I.はじめに 近年,スギ花粉症患者は増加傾向にあり1), 小児のスギ花粉症患者数も増加しているといわ れている2,3)。スギ花粉症の有病率に関する全 国的な疫学調査は少ないが,2008 年に馬場ら が行った全国の耳鼻科医 9656 名及びその家族 を対象にした質問紙法による調査では,全国 のスギ花粉症有病率 26.5%に対し,山梨県は 44.5%と全国で最も高い有病率であった4) 。有 病率の地域差は花粉の飛散期間,春先の湿度な どが影響していると言われるが4),花粉飛散量 の影響が最も大きいと考えられる。また,アレ ルギー性鼻炎は気管支喘息を合併する頻度が 高く ARIA2008 のレポート5)では,鼻アレル ギー患者の 30%以上に喘息の合併を認め,小 児喘息患者の 90%以上,成人喘息患者の 70% 以上にアレルギー性鼻炎が合併していると報告 されている。また,2004 年に文部科学省のア レルギー疾患に関する調査研究委員会が全国の 公立小学校・中学校・高等学校・中等教育学校 児童 12,773,554 名を対象に行った「アレルギー 疾患に関する調査報告書」6)において,山梨県 は小学生・中学生・高校生ともに喘息有病率が 全国で最も低い県であり,アレルギー性鼻炎の 有病率も小学生が全国 30 位,中学生が 41 位, 高校生が 23 位と低い傾向にあった。上気道と 下気道のアレルギーは並存しやすく密接な関連 を持っており,組織学的にも多くの構造が共通 することから,近年「one airway, one disease」 という概念が提唱されており7),アレルギー性 鼻炎と気管支喘息の有病率にも,一定の関係が あることが予想される。今回我々は,このよう
山梨大学の小児呼吸器外来受診患者における
スギ花粉抗原感作率
杉 山 剛,齋 藤 圭 一,杉 田 完 爾
山梨大学医学部小児科 要 旨:スギ花粉症患者数やスギ花粉感作率は年々増加傾向にあると言われているが,山梨県の小 児を対象としたスギ花粉感作率に関する報告はない。今回我々は山梨大学医学部附属病院小児科呼 吸器外来を受診した小児のスギ花粉感作率について検討した。対象は 2009 年 5 月から 2010 年 6 月 の間に上記外来を受診し,CAP-FEIA 法によるスギ花粉特異 IgE 抗体検査を受けた男児 26 名,女 児 22 名の計 48 名。年齢平均 6.6 ± 3.7(1 歳 2 ヶ月 -15 歳 7 ヶ月),血清総 IgE 値(平均 IU/ml ± 標準偏差)は 577.8 IU/ml ± 685.5 であった。対象者の中で気管支喘息の治療中もしくは既往を 有する例は 47.9%,スギ花粉特異 IgE 抗体陽性率は 52.1%,ハウスダスト特異 IgE 抗体陽性率は 70.8%であった。年齢別陽性率では 1-3 歳が 9.1%,4-6 歳が 42.9%,7-16 歳が 78.3%であった。ま た,過去の他の地域における報告同様,山梨県の小児も 7 歳以上で感作率が有意に増加(P < 0.05) していることは本県における小児の花粉症診療の一助になるものと思われた。 キーワード 感作,スギ花粉症,アレルギー性鼻炎原 著
〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地 受付:2012 年 4 月 16 日 受理:2012 年 11 月 14 日な特徴を有する山梨県で育つ小児のスギ花粉の 感作状況と喘息の有病率について,当科呼吸器 外来受診者のスギ花粉特異 IgE 抗体価検査の 結果から後方視的に検討したので報告する。 II.対象と方法 1.対象 対象者は 2009 年 5 月から 2010 年 6 月の間に 山梨大学医学部附属病院小児科の呼吸器外来を 受診した際に,アレルギー検査の意義と必要性 について説明を行い保護者から口頭で同意が得 られた 48 名(実人数)。 2.方法 上記対象者におけるスギ花粉およびハウス ダスト(HD)感作率と,スギ花粉の年齢別感 作率,血清総 IgE 値,喘息有病率について検 討した。スギ花粉,HD ともに感作例は血清特 異 IgE 抗体がクラス 2(IgE スコア > 0.70 UA/
ml)以上のものとした。血清特異 IgE 抗体の
測定は,外注検査として SRL 社に依頼し CAP-FEIA(Fluoro Enzyme Immuno Assay) 法 を 用いて行った。気管支喘息の有病率については, ロイコトリエン受容体拮抗薬や吸入ステロイド 薬などの気管支喘息の長期管理薬を服用中か, お薬手帳や問診などから過去 1 年間に気管支喘 息の急性増悪と思われる治療歴があるものを有 病者として算出した。年齢別のスギ花粉感作率 および気管支喘息有病率は,フィッシャーの直 接確率を用いて解析し,P<0.05 を有意差あり とした。本研究は後方視的に行った。 III.結 果 表 1 に示す通り,対象者の年齢平均は 6.6 ± 3.7(1 歳 2 ヶ月 -15 歳 7 ヶ月),年齢分布は,4 歳未満の乳児群が 11 名,7 歳未満の幼児群が 14 名,7 歳以上 16 歳未満の学童群が 19 名(13 歳未満 19 名,13 歳以上 16 歳未満が 4 名)であり, 男女比は男児 26 名,女児 22 名であった。電子 カルテに記載されている住所によると 48 名の うち 4 名が県外居住者であった。また,対象者 の基礎疾患は睡眠時無呼吸症候群 33.3%,気管 支喘息 47.9%,食物アレルギー 33.3%,先天 性呼吸器疾患 8.3%であった(重複例あり)。対 象者 48 名の血清総 IgE 値(平均 IU/ml ±標準 偏 差 ) は 577.8 ± 685.5 で あ っ た。48 名 中 25 名がスギ花粉特異 IgE 抗体陽性であり陽性率 は 52.1%,48 名中 34 名がハウスダスト(HD) 陽性であり陽性率は 70.8%であった。また,ス ギ花粉特異 IgE 抗体陽性者における HD 陽性 率は 76%,血清総 IgE 値(平均 IU/ml ±標準 偏差)は 737.3 ± 668.9 であった。また,スギ 花粉特異 IgE 抗体の最年少陽性者は 3 歳 5 カ 月の女児であり,年齢別陽性率では乳児群が 9.1%,幼児群が 42.9%,学童群が 78.3%であ り(図 1),乳児群と幼児群の間に有意差は認 められなかったが,学童群は乳児群と幼児群に 比べ有意に高かった。また各年齢群における気 管支喘息有病率はそれぞれ,54.5%,50.0%, 43.5%であり,3 群間に統計学的な有意差は認 められなかった。 表 1.患者背景 年齢(平均±標準偏差) 6.6 ± 3.7 男女比(男:女) 26:22 地域(県内:県外) 44:4 原疾患 睡眠時無呼吸症候群 16/48(33.3%) 気管支喘息 23/48(47.9%) 食物アレルギー 16/48(33.3%) 先天性疾患 4/48(8.3%) 血清総 IgE(IU/ml) 577.8 ± 685.5 スギ花粉特異 IgE 抗体陽性率 25/48(52.1%) ハウスダスト特異 IgE 抗体陽 性率 34/48(70.8%)
IV.考 察 表 2 に今回の研究結果と,これまでの小児を 対象としたスギ花粉 IgE 陽性率に関する報告 のデータを示す。本研究におけるスギ花粉特異 IgE 抗体の測定には従来からの CAP-RAST 法 ではなく CAP-FEIA 法を用いた。特異 IgE 抗 体の測定には放射性アイソトープを使用した CAP-RAST(Radio-Allergo Solvent Test)法が 以前は広く用いられていたが,CAP-FEIA 法は 放射性アイソトープを使用せず CAP-RAST 法 に比べ約 3 倍の抗原結合能を有し感度もきわめ 図 1. 年齢別スギ花粉感作率と気管支喘息有病率 有意差の検定にはフィッシャーの直接確立を用い,P < 0.05 を有意差ありとした. 表 2.本報告と過去の報告における小児のスギ花粉 IgE 抗体陽性率 *論文中に記載のないデータは N.D. とした. # クラス 2 以上を,## クラス1以上をそれぞれ陽性とした. 実施年 対象数 平均年齢 (±標準偏差) 総 IgE 値 (IU/ml) スギ特異 IgE 抗体陽性率 HD 特異 IgE 抗体陽性率 特異 IgE 抗体 測定法 山梨大学小児科 呼吸器外来 2009 48 6.6(3.7) 433.4 52.1% # 70.8%# CAP-FEIA 川崎医科大学 耳鼻咽喉科9) 2009 171 10(N.D.*) N.D.* 55.0%## 77.8%## CAP-RAST 京都大学小児科 アレルギー外来11) 2002 91 8.2(4.2) 1322 65.9%# N.D.* CAP-RAST 国立療養所 三重病院小児科 アレルギー外来10) 2000 76 2.7(1.6) N.D.* 27.6%# N.D.* CAP-RAST
て高いため,最近では CAP-FEIA 法が主流と なっており8)本研究でもこれを用いた。 2009 年に兵らが行った川崎医科大学耳鼻咽 喉科外来受診者を対象としたスギ花粉感作率 の 報 告9)の う ち,2 歳 か ら 15 歳 ま で の 小 児 171 名におけるスギ花粉特異 IgE 抗体陽性率は 55.0%であり,今回の研究の感作率 52.1%と数 字上はほぼ同様の結果であった。ただし,兵ら は CAP-RAST 法でクラス 1 以上を感作例とし ているが,一般的には本研究同様クラス 2 以上 を感作例としていることが多い10–12)。本報告に おいて感作基準をクラス 1 以上とすると感作率 は 60.4%となるものの,本研究で用いた CAP-FEIA 法の感度が高いことも加味すれば,兵ら の報告とほぼ同様の結果であると考えられる。 増田らは 2000 年に国立療養所三重病院小 児科アレルギー外来を受診した 5 歳以下の幼 児を対象として CAP-RAST 法で測定したスギ 花粉感作率 27.6%と報告10)している。本研究 においても 5 歳以下の幼児における感作率は 23.8%であり,この年齢層においては増田らの 報告とほぼ同様であった。楠らは 2002 年に京 都大学小児科アレルギー外来を受診した児を対 象に CAP-RAST 法で測定したスギ花粉感作率 65.9%と報告11) しており,本研究の結果はそ れよりも低い感作率となっている。しかし,本 研究の対象者は気管支喘息(47.9%)や食物ア レルギー患者(33.3%)などのアレルギー疾患 のほかに,睡眠時無呼吸症候群(33.3%)や, 喉頭軟化症をはじめとする先天性呼吸器疾患 (8.3%)など非アレルギー疾患も含まれており, 実際に血清総 IgE 値を比較すると,京都大学 小児科アレルギー外来における報告では 1322 ± 895 IU/ml であったのに対し,本報告では 577.8 ± 685.5 IU/ml と低かったことから,楠 らにおける比較的高い陽性率は対象者がアレル ギー素因のある児に集中していたためである可 能性がある。 また,本研究における年齢別スギ花粉感作率 は図 1 に示すように年齢とともに増加傾向にあ り,学童群のスギ花粉感作率は幼児群に比べ有 意差を認めた。2008 年の馬場らの調査におい てもスギ花粉症の有病率は 5-9 歳が 13.7%,10 歳代 31.4%,20 歳代 31.3%と年齢とともに増 加傾向がみられ,10 歳代で急激な増加がみら れた。また,栃木県壬生町の小学生を対象とし た 1992 年に森12)が行った調査においても,6 歳では約 20%であったスギ花粉感作率が 7 歳 では約 40%と急激に増加していた。森はその 理由として,スギ花粉に感作されるまでに 6-7 年を要するためと考察しており,2009 年の兵 らの報告においても同様の傾向を認め,2-6 歳 と 12-15 歳のスギ花粉感作率は 12-15 歳の方が 有意に高率であった。このように過去の多くの 報告においても12,13),スギ花粉感作率は 7 歳前 後で急激に高くなっており,スギ花粉感作の成 立にとって 7 歳前後が key age である可能性が 示唆される。これは,小学校入学に伴う環境変 化などが要因として考えられるが,学童期のス ギ花粉感作率が生後早期の花粉曝露量14)や誕 生月2,14)が関係するとの報告や,7 歳までの季 節性アレルギー性鼻炎の発症には最低 2 シーズ ンの花粉曝露が必要であるなど様々な報告があ り15),抗原曝露開始から小児のスギ花粉感作 の成立までに要する期間についてはいまだ明ら かになっていない。
また,「one airway, one disease」という概念6) からは,スギ花粉症などのアレルギー性鼻炎と 気管支喘息との間に相関関係があることが予想 されたが,本研究においては各年齢群間で気管 支喘息の有病率に有意差はみられず(P>0.05), 全ての年齢群で 50%前後の有病率であった。 また,乳児群,幼児群では気管支喘息有病率が スギ花粉感作率よりも高かったが,学童群で はこれが逆転し,スギ花粉感作率(78.3%)の 方が気管支喘息有病率(43.5%)を上回ってい た。学童群では気管支喘息患者の 80%(10 例 中 8 例)にスギ花粉感作を認め,スギ花粉感作 例の 40%(18 例中 8 例)が気管支喘息患者で あった。これは ARIA2008 のレポート5)とほ ぼ同様の結果であり,学童期以降で気管支喘息 有病率と花粉感作率との逆転がみられ,ほぼ成
人と同様の結果となることから,ここでも 7 歳 が key age であることが示唆された。しかし山 梨県小児の正確なスギ花粉感作率や地域差を明 らかにするためには,今後さらなる詳しい調査 が必要であると思われる。 引用文献
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Japanese Cedar Pollen Sensitization Rates of Patients who Visited Outpatient Pediatric Pulmonology of University of Yamanashi Hospital.
Takeshi SUGIYAMA, Keiichi SAITO and Kanji SUGITA
Department of Pediatrics, University of Yamanashi School of Medicine
Abstract: Although the prevalence of cedar pollinosis and the cedar pollen sensitization rate have been constantly
increasing, cedar pollen sensitization patterns in children in Yamanashi Prefecture have not been studied to date. We examined the cedar pollen sensitization rate in 48 patients (26 boys and 22 girls; mean age, 6.6 ± 3.7 years; age range, 1–15 years) who visited the pediatric pulmonology department in the University of Yamanashi hospital and underwent CAP-FEIA examinations for specifi c IgE antibodies against Japanese cedar pollen between May 2009 and June 2010. The serum total IgE level (mean ± SD) was 577.8 ± 685.5. Among these patients, 47.9% had un-dergone treatment for bronchial asthma or had a history of bronchial asthma, 52.1%, showed positivity for specifi c IgE antibodies against Japanese cedar pollen, and 70.8% showed positivity for specifi c IgE antibodies against house dust. The positive sensitization rates were 9.1% in 1–3-year-old children, 42.9% in 4–6-year-old children, and 78.3% in 7–16-year-old children. The fi ndings showing increased sensitization rates in children aged ≥7 years (P<0.05) will be useful while treating pediatric cases of pollinosis in Yamanashi prefecture.