの要因になることを意味する。この対策としては、議 論の時間を増やすなどが考えられるが、そうすれば自ずと学習内容を精選させなければなるま い。 これらを勘案すれば、グループの人数を増加することによるメリットとデメリットを見極め、 授業者が個別の授業ごとに判断していかねばならないであろう。ただし、いずれにしても他者 との議論により生じる一人では得ることのできない学びの重要性とグループでの学習に参加す る責任について、授業の中で丁寧に説明しておくことは言うまでもないことである。このよう な理解が促進されれば、ペアリングに対する批判も減少される可能性があろう。さらに、人と の会話を苦手とする学生への配慮等も兼ねて、ペア学習における会話の進め方やルールについ ても明確に示す必要があろう。これについては今後有効な方策を模索していく必要がある。 引用文献 バークレイ,E. F.・クロス,K. P.・メジャー,C. H.(2009):協同学習の技法―大学教育の手 引き―.安永 悟(訳),ナカニシヤ出版,京都,238p. バークレイ,E. F.(2015):関与の条件―大学授業への学生の関与を理解し促すということ―. 松下佳代(編訳),デイープ・アクティブラーニング,勁草書房,東京,5891. 中央教育審議会(2012):新たな未来を築くための 大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続 け,主体的に考える力を育成する大学へ~(答申).   https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/   2012/10/04/1325048_1.pdf 近田政博・杉野竜美(2014):アクティブラーニング型授業に対する大学生の意識―神戸大学 での調査から―.神戸大学大学教育推進機構大学教育研究,No.23,119. 石川勝博(2015):アクティブ・ラーニング型授業と日本的コミュニケーション・スタイル. 国際基督教大学学報,ⅠA教育研究,No.57, 1322. ジョン ソ ン,D. W.・ジョン ソ ン,R. T.・ホ ル ベック,E. J.(2010)学 習 の 輪(改 訂 新 版) ―学び合いの協同教育入門―.石田裕久・梅原巳代子(訳),二瓶社,東京,230p.

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