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2016年熊本地震における特徴的な低周波の余震

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(1)

ていると考えられる場合が多くある。このため低周波地 震の存在は,地下の地震発生場の状態を推定するための 重要な指標となる。今回注目している大地震の余震に関 しても,低周波で特徴づけられる余震が,新潟県中越地 震(小原,2004;小菅,2006)や2008年岩手・宮城内陸 地震(小菅・2008 年岩手・宮城内陸地震合同余震観測グ ループ,2011)などにおいても確認されている。 観測された地震波に低周波振動が卓越する要因とし て,震源スペクトルが低周波側にずれる地震自体に原因 がある場合と地震波の伝播する経路で高周波成分が吸収 される地震波減衰構造に原因がある場合がある。これら を区別することは,観測された地震の特徴を理解する上 で重要である。本研究では見出した低周波の卓越する余 震に注目し,他の熊本地震の余震と比較することによ り,それらの特徴を明らかにし,さらに低周波が卓越す る原因を推察することを目的としている。 1.はじめに 2016年熊本地震(以下,熊本地震と呼称)の余震の中 に,低周波成分が卓越する特徴的な地震が見られた。地 震は一般にスケーリング則に従ったスペクトルを示すの で,地震の規模に応じた卓越周波数を有する(例えば Aki and Richards, 1980)。今回見出した特徴的な地震は マグニチュード(M)3.0の規模であるが,同規模の普通 の地震の卓越周波数が数Hz ∼ 10Hz 程度であるの対し, この地震は数Hz 以下の地震波が卓越しており,スケー リング則からはずれているように見える。 地震波の卓越周波数と規模の間のスケーリング則から 卓越周波数が低周波側にずれた地震を低周波地震と呼 ぶ。低周波地震は,火山浅部や火山帯深部(西村・井口, 2006),海洋プレート沈み込み帯(Obara, 2002),活断層 深部(Nadeau and Dolenc, 2005)など,さまざまな地学 環境において発生することが知られている。低周波地震 の発生原因として,マグマや熱水など地下流体が関係し

木村 美桜

・鵜川 元雄

**

In the aftershocks of the 2016 Kumamoto earthquake, we found two characteristic earthquakes of magnitude 3.0 with predominant low frequency components. Their epicenters locate on a rim of the aftershock area, and their focal depths are shallower than 5 km. The body waves and coda waves show predominant frequencies lower than 5 Hz in both events. We focus on these aftershocks and compare them with other aftershocks of the 2016 Kumamoto earthquake to distin-guish source effects and path effects for their low frequency nature, using the wavelet analysis, the examination by eye and the bandpass filtering technique. The results suggest that the low frequency nature originates from their sources themselves, not from the path effects.

Keywords : low frequency earthquake, the 2016 Kumamoto earthquake, wavelet analysis, aftershocks

2016年熊本地震における特徴的な低周波の余震

Characteristic low Frequency Aftershocks in the 2016 Kumamoto Earthquake

Mio KIMURA

and Motoo UKAWA

**

(Accepted November 30, 2017)

 * Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University: 3-25-40,

Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

** Department of Earth and Environmental Sciences, College of Humanities

and Sciences, Nihon University: 3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

日本大学大学院総合基礎科学研究科:

〒156−8550 東京都世田谷区桜上水3−25−40

**日本大学文理学部地球科学科:

(2)

2.解析手順と使用するデータ (1)解析手順 本研究では,まず観測された余震の地震波にウェーブ レット解析を適用し,低周波が卓越した余震のスペクト ル構造を明らかにする。第2 に低周波が卓越していると して抜き出した地震が通常の地震と比べて特異なものか どうかを検討するため,通常の地震30 個と今回注目し ている低周波が卓越した地震に対して,特徴的な2 つの 周波数帯域のバンドパス・フィルターを通した波形の振 幅比を計算し,比較する。第3 に低周波が卓越した地震 の震源周辺域のその他の余震の波形を目視で調査し,低 周波が卓越する地震の出現する領域を明らかにする。第 4 として第 3 の手順において低周波の卓越する地震が見 出された領域に発生した地震に対して,第2 の手順で 行ったバンドパス・フィルターによる解析を適用し,今 回抽出した地震がこの領域として特異なものかどうかを 検討する。この4 つの手順により,低周波が卓越する原 因を推察する手がかりを得る。 (2)使用するデータ 本研究では地震の震源情報は気象庁のホームページで 公表されているデータを使用した(http://www.data.jma. go.jp/svd/eqev/data/bulletin/hypo.html)。 地 震 波 デ ー タの解析にあたっては,(国研)防災科学技術研究所(以 後,防災科研と称す)の高感度地震観測網(Hi-net)によ り公表されているデータを用いた。地震波形の目視での 調査・分析は,防災科研によりWEB(http://www.hinet. bosai.go.jp/strace)で公開されている 1 時間毎の可視画 像を使用した。 デジタル波形データは,防災科研のHi-net の web サイ トの連続波形データダウンロード(https://hinetwww11. bosai.go.jp/auth/download/cont/)から 3 成分高感度速 度型地震計(固有周期1 秒)によるデータをダウンロー ドした。Hi-net の高感度地震観測データは,サンプリン グ周波数100Hz,ダイナミックレンジ 27bit のデジタル データとして提供されている(汐見・他,2009)。 3.震源位置と波形の特徴 本研究で見出した低周波が卓越する特徴的な余震2 個 は,2016年4月24日1時13分に発生した余震(以下,地 震Aと呼称)と,2016年4月25日6時59分に発生した余 震(以下,地震Bと呼称)である。これらの地震の気象 庁による震源パラメーターを表1 に示し,震央分布図と その南北断面図を図1に示す。地震の規模は,地震A,B ともM3.0 である。地震 A の震央は,本震の震源の北, 約8km にあり,余震域の縁に位置している。震源の深 さは,4.75km と推定されている。地震 B の震央は,本 震の震源の西北西,約13km にあり,地震 A と同様に余 震域の縁に位置している。震源の深さは1.26km と推定 されている。図1 の断面図から,地震 A も地震 B も熊本 地震の余震の中で,相対的に浅い位置で発生したことが わかる。 図2 に 1 分間の3 成分地震記象の例を示した。図2(a) と(b)は,それぞれ地震Aと地震BのN.HKSH観測点で 記録された3 成分地震記象である。また通常の地震と比 較するために,地震A と地震 B の間に震央がある地震の N.HKSH 観測点での 3 成分地震記象も図 2(c)に地震 C として示した。地震C の震源は表 1 及び図 1 に示されて いるように,規模は地震A と地震 B と同じ M3.0 であり, 震源の深さは比較的浅い6.89kmである。 地震Aについては,図2(a)にP1で示すP波初動の前 にP0から始まる小さな振動が見られ,2 つの地震が続発 したことが分かる。小さな振動に対応する地震の震源は 気象庁により決められていないが,南北動成分のS0で 示す時刻にP0対応するS波が現れ,このPS時間(約2秒) はP1に対応するPS 時間(約 3 秒)より短いこと,また N.MSIHなど他の観測点の記録のP0とP1の相対的な時間 差が変化することから,これら2 つの地震の震源は同一 の場所ではないこと,すなわち地震A は震源では単発の 地震であったことがわかる。 表1 地震A,地震B,地震Cの気象庁による震源パラメーター 地震 発震時 (日本標準時) 標準誤差 (秒) 緯度 (°N) 標準誤差 (緯度) 経度 (°E) 標準誤差 (経度) 深さ (km) 標準誤差 (km) M A 1時13分20.01秒2016年4月24日 0.03 32.8386 0.0018 130.7836 0.0025 4.75 0.91 3.0 B 2016年4月25日6時59分8.72秒 0.14 32.8225 0.0042 130.6511 0.0058 1.26 1.82 3.0 C 2016年4月20日 17時35分19.86秒 0.03 32.8283 0.0017 130.6928 0.0022 6.89 0.69 3.0

(3)

図1 震央分布図と南北断面図 赤の丸印は地震A,青の丸印は地震 B,緑の丸印は地震 C,黄色の四角は M6.5 の最大前震,紫の四角は本震,灰色の丸印は前述以外のこの 範囲で発生した地震の震源を示す。十字は周辺のHi-net観測点の位置である。

201604142126 − 201609302359

130˚24'

130˚36'

130˚48'

131˚00'

131˚12'

32˚24'

32˚36'

32˚48'

33˚00'

33˚12'

0

10

20km

N.OGNH N.KHKH N.KKCH N.TMNH N.NMNH N.ASVH N.HKSH N.MSIH N.YABH N.TYNH N.MSMH N.IZMH N.GKSH N.SBAH N.TMCF

0

10

20

30

Depth, km

−3e−005 −2e−005 −1e−005 0 1e−005 2e−005 3e−005 amplitude(m/s) 70 80 90 100 110 120 130 time(s) 20160425 0658 N.HKSH_UD −3e−005 −2e−005 −1e−005 0 1e−005 2e−005 3e−005 amplitude(m/s) 70 80 90 100 110 120 130 time(s) 20160425 0658 N.HKSH_NS −3e−005 −2e−005 −1e−005 0 1e−005 2e−005 3e−005 amplitude(m/s) 70 80 90 100 110 120 130 time(s) 20160425 0658 N.HKSH_EW −2e−005 −1e−005 0 1e−005 2e−005 amplitude(m/s) 2110 2120 2130 2140 2150 2160 2170 time(s) 20160420 1700 N.HKSH_UD −2e−005 −1e−005 0 1e−005 2e−005 amplitude(m/s) 2110 2120 2130 2140 2150 2160 2170 time(s) 20160420 1700 N.HKSH_NS −2e−005 −1e−005 0 1e−005 2e−005 amplitude(m/s) 2110 2120 2130 2140 2150 2160 2170 time(s) 20160420 1700 N.HKSH_EW (a)地震 A P1 P0 S1 S0 (c)地震 C (b)地震 B −2e−005 −1e−005 0 1e−005 2e−005 amplitude(m/s) 70 80 90 100 110 120 130 time(s) 20160424 0112 N.HKSH_UD −2e−005 −1e−005 0 1e−005 2e−005 amplitude(m/s) 70 80 90 100 110 120 130 time(s) 20160424 0112 N.HKSH_NS −2e−005 −1e−005 0 1e−005 2e−005 amplitude(m/s) 70 80 90 100 110 120 130 time(s) 20160424 0112 N.HKSH_EW 図2 N.HKSH観測点における(a)地震A,(b)地震Bと(c)地震Cの上下動(上),南北動(中),東西動(下)の地震記象

(4)

低周波が卓越する地震A と地震 B の波形を通常の波形 である地震C と比較するとS 波の振動において低周波成 分の卓越が顕著であることが分かる。特に地震Bではそ の傾向が顕著である。また振動継続時間を見ると地震A, 地震B とも地震C より長時間にわたり振動が継続し,地 震B は地震 C の継続時間の 2 倍程度の長さにわたり振動 が認められ,同規模の地震と比較して震動継続時間が長 いこともこれらの低周波が卓越する地震の特徴といえ る。 4.ウェーブレットによるスペクトル解析 地震A と地震 B の周波数の特徴を把握するため,それ ぞれの地震の上下動成分にウェーブレット解析を行っ た。ウェーブレット解析とは,アナライジングウェーブ レットと呼ばれる波形を基本として,その波形を時間に 関して縮小あるいは拡大して作られるウェーブレットに 解析対象の時系列を展開する手法である。この解析方法 は,対象とする周波数に対応する時間幅で大きく振動す るウェーブレットを時間的に平行移動させるため,スペ クトルの時間変動の情報も得ることが可能である(山 田・他,2016)。 本研究では,アナライジングウェーブレットとして下 記の式で与えられるMorlet のウェーブレットを採用し た。

Ψ η

π

ω η η 0 1 4 0 22

( )

=

−/

e

i

e

− / ここで h は無次元の時間パラメーター,~0は無次元の 周波数パラメーターである。計算方法はTorrence and Compo (1998)に従った。 解析対象は,地震A と地震 B の震源を囲む N.TMNH 観測点,N.KKCH観測点,N.YABH観測点,N.TYNH観測 点で記録された地震波とした。また比較のために地震C についても同じ観測点の記録にウェーブレット解析を適 用した。地震A,地震 B,地震 C について 4 つの観測点 のウェーブレット解析結果をそれぞれ図3,図4,図5に 示した。 地震Aでは,P波初動付近は数Hzの振動が卓越してい る。N.TYNH 観測点では約 10Hz の振動が見られる。こ の比較的高い周波数の振動はP 波初動直後の 2 秒間程度 で減少し,P波コーダ部分からS波の振動では0.5 ∼5Hz の振動が卓越している。 地震B では,P 波初動付近で 5Hz 程度の振動が卓越す る観測点(N.TMNH)もあるが,5Hzより高い周波数成 分はいずれの観測点でも振幅が小さく,P 波コーダ部分 からS 波初動及び S 波コーダにかけて 0.5 ∼ 2Hz の振動 成分が強い。 一方,地震C は揺れはじめに 10Hz 程度の高周波成分 まで強く現れ,S 波初動付近にも5Hz 程度の振動成分が 強く現れる。P波初動からS波コーダにかけて,1Hz以下 の低周波成分はほとんど含まれていない。地震Cのスペ クトルの特徴と地震A 及び地震B のスペクトルの特徴を 比較すると,地震A と地震 B では 2Hz 以下の低周波成分 が通常の地震より強く現れたことが分かる。 5. バンドパス・フィルターによる M1.0 ∼ M3.9 の 地震の分析 地震A と地震 B が熊本地震の余震群中でどの程度,低 周波が卓越しているかを検証する。地震のスペクトルは 地震の規模に関係して変化するので,M1.0 ∼ M3.9 まで M0.1 毎に地震を選び,M3 の地震 A と地震 B をこれらの 地震と比較した。ここでは2016 年 4 月 14 日∼ 30 日に図 1 の 範 囲 の 20km よ り 浅 い 場 所 で 発 生 し た M1.0 か ら M3.9の余震のうち,無作為にM0.1毎に地震を合計30個 選択した。この地震群を,以下,Q 群と呼ぶ。Q 群の地 震の震源を図6に示す。 バンドパス・フィルターによる分析では,低周波の卓 越の程度を確認するため,ウェーブレット解析結果で地 震A と地震 B とも周波数 1 ∼ 2Hz の振動成分が大きく, 6 ∼ 10Hz の振動成分は比較的小さかったため,余震の 地震波デジタルデータを1 ∼2Hz(L帯域)と6 ∼10Hz(H 帯域)のバンドパス・フィルターに通し,得られた波形 の上下動成分についてそれぞれの最大値の比(L/H)を 求めた。バンドパス・フィルター波形の最大値は,バン ドパス・フィルターを通した波形のエンベロープ(包絡 線)を計算し,そのエンベロープの最大値として算出し た。その一例を図7 に示す。ここでは L/H を 2 つの観測 点(N.TARH観測点とN.NMNH観測点)について算出し, その平均値をそれぞれの地震のL/Hとした。 Q 群の地震について求めた L/H を図 8 に示した。無作 為に選んだ地震では,M1.0 から M3.9 まで L/H が 0.2 程 度から1.0程度まで地震の規模とともに漸増する。一方, 地震A ではこの値が 1.46,地震 B では 2.76 と算出され, いずれもM3.9 以下の通常の地震より数倍程度,低周波 (L)帯域が高周波(H)帯域より大きいことが明らかに なった。 6.目視による卓越周波数の分類 地震A と地震 B の低周波が卓越する原因が震源域の地 下構造であるかを調査するため,余震の上下動成分の連

(5)

(a)

(d)

(c)

(b)

図3 地震Aの4つの観測点におけるウェーブレット解析結果 (a) N.KKCH観測点,(b)N.TMNH観測点,(c)N.TYNH観測点,(d)N.YABH観測点,それぞれ上段は地震Aの上下動の地震記象,中段は周波数 0~5Hzの範囲のウェーブレット解析結果,下段は周波数0~15Hzのウェーブレット解析結果。

(6)

(a)

(d)

(c)

(b)

図4 地震Bの4つの観測点におけるウェーブレット解析結果 (a) N.KKCH観測点,(b)N.TMNH観測点,(c)N.TYNH観測点,(d)N.YABH観測点,それぞれ上段は地震Aの上下動の地震記象,中段は周波数 0~5Hzの範囲のウェーブレット解析結果,下段は周波数0~15Hzのウェーブレット解析結果。

(7)

(a)

(d)

(c)

(b)

図5 地震Cの4つの観測点におけるウェーブレット解析結果 (a) N.KKCH観測点,(b)N.TMNH観測点,(c)N.TYNH観測点,(d)N.YABH観測点,それぞれ上段は地震Aの上下動の地震記象,中段は周波数 0~5Hzの範囲のウェーブレット解析結果,下段は周波数0~15Hzのウェーブレット解析結果。

(8)

図6 Q群の地震の震源分布図 赤の丸印は地震A,青の丸印は地震B,緑の四角印はQ群の地震の震源を示す。

201604142126 − 201609302359

130˚30'

131˚00'

131˚30'

32˚30'

33˚00'

0 10

N.TARH N.NMNH

0

10

20

Depth, km

20km

−1e−005 −5e−006 0 5e−006 1e−005 amplitude(m/s) −1e−005 −5e−006 0 5e−006 1e−005 amplitude(m/s) 800 820 840 −1e−005 −5e−006 0 5e−006 1e−005 amplitude(m/s) 800 820 840 time(s) time(s) time(s) 20160424 0100 NMNH_UD−BPF1 −1e−005 −5e−006 0 5e−006 1e−005 amplitude(m/s) −1e−005 −5e−006 0 5e−006 1e−005 amplitude(m/s) 800 820 840 −1e−005 −5e−006 0 5e−006 1e−005 amplitude(m/s) 800 820 840 20160424 0100 NMNH_UD−BPF2 −1e−005 −5e−006 0 5e−006 1e−005 amplitude(m/s) 800 820 840 −1e−005 −5e−006 0 5e−006 1e−005 amplitude(m/s) 800 820 840 20160424 0100 NMNH’_UD−Envelopes_Ratio=’ 0.15000E+01 20160424 0100 NMNH BPF1:1.0Hz−2.0Hz BPF2:6Hz−10Hz 図7 N.NMNH観測点における地震Aの上下動成分のバンドパス・フィルターによる分析結果例 緑の線が地震A の上下動の地震記象,青の線は地震 A の上下動を周波数 1~2Hz のバンドパス・フィルターに通した波形のエンベロープ,赤 の線は地震Aの上下動を周波数6~10Hzのバンドパス・フィルターに通した波形のエンベロープを示す。

(9)

まれている。地震波データ解析には,N.TMNH 観測点, N.KKCH 観測点,N.YABH 観測点,N.TYNH 観測点で記 録されたデジタル波形データを用いた。バンドパス・ フィルター解析の手順は,前述と同じである。 Z 群の分析結果を図 10 に示す。ここでの地震 A の L/H の値は2.68,地震 B の L/H の値は 5.5 1となっている。 ここで対象とした他10 個の余震との平均と比べて,前 者は約2倍,後者は約5倍程度大きな値を示している。 8.考察 2016 年熊本地震の余震のなかに見出した低周波が卓 越する2 つの地震は,下記の理由で地震波の伝播経路で 高周波が減衰した地震ではなく,震源で通常の地震より 低周波成分が高周波成分より相対的に大きく放射された 低周波地震であると言える。 ①  熊本地震の余震について今回調査した規模と卓越周 波数の関係から,この2 つの地震は明らかに低周波 側にずれている。 ②  この 2 つの地震の震源周辺の同規模の地震の卓越周 波数の調査から,この2 つの地震は特に低周波が卓 越していること。 大地震の余震の中に低周波成分が卓越する地震が発生 することは,2004年新潟県中越地震(小菅,2006)、2008 年岩手・宮城内陸地震(小菅・2008 年岩手・宮城内陸地 震合同余震観測グループ,2011)についても既に指摘さ れている。小菅・2008 年岩手・宮城内陸地震合同余震 観測グループ(2011)は、実体波とコーダ波に分けて卓 越周波数の特徴を分類し,実体波とコーダ波ともに低周 続波形画像を目視で確認し,P 波の卓越周波数が 1 ∼ 3Hz(Lタイプ),4 ∼6Hz(Mタイプ),7 ∼10Hz(Hタ イプ)のいずれであるかを分類した。対象とした余震は, 2016年4月19日から同年9月30日に地震Aと地震Bの震 源近傍で発生した余震60 個である。この中には地震 A と地震Bも含む。分類を行った観測点は,ウェーブレッ ト解析で用いた4 つの観測点に N.UWEH 観測点を加え た5観測点である。 分類結果を図9 に示す。図 9(a)は観測点を含む範囲 の表示,図9(b)は震源付近の拡大図である。図9(b) によると,震央分布図において地震A の震源周辺では H タイプのみが発生しているのに対し,地震Bの震源周辺 ではすべてのタイプが発生している。また,図9(b)の 南北断面図では深さ約10kmを境に,浅部ではMタイプ, 深部ではH タイプがより多く見られ,深さ 5km を境と すると,浅部に地震A と地震 B 以外の L タイプが 2 つ見 られる。また,地震A と地震 B は 5 つの観測点すべてで Lタイプと分類できた。 7.バンドパス・フィルターによる浅い地震の分析 目視による卓越周波数の調査により,低周波の卓越す るL タイプは浅い地震に限られることが分かったため, 2016 年 4 月 19 日から 9 月 30 日の期間に図 1 の範囲におい て深さ6km 以浅で発生した余震 12 個を選んで,これら についてバンドパス・フィルターによる分析を実施し た。この地震の選択において,地震の規模は地震A と地 震B とほぼ同規模である M2.9 から M3.1 の範囲とした。 この地震群をZ 群と呼ぶ。Z 群には地震 A と地震 B が含 図8 Q群の分析結果を示した散布図 縦軸にそれぞれの余震の2つの観測点でのL/Hの平均値,横軸はマグニチュード(M)。赤い丸印は地震A,青い丸印は地震Bを示す。

(10)

201604142126 − 201609302359

130˚36' 130˚48' 32˚48' 33˚00' 0 10km N.KKCH N.TMNH 0 10 20

Depth, km

(b)

201604142126 − 201609302359

130˚24' 130˚36' 130˚48' 131˚00' 131˚12' 32˚12' 32˚24' 32˚36' 32˚48' 33˚00' 0 10 20km N.KKCH N.TMNH N.YABH N.TYNH N.UWEH 0 10 20 30

Depth, km

(a)

図9 卓越周波数の分類結果を示した震央分布図と南北断面図 (a)分類結果と用いた観測点を示した震央分布図、(b) 拡大した震央分布図とその南北断面図である。分類を行った5つの観測点のうち,3つ 以上の観測点でLタイプと分類した余震の震源を水色の丸印,Mタイプと分類した余震の震源をピンク色の丸印,Hタイプと分類した余震の 震源をオレンジ色の丸印で表示した。地震Aの震源は赤の丸印,地震Bの震源は青色の丸印で示している。

(11)

れば,地殻浅部は高減衰領域という結果が得られてお り,今回の低周波地震は,高減衰領域の地殻浅部で発生 した地震であったことが大きな要因であった可能性があ る。しかし,低周波地震の具体的な発生機構については, 今後の課題として残った。 9.結論 2016 年熊本地震において,特徴的な低周波の余震を 2 つ見出した。ウェーブレット解析,バンドパス・フィル ター解析,目視による波形分類を行った結果,今回見出 した2 つの低周波地震は,熊本地震の余震の中でも特に 低周波が顕著に卓越した地震であったことがわかった。 これら2 つの地震は熊本平野の地殻浅部に震源があり, これら以外にも震源が6km より浅い地震には低周波成 分がやや卓越する地震がある。しかし,解析の結果,震 源が浅いだけでは低周波が卓越した原因を説明できない ことがわかった。今後,地殻浅部の低周波地震の発生機 構について検討を進めることが必要である。 謝辞 防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)のデー タを使わせていただきました。村瀬雅之准教授には原稿につ いての多くのご助言をいただき,本論文の改善に大きく役立 ちました。また小菅正裕弘前大学教授との議論は本研究の進 展に役立つとともに発表論文等をいただきました。ここに記 して感謝します。なお図の作成にはGeneric Mapping Tools (Wessel and Smith, 1995)を使用しました。

波の場合とコーダ波だけが低周波成分に富む場合がある ことを明らかにしている。本研究で対象とした地震A と 地震Bは,ウェーブレット解析により両地震とも実体波 もコーダ波も低周波成分が卓越していることが分かった が,特に地震B で低周波の傾向が強い。地震 B の震源の 深さが約1.3kmと非常に浅いことが関係していると考え られる。 今回の調査で、2016年熊本地震の余震の大多数は通常 の地震であり,地震A と地震 B は余震のなかで稀な低周 波地震であることが明らかになった。なぜ低周波が卓越 する地震がそれぞれの震源で発生したかについて,本研 究ではその成因をモデル化することはできなかったが, 関連すると考えられる事項として次の事項をあげること ができる。 地震A の深さと発震機構解は,防災科学技術研究の AQUA システム(http://www.hinet.bosai.go.jp/AQUA/) で決定・公開されている。AQUAシステムの解によると, 発震機構解は1 つの断層面がほぼ南北走行で傾斜角が鉛 直であり,余震のほとんどが東西圧縮・南北引張の横ず れ断層型,あるいは南北引張の正断層型であることと比 較すると,発震機構解も余震の典型的な発震機構解とは 異なっている。震源の深さは,気象庁の推定では約5km であるが,AQUA システムでは 1km に推定されている。 また地震Bについては,発震機構解は推定されていない が,気象庁による震源の深さは1km である。熊本平野 の三次元地震波減衰構造の研究(小松・他,2016)によ 図10 Z群の分析結果を示した散布図 縦軸にそれぞれの余震の4つの観測点でのL/Hの平均値,横軸にZ群の余震である。

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図 1 震央分布図と南北断面図 赤の丸印は地震A,青の丸印は地震 B,緑の丸印は地震 C,黄色の四角は M6.5 の最大前震,紫の四角は本震,灰色の丸印は前述以外のこの 範囲で発生した地震の震源を示す。十字は周辺の Hi-net観測点の位置である。 201604142126 − 201609302359 130˚24'130˚36'130˚48'131˚00'131˚12'32˚24'32˚36'32˚48'33˚00'33˚12'01020kmN.OGNHN.KHKHN.KKCHN.TMNHN.NMNHN
図 6 Q群の地震の震源分布図 赤の丸印は地震A,青の丸印は地震B,緑の四角印はQ群の地震の震源を示す。201604142126 − 201609302359 130˚30'131˚00'131˚30'32˚30'33˚00'0 10N.TARHN.NMNH0 10 20Depth, km20km −1e−005−5e−00605e−0061e−005 amplitude(m/s)−1e−005−5e−00605e−0061e−005amplitude(m/s) 800 820 840−1e−005−5e−

参照

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