博 士 ( 農 学 ) 冨 田 有 里 子
学 位 論 文 題 名
酵母を用いたブロムモザイクウイルスの 複 製 に 関 与 す る 因 子 の 研 究
学位論文内容の要旨
ウ イ ル ス の 増 殖 機 構 を 理 解 す る た め に は , 増 殖 に 関 与 す る ウ イ ル ス 側 の 因 子 の み な ら ず , 宿 主 側 の 因 子 に つ い て も 知 る こ と が 必 要 で あ る . ブ ロ ム モ ザ イ ク ウ イ ル ス(BMV)は 出 芽 酵 母(Saccharomyces cerevisiae)に お い て も 複 製 可 能 で あ る こ と が 示 さ れ た 唯 一 の 植 物 プ ラ ス 鎖RNAウ イ ル ス で あ る . 出 芽 酵 母 の 完 備 し た 分 子 遺 伝 学 的 手 法 を 用 い れ ば ,BMVの 増 殖 に 関 与 す る 宿 主 因 子 の 同 定 が 可 能 で あ ろ う と 考 え ら れ る . 最 近 , 実 際 にBMV複 製 が 低 下 す る 酵 母 突 然 変 異 株 が 単 離 さ れ , 得 ら れ た 突 然 変 異 株 で は 大 腸 菌DnaJタ ン パ ク 質 の 酵 母 ホ モ ロ グYdjlタ ン パ ク 質 を コ ー ド す る 遺 伝 子 に 変 異 が 生 じ て い る こ と が 明 ら か と な つ た , 本 研 究 で はy卵 変 異 がBMV複 製 に 与 え る 影 響 を 遺 伝 学 的 ・ 生 化 学 的 手 法 を 用 い て 解 析 し た ,
オ リ ジ ナ ル の ル め 変 異 株 が 突 然 変 異 誘 起 処 理 に よ り 得 ら れ た 株 で あ る こ と か ら , 当 該 変 異 以 外 の 潜 在 的 な 変 異 の 影 響 を 排 除 す る た め , ル 加 変 異 以 外 は 野 生 型 株 と 同 一 の 遺 伝 的 背 景 を 持 つ 株 ル ウ 五 を 作 製 し た , つ い で , ル ゥH株 でBMV 複 製 タ ン パ ク 質1aお よ び2aを 発 現 さ せ ,BMVRNA3を 複 製 ・ 保 持 さ せ た と こ ろ ,RNA3お よ びRNA4の 蓄 積 は そ れ ぞ れ 野 生 型 株 の19% お よ び11% に 抑 制 さ れ て い た ,
BMV複 製 過 程 は (1)1aタ ン パ ク 質 に よ り2aタ ン パ ク 質 が 複 製 の 場 で あ る 小 胞 体 (endoplasmicreticulum:ER) 膜 上 ヘ 誘 導 さ れ る 過 程 , (2)1aタ ン パ ク 質 に よ り 複 製 の 鋳 型 BMVRNAがER膜 上 に 誘 導 さ れ る 過 程 , (3) 鋳 型BMV RNAか ら マ イ ナ ス 鎖 が 合 成 さ れ る 過 程 , (4) マ イ ナ ス 鎖 を 鋳 型 と し て プ ラ ス 鎖 が 合 成 さ れ る 過 程 ( 複 製 の 成 立 ) の4段 階 に 分 け る こ と が で き る . ル ガH株 に お け る1aタ ン パ ク 質 に よ る2aタ ン パ ク 質 お よ びRNA3の 膜 へ の 誘 導 を 調 べ た と こ ろ , ど ち ら も 野 生 型 株 と 同 程 度 に 起 き て し ヽ る こ と が明 らか とな った .し か し , ル みW株 に お い て 単 独 で 発 現 さ せ た2aタ ン パ ク 質 は10,000xゲ の 遠 心 分 離 に よ り 膜 を 含 む 不 溶 性 画 分 に 回 収 さ れ た こ と か ら , 珊 一 変 異 は2aタ ン パ ク 質 の 一 部 を 凝 集 さ せ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た ,
っ ぎ に (3) 以 降 の 過 程 に 対 す る ル 加 変 異 の 影 響 を 調 べ る た め に , プ ラ ス 鎖
RNA合 成に 必要 なシ スエレメントを欠失した変異鋳型RNA3から合成される マイナス鎖の蓄積を調べたところ,ydjli株におけるマイナス鎖RNA3および RNA4の蓄積はそれぞれ野生型株の11%および13%であった,このことから y加変異は鋳型RNA3からマイナス鎖が合成される過程に関与すると考えられ た,
BMV複 製 を 行 わ せ た 酵母 の 膜 画 分 を 可 溶 化 する とBMVRNA・dependent RNAp01ymerase(RdRp)活性を得ることができる.野生型株に由来するBMV RdRpを粗精製し,そこにYdj1タンパク質を添加あるいは除去したところ活性 に変化は見られなかったことから,Ydj1タンパク質はむレゴぬりに取り出した BMVRdRp活性には関与しないと考えられた.
以上の結果とYdj1タンパク質がHsp70やHsp90の活性制御に携わり,分子 シャペロンとしての機能を持つことから,Ydj1タンパク質を含む分子シャベロ ンはむガ朋でBMV複製複合体をマイナス鎖合成開始可能な状態に転換する,
とぃう仮説を提示した.さらに瑚´f株では一部の2aタンパク質が不溶性画分 に回収されたことから,Ydj1タンパク質は2aタンパク質の高次構造の変化にも 関与する可能性が示唆され,Ydj1タンパク質はBMV複製に対して多面的な役 割を果たすものと考えられた,
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学位論文審査の要旨 主査 助教授 石川雅之 副査 教授 内藤 哲 副査 教授 冨田房男
学 位 論 文 題 名
酵母を用いたブロムモザイクウイルスの 複 製 に 関 与 す る 因 子 の 研 究
ウイルスゲノムの複製は、ウイルスにコ―ドされた因子とともに多くの宿主 因子に依存する。しかし、ウイルス増殖に関与する宿主因子に関する知見は未 だ少なく、その増殖機構を理解する上で大きな障害となっている。本研究は、
出 芽酵 母で増 殖可 能な 植物RNAウイ ルス、 ブロ ムモザイクウイルス(BMV) RNAの複製に宿主分子シャペロン系がいかに関与するかを解析したものであ る。本論文の内容は以下のように要約される。
1、MAB3遺 伝 子 の 同 定:BMVの 複 製 に 関 与 す る宿 主因 子の 同定を 目的 と してBMVの複製を介したレポ一夕一遺伝子の発現が低下する酵母突然変異株 mab3が単離された。本研究では先ず、原因遺伝子を同定するために変異株を 野生型ゲノミックライブラリ―で形質転換し、変異形質を相補するゲノミック DNA断 片を 得た 。さら に相 補DNA断 片上 の遺 伝子が 実際に変異を起こして いることも確認した。その結果、MAB3遺伝子は大腸菌のc加a丿遺伝子のホモ ログで分子シャペロンとして機能するMU7遺伝子であることが明らかになっ た。
2、ydj7´株 の作製 :オリジナルのmab3変異株が突然変異誘起処理により 得られた株であるため、ソ町7(mab3)変異以外は野生型株と同―の遺伝的 背景をもつ株ydj7fを作製し、その株を用いてydj7変異がBMV複製に及ぼす
影響を解析した。まず、ydj7f株でBMV複製夕ンパク質1a,2aを発現させ、BMV RNA3を 複 製 保 持さ せRNAレベ ルでの 解析 を行 なっ たとこ ろ、RNA3およ び RNA4の蓄積はそれぞれ野生型株の19%および11%に抑制されていた。この こと から 、mab3株 の形質 はydjl変 異の みによ るこ とが 明らか になった。
3、 ydj7´ 株 に お け るBMVla,2a,RNA3の 膜 表 面 へ の り ク ル 一 卜 メ ン 卜 :BMV RNA複製 の 場 は小 胞体(ER)膜 上で あり 、複製 タン パク 質1aが 2aタ ンパ ク質 と鋳 型BMV RNA3をER膜上 に誘導 する こと が知ら れている。
ydj7f株 で は1aタン パ ク 質に よる2aタン パク 質お よびBMV RNA3の 膜へ の 誘導は野生型株と同程度に起きていることを明らかにした。―方、 ydj7f株に おいて単独で発現させた2aタンパク質は10,OOO xgの遠心分離により膜を含 む不溶性画分に回収されたことから、 ydj7変異は2a夕ンパク質の一部を凝集 させている可能性が示唆された。
4、ydj Ji株 に お け る マ イ ナ ス 鎖RNA合 成 :ydj7/ 株 に お い て はBMV RNA3から合成されるマイナス鎖の蓄積が野生型株と比較して低下しているこ とを明らかにした。
以上、本論文により分子シャペロンYdj1タンバク質が2a夕ンバク質に働 きかけて加vivoでBMV複製複合体をマイナス鎖合成開始可能な状態に転換す る可能性が示された。論文では、この結果をさらに発展させ、RNAウイルス のゲノム複製開始が、宿主のDNA合成開始、あるいはへバドナウイルスの逆 転写開始といったこれまで全く別と考えられてきた生命現象と類似した分子基 盤をもつという非常に興味深い可能性を指摘した。よって審査員ー同は、冨田 有里子が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと認めた。